マニアックなレンズを主に紹介するシリーズ記事
であるが、本記事より連続3回、補足編として
「ハイロー(Hi-Lo)」シリーズとする。
この意味であるが、まず「ハイロー」とは、
「値段が高い、安い」という意味である。
高価なカメラやレンズは、常に安価なものよりも
性能や描写力が優れているのか? と言うと、
「必ずしも、そうとは限らない」とは、本ブログ
では、過去に数え切れない程説明してきた事だ。
次いで、「ハイローマクロ」での意味であるが、
製造年代(時代)が異なる、あるいは企画コンセプト
が異なる等で、新品や中古で購入する際に、その
価格が大きく(数倍から、場合により10倍も)
異なるマクロレンズの組み合わせがあった場合での
比較である。
このケースでも、新しくて高価なマクロが圧倒的に
古くて安価なマクロより優れているのだろうか?
いや、ここも単純にそうとも言えないかも知れない。
本記事では、同一メーカー製で、時代および価格が
大きく異なる2本のマクロを選ぶ。この時の選択
基準は、できるだけ著名で、マニア層ならば誰もが
知っているものを選ぼう。
それを3ペア、合計6本のマクロレンズを取り上げ、
各々のペアで紹介するが、個々のレンズの詳細の
比較よりも、全体的な視点での記事内容としよう。
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まずは、最初のペア、COSINA銘とフォクトレンダー
銘の、2本のMFマクロレンズ(110mm vs 100mm)を
取り上げる。
この2本のマクロは、スペックは近いのだが、
発売時期は、(推定)30年以上も差があり、
その価格(発売時実勢新品価格/購入価格)は、
およそ10倍も差がある。
では、最初の(ハイ)マクロレンズ。

レンズは、Voigtlander MACRO APO-LANTHAR 110mm/f2.5
(注:フォクトレンダー独語綴りでの変母音は省略)
(新品購入価格 138,000円)(以下、MAP110/2.5)
カメラは、SONY α7S(フルサイズ機)
2018年に発売されたMF中望遠等倍マクロ。
フォクトレンダー銘であるが、勿論COSINA製だ。
現代においては、代表的なHi(高級)マクロレンズ
であろう。高付加価値化戦略で価格が高価すぎる事は
さておき、パフォーマンス(性能)は、かなり高い為、
「壊滅的なまでのコスパの低さ」とは見なしていない。

本レンズより17年前に、COSINAより類似スペックの
「MACRO APO-LANTHAR 125mm/F2.5 SL」が
発売されていた。そちらのレンズは、描写力は悪くは
無いが「使いこなしが困難」という重欠点があった。
(本シリーズ第12回「使いこなしが難しいレンズ」
特集記事で、全所有レンズ中、ワーストワンの記録)
本レンズMAP110/2.5は、17年前のMAP125/2.5の
課題を良く改善していて、そこそこの使い易さが
あるが、これは、あくまで前モデルとの比較であり
「現代的な、安易に撮れるレンズだ」とは言い難い。
まあでも、上級層以上や実践派上級マニア層等では
十分に実用範囲のレンズだと言えよう。
課題は、価格が恐ろしく高価な事であり、当然ながら
コスパ評価点は相当に低い。この弱点が強く影響して
本レンズの個人総合評価点は3.9点、と、私が定義
する「名玉の条件=総合評価点4点以上」に僅かに
届いていない。
まあ、後年に安価な相場の中古品等で購入すれば、
コスパの弱点は若干緩和できると思われる。
そう、今回の「ハイロー(Hi-Lo)」シリーズ記事
における、Hi(高級)側機材の課題は、常にこの
「価格」の問題点がつきまとってしまう。
そりゃあ、Hi側の製品の方が全般的な性能に優れる
事は確かだが、常にそうした製品(レンズ)ばかりを
求めてしまうと、費用対効果(つまりコスパ)が
極めて悪化してしまう。趣味撮影でも業務撮影でも
機材購入に掛けられる予算は有限である為、効率的に
あるいは撮影目的に応じて、できるだけ安価に機材を
購入していく事が望まれる訳だ。
余談だが、「ハイロー」または「ハイローミックス」
(Hi-Lo Mix)は、元々は米ソ冷戦時代(1970年代
~1980年代)において生まれた「軍事用語」だ。
敵対陣営を牽制する為にも、高性能な兵器(戦闘機等、
例:F-15 これが「Hi」)を開発する必要はあるのだが、
そうした高性能兵器は、当然、コスト高となって、
限られた軍事予算内で多くを配備する事ができない。
この状況では、敵対陣営等で「物量作戦」が行われた
場合、苦戦する事になるから、もっと多数を配備できる
大量生産型兵器(戦闘機等、例:F-16、これが「Lo」)
を並行して開発生産する。
この事が「ハイローミックス」戦略であり、米国側
のみならず、(旧)ソビエト側でも同様な構想の元で
兵器開発が行われていた模様だ。
また、現実の範疇のみならず、アニメの世界においても
例えば「機動戦士ガンダム」でも、こうした概念は
良く用いられる。具体的には、初代(ファースト)
ガンダムにおいて、地球連邦軍のRGM-79(ジム)と、
RB-79(ボール)の共同作戦が行われている。
ジムは、ちゃんとしたモビルスーツ(Hi兵器)だが、
ボールは、いかにも脆弱そうに見える、急ごしらえの
量産型兵器(Lo兵器)である。
もし、ガンダムのアニメ視聴者が子供であれば
「なんで、こんな弱っちいので戦うの? ジムや
ガンダムを、もっと作ればよいのに」と思うのかも
知れないが、「大人の世界」(笑)では、予算だの
納期だの戦略だの・・ と色々と事情がある訳であり、
そう簡単には、強力な兵器を沢山作る事はできない。
まあつまり、「ハイローミックス」は、少なくとも
軍事においては、極めて普遍的な構想(戦略)である。
物騒な軍事分野以外においても、様々な市場分野等で、
この構想自体は展開する事ができると思われる。
これはカメラ(レンズ)の世界でも応用は可能だ。
銀塩時代の昔から、職業写真家層、上級層やマニア層
等では、高級(旗艦級)カメラ(すなわち「Hi」)
と、「サブカメラ」(中級機等、すなわち「Lo」)
を併用して、あるいは選択して使う事も良くあった。
つまり、高級機ばかりでは、投資コストが膨らんで
しまうし、重量級のそれらはハンドリング性能も劣る
から、例えば重要な撮影目的には、主として高級機を
用い、その補助(保険/バックアップ)として中級機を
併用するとか・・ あるいは遠征撮影とか、業務撮影では
無く、趣味での旅行や散歩撮影等では、軽量コンパクトな
中級機を持ち出すとか、まあ、そんな感じの用法だ。
これは、軍事のハイローミックス構想とは同じ意味では
無いが、広義には「ハイロー」であるし、ごく普遍的な
考え方だ。マニア層等では多数の機材を所有し、撮影の
目的や撮影環境、はたまた、単なる気分で、それらを
選択して使っている事は、ごく普通の状況である。
(例:下写真は、SONY α7Sの超高感度性能を活かした
夜桜の撮影)

話が長くなってきたので、ここでレンズを交換する。
本記事では、紹介レンズは全て再掲品につき、個々の
長所短所等の話は最小限として、全体的な話を中心
に進めていく。
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では、上記1本目の(ハイ)マクロレンズと
対比される、2本目の(ロー)マクロレンズ。

レンズは、COSINA (MC) MACRO 100mm/f3.5
(新品購入価格14,000円)(以下、COSINA100/3.5)
カメラは、CANON EOS M5 (APS-C機)
発売年不明、恐らくは1980年代~1990年代頃の
MF中望遠1/2倍(ハーフ)マクロ。
上記MAP110/2.5と、スペック的には”似ていると”
言えるだろうし、両者は、同じメーカーの、同じ
生産ライン(?)から生まれてきたものである。
ただ、時代と値段が大きく違う。

時代に関して言えば、1980年代と2020年代の
物価水準を比較してみると、(これは商品や市場等に
よりけりなので、難しいが・・)初任給や給与所得、
ハガキ代等から、だいたい「5割増し」という
感じであろうか? つまり2倍までは変化していない。
そんな中、カメラの価格(発売時定価または実勢
価格)の変化を、簡単に比較しておく。
例:NIKON機
1980年:NIKON F3 (MF旗艦機) 約14万円~
1984年:NIKON New FM2(MF上級機)65,000円
1987年:NIKON F-401(AF普及機) 64,000円
1988年:NIKON F4 (AF旗艦機) 約22万円~
~
2015年:NIKON D5500 (初級機) 約 9万円
2016年:NIKON D5 (旗艦機) 約70万円
2016年:NIKON D500 (DX高級機) 約25万円
2018年:NIKON Z7 (ミラーレス旗艦)約40万円
2020年:NIKON D6 (旗艦機) 約80万円
他社のデータもあげようとしたが、冗長になるので
割愛しておこう。ちなみに、同時代での同等性能の
カメラ製品であれば各社の価格は、ほぼ同等になる。
(さもないと、他社より高すぎたら売れないからだ)
まあつまり、普及価格帯のカメラに関しては、
だいたいだが物価水準に連動した状況になっていて、
1980年代頃の普及機(初級機)が、カメラ本体
のみで6万円程度であれば、2010年代ごろでは
それは8~9万円程度となっている訳であり、
物価の変化率と同等だ。恐らく、このあたりが
エントリー層が手を出し易い価格水準なのであろう。
対して、上級機、高級機、旗艦機等の上位カメラは
物価変動率を遥かに超えた高値に変化している。
これは何故か?というと、2010年代に一眼レフ
市場は縮退し、高性能を謳って高価にしたカメラを
売る「高付加価値戦略」に各社は転換したからだ。
1台あたりの利益を出せば、販売数が少なくとも
なんとかやっていける、という仕組みである。
実は、これは近年だけの措置ではなく、長いカメラ
の歴史を振り返ると、技術の進歩と世情の変化の
狭間で、カメラが売れない時代はいくつかあった
模様であり、そんな場合には、高付加価値型機と、
低価格帯の普及機に見事に二分されていた事も
何度かあったと思う。ただ、近代においては、
その低価格帯のカメラは、むしろ少ない。
何故ならば、必ず、消費者が上位のカメラに目を向く
ように(上位機種を買ってもらうように)、絶妙な
仕掛け(例:仕様差別化戦略。下位機種になる程に
ビギナー層の欲しがる機能が省略されている等)
が施されているからだ。そうすれば、必ず利益の
出る高額カメラが売れる訳であり、その市場戦略が
10年も続いた結果、現代で新鋭機を使っているのは
見事なまでにビギナー層ばかりになってしまった。
不自然な市場状況だ、とは言えるのだが、まあ、ある
意味、自身の価値観や価値感覚を持たない消費者層が
多数存在する事により、かろうじてカメラ市場が支え
られている訳だから、事の是非は問うまい。
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さて、余談が長くなってきたが、本レンズCOSINA
100/3.5の話に戻ろう。
前述のMAP110/2.5との新品購入価格の差は、およそ
10倍にも及ぶ。
発売年代の差による物価水準の差は、1.5倍以下
程度であるのに、この価格差は大きすぎる。
まあつまり、ここもまた「高付加価値戦略」の
結果に他ならない。
では、その高付加価値とは、いったい何処にある
のだろうか? 両者、MFの中望遠マクロでスペック
も類似だ。
しかし、1/2倍マクロと等倍マクロの差はあるし、
製品としての作りも、プラスチッキーで安っぽい
仕上げと、高品質な金属鏡筒において違いはあるが、
それらが、10倍もの価格差に繋がる訳では無い。
ならば、描写力が数倍も高いのか? その描写力って
いったい何なのだ? 数字で表せるものなのか?

で、本COSINA100/3.5は、典型的な「平面マクロ」
である。(特殊レンズ第20回平面マクロ編参照)
レンズ構成は、公式には非公開であるが、恐らくは
5枚構成位(3群5枚/4群5枚)のシンプルなもの
であろう。他の銀塩MF時代の平面マクロ的な特性を
持つものは、たいていそんな感じのレンズ構成だ。
「平面マクロ」型であるから、設計の要点はピント
面の解像力の向上と歪曲収差の低減に重点を置き、
反面、ボケ質が固くなったりボケ質破綻が発生する
弱点とはトレードオフ関係となっている。
この特性では、撮影に適合する被写体は限られるで
あろうが、そうした用途(資料等の複写であるとか
精密部品の撮影とか)であれば、むしろ向いている。
まあつまり両マクロの最大の差は「撮影に適する
被写体の汎用性の差」な訳だ。
「え?たったそれだけか?」と思うかも知れないが、
他に何があるだろうか? いや、何も思いつかない。
そりゃあまあ、MAP110/2.5で撮った写真の方が
解像感もコントラストも高く、いわゆる「良く写って
いる写真」には感じられるだろうが、「写真とは、
映像記録である」とも常に言い切れない訳だから、
そもそも画質等は写真の目的によりけりであろうし、
実際の所1/10の価格のCOSINA100/3.5の画質も
そう捨てたものではない。
あるいはMAP110/2.5の方は、それを、ちゃんと使い
さえすれば多くの条件でも綺麗な写真が撮れるだろう。
でも、それで面白いのか? 楽しいのだろうか?
被写体条件が限られる、難しいレンズを上手く使い
こなす事によって得られる、エンジョイ性は無いの
だろうか・・?
あれこれと考えてみると、結局はユーザーや消費者
個々の価値観によって、値段の是非が決まる事となる。
まあつまり、評価は必ずユーザー自身が行い、その
価値を判断する事が必須であり、他人の意見は一切
当てはまらない、という基本的な原則に立ち返る訳だ。
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では、次のペアだが、
CONTAX銘とYASHICA銘の2本のMF100mmマクロ
を比較する。これらは1980年代での、同時代の
同一メーカー(京セラ)の製品だが、価格が大きく
異なる。もはや情報も少ないが、定価レベルでは、
概ね、Hi=約20万円 Lo=4万円台 という大差がある。
まずは、ハイマクロ。

レンズは、CONTAX Makro-Planar T* 100mm/f2.8 AEJ
(中古購入価格 82,000円)(以下、MP100/2.8)
カメラは、CANON EOS 6D (フルサイズ機)
1980年代後半に発売と思われるMF中望遠等倍マクロ。
私が記憶している限りでは、1990年代での定価は、
198,000円+税と、非常に高価なレンズである。
ただし、値段が高い事イコール性能(描写力)が高い
訳では無い事は、本ブログでは、もう何百回記載して
きた事であろうか? 今回の「ハイロー」記事群は
それを証明するための記事群でもある。

前述したが、カメラにおける「ハイロー」は、(まあ
厳密な意味では違うのだが)実用上・運用上において、
「メイン機とサブ機」といった組み合わせを使う事は
銀塩時代の昔から、ある事はあった、という話だ。
だが、レンズにおける「ハイロー」は、あまりそれを
意識している(あるいは両者を同時に所有している)
ユーザー層は、多くは無いだろう、と推察される。
「ハイローミックス」となるレンズを同時に所有する
必要が無い事がその原因だ。
簡単に言えば、本MP100/2.8を買ったユーザーが
同メーカー、同マウント、同じ焦点距離のYASHICA製
の100/3.5マクロ(後述)を、合わせて買う必要が
まず無い。(=ほとんど、ありえない話であろう。
Hi版が「高級品」で、Lo版は「安物」だからだ)
だが、本当にそう(安い物は不要)なのだろうか?
思えば、銀塩MF時代(1970年代前後)においては、
消費者が銀塩MF一眼レフを購入する際、キットと
なるレンズは、50mm級標準レンズであった。
その際、50mmのレンズは2種類あって、F1.4級の
大口径版(Hi版)と、F1.8級の小口径版(Lo版)
となっていた、両セットの価格差は数万円程度に
およぶ場合すらあって、消費者は当然ながら
Hi版のセットを欲しがる。まあそれはそうだろう、
「値段が高く、数値スペックも優れているから、
そちらの方が良さそうだ」と、誰しもが思う。
で、そうやってHi版を買ってしまうと、優越感が
出てくるため、Lo版、すなわちF1.8級レンズの事
を「安物だ、良く写る筈が無い」と見下してしまう。
しかしながら、現実はその正反対であり、その時代
の標準レンズの描写力は、小口径(F1.8級)の方が
大口径(F1.4級)版を上回るのだ。
(参考:最強50mmレンズ選手権シリーズ記事群。
MF F1.2編、MF F1.4編、MF F1.8編等)
他記事でも何度も述べているので、もうここでは
詳細は割愛する。ともかく「値段の安いレンズの方が
性能が高い」という”下克上”がここで発生していた。
だけど、この時代の消費者層・ユーザー層においては
「開放F値の小さいレンズの方が高級品であり、
高性能で良く写る、だから高価なのだ」という
思い込みが根付いてしまった(そう思わせたい為の
市場戦略でもあった)その「思い込み、誤解、錯覚」
は、その後50年も経った現代にまで、初級中級層の
間で、ずっと引き継がれてしまっている。
それから、銀塩MF時代は「ブランド」も重要な要素だ。
「NIKONだったら、世間的にも良く知られているから、
カメラもレンズも高性能に違い無い」とか、
「CONTAXは、世界的に著名なカールツァイス製だから
日本の光学技術などでは歯が立たない一流品だ」
といった感じである。
(ちなみに、1970年代頃から、西独ツァイス社は、
もう既に、写真用交換レンズ事業から撤退している)
この当時に、本MP100/2.8を入手できたユーザーは
お金持ちで(価格20万円)、写真にも詳しく上手で、
海外製の一流品を使うセンスの良い人で・・
という感じに、世間一般では捉えられていただろう、
そしてオーナーもまた、そう見られる事に、ステータス
(満足感や優越感)を感じていた事は、まず間違いない。

だけど・・ このMP100/2.8は私が「修行レンズ」と
呼んでいるほどに使いこなしが難しい(=ワースト・
ランキング第5位)レンズである。
(難しい理由は本シリーズ第11回記事に記載しているが、
加えて今回は、一眼レフを使っているので、ボケ質破綻
の回避措置が出来ず、さらに難易度が増加している)
当時の金満家のマニア層等で、本当にこのレンズを
ちゃんと使いこなせていたのであろうか? そこは
はなはだ疑問である。高額な「一流品」を買った事
だけで満足してしまい、あまり外に持ち出して撮る
ような事はしていなかったのではあるまいか?
はたまた「外に持ち出して使って、キズでもついたら
価値が落ちるので、使いたくない!」などと考える
オーナーが大半であったのではなかろうか?(汗)
そして、当時の、あるいはそれから40年近くも経過
した現代に至るまで、本MP100/2.8に関する、詳細
で公正なユーザーレビューなど、まず見た事が無い。
昔の時代でも「さすがCONTAX、とても良く写る」
などという評価しかなかった。(注:色々と世情も
あって、そう評価するしかなかった。本MP100/2.8
を「たいした事は無い」「使い難い」などと評価する
事は、当時の世情では許されない事であっただろう)
その後の時代であっても同様、CONTAXやツァイスは
必ず「神格化」されていないとならない状況が、
”大人の世界”での慣例(しきたり)な訳だ(汗)
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では、4本目のレンズは、3本目「ハイ」の対抗と
なる、「ロー」マクロだ。

レンズは、YASHICA LENS ML MACRO 100mm/f3.5
(中古購入価格 20,000円)(以下、ML100/3.5)
カメラは、OLYMPUS PEN-F(μ4/3機)
詳細不明、恐らくは1980年前後に発売された、
中望遠ハーフ(1/2倍)マクロレンズ。
1/2倍と周辺収差の弱点回避の為、μ4/3機を母艦
としている。

さて、上のMP100/2.8の項目で述べてきたような、
その当時の消費者層の基礎知識や世情を持って、
この1980年代頃の2本のイメージを比べてみよう。
*CONTAX Makro-Planar 100/2.8
世界のカール・ツァイスによる高級品/一流品。
値段は約20万円と高いが、その値段に恥じない
描写力を魅せてくれる憧れのマクロレンズ。
カメラファンだったら、いつか必ず入手すべし!
*YASHICA ML MACRO 100/3.5
大衆メーカーのヤシカが作った普及マクロ。
4万円の安物だ、「安かろう、悪かろう」
1/2倍の撮影倍率でマクロと言えるのか?物足りない。
ツァイスと比べると、非常に安っぽい作りは不満足。
これを買うくらいならば、多少無理をしても、
同じマウントのマクロプラナーを買うべし。
・・・嗚呼(汗) これがその当時の一般消費者
の典型的思考(評価)パターンである。
「素晴らしい意見だ、だが、全部間違っている・・」
と、スターウォーズ後期のルーク・スカイウォーカー
ならば、きっと、そう言った事であろう(笑)
だって、それもその筈。上に挙げたような意見や
評価や見解などは、すべて自分自身が、その製品を
手にもしていない段階/状態での、完全なる「想像や、
思い込み」での価値判断だからだ。
でも、MP100/2.8と、ML100/3.5を、その当時に
同時に入手しようといった酔狂を実現したユーザー
など、まず居ないし、当時では有り得ない。
だから、仮にどちらかを入手していたとしても、
MP100/2.8オーナーは、ML100/3.5を下に見てしまうし、
ML100/3.5オーナーは、いつかMP100/2.8に買い
換えよう、と憧れを募らせるばかりであっただろう。
それに万が一、両者を借りて同時に使えたような
恵まれた環境があったとしても、この銀塩時代での
撮影機材環境では、両者を厳密に比較する等は無理だ。
現代、デジタル時代において、ミラーレス機などの
適切な母艦を用い、さらには高度な技法を用いて、
かつ、長期に渡り膨大な撮影枚数を重ねていかない
限り、両者の差など、わかりようが無い。

ちなみに、私の個人レンズ評価DBでの両者の
総合得点は、MP100/2.8が3.8点(5点満点)
本ML100/3.5が3.2点となっている。
両者「中の上」というポジションの評価点であり
感覚的には、もう少し差が無い(0.3点程度の差)
に留まり「ほとんど、どちらでも良い」という感じ
の評価になりそうなのだが、まあ、ここには当時の
京セラの製品ラインナップ上での「仕様的差別化」
も存在していた事であろう。
これはつまり、CONTAXは最上級のレンズでなくては
ならない訳だから、他社を圧倒的に上回る性能で
なくてはならない。まあ、幸いにして、当時としては
極めて稀な「等倍」の中望遠マクロが実現している。
YASHICAは、CONTAXを引き立てなければならないから
あまり性能を高めてはならない。1/2倍で、外観の
簡素化、描写性能も、ほどほどに留めておこう。
そうしたコストダウンで低価格化しておけば、CONTAX
MP100/2.8の凄さが、かえって際立つ事であろう。
・・と、まあ、そんな感じの市場戦略や企画意図が
チラホラと見え隠れしてならない。
ちなみに、以下は個人的な裏話だが・・
CONTAX MP100/2.8の「修行レンズ」的な特性は、
どうみても、私の好みに合わず、それでいて、
購入価格も高かったので、コスパがとても悪く、
「嫌いなレンズ」の代表格となってしまっている。
だから、本来はMP100/2.8など、使いたくも無い。
でも、せっかく銀塩時代に高値で購入したレンズ
なので使わないで死蔵させておくのはもったいない。
何かしらブログ記事等で、理由をつけて、撮る機会
を設けてやらないといけないだろう。
そうだ! 安価なYASHICA ML100/3.5と比べてみる
のはどうだろうか? それが良い、そうしよう・・
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では、3組目のペアだが、
極めて著名なTAMRON製のSP90mm/F2.8の2本の
AFマクロを比較する。ロングセラーレンズであり、
ここで取り上げる2本は、設計された時代が15年以上
も異なり、その間に幾度かの小改良を経たものだ。
しかし、定価にはあまり大差がある訳では無く、
Hi=90,000円+税 Lo=68,000円+税 である。
なお「タムキュー」の俗称は本ブログでは非推奨。
40年以上の長い歴史の中に、何世代ものマクロが
存在しているのだから、それらを全てひっくるめて
「タムキュー」では、あまりにアバウトな、ビギナー
用語でしか無い。
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さて、3組目最初のハイ・マクロレンズ

レンズは、TAMRON SP AF 90mm/f2.8 Di MACRO 1:1 USD
(Model F004)(中古購入価格 25,000円)
カメラは、SONY α99(フルサイズ機)
2012年に発売された中望遠AF等倍マクロレンズ。
言わずと知れた「90マクロ」の、近代のバージョン
である。

旧272E型に対し、いくつかの改良点があるが、
その最たる点は、VC(手ブレ補正)機能と、
USD(超音波モーター)の搭載である。
ただし、本レンズは、SONY α(A)マウント版で
あり、この場合、SONY α(A)機には手ブレ補正が
内蔵されているから、VC機能は搭載されていない。
(しかし、価格や中古相場はVC有り版とは大差は
無かった。だが、2010年代後半からは、SONYは、
α (A)マウント機に注力していない為、在庫品を
残す事を嫌った中古市場においては、α (A)用
レンズの中古相場は下落傾向となっていた)
対して、USD(超音波モーター)の方は、一見して
有益な改善である(?? →詳細後述)
これらのVCとUSDの「付加価値」(=消費者側から
すれば商品を欲しがる理由。メーカー側からすれば
値上げの理由)により、定価は旧型272E型に対して、
22,000円、約32%もの値上げとなった。
私は、本来の考えでは「マクロレンズには手ブレ
補正や超音波モーターは不要」というポリシーだ。
では、何故本レンズF004型を買ったのか?という
点だが、本シリーズ第75回、第79回記事等で
詳しく述べているので、今回の記事では割愛する。
簡単に言えば、TAMRONの90マクロの全光学系を
コンプリートして、それを比較する研究用途だ。
で、それらの記事でも書いているが、案の定、
このF004型のUSDは、マクロ(近接)撮影に
おいては、むしろ使い難い。
いや、ぶっちゃけ言えば「近接撮影で超音波
モーター搭載レンズは使い難い」という持論を
証明する為に、本レンズを買ったようなものだ。
なにせ「所有をしていないレンズについて評価を
してはならない」というルール(持論)があるので、
自身の想像だけで欠点を述べるのはフェアでは無い。
で、この問題は想像していたよりも大きく、USD仕様
のマクロは実用性が厳しいように感じてしまった。
だが、それについての回避技法も研究しつつあり、
例えば「デジタル一眼レフ・クラッシックス第26回
SONY α99編」で、同機と本F004を組み合わせた
場合での、AF課題の回避の方法論を述べている。
話の方向性がずれてきたので、本題に戻そう。

本F004マクロは「Hi」マクロである。
旧型マクロより、スペック(VC/USD)的に圧倒的に
高性能(高仕様)であるし・・ おまけに微妙だが
光学系にも手を入れてあって、より高い描写力を
得られるように改良されている(・・らしい。
まあ、私は、あまりそうは感じないが・・)
よって、値段(定価)も旧製品よりも3割以上も
高価である。そんな高級(Hi)マクロレンズだ。
(・・と、上記のように一般的には思うだろう)
だから、旧型レンズよりも全ての点で優れているのか?
いや、私は、このケース(旧型との比較)においては
間違いなくNOと言える。なにせ、本F004レンズは
マクロとしては、まったくもって使い難いのだ。
「中遠距離撮影では、VCとかUSDの効能がある」
という意見もあるだろう。でも、考えてみれば、
72E型(1996年)以降のTAMRON 90 マクロは近接
撮影で最良の描写力を発揮できるように設計変更
されている。中遠距離を撮るならば、他にも優れた
中望遠の名レンズが、世にいくらでもあるのだから、
わざわざ本F004型で中途半端に、そんな被写体を
主力として選ぶ筈も無い。F004を持ち出した時点で
それが最良のパフォーマンスを発揮できる近接撮影
の事だけを考えないとならない筈だ。
結局、近接撮影でのVCやUSDは不要な機能だと思う。
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次は今回ラストで、上とペアになる(ロー)の
マクロである。

レンズは、TAMRON SP AF 90mm/f2.8 MACRO [1:1]
(Model 172E)(中古購入価格 25,000円)
カメラは、SONY α65(APS-C機)
1999年発売の中望遠AF等倍マクロレンズ。
偶然にも(?)、ハイとローのマクロの購入価格は
一緒である。・・いや、実は偶然では無い。
私の中で「TAMRON 90mmマクロは25,000円まで」
という価値感覚が出来あがっている訳であり、
私は各時代の代表的な90マクロを所有しているが
(本シリーズ第79回「新旧TAMRON90Macro」編参照)
どれも25,000円以下で買っている。つまり、
「中古相場が25,000円以下になるまで買わない」
という自分なりの価値判断ルールを守っている。

値段が一緒なので「ハイロー」の区別はつけにくい
のだが・・ 「少しでも新しいものを良しとする」
という現代の初級中級層の価値判断基準であれば
現行品より3世代も古いレンズなど、”ポンコツの
安物レンズ”にしか見えない事であろう。
ただ、前述のように、こと近接撮影に特化して
言えば、本172E型は、新鋭(Hi)のF004よりも
ずっと使い易い。
描写力に関して言えば、172E型以降の
2004年の272E型で、後玉反射防止コーティング
を施した「Di対応」となり、前述のF004型で
光学系の小改良が行われている訳だから、
まあ、「F004型の方が2世代優れている」のは
歴史上では確かであろう。
だけど、ぶっちゃけ言えば、実用的な近接撮影面に
おける描写力の差異は、私には感じられない。
本172E型の時代から既に、大変良く写るマクロ
レンズであった訳で、描写力上での不満は無かった。
「近接撮影で、これ以上、何を改善するのか?」と。
(注:中遠距離での描写力が改善されているのかも
知れないが、そういう比較をしないので良くわからない)
それに、F004型はUSDを搭載した事がむしろ仇に
なっていて、AFでのピント精度が期待できない。
本172E型ならば「どうせ近接AFは無理だから」と
MFに特化する事で、逆説的にピント精度の課題を
回避できていた。(特に、今回使用の母艦α65では
DMF機能等は持たないので、MFに特化した方が潔く、
ピーキング機能等により快適に近接MF撮影ができる)
だがF004では、変に「USDならばAFが合うかも」
と無茶な期待により、無理をさせてしまうので
「ああ、やはりUSDでも近接ピントは無理かぁ」
と、がっかり感が、とても大きいとともに、
「それならばUSDなんぞ、何故入っているんだ?
無駄な機能を入れるな!」と、企画コンセプト
への反感がストレスとなる。
こうなると、「エンジョイ度」が低いレンズと
いう評価となってしまう事であろう。
事実、私の個人評価DBでの総合評価点だが、
旧型172E=3.7点
新型F004=3.2点
・・と、完全にここでは、Hi-Loが逆転してしまって
いる評価傾向であり、実際に使っている感覚でも、
まさしく、その総合評価点そのものだ。
まあつまり、「172E型は名玉の1歩手前くらいの
優秀なレンズ、F004型は、ちょっと、あれこれと
問題があるので「並」の評価だな・・」という
感覚値だ。

なお「最新型のF017ならば、もっと良い筈だ」
などという意見は聞かない。”VCとUSDの性能が
僅かに改善されている”といっただけの理由で
高価でコスパを落とす最新型を買う筈も無い訳
であり、そもそも「VCとUSD不要論」であるから、
F004ですら買うのに躊躇していた位なのだ。
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さて、今回の「ハイローマクロ」編は、このあたり
迄で。これくらいの実例では、まだまだ価格幻想は
無くなりそうもないだろうから、次回記事も、また
ハイローシリーズだ。