今回記事では補足編として、コシナ社の「Voigtlander」
(フォクトレンダー:原語にある変母音は記載の便宜上、
省略する。以下、本記事内で全て同様)「SLR」シリーズ
(Single Lens Reflex:すなわち、一眼レフ用という意味)
レンズ群を6本紹介する。(注:適宜「SL」レンズと記す。
レンズ型番は、「SLR」ではなく「SL」であるからだ)
なお、コシナ社は1999年より「Voigtlander」ブランド
のカメラおよびレンズの展開を開始(注:この1999年に
ちなみ、本第99回記事で、こうした特集を行っている)
以降、現代に至るまで高性能レンズの開発販売を継続
しているが、今回紹介SLレンズの大半は、Voigtlander
最初期の、2000年代初頭(2000年~2003年頃)に
発売されたものである。本記事でのレンズについては、
特に記載が無い場合、その時期に発売されたもの、と
解釈して貰えればよい。なお、SLRシリーズの変遷は
ややこしいので、適宜、記事中で説明をしていく。
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では、最初のSLレンズ

レンズは、Voigtlander APO-LANTHAR 180mm/f4 SL
Close Focus(新品購入価格 54,000円)(以下、APO180/4)
カメラは、OLYMPUS OM-D E-M5 MarkⅡ Limited(μ4/3機)
2003年に発売のMF単焦点望遠レンズ。

最初期のSLシリーズレンズ(2000年~2003年の発売)
は、まだ銀塩時代であった為、様々なMF一眼レフ用
マウント(F(Ai),FD,PK,MD,OM,Y/C,M42等)
での発売であった。
しかしながら、世の中はデジタル時代へ突入する寸前で、
しかも、新規デジタル一眼レフのマウントは、AiAF、
EOS EF、α、KAF、4/3となっていた為、これらの古い
MF一眼レフ用マウントのレンズは、この時代であっても
既に中上級マニア向け(まあ、一般的には「時代遅れ」
とも言えよう)であった。
また、マウントが分散されてしまった為か? 各マウント
での生産数は極めて少なく(推定、各1000本以下?)
人気のあった一部のSLシリーズレンズ機種を除き、以降
の継続生産もされなかった為、初回ロット(生産分)が
はけてしまうと、もう後年では、これらを入手する事が
大変困難となってしまっていた。
その為、生産終了から10年も経った2010年代後半から
本APO180/4や後述のMAP125/2.5等の、特にレアな
レンズは、哀れ「投機対象」となってしまい・・
概ね発売時定価の2倍(本APO180/4が発売時実勢価格
約5.5万円に対し現行相場は約10万円、MAP125/2.5は
発売時定価約9.5万円に対し、現行相場は約19万円)
という不条理な迄に高額な中古相場で取引されている。
何が「哀れ」か?と言えば、これらのSLRレンズ群は、
現代の機材環境においては、使いこなしがとても難しい。
初級中級層では、お手上げに近い状態になると推察される
為、これらのレンズを入手した所で実用価値は低い訳だ。
まあつまり、実用に値しなければ、また転売(投機)対象
になってしまう訳であり、それを繰り返しても、売却
価格は、必ず下る状態であろうから、買った人は、必ず
転売損失を出してしまう。
実用品としてガンガン使うならば、相場価値の下落は勿論
無視できるのだが、実用レベルに満たなければ、これは
もう、無駄な買い物となる。まあ、だから「哀れだ」と
称した訳だ。
これらを買って、ちゃんと使いこなすには、高いスキルが
要求される、しかも高額相場であり、そこまであれこれと
無理をして買う位ならば、代替できる現代レンズは、他に
いくらでも存在する訳だから、そっちを買う方が現実的だ。

さて本APO180/4であるが、「Close Focus」という名称
が型番についている。これは「マクロとまでは呼べないが
寄れるレンズです」という意味であり、フォクトレンダー
製SLレンズでは、本レンズと後述のAPO90/3.5の2本のみに
付けられた名称だ(注:別途「Close Focus」と呼ばれる
ヘリコイド内蔵型マウントアダプターが存在している)
最短撮影距離は1.2m。マクロレンズを除く180mm
単焦点望遠レンズとして、トップ(クラス)の性能だ。
最大撮影倍率は1/4。ただし、本レンズは、その近接性能
を活用する為、μ4/3機で使用するケースが大半であり、
μ4/3機の通常モードで、360mm/F4、最大1/2倍。
同テレコン2倍モードで、720mm/F4、最大等倍となり、
これは望遠~超望遠マクロと等価であり、自然観察撮影や
野鳥撮影等において、高い被写体汎用性を持つ。
弱点は、あまり描写力がスペシャルという訳では無く
比較的平凡な描写力な事か? 特に、同時代の他のSLR
シリーズレンズ群と比較すると、本レンズは最も凡庸な
描写力に感じてしまう。
なお、APOと名がつく数機種のレンズでは、異常低分散
ガラスレンズを、1枚ないし2枚採用している。
ただし、コンピューター光学設計が未発達な時代でも
あった為、特殊硝材の利用は、元々ある基本的な光学系
での特定の収差(例:軸上色収差)を低減する目的で
あり、近代的な光学設計のように、特殊硝材や非球面
レンズの大量使用を予め想定して、諸収差の発生を
徹底的に低減するような設計手法では無い。
まあ、これは当時としては普遍的な設計手法ではあるが、
こうしたレンズをクラッシックな外観としたとした事が
ちょっとしたポイントであり、外観は古臭いが、中身の
光学系は新しい、という「ギャップ」感が面白い。
発売当時としては、SL系レンズは高描写力であったとは
言えるが、やはり現代的設計に比較すれば古さは隠せない。
これらを、余りに高価な「投機相場」で買ってしまうと、
物凄くコスパが悪くなるので、くれぐれも要注意である。
以下、参考の為に、各時代におけるSL(R)系レンズの
SL型等の年代別の特徴・仕様を纏めておく。
<SL(R) LENSの年代別特徴・仕様>
SL型:2000年頃~2007年頃の生産。
・各種MFマウント(Ai/FD/PK/MD/OM/YC/M42)
(MAP125/2.5のみEFおよびα用電子接点付き版有り)
・超広角はFマウントのみ。Fマウント版はCPU非搭載。
・多くの機種が、このSL型のみで生産終了。
・非球面や特殊硝材の使用は、あっても1~2枚程度。
(→つまり、現代レンズ程の高描写力では無い)
SLⅡ型:2007年頃~2012年頃の生産。
・マウントはAi/EF/PKのみ。Fマウント版はCPU搭載。
・小型化や薄型化を目指した設計思想である。
・定価は5万円程度とローコストであった。
SLⅡN型:2012年頃~2016年頃の生産。
・マウントはAi/EFかAi(F)マウント版のみ。
・外観が変更→同時代のμ4/3機用NOKTONに類似。
・機種数は減り、28/2.8、40/2、58/1.4のみ。
SLⅡS型:2016年頃~の生産。
・マウントはAi版のみ。(勿論だがCPU搭載)
・外観を1960年代のNIKKOR(AUTO)と全く同等に
している(しかし、勿論だがAi-S対応だ)
・レンズ先端色の銀色版と黒色版を選べる。
・しばらくの期間40/2と58/1.4のみの生産であった、
生産終了となっていた28/2.8は、2021年より
再生産が開始されている。又、同2021年に
90/2.8のラインナップが追加された。
・40/2と28/2.8で大幅な最短撮影距離の短縮の
措置が行われているが、内部光学系は旧型と
同一であり、ヘリコイドの繰り出し量が伸びて
いる改良である。
・これらの定価は60,000円~68,000円+税と、
旧型より時代に応じて少しづつ値上げされている。
なお、本記事の文末に、各SL(R)レンズの「年表」を
掲載している。
それと、各レンズの製品名では「SL」であるが、
全体のシリーズ銘はSLR(Single Lens Reflex)Mount
Lenses となっている。
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では、2本目のレンズ

レンズは、Voigtlander ULTRON 40mm/f2 SLⅡS
(新古購入価格 38,000円)
カメラは、CANON EOS M5(APS-C機)
本レンズは、短期間生産が殆どのSLレンズ群の中では
珍しい「ロングセラーレンズ」であり、その歴史は、
SL版(2002年)、SLⅡ版(2008年)、SLⅡN版(2012年)
そして、本レンズSLⅡS版(2017年)となっている。

ちなみに、2000年代後半に発売されたSLⅡ型という
シリーズでは、まず、発売マウントが、それまでのMF
一眼レフ用マウントでは無く、NIKON Ai-S、CANON EF、
PENTAX Kという、当時主流であったデジタル一眼レフ
向けマウントに改められている。(まあ、前述の通り、
初代SLシリーズ発売時点でさえ、銀塩MF一眼レフ用の
マウントでの販売は、既に「古さ」を感じていた訳だ)
そして、例えばNIKON F(Ai-S)マウントのレンズだが、
この2000年代前半~中頃の時代のNIKONデジタル一眼
レフにおいては、レンズからの情報が伝達されない場合、
「レンズ情報手動入力」の機能を持つカメラで無いと、
まず使用する事が出来ない。この機能は「仕様的差別化」
により、NIKON高級機(例:Dヒトケタ、D三桁シリーズ)
で無いと使えなかった。まあつまり、NIKON D二桁機や
後年のD四桁機(の一部)は、「安物のカメラだから、
オールドレンズや他社MFレンズは使えませんよ」という
非常に意地悪な(ニコン側での)仕掛けである。
こういう「仕様的差別化」をする事自体が、まず問題
ではあるが、コシナ社では、この課題に対応する為、
SLⅡ型のレンズから、NIKON F(Ai-S)マウント版では
NIKON製のカメラ本体側に対しレンズ情報を伝達する為の
部品(一般に、CPUやROMと呼ばれている)を搭載した。
これで、NIKON D二桁機(例:D70/D80/D90等)等
でも、Voigtlander SLⅡ型レンズが使える。
(注:ただし、これも仕様的差別化による、低価格機での
ファインダー&スクリーンの劣悪な性能により、これらの
レンズを低価格機でMFで使用する事は、大変困難である。
ここもまた、「安いカメラを使うな、高いカメラを買え」
という製品戦略そのものであり、決して賛同できない)
なお、この課題の解決法は簡単であり、NIKON F(Ai)
マウント版のVoigtlander SL系レンズを購入しても、
決してNIKONデジタル一眼レフでは使わず、後年の
ミラーレス機等で、NIKON Fマウントアダプターを
経由して使う事だ。そうすれば、SLだろうがSLⅡだろうが
電子接点を無視して、関係無く使用する事ができ、かつ、
やりにくいMF操作も、近代のミラーレス機に備わる優秀な
ピーキング機能頼りで使ってしまえば、全く問題は無い。
(注:今回使用のケースのように、NIKON F(Ai)のレンズ
を、CANON EOS M5で使う事が出来る)
それどころかNIKONの一眼レフ全機種には入っていない
「手ブレ補正」も、一部の(他社)ミラーレス機であれば、
焦点距離情報の手動入力により、それが有効となる訳だ。
まあそれでも、「NIKON F(Ai)マウント版を買っても、
NIKON機で使用しない(使用したくない)」というのも、
なんとも矛盾のある話だが、このあたりの原因は
全てNIKON側の不条理な仕様にある為、やむをえない。

さて、本ULTRON40/2に関しては、私は最初期のSL版を
所有していたが、事情があって譲渡してしまっていた。
次に入手したのは、15年も後の本SLⅡS版であった。
再購入の理由は、本SLⅡS版では最短撮影距離が25cm
まで短縮されていて、準マクロレンズとして使用できる
他、40mmの実焦点距離を持つレンズの中では、本レンズ
が最も寄れる(注:40mmマクロを除く)レンズであり、
その歴史的価値の高さを鑑みての事であった。
ただ、光学系は、全てのULTRON40/2系で同一な為、
近接撮影を行わないならば旧機種でも十分と言えるが
(注:一部のバージョンでは「クローズアップレンズ」
が付属されている)生憎、本レンズも「セミレア」な
レンズな為、旧機種でも中古相場が、あまり下落して
いない(つまり、最新型を買っても値段の差は少ない)
ただ、現行販売機種である為、幸いにして「投機対象」
にはなっておらず、3万円台という適正な中古相場で
いつでも購入する事は可能であろう。
(注:近年では中古流通は極めて少ない。こういう
「マニア必携レンズ」の流通数が潤沢で無い事自体、
マニア層が激減してしまっている状況が推測できる。
現代での主力ユーザーである超ビギナー層等では、
「フォクトレンダー」自体、全く知らない事であろう)
総括だが、基本的には、悪い性能のレンズでは無い為、
マニア層であれば購入に値するレンズであると思われる。
近接撮影用途の有無、および各年代でのバージョンは
外観デザインが大きく異なる為、用途と好みに応じて
バージョンを選択するのが良いであろう。
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では、3本目のレンズ

レンズは、Voigtlander COLOR-HELIAR 75mm/f2.5 SL
(新品購入価格 43,000円)(以下、CH75/2.5)
カメラは、SONY α7S(フルサイズ機)
2000年代初頭の最初期の生産分だけで、ディスコン
(生産中止)となってしまったレンズの為、大変な
レアものである。中古は2000年代を通じて1~2度
しか見掛けた事は無く、現代において入手する事は
恐らく、大変困難であろう。

海外のマニア層のレビューであったか?本CH75/2.5と、
PENTAX製の、smc又はHD型番のDA70mm/F2.4の
「両者のレンズ構成が同一だ」という指摘があった。
まあ確かに、図面(構成図)だけを見れば、そこには
レンズの寸法は記載されていない為に、「類似して
いる」と、単純に思ってしまうのかも知れないが・・
本レンズはフルサイズ対応、DA型はAPS-C機専用で
ある為、まずレンズのサイズ感が大きく異なっている。
両者の比較検証(本シリーズ第47回等)記事においては、
「両者の描写力は確かに似ている、しかしながら
フルサイズ用とAPS-C機専用では、そもそも用途が異なる。
さらには、両者とも、銀塩時代の小口径標準レンズの
50%スケールアップ・ジェネリックである可能性が高い」
と結論を述べている。
すなわち、過去の完成度の高いレンズ設計を流用した為、
両者は極めて類似したレンズ構成となったのだろう。
これらを「コピー品だ」と言うならば、大元の1970年代
頃の各社の50mm/F1.8小口径標準は、殆ど全てが、
酷似した5群6枚変形ダブルガウス型構成である。
この光学系は、当時から「完成の域」にあり、長期間
設計を変える必要もなく、一部は近代迄、この構成の
小口径標準レンズの製造販売が継続されていた。

まあつまり、本CH75/2.5については、
「昔からの定番の光学系を拡大した設計手法であり、
悪い描写力ではないが、比較的平凡な描写傾向なので、
これを代替できるレンズは、世にいくらでもある為に、
本レンズ(やDA70/2.4)でなければならない理由は無い」
・・という事で、かなりのレアものとなっている本レンズ
を必死に探したり、稀にあっても、高額な投機相場と
なっている場合には、無理をして入手する必要は無いで
あろう。
仮に、たまたま安価に見つけた場合のみ、上級マニア層
向けとしての推奨品となる、という感じか・・
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さて、4本目のレンズ

レンズは、Voigtlander MACRO APO-LANTHAR 125mm/f2.5 SL
(新品購入価格 79,000円)(以下、MAP125/2.5)
カメラは、CANON EOS 6D(フルサイズ機)

レアものである。いったい、どこがどういう訳なのか?
酷い投機対象レンズとなってしまい、現代で本レンズは、
19万円前後という、発売時定価(95,000円+税)の
約2倍という、不条理な超高額相場だ。
まあ、近代(2016年断層以降)の「APO-LANTHAR」は
極めて高い描写力を発揮する。その為、COSINA社でも
「APO-LANTHAR」(アポランター)を、高性能レンズ
としての「称号/ブランド」として扱いたいのだろう。
メーカー側としては、そういう市場戦略で良いが、
消費者側として、昔のアポランターを含め「その名前
がついていれば、なんでもかんでも銘玉だ」と考えて
しまうのは、変な(誤った)考え方だ。
それでは、例えば「セザンヌ」という画家の絵ならば、
「全てが、お洒落な名画なのだ」という風に、その名前
から来る印象や感覚的な雰囲気だけで、そう思い込んで
しまうようなものだ。
なお、「APO-LANTHAR」の「LANTHAR」とは、その
開発の時代(旧フォクトレンダー社、1950年代)に
ランタノイド(Lanthanoid)系の元素をガラスに
混ぜた事に由来すると思われる。これの説明は、長く
なるので、いずれまた詳しく述べる。
それと、本ブログの過去記事で「LANTHER」の誤記が
あるかも知れない。できるだけ「LANTHAR」に直した
つもりだが、全ては修正できていないかも知れない。
(ちなみに、先日COSINA社から到着した2022年版の
総合カタログの、Web版の草稿にも、正:LANTHAR
誤:LANTHER の誤記があった。私も、それを参照して
製品名を打ち込んだ状況もあった。なお印刷版の
カタログでは、正しくLANTHARに改められていた。
Lanthanoidだから、LANTHARが正しいという事だ)
名前から来る印象だけで、不条理な高額相場になって
しまっている状況には賛同できないし、
以下の3つの理由からも、本レンズは推奨できない。
1)本レンズは使いこなしが大変難しく、
本シリーズ第11回~第12回「使いこなしが難しい
レンズ特集」において、ワーストワンの低評価である。
2)投機対象品となり、中古相場が高額すぎる。
2000年代での私の新品購入価格が、税込み79,000円
その後、2000年代後半に、神戸の中古専門店で
逆輸入新品(何本もあった)が、48,000円で売られて
いたにも関わらず、「もういらないよ」と判断して
買わなかったくらいだ。まあ、つまり、3~4万円
程度の価値しか無い、と見なしている。
3)2018年に、17年ぶりの後継新製品である
「Voigtlander MACRO APO-LANTHAR 110mm/f2.5」
が発売されていて、そのレンズであれば、この旧型の
弱点の多くが解消されているので、そちらを買った
方が望ましい。(注:SONY FEマウント版である)
そちらも販売本数が少なく、中古流通も玉数が少ないが
現行製品であるから、気長に中古を待つか、あるいは
ちょっと無理して新品入手する手段もある(そうしても、
本MAP125/2.5の高額中古相場よりも安価である)
まあ、そんな感じである。
本MAP125/2.5を、現代の高額投機相場で入手すべき
必然性は全く無い。

ただまあ、ダメダメなレンズという訳ではなく、そこそこ
(かなり)良く写るマクロレンズではある。
ただし、繰り返し述べているように、本MAP125/2.5は
私が「修行レンズ」と呼んでいる位に、使いこなしに
苦労が伴う。その為、長時間の撮影は、まず集中力が
持たず、その点でも「必要度」や「エンジョイ度」の
評価の低いレンズとなってしまう。
新型MAP110/2.5も、やや「修行レンズ」傾向はあるが、
本MAP125/2.5よりずっとマシであるし、描写力自体も
新型MAP110/2.5は、コントラストの高い深みのある
優れた描写力を得られる為、そちらがやはりオススメだ。
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さて、5本目のSLレンズ。

レンズは、COSINA 復刻TOPCOR 58mm/f1.4
(新品購入価格 44,000円)(以下、復刻TOPCOR)
カメラは、OLYMPUS PEN-F (μ4/3機)
元々は、東京光学(トプコン)の1960年代の名レンズ
「トプコール(Topcor)58mm/F1.4」を、2003年にコシナ
社がフォクトレンダーブランド(? 正確に言えば、
Voigtlander名はついていない)で復刻限定版として、
(NIKON AiおよびM42で、各限定800本)で発売した
レンズではあるが・・・ これは後年に外観変更され
Voigtlander NOKTON(ノクトン)58mm/F1.4となり、
以降では、フォクトレンダーSLレンズの、定番の
ラインナップ(現行品として生産継続中)となった。

さらに、2016年版のNOKTON 58mm/F1.4 SLⅡS
では、前記ULTRONと同様に1960年代のMF版NIKKOR
のデザインを踏襲し、リムの色も黒と白が選べる等、
とてもマニアックな製品となっている。
ただ、気になるのは、本復刻TOPCORは、フィルター径
がφ58mmであったが、NIKKOR風デザインのSLⅡS型
では、当時の(MF)NIKKORが、ほぼφ52mmのフィルター
径で統一されていた為・・
(注:これは設計における「標準化思想」の一環であり、
当時の高度成長期の日本であれば、大量生産の効率化や
ユーザー利便性により、こうした「標準化」は、優れた
思想であり、一種の美徳でもあった。
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これはNIKONのみならず、当時のCANONもFD系レンズで
同様の標準化思想が見られ、又、1970年代のOLYMPUS
OM-SYSTEMにおいては、さらに強い標準化思想が顕著だ。
だが、その後の時代で、国内の製造業が衰退すると、
こういう「標準化」のノウハウも失われ、各社のレンズ
のフィルター径はバラバラ・マチマチになってしまった。
これはユーザー利便性を損なう為、良くない傾向である。
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・・が、ごく近年、2010年代後半よりTAMRONにおいて、
多くの単焦点レンズをφ67mmのフィルター径で統一
する様相/傾向が見られ、これは好ましく思う。
例えば、ごく単純な話をすれば、保護フィルターやND
フィルター、他の特殊なフィルター等の使いまわしが
すごく楽であり、ユーザー利便性が高い。
---
そのフィルター市場だが、2019年頃から、もう安価な
製品を全て生産中止として、新製品は、どれも恐ろしく
高価(1万円等)であり、中古レンズが1本買えてしまう
程の高価格だ。
まあ、交換レンズ自体が市場縮退で殆ど売れていない為、
フィルターもやむなく値上げをせざるを得ないのだろうが、
この価格帯では様々な径でフィルターを揃えるのは無理だ。
「売れないから値上げする」では、あまりに無策では
無いだろうか? カメラもレンズもフィルターも全て同様
であり、企業努力や市場開拓の方法論が足りないと思う。
まあだから、レンズ市場においては新鋭の海外製(中国製)
等の格安レンズが付け入る隙が出てしまう訳だ・・)
・・で、NIKKORがφ52mmで統一されていた為、この
NOKTON 58/1.4 SLⅡS も、その意匠(デザイン)に
合わせてφ58mm→φ52mmに小型化されている。
(注:内部光学系は本復刻TOPCOR以降、NOKTON58/1.4
シリーズにおいて、変更されていない)
当該SLⅡS版は所有していない為、詳細の言及は避けるが
1980年代に、MF一眼レフの小型化競争が起こった際、
(1972/3年のOLYMPUS M-1/OM-1と1976年のPENTAX
MXが、MF一眼レフの小型化競争の発端となった歴史だ)
各社は、それまでのMF単焦点レンズの小型化を行い、
一部のレンズでは、小径化により描写性能を落として
しまった実例が、いくつか散見される為、個人的には
フィルター径の小型化は、あまり歓迎できる改善とは
見なしていない。

・・まあ、その話はさておき、本復刻TOPCORであるが、
MF大口径標準レンズ(50mm/F1.4級)の設計の完成度
が高まる(1980年代)以前の時代(1960年代)の
設計を踏襲したものである。(→つまり、古い)
したがって、色々とオールドレンズと同等の弱点を
抱えている(参考記事:最強50mm選手権シリーズ
第1回MF50mm/F1.4(1)、第5回MF50mm/F1.4(2)、
第3回AF50mm/F1.4(1)、第6回AF50mm/F1.4(2)等
で、この時代の殆どの標準レンズを紹介している)
オールド標準レンズの特徴(長所短所)を、ちゃんと
理解し、課題を回避しながら使うのは、少なくとも、
中上級マニア層以上のスキルが必要となる。
本復刻TOPCORや後継のNOKTON58/1.4では、その事が
わかっていない状態で、レンズの言うがままに撮影すると、
ボケボケの酷い写りを頻発してしまうので、物凄く注意
(というか、ちゃんと撮る為の技能)が必要だ。
同様に評価のスタンスも注意が必要であり、これが
オールドレンズの復刻版である出自を知らないで
「口径食が出る」だの「色収差が出る」だのと評価
しても完全に無意味である。
「オールドレンズを志向する」というのは、まずその
弱点を把握し、許容あるいは回避、応用(や逆利用)
する事から始まる。だがこれは高難易度な話であり、
初級中級層では、まず対処不能だと思う。

NOKTON58/1.4シリーズが現行製品である為、中古等
で各年代の、本光学系のレンズを入手するのは、さほど
困難では無いが、中級層以下では使いこなせないであろう。
まあつまり、上級層以上、または実践派上級マニア層の
御用達レンズであり、一般層に推奨できるレンズには
成り得ないという状況だ。
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さて、次は今回ラストのSLレンズ。

レンズは、Voigtlander APO-LANTHAR 90mm/f3.5 SL
Close Focus(新品購入価格 47,000円)
(以下、APO90/3.5)
カメラは、FUJIFILM X-T1(APS-C機)
これは、少しだけ継続生産されたレンズで、後年のSLⅡ
型では、ずいぶんと小型軽量化された模様だ、本レンズ
は最初期のSL型であり、後継型は未所有である。

非常に優秀な設計のレンズであり、発売当時のカメラ誌
等では、本レンズの描写特性を実測し「無収差レンズ」
という評価を下していた事もあった。
私は、個人的に他者の評価を信用する事は無い。撮影目的
も撮影技能も個々に異なるだろうし、ましてや雑誌記事等
でスタティック(静的)に、歪曲収差やMTF特性を実測
したところで何の意味があるのだろうか?と、いつも疑問
に思っている。まあ、そんなデータは設計側では百も承知
で設計をしている訳であり、設計側のコンセプト上では、
全ての収差を補正する事は、まず無理であるから、レンズ
の実用シーンを考えて、どの収差を優先的に補正して設計
するかを決める訳だ。
その設計思想を理解していないユーザー層や評論家層が
いくら、「このレンズは歪曲収差が発生する」とか言った
としても、実用上で、真四角な被写体など、撮ろうとも
思わない大口径中望遠レンズ等では、意味の無い評価では
なかろうか? まあつまり「評価の視点」と「設計上の
コンセプト」が、ずれまくっている訳だ。そんな評価が
参考になる筈も無い。
ただまあ、本APO90/3.5が「無収差レンズ」と評価
された事については、私は同意していた。その当時、
(発売直後に新品購入した)本レンズを、しばらく使って
いて、描写力上の不満を感じた事は、一切無かったからだ。
諸収差をバランス良く低減させる事に成功した最大の
理由は、開放F3.5と口径比を抑えた事からである事は
明白であった。いくつかの収差は、レンズの口径比(≒
開放F値)が明るくなると、その何乗もの比率で急激に
増大して、手に負えなくなる。そう、本APO90/3.5では
開放F値を犠牲にしても、収差を補正して描写力を優先
した訳である。
だが、当時の消費者層においては、「解放F値(注:
勿論だが、開放F値の誤記)が暗いレンズは低性能の
安物のレンズだ!」という誤解が蔓延していた為に、
本レンズは注目されず、結果的に販売数も少なく、後年
においてはレア物(希少品)となり、現代においては
残念ながら若干の投機的高額相場となってしまっている。
でも、中望遠レンズでは人物撮影を始め、背景をボカ
した被写界深度の浅い写真を撮りたいと思うケースも
多々あるだろう、その際に、開放F3.5では、ボケ量が
不足してしまう事は否めない。
しかし、本APO90/3.5では、高い描写力を持つ為、
最短撮影距離を短くしても、設計基準上での画質限界点・・
(注:「設計基準」という用語の内容には、非常に多数の
項目・意味を含む為、中級マニア層等が良く言う・・
「マクロレンズでは、最短撮影距離付近で高画質を得て、
通常レンズでは無限遠で最高画質が出せるように設計する、
これを”設計基準”と呼ぶ」という解釈は誤りである。
確かにそれは非常に多数ある「設計基準」の1つではあるが、
「設計基準=距離基準」という逆向きの解釈は成り立たない。
まあつまり、設計業務の実務に造詣が浅い人(評論家等)が、
実際のエンジニア等から聞きかじりで覚えた専門用語、
でしか無かった、といういきさつであろう・・)
・・で、本APO90/3.5では、その設計基準上での画質
限界点に余裕がある為、最短撮影距離を50cmまで短縮
する仕様とする事が出来、本レンズにも「Close Focus」
(≒近接撮影)という名称が与えられた。
これで、近接撮影に限っては、浅い被写界深度が得られ
ない、という不満は解消でき、準マクロレンズとして
使用する事が出来る。最大撮影倍率は、フルサイズ機で
1/3.5倍であるが、現代の機材環境では、小センサー
の母艦の使用やデジタル拡大機能の併用により、レンズ
自体の最大撮影倍率のスペックは、さほど重要では無い。
まあつまり、殆どマクロレンズとして活用できる訳だ。
ただ、この状態でも中距離撮影では、多大なボケ量を
得る事はできない、開放F値がF3.5だからだ。
しかし、本レンズが発売された銀塩末期とは時代が
異なり、現代においては初級中級層等であっても、
85mm/F1.4~F1.8級のレンズくらいは、持っていても
不思議では無い時代である。銀塩時代のそれらは、
ほとんど人物撮影の業務用途専用のレンズであったが、
有料モデル撮影会等が増えて来た為、特に撮影という
行為に特定の目的を持たない初級中級層等が、そうした
有料モデル撮影会等に行くケースも増え、そうなると
他の参加者に負けないようにと、85mm/F1.4級レンズ
等を志向するケースが増えてきているからだ。
「85mmレンズ=人物撮影用」という話も、その昔の
1970年代~1980年代において、(レンズ)メーカー
やカメラ流通市場が、交換レンズの販売促進を目指し
28mm=風景,35mm=スナップ,50mm=汎用,85mm=人物
という、一種の「キャッチコピー」(広告戦略)を
行った為、当時から現代に至るまで、その販売戦略
の悪影響が残ってしまっていて、初級中級層等でも
「今度、モデル撮影会に行くから、85mmレンズを
買わなくちゃ」と、周囲の先輩、ネット等からの情報、
店舗販売員のセールストーク等に乗せられて、高額な
ほぼ業務用途のレンズを買わされてしまう訳だ。
勿論、人物撮影では、どんなレンズを使っても問題は無い。
ただ、見ず知らずの異性間においては、警戒距離
(パーソナル・スペース等と呼ばれる。約70cm以上)
を維持しないと、なかなか緊張感は抜けてこないし、
あるいは、近年のコロナ禍から始まった社会的距離
(ソーシャル・ディスタンス。約1.8m以上)の概念
を保つ為には、広角レンズ等で、ものすごく近接した
人物撮影は、まず出来ず、やはり中望遠(フルサイズ
換算で85mm~135mm程度の焦点距離)レンズが
人物撮影に適するのは確かであろう。
ただまあ、それでも「人物撮影は85mm/F1.4でなくては
ならない」という強い理由は無いと思うし、それどころか
そういう風潮を助長するかのように、新製品の85mmレンズ
が発売されると、専門評価者層等は、判で押したかのように
美人の職業モデルを雇ってのポートレート撮影をするだけで
「良く写るレンズですね、はい、オシマイ」という評価
ばかりである。まあ、それでは、レンズの特性など、何も
わからないだろうし、それを読んだ消費者層も「美人モデル
を雇って撮影する事が正当なのだ」と勘違いしてしまう。
・・なんともつまらない話だ、程ほどに留めて置こう。
総括だが、本APO90/3.5は、セミレアレンズである為、
いくら描写力が高いとは言え、推奨できない。
又、変に褒めると、投機対象となってしまい、高騰して
しまう恐れもある。(注:既に少しヤバい状態だ)

本記事で紹介した、いずれのVoigtlander SL系
レンズであっても、記事中で記載している私の購入価格
よりも高騰している場合は、もう一度、それでも入手
する価値があるか無いかは、良く検討する必要があると
思われる。基本的に私は、コスパが悪いと見なす製品は
まず購入しない為、私が購入した価格は、それすなわち
自分なりにコスパが許容できる限界点である。
中上級マニア層等では、個々に自分なりの「価値感覚」
や「価値観」を持っているだろうから、自身で判断すれば
良いと思うが、初級中級層や、初級マニア層では、
わざわざ、使いこなしが難しいVoigtlander SL系レンズ
を高値(投機的相場)で購入する必然性は、まるで無い
ので、推奨しない事としておく。
なお、本記事で紹介したレンズ以外の他のSLシリーズ
製品では、以下のようなものがある。
まず、最初期のSLシリーズにおいては、
ULTRA-WIDEHELIAR 12mm/F5.6 Aspherical SL
SUPER-WIDEHELIAR 15mm/F5.6 Aspherical SL
の超広角系レンズが存在するが、Fマウントのみで、
ミラーアップが必要等、面倒に見えたので未所有だ。
また、次世代のSLⅡ(/N)シリーズレンズでは、
COLOR-SKOPAR 20mm/F3.5 SLⅡ(N) Aspherical
COLOR-SKOPAR 28mm/F2.8 SLⅡ N Aspherical
があるが、これも未所有。
(注:28/2.8は、いったん生産終了となっていたが
2021年に最短撮影距離を短縮した仕様で再生産が開始)
まあ、これら広角系のSLレンズは、既にデジタル
時代に入っていた為、本来の(超)広角画角が
当初のAPS-C機ばかりのデジタル一眼レフでは
生かせない為、銀塩一眼レフ専用、という風に
思っていたので、購入をしなかった訳である。
それから、2021年末には、新系列レンズとして、
APO-SKOPAR 90mm/F2.8 SLⅡS
が発売されているが、現状未所有である。
現代においても、フルサイズ機で使用するか、APS-C以下
の機体で、これらVoigtlander SL系レンズを使用するか
の差異により、どのレンズを、どんな目的で使うか?の
方法論に強く影響が出ると思うので、購入前の検討は
慎重に行う必要があると思う。
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参考:SL型とか、SLⅡS型とかがややこしいので
SL(R)レンズの全てを年表形式で纏めてみよう。

注1:各レンズの塗りつぶしよる販売期間の年代は、
表計算ソフトの都合上、1年ほど前後に誤差がある。
注2:SL(R)系レンズでは、全販売期間を通して
継続生産されているものは極めて少ない。
これが、一部のレンズが投機対象となる原因であろう。
しかし、高々15年程度前の話だ、生産終了後も数年間
は在庫品販売期間があっただろうし、さらに後年でも
中古流通はあったので、必要と思うのであれば、それが
流通している期間に、何としても入手しておくべきだ。
何故、手に入らなくなった頃に「欲しい」と言い出し
高値相場取引を甘んじてしまうのだろう?理解不能だ。
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では、今回の補足編「Voigtlander SL Lens」編は、
このあたりまでで。
次回レンズマニアックス記事に続く・・