コンパクト・デジタル機を紹介する本シリーズ記事だが
今回は補足編として、2000年代前半に発売された
CANON IXY DIGITAL LおよびCANON IXY DIGITAL L2
(2機種、計3台)にスポットを当てた記事とする。
(注:IXYは、一般に、イクシ/イクシィと読まれる。
だが、「イクシー」と伸ばすのは非推奨な模様だ。
IXYは造語だが、その由来は記事中で説明する。
また、「DIGITAL」の文字は全て大文字表記だ。
当初は銀塩IXY機と混在していた為に「DIGITAL」を
付けて識別されたが、2010年代以降のデジタル機の
IXYでは「DIGITAL」の型番表記は省略されている。
なお、全て大文字とするのは特性を強調したいから
だと思われる。CANONにおける例外は、Kiss Digital
シリーズ機のみであり、女性やファミリー層向けの
その機体で「DIGITAL」と全て大文字表記をすると、
堅苦しい/難しいという印象が強くなるからであろう)
本記事では、多数あるIXYシリーズの中では非常に
希少な「単焦点レンズ」搭載の機体について紹介を
行う。また、銀塩(APS)のIXYの歴史も少し紹介する。
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ではまず、今回最初の(デジタルの)IXY機
カメラは、CANON IXY DIGITAL L (1/2.5型機)
(2003年発売、発売時実勢価格約4万円)
(ジャンク購入価格 100円)
レンズ仕様、39mm(相当)/F2.8
IXY DIGITALでは初の単焦点レンズ搭載機である。
ボディカラーは、4色(銀、黒、白、茶)で
発売された。明らかに女性向けという様相は無く
男性でも女性でも使える色味である事が、当時の
世情(=カメラを趣味とする事は、まだ男性優位
の時代でもあった)を反映していると思われる。
私は、内、黒色(ピアノブラック)版を入手して
2000年代に愛用していたが、故障廃棄となった。
2020年頃に、ジャンク品の白色(パールホワイト)
を、専門店のジャンクコーナーから税込み100円!
でサルベージしたのだが、バッテリーや充電器が
欠品していたものの、IXY L/L2では、それらは共通
に使用できる。そして無事、問題なく動作もした。
IXYシリーズは、銀塩時代の1996年より、当時から
始まった銀塩新規格「APS」(IX240フィルム使用)の
(注:APS =「Advanced Photo System」の略)
最初期から発売されていて、ヒット商品となっていた。
銀塩(APS)IXYは、2002年頃までに都合10数機種が
発売されている。
デジタル化されたIXYは、2000年からの発売だ。
2017年までに(注:それ以降の新機種は無し)
概算だが約80機種と、多数が発売されている。
なお、IXY機の型番は、番号のルールが存在しない
(番号が大きいものが新機種では無いし、番号の
大小が、カメラのランクを表すものでもない)ので
型番だけを聞いても、仕様等は、まずわからない、
個別の機体毎にスペックを調べるしか無いであろう。
ただ、注目点からすると、IXY (DIGIAL)機の大半は
CMOS機ではなく、CCDセンサー搭載機である事。
それと、単焦点機は(銀塩もデジタルでも)極めて
稀である事がポイントとなる。
本記事では、その希少な単焦点IXYについての説明が
主眼となる。
ちなみに、「IXY」というのは日本向けの名称であり
海外向けではIXUS、ELPH等の名称が使われている。
さて、本機IXY DIGITAL Lは、2003年発売だが、
既に8機種ほどのデジタルのIXYが発売されていた。
(注:動画撮影を主体としたIXY DVシリーズ機の
説明については、本記事では対象外とする)
本機は、IXY DIGITALでは初の単焦点機であり、
小型軽量のIXYシリーズをさらに小型化し、かつ
高描写力を得られる企画コンセプトだと思われる。
又、これ以前のIXY DIGITALは、CFカードを記録
メディアとする機種が大半であったが、超小型機
である本機では、SDカードを記憶媒体としている。
本機IXY DIGITAL Lの記録画素数は400万画素だ。
これは、当時のデジタル一眼レフでは、例えば
・CANON EOS D30(2000年):300万画素
・NIKON D100(2002年):600万画素
・NIKON D2H(2003年):400万画素
・OLYMPUS E-1(2003年):500万画素
という世情からすると、さほど見劣りする事は無く、
又、CANON製デジタル・コンパクト機においても、
・CANON IXY DIGITAL 300(2001年):200万画素
・CANON IXY DIGITAL 30(2003年):300万画素
と比べても、むしろ改良されている。
超小型機であっても性能は妥協しない方針であろう。
記録画素数はともかくとして、本機の課題は、
残念ながら、いくつもある、
1)ISO感度設定範囲がISO50~ISO400と低く、
かつISO200以上は、ノイジーとなってしまう。
2)メニュー操作系が練れておらず、カメラ設定が
調整しにくい。特にマクロモードへの変更や
露出補正の操作には手間(手数)がかかる。
(注:小型機ゆえに、操作子を置く場所がない)
3)背面モニターが1.5型と小さく、当然EVFも持たない
為に、構図やピントの確認、カメラ設定がやり難い。
4)バッテリーの持ちが悪い。バッテリーの経年劣化も
あるので、通常、数十枚程度しか撮影できない。
L/L2で最も撮ったケースでも、1日あたりで
200枚程度の撮影だ。
まあでも、大きな弱点は上記くらいであり、
超小型軽量で比較的高画質、そしてスタイリッシュ
で高品位な金属外装である事が長所である。
IXY DIGITAL Lの最大の特徴は「青色エンハンス」
である。これは、その当時(2000年代初頭)の
多数の他社カメラでも同一の特徴を持つのだが・・
つまり、当時のCCDおよびCMOS撮像センサーは、
短波長(青色等)の可視光に対する感度が低かった為、
画像処理エンジン側で、B(青色)画素に対する
感度強調(増強、エンハンス)処理を掛ける事が
良くあった。
この特徴は、OLYMPUS 4/3(フォーサーズ)機の
初期の機体で、KODAK製CCDセンサー搭載機で顕著で
あった為、市場等では「オリンパス・ブルー」と
(又は、稀に「KODAKブルー」とも)呼ばれていた。
しかし「青色エンハンス」処理は、OLYMPUS機だけの
特徴では無く、他社機でも同等の処理を行っている
ケースが多かった為、個人的には、そうした呼称
(オリンパス・ブルー)は、まず使わなかった。
関連記事:
プログラミングシリーズ第12回
「オリンパス・ブルー」生成ソフトのプログラミング
OLYMPUS 4/3機以外に、顕著に「青色エンハンス」
処理を行っていたカメラの代表格が本機IXY DIGITAL L
であろうか?(注:他にも色々あるのだが、冗長になる
ので割愛する。まあ2000年代前半のデジタル機の多く
に同様な特徴が見られる訳だ。
では何故、OLYMPUS機だけ「オリンパス・ブルー」と
呼ばれたのか?その理由は不明だ。恐らくは、そう
した「宣伝活動」または「他社機を知らないだけ」の
いずれかであったのだろう)
本機の場合では、まず「オートモード」ではなく、
マニュアルモードに設定する。(そうしないと様々な
設定が出来ない)次いで、「くっきりカラー」モード
に設定し、さらにISO感度を手動でISO50程度に落とし、
かつ露出補正を-1/3~-2/3段程度とする。
ここから、主に青空側にAEを効かせて撮影すれば良いが、
「AiAF」という、まるでNIKKORのレンズ名のような機能
がONになっていると測距点が自動選択されてしまうので、
この機能を念のために「切」とし、中央測距点のみで
AEロックを掛けて空の明るさを、やや暗めに調整すれば、
気持ちの良い青色発色が得られる。
その発色傾向は、時に「やりすぎ」の状況も見られ
青色よりも濃い、紺色・藍色のような発色となる事も
多々あるし、それと、当時の「青色エンハンス」機の
殆ど全てに共通の課題としては、青色よりも短波長の
紫色や菫(すみれ)色の被写体を撮影すると、実物
とは、似ても似つかぬ色味となる事が課題となる。
まあでも、その特性を理解して使うのであれば、
何も問題は無いし、私の場合では、IXY DIGITAL Lや、
(多少その青色処理の傾向が残る)IXY DIGITAL L2は
長い期間「青空専用カメラ」として使っている。
その特徴があるからこそ、発売後20年近くにもなる
超クラッシック・デジタルカメラでありながらも、
現代において、まだ現役で使用する事が可能であり、
数百円というジャンク品も何台か買って、故障時等の
代替として備えている次第だ。
超小型軽量(本体100g)なので、持ち運びの
負担も無い。カメラバッグや日常使いのバッグに
忍ばせておいて、気持ちの良い青空の際に取り出し
数枚程度を撮影すれば、それで十分であろう。
なお、勿論だが、今回の記事でもカメラのJPEGでの
出力での「撮ったまま」であり、画像の色味の編集
処理は行っていない。それをしてしまうと、元々の
カメラの特徴が説明できなくなってしまうからだ。
それと、この時代(2000年代前半)では、画像
編集を行うユーザー層の比率も極めて少なかったし、
カメラの(色味等の)設定を、自在に変更して使う
ユーザーも少なかった(この点は現代でも同様)
なので「このカメラの色味は良い(悪い)」等という
ビギナー的評価が後を絶たなかったのだが、基本的に
デジタルカメラの発色は、そのオーナーの責任範囲だ。
単に、銀塩時代での「写真の現像はDPE店まかせ」の
風潮(感覚)が抜けきれていなかったのであろう。
以降の時代(2000年代後半以降)では、各社の
カメラの発色傾向はフラットになっていき、そこから
オーナー自身の用途(または好み)に合わせて、色味
の設定や編集を行う事は、当たり前の措置となった。
今時「このカメラは色味が悪い」などと言っていたら
ちょっと(かなり)世情に合っていない状態だ。
さて、ここからは銀塩(APS)時代のIXYについて
少し歴史を説明しておく。
その前に、バブル経済期(~1992年)の話だが、
この時代、銀塩カメラは、バブルのムードに乗り
高性能や高機能を謳ったものを高価格で販売する
いわゆる「高付加価値化」戦略を取っていた。
しかし、バブルがはじけてしまうと、そうした
バブリーな銀塩カメラは、財布の紐が固くなった
消費者層のニーズには全くそぐわない。
この為、1990年代前半の各種銀塩カメラでは、
バブル期の残り香があるものは、いっきに売れなく
なってしまっていた。
この時代のAF一眼レフ等に魅力があまり無い事は、
別シリーズ「銀塩一眼レフ・クラッシックス」でも
詳しく分析していて、この結果、1990年代前半の
銀塩カメラでの、私の現有数は極めて少ない。
つまり、「当時の銀塩カメラにおいて、現代にまで
残す価値のあるものは、ほとんど無い」という判断
になって、殆どを処分してしまった訳だ。
メーカーや市場側では、この状況を打開するには、
アフターバブル期での新たな消費者ニーズを喚起する
しかない。
その方針転換の最も大きな成功例は、CANON EOS Kiss
シリーズ(1993年~、未所有)であろう。
アフターバブル期における、新規カメラ消費者層、
つまり、ファミリー(パパママ)、女性、入門層等に
向け「誰にでも簡単に高画質な写真が撮れ、しかも
安価である」という方向性を打ち出して成功した。
ただ、CANON EOS Kissシリーズを、私が1台も所有
していないのは、「簡単である」事と「使い易い」事
は、イコールでは無い、と判断したからだ。
カメラが写真を撮る機械である以上、写真を撮る
という目的においては操作系が優れていないと意味が
無いと思っている。
例えば、「初心者は露出補正機能など使わないから、
その操作性は重視しない」という企画コンセプトでは
入門層以外には使い難い機体となってしまう訳だ。
でも、EOS Kissシリーズは大ヒットカメラとなった。
新たなユーザー層を開拓する上では、ネーミングも
重要であり、これまでのような、EOS 100QDのような
無味乾燥な型番では、入門層では「わからない、覚え
られない、印象に残らない、どの型番を買ったら良い
か判断できない」等の課題があったからだ。
EOS Kissシリーズの、エントリー(入門)層への
ヒットを見て、他社も型番(名称)戦略の重要性を
知る事となるのだが、他社がそれに追従するのは、
MINOLTA α-Sweet、NIKON u、CONTAX Aria、
PENTAX *ist等、5年から9年も後の時代であった。
その間だが、一眼レフ以外では、元々入門層向け
であった(銀塩)コンパクト機では、型番名称の
戦略は普通に行われていた。その例としては、
CANON Autoboyや、PENTAX ESPIO等がある。
そして、アフターバブル期のカメラ市場低迷に
ついては、フィルム界でも方針転換を迫られ、
その為もあってか、APS(Advanced Photo System)
規格が提唱された。
APS規格には、KODAK、FUJIFILM、KONICA、MINOLTA、
CANON、NIKON等が参画し、フィルムメーカーでは
APS(IX240)型フィルムおよびAPSカメラを販売。
カメラメーカーは、APSコンパクト機、APS一眼レフ、
およびAPS特殊機(水中カメラ、超マクロ、超小型機等)
を1996年ごろより順次開発販売した。
この新規格は、入門層に対してのインパクトは大きく
当時のヒットカテゴリー商品となった。
また、ネーミング(名称)戦略も顕著となり、
CANON=IXY、NIKON=NUVIS、MINOLTA=VECTIS、
KONICA=EFINA、FUJI=EPION、等、各社、固有の
名称をAPSコンパクトカメラに付けた状況となった。
参考として、上写真は史上唯一の高級APSコンパクト
機の、CONTAX Tix(1997年)である。
APS規格には勢いがあり(高付加価値型の)CONTAXや、
OLYMPUSまでAPS機を発売する世情だった。
ただし、35mm判高級コンパクトGR1シリーズを展開して
いたRICOHは、APS機を1台も出していなかったと思う。
CANONのIXYは、その中では最も成功した例であろう、
ネーミングがすっきりしていて、わかりやすい。
が、他社のネーミングは、正直言えば、現代において
これを覚えているユーザー層も居ないかも知れない。
ちなみに、IXYは造語であり、そのままの意味は無い。
由来だが、APS規格で使用するIX240フィルムの
「IX」とは、「Infomation eXchange」の略であり、
IXYは、IXにYを付けて語感を整えたのだと思われる。
銀塩CANON IXYのデビューは1996年。
新規に始まったAPS(Advanced Photo System)規格
での、ほぼ初号機(CANONとしても、APSとしても)
である。
このAPSの登場期にヒット商品となったのは、この
CANON初代IXY(イクシ、1996年、未所有)である。
ステンレス外装で、スタイリッシュなそれは、
「周囲に見せる」目的のカメラとして、人の集まる場
(パーティー、キャンプ、イベント等)において
注目され、カメラの利用目的の新機軸を築いた。
(参考:同時代のRICOH GR1等は、黒色で小さく
目立たない外観であり「街中のスナップ撮影も可能」
等と言われていたが、今時、そんな撮り方をしたら
「盗撮」だとか「肖像権」やらで、大問題となる。
時代が異なれば、世情も倫理も価値観も異なる訳だ)
また、APS(IX240)型フィルム登場に合わせ、この
フィルムを現像する為の「フィルム自動現像機」
(QSS等。ノーリツ鋼機やFUJIFILM製等)が、全国の
DPE店に導入された。
この自動現像機は、専門的なDPE知識が無くとも、
APSや35mm判フィルムが短時間(数十分程度)で
自動的に現像・プリントされる為、アルバイトや
パートの人たちでもDPE業務を可能とし、こうして
作業コストが低下した事から、この頃から、世の中
には「0円プリント」等と呼ばれるビジネスモデル
が激増する。
具体的には、街中の「0円プリント」の店に行って
フィルムを渡すと、数十分後には、数十枚の写真
プリント、インデックス(サムネイル画像による
一覧)プリント、現像済みフィルムが返ってくる。
料金は一律(フィルムの種類や撮影枚数に無関係)で
600円~800円程度であった。
後の時代(2000年頃)には過渡競争となり、600円
以下で現像する店舗も登場したり、DPE後に
未使用のフィルム(例:35mm判/ISO100/24枚撮り)
を、おまけでつけてくれる店も現れた。
しかし、一部の店舗では低コストなプリント用紙が
使われたケースもあり、店舗毎で写真プリントの
品質が、ずいぶんと異なるケースもあった。
だが、そんな場合には、街中には「0円プリント」の
店はいくらでも林立していたので、気に入った店を
探して、そこで高品質のプリントをすれば良かった。
こうした「0円プリント」の店舗は、人通りの多い
メインストリート等に、オープン(扉等が無い)な
形式で営業されていることが多かった。
が、2000年代には銀塩ビジネスの縮退により、その
多くが廃業し、店舗は(格安)チケットショップ等に
引き継がれることが多かったが、チケットビジネスも
ネット予約化等により縮退し、2010年代以降では
そうした元0円プリント店のオープン店舗が残って
いる数も少なくなってきている。
そしてAPS(IX240)カメラとフィルム自体も、デジタル
転換期の2000年代には大きく縮退し、2000年代後半
では、もうAPSフィルムは、入手も現像も困難と
なっていた。
実は、APSの衰退は、デジタル化(例えば一眼レフ
ならば2004年が転機)よりも少し早い時代に訪れ
ていた。
1990年代後半には、前述の銀塩(AF)一眼レフが
アフターバブルと阪神淡路大震災等を理由として
企画に元気が無く、EOS Kiss以外は売れていなかった
事から、カメラマニア層は、新鋭の銀塩AF一眼レフ
に興味をもてなくなり、新規格APS機や、同時期に
流行・普及した銀塩高級コンパクト機に興味を持ち、
さらに、中古銀塩(MF)一眼レフやレンジファインダー
機に興味は向い、空前の「第一次中古カメラブーム」
(1996年頃~2002年頃)が訪れていた。
カメラブームとなり、消費者・ユーザー層のカメラ
知識は、この時代に大幅に向上。なにせ非常に多数の
カメラ誌や中古カメラ誌が刊行され、さらには初期の
インターネットの普及もあったし、カメラ中古店が
林立し、そこに集まるマニア層からの膨大な口コミ
情報もあったので、この時代のユーザー層には大量の
カメラに関する情報(知識)が入ってきていたのだ。
(注:むしろ、現代ではカメラマニア層は激減して
しまい、現代のユーザー層は、中古カメラブーム当時
ほどのカメラ・レンズ知識を持っていない。
まあ、確かにネット文化は発達したが、情報量が増えた
割りに情報の質が低下し、信憑性の低い情報や、又は
意図的な情報操作(→例:投機的観点)が蔓延している)
その時代のカメラマニア層の大半は「画質至上主義」
であったので、当時のAPS(IX240)機については
「35mm判フィルムの半分しか面積が無いので、
よく写る筈が無い」と嫌われ、マニア層はAPS機に
あまり興味を持っていなかった。
特に酷かったのは、各社が発売した「APS一眼レフ」
であり、高画質を求める層に向けて発売した筈が、
それらの層の全員にそっぽを向かれ、全く売れなかった。
(雑食性の私でも、APS一眼レフは1台も購入していない)
(注:後のデジタル時代(2010年代)でも、たとえば
フルサイズ機に対して、μ4/3機が「1/4しか面積
が無いので良く写る筈が無い」と、銀塩時代と同様な
理由で嫌われたり、あるいはフルサイズ機を高く売る為に
小センサー機を卑下する情報拡散戦略が取られたのだが
プリント面積が一定である銀塩時代と、閲覧・印刷環境
がマチマチであるデジタル環境を同一の視点で比較する
事は無理である。大小の撮像センサーサイズの差には、
それぞれ長所と短所が存在するのだが、前述のように
現代での主力ユーザー層はカメラやデジタル等の知識が
不足していて、その概念を正確に理解している人は少ない。
よって、銀塩APS機が嫌われたのは、まだ理解は可能だが
デジタルでのAPS-C型機やμ4/3機を嫌う理由は殆ど無い)
・・まあ、なのでAPS機の衰退は、それが一般入門層に
行き渡った1990年代末頃から既に始まっていて、
2000年代初頭には「もうAPS機は売れない」という判断
から、流通市場ではAPS入門機の新品在庫等が、数千円
という捨て値での処分価格での販売が始まっていたのだ。
(注:元々APS規格は、フィルムや現像代のビジネスを
主体としていたので、APSカメラ自体は、さほど高額な
値付けは行われていない。まあ新品3万円以下であった)
私は、その時代(2000年代初頭)に、およそ各社の
ほぼ全て、と思われるAPS単焦点機の在庫処分品を
安価に入手していたのだが、その大半をプレゼント品
代わりとして、知人友人等に譲渡してしまい、今は
ほとんど手元に残っていない。
現代2020年代において、APS(IX240)フィルムは、
入手も現像も非常に困難ではあるが、不可能/皆無と
いう状態では無いかも知れない。
それと、APSフィルムを現像しても35mm判のネガ/ポジ
のように、外からどんな映像が写っているのかを
見る事は出来ない。まあ、2000年頃の時代であれば
APSビューワー(フィルムをそのまま見る、または、
TV等の外部機器に繋いで閲覧する)は存在していたが
現代では、そうした補助機器も入手困難であろう。
それと、現代のフィルムスキャナでは、普通の仕様の
ものではAPSフィルムをスキャンする事も出来ない。
いずれにしても現代においてAPS(カメラ、フィルム)
を使うのは、とても困難であり、推奨できない。
なお、APS(IX240型)フィルム使用時の、レンズ
焦点距離の35mm判フィルム換算画角は、APSのモード
により異なり、H(16対9のハイビジョン比率)の
場合では、約1.25倍。
C(3対2の35mm判同様のクラッシック比率)の
場合では、約1.4倍である。
それと、P(3対1のパノラマ比率)では、縦横比が
一般的では無いので、あまり画角換算を行わない。
ちなみに、デジタル時代となってからも、この
フィルム時代での「APS」という名称は、撮像センサー
のサイズを表す用語として用いられていて、画角比は
デジタルAPS-C:35mm判換算で1.5~1.7倍
デジタルAPS-H:35mm判換算で1.3倍前後
と定義されるが、アスペクト(縦横比)が、機種や
モード設定により異なるので、あくまで概算である。
銀塩APS機は、その大半がズームレンズ搭載機であり
各社の廉価版の入門機を除き、本格的画質や大口径
仕様を持つ単焦点APS機は数機種程度しか存在しない。
(私の定義では、3機種のみ。前述のように、ほぼ
全てのAPS単焦点機を入手して使っていたが、それら
の殆ど全てを譲渡処分し、高画質な3機種のみを
現代にまで残している。上写真の「CONTAX Tix」は
その代表格であろう)
うち、CANONにおいて、最も著名なAPS IXY単焦点機
は、IXY310(1997年、下写真)であろう。
26mm/F2.8の準大口径単焦点レンズ搭載機である。
IXY310は、小型(薄型)軽量で、高画質であり、
マニア受けしていた。ただし、プラスチック外装で
高級感は無く、恐らく販売数も少ないと思われ
後年の中古市場でも、殆ど見かける事は無かった。
なお、銀塩CANON IXY単焦点は他にはマイナーだが、
IXY 20、IXY 10、IXY D5(水中機)がある。
銀塩APS機(IXY等)の総括だが、現代においては
APS(IX240)フィルムは、入手も現像も困難であり、
銀塩APS機を購入する事は、実用上では推奨できない。
買ったとしてもコレクション用途にしかならないと
思うので、念のため。
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さて、以下はデジタルIXYの話に戻る。
ここで紹介機を変更しよう。
カメラは、CANON IXY DIGITAL L2 (1/2.5型機)
(2004年発売、発売時実勢価格約4万円)
(中古購入価格 3,000円)
レンズ仕様、39mm(相当)/F2.8
冒頭、2003年発売のIXY DIGITAL Lの後継機。
型番は、L2ではなく「Lの二乗」の可能性が高い
が、記載が面倒なので、以下、「L2」と記す。
Lとの差異は、400万画素→500万画素への変更。
これに伴い、画素数の設定項目が増えている。
光学系(非球面を含む4群4枚)は、Lと同一。
撮像センサーのサイズ(1/2.5型)も同等である。
外観色は、銀、黒、紺、赤となった。
いずれも高品質の金属仕上げである。
(本機の外観色は「スターガーネット」と呼ばれる)
前期種Lの弱点としての、低感度(ISO400まで)や
低操作性、小サイズ液晶、高消費電力は、そのまま
引き継いでしまっている。
操作系については、「イージーダイレクトボタン」
の操作子が新設されたが、PCとプリンタへのデータ
転送の役割しかしないので、あまり効能が無い。
(さらに後年のIXY L4では、これを縦位置シャッター
ボタンとして使う事が出来る模様→未所有)
また、メニューが僅かに改善された(例:マクロ
モードの選択順等)のだが、基本的に階層構造が
イマイチなので、改善の効果は、ほとんど無い。
例えば、露出補正を行うにも、一々のメニュー
呼び出しが必要だ。(上写真)
Lの特徴の「青色エンハンス」は、本機L2では、
やや薄められているが、依然、残っている。
なお、L2以降の機種(L3,L4)は、ズームレンズ搭載
機となってしまった為、目的に合わず購入していない。
それと、一応だが、L/L2でも、デジタルズーム機能
は搭載している。(注:最大6.5倍まで拡大可能
だが、使用時には画質劣化を伴う)
IXY DIGITALは、前述のように2010年代の機種
からはDIGITALの名前が外れ、単にIXYとなった。
また、IXY DIGITAL Lシリーズは、2006年のL4
を最後に、L型番の後継機は無い。
IXY全体では、2017年のIXY 200/210以降は
新製品が無いが、それらとIXY 650(2016年)は
一応、現行(販売)商品となっている。
(参考:IXYではIXY 650のみCMOSセンサー機)
なお、DIGITALが外れた際、型番におけるIXYと
数字の間に空白(スペース)が入るようになった
(例:IXY 30S)かもしれない。銀塩時代での
ASP機のIXYは「IXY310」のようにスペースを
含まない記法だったように思うが、どうも機種毎に
よりけりの様相もあり、正確には良くわからない。
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さて、ここでまた紹介機を変更する。
カメラは、CANON IXY DIGITAL L2 (1/2.5型機)
(2004年発売、発売時実勢価格約4万円)
(ジャンク購入価格 500円)
レンズ仕様、39mm(相当)/F2.8
「充電器なし」のジャンク品としての購入だが、
IXY L/L2でのバッテリーと充電器は共通なので、
何も問題は無かった。
購入したのはカメラ店ではなく、古本屋さん
だったので、店員さんは「これで良いのですか?
バッテリーが切れたら、それで終わりですよ!」と
えらく心配してくれたのだが、カメラマニアで
あれば、そこはなんとでもなる。たとえ充電器が
付いて無くても、充電器のジャンク品を探す事も
出来るし、あるいは他の、定格が等しい充電器の
ジャンク品を配線改造して、それで充電する事も
可能である。(注:電気関連に相当に詳しい人で
無いと推奨できない措置。また、こういうプチ改造
を行ってしまうとメーカー保証/修理は不能となる。
当然ながら、発火等についても完全に自己責任だ。
それから、屋内電気配線等の大掛かりな電気工事に
ついては、その作業を行う為には国家資格が必要だ)
さて、本機の外観色は「プラチナシルバー」と
呼ばれ、初代Lから引き継いだカラーリングである。
(注:初代Lからの同一カラーは、この色のみ)
あいかわらずスタイリッシュで高品位のカメラだ。
そもそも、初代銀塩IXY(1996年)が発売された頃、
当時の他社のコンパクト機は、その大半が1つの
巨大OEMメーカー(GOKO社)で生産されていた為、
超大量生産品としての、プラスチック成型品が殆ど
であった中、金属(ステンレス)外装品という事で
他のコンパクト機とは一線を画する品位を持っていた
ので、そこがヒットの要因にも繋がった次第だ。
その流れを正統に受け継ぐ、IXY DIGITAL Lの
Lは「ラグジュアリー」という意味であろうか?
「Luxury」は、贅沢な、という意味がある英語だが、
これをCANONでは、一眼レフ等用の高級レンズを
「Lレンズ」と称して用いている。
が、コンパクト機に付けられた際には、また別の
イメージ(企画意図)があったのだろうか?
ちなみに、他のCANON コンパクト機(銀塩の
Autoboy、デジタルのPowerShot)では、「L」の
型番を採用したものは無かったと記憶している。
IXY DIGITAL L/L2の総括であるが、
これの長所である「青空発色」と「小型軽量」を
上手く使うのが適切であろう。
例えば「高感度が無い」という弱点は、日中晴天時の
「青空専用機」としてしまえば、この状態ではISO
感度を50~100で使えば十分なので、高感度設定が
無く、かつノイジーである課題は相殺できる。
ただ、機体の性格上「(周囲に)見せる為のカメラ」
という要素もあり、室内での利用も有り得るだろう。
その際、F2.8の大口径とは言え、低感度では手ブレ
必至(注:勿論、手ブレ補正機能は入っていない)
となるので、その場合は超小型機でありながら内蔵
されているフラッシュを用いるのが回避策だ。
(注:GN/ガイドナンバーは相当に低く(仕様非公開)、
2m程度までしか届かないと思っておくのが良い)
なお、経年劣化したバッテリーを使っている際、
通常のフラッシュ非発光の撮影時は問題が無いが、
フラッシュ撮影をしようと、強制発光等のモードに
切り替えると、内蔵フラッシュにチャージ(充電)が
始まるが、その時、バッテリーの供給電力が弱いと
チャージが出来ず「バッテリーを交換してください」
のエラーメッセージが出る場合がある。
で、このエラー状態からの復帰は難しい、バッテリー
を満充電しないとならないからだ。さもないと、
電源を入れるたびに、カメラの動作で、充電したい→
供給電力不足→エラー表示、が繰り返されてしまう。
劣化したバッテリーを使っている場合には、出先等で
フラッシュモードの切り替えボタンを押さないように
十分に注意しないとならない。
さて、本機の「小型軽量」の長所を活かすには、
他のカメラのサブ機として使う事も良いであろう。
例えば、超望遠レンズ、超広角や魚眼レンズ、
特殊レンズ(例:ぐるぐるボケやソフトレンズ等)を
趣味撮影に持ち出したとする。
そんな場合、そうした特殊な描写のレンズばかりで
撮るのは被写体の制約が大きく、一般的な被写体を
普通に撮る(例:状況記録、記念撮影、観光写真、
人物撮影等)のに、例えば、魚眼レンズだけでは、
どうしようも無い場合もある。
そんな時、こうした小型軽量カメラを使えば良い訳だ。
もっとも、この用法は10年ほど前であれば有効だったが
近代ではスマホの内蔵カメラ等があるので、わざわざ
コンパクト機を別途持ち出す必要性はだいぶ減ったとは
思われる。
L/L2に備わる(スーパー)マクロモードは有効だ。
3cm(注:WD)までの近接撮影が可能であるが、
センサーサイズが(1/2.5型と)小さいので、
近接撮影時にも、そこそこの被写界深度が得られ、
一眼レフ等用のマクロレンズとは、また異なる描写
表現力が得られる。
(スーパー)マクロモード使用時の注意点としては
まずメニュー操作系が悪く、このモードに切り替える
のには、指の操作の手数が必要な点だ。
このシリーズでは、いったんマクロモードに切り替える
と遠距離撮影が出来なくなる為(注:一部の他社機では
マクロモード時でも無限遠撮影は可能である)
切り替えの操作性が繁雑な事は弱点となる。
(実例としては、目の前に珍しい昆虫等が居たとして、
マクロモードに切り替えている間に、どこかに飛んで
逃げてしまう等。こういう事態が頻発してしまう)
なので、やや贅沢な使い方だが、2台のIXY L/L2を
持って行き、片方をマクロ専用機とする場合もある。
もう1点、マクロモードは被写界深度こそ深いが、
ピント精度は相当に悪化するので、ピントがなかなか
合わずにイライラするかも知れない。(一応、合焦時に
モニター上に緑色枠が出るので、それを目安にする
のだが、モニターが極めて小さいので、見え難い。
加えて、このモニターは視野角が狭く、斜めの状態
ではコントラストが、かなり低下して見え難くなる。
又、合焦マークを参考にして、撮れていると思っても、
後でPCで見ると、ピンボケ、または背景抜けしている
場合も多々ある)
基本性能の低さは色々とあるが、まあでも、この時代
(2000年代前半)のカメラなので、やむを得ない。
課題を全て理解した上で、課題を弱点としない用法を
考えて使うしか無いであろう。そうやって使うならば
IXY L/L2は実用的には及第点であり、だからこそ
発売後約20年の長くに渡り、実用目的で使い続ける
事ができる訳だ。
現代における入手性は低いが、本記事で述べてきた
ように、ジャンク品等では稀に見かける事が出来る。
強く推奨できるカメラでは無いが、非常に個性的な
特徴を色々と持っているので、古い機体故の、使い
こなしの難しさを考慮したとしても、マニアックな
視点ではオススメである。
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では、本記事は、このあたりまでで。
現在、コンパクト・デジタル機の市場は低迷していて
マニア的観点からは、ほとんど欲しい機種は無いし、
新製品も、あまり発売されない状態である。
本シリーズ記事(コンパクト編)は、何か古い時代の
コンパクト機(銀塩、デジタル)等を入手した際での
不定期の連載としておく。