先日、日本では珍しい、現存する「プログレ」バンドの撮影に行った。
その話は、また後日ゆっくり紹介したいのであるが・・
「プログレ」という言葉は音楽ジャンルの一種ではあるが、最近ではあまり
聞かないと思う。これは「プログレッシブ・ロック」の略語であり、
プログレッシプと言うのは「進歩的」「前衛的」といった意味となる。
(ちなみに、車やバイクの用語での「プログレッシブ・サスペション」は
加えた圧力に応じ次第にサスの力が漸増的に強まるという意味であり、
あるいは、JPEG画像の「プログレッシブ」は、最初に粗い部分の
全体データを表示し順次細かい部分を表示するという形式であり、
いずれも言葉としては「だんだん~となる」といった意味。
これらは、同じプログレという言葉でもでもちょっと使い方が異なる)
この音楽ジャンルは1960年代の終わり頃から、1970年代後半までの時代に
マニアックな音楽ファン層を中心に世界的に流行した。
具体的なアーティスト名をあげれば「ピンクフロイド」「キング・クリムゾン」
「エマーソン・レイク&パーマー」「YES」「ジェネシス」「キャメル」などがある。
この音楽ジャンルが台頭した背景には、1つは「アナログ・シンセサイザー」の
発展の要素が欠かせない。
シンセサイザーという用語も元は単に「合成する物」という意味なので、
様々な電気関係等のジャンルで使われるが・・
音楽で用いる「ミュージック・シンセサイザー」は、いわゆるキーボードのシンセで
鍵盤楽器の一種である。 しかし1970年代のそれは、楽器というより、壁一面を
覆うような電気装置であった。
その装置には無数のツマミや、パッチと呼ばれるケーブル(コード)を
ジャックからジャックへと引き渡し、1つの音を電気的に作りこむ仕掛けであった。
モジュール(モジュラー)タイプとも言われるその頃の大型アナログシンセの
代表的なものは、外国製ではMOOG(モーグ/ムーグ)や、ARP(アープ)、
国産では、ローランドSYSTEM 700等がある。
いずれもその壁一面もあるような装置に、いちおう楽器の証である鍵盤が
ちょこっと付いているのだが、その鍵盤からの音は単音(モノフォニック)
しか出てこない。複音(ポリフォニック)のシンセが一般的になるのは、
それより十数年後の1980年代からだ・・(外国製のオーバーハイムや
プロフェット、YAMAHA DXシリーズや Roland のJupiter,Juno シリーズ等)
それまでのロックのジャンルは、ビートルズやローリング・ストーンズに代表
されるように、R&B(リズム&ブルース)が発展し、電気楽器、具体的には
エレキギター、エレキベース、マイクで拾ったドラムス、電気(電子)オルガン
等をアンプに繋いだ「コンボ」バンドの形式であったのだが、音色的には
ギターやベースあるいはオルガンの音が主体であって、まあ言ってみれば
どのバンドの音楽も同じような音色にしかなりえない・・
多彩な音色への欲求は例えばロックバンドに管楽器(ブラス)を入れてバリエーション
を増やすという方向性も生み出し、これは「ブラスロック」というジャンルとして、
1970年代にはシカゴやチェイス、BS&Tというグループが数々のヒット曲を飛ばした。
あるいは、エレキギターやオルガンの音色をさらに強く歪ませ(ディストーション
やオーバードライブ)よりパワフルなボーカルを入れることで、音色の厚みを
出すという方向性では、1970年代よりハードロック、またそれが発展した
1980年代のヘビーメタルというジャンルに発展していく。
「プログレ」というジャンルは、この時、まだ当時は実験的な機械とも言える
アナログ・シンセサイザーを実際の音楽に使ってみようという、「進歩的」な
試みを行ったものである。ただ、シンセを使うだけではなく、音色的な面からは、
シンセがなくても、テープレコーダーを使って、早回し・遅回しや逆回しや
テープエコーを用いてみたり、イコライザー(周波数帯域別調整装置)、
あるいはサンプラー(録音音色再生楽器)の走りである「メロトロン」
(これは鍵盤ごとに割り振られた多数のテープレコーダー再生装置のような物)
を使ってみたり、数々のアナログ・エフェクター(音色効果・変調装置)を
使ったり・・・と、音楽中に数々の工夫を凝らしていた。
また、音楽的な面からは変拍子(5拍子や7拍子といった変則的な拍子や
通常の4拍子などとそれらをMIXした複合拍子、または同一音楽進行の中に
複数の拍子が混在するポリ・リズムなど)を用いたり、「教会旋法」などの特殊
なスケール(通常のドレミファソラシドではなく、たとえばレミファソラシドレ
のような音階)を用いてみたりと・・
すなわち、「プログレ」では、言ってみれば「何でもアリ」の世界であり、
そうした実験的、先進的、前衛的な試みの音楽を総称して「プログレ」と
呼んでいたわけである。
日本で初めて「プログレ」という言葉が使われたのは、ピンク・フロイドの
「原子心母」(Atom Heart Mother)のジャケットのオビに「ピンクフロイドの
道は、プログレッシブ・ロックの道」と書かれていたのが最初と聞く。
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プログレが流行したピークだが、たとえば1973年の同じくピンク・フロイドの
「狂気」が1つの重要な時点になるだろうか・・?
この「狂気」というアルバムは、その後35年たった現在にいたるまで、
ビルボードだったか何かのアルバムチャートランキング200だかにずっと
入り続け、全世界で数千万枚が売れたという、普通では考えられない程の
超ロングセールス&ビッグヒットのアルバムである。
(勿論私も持っている・・最近では Super Audio CD版があると聞くが・・)
1973年がピークだとしたら、たとえばその頃に18歳前後でこの手の音楽に
傾倒していた人たちは、現在では53歳となる。つまり団塊世代の少し下くらい、
団塊世代はどちらかと言うとまとまり感が強く、流行の要素もわりと画一的
(他の人がやっているなら自分もする)という傾向があるのに対し、これより
少し下の世代層は(そういう先輩やアニキ達を見てきたからか?)非常に
個性的で「誰もがやっていない事をやろう」という意識が強い傾向がある。
プログレはまさにそうした現在40代、50代の、団塊あるいは団塊ジュニアに
「挟まれた年代層」にはうってつけの音楽であったのであろう。
しかし、さすがにそれから35年を隔てた状況では、音楽も楽器も変化した、
現代のあらゆる音楽にシンセやPCによる音源が入ってくるのは当然だし、
アナログシンセなどはとっくにデジタルシンセに替わり、今では骨董品扱いだ。
だから現代においては、プログレは「前衛的」「進歩的」な要素を持つ音楽ではなく、
むしろ、その当時のプログレバンドのイメージや表現を受け継ぐ種類の音楽と
なっているのであろう。プログレを演奏するバンドは今はもう殆どいないと思うので、
そうしたバンドは極めて貴重だ。
プログレではメンバーの基本構成は、シンセ、ドラム、そしてベース、
さらにこれに加えて、ギター、あるいはシンセの音色をさらに増加させる為に
シーケンサー(一種の自動演奏装置)や、あらかじめ録音されたバッキングを
使用したり、場合により複数のキーボードプレーヤー等の起用があげられる。
ただ近年においては、シーケンサーはデジタルに進化し、さらに現在では
ごく一般的なPC(パソコン)により簡単にバッキングの全てのパートを
「打ち込む」事が可能になっているから、そうした文明の利器を活用しない
方法は無い。
現代のバンドではシンセは当然デジタルシンセであるが、それでも多種多様な
音色をキーボーディスト1人で操るのは困難であるので、PCの打ち込みバッキング
が様々な音色やメロディを奏で、サポートする事になる。
1970年代当時では、この問題は、プログレのキーボーディストが自分の周りに
まるで要塞か砦のように多数のシンセサイザーや電子キーボード、電子楽器の
類を配置し、順番、あるいは同時にそれらを弾いている事がほとんどであった。
1970年代の、リック・ウェイクマン(YES等に在席)やキース・エマーソン
(EL&P等に在席)がそれであり、1980年代になっても、アナログ、デジタル
シーケンサーを多用して膨大な機材や楽器に囲まれて演奏をする、YMOや
ハワード・ジョーンズなどのアーティストが存在していた。
しかし、今にして思えば、これらのマルチ・キーボードを駆使したプレーヤーの
演奏は見るからに極めて格好よかった。
そりゃあ現代ならPCを使ったり、デジタルのポリフォニック(和音)シンセを
使って、あるいはその手の鍵盤楽器(ワーク・ステーション)に内蔵されている
録音編集機能、またはオート・アカンパニメントと呼ばれる自動伴奏機能を
用いてあげれば、たった1台のキーボードでも当時のマルチ・キーボーディスト
よりも、遥かに複雑な楽曲を一人で演奏する事は可能だ・・
けど、まあ、音楽とは「見せる(魅せる)」要素もあるし、
「その世界観に陶酔する」という要素もあるのだから、時代に逆行して、
そのようにシンセで囲まれた中で演奏をしてみたいと思う人も少なくは無いであろう。
(実際に私もその1人だ・・汗、今現在は所有シンセは老朽化等により3台しか
無くなっていて、単に3段積みをしているだけだが、もし部屋に広いスペースが
あるのだったら、いつか10台くらい囲んで並べてマルチキーボードで遊んで
みたいという思いはある・・)
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ところで、冒頭の壁一面のモジュール(モジュラー)シンセであるが、
何故そんな大げさな装置が必要だったかと言うと、まあ、LSIやDSPという
デジタル処理部品がまだ無く、抵抗、コンデンサー、トランジスタといった
アナログ部品で機器が構成されていたから大きい、という理由もある訳だが、
当時のシンセは、音の三要素である「音程」「音色」「音量」を順次正確に
シミュレートあるいは合成(シンセサイズ)する事を忠実に守っていて
それを設定するために多くの制御子が存在する機械であったからとも言えよう。
ちなみに「音楽」の三要素とは「メロディ」「リズム」「ハーモニー」であり
「カメラ」の三要素は「絞り(値)」「シャッター(速度)」「ピント」で
あるのだが・・(デジタル時代の今ではそれにISO感度も加わるか・・?)
「音」の三要素を順番に設定していくことで、原理的にはどんな音も合成できる
わけであり、アナログシンセにおいて音程を生成するのは「オシレーター」
(発振器)、音色を構成するのは「フィルター」(電気的な濾過器)であり
音量を制御するのは「アンプリファイアー」(増幅器)となっている。
それらを印加電圧により制御する(ボルテージ・コントロール=VC)事が
シンセサイザー原理の発明における最大のポイントであった。

たとえば、電気的に電圧により音程を制御するのは、VCO(ボルテージ・
コントロールド・オシレーター)であり、具体的には、例えば鍵盤のある音を
弾くと、そこから1V(ボルト)の電圧が出るように作ったとしよう・・
この電圧をオシレーター(VCO)に入力すると、例えば(ある高さの)
Cの音(=ドの音・固定ドとした場合)がVCOから発せられる。
他の鍵盤を叩くと出力電圧が2V(ボルト)になったとしよう、この場合は
例えば、さっきのC(ド)の音から、1オクターブ高いC(ド)の音が出る。
じゃあ、レの音は?というと、この場合は1オクターブは半音の12個分なので
計算がちょっとややこしいが 1Vから2/12だけ高い電圧となる(1.167Vくらい)
そして、そのようにVCOから出たある音程に対し、VCF(フィルター)で
その倍音を制御する。 音はある周波数の基音に対し、それを整数倍した
倍音が交じり合って構成されているので、フィルターでそれを適宜高次倍音を
カットする事で音色が制御される。(ちなみにシンセのフィルターは一般的な
電気的フィルターとは異なり、特定のカットオフ周波数を持たず、発音される
基音の周波数分がオフセットされ、あくまで倍音の周波数に対して作用する)
しかし、それだけだとVCOの元音に対しカットしたら柔らかい音(フルート
やホルンの音を連想してもらえば良い)になる一方なので自由度が無く単調だ。
よってレゾナンス(共鳴、発振)という機能で特定の高次倍音を強調し、
クセのある音を作り出す。
だが、それでも自由自在に音色を作れるわけでも無いので、VCOでは予め
倍音の含まれ方に応じて、矩形波(くけいは、奇数次倍音のみ含まれる)、
鋸歯状波(きょしじょうは、高次整数次倍音が適宜含まれる)、パルス波
(特定の高次倍音が強調されている)ノイズ(ランダムに倍音が含まれる)
などのプリセット「波形」が用意されセレクトできるようになっている。
また、1980年代のシンセではこのような「減算合成」方式に対し
FM変調(加算や乗算演算による周波数変調、代表的な楽器はYAMAHA DX7等)や
加算合成方式(ドローバー搭載あるいは演算による変調)のシンセや
キーボードが開発され、より多彩な音色が得られるようになった。
また、フィルターのかかりかたの時間的変化(たとえばトランペット等の管楽器の音色は、
発音直後は高次倍音が多く含まれキラキラした音になるが、その直後倍音は消えて
丸く柔らかな音色になって伸びる)を得る為に、
エンベロープ(包絡線(ほうらくせん)、包み込む、封筒という単語と同じ)という機構により、
フィルターの制御電圧を時間的に変化させ、ADSR(アタック、ディケイ、サスティン、
レリース)で鍵盤を押した状態に応じて音色に時間的な変化をもたせている。
そしてVCA(アンプリファイアー)によって、音量の時間的な変化を生成する。
具体的にはピアノのギターのような音色は時間とともに音量が減衰するわけで
いかにピアノらしい音色を作っていても鍵盤を弾いている間ずっと鳴って
いるようでは、何の楽器だかわからない。
ここにおいてもエンベロープによる時間的制御が行われている。
アナログシンセの基本原理はここまであるが、これ以外にもLFO(超低周波
発振器)があり、これでたとえばVCO(オシレーター)をゆすってあげる、
これはすなわち出音で言えば、ビブラート(ゆらぎ、こぶし)の処理に等しい。
また、アナログシンセは、「音の三要素」の全てを「電圧」で制御できるわけ
であるから、パッチコードを繋いでいって、たとえば終段のVCAの出力電圧を
再度初段のVCOに返して(フィードバック)してあげるとか、出力電圧を
ミキシングしてまた別の何かを制御するとか、アイデア次第で奇想天外な
接続や設定も可能という事になり、実に様々な音色を創り出す事が出来る。
それから、アナログ・シーケンサーは単純に一定の時間的間隔でツマミで
設定した電圧を順次発生するという原始的なものではあるのだが、これも
VCOに掛ければ当然音程が順次変化し、VCFでは音色が変化、VCAでは
音量が変化するという汎用性がある。
これもまた全てを「電圧で制御」するシンセの原理の恩恵である訳で、
これを音楽的な伴奏に用いたような機械的なプログレが流行した事もある
(例えばタンジェリン・ドリーム等)
もっと複雑な利用法としては、アナログ・シーケンサーの時間的間隔
(ステップ・タイムやゲート・タイム)をまた別の電圧で制御して不等間隔に
する事もできるし、さらには、2つのVCF(フィルター)に、異なる2つの
アナログ・シーケンサーからの電圧を入力してあげることで、
人声のフォルマント(周波数のピーク)を擬似的に作りだし、
アナログながらも「ア・イ・ウ・エ・オ」といった母音の発音をシンセで
合成する事もできた。(富田勲のアルバムなどでその様子が見られる)
アナログ・シーケンサは機構上、最大でも数十ステップ(=ツマミの数)
しか処理できないという弱点があったため比較的早くデジタル化し、
半導体メモリー(RAM)上に多数(=数千)の電圧制御ステップが記憶され、
その外部デジタル機械でアナログシンセを電圧制御していた時代があった。
(Roland MC-8や MC-4など、富田勲やYMOなどもこれを使っていた)
ちなみに、デジタルシーケンサーは、複数の制御電圧をチャンネルまたは
トラックという概念により同時に発生する事ができたので、モノフォニック
(単音)タイプの大型モジュラーシンセであっても、複数のモジュールに
それぞれデジタルシーケンサーの制御電圧を割り振ってあげれば和音
(ポリフォニック)の楽を自動演奏する事ができた(これは当時の単音シンセ
の世界では画期的な事であった・・)
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まあ、そういったわけで、アナログシンセの音作りはとても時間がかかった、
私も以前実際にこのような巨大モジュラーシンセで音を作ったことがあるが、
30分とか1時間くらい、あれやこれや考えながら大量のケーブルをつなぎ、
無数のツマミを回して、さていよいよ鍵盤を弾くと「ピッ」と、しょうもない
音が出ただけだったりもした・・(苦笑)
アナログシンセはこの後、ケーブルを繋がなくてもVCO,VCF,VCAの
少ないつまみを順番に回して設定していくだけでも音が出るように簡略化され、
同時に値段も1/10や1/100程度に安価になり、それは1970年代以降、
普通にステージや家庭で誰もがシンセを気軽に使える時代となってきた。
1980年代以降はさらにデジタル化され、回路の小型化と処理の高速化により
単音のみならず和音でも演奏が可能となり、やっと普通のピアノやオルガンと
同様な「鍵盤楽器」として使えるようになってきた。
1990年代からは、サンプラー(録音再生型キーボード)の技術を応用した
サンプリング音色により、あらかじめピアノならピアノの音を録音し
デジタル化したデータを内蔵のメモリー上に多数持ち、それらを選ぶだけで
簡単に多数(最低数種~標準では128種、さらには最大は3000種以上)の
楽器音色を選んでの演奏が可能になった。
このサンプリングシンセは極めてHIFI(ハイファイ=高忠実度)の音が
出るので、その頃からの音楽は実際にはシンセで演奏しているのか、生の楽器
で演奏しているのか、聞き分ける事は殆ど不可能になってきた。
(音色面では無理なので演奏技法で鍵盤なのか生楽器なのか聞き分けるしか無い)
1990年代後半では、新たなサンプリング音源をシンセに読み込ませるために
音色拡張RAMボード(エクスパンジョン)を追加できるようになったり、
あるいはPC等やネットを用いてシンセに新しい音源データを入力するDLS
(ダウン・ローダブル・サンプル)型のシンセも出来てきて、さらに音色の多様化、
増加の試みが色々行われた。
だが、こうしたサンプリングシンセは、音作りの自由度が少ない。
つまり、ピアノならピアノの音を元にしてフィルター(もはやボルテージ・
コントロールではなくデジタルコントロールなのでDCFと呼ばれるようになった)
やDCA(アンプ)を通して多少音色をいじくったところでピアノという範囲の
音色が大きく変化するわけでは無い。ギターとピアノのあいのこのような音に
なったとしても、ピアノの音がバイオリンの音にまで変化する事は無いわけだ。

まあ、その点については、1990年代以降、シンセにもエフェクター、たとえば
エコー(ディレイ・反響)、リバーブ(残響)、コーラス、フェイズシフター(位相変調)
コンプレッサー、イコライザー等の効果装置が内蔵され、音色のバリエーション
を増やすのだが、それでもやはりシンセの自由な音作りの要素には限界はある。
そこで、2000年代、より音作りの自由度に優れるシンセとして、アナログシンセ
の操作系をそのまま活かしたデジタル制御アナログシンセが誕生している。
これはつまり、アナログシンセの原理である VCO-VCF-VCA方式をそのまま踏襲し
すべての設定をデジタル素子、つまりCPUやDSPが、ツマミにより設定した結果を
瞬時に計算して必要な音色(波形)を合成して音を出す仕組みとなっている。
勿論ポリフォニック(和音)演奏も可能であり、超LSI等の技術により昔のように
大型な機械となっているわけでもない。
このようなシンセを一般に「モデリング・シンセサイザー」と呼ぶ事もあり、
つまり既存の楽器の原理や構造、仕組みをモデルにするという意味で、
アナログシンセのモデリング以外にも(ハモンド)オルガンや、ピアノを
モデリングしたキーボードも存在している。(外国製のノードエレクトロや
KORGのBX,CXシリーズや Roland VKシリーズ等)
ただ、機械(CPU)による演算の音は、ある意味音楽的では無いとも言える。
具体的には、先ほどの計算でD(レ)の音を出すのは(例えば)1.167V(ボルト)
であると書いたのであるが、温度や湿度で微妙に特性が変化してしまうアナログ
部品でそこまで正確な電圧制御はできるのであろうか? いや、これは出来る筈
も無く、1.167Vが、ちょっとした電圧変動で 1.199Vまで変わってしまったら
もう出てくる音は、D(レ)とE♭(変ホ)の音の中間くらいの不安定な音程に
変化してしまうわけだ、だからまあ完全にデジタル制御に変化する前の過渡期
におけるシンセでは、とりあえずオシレータ(発振器)だけはデジタル化して
VCOをDCOに換装した、ハイブリッドシンセ(代表的にはRoland Junoシリーズ)
が存在していた。
けど、実はアナログシンセでは音程を作り出すオシレータは、たとえ単音しか
出ないシンセであっても複数のオシレーターを搭載(オシレーター・バンク)
を持つものが一般的であった、具体的にはRoland System 700では9個の
オシレータバンクを持ち、さらに数個づつ拡張する事も可能であった。
モジュラー型ではない初期のアナログシンセも、Roland SH-3A,SH-5等では
5個程度のオシレーター(正確には、搭載オシレーターは1~2個だがfeet列合成が
出来る)を持ち、代表的名機のミニモーグ(ミニムーグ)や中期の廉価版アナログ
シンセでも、2~3個のオシレータを持つ事が普通であった。
そして、そのような複数のオシレータは先のアナログの電圧の不安定さにより
同じ設定にしても微妙にピッチ(音程)が狂ってくるのがあたりまえであった。
ところが、このピッチのゆらぎは、複数のオシレーターを同一音程で並行させて
混ぜて聞くと、コーラス効果というものが生まれ、実に音楽的には心地よく、
あるいは音色的には、太く芯のあるアナログ的な音になってくる。
そこで、デジタル制御型アナログ(ライク)シンセ(=モデリングシンセ)に
おいても、このような電圧的なゆらぎを、CPUの計算上の揺らぎ要素として
加味することによりまさにアナログライク(似ている)音を創り出す事ができる。
最近こそ聞かなくなった言葉で「デジタルは機械的だ」というのはあくまで一つの
一般論でしかなく、デジタルでもちゃんとアナログの良さをきっちり踏襲して
再現できるようなノウハウをつぎ込めば、デジタルの機械臭さは無くなる。
アナログの原理もデジタルの原理も理解してこそ、音楽や写真という趣味や
アートの世界においては、実用的な表現力が生まれてくるという事であろう。
(写真の世界ではごく最近まで、楽器や音響の世界ではそのデジタル化の
時期からしばらくは、「デジタルは・・」という批判意見が結構あった。
今にしてそんな事を言うものなら、こいつ、アナログも知らないし、デジタル
も知らない、と思われかねない・・汗)
(長すぎたので ↓ の記事に続く・汗)