
「匠さんって、カメラのコレクターなんでしょう?」
・・・ん? いや、違うよ。
「でも、沢山カメラやレンズ持っているって聞いたけど・・?」
・・・コレクターじゃないよ。 ・・・言うならマニアだけど・・
「ん? マニアとコレクターって違うんですか?」
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・・・そうだなあ、別に世の中にしっかりとした定義があるわけでは無いかと思うけど、
少なくとも私の中では、マニアとコレクターは違うものとして認識している。
コレクター、つまり収集家というのは、まあ、古くは切手だとか、古銭とか・・
最近だと、キャラクターグッズとか、ゲームカードの類、そういうのを集める趣味を言う。
別にそれはそれで否定はしない。 誰しもそういう部分は持っていると思うし、
コレクターまでいかなくても、たとえば、全10巻の本やマンガ、あるいはDVDなどで、
5巻だけ抜けていたら、誰でも、この5巻を揃えるために必死になって探す事であろう。
もしかしたら、その5巻を見つけたら、定価よりも高い値段(プレミアム)を付けてまで
欲しがると思う。
そして、カメラやレンズの世界でもそういうコレクターは現実に存在する。
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ただ、切手とかキャラクターグッズの場合は、実質的には集めたところで、
それを実用として使用することはできない。
苦労して手に入れた「見返り美人」や「月に雁」といったレアな切手を、
まさか暑中見舞いのハガキに貼って出す人はいないであろう・・
ところが、カメラの世界だと、コレクションしたアイテムには実用性がある。
勿論、写真を撮ることができるからである。
しかし、いくら実用性があると言っても、持っているカメラやレンズを全部持ち出して
撮影はできない、当然ながら持っていける限界がある。
たとえばオリンパスのコレクターで、銀塩の名機 OM-1,OM-2,OM-3(Ti),OM-4(Ti)を
全部揃えていたら・・ まあ、軽いオリンパスのカメラだから全部持っていけなく
もないのであるが、普通はレア度(希少性)が少ない、OM-2 あたりを常用して、
レアな OM-3Ti などは、ここぞという時にしか出動しない、もしくは、まったく
出動しなくなってしまうに違いない・・・
そして、さらにこの考えが進むと、OMの1~4までは、セットになっているから
防湿庫にしまったまま手をつけず、OMが使いたかったら、安価でいつでも入手できる
OM-10あたりを別に買って、普段はそれを実用に使うことになってしまうかもしれない。
ところが今度は、OMのフタケタが欲しくなる(汗) OM-10の後、OM-20,OM-30,
OM-40を買い揃えてしまう。
OMのヒトケタに比べたら、フタケタは値段が安いので、気軽に買えてしまうのである。
OM-30あたりが入手が難しいとなるとオークションなどで多少高くても買ってしまう。
OMのフタケタが全部揃うと、今度はフタケタも出動できなくなってしまう(汗)
「しゃあない、実用として、OM-4Ti と OM-10あたりを、もう1台づつ買って、
普段はそれを使おうか・・・」 などと言う具合である。
そのうち、OMにはさらにOM-2SP とか、AF機である OM-101や OM-707なども
ある事を知り、それらを必死になって探す。
やっと一通り全部そろえたと思ったら、今度は、OM-1 にも数々のバージョンが
あり、M-1,OM-1MD,OM-1N などを、全部揃えたくなってくる(汗)
そうやって、ついには、オリンパスが発売したOM型番の一眼レフを全部そろえない
と気が済まなくなってくるのである・・・
さらに病状が増すと、カメラやレンズに記された製造番号が、何番だとか、
そういう事にまで気がいってしまう・・ そうなったらもうキリが無い・・(汗)
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収集したこれらのカメラは結局もったいなくて実用できなくなってしまう、
だから保存用と、実用と、複数のカメラやレンズを買ってしまう。
・・・そう、ここがポイントである。
私の中で定義している「コレクター危険信号」は、
「同一と思われるカメラあるいはレンズを複数購入すること」である。
これを許可してしまうと、実用という面で、カメラやレンズを捉える感覚が
なくなってくるのである。
私が言うところの「マニア」は、いちおう、こうしたカメラやレンズを実際に
使用するタイプの人種を示している。(注:実用と収集が混在するパターンもある)
私は、あくまでカメラやレンズは写真を撮る為の道具である、という認識なので
使わないカメラやレンズは買わないことにしている。
保管するため、あるいは型番や製造番号を揃えるなどの目的では買わないのである。
さらに言うならば、壊れているなどで実用性が無いカメラやレンズも、よほど特殊な
ケース以外は、購入を見送る事にしている。
だから、同じカメラやレンズを2つ(以上)買う事は基本的にはしない、
するのは、なんらかの事情で手離して、また後日、なんらかの事情で同じものを
買う場合である。
ちなみに、マウントが違うレンズを2本持っている場合はよくある、
タムロンSP90/2.8Macro 等の優秀なスーパーレンズは、色々なマウントで買って
しまう場合がある。
ただ、それもできるだけやらないようには心がけている。
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・・・というわけで、「同じものを、2本(台)は、絶対買わないぞ・・
もし買っても、それはマウントの違いの実用性を求める場合でだけで、
箱に入れたまま保管しておくなどという事は絶対しないでおこう・・」
・・と、固く心に誓っていたのであるが、一度だけ、自ら課したそのルールを
破ったことがある。
それは、数年前に、コシナより、復刻トプコール 58/1.4が発売された時の話である。
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それより数年間に他界した父が、生前語っていた事を思い出した。
「オレは、若いころ、志村(東京都板橋区)にあるレンズ工場でバイトして
カメラのレンズ磨いていたことがあるよ」
・・・ふ~ん、そうだったの。
父も、そして、私も、東京都板橋区の生まれである。
私は大阪に移住していきているが、父は殆どの生涯を板橋で過ごした。
私は、そのレンズ工場の話は、その頃はカメラにまったく興味が無かったので軽く聞き
流していたのであったが、後からカメラをやりだして思い出してみると、
「志村といったら、シムラーだよね、そうしたら、東京光学、つまりトプコンで
バイトしていたのか!」 と、妙に感激してしまった。
そして、トプコンはとっくにカメラやレンズの生産をやめていた。優秀だという
話を聞いて当然購入しようと考えたのであるが、逆に他界した父の事を考えると
「そんなに簡単に買ってしまっていいものか?」という気持ちが働いて、また
幸か不幸か、トプコンの中古は少々高価であったし、実用というレベルでは
少し厳しいものもあったので、トプコンの購入をずっと見送っていた。
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その矢先に、新品のトプコールがコシナより復刻されて発売されるというニュース
が飛び込んできたのである。
ニコンAiマウントと、M42スクリューマウントの2種類である、まあ、今でも
コシナのフォクトレンダーSLレンズやツアイスZF(ZS)レンズはこの2種類のマウントで
生産されているので、順当なところ。
私は勿論両者のマウントのレンズが使えるカメラは、いくらでも所有している。
・・・う~ん、これは買いですな。 値段も5万円くらいと比較的安価だし、
実用的なトプコンを買うなら、本家でなくても、オヤジの供養にもいいだろう。
などと勝手な理屈をつけて(笑)、いざ、どっちのマウントを買おうか迷っていた。
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噂によると、昔のトプコールの特性を見事に再現していると言う。
現代のレンズのように開放から高性能というわけでは無い、開放は少し甘い描写で
絞り込むとキリキリとシャープさが増すという、オールドの大口径レンズのような
味があるのであろう、絞りで描写が変わるというのは、使いにくい事は使いにくい
のであるが、逆に使いこなす楽しみはある、もとより実用性よりも趣味のレンズ。
ニコンの純正50mmを考えてみると、どうも好みのレンズが無い・・・
オールドのニッコール 5cm/f2.0H あたりか、シリーズEの 50/1.8 くらいであった・・
そして、M42の50mmも、同じように、これ、という決定版が無かった。
・・・どっち買おうかあな、やはりニコンかな? いやM42かなあ?
今にして思えば、ZF(ZS)のプラナー50/1.4が発売される事がわかっていれば
逆にあまり悩まなかったのかもしれないが、当時ツアイスとコシナの提携なんか
想像だにしなかったし、だいいち、コンタックスやニコンが(銀塩)カメラを
やめてしまうなどと言う事自体、想像だにできなかった。
復刻トプコールの情報がさらに入ってきた、それぞれのマウントで800本の限定生産と言う。
・・・なに? たった800本?? そんなのマニアやコレクターが寄ってたかって
買ったら一瞬で無くなってしまうじゃないか(汗)
たとえばそれと前後してコシナ等から限定生産されたレンズ、あるいは、ミノルタ
の限定85mm、さらには、復刻ニコンS3などの数量から考えて、マニア向けと
いうものは、だいたい3000本(台)前後が基本的な市場規模だと思っていた。
全国(あるいは全世界)において、3000という数のマニアックな商品は、おそらく
は殆ど同じマニアやコレクターの人達が瞬時に買う数量なのであろう。
800本という数を聞いてビビった・・ これは両方買いだよね、そうしよう。
ミノルタの限定85mmはやや少ない700本の生産で、発売半年前から予約してようやく
手に入れたのであった。
・・・変に思われたくなかったので(笑)、2軒のカメラ屋さんで、それぞれAiと
M42のトプコールを予約した。
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発売日が来て、それぞれのカメラ屋さんから連絡が入り、無事2本のレンズを
GETすることができた。
・・・よし、これで、それぞれのカメラ(マウント)でトプコールを使えるぞ!
Aiはなあ・・そう、F3白チタンにつけるか。 M42はベッサフレックスで使うのがよさそうだ・・
9万円程の出費になったのは痛かったが、そんな楽しい事を考えつつ、喜び勇んでまずは
M42マウントの箱を開ける・・
・・・う~ん、良い作りだ、これは撮る気にさせてくれるレンズだなあ。
おまけにキャップに、東京光学のロゴまで入っている、トプコンという会社が
今、どうしているのか良く知らないけど、よくそこまで許可してくれたものだ、
コシナなんて全然書いて無いじゃないか・・
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・・・コシナは昔からあるメーカーだけど、ブランド力が無かったからなあ・・
いいレンズも作ってたけど、大幅値引きで安売りしていたりして可哀想だった。
(99年に)フォクトレンダーを買った後は、その技術力を最大に発揮して、
ほとんど値引き無しでも、ブランドに恥じない高性能のレンズを供給している。
そうだよね、もともといいレンズだもんな・・ 市場は、ブランドの名前がついているだけで、
いいものと勘違いするからな、私が、コシナのレンズが良いと言っても、
誰も「そんな安モンがいいわけ無いだろう?」と言って相手にしてくれなかった、
絶対的にいいものを見分ける価値観が無いんだろうなあ・・ 残念な事だ。
そんなことを考えながら、M42の箱に続いて、Aiの箱を開ける・・
・・・げっ!! これはヤバイ・・・(汗)

出てきた保証書に記された製造番号は、00002番であった。
何度も言うが、私は、コレクターではなくて、マニアであるから実際にカメラやレンズを
使うのである。 使う上では製造番号なんてほとんど関係ない。
そりゃあ、製造番号の違いで、若干の仕様の違うケースもあるけど、だからと言って、
初期型と後期型に実用上の大きな違いがあるわけも無く、両者を揃えなければ
ならない理由も無い。
また、売買する時に、製造番号がキリ番(揃っていたり、きりの良い番号)になっていると
高く売れるという話もあるが、基本的に私が実用としているものは売ることはしないし、
製造番号で実用的な価値が変わる認識も無いから気にしないのである。
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ニッコールAi45/2.8P が発売された時、滅多に行かないカメラ屋に、大量入荷した
との情報が入り、新品が安いと聞いて買いに行ったことがある。
今ではまずそんなことはしないのであるが、その時はいちおう、あまり購入した事が無い
カメラ屋で(素人だと)ナメられないようにという目的で、珍しいカメラを首にぶら下げて
買いに行った。
確かその時は、ヤシカ「TL エレクトロ X」 に「ヤシノン35/2.8」を付けていた。
今では、格好悪いからそんな事は絶対にしない(汗)
大型量販店や老舗のカメラ屋でライカのカメラを首に下げ、ライカのロゴの入ったバッグ等
を持っているオジサンをたまに見かけるが、どうも見ていてあまり気分のいいものでは無い。
自分が見ていて気分が良くなければ、借りにライカのようなブランド名品でなかったとしても、
変わったカメラであっても、人から見られたら格好良いものでは無いと思ってしまう。
ただ、その時は、実際にカメラ屋に行く前に散歩がてらにそのヤシカで撮っていた、
という正当化するための理由もあった・・
そして、案の定、そのカメラ屋の店主は、「へえ、変わったカメラをお使いで・・」
と話しかけてきた。 確かに話のきっかけを作るには良かったかもしれない。
でも、別にそこまでしなくても、新品買いで、マニアだったら割引をしてくれる
わけでも無いから、そもそも、ナメられる要素もメリットも何も無かったのである。
沢山中古を買ったり、あるいは中古を買う沢山のお客さんをカメラ屋で目前に見ていたら、
マニアとかコレクターだからどうのこうの、という事は何も無いことに気が付いていた。
中古を買うなら、別の値切りのテクニックはあるのだし、マニアの買い方は、必要以上に
細かいところを気にしたりして、見ていても、お店の立場での目線で見ていても、
あまり歓迎するものではない事に気が付いてからは、むしろ素人っぽく買う方が
メリットがあると思っているのである。
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Ai45/2.8Pの新品を買うとき、その店の店主は「何番のレンズにしましょう?」
と私に聞いてきた。
・・へ? 何番でもいいですよ・・・
「でも、色々集めていらっしゃるのでしょう? このレンズを買いに来たのは
お宅が最初ですので、好きな番号を持って帰ってくださいよ」
目の前に10個ほどのレンズの箱が、どん、と置かれた。
私は、その時に、なんとも言えず嫌な気持ちになった。
(・・・私は、このレンズを実際に使うために買うんだよ、箱のまま置いておいて
コレクター間の売買の値上がりを待つような事はしないし、仮にそうであっても
このレンズの前身である、GNニッコール45/2.8のような、マニアが高額な
プレミアム価格で買ったような事には、このAi45/2.8Pはなりっこないよ、
この店主、何か大きく誤解しているな・・・・)
つまり、それ以来、珍しいカメラを下げて買い物をしようという気持ちが失せたのである。
もう少し言えば、カメラやレンズは実用として使うもの、という気持ちが強くなったとも言える。
私は、・・・「じゃあ、このレンズで」と言いながら、番号も見ずに、一番上にあった
Ai45/2.8P の箱を取り上げた。 勿論新品価格は、誰が買っても、何番を買っても、
同じ値段であったの事は言うまでも無い。
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話を戻すと、だから、私は、レンズの製造にこだわるような事はしない・・・
けど、そのトプコールの00002番を見た瞬間、思わず箱にそのまま戻してしまった
のである。
・・オヤジのトプコール(・・とは言え、実際にはまったく関係ないのだが・・笑)
その00002番、これは使えない・・・
私は、買ったレンズは必ず使う、という自らのルールを破って、そのレンズを箱の
まま保管することになってしまった・・
市場では、案の定、Ai版の復刻トプコールは瞬間的に売り切れ(M42版は、少し
の期間新品が残っていたのであるが・・) Aiの中古は、大阪では過去1度しか
見たことがなく、しかも高額であるという予想通りの展開になった。
Ai版が保管されて使わなくても、M42でこのレンズは使われた。
ベッサフレックスTMやヤシカ、ペンタックスSPなどに付けられて出動した。
しかし、デジタル一眼など、他のマウントで使いたい場合通常のマウントアダプターを
介した場合、コシナ製のレンズは自動絞りしか無いので、後部の絞り連動ピンを押し込む
改造を施さない限りは、絞り開放でしか使うことができない。
よって、利用は、絞込みレバーの存在する、前記のようなオリジナルM42マウント銀塩
機種での使用に限られた。
ただ、すでに数十年も前に生産が中止された各社M42の標準レンズとは違い、
オールドのトプコールを再現したとは言うものの、この最新レンズは実に良く写った。
絞りによる描写の差も、むしろもっとクセを出しても良かったと思われるほど、割合に
使いやすいものがあった。
私のM42トプコールを見て、Ai版も持ってるなら売って欲しい、という撮影仲間の
申し出も何度もあったが、私は断った。
いきつけのカメラ屋さんにまで「匠さん、Aiのトプコール欲しがっている人が
高くても買うと言ってるけど・・」といわれたが、それも丁重にお断りした。
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そして、00002番は、現在にいたるまでも数年もそのまま保管されていた・・(汗)
私は、何かこれを使う為の理由、が欲しかったのである。
今までは何の理由も無かった、しかし、このままずっと保管していても何もならない。
・・・やっと最近、私はこのレンズを使うための理由を見つけた。
ニコンがAiレンズの製造を縮小・・実質的には停止、したからである。
さらに、ツアイスZF(ZS)レンズが発表されて、ニコンのAi終了の後の後継者になる
ことが決まったからである。 ツアイスは当然コシナ製である。
・・・決めた、コシナのZFプラナー85/1.4を買おう、(できれば50/1.4も買おう・・汗)
そして、それを買う事は、亡くなった父、そして、無くなったコンタックス・プラナーと、
無くなったAiレンズへの鎮魂あるいは供養の意味がある。
ニコンとツアイスとトプコンの揃い踏みである、この歴史と文化は守らなければ・・・
・・・まさに、自分勝手な理屈かもしれないが(笑)、まあ、それはそれでいいのである。
ZFプラナー85/1.4が入手できたとき、この00002番の封印は解かれる・・・・