「ジャンクカメラ」という呼び名はカメラに対しあまりに失礼かもしれないが、
要はジャンクカメラとは、トイカメラの一種であり、100円均一などの安売りショップや
おもちゃ屋で売ってたり、あるいはなんかの景品につけられる等の、安価で、構造の単純な
(ちゃんと写真が撮れる)カメラの事を言う。

写真は「ピエール・カルダン」(笑)カメラである。
いわゆる「写るんです」などのレンズ付きフィルムなどと同様の仕組みである。
この手のカメラは、絞りは固定(だいたいf10前後)、シャッター速度も
固定(だいたい 1/100秒前後)である。
一眼レフなどを使っていると、絞りやシャッター速度をごちゃごちゃ設定しないと写真は
写らないのではないのか? という風に思えるが、実際には、レンズ付きフィルムの写真を
見ればわけるように、固定露出でも普通に写真が撮れる。
「では何故?」と思うならば、まずそれはカメラの3要素をもう一度思い出してみよう。
①絞り ②シャッター(速度) ③ピント である。
レンズ付きフィルムやこの手のジャンクカメラでは、①と②は固定である。
ちなみに①と②で決まる要素を「露出」と呼ぶが、入れたフィルムの感度に応じて、
本来はその場の被写体の明るさに応じて「適正な露出値」が決まる。
たとえば、ISO100のフィルムで、晴れの日は、絞りf8で、シャッター速度が1/250秒とか、
そんな感じである。
昔のカメラマンは、だいたいこのあたりの絞りとシャッター速度の関係を経験的に覚えていて、
露出計が無い時代であっても(ほんの40年ほど前の話)写真を写すことができた。
さて、以下に紹介するのは、幻のアイテム「セノガイド」である。

これは究極のアナログ式の露出計(?)である。
電源を使わないアナログ式露出計は、セレン光電池(光を受けると電流を発生する素子)
を用いた「セコニック スタジオデラックス」等が有名で、今だプロやハイアマチュアに
愛用者も多いが。
こちらの「セノガイド」露出計(?)はもっと凄い。
なにせ、回転するダイヤルの周りに様々な「木陰」とか「山」とかの絵が描いてあり、
感度を設定してそこに適宜ダイヤルを回すだけで適切な絞りとシャッター速度がわかる
という優れモノである。
「おいおい、そんなんで写真が撮れるのか?」
・・・うん、結構この「セノガイド」はぴったりの露出が出るらしい・・・(笑)
今やほとんど入手不可能のこのアイテムは、たった一度だけ写真の雑誌に紹介されて、
私もずっと探していたが、ようやく数年前に、それこそゴミの山のようなカメラ用品の
ジャンクの中から発見して救出した。
これを発掘(笑)したときはまさしく興奮したが、いちおう、そ知らぬ顔をして、
100円だか、それくらい出して買ってきたように思う(笑)
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・・・まあ、それはいい(汗) つまり、露出値なんて適当にあわせても写真は撮れる、
ということである。
ちなみに、こういう適当な(カンの)露出で撮る場合はネガフィルムの使用が前提である。
いつも説明しているが、フィルムにはラティチュードというものがあり、多少露出が狂っても、
ネガだったらプリント時の調整で救済できるのである。
ネガのラティチュードは、プラス(オーバー)側に2段ないし3段。
マイナス(アンダー)側には、1段ないし2段。 うまくけば、合計5段の幅を持つ。
これは、つまり2の5乗=32であるから。 明るさが32倍違っても、プリント調整でなんとか
カバーできるという意味であり、仮に勘で露出を決めても、それが32倍も違っている、
ということはまずないから、結局まともに写真は撮れるということを意味する。
ちなみに、ポジ(リバーサル)や、デジタルでは、ラティチュードは
プラスマイナス0.5段くらい、つまり合計1段(イコール2倍)ということで、明るさが2倍の
範囲の中で写真を撮らないと、白とびしたり黒つぶれしたりするということである。
だからネガに比べるとポジやデジタルは露出に関しては恐ろしくシビアなのである。
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最初にもどって、レンズ付きフィルムなどでは、中にネガフィルムが詰められている。
ネガのラティチュードは広いので、f10、1/100秒の固定の露出でも、多少明るくても、
多少暗くても、昼間だったら写真を写すことができる。
しかし夜や室内ではさすがに無理なので、そんな場合はフラッシュを焚くしか無い。
高感度のISO800などが詰められているレンズ付きフィルムは、夕方や室内など
多少暗くても写るが、逆にフラッシュ使用時に人物が白くなってしまうこともある。
そんなわけで、絞りとシャッター速度が固定のカメラでも、ネガフィルムを使えば、
なんとか露出の面では写真が撮れることがわかったと思う。
(ちなみに、ポジやデジタルではシビアなので、こういう単純構造のカメラを作るのは難しい)
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「露出はわかった、じゃ、ところで、3要素の3つめ、ピントはどうなっているんだ?」
一眼レフを使うと、初心者の場合には、AF(オートフォーカス)に頼っても、MF(マニュアル
フォーカス)できっちりあわせようとしても、ヘタをするとピンボケを連発してしまう。
(まあ、実際には、ピントを合わせる操作そのものに慣れていないこともある)
一眼レフではピント合わせが難しい(?・・と誤解する)のに、
レンズ付きフィルムにはピントの機能が無いのに、何故ボケずに写るの?
これは「被写界深度(ひしゃかいしんど)」というものが関係してくる。
レンズには、ピントの合う奥行きが存在する。これが「被写界深度」である。
そして、レンズ付きフィルムなどのf10あたりだと、だいたい被写体の距離が
1mから数十m(あるいは無限遠)の間は、全部ピントが合う(合っているように見える)
のである。
被写界深度は、
1)絞りを絞れば絞るほど(絞り値を大きくするほど)
2)広角レンズになるほど(焦点距離が短いほど)
3)被写体までの距離が遠いほど
深くなるのであるが・・
レンズ付きフィルムでは、1)をf10前後に絞り、2)をわずかに広角にし、
3)をあまり近接して写さないように、しているから、
たいがいの被写体にピントが合うのである。
そして、これを(この仕組みを)パンフォーカス(全体にピントが合う)と言う。
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ちなみに、AF(オートフォーカス)で無い携帯電話カメラでは、CCDなどの撮像素子が、
一眼レフなどに比べ数十分の1の面積しか無いほど小さく、それに装着するレンズの
焦点距離も、撮像素子とフィルム等の面積比に応じてとても短くなっている。
だから、被写界深度もとても深く、別にAFでなくても、ほとんどの距離にピントが合い、
パンフォーカスとなる。
したがって、本来携帯電話カメラにAFは殆どいらないのであるが、それでもまあ
付いているものはしかたがない、絞りを開けられたり(大口径にしたり)近接撮影でも
ピントが合うなどのメリットが少しはあるならば、AFがついているのも悪くない、ただ、
それらの仕様になっていない場合は、AFをつけるだけコストアップしてムダになる事は
否めないし、AFの合焦速度が遅いのでタイムラグが大きくなり嬉しくないのであるが、
ちょっとカメラの事がわかったユーザーがAFがついている方が高性能だ、と勘違いして
そんな携帯を欲しがる以上は、ユーザーニーズがあるから、メーカーもAF付き携帯を
作らざるを得ないのである。

写真は愛用の V903SH(AF,300万画素)
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・・・さて、そんなわけで、レンズ付きフィルムや、冒頭のジャンクカメラでは
ピントを合わせなくても、パンフォーカスによりピントが合うことがわかった。
だけど、まあ、いくらパンフォーカスとは言え、普通は1m以下くらいの距離にはピントが
合わないので、無理に接写をしても全部ピンボケとなる。
ちなみに、AFなりMFなりのピントを合わせる機能がついている普通の一眼レフあるいは
コンパクトカメラ、またはデジタルカメラにおいてもこんどは、レンズの性能(仕様)からくる、
「最短撮影距離」というものがあって、それより短い距離ではいくらがんばってもピントは
合わずにピンボケとなる。
一眼レフの場合は、マクロレンズというものを買ってそれに交換すれば、かなり短い距離に
までピントが合い、被写体を大きく写すことができる。
そして、今時のたいていのコンパクトデジカメでは、マクロモードという花の絵がついていて、
これに切り替えると、普通はレンズの位置が前に繰り出して最短撮影距離を越えて
近接撮影ができる。
レンズを繰り出せば近距離にピントが合うのは、小学校の凸レンズの実験を思い出して
もらえばだいたい原理は推察できると思うが、ただしこのようにレンズを繰り出すと、
ひとつは、遠くにピントが合わなくなるので、通常撮影ではマクロモードをいちいち解除
しなければならずに面倒であり、もうひとつは、繰り出したレンズは画質が低下するのと、
取り込める光の量が減って暗くなるので、手ブレを起こしやすいなどの欠点がでる。
一眼レフでも、通常のレンズを前に繰り出すために、エクステンションチューブ、接写リング、
あるいはベローズ(蛇腹)と呼ばれるアクセサリーが存在して、レンズとボディの間に
入れて接写を可能とするものがあるが、
同様に、無限遠にピントが合わない、暗くなる、画質が僅かに劣化する、などの欠点が
あるので注意する必要がある。
一眼レフなどのレンズの前につける、クローズアップフィルター(凸レンズ)もまったく同様で、
明るさこそ減らないまでも、無限遠にピントがあわず、おまけに画質がかなり劣化してしまう。
(ただし、花の撮影などでは、画質の劣化はソフトで幻想的なイメージを出すこともあり、
むしろ効果的な場合もある)
ちなみに、マクロレンズはこれらの制約が少なく、そのまま遠距離にもピントを合わせ直す
こともでき、画質的には、通常のレンズが無限遠で最良の画質を出すように設計されている
のとは逆に、最短撮影距離で最良の画質が出せるように設計されているので、安心である。
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・・・さて、ジャンクカメラの話から大幅に脱線した・・・(汗)
話はふりだしに戻る。 なんで今日はジャンクカメラの話題なのか?
写真仲間のT嬢が聞いてきた、
「匠さん、家に古いカメラがあったのですが、どうもシャッターが切れない
みたいで見てくれますか?」
・・・いいよ、今度撮影会に持ってきて。

当日、T嬢が大事そうに革ケースの中からカメラを取り出す。
「匠さん、これですけどね」
・・・どわ! ローライフレックスの35mm一眼レフ! SL35だっけ?
おまけにプラナーの50/1.4装着! こんなお宝を、どこで・・・?(汗)
「おじいちゃんがカメラマニアだったみたいで、押入れに眠っていて・・」
・・・どれどれ? おお、これは新品同様ではないか!
「買うだけで全然使ってないと言ってました」
・・・むう、これは凄いな、ちょっと見せてね。
ガチャガチャと触ってみるが、T嬢が言うようにシャッターは切れない、
T嬢は、CONTAX ARIA を持ち、友人のNIKON F3を使うなど、いちおう
マニュアルカメラの知識を持つ中級者である、何も知らないというわけではない。
「いちおう電池は換えてみたのですが、ダメでした、やはり修理ですか?」
・・・う~ん、もうすこしいじくってみるね。 ガチャガチャ・・
いろいろ試してみるが、どうしてもシャッターが切れない、ダメか・・
・・・ごめん、これは無理だよ・・ 修理に出すしかないな。
・・・でも、これはとっても良いカメラだし、おまけにおじいさんの片身だったら、なんとしても
直して使った方がいいよ、数万円かかるかもしれないけど、今、ここまで程度の良い
このカメラはほとんど存在しないし、あっても高いよ、だから、絶対直して使ってみてな。
「わかりました、見ていただきありがとうございました」
・・・いえいえ、ほとんどお役に立てずに、すみませんでした。
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撮影会の後、例によって撮影仲間達と飲み会になったが、T嬢が隣に座って、冒頭の
「ピエール・カルダン」のカメラを私に差し出した。
「匠さん、これ差し上げます」
・・・え? くれるの? 何で?
「さっき、カメラのこと見てもらったから・・・」
・・・だって、なにも役にたってないし、ただ見ただけだよ。
「うん、でも、このピエールカルダン、なにかのオマケで貰ったので・・・
いいですよ、よかったら使ってくださいね」
私は、瞬時にそれがジャンクカメラである事がわかったが、でも、問題は金額の多寡では
無い、それより、T嬢の気持ちに感激したのであった。
・・・ほんと? じゃ、貰えるなら是非もらうよ、へえ、カルダンのカメラとは面白いなあ、
今度の撮影会でネガを入れて使ってみるよ、ありがとう!
そんなやりとりをしていると、さらに一つ向こうに座る男性が茶々を入れてきた。
「何それ? ピエール・カルダン? そんなのあるの?」
彼は、ちょっと酔っている様子、ただ単に面白いカメラがあるので興味を持ったのかも
しれないが、私にとってはT嬢から貰った大事なものである。
・・・そうだよ、ピエール・カルダンのカメラだよ。いいだろう?
「匠さん、見せてくださいよ」
・・・ダメ、見せない(笑)
「それ、ニセモノじゃないですか?」
・・・ホンモノだよ! 正真正銘のピエール・カルダンだよ(・・苦笑)
「え~、ケチだなあ・・」
・・・いやあ、これは、ほんと、見せられないんだよ、大切なカメラなんだ。
悪いけど、触りたかったら自分で見つけて買ってきて触ってな。
彼はあきらめたようだが、まあ、これは、カメラそのものの価値よりも、むしろ大切な
「気持ち」が込められたものなのである。
「モノより思い出」とは良く言われることであるが、実際にもそうである。
友人の女性から貰った、このカメラは、大切な思い出なのである、
まあとは言え、貰ってからまだ5分しかたってないが(笑)、嬉しかったのである、
どうして別の男性に簡単に触らせるものか・・
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カメラマニアの男性(女性も)には、平気で人のカメラを「見せて」と言って、
手に取っていじくりまわす人が多いが、これは、もし、そのカメラに色々な思い出が
込められている場合には、非常に不快な気分になる場合も多々ある。
モノは単なる機械ではなくて、気持ちや思い出が込められた「大切なモノ」である
場合もある。 「見せて」といわれて断るのも、カドが立つ場合もあるのかもしれないが、
それはそもそも「見せて」と言う側に問題があるのではないか?
カメラマニアの方は「機械」ばかり見ようとせずに、ぜひ、そうした人間としての心も
持って無闇に他人のカメラをいじくりまわさないうように注意・配慮してもらいたいと思う。