
女性「霜月さん、ちょっと教えてください」
霜月「あ~、何かな?」
(注:仮想キャラクター、霜月了、29歳、男性、技巧派だが感覚面に弱い)
女性「あの~、絞り優先とシャッター優先と、どんな時に使い分けるのでしょうか?」
霜月「お! 久々に本格的な技術相談だね、よし、まかせておきなさい!」
女性「え~、花を撮るときには絞り優先、動物や子供を撮る時にはシャッター優先と
聞いてますが、それでいいのでしょうか? じゃあ、それ以外の被写体では?」
霜月「むう・・(苦笑) 誰がそんな事を言った?」
女性「え? 誰がって・・ カメラの雑誌とか、カタログとか、みんなそういう
風に書いてありますよ・・」
霜月「カメラの雑誌に書いてあるからって、それを鵜呑みにして信じるのか?
だいたい、動物を撮る時はシャッター優先って、いったい誰が決めたんだよ!」
女性「ひっ・・(泣) こわ~い・・・」
霜月「あ・・ ちょっと待った・・ すまんすまん、ついつい興奮してしまった(汗)
いや、そんな風に言うつもりじゃあなかった・・
じゃあ、まず、絞りとシャッターの関係について考えてみようか」
女性「は・・ はい・・・」
霜月「絞りを変えるとシャッター速度も変わるんだ、逆にシャッター速度を変えると
絞りもそれに応じて変わる。 というか、変えなくては正しい露出が得られない
この絞りとシャッターがつねにペアで動いているというのは知ってるな?」
女性「ええ、それはわかります。」
霜月「まあ、被写体の明るさが一定で、ISO感度も同じ、という条件がつくんだけど
それはどうでも良い。 そういう細かいことをウダウダ教えると余計に混乱
するばかりだからな・・ あくまで基本原理はシンプルな方が覚えやすい・・
・・で、絞りを変えると被写界深度、つまり前景や背景のボケの量が変わる、
そしてシャッター速度を変えると、動いているものの動感表現が変わるんだ
そこまではわかるかな?」
女性「はい、勉強したのでなんとなくわかります・・ でも、ワタシのカメラでは、
被写界深度とか、絞りを変えてもよくわからないんですよ・・」
霜月「そりゃあ、たぶんこういうことだ。 1つはカメラのオマケについてくる
(標準)ズームなどでは、性能上、絞りの効果ははっきり出ない。
もう1つは、絞りの効果が出ない平面被写体ばかりを撮るからだよ」
女性「平面被写体って?」
霜月「たとえば、最初の写真、こういう平面的な写真ばかり撮ってないか?
こういう風に、あるいは風景とか、街並みとか、被写体が皆カメラから遠く、
殆ど同じ距離にあるような場合、絞りはいくつで撮っても写りは同じだ」
女性「え? そうんなんですか? 風景を撮るときは、絞りを8や11にしなさいと
教わったのですが・・」
霜月「むう・・(怒) いったい誰に教わった?!」
女性「ひいっ・・ え~と、以前、風景を撮っていたら近くにオジサンが来て・・」
霜月「そりゃあ、40年前の常識だ・・ オレ達が生まれるずっと前の話だよ、
今時そんな事言ってたら笑われるぞ・・
まあいい、バカバカしくて説明する気にもならないが、昔の性能の悪いレンズ
ならともかく、今時のレンズで遠距離の平面被写体で絞りの値で描写が大きく
変化するわけないだろう? 止まっていて平面被写体だったら絞りやシャッター
速度を何に設定しても一緒だ・・」
女性「じゃあ、止まっている被写体の場合には、シャッター速度は何でも良いの
ですか? では、その時の絞り値は?」
霜月「そうだ・・ そこがポイントだよ。 被写体の種類じゃあなくて、止まって
いるか動いているかで、絞り優先とシャッター優先を使い分ける・・
これがまあ、常識なんだけど、残念ながらこれは正しい考え方では無い・・」
女性「え?」
霜月「いいか・・? 例えば花を撮るとしよう。 基本は絞り優先だったな?
絞りをうまく使って背景のボケ具合を調整する。
でも、その花がもし風で動いていたらどうする?」
女性「え~、それは困りますね。 きっとブレて写るでしょう。
わかりました、だからシャッター優先にして止めて写す?」
霜月「ブ~ッ! 間違い・・
シャッター優先にして、設定したシャッター速度に、キミの変化幅の少ない
ズームレンズの絞り値が追従できなかったらどうなるんだよ? エラーになって
露出オーバーになったりするぞ。
あるいは、シャッター優先にしてて、急に日が陰ったり、明るくなったりしたら
どうなるんだよ、絞り値が変化して花の背景の被写界深度がコロコロ変わるぞ。」
女性「じゃあ、どうするんですか? 絞り優先にする?」
霜月「というか、撮影はすべて絞り優先にして撮るのが良い。
シャッター優先なんか使う必要は無いんだ。 ごくごく限られた状況、
そうだな、たとえば一定の速度で動く事が決まっている電車、車、エレベーター
などを変化する明るさの中で撮って、かつ、カメラもレンズも十分に高性能・・
そう、初級者はまず買わないような高性能なものを使った時に、やっと
シャッター優先の使える状況が出てくるんだ。
だから、そんなモードは使わない、いや、使えないんだよ」

女性「じゃあ・・ 動いているものを撮るとき、ブラしたいとか止めたいとか、
それはどうやってシャッター速度を決めるのでしょうか?」
霜月「絞り優先で撮ると言ってもな。 シャッター速度を見もしないで無視して
撮っているわけじゃあないんだ。 絞りを変えながらむしろシャッター速度に
常に注意して撮るんだ。 で、絞りを開放にして得られるシャッター速度が
その状況で得られる最速のシャッター速度、絞りを絞り込んで得られる
シャッター速度は、手ブレ限界か、あるいは意図的にそれを無視した
スローシャッターの速度なんだ」
女性「う~ん、難しいです・・ つまり、こういう事でしょうか?
絞りを決めることで、同時にシャッター速度も変えていると・・」
霜月「そうだ、その通り。 それが基本中の基本だ。
絞り値とシャッター速度がペアで動く事を知っていれば意味はわかるだろう?
そして、立体的なアングルで撮ったり、動くものを動感表現するという場合、
絞りとかシャッターはそれぞれ独立した要素のように思えるかもしれないが
実際の被写体は、動く立体的なものだったり、止まっているように見えて
実は動いていたり、複雑なものばかりだ。 だから、単純に絞り優先と
シャッター優先を切り替えて使うなんてケースは実際の撮影ではありえない、
だから、常に絞り優先。 これが正解だ。 Pモードは自由が利かないし、
Mモードは設定にワンステップ余計な手間がかかって合理的では無いんだ」
女性「わかりました・・ これからは全て絞り優先で撮ることにします・・」
霜月「まあ、それが良いと思うぞ・・」
女性「はい、霜月さん、ありがとうございました」
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霜月「ふう・・ 納得してもらったかな・・?」
匠「・・・ヲイヲイ・・ 霜月よ、一見ちゃんと説明しているみたいだけど、
かなりわかりにくい説明だったぞ。 いいか・・ 人にモノを教える場合は
話を聞いている人の理解度、理解力、あるいは概念をどこまで理解しているかを
掴みながらでないと、ちゃんと説明している事にはならないぞ・・」
霜月「はっ・・ そうだったなあ・・(汗)
オレは、あの女性は絞りとシャッターの基本はわかっていると思って
ちょっと細かい説明を、はしょりすぎたかもしれない・・」
匠「その通りだ・・・ たぶんあの様子では納得はしていないだろう。
彼女はきっと何故シャッター優先の必要性が無いか、その真の理由を理解できない
ままだ。 それどころか、霜月の言い方は「シャッター優先は使ってはいけない」
という風に聞こえる、つまり「ネガティブな制限」だよ。
これはモノを教えるという意味では、マイナス効果だ。
あれをしてはいけません、これをしてはいけません・・ これは教育や指導とは
言えない、相手を子ども扱いして、どうせ理解できないだろうと見下した考えだ。」
霜月「ぐぅ・・ じゃあ、どうやって教えるんだよ?」
匠「すぐそうやって逆ギレしたり責任転嫁だ・・
それは自分で考えて、経験をつんで、少しづつノウハウを改善していくんだ、
それに、何でもわからない事は簡単に人に聞いて解決しようとしない事だな、
まずは自分なりによく考えてみる、そして相手に応じた対応も忘れずにな・・」
霜月「むう・・ あくまでオレの責任ということか。 わかったよ、わかった・・」
匠「まあいい・・ 次回またこういう事があれば、もっと上手く説明できるよ」
霜月「よし、まあ頑張るとするか・・
ところで、1つだけ質問していいか?」
匠「ん? ああ・・いいよ」
霜月「その昔・・・ そうだな今から30年ほど前に、シャッター優先を主張する
カメラメーカーと、絞り優先を主張するカメラメーカーで激論があったと
聞いている。 しかしそれ以降、両優先、つまり両者の機能を搭載する
カメラが出たからその論争は収まったとか・・ それは本当なのか?」
匠「ああ、その話しか・・ ウソだと思う・・ いや、ウソと言うと語弊があるな、
論点が間違っていた・・ と言うべきかな。」
霜月「論点? つまり、シャッター優先を主張したメーカーが間違っていたという事か?」
匠「いや、逆だよ。 シャッター優先が正しかったんだ」
霜月「む? 何・・? 何故そうなるんだ?」
匠「当時のカメラの性能を考えてみたら簡単にわかるよ。・・たとえばこれだよ」

霜月「シャッターダイヤルだな。 1/1000秒までついている」
匠「30年前の当時のマニュアル機・・ 1/1000秒までのシャッター速度が普通だ。
そしてレンズは、50mm/f1.8クラスが廉価版、高級機には50mm/f1.4が標準装備だ」
霜月「ああ・・・その通りだ。 今時のカメラのように1/4000秒や1/8000秒が
ついているカメラはなかったし、レンズは逆にf3.5やf4.0の暗いズームでは無い」
匠「そうだ・・ で、1/1000秒のシャッター速度って実用的か?」
霜月「いや・・ ISO50や100の低感度フィルムを使うならまだしも、今時のISO400の
フィルムを入れたら昼間はあっと言う間にシャッター速度オーバーで
絞りは絞って使わざるを得ない。 そして低速シャッター側は、手ブレ補正なんて
無いんだから、50mmレンズでは、実質1/60秒までしか使えないと思うぞ・・」
匠「さすが霜月、その通りだよ。 じゃあ、使えるシャッター速度は何段ある?」
霜月「え~・・ 1/60、1/125、1/250、1/500、1/1000の5段だ」
匠「じゃあ、絞りは?」
霜月「ハッ! わかったぞ・・ つまり、当時のカメラでは、実用的に使える
シャッター速度よりも、絞り値の方が多いんだ。 たとえばf1.4からf22まで
え~、1、2、3・・ え~9段(段階)もあるぞ。
つまり、シャッター速度を先に決めてやれば、たいがい絞りはそれに追従できるが
絞り優先で絞りを先に決めても、シャッター速度の変化幅が狭く、使い物に
ならないんだ・・」
匠「その通りだ・・ だから、露出ミスを防ぐという概念では、当時の写真撮影技法と
機材の性能と、ユーザーへの写真知識の浸透度から言うと、シャッター優先が
優れているという結論だ。 でもそれはあくまで30年前の話しだ。 今は違う。」
霜月「オレにもわかるぞ。 つまり今のカメラは、1/30秒あたりから1/8000秒まで
実に広いシャッター速度の変化幅を持つ、おまけに手ブレ補正が入っていると
すれば、おそらくスローは1/4秒くらいからオッケーだ。
それに対し、主流の暗い小口径ズームはただでさえ開放f値が大きく(暗く)
絞り値の変化幅は、30年前よりもむしろ少ない。
だったら、これは絞り優先で使わない限り、シャッター優先で使ったら
エラーや露出ミスを起こす可能性がはるかに高いわけだな。
だからまあ、それを防ぐためには絞り優先を使わざるを得ない・・」
匠「正解・・ それが原理をちゃんと理解し、機材や環境の変化もちゃんと加味した
最も合理的な解釈だ。 カメラの知識は一度教わったらそれでずっと変化しない
わけではない、世の中は変化しているんだから、いつまでも風景をf8で撮ったり
f16で、シャッター速度をフィルム感度に合わせて撮るような古臭い考え方は
改めていかなくてはならない。 そうでないと、複雑な被写体条件下で高度な
映像表現を得るために、カメラ機材の性能をフルに発揮して撮るような現代の
撮影技法とはまるでマッチしない知識や技法になってしまうんだ。」
霜月「わかったよ・・止まっている被写体を止まっている状態で綺麗に撮るだけが
写真の全てじゃあない、と言うことを言いたいんだろう?」
匠「念の為に言っておくが、止まっている被写体を撮るのが古臭い写真技法だとは
言っていない、言いたいのは「それだけではあまり狭すぎる」ということだ、
批判ではなくて、視点を広げることで写真を楽しむ範囲を広げるということだ、
趣味というのはそういうものではないのか?
音楽(楽器演奏)だって同じ曲を間違えずに弾けるようになるまで何年も何年も
そればかり練習していたら飽きてしまうだろうし、そう言う風に間違えずに
弾けるようになるのが音楽の目的では無い。
もちろん、そんなのは「習い事」でもなんでも無いんだ。
写真をそれと同じ「習い事」と勘違いし、何年も富士山を綺麗に撮ることだけに
費やすのは、本当それが好きでやっているなら良いが、そうで無い人が、それが
写真上達の秘訣だと思ってそんな狭い視点で写真を「習おう」と思っていたら
間違いなく時間の無駄だ、そんなことを考えるより、もっと自分の好きな被写体
を自由に「表現する」為に撮ればいいだけの話だ。」
霜月「むう・・ まあ、その通りなんだろうが・・ そんな人は実際にいるのか?
オレの周りには、写真を個性を表現したいという人ばかりだが・・」
匠「霜月は知らないだけだ・・ そしてネットをやってネット上にすべての世界が
あると信じている人も、実際の現実はわからない。
世の中で写真を撮る人の数は実に多い、そしてその殆どは、ネットの世界も
知らなければ写真の表現についても理解できない。
たまにカメラの雑誌を見てコンテストに入選したような綺麗な富士山の写真を
撮りたいと思っている人ばかりだ。 それが90%以上と言うのが現実だよ・・」
霜月「写真教育のレベルが低いということか・・?」
匠「いや、レベルが低いので無い。 視野が狭いんだよ・・ あるいは写真の楽しみ方
をただ単に知らないだけだ。
霜月だってネットの世界にいるから(・・仮想キャラだけど・笑) 一見視野が
広いように思うが、たとえば丸一日、どこか街中の写真屋さんに行ってお客さんを
観察してみればいい・・ ほとんどが「富士山」の世界だけを見ていることに
愕然とするぞ・・」
霜月「むう・・ そんなものなのか・・」
匠「まあいい、今回は悩み相談の記事からすっかり脱線したけど、
言いたい事はわかったと思う。 じゃあ、次も悩み相談、頼んだぞ・・」
霜月「ぐぅ・・ なんだか、オレもすっかり自信をなくしてしまったが・・(汗)」
匠「気にするな、焦る必要は無い・・ 霜月にも可能性だけは十分にある・・」
霜月「むっ! それって、なんだかオレを子供扱いしているような・・(苦笑)」