森田重雄「霜月さん。今日は天気も良いし、京都に写真を撮りに行きましょうよ。」
(注:森田重雄:仮想キャラクター。 シニアで初級者だが最近成長著しい)
霜月了「あ~、そうですね。 最近、森田さんと撮りに行ってないし。」
(注:霜月了:仮想キャラクター。 29歳男性、技巧派だが感覚面に弱い)
森田「伏見なんかいかががでしょう? 日本酒が有名ですが、わたくしはあまり
お酒は得意ではありませんが、街の雰囲気は良いと伺っております。」
霜月「はあ、わかりました・・」
霜月(・・さて、森田さんも渋いところを選んでくるなあ・・ あまり観光地化
されていないけど、ちょっと特徴のある古い街。 そう、以前森田さんと
行った和歌山の
湯浅や
黒江、そんなイメージにも通じるところがある。
さては、森田さんもだいぶ写真のなんたかるかがわかってきたようだな、
観光地に行って名所名跡をパシャリ、とやらないだけ進歩があるようだ・・)
森田「さて、伏見に着きましたね。 あ、あれがお酒を造っている・・」カシャ。

森田「どうですか? (この写真は?) 霜月さん・・・?」
霜月「う~ん、ちょっと視点がマトモすぎるようにも思えますね・・
どちらかというと観光写真のようにも見えてしまいます。
確かに綺麗には撮れている、そして構図的にも遠近感をうまく活かして
無駄が無いし、垂直もきっちり取れているんですけどねぇ・・」
森田「ああ・・ やはり、平凡ということでしょうか?」
霜月「まあ、一口に言えばそうですね。 写真を撮る技術は良いのですが、
なんと言うか・・ 表現したいものが伝わってこない。
まあ、それは、オレの写真も同じなんですけどね(苦笑)
そうだなあ・・ たとえば、オレだったら、このあたりだったら
こう撮るかな?」 カシャ。

森田「さすが霜月さん、うん、これは、十石船(注:以前は物資を運ぶ為に使われて
いた船だが、今は観光用途)ですね、冬場だから動いていない。
それと、琵琶(びわ)をデザインしたマークをうまく絡めて撮ってらっしゃる」
霜月「ああ、でも、これは、もう少し絞りを開けて背景をボカした方がよかったかも
しれませんね。 これだと、オレの写真も何が言いたいのか良くわからない。」
森田「そうでしょうか? これ以上背景をボカしたら琵琶だけになってしまいますよ、
それこそ、そのマークで何を言いたいのか? となってしまう・・」
霜月「ぐぅ・・(汗) (森田さんもなかなかビギナーとは思えない鋭さを
身に付けてきたなあ・・ たしかにそれはそうかもしれない)」
森田「でも、写真って面白いですよね。 ほとんど同じ場所にいるのに、
撮る人によって被写体を探す目線が全然違いますね。 わたくしと霜月さんも
全然反対の方角を向いて撮っているんですからねえ・・」
霜月「ああ、それは良く聞く話ですね。 同じ場所に撮りに行っても人によって
全然撮るものが違う。 でも、だからこそ、他の人の写真を見ると、
『へえ、こんな被写体に着目しているのかあ』と、参考になる事が多々ある・・」
森田「じゃあ、また別の場所に移動しましょう、あ、こちらの酒蔵はどうです?」カシャ。

霜月「森田さん・・ これもまた観光写真ですよ。
確かに綺麗に撮っているし、遠近感もあるし、垂直もオッケーだけど、
森田さんの1枚目とまったく同じ評価ですよ。
それに構図上の問題を言えば、白っぽい空の部分の割合が多いので、
なんか無駄に間が抜けた感じになっています。」
森田「ううむ、確かに・・ 難しいですなあ・・ わかりました・・ じゃあ、
霜月さんなら、こうしたエントツはどう撮られますか?」
霜月「え? オレ・・・? オレは別にエントツを撮りたいわけではないけど(苦笑)
まあ、じゃあ・・・ そうだなあ・・ こんな感じか・・?」カシャ。

森田「ん? 写真が暗くありませんか?」
霜月「まあ、空や雲のトーンを出す為にマイナスに補正しています。
エントツは確かに主役だけど、あまり主役にはなりえない被写体だし、
だから、空とかの背景を含め、写真のバランスを考えているんですよ。」
森田「はあ、なるほど。」
霜月「でもまあ、これはオレとしてもあまり納得がいく写真ではありません、
エントツの高さを強調するとか、もっとそんな風に、自分の言いたい事
つまり表現をもっと考えていかなくてはなあ・・」
森田「ふむふむ、わかりました、じゃあ、もう1枚撮ってみますね・・」カシャ。

霜月「おっ! 森田さん、これはなかなか良いですよ。」
森田「え? そうですか?」
霜月「ピントは前方の草にあてて、背景をわずかにボカしていますが、それがまた
レトロな感じですね、やや露出オーバー気味でホワイトバランスも転んで
ますが、それがセピアなトーンとなって、レトロイメージを強調している。
森田さん、なかなかヤルじゃあないですか。」
森田「えへへ・・ 霜月さんにそう言っていただくと嬉しいですね。
なるほど、やっぱり被写体をそのまま綺麗に撮るだけでは写真としては
面白くないのですね・・」
霜月「まあそうです・・
(う~ん、でも、ちょっとオレも頑張って、もっと写真に表現を込めて
いかないと、EMAに対抗するどころか、このままでは森田さんにも
追い越されてしまう・・ 困ったぞ・・)」
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森田「ここは寺田屋ですね。 ここは坂本竜馬のゆかりの地だそうですね。
あ、早速坂本竜馬の銅像を見つけましたよ・・ 」カシャ。

霜月「お、森田さん、なかなか上手く撮りましたね。
まあ、この銅像は小さくて高い位置にあるから、というのもありますが
うまく下からローアングルで撮って、なんとなく坂本竜馬が堂々としている
ように見えています。 背景の梅の花もいい感じですねえ・・」
森田「たまたまですよ・・ でもそういっていただければ嬉しいです」
霜月「さて・・オレも坂本竜馬を撮るか・・
(でも、森田さんのこの写真は良く撮れている、オレがオレの技術をもって
しても、まあ、このような撮り方では大差は出ないだろう、それどころか
森田さんの真似をして撮っているように思われてもダメだ・・
う~ん、もう少しちょっと工夫をして撮るか・・ あれか・・?)」カシャ。

森田「おお・・ 人形とは面白い。 しかも坂本竜馬ですなあ・・」
霜月「フフ・・ (これはオレとしてもちょっと考えて撮ってみた。
広角マクロでの近接撮影だ。 左の坂本竜馬にピンを当ててもよかったが、
あえてストレートに中央にフォーカスし、竜馬を前ボケにしてみた。)」
森田「でも霜月さん、これって、坂本竜馬はピンボケでは?」
霜月「ガクッ・・(汗)
(だからワザとそうしたんだって! でもまあ、言われてみれば、何故オレは
左の竜馬人形にピントを合わせなかったのだろう? う~ん、何故だ?
オレは自分自身の考えも良くわからない(苦笑)
でも確に、オレは何かが言いたくて、こうやって撮ったんだ、
うむむ・・ これは何か、もしかして? ああ、良くわからない・・汗)」
森田「ところで、この商店街は面白いですね。 なんだか光が綺麗です。」カシャ。

霜月「う~ん、森田さん、まあ、商店街のアーケード屋根とは、目のつけどころは
いいですね。 光と影も良い・・ でもちょっとシンプルすぎるかな?
(オレだったら、もっと違うものに目線を向けるかなあ・・たとえば)」カシャ。

森田「あ、なかなか霜月さんらしくていい写真ですね・・」
霜月「ん? オレらしい? そうなのかなあ・・?」
森田「人が写っているわけじゃあないですが、なんとなく、この写真の背後に
人の営みが感じられるというか・・」
霜月「(はっ! 確かに言われてみればそうだなあ。 人が写ってないのに、
人間の生活みたいな、なんかのストーリーを感じる・・・
ああ、これも一種の「表現」なんだろうか?
ちょっとまてよ、オレは無意識のうちにそんな写真を撮っているのか?
オレはそんな事を考えてもいないで、被写体が珍しいから撮っただけだ、
でも森田さんには、何かの表現が伝わったようだ。
だが、それはオレの考えていた事とは違う・・ う~ん、それでいいのか?)」
森田「わたくしも霜月さんのように、なにか表現のある写真を撮ってみたいです。」
霜月「いや・・オレの写真は本来はそんなものは全然考えてはいないですよ・・(苦笑)
それを言うなら、オレの写真を参考にせず、EMAの写真を参考にしてもらった
ほうが森田さんの為にはいいかもしれません。」
森田「EMAさんの写真は、確かに個性的ですが、正直わたくしには難しくて・・
そもそもEMAさんのような視点で被写体を探すことなんか出来ないです。
わたくしは、普通に目についた被写体を綺麗に撮るだけでして・・」
霜月「まあ、そうですね、EMAの視点は確かに独特だ・・
でも森田さん、一度そんな風にやってみたらいかがですか? EMA風の
写真を撮ることで、なにか表現というものがわかってくるかもしれません・・」
森田「そうですか・・? ん~ じゃあ、わたくしもEMAさん風に撮ってみましょう、
どれがいいですかね・・ あ、この赤い果実で・・
で、EMAさんは、下から見上げたり、上から見下ろしたりして撮るのでしたな
じゃ、わたくしも上から見下ろして撮ってみましょうか。
お、これは・・ あ、とても撮りにくい。 ファインダーも見えないし、
ああ、どうしますか・・? まあこれでなんとか撮ってみましょう・・」カシャ。

霜月「アハハ!」
森田「可笑しいですか? ・・まあ確かに変な写真ですよね(汗)
ふう・・ でも疲れました、EMAさんはいつもこんなに苦しい体制で
写真を撮っているのでしょうか? わたくしはこんな撮り方をしたら腰痛が
出てしまいますよ(苦笑)、いやあ、若い人が羨ましいですわ。」
霜月「いや・・ 笑って失礼しました。
笑ったのは、別に森田さんの写真が変だったからじゃあない。
むしろEMA風を見事に再現しているなあ、と思って、驚いたんですよ。
いやあ、これは確かにEMA風写真です、森田さんが撮ったなんて思えない、
EMAってロゴを入れたら完全にEMAですよ・・ アハハ・・」
森田「はあ・・ そうですか・・」
霜月「ああ、でもまあ、やはりEMAの写真ほど強いインパクトは無いです(汗)
多分、やはり何が言いたいのかわからない、というのがあるのでしょう・・
でもまあ、EMAの写真も何が言いたいのかわからないものも多いが・・(笑)」
森田「EMAさんはこんな写真撮るとき、いったい何を考えているのでしょう?」
霜月「多分何も考えてませんよ・・ 感覚で撮っているのでは?」
森田「感覚ですか・・ ううむ・・」
霜月「オレにもそのへんは良くわからないのですよ、感覚って・・ じゃあ、被写体の
何を見ているのか? いや、そもそも被写体という概念がEMAには無いのかも
しれない・・森田さんは多分、たまたまこういう写真を撮れたのだと思います、
無理やり変な体制で撮って、被写体なんか見ている余裕もなかった・・・
でも、もしかするとオレや森田さんが撮る写真とEMAの視点は根本的に
何かが違うのかもしれませんね・・・」
森田「被写体という概念が無い・・ ですか? うむむ・・」
霜月「オレにも良くわかりませんよ・・ でも、たとえばオレや森田さんの
写真だったら、必ず被写体というものがあるのですよ、で、それを綺麗に
写したいと思ったり、あるいは人と違うように写したいと思う。
だから、構図やアングルや絞りやシャッター速度を工夫したり、でなければ、
シャッターチャンスを狙ってとる・・ ほら、ここだ!」カシャ。

森田「おお、見事にお店の看板のところに自転車が来てますなあ。」
霜月「オレの・・・ いや、オレ達の目線では、こういう写真ならば撮れるのですよ、
シャッターチャンスを捉えるためにカメラの操作を素早く正確に行う。
で、これ以上技術的に高度に撮ろうとすれば、スローシャッターで自転車を
ブラしたり、あるいは流し撮りをする。
でも、多分、そんな視点とEMAの視点は根本的に何かが違うのでしょう、
オレ達のこんな写真には、被写体の存在がはっきり出ています。
だから感覚的な要素なんか何も無い。 被写体が良いか悪いか、あるいは
被写体を撮る技術が高いか低いか・・ 写真の要素がそれだけで決まってしまう。
でもそれでは、オレのような技巧タイプの主義を持っている人間ですら、
それじゃあ写真に深みが無い、つまり表現が無いということをわかっている
わけですな・・ つまり、オレ達の撮り方ではこのあたりが限界で先が無い・・」
森田「ううむ・・ 霜月さんが限界とおっしゃるならば・・
やはりもっと写真を撮るための視野を広げなくてはならないということですね・・」
霜月「まあそうですね・・ でも今日はもう夕方ですしこのあたりにしておきましょう、
せっかく「鳥せい」の前にいるのですから、どうです? メシでも食べて
いきましょうか? ここは匠のオッサンが「美味い」と言っている店ですよ
あのオッサンはこういうジャンルには詳しいみたいだし・・(笑)」
森田「匠さんのお薦めのお店ですか、じゃあ入りましょう・・」
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霜月「焼き物盛り合わせ一丁!」 (ハイヨ・・)
森田「お、美味しそうですなあ・・」カシャ。

霜月「森田さん、後ピンになってますよ(苦笑) こういう場合は、もっと手前の
串にピントを合わせ、奥行きを見せるように撮るんですよ・・」
森田「そうでしたか? まあ、でももうおなかがすきました、食べちゃいます・・」
霜月「アハハ・・ 確かに食事中まで技術講座はヤボですね、じゃあ、オレも
いただきま~す!」
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匠「おお、霜月に森田さん、おかえり、お疲れ様。
どうだ、良い写真は撮れたかな? で、例のモノは・・?」
霜月「ああ、ちゃんと買ってきたぞ。 ほら、京都土産だ。」

匠「やった~! 黄金一味だ! よく見つけたなあ・・ これ欲しかったけど
なかなか見つからなかったんだよ・・ おお、霜月、ありがとうなあ・・」
霜月「苦労したぜ・・ でも、礼を言われるまでもない。 税込み840円だ。」
匠「なんだ・・ くれるんじゃあないのか・・ しかたない、払うよ。
ブツブツ・・ そんな調子じゃあ、いつまでも作画意図がわからないで
悩むに違いないぞ・・」
霜月「ん? 一味とうがらしと作画意図になんの関係があるんだ・・?」
匠「教えるかよ・・ まあ、今度は私の喜ぶお土産をちゃんと買ってくることだな・・」
霜月「ぐぅ・・ その手にのるか!」