「画像処理プログラミング」シリーズ第21回記事。
本シリーズは、写真等のデジタル画像のピクセル毎に
PC(パーソナル・コンピューター)で、数学的な演算を
施し、結果としての、検出、抽出、判断、変換、加工
等を行う、すなわち「画像処理」のプログラミングを
行う為の技術(テクノロジー)の実現を目指している。
勿論、自分自身で、全てのアルゴリズム(計算手順)を
考案し、全てのソースコード(プログラム。何万文字
もある)を1文字、1文字、自らの手で入力した物である。
汎用の画像処理ライブラリ(例:Open CV等)は、一切
使わない事が重要なポイントだ。
何故、そういう(ある意味、非効率的な)事をするか?
と言えば、そういう措置で無いと、「世の中に無い、
全く新しい事」は実現できないからである。
他人(他者)の作ったライブラリやソースコードを引用
しているだけでは、「習い事」に過ぎず、それでは勿論、
「研究」でも、「創造」でも「表現」でも何でもない。
「技術」(テクノロジー)も、「創造性」や「独自性」
を持つ事で、「アート」(芸術)に成りえる。
他人の真似事や後追いでは、アート的価値は皆無だ。
で、今回の記事では、電子楽器の「シンセサイザー」の
原理を元に、それに類する「画像シンセサイザー」の
ソフトウェアを自作してしまおう、という試みである。
まずは、電子楽器の「シンセサイザー」の説明だが・・
シンセサイザー(Synthesizer)とは、電子的に楽音や
音楽を合成する機器(電子楽器)であり、正確には
「ミュージック・シンセサイザー」という名称であるが、
一般には「シンセサイザー」や「シンセ」と呼ばれる。
(以下、適宜「シンセ」と略す)
シンセの歴史だが、まずは1920年代~1960年代の
黎明期においては、様々な電気楽器が作られているが、
それらは「シンセサイザー」とは呼ばれていない。
初の電子楽器として1920年代の「テルミン」が著名で、
手を触れずに演奏するスタイルと独特の音色は、ファン
層も多く、現代なお、継続されて製造販売されている。
また、より実用的な電気/電子楽器としては、例えば
「電子オルガン」(HAMMOND等。1930年代頃~)がある。
1960年代頃、音響に関する研究が進み、初期のシンセ
の構想(仕様、仕組み)が固まりつつあった。
この頃の「研究」は、楽器メーカーよりも、大学等の
研究機関により行われていて、著名な研究者としては
「モーグ(ムーグ)(Robert Moog)博士」が居る。
彼は後に「Moogシンセサイザー」を製造販売する会社を
設立していて、最初期のシンセとして、とても有名だ。
で、例えば「音楽の三要素」と、一般に呼ばれるものは、
「メロディー」「リズム」「ハーモニー」である事は、
世間においても良く知られているであろう。
対して、シンセで用いられる「音の三要素」とは、
*音程(ピッチ、音の高さ、周波数。音階)
*音色(おんしょく。倍音構成。稀に「ねいろ」とも)
*音量(音の大きさ、音の強さ、振幅、ボリューム)
となっている。
だが、このあたりは、若干だが専門的な要素も入って
くるため、一般層では、例えば、「音量が大きい」事を
「音が高い」と、誤って呼んだりする事も良くある。
(正:音量→大きい/小さい。 音程→高い/低い)
さて、初期の(アナログ)シンセサイザーでは、以下の
原理により、楽音が生成(合成)される。
*「音程」=「発振回路」により音を作る。その音程は
付属の鍵盤や、その他の入力装置により制御される。
この発振回路は、アナログ電子部品の、抵抗、
コンデンサー、コイル、トランジスタ等からなる。
つまり、これは「アナログ音源」である。
(参考:1970年代頃には、各社シンセの音程の制御を
行う電圧(ボルテージ・コントロールド=VC)の基準を
1オクターブあたり1ボルトの変化とする規格が定まる。
こうすると半音あたりで1/12Vと、微細な電圧の変化
なので、アナログシンセの音程は不安定になりやすいが
厚みのある音質となったりするので、音楽的には好まれる)
*「音色」=上記「発振回路」では、様々な基本波形
(例:正弦波、三角波、矩形波、鋸歯状波等)が、予め
用意されている。演奏者(利用者)は、その波形を
選択した上で、さらにフィルター(ローパス、ハイパス、
レゾナンス等)で波形を加工(=倍音構成を変更)し、
演奏の為に必要な「音色」を得る。
例えば、正弦波を用いると、フルートやピッコロの音、
矩形波では、オーボエやクラリネット等の木管楽器の音、
鋸歯状波では、バイオリン等の弦楽器の音、
が得られるのだが、あくまで「似ている音色」という
だけであり、ホンモノの楽器の音色とは、多少異なる。
(参考:コンピューター関連を始めとする、様々な新規の
技術用語において、英語を語源とした末尾の長音「-」が
不要だ、とされ、それを省略する事が日本で流行ったのは
およそ1970年代~1990年代頃だ。それよりも近年では、
末尾の長音を省略せずに記載する事が推奨されている。
まあなので「コンデンサ」「フィルタ」「シンセサイザ」
等の末尾の長音省略は、個人的には「古い時代の記法」と
見なして、そういう書き方を一切していない)
*「音量」=総合的には、音が発生する際の音量、つまり
ボリュームなのだが、シンセサイザーでは、個々の音の
発音時での時間的な音量の変化も、ここに含まれる。
つまり、鍵盤等を弾いた瞬間から、上記の発振回路や
波形加工回路が動作するが、その発音中に音量が変化し
ピアノ等での「減衰音」や、オルガン等での「持続音」
が、ここで制御できる。
上記の「音量の時間的制御」の為、以下の回路が用いられる。
*「エンベロープ回路」(通称:ADSR)
用語エンベロープ(包絡線)には、色々な意味があるが、
シンセの世界では、一般に以下の4つの時間的変化の
要素を設定できる電子回路の事を指す。
アタック(A):
鍵盤を弾いた瞬間から発音するまでの遅れ時間と
その時間内で漸増的に変化する音量(等)の設定。
(例:バイオリンは、すぐに発音しない。
また、エレキギターの奏法で、撥弦後にボリューム
ツマミを廻して、ゼロから音を大きくしていく
「スローアタック奏法」がある)
ディケイ(D):
最大音量から音が減衰していく時間の長さ。
(例:ピアノやギターは、弾いた後で減衰していく)
サスティン(S):
鍵盤を弾いている間、持続する音量の設定。
(例:オルガンでは、ずっと最大音量で鳴り続けるが、
管楽器等では、最初のみ大きく、後の持続音は
肺活量の関係で、やや小さい音量で続く)
リリース(R):
鍵盤を離した時から後で、音が減衰していく時間の長さ。
(例:ハープ等では、共鳴により減衰時間が長い)
この、エンベロープ回路は、基本的に「音量」の変化に影響
するのだが、シンセの設定を変えて「音色」に影響するように
すると、例えば、シタール等の民族楽器で、音色が時間的に
変化する様子を合成できる。
極端に設定すると、「ビョワーン」「ミョーン」といった、
いわゆる「シンセらしい音」を作る事ができる。
ここまでが「音の三要素」からなる、シンセサイザーの
基本的原理であるが、加えて、以下の付加機能がある。
*LFO(低周波発信器) および、そのディレイ(遅れ)
シンセでは、非常に低い周波数、例えば、1秒あたり数回
程度(→耳には聞こえない音)の発振回路を備えている。
これで、音程や音量を変調(≒影響させて変化させる)
を行うと、いわゆる、ビブラート(音程の細かい変化)や、
グロウル/ワウ(音色の細かい変化)、トレモロ(音量の
細かい変化)を得る事ができる。
バイオリンやギター、歌唱等での中上級層においては、
こうしたビブラート等で、より音楽の表現力を増している。
また、演奏後(発音後)ただちに、ビブラート等を掛けず
少し遅れてから(つまり、長い音の場合)に変調を行う
為の、遅れ時間(ディレイ)を設定する事もできる。
余談だが、1990年代末に、宇多田ヒカルが登場した際、
それまでの演歌や歌謡曲での歌唱法とは全く異なる、
その独特のビブラートが魅力的に捉えられた。
「ちりめんビブラート」とも呼ばれたそれは、音程の変化が
細かくて速い。まあ、歌唱法的にはそういう解釈だろうが、
音響的には、さらに、トレモロ(=音量の細かい変化)が、
音程の変化に加わっている事が興味深い。
シンセであれば、様々な「変調」を、自在に、あるいは
同時(並列的)に掛ける事が可能である。
なお「トレモロ効果」は、1960年代の「ギターアンプ」
にも搭載されていた為、その時代で、世界的に有名な
「ザ・ベンチャーズ」の楽曲の一部でも、エレキギターに
トレモロ効果が掛かった音を聞くことができる。
それと、1950年代からの「Fender Stratocaster」
(=エレキギターの製品名。通称「ストラト」)では、
通称「トレモロアーム」(正式名:シンクロナイズド・
トレモロ・ユニット)が搭載されているが、これは
弦の張力を変えて、音程を変化させる為の「ビブラート」
機構であり、音量が変化する効果の「トレモロ」では無い。
なので、シンセ普及後の時代では、両効果を区別する
事が広まったので、後年には「ビブラート・アーム」と
より正確な通称で呼ばれるケースも増えてきている。
*ノイズ発生回路
上記の「発振回路」の波形は、三角波や鋸歯状波等の
人工的な音しか出せないのだが、自然界の音には、
もっと様々な音色が存在する。そうした特殊な音色を得る
為、ノイズ(周波数分布が一様な「ホワイトノイズ」と、
高い周波数ほど分布が少ない「ピンクノイズ」がある)
を発生させ、それをフィルター等で加工する事で、
自然界での、風、波、雨、雷等の音を得る事ができる。
ノイズを発生させる回路は、恐らくだが通常の「発振回路」
とは別建てで設計・構成されている。普通の音響の世界では
ご法度な「ノイズ」だが、音楽・音響的には重要だ。
だが、高性能な電子部品ではノイズを発生させるものは稀で
なかなかアナログでノイズ回路を作るのは難しい模様だ。
*ポルタメント回路
鍵盤等で得る音程は、ド、レ、ミ、ファ・・ 等の
不連続なものだが、このポルタメント回路を用いると、
ドからレ等に音程が変化する際、その途中の音程も発する
事ができる(≒時定数を変化させ、連続的に電圧が変わる)
例えば、ハワイアン音楽で使われるスティール・ギターや
ギター奏法の1種である「ボトル・ネック奏法」にも、
この回路で対応できる。
*リングモジュレーション
複数の発振器の各々の波形を演算(加算、減算)する事で、
複雑な倍音構成を持つ音色(例、金属を叩く音、ベル等)
を得る事ができる。
詳細は、本シリーズ第16回
「画像リングモジュレーターのプログラミング」記事を参照。
*パルスワイズモジュレーション(PWM)
一般的な発振回路による矩形(くけい)波は、対称形だが
PWM回路により、比率(デューティ、パルスワイズ)が
異なる「非対称の矩形波」を得る事ができる。
その措置だけではあまり効果は無いが、LFO(低周波発振器)
を用いて、そのデューティ(パルスワイズ)を揺すりながら、
他の発信器の音と混ぜる事で、多人数で演奏しているような
いわゆる「コーラス効果」を得る事ができる。
だいたい以上が、アナログ・シンセサイザーの原理である。
1960年代に発売された「moog」(モーグ、旧称ムーグ)
が、こういう仕様を備えた、元祖とも言えるシンセである。
「moog」は、ウォルター・カーロス(注:後に性転換して
女性となり、Wendy Carlosと名乗る)等に納品されて
1968年には、著名な「スイッチド・オン・バッハ」
のアルバムが発売され、全編がシンセサイザーで創られた
このアルバムは世界的にセンセーションを巻き起こした。
日本では、冨田勲氏(1932~2016)が、1970年代に
「月の光」「展覧会の絵」等の「moog」を用いた
アルバムを発表、いずれも話題となる。
これ以降、シンセサイザーは世界中の音楽シーンに難なく
定着。まあ勿論、「機械の音だ」と嫌う人達も居たのだが、
そういう保守的な意見は、どの世界においても新しい物が
出てきた際に言われる事である。まあ特に音楽の世界では
アート的観点が強いジャンルであるから、ミュージシャン
達は、「新しい表現」を得る為に、積極的にシンセを
利用しようとした。
しかし、この当時のシンセは非常に高価な電子楽器であり、
一般層では、とても入手する事ができない。
1970年代初頭から、日本でもアナログシンセサイザー
が、KORG社、Roland社、YAMAHA社等により発売され、
低価格なそれらは、プロからアマチュアミュージシャンに
まで普及し、初期のアナログシンセの黄金期を迎える。
1980年代、早くもシンセは大変革の時代に突入する。
まずは、それまでのシンセは単音(モノフォニック)で
しか演奏できなかったが、これを複音(ポリフォニック、
いわゆる「和音」が弾ける)にする事。
さらには、「デジタル化」の流れである。これまでの
アナログシンセでは、抵抗やコンデンサー等の多数の
部品を用いるので、どうしても大型となり、コスト高
にもなる。
そこで、当時からコンピューター等で一般的となった
CPU、LSI、メモリー等の電子部品を用い、これまでの
アナログから、デジタルに急速に置き換わった。
アナログシンセは大型であったが、デジタル化で小型軽量化
が実現した事のみならず、アナログシンセは内部の温度上昇
で部品に流れる電気の特性や電圧が変化し、結果、音程が
不安定になったりする弱点があったが、それもデジタル化で
解消される事となった。(注:それゆえに、正確すぎる
「機械っぽい」音になってしまったので、後年には、また、
音程を不安定にする回路等が、様々に追加されている)
また、アナログシンセでは、全ての音を自在に合成できる
訳でもなく、例えば、人間の声、自然界の音声(例、鳥や
動物の鳴き声、川のせせらぎ等)、特殊な音(ガラスの
割れる音、衝突音等)は、合成する事ができなかった。
そこで、発展しつつあるデジタル技術と組み合わせ、
それらの特殊な音を、実際の音源から録音(サンプリング)
し、それを楽器音として利用できる「サンプラー」が、
シンセサイザーとは別の流れとして発達する。
(シンクラビア、フェアライトCMI、イーミュレーター等)
また、「FM音源」が登場。これも演算により波形を合成
するデジタルシンセの一種であり、特にYAMAHA DX7
(1983年)は、大ヒットしたシンセとなり、1980年代
での様々なミュージシャンの楽曲(CD等)には、DX7の音が
良く入っている。(注:私は、元音響エンジニアなので、
様々な音を聞けば、それが何であるかは、だいたいわかる)
それと、この時代「MIDI規格」が提唱され、殆ど全ての
楽器メーカーでそれが採用され、各社のシンセやデジタル
機器(シーケンサー等)を接続し、自在に音楽が作れる
環境が出来上がった。(ちなみに、カメラの世界では、
こういう「規格統一」の成功例は無く、いまだに、各社で
独自のマウントであり、メーカー間でのレンズ互換性が無く、
各種機能の互換性、補助部品の互換性、用語の統一等が
一切無く、ユーザーに多大な不便を強いている。
なお、個人的には、近年での「カメラ市場の大幅縮退
(=全くカメラが売れてない)」の最大の原因は、
スマホの台頭でもコロナ禍のせいでもなく、根源的には
「ユーザー側の利便性を考えておらず、ユーザーの立場に
全く寄り添っていない、設計・企画思想や、市場の様相」
にあると思っている)
1990年代ともなると、ほとんどのシンセはデジタル化
されたし、サンプラー機能も合体し、演奏の電子的録音や
多重録音の機能も搭載され、複雑な電子楽器となっていく。
(参考:この当時は「ワークステーション」とも呼ばれた)
デジタル化されたシンセでも、基本原理は同じであるが、
機能名称が異なる場合がある。具体的には、音の三要素
を実現する為のシンセの基本機能の名称が変化した。
*「音程」
VCO=電圧制御型発振器
→DCO=デジタル制御型発振器
*「音色」
VCF=電圧制御型フィルター
→DCF=デジタル制御型フィルター
*「音量」
VCA=電圧制御型アンプ
→DCA=デジタル制御型アンプ
他の基本的なシンセ機能の名称変更は、アナログ期から
デジタル期にかけては、ほとんど無い。
(注:勿論、新機能は色々と追加されていった)
1990年代~2000年代にかけ、さらにシンセには変革期が
訪れる。
まずは、それまでのシンセは基本的には人間が手で演奏を
行うものであったが、この時代から、コンピューターに
演奏データを入力し、人間の代わりに演奏させるという
いわゆる「DTM」とか「打ち込み」と呼ばれる手法が一般的
となっていく。
同時期に発展した、パソコン上での音楽制作環境
(ハイレゾのD/Aコンバータや、DTMソフトウェア)と
組み合わせ、これにより、個人でも自宅等の簡単な設備で
「音楽CD制作」(後には配信音源制作)が可能となった。
(参考:「ハイレゾ」は、近年の技術ではなく、楽器・
音響業界では、1990年代から既に一般的であった。
近年の商品では「ハイレゾ対応」を謳い、高付加価値化
(つまり、値上げ)をしているものもあるが、一部は
実際には、単なるアナログ機器であったりする事もあり、
騙されないように原理や効能を良く理解する事が必要だ)
また、シンセはソフトウェア化もされ、鍵盤のついた
大型の楽器を設置せずとも、パソコン内部の演算だけで
様々な楽音が合成できるようになる。
(=いわゆる「ソフトウェア・シンセサイザー」である。
後の時代には、歌唱をシミュレートする「ボーカロイド」
(注:YAMAHAの商品名)に発展していく)
物理的なシンセサイザー(鍵盤楽器)は、この時代から、
パソコン等での仮想環境に負けないようにと、個性的な
特徴を持たせ始める。
それには、多数の例があるが、代表的な例だけ挙げると、
1つは、鍵盤を持たない「音源ユニット」化だ。
パソコン等でのソフトシンセは、初期のものは演算量の
関係で音質が悪かったり、最大発音数が少なかったり
したので、やはり、ちゃんとしたシンセが必要だが、
個人宅等では、楽器は置く場所を取る為に、鍵盤が無い
ラック・マウントが可能な「シンセ音源」が定着した。
他の実例では、「モデリング音源」の登場がある。
高速演算チップ(DSP等)の普及により、楽器の発音や
共鳴そのものを、事前に解析し、それと同様な計算を
楽器上で行い、よりリアルな音色を得る手段である。
この方式は、一般に「物理モデル音源」等と呼ばれる。
あるいは、全てのシンセがデジタル化してしまうと、
ここもでもまた「アナログシンセの音には温かみが
あったが、デジタルシンセは機械的な冷たい音だ」
という不満も出てくる。
その為、アナログシンセの名機(名楽器)の音を解析
して、それと同じような音がデジタルで出せるような
シンセも登場する(=バーチャル・アナログ音源)
以下写真は、バーチャル・アナログ音源(注:固有名)
を搭載したRoland JP-8000(1996年)である。

これは勿論、私物(自身でお金を出して購入した機材)だ。
本ブログでは、自身が所有していないカメラや楽器等は
「評価不能」として、それらの詳細は語らないルールと
している。(借りてきたり、処分してしまったものはNG)
ただし、機材の歴史等の話で、特定の機材の名称が出て
くるケースは多々ある、でも、それらは未所有機材の
場合では、勿論「良し悪し」等の「評価」については
一切記述していない。
これは当然の事であるが、世間一般では、この大原則
が守られていないレビュー(評価)記事等が多すぎる。
さて、JP-8000は、非常に重厚な音が出るデジタル
シンセであり、1980年代の名機「JUPITER-8」等の
音を参考にして音作りがされている。
「Jupier-8」は、奇しくも、同名(小文字表記)の、
旧ソ連製レンズ(ロシアンレンズ)が存在する(未所有、
Jupiter-9等は所有していて、様々な記事で紹介済み)
そちらのレンズは、正確には「ユピテル」と読む。
電子楽器の「JUPITER(ジュピター)-8」の方は、かなり
大型のシンセで、発売当時でも100万円弱もしていたし、
後年にはプレミアム相場化していたので、とても買える
ものではなかった。(→当然、未所有)
JP-8000ならば小型軽量で、価格も、確か10万円台と
安価であったので、まあ「JUPITER-8」の代替としては
十分であった次第だ。
なお、近年(2020年)Roland社より「JUPITER-8」の
再来とも言える「JUPITER-X」が25万円+税で発売
されているが、重量16.9kgもある超大型重量級シンセ
の為、買おうか買うまいか、相当に迷っている・・
・・さて、このままだと延々に「シンセ」の話になって
しまう(汗) 元々、好きな機材ジャンルだし、この分野
にも相当に詳しいので、キリが無い訳だ。
もうシンセの説明は、このあたりまでに留めておき、
そろそろ、本題の「画像シンセサイザー」の話に進む。
で、シンセには「音の三要素」があったが、画像(映像)
の世界では「色の三要素」が存在する。すなわち・・
*色相(H):色味、色あい
*彩度(S):色の濃さ
*輝度(V):色の明るさ
である。このあたりは他の画像処理プログラミング記事
でも、何度も述べているので詳細は割愛する。
さて、ここでの新アイデアだが、シンセにおける「音の
三要素」を、画像処理ソフトでの「色の三要素」に置き
換える、という次第だ。具体的には以下となる。
*DCO(音程)→DCH(色相)
*DCF(音色)→DCS(彩度)
*DCA(音量)→DCV(輝度)
アナログのシンセのように「何も無いところから、1から
音を創りだす」という事は、画像では困難であろう。
だから、これはシンセ(合成)と言いながらも、画像の
編集ソフト(≒エディター)としての機能となる。
つまり、何かの画像を入力した後、アナログシンセ風の
多数のツマミにより、シンセの概念と同様に画像を加工
するソフトを作る事とする。

GUI(画面操作系)の開発中の画面。
例によって、Microsoft Visual C#(.Net)を用いる。

同、ソースコード(プログラム)の開発中の画面。
で、今回のソフト開発は2日かかっている。
これまでの本シリーズ記事のような、単機能のソフト
ならば1日で十分に作れるのだが、今回のソフトは、
楽器のシンセのように、非常に多くの機能を持つので、
ソフトを作るのが大変だった次第だ。
また、最初期のシンセ「moog」は、壁一面の大きさ
ともなる巨大機器だった。それは一種の「憧れ」でも
あった訳だから、今回の「画像シンセサイザー」も
パソコン画面いっぱいの、巨大なソフト(笑)としよう。
この「画像シンセサイザー」の機能は以下の通り。
*DCH:デジタル色相制御
→画像の色相を6段階に分割し、個別に増減が可能
*DCS:デジタル彩度制御
→いくつかの補正関数を選び、その係数とオフセット値
を調整する事で、画像の色味を大幅に変更可能。
*DCV:デジタル輝度制御
→補正関数の選択と係数調整で、画像の輝度階調を大幅に
変更可能。加えて、周辺増光・周辺減光機能の付与。
*Modify:
→HPF(ハイパスフィルター)とLPF(ローパスフィルター)
により、画像の空間周波数を制御。いわゆる「シャープ」
と「ソフト」効果が出せる。
また、グレイスケール化(モノクロ化)機能を搭載。
*Memory:
→設定したパラメーターを保存、読み込みが可能
*Preset:
→過去から現代に至る、名カメラ6機種(風)の特性を
あらかじめプリセットしてある。具体的には以下だ、
1)OLYMPUS-PEN EES-2(ハーフ判)
→モノクロ化して、やや薄めのトーンとする
2)CANON IXY310 (APS判)
→ややヴィヴィッドな発色
3)CONTAX T3 (35mm判)
→コントラストがきつく、アンダー階調表現
4)OLYMPUS 4/3機 「OLYMPUS BLUE」
→青色発色を増強(エンハンス)した色調
5)NIKON Df(フルサイズ機)
→やや明るめのニュートラルな発色
6)FIJIFILM Velvia(フィルムシミュレーション)
→高彩度の発色
ただし、それらのプリセット値は、まずは仮の値で
あり、後日、良いセッティングを見つけたら、適宜、
それに置き換えていく予定だ。

上図は、本ソフト「Image Synthesizer」での、
「DCV」(デジタル輝度制御)での「周辺減光」機能を
調整中の画面。
周辺減光は、「コサイン四乗則」の式を採用しようか?
と思ったのだが、画角=θ(シータ)が不定であると
それでは計算できないので、画面中央部からの座標距離
を求め、「距離の二乗則」を考察して、それを搭載した。
まあ、上手く動いている様子である。
----
さて、プログラムは、一応暫定版が出来上がったが、
ここからが大変である。
「いったい、どの画像において、どのパラメーターを
変えて、結果、どのような画像が欲しいのか?」
かが、膨大な試行錯誤となる(汗)
例えば、アナログシンセの発展期(1970年代)に
おいても、同様に多くのミュージシャン達は、多数ある
シンセのツマミを、どこをどういじくったら、どういう
音が出るか?がわからず、相当に苦労した模様だ。
そして、作り上げた音が、実際の「音楽」に使えるか
否か?も、勿論大きな課題となる。
なので、その時代、1970年代~1980年代では、
「マニュピュレーター」(操作者)とも呼ばれた、音楽、
音響、演奏技術、電子技術等の多方面の才能を合わせ持つ
限られた人達でしか、シンセを音楽に活用する事が出来
なかった次第だが、そういう人達は稀であり、世界中を
見渡しても、数える程の人数しか居なかった。
・・まあ良い、いろいろと試行錯誤を続けていこう。

コスモスの花の写真を、なんとなくだが「絵画風」に
加工した例。
加工後画像を単体で保存してみよう。

「地味な効果だ」とも言えるかも知れない。
まあでも、「原型を留めない程にまで、画像を加工して
しまうソフト」も、これまで色々と作ってきている。
(例:本シリーズ第1回「横浜写真」、第8回「野獣派」等)
あまりに加工機能が強いと、結果の写真の用途もあまり無い
事も判明しているので、今回は、まあ地味でも良しとしよう。
・・そうそう、従前より、やってみたかった処理があった。
それは「ソフトフォーカス(軟焦点)レンズ」で撮った
写真に、シャープ(ハード)処理を掛けて、その効果が
中和できるか否か?である。
画像処理の原理的には、それは困難だ。
でもまあ、本ソフトでやってみよう。

上は「ソフトレンズ」を用いて撮った写真。
ホンモノのソフトレンズ(画像編集で加工したものでは無い)
で撮っているので、独特のソフト感が得られている。
これに、本ソフトでHPF(ハイパスフィルター。画像の空間
周波数の高いものだけを通過させ、柔らかい部分を遮断する)
を掛けてみる。

処理画像を単体で保存してみよう

う~ん、背景等が、かなり「硬調」となってしまった。
だがまあ、これはこれで、面白い表現だ。
そういえば、最初期のアナログシンセにおいても、
「どのツマミをどういじくると、どういう音が出る」
という事は、誰もよくわかっていなかった為に・・
例えば、VCFの「レゾナンス」を目一杯上げてしまうと
フィルター回路が自己発振し、「ピー」という変な音が
出てしまった。しかし、ミュージシャン達は、その
変な音が「人間の口笛に似ている」と判断し、その
発振音をさらに加工し、口笛の音に似せて、当時の
音楽に使った訳だ。(→この方法論は、かなり流行した。
もしかすると、前述の故・冨田勲氏の初期のシンセの
アルバムが元祖だったかも知れない??)
まあつまり、「想像の範疇を超える」事も、アートの
分野では必要な事であるので、そういう機能を、技術者
(開発者)が、あえて「これは設計基準外の音になるから
制限して使えなくしてしまおう」という発想は、むしろ
適切ではなかった次第だ。
まあ、本ソフトも同様だ、想定外の効果が出る事は
制限する必要はなく、むしろ新しい表現効果の為に適正だ。
・・で、なんとなく、特殊レンズで撮った写真を、さらに
特殊加工をするのに向きそうなソフトだ。
続けて、いくつか試してみよう。

上写真は、特殊アタッチメントである「宙玉(そらたま)」
を用いて撮った写真を、より明瞭化した例。

上写真は、通常レンズで実際の絵画(撮影許可のあるもの)
を撮った写真を、より絵画風に加工した例。

上写真は、カメラの内部エフェクト(画像加工処理)で、
効果を掛けすぎてしまった写真から、その効果を弱めて、
通常写真に近づけようとしている処理の例。
・・こうした特殊な写真ばかりではなく、通常の写真でも
勿論、効果的な処理ができるはずだ。

上写真は、前回のプログラミング記事でも使った写真
だが、初期のデジタル一眼レフで撮った人物写真であり、
ちょっと色味(発色)が薄く感じる。

上写真は、本ソフトで加工後。彩度と輝度を補正関数
により修正しているが、一般的な画像編集ソフトでは、
彩度を高めていくと、人物写真の場合では、肌に赤味
の色が加わってしまう危険性があるのだが、本ソフト
では、微細な調整を可能としている。
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さて、ここからは、プリセットした「既存カメラ風の効果」
を調整していくこととしよう。

「OLYMPUS-PEN EES-2」モードで加工中。
この1960年代のカメラでは、モノクロ化と彩度階調表現
の若干のシンプル化、としてプリセットを設定してある。
ただし、ハーフ判機の、PEN EES-2の搭載レンズでは、
この加工例のような、「背景をボカした写真」は
撮れないので、入力する写真を選ぶ必要がありそうだ。

「CONTAX T3」モードで加工中。
この2000年頃のカメラでは、コントラストが強く、
若干の肌の色味の低彩度化、および若干のソフト処理
により、当時の銀塩機の雰囲気を出そうとしている。
画像単体で保存してみよう。

まあ、これはこれで有りだろう。
実際のこの時代の銀塩写真は、非常に高画質であり
2000年代前半までの初期のデジタル一眼レフをも
上回っていたのだが、その事実は、限られた、高性能
銀塩機材を持つ人達のみが知る事である。
世間一般に言う「フィルムっぽい写真」というのは、
だいたいこんな感じの、低画質なイメージであろうか。

こちらは「NIKON Df」モードで加工中。
2010年代のフルサイズ機である「NIKON Df」は、
画素数が低く、解像感に欠けるが、反面、階調表現が
豊かで、高感度撮影でも明瞭な画像が得られる。
オールドレンズ母艦としても適するが、オールドレンズ
では絞りが粘っていたり、NIKON Dfのマウント部に
ある、レンズの絞りを叩くレバーが劣化しやすく、
結果的に、正しく絞り込めずに若干の露出オーバーの
(明るめの)写真となるケースが良くある。
でも、これもまあ、目論見どおりの設定である。
プリセットカメラは、いずれも自身で所有している
ものであるから、その特性は十分に理解している。
全く同じ、とは言わないまでも、その機体の持つ
特徴が、プリセットで表現できるならば十分だ。
以下、色々と加工例があるが、キリが無いので、適当な
ところで終わりとしておく。
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で、要は、「(ミュージック)シンサイザー」とは、
「様々な音が何でも作れる夢の楽器」であった訳であり、
その所有者が、「実際に音が創れるのか?」あるいは
「実際にその音色を活用して楽器演奏が出来るのか?」
という点を無視したとしても、その「憧れ」は存在して
いた訳だ。
シンセは、後年には「音色プリセットの充実、あるいは
拡張音色セットの販売」そして、演奏の課題については
「コンピューターによる自動演奏(DTM)」で、それら
の課題は、問題点では無くなり、現代では、誰もが
シンセを扱える時代となってきている。
本ソフト「画像シンセサイザー」も同様である、
初期の「(ミュージック)シンサイザー」が、本記事で
述べてきたような、VCO/VCF/VCA/ADSR/LFO等の原理
を理解していないと使えなかった難解な楽器であった
ように、本ソフトも、新規概念であるDCH/DCS/DCV
等を理解していないと使う事ができない。
ただ、本ソフトは、開発者である私が、個人的な用途
にのみ使うものである(本シリーズ記事での、他の
開発済みソフトも全て同様。完全な個人用途だ)
なので、使い方が難解であっても、これを使った事で、
どんな画像が出てくるか?といった、難しい要素は、
他に誰も本ソフトを使わないから、課題にはならない。
で、「何故、そんな公開も販売もしないソフトを作って
いるのか?」という話については、本シリーズ記事では
「こういう発想で、ソフトウェアを開発する」という
プロセスを紹介する目的だからである。
その「思想」については、本シリーズ記事では、毎回の
ように述べているので今回は詳細は割愛する。

(上写真は、通常の写真を本ソフトの「HPF」を極度に
掛けて加工したもの)
最後に、本ソフト(研究開発)の成否であるが、
まあ、○(成功)としておこう。
ただ、ソフトの物量は大きいが、中身の技術は、さほど
高度な事は行っていない。難易度は3点(標準)位だ。
結果、本シリーズ記事のここまでの通算(総合)成績は、
以下のようになる。
総合成績=9勝6敗6分、勝率(成功率)=4割2分8厘
本シリーズ記事でのルールとしての、最低ラインの
勝率(開発の成功率)3割を超えてはいるが、目標の
勝率5割には届いていない。
ただ、最近の本シリーズでは、勝率を高める事を
無意識でやってしまっているのか?あまり高度で
複雑な画像処理への挑戦が少ない(汗)
「失敗」という負の情報の公開も重要だと思っている、
「何をどうしたら、失敗するのか?」そこは実際に
それを試してみた人で無いと知り得ない情報だからだ。
今後は「もっと新しく、高度で、複雑な画像処理」を
試してみたいものである。
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では、今回のプログラミング記事は、このあたりまで。
なお、本ブログは、画像保存容量が限界に達している為
近日中に、新ブログに移行する予定である。
本プログラミング・シリーズは、本記事をもって暫定
最終回としておく。