シリーズのFDレンズマニアックスの第3回目。
キヤノンのMFレンズ、FDレンズ(FL,FD,New FDを総称して呼んでいる)を
FD-EOSアダプターを用いて、EOSのデジタルで使ってみようという試み。
近代の一眼レフカメラの歴史を振り返ってみると、そこに大きな転機、というか
技術的なブレークスルーが3回あったと思う。
1回目は、1970年代のAE化である。 つまり、それまでマニュアル露出モードだけで
あったカメラに、絞り優先、シャッター優先、プログラム露出などのAE(自動露出)
機能がついた。 この結果、それまでのようにカメラマンが露出に関する知識を
持たずとも、(とりあえず作画表現はさておいて)、誰でもシャッターを押すだけで
写真が撮れるようになった。
しかし、このころのカメラはピントはマニュアルフォーカスだったので、初級者の
カメラマンにおいては、ピンボケなどを連発する場合があった。
AF(オートフォーカス)の技術は、すでに1970年代からコンパクトカメラを中心に
発展してきたので、これを一眼レフに搭載する試みがなされた。
それが2回目のブレークスルーで、1980年代の後半に各社一斉に行われた・・・
しかし、AE化よりもAF化においては、レンズとカメラの間で情報のやりとりや
レンズの駆動などを行わなければならなかったため、従来使っていた各社のマウント
では、なかなか厳しい面も出てきた。
このため、たとえば、キヤノンとミノルタは、AF化にために、それまで普及していた
FDマウント、MDマウントという自社のマウントを見限り、それぞれEF,αマウントに以降
した。 当然のことながら、それまでのキヤノン、ミノルタユーザーからはブーイングが
起きるのであるが、それはそれでデメリットとしても、それよりもAF化で様々な新機能が
搭載された方が将来的にはユーザーの為になるという結論を出したのだと思う。
そして、ニコンとペンタックスは、それまでのAiマウト、Kマウントをそのままの形で
AF化した、AiAFと KAFマウントを作り上げる。 こちらの2社は従来のレンズとの
互換性を最大限に優先した思想である。 旧来のユーザーにとっては歓迎なのであるが、
その代わり、たとえば絞りリングをレンズ側につけて、ボディから絞り値を操作する
ことがなかなかできなかったり(これは開放F値が変化するズームでは不利な操作系となる)
と、不便を強いる場合もあった。 新規ユーザーにおいては旧レンズの互換性など
どうでも良い話なのではあるのだが、ニコンやペンタックスは頑なにそれを守り、
たとえばニコンなら、最新のデジタル一眼D2系やD200においても、旧Aiレンズを用いる
ことができ、ペンタックスなら最新の K100Dでは、Kマウントの前の約40年前のM42
レンズですらも、露出制御はもとより手ブレ補正の機能を付加して用いることができる。
その他のメーカー、たとえばリコー、マミヤ、フジ、コニカ、オリンパス、コンタックス
コシナなどは、一眼レフのAF化を見送ったか、あるいはAF化はしたものの商業的には
失敗してしまった。 コシナは現在でもマニアックなユーザーを対象にMF一眼レフを
作り続けており、また、オリンパスは現在はフォーサーズ新マウントでデジタルの世界で
新風を巻き起こしているが、他はすべて現在では撤退ということになってしまった。
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そして3回目のブレークスルーは、2000年以降の一眼レフのデジタル化である、
これについてはあえて説明する必要もなく、読者の皆さんも十分ご存知であろう。
ここでもまた、APS-Cやフルサイズなどのフォーマットの問題や、それに伴う従来レンズ
の画角の変化や、あるいはデジタル専用レンズなど新しい課題があるが、それも今回は
説明は省略しよう。
新しいキヤノン(EOS)ユーザーはご存知無いと思うが、キヤノンがAF化でFDレンズを
切り捨てた事はマニアやプロの間では、結構、根深い問題として悪評を残した・・
ミノルタは同じようにAF化でMDレンズを切捨てても、新システムのαの完成度が
高かったため、初級~中級者が多かったミノルタユーザーはむしろ大歓迎であったのだが、
キヤノンは、超優秀な F-1,New F-1,T90といったFDマウントのカメラを90年代後半に
いたるまで(いや今でも)現役でバリバリ使うマニアやプロが多かったのと、
FDレンズも、レンズの種類毎の品質や性能のばらつきが少なく、安心して使える名レンズ
が多かったので、そのシステムを突然打ち切るといわれても困ってしまったのである・・
仕事で写真を撮るプロであれば、まあニコンやら、その後性能が向上してきたEOSの
システムに乗り換えることは別に問題はなかった。 けど、写真を趣味で撮るマニアや
ハイアマチュアの間では、EOSシステムに対する強い不信感が芽生えていたとしても
過言では無いだろう・・
もっとも、それも1990年代までの話、今はEOSシステムは「帝国」といわれるほど
強大なシェアと優秀なシステムを持つことで、それを嫌うなどと言うことは、さすがの
拘りのマニアでも言ってられなくなってきている。
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しかし・・・ あの、FDレンズが使いたい・・ 超名機 CANON New F-1で銀塩で
使えば良い話であるのだが、これをデジタルで使いたい・・ なんとかEOSにつかない
ものであろうか?
しかし、FD-EOSアダプターというものは、非常に少ない種類しか存在せず、両者の
マウント構造上の問題から、補正レンズが入って画質が悪くなりそうであったり、
使い勝手に色々問題がありそうだ・・ 面倒だし、そこまでやるんだったら、やっぱり
銀塩で使おうか? いや・・ けど、やはりEOSのデジタルで使おう・・
そんな葛藤から、FD-EOSアダプターに関する情報をネットなどで調べるマニアたち・・
けど、そこに見つかる情報はケチョンケチョンなものばかり。 つまり「使えない!」と・・
アダプターを作っているメーカーも、あまりの悪評からか? HPからそのアダプターの
商品紹介ページに飛ぶリンクを外してしまった(汗) でもページは存在しているから
検索をすればひっかかる・・
だけど・・ それは本当に使えないものなのだろうか? マニアといっても様々な価値観が
存在している。 私はこう考える・・ とりあえず装着できて写真が撮れるならば、
あとはその長所、短所をよく理解した上で使いこなせば良いだけの話だ、そうではないか?
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さて、今回のレンズは New FD100/2.0 である。
前回の New FD50/1.2Lでは、撮影条件によっては、ハロ(光の滲み)が発生した、
しかしそれはそれで良いのである。 わかっていて使えば何も問題は無い。
ハロを活かした作画表現がしたかったら、そのレンズを持っていけば良い話だ。
ハロを出したくない被写体だったら、バッグの中に別途持っているEOS用の最新レンズを
装着して撮れば良いだけの話だ。 なんら問題ではない。
で、今回はどんな結果になるのだろうか? 作例を7点。
↑①かなり絞り込んだ状態
もちろんMFレンズをアダプターで使った場合、絞り値はEXIFには表れない、
だから覚えている必要があるが、沢山撮った写真のそれぞれの絞り値の正確な値まで
覚えていない。 メモをすれば良いのだろうが、両手をフリーにしなければならないので
続けてバシバシ撮る撮影スタイルには合わない。
作画表現上絞りをコントロールするのは当然だが、とは言え「ここは絞りF11で撮ろう」
とか厳密に考えて撮っているわけでもなく、カチカチカチと絞っていって、暗くなる
ファインダー(注:実絞込み測光で使っているから)を見ながら、この辺、ということで
撮っているにすぎない。
そして、100mmレンズは、銀塩換算160mmの望遠レンズの画角に相当する。
もしかすると補正レンズの影響でさらに画角が狭く(より望遠に)なっているかも
しれない。
けど、単焦点で使う以上、望遠だから使いやすいとか、望遠だから使いにくいとか、
そういう事は無い。 望遠なら望遠の画角に見合った被写体を探すだけである。
↑②開放近くからやや絞り込んだ状態
F2.0は補正レンズの影響で、F4.0のレンズとなってしまうが、まあだからと言って
日中に撮影するならば、大きな影響は無い、ISOを最低の100まで下げてもまだまだ速い
シャッター速度が得られている。 暗くなってきたら、ISOを200,400と順次上げていけば
手ブレの恐れは無い。 (それよりこういう花では、風の影響による被写体ブレの方が
はるかに大きい)
F4.0のレンズになると言っても、ボケ量はF2.0からほとんど変化しない、また望遠に
なると言ってもボケが増えるというわけでもない、それは単に画角の問題だけである。
このレンズ、なかなか小型コンパクトであるが、いちおう100/2.0の大口径レンズである。
ボケ量はかなり大きく、この作例のように背景をオオボケさせる事も容易である。
ちなみに、作例は写真的に言えばこういう撮り方をしてはならない。
右下側の黄色い花の深度が中途半端になるため、右側に後2~3歩移動して
2つの黄色い花を等距離にしてどちらも深度内に収めるか、あるいはこのまま、
より近接して右の花をもっとボカしてあげる必要がある。
でも、ここではどちらもやっていない、中間ボケの状況を見たかったからである。
↑③絞り込んで露出マイナス補正
ビルの壁面の太陽の反射を撮ったのだが、特にどうという問題も無い、普通に良く写る。
ちなみに、100mm/F2.0クラスのレンズは各社とも大変優秀なものが多く、
ツアイスプラナー 100/2 、オリンパスOMズイコー100/2 、幻のα用 AF100/2
そして、キヤノンのFD,EFそれぞれの 100/2 、あるいはニコン DC105/2 など、
どれもスーパーレンズであり、100/2 と書いてあったら、とりあえず買ってしまっても
その描写力に関しては後悔する事は無いであろう。(財布の中身は後悔しても・・苦笑)
↑④開放近くの中間絞り
FDレンズの特徴は、どのレンズもカラーバランスがきっちり揃っていることである。
現代でこそ、当たり前と言う事もできるが、たとえば1970年代当時のニコン等のレンズは
その種類によって、若干黄色味をおびていたり、青が強かったりと、バラバラであった。
フィルムメーカーのレンズ(例、フジカやコニカ)であれば、まあ、レンズ毎のカラー
バランスに神経を払うのは当然であったろうが、不思議な事に、あるいは技術または
コストの関係からか、レンズラインナップできっちりカラーバランスを揃えたのは、
(旧)FDレンズが最初だったのではないか?と言われている。
だから、私も、銀塩時代は、何故か(笑) 赤と緑が入っている被写体を見つけては
FDレンズで撮っていたクセがあった・・ 時にその描写は素晴らしく、ネガでもポジでも
綺麗で安定した赤や緑が出ていたのが印象的であった。
けど、まあ、デジタルの時代において、カラーバランスは問題で無くなった。
どんなデジタル一眼でもホワイトバランスの補正の機能はついているし、キヤノンの
中級機以上では、2次元のカラーバランスまでカメラ側で調整できる。
もちろん、撮影後のアフターレタッチでそれを補正することも自由である。
今回の作例はレンズ編ではいつものように、きわめてアフターレタッチは控えめにしている
必要に応じてごくわずかのトリミングと、明るさとコントラストの微調整程度であり、
色までは触っていない。
↑⑤絞り開放
「お! トップレスか」と喜ぶのだが、勿論ミニチュアである(笑)
ミニチュア撮影での被写界深度の浅さは非現実感があってなかなか面白い。
このため、現代では逆に通常撮影をした都会の風景などに、ミニチュアのような被写界深度
をレタッチで与えて、非現実感を作り出すような技法が流行している。
またシフトレンズや、レンズベビーなどの簡易シフトレンズを用いて、同様の被写界深度の
トリックを作り出す例もあり、なかなか面白い流行だと思う。
↑⑥開放近くの中間絞り
模型ではなく、実物大の蒸気機関車。望遠レンズの適度な圧縮効果と被写界深度の浅さが
なんとも心地よい。
まあ、望遠レンズは本来、圧縮効果と深度の浅さをメインの作画表現として使うべきであり
遠くのモノを大きく写すことはむしろ二の次だと思って良いであろう。
前景、背景の効果を考えずとも大きく写したいのであれば、デジタルにおいては単純に
トリミングした方が簡単である。 望遠になって浅い深度や手ブレしやすい条件で
わざわざ大きく写す必要はなく、トリミングで被写体を切り出した方が便利である。
圧縮効果を狙うなら、被写体を平面ではなく、立体的な視点で捉えなければならない、
背景、前景のからみはもちろん、列車の撮影などにおいては、わずかにナナメから
撮影することで、圧縮した連結する車両を迫力を持って撮ることができる。
つまり、真横、真正面からの撮影は望遠では面白くないということである。
ちなみに、望遠に限らず、広角でも逆にパースペクティブ(遠近感)の誇張効果が広角の
主目的であるから、単に正面や真横から広く写すのではなくて、3次元的に被写体と
背景をからめたり、被写体を立体的なパースで捉える工夫が必須である。
↑⑦絞り開放
それでもまあ・・ 望遠レンズによる絞り開放での背景ボケ効果は、初級者の憧れでは
あると思う。 初級者の持つ暗い標準ズームで、しかも撮像素子面積が小さいデジタル
一眼においては、大きな背景ボケを得ることが難しい。
しかし、だから、逆に初級者や中級者に、大口径標準、大口径中望遠、マクロレンズなどの
大きな背景ボケを作り出すレンズを与えたら、どんな被写体でも絞り開放で撮ってしまって
どれもこれも同じような写真になってしまう、という問題もよく見かける。
まあ、いずれそれも気が付いて、適宜作画意図に応じて絞りを調整するようになって
くるのであるが、ともかく「開放病」は、下手すると数年くらい治らない場合もあるので
要注意である。
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さて、FD-EOSアダプターを用いて、New FD100/2の使用であるが、
今回の結論は「特に問題無い」である。
古い世代の画像処理エンジンを積んだ老兵 EOS D30による撮影であるが、特に気になる
点はなかった。 もうすこしレタッチを凝ってやれば他のレンズに見劣りする事も無いし
カメラをもっと新しいEOSデジタルに変えて撮ってもいいであろう。
引き続き、このシリーズでは、FDの名レンズを紹介していくことにする。