現在のデジタルカメラには、ISO変更の機能が備わっている事が普通であるが、
その操作系の殆どが、ISOボタンを押しながらダイヤルで値を変えるか、
もしくはメニューからISOを選び、ダイヤルあるいは十字キー等で値を変える
スタイルであり、独立したISOダイヤルを持つカメラは皆無に等しい。
銀塩時代は、ISOは装填したフィルムにより一定であったから、
露出計の感度を合わせるためにISOを手動またはフィルムパトローネのDXコード
により自動読み取りされた値から撮影中に変える事はほぼなかった。
あえて(銀塩において)ISOの値を変更するのは、概ね以下の3つのケースである
1)増感または減感を行う場合
(例:ISO400のフィルムをISO1600にセットすると2段増感(
参考過去記事)
ただし、増減感は撮影中にISOを変える事は無く、
最初にセットし、フィルム1本はその感度のまま撮りきる)
2)露出計の狂いを修正するため
(例:経年劣化などで感度が鈍った露出計に対しプラス1/3段の補正等、
ただ、露出計の狂いはリニアであるとは限らないので~具体的には
低輝度では正常だが、高輝度でマイナスに振れるなど~あくまで
暫定的な処置ではあるが・・)
3)露出補正の代用として
(例:プラス1段の露出補正をかけるかわりに、ISO400のフィルムを
ISO200にセットして使うなど。 これは増減感とは異なり
撮影中1枚づつこの処理を適宜行っても良い)
この3の露出補正の代用の例としてわかりやすいのは一部の銀塩カメラにおいては
露出補正ダイヤルとISO感度設定が同軸のダイヤルとして組み込まれているケース。

写真は、Olympus OM-2の露出補正ダイヤル兼感度設定ダイヤル。
OM-2は、AE機(絞り優先)なので、露出補正は必須であるが、マニュアル露出
専用機(例:OM-1)では、露出補正の概念はなく、カメラが指示した適性露出値と
自分の求める露出値は、露出計上の差分で補正をするという事になる。
OM-1は(現在所有していないので写真は無いが)、このOM-2の露出補正ダイヤルの
位置に大きなISO設定ダイヤルを持つ稀有なカメラである。
いまにして思えば、OM-1のようにデジタルカメラもISOダイヤルを持つと良い
という提案がこの記事の骨子となる。
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ちなみに、OMシリーズや、ニコマート(ニコン)においては、シャッターダイヤルが
通常の銀塩カメラのように軍艦部(=カメラ上部)には無く、レンズマウントの部分
についている。
これは、いわゆる「左手思想」に基づく設計思想であり、具体的には、
オリンパスOMの場合、レンズの絞り環をレンズ最前部、シャッターダイヤルを
マウント部に持たせることで、絞り、シャッター速度、ピントの「カメラの3要素」を
すべて左手で操作し、右手はシャッター(レリーズ)ボタンに専念するという考え方だ。
これはその当時(1960~1970年代)においては、先進的かつ合理的な考え方であったと
思うが、近年の撮影技法では、プログラムシフトに相当する操作、すなわち、露出値を
固定したままで絞りとシャッターの組み合わせを変化させるという操作を行おうとした場合、
その動作をすべて左手で交互に行わなければならないのでやや煩雑だ。
露出設定中はどうせ右手はレリーズから離さなければならないのならば、
左手で絞り、右手でシャッター速度を同時に変化させれる操作系の方がマニュアル露出
カメラにおいては使いやすい。(2ダイヤル操作系でも同様に使いやすい)
ま、ともかく「左手思想」に基づくカメラは、軍幹部に必要なダイヤルは無くなる。
露出計を搭載していない場合は何もいらないことになり、露出計ありならばISOの
設定ダイヤルのみあれば良く、すっきりとした(しすぎた?)デザインとなる。
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あとは近年の銀塩一眼において、独立したISOダイヤルを持つカメラとしては
以下の、フォクトレンダー・ベッサフレックスTM(コシナ)がある。

これはこの位置に大型のISOダイヤルを持つことで、マニュアル露出のベッサフレックス
であっても、AE機ライク(似ている)な、露出補正操作を可能とするという意味もある。
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しかしながら、ここまで述べて来た銀塩におけるISO操作は、どちらかといえば
受動的な要素であり、フィルムによって一義的に決められたISO感度をいかに
撮影技法や表現上の要求にマッチさせるという意味であった。
デジタルにおいてはまったく状況は異なり、むしろISO設定は能動的な要素として
捉えられる。(そのあたりは、以前のISOについての記事、
前編、
後編を参照)
ここで少し具体的な例をあげると、私の場合、ISOの設定は昼間は低感度、
夜は高感度というアバウトなものよりも、もう少し厳密に設定するケースがある。
たとえばf1.4級の大口径レンズを装着したデジタル(一眼レフ)カメラがあるとして、
そのカメラの最高シャッター速度が1/8000秒だとしたら、そのレンズの絞り値を
(絞り優先露出モードにおいて)色々変化させた場合に、シャッター速度の追従が
最善になるような(あるいはそれに近い)ISO値を設定することもある。
例えば、ある(その場の)明るさにおいて、あるISOに設定すると
f1.4の時 1/4000秒
f2.0の時 1/2000秒
f2.8 1/1000
f4.0 1/500
f5.6 1/250
f8.0 1/125
f11 1/60
f16 1/30
のようになったとすれば、その設定ISO値は非常に適正だ、
その場の明るさで、絞りをいっぱいに開けてもカメラの最高シャッター速度を
オーバーすることなく、逆に絞りをめいっぱい絞り込んでも、手ブレのおこりにくい
最低限のシャッター速度をキープする事ができる。
「1/8000秒のカメラなのに何故開放で1/8000秒になるようにISOを決めない?」
・・・その質問に関しては、露出補正1段分のマージンを持たせているからだ。
f1.4で1/4000秒であったとしても、マイナス1段の露出補正をしたら(絞り優先の場合)
シャッター速度が1/8000秒になる(プラス1段の場合は1/2000秒になる)
1段マージンがあれば、絞り開放のままマイナス補正を行っても安心だ。
ちなみに、絞り優先モードでは、通常、レンズの絞りの値は、この例のような大口径では
レンズでは無くても、8段ないし9段分くらいしか変化しない。
それに対し、シャッター速度というのはスローシャッターまで(手ブレせずに)使えると
仮定すれば、18段前後ある(8000、4000、2000・・・ 1/2、1、2、4、・・15、30)
つまり、絞りの値に対しシャッターの値は倍くらい選べるのであり、このため、
絞り優先露出モードでは、組み合わせのエラーが起こりにくい。
逆に言えば、シャッター優先モードでは、自分が欲しいシャッター速度に対して
絞りが追従しないという事が多々あるという事である。
(余談だが、シャッター優先モードが開発されたころの一眼レフの最高シャッター速度は
1/1000秒止まりであり、手ブレ限界を1/60秒までとした場合は、
むしろシャッター速度の変化の値より絞りの値の幅が大きく、シャッター優先が
合理的(=露出ミスが少ない)という時代もあった)
で、ISOだが、このように絞り優先で絞りの値をフルに使えるように設定しておくのが
合理的であるといえる。
これはあくまで1例であって、前出の記事のようにISOを色々変えながら撮影をする
というケースはいくらでもあるので、ISOをこまめに変えるという操作は、デジタル
においては銀塩時代の観念の比ではなく、むしろシャッターダイヤルよりもISOダイヤル
が欲しいくらいである。
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そして、デジタル(一眼)においては、2ダイヤル操作系が必須であると以前から書いて
いるが、これはたとえば、1ダイヤル操作系では、頻繁に行う露出補正操作が、いちいち
ボタンを押しながら絞りと同じダイヤル(注:絞り優先露出モードの場合)で行わないと
ならない為、合理的では無いからだ。 (シャッター優先モードでも同様、またPモード
においては、プログラムシフトと露出補正でやはり2ダイヤルの操作系が必要となる)
ここでPENTAXの一部のカメラ(銀塩のZシリーズや、*istD,K10等)にある、
ハイパー操作系を考えてみると、2ダイヤルの操作系の各々を絞りとシャッターの
制御にあてる。 ハイパープログラムという設定においては、カメラの指示した
絞りとシャッター速度が気に入らない場合、絞りダイヤルを回すと瞬時に絞り優先と
なりシャッター速度は自動追従になる、逆にシャッターダイヤルを回すと瞬時に
シャッター優先となり絞りは自動的に決定される。
これは大変合理的な操作系に思えるが、Pモードでそこまで意識できるレベルの
ユーザーが少ないため、市場ではあまり受け入れられなかった。 おまけにZシリーズ
の当時(1990年代前半)ではともかく、それ以降の時代では「プログラムシフト」機能が
普及したためさらにハイパー操作系は理解されなくなってしまった。
ちなみに、ハイパーPと、プログラムシフトの差はごくわずかでしかなく、
絞り、シャッターの変化幅の設定を意識していないかぎりはほとんど差はない、
あえて差が出るのは、ハイパーPの場合は、「2ダイヤルでは露出補正ができない」
という事が大きいか・・ これは考えてもらえばわかるが、2ダイヤルでいつも適正値
に露出が変化したら、露出補正は行えない。
ただ、これにおいては、ミノルタの末期の銀塩α(α-7やα-9)において、PA、PSシフト
(これはハイパープログラムに近い)時に軍幹部に独立した露出補正ダイヤルで
露出値をオフセットする、すなわち露出補正を行うことができたので、3ダイヤルあれば
ハイパー操作系でも合理的な操作ができるという事になる。
この銀塩αの独立露出補正ダイヤルは全体の銀塩操作系の概念からは大変すぐれもの
であり、加えてダイヤルを180度回転させて1/2段と1/3段の補正ステップ(これは
絞り値などの設定にも影響する)を行える画期的な発想であった。
さらにいくつかのカメラがこの発想に追従している、たとえば以下はCONTAX N1の
露出補正ダイヤル。

αよりさらに進化しているのは、緑色のライン、通称「グリーンポジション」が追加
されている事。 このグリーンポジションの概念は、(他のカメラでも同様の概念だが)
それにした場合は、ダイヤルの操作は効かず、本体からの(ダイヤル、メニューなどの)
操作にゆだねるという意味となる。
ただ、デジタルにおいては、この3ダイヤルの操作系が必ずしも合理的な操作系を
もたらすとは限らない。 つまり、3ダイヤルあるならば、1つをISOに割り振った
方が便利だからである。 銀塩α-7の操作子デザインをそのままデジタルに移行した
コニカミノルタα-7Dはこの点において銀塩時代の思想をそのまま引きずってしまった、
デジタルにおいてはデジタルの操作系があるのだが、その開発当時はそこまでは
まだデジタル撮影技法のソフト面が発展していなかったからやむをえない点もあるが・・
その具体例としては、ニコンのデジタル一眼レフなどで採用されてきた、
マニュアル露出時のISO自動追従機能である。
これは、PENTAX K10Dにおいては、TAVモードとして確立された。
具体的には、2ダイヤルでそれぞれ絞り値とシャッター速度を選ぶと(注:この点においては、
1ダイヤル機では操作系に矛盾が出る)その設定した露出値に応じてISOが自動設定される
という画期的な機能である。
これならば、被写界深度(すなわち絞り値)と、動感表現(すなわちシャッター速度)を
同時に作画表現として設定できるという、いままでの銀塩カメラではありえなかった
新たな撮影技法が生じる。
ただ、ISO自動追従機能にも現状では弱点もある。
前述の絞りの変化段数が8~9段、シャッターの変化段数が18段(手ブレ補正機能を
含む手持ち撮影では実質10段程度)という幅からすると、絞りとシャッターを極端に
設定した状態では、ISOの変化幅は、15ないし20段くらいが必要になる。
それに対し、現状のデジタル一眼では、ISO200-ISO3200、ISO100-ISO1600と
いった範囲の変化幅しか無い、これらは僅か5段程度の変化幅しか無いということで、
ISO感度の範囲が全然足りない。
最新のデジタル一眼ニコンD3においては、ISO100-ISO25600の変化幅があるが、
それでも9段にしかならない。 自動追従には、まだまだ足りないということだ。
ISO自動追従機能のもう1つの弱点は、前述のハイパープログラム同様に
露出補正ができないということだ。
従来の銀塩カメラでの露出決定(補正)は、絞り、シャッターの2要素であったが、
デジタルにおいては、ISOからなる3要素目が露出設定に加わる。
ならば露出補正は何を変えるのが望ましいか?
これは、勿論何を主たる作画表現にするのか、という部分とからむが、
絞り優先ならばシャッター速度かISO,TAVの自動追従ならばISOを変化
させて露出補正を行うのが望ましいであろう。
つまり、直接的に作画意図が変化しにくいのはISOということだ。
ただ、これはISOの追従範囲が十分に広く、かつノイズあるいはD(ダイナミック)レンジが
ISOの値によって画質変化(劣化)を伴わないという条件があってのことだ。
で、こうなってくると、これはすなわちISOを手動変化させる場合においても、
ISOを作画表現上の、他の絞りやシャッター速度、あるいは露出補正という操作に
おいて同列に扱わなければならないという事になる。
すなわち、ISOダイヤルの存在が必須になるという事だ。
勿論ダイヤルの数が1つまたは2つと少ない現状のカメラでも、ISOや露出補正の
操作を行うことができるが、何度も言うようにそれでは煩雑すぎるという事だ。
デジタルカメラで写真を撮っていて、ある機能が、しょっちゅう使う操作(機能)なのに、
何故メニューの奥深くにしまいこまれているの? という疑問を持ったことは多々あると思う、
こういうのは設計が未発達なのであって、たとえターゲットを初級者に絞ったカメラだったと
しても、せめて露出補正とかマクロモードは、第一階層に置いてくれないと使い物にならない。
もしそれが「初級者には露出補正を使わせたくない」という、まるで写真技術の発展を拒む
ような誤った設計思想を持っているのであれば、それはそれだったら、第0階層に
「ベーシック」と「アドバンス」といった、切り替えスイッチを1つつけておけば済む話だ。
デジタルの撮影技法はどんどん進化(変化)していくのだから、3年も5年も研究室に
閉じこもって写真も撮らずにカメラ設計ばかりしていたら、すぐ考え方が古くなって
しまうと思う。
ともかく、デジタルカメラにISOを直接変更可能なダイヤルは必然と思うので、
早いところ、それを搭載してもらいたいものである。
しかしながら、全体の操作系を考えずにただダイヤルをつけただけ、となると、
前述のα-7Dでは無いが、矛盾が出たり合理的では無くなってくるので、
まずはデジタル時代の撮影技法の洗い出しが必要か・・? 大変な仕事ではあるが・・