「匠さん、マニュアルカメラが欲しいんです」
「え~と、匠さん、私、最近、マニュアルで撮ってるんですよ」
「匠さん、マニュアルモードでは・・・」
・・・はいはい、わかりましたよ・・(苦笑)
・・・ところで、みなさん「マニュアル」っていったい何の事?
「へ? マニュアルって言ったら自分で合わせるってことでしょ?」
・・・何を合わせるんですか?
「え? だから設定を・・・」
・・・う~ん、残念ながら、わかってないかもしれないなあ・・
それじゃ、マニュアルで撮ろうがオートで撮ろうが一緒ですよ。
そもそも、何でマニュアルで撮るんですか?
・・・というか、核心をつきますけど、マニュアルって何の意味ですか?

ずっと前の「バーシリーズ」に出てきたE嬢。
色々考えたあげく、ついにペンタックス最高機種の、工芸品とも言える LX を手にいれた。
レンズは、FA43/1.9Limited Black Version ・・およそ考えられる限りの
PENTAX最高の組み合わせ。 もちろんこれはマニュアルカメラである。
E嬢「このカメラを使っていると、いいカメラですね、って言われるんです」
・・・そうだろうね、お金もかかったけど、本当にいいカメラだよ。
E嬢「このカメラに負けないように、ちゃんと写真とらなきゃ」
・・・うん、その通りだよ、がんばってな・・
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マニュアルカメラとは、実はマニュアルフォーカスのカメラの事である。
マニュアルフォーカスとは、手動でピントを合わせること。
銀塩一眼レフでは1985年のミノルタα-7000が最初のシステマチックな
AF(オートフォーカス)カメラである。
それより数年前にもAF一眼レフは存在していたが、実験的な製品であったりして、
交換レンズもしっかり揃っている初の実用的なAF一眼レフはα-7000ということになっている。
逆に言えば、それ以前のカメラは、まずほとんど全てがマニュアルカメラである。
そして、以来、僅か20年でカメラは様変わりした・・
1988年から1989年にかけて、NIKON F4 , CANON EOS-1 により、プロ用最高級
一眼レフにもAFが搭載された。 1990年代半ばには普及機から最高機種までの
ほとんどがAF化されて、MF(マニュアルフォーカス)カメラは趣味的なものとまで
言われるようになった。
2000年には、ミノルタα-7により、AF一眼レフの完成度はかなり満足できるレベルに
まで進化したと思う。
その間、コンタックスとオリンパスは一眼レフのAF化に(ビジネス的に)失敗し、
MFカメラを作り続けたが、どちらも現在ではMFカメラは生産していない。
2000年前後には、NIKON F3が消え、PENTAX LX が消え、MINOLTA X-700が消え、
OLYMPUS OM-4Tiが消え、最後には2005年に、CONTAX が消えた。
そして2000年以降、各カメラメーカーはデジタル一眼レフを生産し、現在では
MFの一眼レフそのものが貴重な存在となって、ほとんど生産されていない。
NIKON FM3aや BESSAFLEX TM は出たが、さすがにもうMFのシステムを維持
していくこと自体がメーカーには大きな負担になっている。
そんな中、ニコンが2006年1月に銀塩カメラからの事実上の撤退を表明し、
現時点で残っている「マニュアル」カメラは数える程になってしまった。
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マニュアルカメラの中でも、AE(自動露出)を搭載している機種は、
絞り優先や、あるいはプログラム露出やシャッター優先を用いる事ができ、
主に1980年代から1990年代にかけての主流となっていた。
AE機の代表的な機種は、ニコンで言えば FA,FE2,F3あたりであり、
キヤノンは New F-1 やT90 であり、PENTAX では、LX、オリンパスのOM-4Ti 、
ミノルタ X-700、CONTAX では、RXやST等があげられる。
マニュアル(AE)カメラでは、フィルムの巻き上げが手動(手巻き)である場合と、
自動(ワインダー/モータードライブ)である場合とがあるが、まあ、どちらも
マニュアルカメラであることには代わり無い。
AE(たとえば絞り優先)が搭載されていて、しかもワインダー付きの機種であれば、
現代の銀塩あるいはデジタル一眼レフと使い方はほとんど変わらない、
違う点は、ピント合わせが手動(MF)か自動(AF)であるか、それだけである。
もちろん現代の銀塩/デジタル一眼レフにおいてもAFをMFモードに切り替えて使う
ことができるから、マニュアルカメラといってもまったく使いにくいわけではなく、
自動(AF)で、あらかじめ決まった場所(測距点)にピントを合わせるのか、
目でスクリーンを見ながら、任意の場所にピントを合わせて使うのか、それだけの差である。
ちょっとカメラの操作に慣れるだけで、AFだろうがMFだろうが簡単にピントを合わせる
ことができる。
「私はマニュアルフォーカスではすぐピンボケになってしまって・・」
と言うような事を良く聞くが、通常の視力を持っていればMFでの操作は何ら問題無い
はずであり、問題は、近視・遠視の場合は、視度調整をちゃんとしていないか、MFの
やり方を正しく教わっていないかのいずれかであった。
正しいMFの操作方法を覚えるのは、ものの10分もあれば完璧にできる筈である。
MFでピンボケになる筈が無いので、どうしてもそうなると言う人は、
すぐにも正しいピント合わせの方法を誰かに聞くなりして覚えてもらうのが良いだろう。
恐らく、操作そのものではなく、ピントはカメラからある一定の距離にある平面にしか
合わないという原理そのものを理解していない事からくるのだと思う。
カメラや光学の事を知っている人に取ってはごく当たり前の基本中の基本のその事は、
教えられていなければ理解できず、もしかすると、周りの人は、
「初級者は、ピント面という事が理解できないからピント合わせがわからない」
ということに気がつかずに教えて、余計にわからなくしてしまう事がある。
たとえば、ニコンF6に11点の測距点があると聞くと、初心者は、
「わあ、すごいなあ、F6は、11箇所に同時にピントが合うんだ!
え?キヤノンだったら45箇所も合うの? じゃあ、そっちが凄いんだ!」
と誤解してしまう・・・(苦笑)
・・・笑い事では無い、カメラを始めたばかりの初級者は、本当にそう思うのである。
いくら測距点が多くても(同一距離上の)1点にしかピントが合わない、ということは、
カメラを少しやれば誰にでも簡単に理解できるが、カメラをやっていない人、あるいは
カメラを始めて間もない入門者、あるいは、カメラの勉強をまったくしてこなかった初級者
(何年写真をやっていても・・)には、自力では理解できない概念なのである。
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そして、MF(マニュアルフォーカス)で撮るという行為は、本来は写真を撮る上では
あたりまえの行為なのである。 AFは完璧なほどの性能を持つわけでは無いので、
様々な状況でMFに切り替えて使うのは当然で、
別に「私、マニュアルで撮ってます」と自慢して言う事では無い。
AFが得意な被写体は何か、つまりAFの原理は何か?それを理解して、
AFが苦手な状況はどういう場合か? そのときはMFに切り替えてどう撮るのか?
そういう事を理解して使い分けるのが、MFの勉強なのであって、AFで撮ってもいい、
あるいはAFで撮るべきところをMFで撮ったからと言って何の練習にもならない。
原理も知識も無く、MFで撮っていると自慢して、ピンボケを連発して
「う~ん、もっと練習しなきゃ」と言うのはまったく無駄なので、ちゃんと
AFとMFの理屈を理解した上でそれぞれを使い分ける練習をするべきである。

写真は「ジャンクカメラ」の記事に出てきたT嬢のローライフレックスである。
高級マニュアル一眼レフ・・・ T嬢はその他にもMF機のCONTAX ARIAを使い
たまに友人の NIKON F3 なども借りて写しているマニュアル好きであって
勿論マニュアル機のなんたるか、とか、MFの使い方は熟知している。
誰しもがT嬢のようであれば問題無いのであるが、中にはこんな人もいる。
「匠さん、MFに切り替えたら(露出モードも)Mに切り替えるんですよね?」
・・・え? それは全然関係無い話だけど。
「Mってなんでしたっけ? これがマニュアルでしょう?」
・・・そうですよ、マニュアル露出ですよ。
「だから、私、マニュアルにして撮りたいんですけど・・・」
・・・えっと、もしかして、MFとM露出の区別ついていないようですね、
・・・絞りとシャター速度はわかりますか?
「さあ、本とかで読んだけど、数字がややこしくてさっぱり・・」
(やはりな・・ 多分、教えるのが面倒になった周りの人に、
「貴方はしばらくマニュアルで撮って勉強しなさい」、とか言われたに違いない)
・・・ちなみに、それで上手く撮れます?
「いえ、真っ白になったり、真っ黒になったり。
だからもっともっと沢山撮って上手くならなきゃ・・・」
(かわいそうに・・いつもと同じパターンの犠牲者がここにも・・)
「ロシュツホセーって言うんでしたっけ? そういうのをやらないとダメ??」
・・・いえ・・・カメラの勉強をするのは、カメラの操作を覚える事では無いんですよ、
カメラの原理をまず覚えないと、いくら操作だけ覚えても無駄ですよ。
露出とか面倒だといいますけど、本当は、絞りとシャッターしか無いんです
それをややこしくしている原因は、1つは余計な機能がついているカメラ自身、
そして、話を余計ややこしくするような教育・指導なんですよ。
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『その通りだ! ほら見たことか! だからマニュアル機で練習させるのが
一番いいんだ! 絞りとシャターしか操作が無いから自然に覚えていくよ!』
・・・そういう貴方、ちょっと待ってな。 マニュアル機と、露出までがフルマニュアルの
メカニカル(機械式)一眼レフでは意味が違うでしょう?
貴方が混乱してしまったら、初級者がますます混乱してしまう・・
・・・そういう場合は、まず、絞りとシャッターの効果を教える前に、
ある被写体の明るさに応じた適正な露出がある、という基本から丁寧に教えていくのが
良いと思う。
(もうこのブログでも何十回と書いているから、今日はそこのところは省略するけど)
それを教えないと、絞りとシャッターを好き勝手に合わせて撮ることがマニュアルの極意
だと誤解してしまい、そのまま試行錯誤を下手すると1年も繰り返す初級者が後を
絶たなくなる。 それはまさに不幸な話であって・・
写真には適正露出とそれに応じた絞りとシャッター速度の組み合わせがあって、
■その組み合わせのパターンを変えることで深度や動感の表現ができ、
■その組み合わせのバランスを変えることで露出補正ができる・・
という原理を、
■その人が納得できる形で、様々な例をあげながら説明しなければならない。
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『そんな事言うけど、適正露出って何だよ? そんなの感覚的な問題だろ?』
・・・いやいや、自分がうまく説明できない事をすぐに
「個人の好みだのセンスだの感性だの」としてしまったら、余計に初級者は
混乱してしまう。
・・・そりゃ、確かに「適正露出」ってのは「作画上」は意味が無い事だと思う。
しかし、カメラの露出計が示す値が、カメラにとっては「適正露出」なのである。
「アートや表現」という事と、「物理的な原理」を一緒くたにしてたら、
わけがわからなくなるんだ。
適正露出はその場の明るさと(ISO)感度に応じて決まるただひとつの値であって、
つまり露出計がはじき出す値だ、それが(個人の好みに)合ってようが、合って
まいが原理の上では関係無い事である。
・・・普通、その値はEVとかで表すんだけど、それはまあ説明してもあまり意味は無い、
「ある絞りとシャッター速度の組み合わせ」と考えた方がわかりやすい。
けど、絞りとシャッター速度の組み合わせかたはいくつもある、
(そして、今回は省略するけど、ここで絞りとシャッターの効果がそれぞれ存在する)
その組合わせを、どっちもカメラが勝手に決めるのがP(プログラム)モードであり、
自分が片方だけ決めるて片方をカメラの計算に任せるのが
「絞り優先」と「シャッター優先」モードであって。
「カメラの言う通り」に両方を自分で設定するのが「マニュアル露出」モードになる。
だから、もう何十回も言ってきたけど、
「マニュアル露出」にしたところで、絞りやシャッター速度を自分の好き勝手に設定する
事はできない。」
あくまでカメラの言う通りに設定しないと、写真は真っ白になったり、真っ黒に
なったりしてしまう。
初級者のそういう写真を「失敗写真」とは言わない。 残念ながら勉強不足。
それでは、マニュアル露出で、いくら練習しても上手くなるはずがなく、
たまたま偶然露出が合った写真が撮れているのでは、単なる確率論である。
「マニュアル露出でも、ちゃんと(露出)メーターを見て合わせるんだよ」
という一言を指導する側が言わなかったために、その初級者は何ヶ月も
無駄な練習をしなければならないとしたら、教える側の責任は重いと思う。
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だから、マニュアルで撮ると言っても、カメラの3要素である、
①ピント(すなわち、オートフォーカスか、マニュアルフォーカスか)
②絞り③シャッター速度 (これらは露出という意味で1つにくくれる)
の、各々が、どう「マニュアル」で動いているのかを理解しなければならない。
まずは、マニュアルフォーカスとマニュアル露出、これを混同してはいけないし、
どちらをどんな場合に、どのようにマニュアルにすることで、どんな効果
が出るのかを、まず良く理解しなければならない。
ちなみに、原理がよくわかっている中級者以上であれば、(銀塩においては)
「オート(ピントまたは露出)で撮るのと、マニュアル(ピントまたは露出)
で撮る写真は、まったく同一」だということがわかると思う。
単にカメラが人間の代わりに自動で決めた事を、人間が手動で設定するだけの話。
だから、もうくどいほど言うけど、初級者はまずカメラの原理の知識を
勉強していない場合には、マニュアルで撮る意味はまったくなく、
撮ったとしてもオートで撮るのとまったく同じ結果が出るのが最良である。
他は、オートで撮った場合より必ず落ちる、何故ならば失敗するための操作
をあえて手動で行っている事をしてしまうからである。
オートで撮っても自分の好きに調整すればよい・・ピント位置を変えたり
絞りやシャッター速度を変えれば、自分の作画意図を表現できる場合がある、
でも、それは、マニュアルだから出来るのではなく、マニュアルでもオートでも、
「どう設定したらどうなるかがわかっているから」結果に現れるわけであって、
何もわかっていないで適当に設定したら何もならない。
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今回は同じことを繰り返し述べているので大変「クドい」文章になっているが
この問題は重要なので、何度でも分かるまで述べたいし、
初級者は、個人によって理解力が違うから、どういう説明をしたら理解できるかというのも
本来個人個人、別の説明をしなければならないのである。
そこが本や雑誌やカメラ教室やあるいはブログでも、個別の指導ができないという事が、
最大の問題であって。 実際には優れた指導力を持つ人に、たった1日ついて教えて
もらうだけで簡単に理解できる事であっても・・
自己流の勉強や、適切でない周囲のアドバイスを聞きながらでは何年たっても
いっこうに理解できないという不幸な結果になる事が多々ある。
「マニュアルカメラ」「マニュアルで撮る」と呪文のように唱えている
初級者達は少なくとも向学心が非常にあるのだと思うが、それが誤った勉強の
仕方をすることで、「マニュアルで撮り続けてもまったく上手くならない」と言った、
さらに不幸な結果になることがあるので、本当に注意してもらいたい。
ともかく、今回の記事では書ききれない、そして以前から何度も形を
変えてブログ記事でも説明している、絞りやシャッターの原理があるので、
それを今後も続けていきたいと思っている。
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