さて、名機対決シリーズの後編記事。(前編は
こちら)
今回は1990年代の軽量な銀塩一眼レフである、PENTAX MZ-3(SE)とα-SweetⅡである。
さて、両機の操作系の大きな違いとして、MZ-3はMFライク(似ている)な、
絞りリング+シャッターダイヤル方式、そしてα-SweetⅡは、普及AF機によくある
1ダイヤル方式である。

私がよくデジタル(一眼レフ)カメラの話で、「1ダイヤルはお話にならん!」と
述べているのであるが、これは、露出補正が必須なデジタルカメラにおいては
そうであるが、銀塩でしかもネガの場合は評価が変わってくる。
ご存知のように、ネガでの露出コントロールは、DPE店(カメラ屋さん)が
プリントの時に、自動または手動で1枚1枚明るさを調整するのである、
したがって、いくらネガで露出補正を人為的に行ったとしても、カメラ屋さんの
プリンターはせっせと標準的な明るさに戻してしまうので露出補正の意味はほとんど無い。
それを避けるために「そのままの明るさでプリントして下さい」と言ったところで、
また焼き増しの時に明るさが違ってしまうか、店員のスキルや機械の種類によって
明るさが異なってしまうのである。
そして、デジタルでは、撮影時やレタッチ時に、あるいは自家製プリントおいて、
露出補正は撮る人の制御下、すなわち責任であるから、自分の意図する露出を得る
為には、絶対的に露出補正の操作が必須となる。
RAW現像やJPEGレタッチで後からやれば・・ というのは、作画意図や
作画表現の面からは好ましくなく、しかもただでさえラティチュード(Dレンジ)が
狭いデジタルであるから、撮影時にその表現意図を反映する露出補正は必須になる。
で、デジタルでは1ダイヤル方式ではたとえばA(絞り優先)モードでは
絞りをコントロールするために1つのダイヤルが使われ、その時に露出補正を
行う(結果的にシャッター速度が変わる)ために、もう1つのダイヤルが必須となる。
さらに言えば、この際、任意のシャッター速度を得るためには、第三の露出設定要素
としてのISOダイヤルが必須となるのであるが、現状ではそれを備えたカメラは
存在しない。 ISOの概念は何度か述べているように今後将来のデジタルカメラに
おいて撮影技法の根本を変えてしまうような大きな要素であるが、今のところは
メーカーもユーザーもその重要性をあまり認識してはいないようだ。
で、理想的な3ダイヤル方式まではいかないまでも2ダイヤルは必須であって
1ダイヤルカメラの場合は、露出補正ボタンを押しながら、1ダイヤルを絞り設定と・・
(注:A、Avモードの時・・ 実質上はこれだけのモードで十分。
これに変わるモードとして、ハイパープログラムあるいはプログラムシフトや
マニュアル露出モードがあるが、前者は露出補正の為に最低2ダイヤルがやはり必要、
後者も絞りとシャッターの設定で2ダイヤルが必要である)
・・露出補正に交互に共用するという不便を強いられる。
ところが銀塩ネガの場合は、露出補正は実質不要であるから、この操作はいらない。
むしろ、露出補正専用のダイヤルなど(たとえばEOS中級機以上)を備えて
しまうと初級者はむやみにそれをいじくって、リバーサル(ポジ)はもとより、
ネガにおいてもラティチュードを超えるような無謀な設定をしかねないので、
フールプルーフ(語源の意味は悪いが、要は誤操作防止)の為に、露出補正の
ボタンは別途用意しているほうが無難なのである。
---
ちなみに、このα-Sweet Ⅱには絵文字(アイコン)モードが搭載されているが
これは、夜景ポートレート(スローシンクロ)以外は、中級者以上の人は使用しない。
デジタルカメラで絵文字モードに各種画像パラメータが設定されている場合以外は
この絵文字モードはまったくの子供だましの無駄な機能であるのは
以前の記事で
述べた通りであるのだが、それでも夜景ポートレートは(この手のカメラでは)他に
代替の設定手段が無いため、選ばざるを得ないのである。
さて、対して、MZ-3の各種機能であるが、露出補正ダイヤルを備え、

さらに露出補正ダイヤルの下には、単写、連写、セルフ(タイマー)と、
1/2段および1段のオートブラケティングがある。
また反対側のシャッターダイヤル下部には、マルチ、中央重点、スポットの測光モード
の切り替え、カメラ左前部には、AF/MFの切り替えがある。
シンプルだが、必要にして十分な機能を備えていると言えよう。
(注:実は多重露光が出来ないという問題を抱えているのだが・・ それはさておき・・苦笑)
ちなみに、スイッチ・ダイヤル・レバーといった、いわゆるアナログ操作系を持つ
カメラの最大のメリットは2つあり、その1つは「視認性」である。
すなわち、カメラの設定がすべて見ただけで把握できるということであり、
これに対し、デジタル操作系、つまり、ボタンを押して機能(ファンクション)を
選び、ダイヤルで設定値(パラメータ)を選択する、という方式では、全ての設定を
同時に目視で把握することはできないという欠点を持つ。
その代わり操作子が減ってコストダウンできることと、同じ操作子を同じ操作性
(注:「操作系」ではない、操作性は単に物理的な動作にすぎない)で動かす場合の
統一性を得られるメリットがある。
もう1つのアナログ操作系のメリットは「不揮発性」である。
不揮発性とは、ユーザーが設定した値が、電気的な理由によって消えて無くなる
ことが無いという意味であり、たとえばシャッターダイヤルを250に設定したら
それを物理的に動かさないかぎり、そのカメラは未来永劫にシャッター速度1/250秒
をキープする。 電池が無くなろうが、電気・電子的なトラブルにみまわれようが
シャッター速度は1/250秒なのである、これは心理的には安心感がある。
「不揮発性」はただ、必ずしもメリットばかりではなく、たとえば絞り環(リング)
の不揮発性は、あるレンズ、たとえば望遠レンズをF2.8にして設定しカメラに装着した、
次に別のレンズ、たとえば広角レンズをF11に設定してカメラに装着した。
この場合、レンズ交換を繰り返しても、望遠は絞り開放近くでいつも望遠らしい撮影
ができ、広角はいつもパンフォーカスで広角らしい撮影ができるという大きなメリット
があるのだが、逆に言えば、デジタル操作系の概念から言えば、レンズ交換をしても
同じ絞り値をキープしたいとき、具体的には、80-200のズームでF4.0で撮影したかった
のが、いやまてよ、マクロの単焦点の方がボケが綺麗だから、と、ズームを外して
90マクロに交換しようとしても、レンズ交換の度に、それぞれのレンズの絞り環の
絞りの設定値に変わってしまったら、面倒だ、ということであろう。
さらには、ズームレンズにおいて、開放F値がズーミングで変化する場合は、
絞り環を持つアナログ操作系においては、レンズに設定されたF値と
ズーミングにより変化する開放F値とのつじつまがあわなくなってしまう、
したがって、ズームを使用する場合は、アナログ操作系よりもデジタル操作系でないと
使いにくいという結果になる。
で、しかし、この場合困るのが開放F値の異なるズームと大口径単焦点を併用する場合、
たとえば、28-300mmの高倍率ズームで望遠側いっぱいに回すと、開放F値は
F3.5あたりからF6.3あたりまで変化する。 F6.3までに自動的に設定された状態
において、今度は、85/1.4あたりの大口径単焦点を装着するとどうなるのか?
それはボディ側が絞り値を覚えているのだから、自動的に、大口径レンズがF6.3
まで絞り込まれてしまうのである。
私は、以前高倍率ズームを使っている女性に、「こっちのレンズを使ってみたら」と
ちょっとの間、大口径を貸して撮ってもらったことがあった、
で、後で「どう? このレンズ、良くボケるだろう?」と聞いてみると
「いや、全然同じ写りだったよ、差がわからない・・」という返事。
よほど画質を見る目が無いのだろうか?、とがっかりしていると、良く考えてみれば
85/1.4をF6.3まで絞って同じようにズームの85mmあたりと比較しているのであった、
まさか絞り値なんて設定するどころかその意味もわからずPモードで撮っている
なんて考えてもみなかったのである・・(苦笑)
----
さて、話を戻して・・(汗)
MZ-3の特徴であるアナログ操作系であるが、こんなことに気が付かないだろうか?
「P、A,S、Mの、露出モードはどうやって切り替えるのだ?」
・・そう、このポイントが一番MZの操作系を理解する上で重要なのである。
実は、ペンタックスのFAレンズ(またはMFのAレンズ)には、絞り値の中に
Aという文字が見れる。

この位置に設定すると、絞りはオート(=カメラ側から自動で制御される)となるのである。
この仕組みはニコンのAiAFレンズ、あるいはミノルタMDレンズ等でも
最少絞り値に設定すると、オート絞りとなるので同様の仕組みであるが、
ペンタックスの場合は、最少絞りではなく、別途Aというマークが付いているのが特徴。
オート絞りのモードとは、まず絞り環(リング)を手動設定する必要がある場合は、
これを絞り環ではなく、ダイヤルで行うことができる。 近年のペンタックスJ
レンズやニコンの新しいレンズでは絞り環を最初から持たず、ダイヤルで設定する
ことを前提にしている「デジタル操作系」のものが多数ある。
で、絞りを文字通りオートにするのは、P(プログラム)露出と、SまたはTvの
シャッター優先露出モードの場合である、だから絞り優先(AまたはAv)の
モードで使うときは、ペンタックスやニコンにおいては、この絞り値をリングで
設定するかAにしてダイヤルで設定するかの選択で、これは好みの問題、あるいは
前述の「不揮発性」に係わる操作の差異があることを認識した上で選べば良い。
で、MZ-3では、シャッターダイヤルにも同様にAのモードがある。
これは、絞り優先(AE)機能を備え、かつシャッターダイヤルを持つ多くのカメラ
にも同様にのシャッターダイヤルにA位置がある。
ここにシャッターダイヤルをセットすると、いわゆる「オートシャッター」となり
この場合は、絞り値、あるいはISOをからめた露出値に応じて、電子シャッターが
自動的にシャッター速度を(無段階に近い形で)設定するのである。
ここにおいて、シャッターダイヤルの大きな欠点である「中間シャッターが得られない」
という問題は実質的に回避できる。 すなわち、あえてM(マニュアル)露出や
S(TV)(シャッター優先)露出にしなければ、A(絞り優先)で中間シャッター速度
が得られることになるのである。 もっとも、絞りリングに中間位置が無い限りは
やはりシャッター速度も1段ごとの不連続な値になってしまうので、結局絞りも
デジタル操作系でダイヤルで1/2段や1/3段の細かい値に設定できない限りは、
シャッター速度の自由度はさほど得られ無いのであるが・・
(注:MZ-3ではここでAモードで露出補正を用いれば1/2段単位の設定が可能となる
ただし、同時に露出補正がかかってしまうのは言うまでも無い)
で、MZ-3の操作系の話に戻ると、こういう結論になる
Pモード=絞り、シャッターともにA位置にする
Aモード=絞りを自由、シャッターはA位置にする
Sモード=絞りをA位置、シャッターは自由に設定する
Mモード=絞り、シャッターとも自由に設定にする
つまり、絞りとシャッターの各々の操作子を組み合わせることで、実質的に4つの
露出モードを自在に切り替えられるのである、しかも、各操作子は、手動にするか
オートにするか、という部分の概念が非常に分かりやすい。
言ってみれば、これは、絞りとシャッターが表裏一体で動作する、という銀塩カメラ
の基本原理を理解するのに極めて分かりやすい操作系であり、
そういう観点からすると、1990年代に良く中上級者が初級者にアドバイスした
「カメラのこと勉強するなら、MZ-3がいいよ!」と勧めたことは、非常に筋が通って
いる(いた)と思う。
ただし、何度も言うように、デジタル時代においては、ISO感度変更という
新しい要素が加わり、必ずしも絞りとシャッターを理解するだけでは写真の基礎を
学べるという事ではなくなってしまった。 でもまあ、いい、それは現代の
MZ-3ともいえるかもしれないK10Dが今後の露出概念の発展を暗示するような
操作系を搭載しているので、そのへんから少しづつ、新たな写真(カメラ)の概念を
ユーザーに啓蒙していくということになるのだと思うから・・
----
さて、まとめであるが、以前の「名機対決シリーズ」と違って、最近の名機対決では、
2つのカメラの長所や短所を突き詰める、いわゆる「ガチンコ対決」の要素は
殆どなくなってしまった。
・・・と言うのも、いまどき銀塩の名機なんて、デジタル一眼の普及機を買うよりも
むしろ安い値段で入手できるのである。 名機のどちらか1方を買うなんてケチ臭い
事を言わずに2台買ってもオツリが来る、という状況である。
それにボディの性能よりもむしろレンズの性能だ、いくらボディが名機でも
レンズがダメならしかたあるまい・・ それにボディは銀塩やらデジタルやら色々
買い換えても、レンズはずっと使うわけだから、そこに手を抜いてはいけない。
ボディを考えるより先にレンズシステムを十分に吟味しなければならない。
レンズ1本で済むなんてことはありえないのである・・ ましてやカメラを買った
ときについてきたオマケズーム1本で済ませるというのもありえない・・
こういう事を言うと「今時のKITズームでも良く写るぞ、何故オマケズームは
ダメと言い切れるんだ?」と反論する人が出てくるのだが、それについても答えはある。
すなわち、「作画表現の限定されるオマケズームで満足してしまう事により、
カメラ知識や撮影技法で重要なポイントである、絞りの効果、焦点距離の効果、
パースペクティブの変化、撮影距離の変化による描写の違い、ボケ味(ボケ質)
等々・・ レンズの撮影技法上の(収差とかいう神経質な話しではなく)重要な要素を
学ぶ、または見分ける力、あるいは興味が無くなってきてしまうから問題なのだ。」
と言い切ることができる。
初級者のほとんどは、意味もなくズームレンズをグリグリと回して同じ位置から
画角がちょっとづつ違う写真を撮りつづけ、それでいて構図がどうのこうのとか
言っているだけである。 写真はそんな単純なものではないであろう?
撮影のアングル、被写体の距離、背景との距離、ズーミングやレンズ焦点距離に
よる背景の入る範囲、あるいは遠近感(パースペクティブ)あらゆる要素を考えて
撮るのが写真である。 ズームによる、たった1つの「画角」という要素だけの変化
しか知らなければ、「写真は綺麗な場所を綺麗な構図で撮ること」、あるいは
「珍しいシャッターチャンスを捉えること」のように誤解したままで、ずっと写真を
撮り続けててしまう。 それは無知を責めているわけではなく、それしから知らない、
理解できないことで、写真の楽しみの大半に気が付かないで終ってしまうことを
残念に思うから言っているのである。
繰り返すが「オマケズームで満足してはならない」そして、「カメラの良し悪しで
写真は決まるものでない」そのあたりは十分良く理解してもらいたいと思う。