今日の記事は、最新鋭スーパーレンズ、ZFプラナー85/1.4である。

よくレンズの記事を書いたブログに、こんなコメントを見かける、
「私は、レンズの事はさっぱりわかりませんが・・ (良い写りですね・・うんぬん)」
・・・ちょっと待ってな。 カメラをやっていて、レンズの事がさっぱりわからないというのは、
ちょっとまずくないか? 少なくとも、写りの質とかはともかくとして、焦点距離とか、
開放F値、そして最短撮影距離・・ 自分の持っているレンズのそれくらいの基本データは
しっかり覚えておいて欲しい。
何故ならば、写真はカメラで写すものではなく、レンズで写すものなのだから・・
先日も、写真入門者の女性に機材購入の相談を受けた。
私は例によって、どんなジャンルの写真を志向しているとか、そういう面から、まず
レンズを決めようとしたのだが、彼女の話は、どこのメーカーのカメラが良いのか?とか
小さく軽いカメラは無いのか?とか、そんな質問ばかり・・
だから、私は言ってあげた・・・
『写真はレンズで決まります、カメラより前にレンズを決めるんですよ・・』
彼女は言った、
「そうなんでしょうね、でも、カメラは機種が少ないからまだ検討しやすいけど、
レンズは沢山種類があるので、何が何だかわからないのです・・」
・・・なるほど・・ ・・・まあ、しかたない。
レンズの型番を学校の勉強の暗記もののように覚えようとしているからわからなくなる。
ここはいつも言っているように、レンズの特徴や原理の面から・・たとえば広角、標準、望遠、
ズーム、大口径、マクロ、その他特殊レンズ(ミラー、ソフト、魚眼・・・ETC) などや
焦点距離や開放F値、最短撮影距離・・・(できればボケ味(ボケ質)や、収差の問題・・)
のように覚えない限りは、なかなかレンズの知識はつかない・・
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さて、今回のレンズは「カールツアイス」の「ZFプラナー85/1.4」である。

↑NIKON D2H ZF85/1.4 F1.4 ISO400 1/750秒
カールツアイスはドイツの世界最大の光学機器メーカーなんだから、それを知らない、
というのはカメラをやっている以上かなりまずい。 光学部門はニコンよりもキヤノンよりも
大きなメーカーであり、一流ブランドであるから、この機に覚えておくと良いであろう。
まあ、とは言え、現代のグローバルな世の中であるから、ツアイス製品と言えどもドイツで
生産しているものを輸入するケースはごく僅かであり、たいがいが「ライセンス生産」である。
「ライセンス生産」とは、本国のカールツアイスが認めた日本のメーカーに対し、日本国内
での生産と販売を任せるということである。(もちろん、ブランド料はいただく・・)
1975年~2005年までの30年間は、ツアイスブランドのカメラ用レンズは、京セラ
(CONTAX)が国内の製造販売をほぼ独占し、SONYが民生用ビデオやコンパクトデジカメ
などでごく僅かツアイスブランドのレンズのついた製品を販売していた。
ところが、昨年2005年に、京セラCONTAXは、実質的にカメラ事業から撤退してしまい、
ツアイスブランドのレンズを作ることができなくなってしまった。
じゃあ、誰(どこのメーカー)がツアイスとCONTAXの名を引き継ぐのか?
たぶんカメラメーカーの間で色々な駆け引きがあったに違いない。
マニアの予想では、ツアイス(つまりレンズ)を引き受けるのは、SONYか、コシナか、
ニコンのいずれか。 CONTAX(つまりカメラ)は、国内は無理で、韓国のサムソンでは
なかろうか、という予想が立てられていた・・
結局、ツアイスブランドを入手したのは、コシナであった。
コシナはご承知のように、現在の日本ではトップクラスの技術力を誇るメーカーであるが、
自社のブランド力を持たないOEM(他社に製品を供給する)メーカーであったのが、
1999年ごろ、世界最古の光学機器メーカーであるフォクトレンダーブランドを入手、
そして2005年にツアイスのブランドのライセンス生産権も入手し、現在は名実ともに
一流カメラメーカーとなった。

↑NIKON D2H ZF85/1.4 F1.7 ISO400 露出補正-0.3 1/750秒
コシナは、2005年から、お得意のレンジファインダー機(注:レンズ交換ができる小型
カメラ、一眼レフのようなミラーは無く、コンパクトのようなもの。代表的なものはライカや
ベッサ)において、ツアイスの高性能レンズの生産を開始した・・
そして今年2006年初頭、ニコンがMFカメラおよびMFレンズのほとんどの生産を中止する
という発表があった・・1959年のニコンFから実に47年・・ニコンMF一眼の長い長い伝統も
終ってしまうのか? と思っていた1週間後・・ 突如としてコシナから、ツアイスZFレンズ
が発表された。
まあ、でも、実際にはそれは、予想できた展開であった。
ニコンからは2005年後半に、MFレンズ生産中止の情報が市場にリークしていた。
そして、コシナのニコンマウントのツアイスの情報もすでにネット上にリークしていた、
知らないのは一部の人だけ・・・でも、それは殆どのニコンユーザーでもあった。
ニコンユーザーがMFレンズが無くなることで大混乱になる前に、ツアイスブランドの
ニコン用レンズが出ることを発表する・・ 世の中のニコンユーザーは大喝采である。
そもそも、ニコンユーザーの多くはブランド志向が強い。
こういう事を言うと若いニコンユーザーは「?」という気分になるのかとも思うが、
カメラ市場を支えている多くのユーザーは、カメラにそんなに詳しく無いことも理解して
もらいたいと思う。 つまり、入門者、初級者の多くは「ニコン」という名前が付いて
いれば有名だから安心して買える・・ と思うのである。
そして、ニコンユーザーの多くが高級ブランドとしての「ツアイス」をも当然知っている。
だから、今まで自分のニコンのカメラでは使えなかった「ツアイス」のレンズが使える
ようになることに反対をする人は皆無である・・・
あの憧れの「ツアイス」が、自分の愛機ニコンのカメラに付く・・ 万歳!である・・

↑NIKON D2H ZF85/1.4 F4.5 ISO200 1/350秒
裏事情はさておき、今回発売された Planar(プラナー) 85/1.4 ZFとはどんなレンズなの
であろうか?
これは1970年代の後半だったか・・・に発売された、超名レンズ、(京セラ)CONTAX
PLANAR T* 85/1.4 (Yashica/Contax マウント)と、ほぼ同一の構成のレンズである。
まあ、復刻版と言っても良いであろう。
このレンズはCONTAXカメラ用のレンズであったため、従来はニコンのカメラに装着する
ことは基本的には不可能であったが、今回、ZF、すなわち「ツアイス・ニコンF」レンズとして、
ニコン製銀塩、デジタル一眼レフに装着可能な仕様として生産が開始された。
ZFプラナー85/1.4をデジタルで使うには、D200またはD2系(D2X,D2Xs,D2H,D2Hs)
のデジタル一眼レフカメラでないと無理である。
これらのカメラには、「レンズ情報手動入力」という機能がある。

レンズ情報手動入力により、レンズの「焦点距離」と「開放F値」をカメラに教えてあげる、
この結果、本来は、レンズ内部にCPU(ROM)を持ち、レンズ自身の情報をカメラ本体に
教えてあげる代わりに、手動の入力により、露出の制御やフラッシュの制御などを行う
機能が使えるようになる。
この機能が無いカメラ、もしくはこの設定を行わないで、このレンズを使うと、露出計が
機能せず、写真の明るさがバラバラになったりするので、十分に注意する必要がある。
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このレンズの最大の特徴は、美しいボケ味にある。

↑NIKON D2H ZF85/1.4 F1.4 ISO200 1/8000秒
ちなみに、「ボケ味」というのは、背景(や前景)のボケの量(よくボケる)では無い、
これは、ボケの質(すなわち、綺麗で素直なボケ)の事である。
「ボケ味」には、定量的な判断基準が無い。 だから説明が極めて難しい。
よって、一般的には、初級者、中級者では、ボケ味のなんたるか、については、理解しずらい
あるいは意識する必要が無いとも言われている。
あくまで、上級者あるいはマニア、プロなどの玄人級において討議される問題であるとも
言われているのであるが、まあ、とは言え、初級者だからボケの画質を判断できる「眼」を
持てないというのも変な話であり、要は、作例の写真を見てもらえば、誰にでもボケの
美しさは理解できるのであろうと思う。

↑NIKON D2H ZF85/1.4 F2.8 ISO200 露出補正+0.3 1/1250秒
ただし、初級者がよく間違えるのは、「背景が沢山(ものすごく)ボケていれば良いレンズ」
という誤解である。
これは、初級者の持つズームレンズなどの機材では、原理的に背景を大きくボカすことが
不可能であることから来る誤解である。
50/1.4、85/1.4、100/2、200/2.8、300/2.8、あるいはマクロレンズなどの、
背景を大きくボカすことが可能なレンズを初級者は持っていない。
だから、大きなボケ量ですら未体験ゾーンなので、ボケの質(ボケ味)までは、経験的に
判断する基準を持たない、ということになる。
しかし、写真はただ単に背景を大きくボカせば良いというものではない、
まずは、作画意図に応じた絞り値や撮影距離の設定により背景のボケ量を適切に決定する
ことが必要であり。 そして、同じボケ量が得られたのなら、レンズの性能の差により、
ボケの質が優れている方が良い、という理屈である。
ボケの量は絞り値だけで決定できるわけでは無い。
まず焦点距離の差があり、同じ絞り値でも、焦点距離が長ければ背景は大きくボケる。
さらに、撮影距離および背景との距離差(距離比)があり、要はできるだけ被写体に近づけて
背景との距離の差も大きくすれば、背景は大きくボケる。

↑NIKON D2H ZF85/1.4 F5.6 ISO200 1/350秒
今回は珍しく撮影データを載せているが、普段私は「撮影データの掲載なんか意味が無い」
と言い続けている。 何故ならば、EXIFあるいは撮影データの掲載においては、撮影距離や
背景の距離のデータまでは載せられないから、たとえ同じレンズで同じ絞り値に設定した
ところで同じ量の背景ボケが得られる筈も無いのである。
おまけに銀塩とデジタルでは、画角も違うし、(今回はほとんど行っていないが)トリミングを
する場合もある。
さらには、ISO、露出補正、シャッター速度などは、その場の明るさで決まる数値であり、
今回は、今にも雨が降り出しそうな曇天であるが、作例と同じ光線状況が得られるのであろう
か? だから、同じ絞り値や同じシャッター速度に設定しても、同じような写真が撮れる
筈も無いのである。
したがって、撮影データの掲載は殆どの場合あまり大きな意味はない。
でも、世の中の多くの人は(私も含め・・)、撮影データが載ってることで、色々な意味で、
納得したり、安心したりするのだから不思議なものである・・(苦笑)

何度も言うが、「カールツアイスだから良いレンズ」ということは全然無い、
だって、そもそもカールツアイスのレンズはどこが作って(あるいは設計して)いるの?
本国のカールツアイス財団? 京セラ? SONY?あるいはそこの下請け会社? コシナ?
で、いくつも製品があって、どれもが最高の設計で最高の性能を持っているわけ?
・・そんなはず無いでしょう? 天下のカールツアイスだって、良いものもあれば
悪いものもある。 そんなのは当たり前・・
現実にこのレンズにおいても、全ての条件で完璧な写りをするわけではない、
絞りと撮影距離、背景の絵柄によっては、きわめてボケ味が見苦しい場合もある。
これは、だんだんレンズの特徴をつかんで、欠点を回避しながら使っていく必要がある。
・・・そして、だから、ブランド信奉なんて、直ちに捨てなさい、と何度も言っている。
ツアイスに限らず「△△社のカメラは良いのか?」とい質問・・ まったくの無意味・・
「◇◇社の製品はすぐ壊れる・・」アハハ、そんな製品ばかり作っていたら、この御時世だから
とっくにその会社はツブれているよ・・・
「○○社のカメラは戦場でも使われているから絶対に壊れない・・」
・・・何を言わんとしているのだろうか?
私は過去何百台ものカメラを使ってきているが、メーカーによって壊れる、壊れないの確率の
差を経験した事は無い。 あえて言うなら、その戦場でも使っているといわれた頑強なカメラ
を作っているメーカーの製品の、プロ用最高機種の3台が次々に壊れたことがあった。
でも、全部修理して使っている。 だから、あくまで、壊れる、壊れないは時の運である。
今の世の中、メーカーによる品質の差は無い・・・ あるならば製品の仕様の差である。
また、あえて言うなら、製品設計ポリシーの差はメーカー毎にある。
たとえば、日本のある有名メーカーは、安価な商品と高価な商品の品質の差を極端に
つけている。 だから、そうしたメーカーの安いカメラやレンズはあくまでも、それなりの
品質でしかない。 また、あるメーカーは、そうした差をつけずに、中間的な価格帯で
良心的な品質のカメラやレンズを作っている。
いずれも、どちらが良いとか悪いとか言う問題ではなく、あくまでメーカーの戦略の問題
なのである。

↑NIKON D2H ZF85/1.4 F13 ISO200 1/13秒
銀塩時代、すなわちY/C時代のプラナー85/1.4は「魔性のレンズ」として有名であった、
何が魔性かと言うと、良く写る時と、酷い時の写りの差が極端であって、36枚撮りの
フィルムの中のほとんどが失敗。 けど、1~2枚物凄く良い写真が撮れていて、
その差が極端であったからである。
その理由はいくつかある、ピントがなかなか合いづらい、というのも大きな理由であろう、
開放では極めてピントがつかみにくいレンズ特性を持ち、当時あまり優秀でなかった
CONTAX のカメラのファインダースクリーンの性能と合わせて、ピンボケを連発する、
それ以外にも、光線の具合やハイライト、シャドウの状態、背景の状態、様々な要素が
からんで、天使の写りと悪魔の写りを往復するレンズであった。

↑NIKON D2H ZF85/1.4 F2.0 ISO200 1/2500秒
今回、この新ZFプラナーを使ってみて思ったのは、やはりそのピント問題は
依然残っているなあ、という部分である。
確かにピンボケカットはいつもよりずっと多い。
けど、まあ、今はデジタルの環境である、失敗というものに対する恐れる気持ちが
格段に減っているし、事実その場での画像確認やら、フィルムコストを考えずに
大量に撮るショットなどで、失敗のリスクが極めて少なくなっている。
それから、気になるのは先ほども言ったように状況によって背景のボケ質のコントロールが
少々難しいことである・・・

↑NIKON D2H ZF85/1.4 F1.4 ISO400 1/45秒
「なんだ、結局、昔のプラナーと同じなのか?」
・・・いや、そうでも無いだろう。 デジタルの環境下での歩留まりは格段に良くなって
いるし、このレンズが優れたレンズであるという素性も変わることは無い。
それよりともかく、この新プラナーのレンズの質感は大したものである。
10万円程度のレンズではあるが、操作の感触、あるいは言ってみれば所有感は非情に
高いものがある。
ニコンユーザーにお勧めの一本であると、確信を持って言えることができるレンズである・・