女性「匠さん、ワタシ、望遠レンズが欲しいのですが・・」
匠「ん? 何を撮るのかな?」
女性「こないだ遠くにいる鳥を撮ったのですよ、そうしたら豆粒みたいに小さくて・・」
匠「あ、野鳥とかは、相当の望遠で無いと無理だよ・・・」
女性「そうなんですか? まあ、ある程度大きく写せれば良いのですが・・」
匠「ある程度って・・? ん~、じゃあ、たとえばこれくらいに大きくかな?」

女性「あ、これくらいならもう十分です・・これは凄い望遠なんですか? 何百ミリとか?」
匠「200mmだよ、しかも一眼ではなくて、(高機能一眼タイプ)コンパクトだよ」
女性「200ミリでもそれくらい大きく写せるのですか? ワタシは300ミリか
400ミリは必要だと聞いてました。 どうやったら200ミリで?」
匠「2つ理由がある、まず一つはこれは都会のハトだ。 人間に慣れているから
ある程度近づいて写すことができる。 そしてこれは周囲を少しトリミングして
大きく見せているんだ」
女性「へえ・・じゃあ、トリミングとかしたら野鳥でもこれくらいに大きく写せる?」
匠「残念ながら難しいな・・ 野鳥撮影だったら最低でも800mmくらいの超望遠で
ないと撮影距離が遠くて苦しいし、トリミングだってあまり極端にやろうとすると
デジタルでも銀塩でも解像度が足りなくなるよ。」
女性「でも、ワタシ・・ハトは撮りたくないな。 だって可愛くないもん・・」
匠「そういわれてもなあ・・(苦笑) まあ、それに超望遠レンズというのは
値段が高いんだよ、ましてや大口径のものとなると、手が届かない・・」
女性「大口径ってよくわからないけど、ともかく300ミリか400ミリくらいでも
いいから、安い望遠レンズありませんか?」
匠「う~ん、以前はTAMRON LD200-400/5.6が安価で良く勧めていたけど、今はもう
中古市場にも在庫が無く入手困難だ。 それにそのレンズは大きく重い、
女性が扱うのだったら、300mmくらいまでの高倍率ズームか、これもやや少ない
けど400/5.6あたりの単焦点望遠、あるいは500/8あたりのミラーレンズだ」
女性「ズームが無いと困りませんか?」
匠「まずズーム=望遠、ということでは無い、それはわかるね? 初級者の多くは
望遠のことをズームと勘違いしているからね。
で、望遠ズームなんだけど、小型でかつ安価なものとなると、望遠側開放f値が
かなり暗くなるんだ・・ それが問題だよね。」
女性「ボーエンガワカイホーエフチ? なんですか、それ?」
匠「たとえばこのレンズ、典型的な初級望遠ズームだよ、読んでごらん」

女性「1対4.5。 から5.6。 fイコール。 75から300ミリ・・・」
匠「・・・(苦笑) まあ、記述の仕方はメーカーとかレンズによって若干違うんだけど、
それはさておき、この4.5~5.6が開放f値だ。 で、75~300mmはレンズの
焦点距離ね、焦点距離についてはもうわかっているでしょう?」
女性「はい、300ミリだったら望遠ですね。 で、開放f値とは?」
匠「簡単に言えば、数字が大きいほど暗いレンズだ、ということだ」
女性「暗いレンズは写真が暗く写ってしまうということでしょうか?」
匠「いや、それも初級者の典型的な誤解だ。 いわく『今日は天気が悪かったら
写真が暗く写った』、『夕方だから写真が暗く写った』、『暗いレンズを使った
から写真が暗く写った』・・ どれも誤りだ。 写真の明るさはその場の明るさ
やレンズに関係なく、標準的な(≒適正)露出で写る(写す)のが普通だ」
女性「何故暗いところでも写真は明るく写るのですか?
それと、じゃあ、暗いレンズっていったい?」
匠「いくつもいっぺんに考えると混乱するよ。 じゃあ1つ1つ解決していこう。
まず写真はフィルムでもデジタルでも、写真を写すために必要な光の量という
ものがあって、それがまあ「露出」と言われるものだな。
で、暗い場合、つまり光が少ない場合は、
①レンズの絞りを大きくする、つまりレンズの直径を広げて一度に沢山の光を
取り込もうとする、
②あるいはシャッターが開いている時間(シャッター速度)を長くして、
たくさんの時間で多くの光を取り込んで撮るんだ、
それがカメラにとっての「適正露出」、つまりちょうど良い光の量だ。
ちなみに人間が「適正」と思うかどうかとは関係ないよ(ここが重要)、
あくまでカメラのフィルムやデジタルの撮像素子にとっての適正な光の量だよ」
女性「なるほど、暗いところでも光を沢山取り入れれば明るく写るというわけですね」
匠「まあ、そういう事。 でも、別に暗いところを暗く見せるために、あえて光を
減らして撮るという考え方もあるから、そんな場合はカメラが「これで良い」を
思ったものを自分の意図で変えて撮る場合もあるよ。 まあ、それはとりあえず
考えなくても良いか・・・ だからカメラの言う通りにして撮ったら暗い場所でも
普通に明るく撮れてしまうんだ。」
女性「暗い場所ではフラッシュを使わないと撮れないと思ってましたが」
匠「それも、普通のカメラはオートにしておくと自動的にフラッシュを焚くから
初級者が実際に暗いところで適正露出で明るく撮った写真なんて、見たことが
ないのが普通なんだよ。 まずフラッシュ無しでは撮らないし、かりにそうしても
手ブレで失敗写真になってしまうからな。」
女性「なるほど・・ そこまではわかりました」
匠「じゃあ次に暗いレンズね。
開放f値というのは、そのレンズが最大に光を取り込める量を示す値だと思って
もらっても良い。
この数値は小さければ小さい程いっぺんに沢山の光を取り込める、
そしてこれは焦点距離とは直接は関係ない。いや、共通と言うべきか。
たとえば50mmレンズでf2.8で、あるシャッター速度だったらピッタリ(適正)の
露出だったとしたら、300mm望遠でもf2.8で同じシャッター速度でピッタリの露出だ」
女性「う~ん、ややこしいですが・・(汗)」
匠「じゃあ、言い換えよう。まず、レンズの焦点距離には関係なく、ある被写体の
明るさで、あるf値だったら、同じf値の場合はシャッター速度は同じだ。
でもレンズには、それぞれ、どこまでf値を小さく(明るく)できるかは、
限界値がある、それが開放f値なんだ。」
女性「はい。 わかります、最高速度みたいなものですね」
匠「いいたとえだね・・(笑) で、開放f値が小さいほど、同じ明るさでも
速いシャッター速度が得られる、英語で言えばハイスピードレンズだよ。」
女性「あ、つまり解放f値が暗いレンズは、シャッター速度が遅くなる・・」
匠「解放じゃなくて、開放ね、そこも良く間違えるんだ・・
で、シャッター速度が遅くなる、正解。 そしてシャッター速度が遅くなると
どうなるのかな?」
女性「え~と・・ 手ブレするのかな?」
匠「正解!」
女性「じゃあ、三脚が必要ということですか?」
匠「1つの解決策としてはそれもあるね、でも、(若い)女性が撮影で三脚を持ち歩く
ことは皆無だ、これは非常にはっきりしている、申し訳ないがシニアの女性以外では
三脚を持ち歩くことを嫌って、絶対と言っていいほど無い。 シニアの女性だって
本当は三脚なんぞ持っていきたく無いんだ、でも周囲の人から「三脚を使わないと
ブレるぞ」といった脅しに近い(苦笑)アドバイスをもらっているから、しかたなく
重たい思いをして三脚を持っていく。」
女性「ワタシも三脚は持っていきたくないです。」
匠「だから、他の解決策を取る。シャッター速度が遅くなると手ブレをするのは当然だ
けど、実際にどれくらいで手ブレをするんだ? まずそこをきっちり理解しないと
何が何でも望遠撮影では三脚が無いと撮れないと誤解したままになってしまう。
具体的には、銀塩換算焦点距離分の1秒の以上のシャッター速度があれば、初級者
でもまず手ブレせずに撮れる、というのが常説だ、これを「手ブレ限界」と言う。」
女性「ギンエン換算とは?」
匠「フィルムカメラだったら、焦点距離のミリの数値のまま。
デジタルだったら、まあ初級者が使う一眼だったら、(APS-Cが殆どだから)約1.5倍
したらいいよ。 つまり、300mmだったら、フィルムで300、デジタルで450だ」
女性「シャッター速度を、300や450にするということですね」
匠「正確には「分の1秒」だよ、数字が大きければ速い、ということだよね。
で、シャッター速度にはあまり半端な数はないので、たとえば1/250、とか1/500とか
そういうキリの良い数字になっている。 換算焦点距離が300でも450でも、
まあ1/500秒あれば、手ブレしにくい、ということだよね。」
女性「わかりました、1/500秒にカメラを設定します」
匠「ちょ・・(汗) そういうことじゃないんだ。 さっきも言ったけど、暗い場所で
シャッター速度が速ければ、光の量が足りなくて真っ暗な写真になってしまう。
だから、自分勝手にシャッター速度は決めれない、あくまでその場所や被写体の
明るさに依存するんだよ。」
女性「つまり、昼間明るいところで撮れば良いというわけですね」
匠「その通り・・ なので、暗い森や林の中で野鳥を狙うというのはシャッター速度が
遅くなりすぎて不利な条件になる場合がある、できるだけ明るい場所で撮ること
だよね。 で、さっきの開放f値ね、これも小さい(=明るい)レンズだったら
絞りを目一杯開けて使えば、シャッター速度をある程度速くすることができる、
でも、初級望遠ズームのf5.6とか、あるいはf6.3、f6.7といったレンズでは
望遠にすればするほど開放f値が暗くなってきて、どんどんシャッター速度が遅く
なってしまう」
女性「なるほど、それが明るいレンズのメリットなわけですね」
匠「でも明るいレンズは大きく重く高価だ、望遠ならなおさらその傾向が強い、
おまけにさっきの「手ブレ限界」の公式を思い出してもらったらわかるけど、
望遠にすればするほど、手ブレ限界が厳しくなるんだ、だからあまりの超望遠なんか
だと、いくら明るい場所でもそれこそしっかりした、つまり重たいカメラとレンズを
支えられる三脚でも使わないと、撮れる条件が限られてくるんだ。
どんどん機材が大げさになっていって、野外に持ち出すだけでも大変だよ・・」
女性「つまり、無理ということですか・・」
匠「無理とは言わない、色々な条件に当てはめて、それらがクリアされれば
初級望遠ズームでも撮れる事もある。 ただ、何も知らずに、明るい大口径の
高価な望遠を買って、大きく重い三脚と、良いカメラを買ったら撮れる、という
ものでも無いんだ。 あくまで露出の原理とか手ブレ限界を理解した上で機材を
適切に使わないとならない・・ 写真は、お金や体力で解決するものではないんだ」
女性「撮れないと思ったら諦めるのも方法ということでしょうか・・・?」
匠「その通り。 で、もう1つだけISOを変える方法を教えておくね。
ISOを2倍に上げるとシャッター速度も2倍にあがるんだ、だからシャッター
速度が足りないと思ったら、デジタルだったら可能なかぎりISOを高くすれば
良い、銀塩だったら、高感度フィルムに交換するか、あるいは増感撮影という
ものをする、これはカメラにISOを騙して教えてあげて、あとで増感現像で
明るさを調整するといワザだよ。 ネガならあまり関係ないけど、ポジでは
結構良く使う手法だ」
女性「ISOを上げるのですね・・わかりました。」
匠「あまり上げすぎると、ノイズが出たり、色がおかしくなったり、画質が落ちるから
気をつけてな。 だからそれもあくまで条件によって、できるだけ・・だよ。
しかし、ISOを下げたからって、デジタルの場合、画質は向上しないけどね」
女性「程ほどにします。 で、結局どんなレンズを買ったら良いのでしょう?」
匠「う~ん、本格的に撮るのはまあ無理だから、焦点距離と大きさと値段と開放f値
がうまくバランスした望遠を買うのが良いだろうな、とりあえず300mmでf5.6
くらいの望遠側開放f値を持つレンズか、できれば400mmのf5.6の単焦点、
いずれにしてもf5.6あたりがいい線だよ。 f4.0か、あるいはf2.8ともなると
持ち上げるのも苦しいくらいの大型なレンズになるからな・・」
女性「わかりました、暗いレンズでも撮れる状況でのみ撮れば良いのですね」
匠「まあそういうこと。 あと、ズームレンズは、普通は開放f値が焦点距離で
変化するんだけど、f2.8やf4通し、と言われるものがある。」

匠「たとえばこれは大口径標準ズーム、でも、こういうのを買うならば、
50mm/f1.4の単焦点の方が様々な被写体条件に対応できる場合が多いから、
なんともいえないけどね・・しかし微妙に画角変化や背景効果を出したい場合は
状況によってはズームが便利な場合もある。 そして70-200/2.8のような
大口径望遠もあるけど、これは大きさ、重さ、価格でちょっと女性には向かない
だろう、しかも、意外使い勝手が悪い場合もあって、85/1.4と200/4(or 200/2.8)
のどちらかあるいは両方を持った方が便利な場合もある。
いずれにしても、ズームを使うならば、単に画角の変化だけではなく、焦点距離が
変化することでのパースペクティブ(遠近感)の変化、それから背景が写る範囲
の変化、(同一絞りでも)ボケ量の変化、そして、開放f値可変型のズームでは、
f値が変わってシャッター速度が変わり、さらには手ブレ限界シャッター速度も
変化することを理解しなくてはならない、それらをすべて理解して、初めて
ズームをちゃんと使えるということになるんだ。」
女性「・・・(汗) 難しいです。 ワタシ、ズームって初心者が使う使いやすい
レンズだとばかり思ってましたが・・」
匠「多分大きな誤解だよ・・ ズームは奥が深くて難しい。初級者どころか中級者でも
自分の意図通りに撮ろうと思ったら、手におえるものでは無いと思う、
ズーム=望遠と勘違いしている状況から、ズームのさまざまな特徴を理解するまで
には、いったいどれだけ勉強と経験をつんでいく必要があるのだろうか・・
そう考えると、あるタイミングで単焦点を選んで徹底的にレンズの原理を
理解して、それから違う焦点距離の単焦点、で、最後にズーム、それもできれば
f値固定型のズームを使うといいんだ。 もっとも、それくらい真面目に勉強して
いれば、いずれは単焦点1本で撮っても全然不便を感じなくなるのが普通だけど・・」
女性「う~ん・・ まだまだ道は長そうですね・・」