霜月「あ~、こないだのライブ記事では匠のオッサンに『霜月は人生経験が無い』とか
精神論みたいな感じに諭されてしまった・・(汗)
まあ、それはわからないではないのだが、今はそこまでの話は無理だよ、
ともかくオレ流で撮ってみたい、ちょっとオレにも撮らせてもらえないか?」
匠「・・・ああ、まあ、いいだろう。 ギタピスのライブがまたある。
じゃあ、EOS 20D に EF50/1.4 のセットだ、これで撮ってみなさい。」
霜月「よし・・ じゃあ、撮るぞ」、カシャカシャ・・ カシャ。

匠「・・・うん、いい表情だな。 良く撮れている。」
霜月「むっ・・ それって、たとえば綺麗な風景写真を見せられたときに
『綺麗ですね(だからどうした?)』って言うのと同じなのか?」
匠「・・・いや、そんなことはないよ。 人物写真としては悪くない。」
霜月「なんか含みがありそうだなあ・・(苦笑) まあ次いくぞ」カシャカシャ・・

匠「・・・うん、これも良く撮れているね、いい表情だよ。」
霜月「う~ん・・さっきと同じ評価かよ・・
はっきり何処が悪いのか言ってもらった方がオレとしては助かるんだけどな。」
匠「・・・そっか。 じゃあ言うよ。まず演奏中のカットを狙わなかったのは正解だろうな、
別に霜月が動体撮影が出来ないとは言ってないぞ、まあ、霜月にもそれくらいの技術は
あるだろう。 でも、霜月は楽器の事を知らないから、演奏中のどんなところが格好
いいのか、どこが難しい演奏なのか、そういうのはわからないだろう・・
そして、管楽器系は当然息を吹いて演奏するわけだ、美しい女性のプレーヤーでも
演奏中はやはり顔の表情がかなり変わってしまう。まあ、これはボーカルでもそうだがな。
でも、たとえば、熱演とか熱唱とかいう作画意図を持たせるならば、苦しそうな表情で
演奏している写真でも全然かまわない、けど、普通に演奏をしているようなイメージの
写真なのに顔だけ苦しそうな表情だったら、あまり良くないだろう?
霜月の今のレベルと音楽知識では、その撮り分け、あるいは見分けはつかないと思う、
だから演奏していないシーンを撮ったのは正解だ。」
霜月「ううむ・・ まあ、実はオレも演奏シーンの写真は難しいと思ったんだ、
だから、演奏していない時に撮った。照明も明るいし技術的にも容易だと思った。」
匠「・・・ああ、まあ、そうだろう。
じゃあ、ここからが問題だ。 だったらその写真は、ライブの撮影、というよりも
プレーヤーのポートレートだろう? ポートレートだったらポートレートらしく撮らん
かいな? 霜月は恐らく人物撮影の経験も少ないし苦手だと思うのだが、その問題が
写真にズバリ出ているぞ。」
霜月「むう、というと・・?(汗)」
匠「・・・ポートレートというのは良い表情を撮るだけじゃないんだよ。
そこには撮る人と被写体の人物とのコミュニケーションが感じられないと良い写真には
ならない。」
霜月「あ、前回の写真で演奏中のピースサインの写真とか、ああいう事か?」
匠「・・・いや、違う。そこまで極端に「コミュニケーションしています」などと無理に
作り出さなくても良い。 もっと簡単に言おう。まず、霜月のこの2枚はいずれも
視線がどこか別のところを向いている。別に必ずしもカメラ目線である必要は無いが、
どちらも美女のプレーヤー達は、霜月では無い、他の誰か、あるいは別の物事に反応
して良い表情をしているだけだ。
だから、霜月は無関係の第三者の立場で写真を撮っているにすぎない。
そして、その写真を見ても、やはり見る人も無関係の第三者としか写真からは感じ取る
ことができないんだ。 仮に表情は偶然、すなわち後づけの作画意図でもいいから
写真を見る人をもっと、その場の状況に引き込める、すなわち、あたかもモデルの人物と
対話や「感情の交換」をしているような表情や状況や構図の写真を選んでくれよ。」
霜月「むむ・・(汗) それはその通りだな。 確かにオレは、別にライブ演奏そのものに
興味があったわけじゃなかった、単に写真を撮りたかっただけだ、だからいつもとは
違う被写体という自分本意の観点でしか写真を撮ってなかったかもしれない・・」
匠「・・・そうだ、そこに気が付いただけでも良いとしよう。
50/1.4(銀塩換算80mm/F1.4)を渡したのも失敗だったな、これを渡せば、霜月の
ことだから焦点距離の特性からポートレート用レンズという固定観念にとらわれて
しまうのだろう・・・
じゃあ、もう少し撮ってみなさい。EOS 20DとEF50/1.4を返してもらって、こんどは
PENTAX *istDs とSIGMA 20/1.8を渡す。」
霜月「このセットは連写はあまり得意じゃないやつだな、レンズは明るい広角か・・
どう撮るか? やはり近接だろうな・・ よし、できるだけ寄って・・」カシャ。

匠「・・・うん、今度はまずまずだな。」
霜月「(ほっ、よかった・・)」
匠「・・・まあ、ただ単に寄って写しただけだと思うけど・・(苦笑) まずは広角は
寄って撮るという基本に忠実なのは良い。 でも、まあ、どうやら霜月も思い込みが
激しいみたいで、中望遠を渡したらポートレート、広角なら近接と、オーソドックス
というか、ワンパターンな撮り方しか思いつかないのかも知れないから、そこは
十分に注意する必要があるぞ。」
霜月「ん? レンズの特徴を活かした撮り方は何か問題なのか?」
匠「・・・いや、特徴を理解して撮るのは当然だ、しかし、そればっかりだと、そのレンズ
を持たせたらいつも同じような撮り方ばかりしてしまうだろう? つまり知識優先や
技巧優先というわけだ。 そうではなくて霜月の場合は、もっとフレキシブルな考え方で
感覚面を優先して撮らなくてはならない。
構図もきっちりしすぎているぞ。 どれも上手には撮れているが、ライブの躍動感も
臨場感もノリも、そうした雰囲気が何も伝わってこない。」
霜月「ぐう・・(汗) 難しい要求だな・・」
匠「・・・まあ、いつも言っていることだが、ライブの雰囲気に溶け込んでいなければ
ガラス越しの写真しか撮れないぞ。あるいはTVの映像を写真に撮るようなものだ、
だから前回も「撮る前に、まず音楽でも聞いておけ」と言った。
そうでないと、「写真」と「音楽」(あるいは被写体、と考えても良い)が全然
別のモノとして分離してしまう。」
霜月「わかったよ・・ じゃ、今日はオレはもう撮らないからカメラは返す、
音楽でも聴いておくさ・・(苦笑)」
匠「・・・よし、じゃあ、撮影再開!」 カシャ。

霜月「ん? 何故モノクロなんだ?」
匠「・・・今回はモノトーン特集だ(笑) 別に深い意味はない、音楽というのは
写真と同様にイメージなのだから、イメージを重点に置くならば、モノトーンで
カラーによる現実感を消すこともできる。 もともとライブの世界なんて日常では
なく「非日常」だろう? だから楽しいんだし、だからミュージシャンに憧れる人も
多いんだ。 カラーで日常の延長として撮るだけが全てではあるまい・・」
霜月「なるほどね・・ だから、非現実的な雰囲気か・・」
匠「・・・じゃあどんどん行くぞ」 カシャ、カシャ。

霜月「お、飴ちゃんことK嬢だな。 今日も元気良く踊っている・・」
匠「・・・ステージ前の両袖でタニヤン氏とジャンプ合戦だよ、ファンのノリの良い
ライブは楽しいね!」
霜月「ジャンプでも止めて写せるのか? 前回のタニヤン氏のは大きくブレてたぞ」
匠「・・・いつも言っているように、止めるならば、感度を上げて絞りを開けて、さらに
照明も明るい瞬間を狙うなどでシャッター速度を1/500秒程度になるまで稼げば良い、
プレーヤーの動きだと止めるのは1/250秒程度でいいが、ジャンプは動きが速いからな。
あとはジャンプのピークを狙えば止まりやすくなる。
タニヤン氏の写真の撮り方は逆だ、絞り込んでシャッター速度は遅めの1/50秒以下
くらいにしておいて、ジャンプの途中で撮れば被写体は大きくブレる。」
霜月「そういうシャッター速度は経験値から決めるのか?」
匠「・・・いや、計算だよ。
例えばジャンプの動きはどれくらいの速さか? そんなの計ったことないから
わからないというなかれ。 歩く速度(時速4Km)より速いのは明白だし、時速300Kmの
新幹線より遅いのも確かだろう?
じゃあ、走る速さ(時速36km)と同じくらいと考えてみようか・・
時速36kmというのは計算しやすい値だ、これは秒速10mだよ。
100mが10秒ならオリンピック並じゃないかって? まあそうだけど多少の誤差は
どうでもいいんだ、あくまで考え方の問題だからな。
そしたら、秒速10mで、シャッター速度が1/100秒だったら、その間に被写体は何cm
動くんだ? 計算しやすいだろう? ・・そう 10cm。 正解だ。
これを元に考えてみよう。 1/50秒だったら20cm動く、これはかなりブレて写る
だろうな・・ 逆に1/500秒だったら 2cmだ、これくらいのブレは撮影距離や鑑賞
サイズ次第では写真ではあまり問題にならない。まあ、大伸ばししてもカチっと写す
完璧さを求めるならば、1/1000秒で1cmの動きくらいのレベルか。
ジャンプではなく、プレーヤの動きだが、歩くよりは速く、走るのと同等かもしくは
半分くらいの速度としよう。 じゃあ時速18km 、秒速5mだ。
つまり、1/250秒では2cm動く、まあ、これが止まって写せるという意味だよ。」
霜月「むう・・(汗) いつもそんな計算をしながら撮らなければならないのか?」
匠「・・・まさか・・電卓持ちながら写真撮っているカメラマンなんか見たことないよ(笑)
でも、これはいつも言うように「原理」なんだよ。2~3回計算をしてみればやりかたは
覚えるし、だいたい被写体の速さに応じて、どれくらいのシャッター速度ならば被写体
ブレが防げるか、という判断が、どんな場合でもつくようになるだろう?
それをしないから「自転車を止めて写すのはいくつですか? 1/250秒? メモメモ、
じゃあ新幹線は? そしたらネコは? バイクレースは? サーフィンは? 運動会は?」
なんてイチイチ被写体ごとに丸暗記しようとしてしまう、まあ、そんなのは無理だから
「シャッター速度は難しくてさっぱり覚えられない、撮影経験が足りないのか?」
などと嘆くことになってしまうんだよ。」
霜月「よくわかった・・ でも、その原理の公式を覚えないといけない訳だろう?」
匠「・・・あはは、理系出身の霜月が何を言っているんだ。
「車が2時間で36km進みました、1時間では何kmですか?1分では何mですか?」
といったような、小学校で習う算数のレベルだろうが。
まさか今の日本の義務教育で、この程度の計算がわからない人は皆無だよ。」
霜月「単なる数字アレルギーということか?」
匠「・・・さっきも言ったけど、新幹線を撮るシャッター速度はいくつ? などと無味乾燥な
数字の羅列を覚えようとするからアレルギーになるんだ、そうじゃない、原理を考えて
加減乗除とせいぜいルートの計算ができれば、カメラ(写真)に係わる数値はすべて
計算で出すことができる。
よく初心者が混乱する絞りの数値、あれは、ルートの計算、(・・・といっても、
ルート2=1.41421356(ひとよひとよにひとみごろ)だけしか出てこないのだが)の
原理や意味がわからないから挫折してしまうんだ、でも、ルート自体を計算するわけ
でもないし、ルートの意味なんぞ、中学の義務教育で誰でも習っている筈だぞ。
それがわからないというのは言い訳にはなりにくい・・」
霜月「それでも数字がわからないという人は多いが・・」
匠「・・・加減乗除しかないんだ、わからないはずがない、単に自分で納得いくように
計算してみたことが無いだけの話だ。やらないで、考えないで、わからない、わからない
と言っているだけだよ。
さあ、話が脱線しているので撮影に戻るぞ。」 カシャ。

霜月「変なギターの弾き方だな・・」
匠「・・・ギターじゃなくてベースだよ。 弦が太くて4本しか無いのがベース。
まあ最近では、5~6弦のベースもあるがな。 太いのは低音を出すためだ、
ギターに対して1オクターブ低い音が出る。
弾き方もギターとは全然違うぞ、 基本的にギターは和音だ、ベースは単音で弾く、
でもそれはあくまで基本だ、現代のベース奏法は、和音弾きをはじめ、チョッパー
(スラップ)などの特殊奏法はいくらでも開発されている、
この弾き方はライトハンド(右手)奏法ということで、左手でフレットを押さえて
右手で弦を弾く代わりに、右手で直接フレットを叩いて音を出す、元はエレキギター
での弾き方だ、アコースティック(生)のギターやベースではライトハンド奏法は
音が出にくいが、アンプを通すエレクトリックでは右手でフレットを叩くだけでも
音が出る。そして左手と右手の連携が通常の弾き方より自由になるから、
とてつもなく速いフレーズを弾いたりすることもできるんだ。」
霜月「オレにベースの弾き方を解説してどうなるんだ・・(汗)」
匠「・・・霜月は、ギターで「F」が押さえられずに挫折しているからな(苦笑)
だからあまりそれ以上の高度な楽器の奏法を理解していない、
だったら、それは写真を撮るときに、プレーヤーの演奏方法やキメのテクニックを
理解できないという不利な点になるんだ。」
霜月「むう・・」
匠「・・・まあ不利とは言いすぎなら、「有利では無い」ということにしておこう。
それに、何も難しい弾き方をしている所ばかりがシャッターチャンスというわけでもない、
ただ、知らなければ、スゲーな~、とかいう感覚を写真に込めにくいいうことだけだ。
じゃあ、今回はこれで最後の1枚だ。」 カッシャ~。

霜月「ネガ反転加工か?」
匠「・・・いや、2彩色化だよ。 でもまあ、ネガでもモノクロでもソラリゼーションでも
加工技法は別になんでもいい。 さっき言った、非現実感、というのを強調している。
ちなみに低速シャッターで元写真のプレーヤーの腕や頭は大きくブレているんだ、
とは言え、ブレボケを隠すために加工しているんじゃない、ブレボケがイヤなら
そう撮るのは難しくない、実はブレボケは動感演出の他に、被写体の質感を変える
という効果があるんだ、水の流れを撮ってみればそれはわかるだろう?
なので変化した被写体の質感を元に作画表現を強調する加工を施す。」
霜月「元写真はどうなっているんだ?」
匠「・・・以前良く言ってたことだが、加工前、加工後、なんて比較するのは、
詳細な加工技術の説明などの意図が無いかぎり不要だと思っている。
良く言ってた例としては、カレーが美味しかったから、素材のタマネギを見せてくれ
とか言うのと同じ事だと思う、そりゃあ違うだろう? カレーが完成品なのであって
タマネギは確かにカレーの素材だが、出来上がったカレーとは意味が違うものだ。」
霜月「なるほどな・・ 以前も聞いたが、シャッター速度とかの撮影データーを
記載しない、というのも同じことか?」
匠「・・・同じだよ。絞りやシャッター速度に関する詳細な説明の為だったら載せるべき
だと思う。 あとは勉強や練習目的で、そこに関する意見を求めるときとかもな。
でも、これも以前も言ったが、1/60秒で動感を出しましょう、と言うと、初級者は、
新幹線でもペットの亀でも、みな1/60秒で撮ろうとしてしまうという問題がある、
だから今回も書いたが数字を覚えるのではなくて、原理を覚えるようにしなければ
ならない。 静止平面被写体で絞りやシャッター速度が意味をなさないのに、
そんな数字を書いても意味が無いだろう?」
霜月「ふむ・・ まあ、それも考え方の1つだな・・」
匠「・・・それと、ケースバイケースだ、さらにはターゲットユーザーだ、
レタッチ加工技術や絞りやシャッターの設定について説明する場合、かつ、それらの
情報を必要とする人を対象とする内容の説明であること、そんな場合だよな。
そうでないときでも、いつでも同じように、撮影データを丸々記載したり、
加工前&加工後とか、絞りを変えて撮ってみました、F4,F8、F16・・のような
写真を何枚も載せていても意味ないし、ターゲットによっては面白く無い。
だから、そういう事も配慮しつつ、臨機応変に考えかたを変えていけば良いんだ。」
霜月「わかった・・で今日は盛りだくさんだ、ちょっとオレの頭では全部覚えきれない(汗)」
匠「・・・まあ焦って覚える必要は無いよ。
ただ、今は霜月はEMAに負けまいとしているからか、技巧、技巧ってそんな方向に
ばかり走ってしまいそうだから、そうではなくて、写真には色々考えるべき要素が
あるよ、ということを、霜月の言うところの技法の観点から説明してみただけだ。
前回はメンタル面、今回は技法面、霜月にはバランス感覚が必要だからな・・」
霜月「むう・・ それって、次はもっとイジメられるという予告なのか・・(汗)」