ちなみに、「コモドドラゴン」では無い・・ 「コドモドラゴン」である(笑)
正式名称「第一回琵琶湖ドラゴンキッズ選手権大会」という、子供たちを中心とした
ドラゴンボート大会である。
ある暑い日の夕方・・
プルルル・・ マナーモードの携帯が揺れて鳴っている・・ 「・・・ん?誰からだ?」
番号を見ると、
滋賀県ドラゴンボート協会のS氏からであった。
S氏はFM滋賀の社長さんでもあり、ドラゴンボート普及に非常に熱心な方である。
匠「・・もしもし」
S氏「あ、匠さん、実は8/6に、ドラゴンキッズという子供たちの試合があるんですよ」
匠「・・へえ、面白そうですね。 どれくらいのチームがあつまるのですか?」
S氏「実はまだ今年が初回なので15チームです、でも、島根の境港からも参加される
チームがあるなどで、盛り上がりそうですよ。 またいつものようにカメラマンの
方をお願いしますよ」
匠「・・了解しました、朝イチで琵琶湖に向かいます、今回はちょっと他の人たちは無理みたい
ですので、私一人で行きますね・・ ではでは、よろしくお願いします」 ガチャ。
・・・子供たちのレースか・・ 楽しいんだけど難しいんだよね・・
実は、昨年の関西空港ドラゴンボート大会でも子供たちの体験レースを撮影したことがある。
この時は、レース中の子供たちの表情を、揺れる救命艇の上から銀塩換算600mm望遠で
全員の写真を確実に収め、すぐさま協会PCにデータを写し、その場でCDに焼いて
子供たちに写真を持って帰ってもらうという厳しい撮影条件であった。
まずは揺れるボートで600mmというと、どんなものなのか・・
実際の体験からすると揺れの幅は、ファインダーの視野2つ分くらいの高さがある、
つまり、AFは効かない・・ 当たり前である、ファインダーの中の一部しかピントの測距点
が無いのに、揺れ幅はその4倍くらいになっている。 また、手ブレ補正なんかも効かない、
それ以前に自分の乗るボートと相手のボートが大きく揺れている。
そして、子供たちの写真は全員を確実に収めなければならない。
もし撮れてないと「ボクだけが写ってないよ~」とか泣かれるかもしれない・・(汗)
およそ今までで一番過酷な撮影だったと思う。 しかし、それは今年の関空大会(8/27)の
前日(8/26)に予定されている同様の子供ドラゴンレースでも、まったく同様な事を
やらなければならない、これもアシスタント無しの単独撮影、厳しい状況が予想される・・
さて、琵琶湖キッズドラゴンのレースがどんどん始まっている。
子供たちの表情は皆とても楽しそうである。 そうした表情をバシバシ撮っていくのも
大変楽しいのであるが、昨今のご時世であるので、あまり子供たちの顔などが特定できる
ような写真をブログに載せていくのもまずいであろう・・ だから、今回は差し支えない
範囲での写真掲載となる。
今回の試合は200mである。 200mというと、だいたい大人のレースであれば
1分を切るあたりが優勝ラインである。 さて、子供たちは何分かかるのか?
中には初めてドラゴンに乗る子供達もいるであろう・・ 安全のために大人が半分ほど
乗るとは言え、1分30秒から2分くらいであろうか? そんな風に予想していた。
レースの様々な情報を知るのは重要である。
今回の大会では地元滋賀のテレビ局、新聞、雑誌などのカメラマン達も取材の撮影に
来ていたが、いったいどれくらいの速度でボートが漕がれていくのか、あるいは、
撮影ポジションを変更して別の場所に行くのに、ボートの速度に間に合うかどうか、
はたまた、どこのチームが(恐らく)強いのだろうか? とか、そういうデータは
プロの彼等も持っていないであろう。 だから、私は協会カメラマンとしての経験と
ノウハウを活かし、知識や、協会から得られるデータ等を総動員して、美味しいシーンを
捉えるのに奔走していくのがプロの彼等との差別化のポイントである。
そして、子供たちの表情を捉えるには、子供たちとのコミュニケーションも欠かせない。
天神大会の時、フォトコンテストが行われるということで、私も関西圏の多くの知人の
カメラマンに声をかけ、恐らく70人程度のカメラマンが集まっていたと思われるのだが
知人の多くには、「選手達は写真撮られるのを好むから、撮るなら堂々と前から撮ってよ」
と言いつづけていた。 しかし、実際にそれができている人は半分もいなかったのでは
ないかと思われる。
アマチュアカメラマンの弱点として「人物を撮れない」という部分がある。
これについては、いずれ「悩み相談室」かなんかで別途記事にまとめたいと思っているので
あるが、およそ最も人物を撮りやすい環境と思われるドラゴン大会で、こわごわと後ろ姿を
撮っているようではちょっと困る・・
まあ、かく言う私も、ドラゴンを最初に撮り始めたころは2000人もいる選手達の数と
雰囲気に圧倒されて、知っているチームの人達の写真くらいしか撮れなかった・・(汗)
でも、毎回のように沢山の人を撮っているうちに、声をかけて撮らせてもらう事に急速に
慣れていった・・
その経験は、むしろ今では「人物を撮るの大好き」(<特に女性・笑)といった風に、
ドラゴンの撮影以外の場でも活かされているのではなかろうかと思っている。
・・・しかし、今回は前述の通り正面からの子供たちの表情は残念ながら掲載できない、
以前はスナップ写真なんかでも、人物を撮ることは重要なテーマではあったのだが、
昨今の肖像権問題、そしてその背景にある、子供などの弱い立場を狙った卑劣な犯罪等の
増加という問題が、根深いものとしてあると思う。
「匠さん、匠さん・・」 真っ黒に日焼けした監督さんらしき男性から声をかけられる。
・・・お・・ はい、なんでしょう?
「私達、金竜隊です。 今日は西竜というチーム名で参加しています」
・・・おお、あの、金竜でしたか!
金竜隊は、島根県の境港を中心に活躍する強豪チームである、関西圏のドラゴン大会
へも遠方からはるばる参加してくれることも多い。
そして、金竜といえば、一昨年は漕ぎ手、昨年は鼓手(=ドラマー。 太鼓を叩いて
メンバーのピッチを揃える役目)として参加している、アイドル美女がいるチームである。
私は、思わず彼女の存在を探すため、テントの中や外にいるメンバーたちを、左右、
2.0と1.5の視力で高速サーチする(笑)
私の目線の動きに気が付いたか、監督が言う、
「今日は、金竜の方は、別の大会に遠征していますよ・・・」
・・・(汗) ああ、そうでしたか。 御苦労さまです。 (<ちょっと残念・・苦笑)
「西竜はちょっとやりますよ」
・・・そうでしょうね、ちょっと他のチームと雰囲気が違います、金竜隊の関係の子供たち
だったらドラゴン英才教育でしょうね・・ ぜひ、がんばってください。
「はい! 優勝狙います、よろしくお願いします」
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その宣言どおり、西竜は凄かった・・・
私の予想1分30秒をはるかに上回る1分12秒台の超絶タイムにより、難なく優勝をさらう。
ドン・ドン・ドン、、、ドドンッツドット・ドン、、、ドン・ドン・ドン、、、
・・・おお! これは、ドラゴンというより、主にペーロン競技(注、ドラゴンの元祖)に
伝わる勝利を鼓舞する太鼓のリズム・・このリズムを叩ける鼓手も少ないし、これに合わせて
漕げるチームも少ない、ましてや、なんだ? 小学生のチームなのに・・(汗)
そして、弱いチームがこのリズムを打っていたら、そもそも格好悪い。
強いチームが周囲をビビらす為の、勝利のリズムなのである。
ドラゴンボート競技。 私は、この競技に魅せられて、写真を撮り続けている。
その出会いはまさに偶然・・ 数年前にカメラを持って散歩していたときに、たまたま
声をかけて撮らせていただいたのが、あるドラゴンチームのメンバーの人達であった、
私は、それから何度も、ドラゴンの練習風景を撮りに行ったり、まだ銀塩で撮っていた
ころであるから、出来上がったプリントを持ってまた練習をしている場所に行ったりしていた。
今では協会の人達や沢山の選手の方達とも顔見知りになって、多くの大会の写真を
撮らせてもらったりしている。
そして、マイナー競技と思われるドラゴンであるが、その競技人口は確実に増えていき、
今やオリンピックの種目に採用されるかどうか、という段階にまで来ている。
さらに、昨年くらいからは、多くの写真ブロガーの人達もこの競技を撮りに来てくれて、
様々な記事の中で紹介してくれているし、ドラゴンにハマってしまったブロガーの方も
何人もいる・・
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支給されるスタッフのTシャツを着て大会を撮るとき、私は、とても嬉しく誇らしい気分で
写真を撮ることができる。 大好きなこの競技を今年の夏もまた撮れる、今日も撮れると・・
真夏の炎天下、1日に5リットルを超える水分補給をしながら、汗びっしょりで朝から晩まで
写真を撮り続ける・・ ブロガーや写真仲間は「匠さん、ようやるなあ・・」と感心するので
あるが、楽しい事だから、辛いなんて思ったことは無い。 選手達と一緒に走り回って
足がパンパンになるまで・・シャワーでの日焼け跡がピリピリとしても、楽しい事は楽しいので
あって、倒れるまで(<実際にはそんなことはないが・・笑)写真を撮り続けれる事がとても
嬉しいのである。
僅かでもお金を貰って撮影している以上、プロはプロなのであるが、本来はアマチュアイズム
が無いかぎり、こんな効率の悪い撮影はできないであろう・・
たとえば、強豪チームが優勝した瞬間の決定的シーンの写真が1枚あれば、メディアへの
広報という意味では十分である。 アマチュアだからこそ、朝から晩まで、その競技と一体に
なり一部始終を自らの満足の為に撮り続ける・・ そして、それがクライアントやスポンサー
への満足にもなれば、プロとしての用件も同時に満たすことができる。
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アマチュア写真は、実のところ、自分が満足すれば良い。 自分の価値観の中で上手い
下手を決めればよいのである。 けど、実際にそこにクライアントがついた瞬間、
その価値観はクライアントの価値観として物事を考えなければならない。
自分の好みだけで写真を撮るわけにはいかないのである。
アマチュアで「上手い」人は多いが、それは利害関係の無い人が単に「上手い」と言って
いるだけなのであり、本来はそんなのは自分や周囲の人が決める問題では無い。
あくまでその写真が、ターゲットとしている人の、たとえば商業写真なら、お金を払う
クライアントが、あるいは非営利であっても、写真を必要とする人が、もっと言えば
ブログであっても、その読者が満足するか否かによって、価値が決まるのであろうと思う。
「私は、こんな写真が好きです、あれは嫌いです・・」 まあ、最初はそれもいいだろう・・
でも、そんなことを言っているうちは、「写真」という事について、まだまだ何もわかって
いないに等しいと思う。 何故なら、そこには「見る視点」はあっても、「見られる視点」が
皆無だからである。
そして見られる視点が備わってないかぎり、写真を見せる上では、そのギャップを良く認識
する必要がある。 もちろん、いわゆる「下手」でも構わない。 見た人の意見をちゃんと
素直に聞いて、色々考えることで、必ず「見られる視点」が身に付く。
それが無いで「見るばかり」の評論家タイプになってはいけない。 それは自分の表現を
持たずに単に一方通行で、リスクが無い安全なところから吠えている行為にすぎない。
写真表現というのは、双方向であると思った方がわかりやすい。
自分がこれが好きだから、あれは嫌いだから・・ そんな調子の甘い考えでは、写真を
続けることはできないであろう・・
さて、コドモドラゴンの話から大幅に脱線した。
でも、まあ、写真というのは、そんなに簡単なものでは無いということは再度書いておきたい、
カメラやレンズの知識だけでもダメだし、被写体を見る感覚や創造性だけでもダメだし、
カメラを高度に操る技巧だけでも限界があるし、何も持たずに写真への情熱だけあっても
全然ダメだ。 知識・機材・技術・経験・センス・創造性、それらがバランスしていく
必要がある。 作画意図や作画表現がわからないとか、カメラやレンズの知識が無いとか
嘆く前に、自分に何が欠けていて、どこを目標に設定するか、そんな事を考えてみるのが
良いであろう。 さらに言うなら、すでに完成している人なんか、誰もいやしない、
「オレはカメラの知識があるから凄いんだ、オマエは何も知らないからシロートだ」
・・・何を言うか? そんなところで止まっているから、いつまでたっても成長しない、
「オマエの写真は下手だ、オレだったらもっと上手く撮れる」
・・・あはは、そんな考えでは、貴方の写真は誰も評価してくれないよ。 だって写真は
見る人が評価を下すんだよ、だから、自分本位の考えである以上、永久に成長はしない・・
「ワタシの写真は自分では感性があると思ってるのに、誰も認めてくれいない・・」
・・・当たり前だよ、黙ってひっそりとブログに写真だけ載せていて表現が伝わると
思っているのか? もっと伝える為の努力をしろよ、そういう風にコミュニケーション力が
弱いから、せっかくの良い写真が伝わらないのだろう? 誰にどう見せるのか良く考えろよ。
いずれもバランス感覚の欠如だよ。 けど皆そうだ。 完璧に全てができる人なんか
誰もいやしない。 それなのに、たまたま秀でた、ごくごく狭い範囲の力を過信するなよ、
色々未完成な部分を埋めていきつつ、自分の長所や個性を伸ばしていくのだろう?
努力もしないで自己満足してどうなるんだ?
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今回の大会では・・
一生懸命にドラゴンボートのパドル(=櫂)を漕ぐ子供たちを見て、そこに「可能性」を
感じ、また、その中で、可能性を嫉妬として考えるのではなく、自らに振り返って
色々と考えることができた。
ドラゴンもまた、人生なのだろうなあ、と、ふと、そう思った・・