マニアックなレンズを主に紹介するシリーズ記事
であるが、今回は「スーパージェネリックレンズ」
編と称した補足記事とする。
これの意味であるが、まず「ジェネリックレンズ」
とは、主に近代(2010年代後半~)の中国製レンズ
等において、過去の名レンズの設計を踏襲し、それを
スケールダウン(まれにスケールアップ)して設計
された、いわゆる「縮小(拡大)コピーレンズ」だ。
過去に実績と定評があるレンズ構成を参考とする為、
新規設計開発に係わる作業工数を大幅に省力化でき、
安価で性能に優れた、コスパの良いレンズとなる。
この設計手法を本ブログでは「ジェネリック・レンズ」
と呼ぶ。まあ、医薬における「ジェネリック薬品」と
同等の仕組みだからだ。
で、ジェネリック・レンズでは、多くの場合コピー
元となったレンズの特性を大なり小なり引き継いで
しまう、それが長所であっても短所であってもだ。
私は、複数の、そうしたジェネリックにおける
「親」(コピー元)「子」(縮小等コピー先)の
組み合わせを所有しているのだが、普通は親(元)
レンズの方が優れている。縮小コピー品の場合は、
若干の設計変更による描写特性の変化、および、
イメージサークルや被写界深度の減少が伴うからだ。
だが、稀に、親子の子(ジェネリック)の方が、
全般的に優れた特性を持つ場合もある。
これは、レンズを使用するシステム環境が変わると
親の持つ弱点が解消される場合もあるからだ。
そのケースを「スーパージェネリック(レンズ)」と
本ブログでは呼び、今回の記事では、そうした親子
関係の組み合わせが確実なケースを、1ペア(2本)
および「親子関係の確実性が不明」という、まるで
「すわ、DNA鑑定か?(笑)」という感じでの3本の、
計5機種のレンズを紹介する事としよう。
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ではまず今回最初のレンズ、こちらは「親」だ。

レンズは、smc PENTAX-FA ★ 85mm/f1.4 (ED IF)
(中古購入価格 43,000円)
カメラは、SONY α7S (フルサイズ機)
1992年頃に発売のAF大口径中望遠レンズ。
銀塩時代のレンズの為、勿論フルサイズ対応である。
本来はPENTAX機で使う事が望ましいのだが、私は
PENTAX K-1系のフルサイズ機を所有していないので、
今回はフルサイズ・ミラーレス機を母艦とする。
通常の機械式マウントアダプターを使うので、ピント
合わせはMFのみとなるが、SONYミラーレス機に備わる
優秀なピーキング機能の利用で、特に問題は無い。
また、本レンズは絞り環を備えているので、総合的な
レンズの設定操作性は、さほど悪く無い。

本レンズFA★85/1.4であるが、PENTAXにおいて
高品質のレンズである事を示す、★(スター)の
型番がついている。これはPENTAXに限らず、CANON
でのLとか、SONYでのGとか、各社において、それぞれ
高品質の称号がある。
しかし、「だから高画質だ」とは限らない。
たとえば、ただ単に「非球面レンズ」等の、昔は
非常に高価であった(1枚1枚、手づくりだったから)
部材を使うと、当然、製品はコストアップし、価格も
上げざるを得ないが、それを消費者層に納得して
貰う為には、「このレンズは★だから」「Lだから」
と、付加価値の向上(=値上げの弁明)をしなければ
ならない訳だ。
ちなみに、本FA★85/1.4は、非球面レンズは使用
していないオーソドックスな7群8枚構成であるが、
一部、異常(低)分散レンズを使っていると思われる。

肝心な事は、「こんな(新)技術を使っているから、
だから凄いんだ、良く写るレンズなのだ」という
解釈は全く成り立たない事である。
技術分野に造詣が深く無いユーザー層では、新技術を
盲信してしまうが、そういう話でも無い。もし、その
新技術が、あらゆる点で優れてるのであれば、それは
数年で、あっと言うまに業界各社に広まり、その後の
全ての新商品は、同等の技術を使った仕様になる。
(例:超音波モーター等) そういった状況を
「デファクト・スタンダード化した」(=事実上で、
世の中で当たり前の技術となった)と一般に呼ぶ。
で、そうならないのは、つまり、他社が真似をしない
のは、「その技術が特許で守られている」という理由
は一応あるかとは思うが、それよりも、その新技術が
全ての点では優れてはおらず、何らかの弱点がある、
または「トレードオフ」(片方を優先すれば、他が
立たない)が存在するからだろう。
例えば、非球面レンズの開発初期の時代で、それを
使ったら、恐ろしく高価なレンズとなる。(例:
NIKON Ai Noct-NIKKOR 58mm/f1.2、1977年)
ブランド力のあるメーカーならば、そういう高価な
製品も発売できるかも知れないが、一般大衆向けの
カメラメーカーではそれは無理だ。(誰も買わない)
「では、やはり有名メーカーの製品は良いのか?」
と思うかも知れないが、それもそうとは限らない。
ブランド力のあるメーカーの製品は、比較的高価な
値づけでも買ってくれる消費者層は多い。
だけど、それはすなわち「実際の価値よりも高額
な商品を買わされている」事になってしまう。
(→私が言うところの「消費者の負け状態」)
「それがブランドだろう?」と、ブランドの価値を
高く感じられる(ブランドを信奉する)消費者ならば、
それはそれで良いのだが、消費者が特定の商品分野
(ここではレンズの話だが、他にも服飾品とか、
食品とか、なんでも)に「精通」すればする程に、
世にあまり知られていない、無名で安価な、しかし、
優れた商品が色々と存在する事を知るようになる。
そういう商品を多数見てきてしまうと、普通は
「ブランド信奉」は、その消費者の中では瓦解する。
「なんだ、有名ブランドの製品って、たいした事は
無いではないか、こっちの無名の商品が遥かに良いよ」
こういう価値観を得る事が出来た消費者層の事を、例えば
「マニア」と呼ぶ。つまり「固有の価値観を持つ人達」
の事である。「マニア」には他にも様々な定義があるが、
固有の価値観を持つ事は、大前提で、必須である。

さて、話が長くなってきたが、本FA★85/1.4は、
そういう意味では、マニア好みのレンズだ。
これが発売されていた1990年代(恐らくだが、
2000年前後には生産完了となっていただろう)での
定価は約10万円弱と、他社同等仕様品よりも安価だ。
中上級層向けのPENTAX Zシリーズ銀塩AF一眼レフ
(1990年代前半、銀塩一眼第17回記事参照)
に合わせて発売されたものの、バブル経済の崩壊や
阪神淡路大震災等による消費者ニーズの激変を経て
PENTAX Zシリーズは商業的に成功を収めたとは思えず
PENTAXは1990年代後半には、初級中級層向けの
AF一眼レフMZシリーズに製品戦略を転換していく。
ここでFA★85/1.4は、製品ラインナップ上では
「浮いた」(異端な)レンズとなってしまった。
FA★85/1.4に替わるべく、小型軽量、高品質で高画質
かつマニアックな新中望遠レンズの開発が進められ、
2000年、近年まで販売が継続された、超名玉の
smc PENTAX-FA 77mm/F1.8 Limited(通称:ナナナナ)
が新発売されると、置き換わるようにFA★85/1.4は
ディスコン(販売終了)となり、ひっそりと市場
から消えていった。
後年、2010年前後に、本FA★85/1.4の高描写力に
注目した一部のマニア層が、これを高く評価した。
元々あまり販売数が多いレンズでは無かったので、
希少価値から投機対象となってしまい、プレミアム
価格化(=本来の製品価値よりも高価となる事)
してしまった。
そうなると、高価なそれを入手したオーナー等や、
当該レンズを、もっと高く売りたい流通や投機層は
「PENTAX史上最強の、名中望遠レンズ」などと
過剰な高評価をする訳だから、そうした情報が
ネットで拡散され、市場価値が混迷してしまった。
まあ、「PENTAX史上最強・・」は、明らかに過剰
評価であろう。
「最強」かどうかは、撮影条件や利用者によりけり
だから、あまりそういう事を決めたくないのだが、
あえて、それを言うならば「ナナナナ」であろう。
本FA★85/1.4は、ナナナナに負けてカタログ落ち
してしまったレンズなのだ。FA77/1.8に匹敵する
程の市場価値があったならば、併売するか、あるいは
外観リニューアル等を施した、後継のⅡ型を作れば
良かった筈だ。
まあでも、悪くは無いレンズである。
ちなみに、本ブログの、ミラーレス・マニアックス
名玉編で第18位(同1位はナナナナ)の入賞実績がある。
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では、次のレンズ、こちらが「子」である。

レンズは、smc PENTAX-DA ★ 55mm/f1.4 SDM
(中古購入価格 42,000円)
カメラは、PENTAX KP(APS-C機)
2009年発売の、超音波モーター搭載型、APS-C機専用
AF標準(中望遠画角相当)レンズ。

ある意味、不遇な人生(歴史)であった「親」レンズの
FA★85/1.4は、デジタル時代に入った直後の2000年代
前半では、中古品があっても誰も注目しないレンズと
なっていた。
その理由はPENTAXのデジタル一眼は、銀塩時代の
Kマウントレンズを使えたものの、(2016年のK-1
に至るまで)全てAPS-C型のセンサーサイズであった
からだ。
それの何が問題なのか? と言えば、世間では、
「85mm=ポートレート用レンズ」という概念、つまり
1970年代前後に、市場やメーカーが、交換レンズの
販売を促進する為に、レンズの焦点距離別の推奨
用途を定めて、それを標語のように拡散していた事
からの、刷り込まれた「思い込み常識」が、ずっと
何十年間も、ユーザー層に定着していたからだ。
だから、「85mmレンズは、APS-Cで127mmだろう?
それじゃあ、人物撮影ができないじゃあないか!」
と思い込んでしまう初級中級ユーザー層が大半で
あったのだ。
勿論、何mmの画角であっても人物撮影は出来る。
ただまあ、「85mmが撮影条件の汎用性が高まる」
事も、根拠が全く無い話では無い。
でも、カメラ市場を支えているのは、物事の本質が
あまり良くわかっていないビギナー層なのだから、
85mmレンズは、APS-C機用としては売れない。
2000年代では各メーカーからは、新規の85mmレンズ
発売は少なかった、開発を優先すべき製品では
なかった訳だ。85mmレンズの新製品発売が活発化
されるのは、フルサイズ機が一般ユーザー層にも
普及した2010年代後半あたりからの話なのだ。
さて、そんな状況の中、2000年代のPENTAXとしては、
APS-C機で汎用的な人物撮影(中望遠)画角として
使える優秀なレンズを発売しないと、他メーカーに
対する市場競争力が得られない。(負けてしまう)
そこで、優秀であったFA★85/1.4の設計を、
約2/3程度にスケールダウン(縮小コピー)する。
そうすると55mm/F1.4という仕様のレンズとなり、
APS-C機で使用時に約82.5mm相当の中望遠画角と
なるレンズ、つまり、FA★85/1.4のAPS-C版の
「ジェネリック・レンズ」が、ここに成り立つ訳だ。
それが、本smc PENTAX-DA ★ 55mm/f1.4 SDM
である。(以下、DA★55/1.4)

FA★85/1.4の縮小コピーレンズであれば、もっと
その「素性」に注目するマニア層等が多くても
良かったように思えるのだが、その事実はメーカー
からは公表されていない。「縮小コピーです」という
話は、あまり付加価値を高めるものでは無いからだ。
メーカーからは開発秘話のような形で「FA★85/1.4
と設計者は同じ」というような話が流れただけである。
対して、消費者層からの反応はどうか?
「何、55mmのF1.4? そんなの昔からある、ごく
普通の標準レンズでは無いか。それで8万円?
そんなの高すぎるだろう? 中古で1万円台の
昔のAF標準レンズで十分だよ」
という印象で捉えられた。
まあ勿論、本DA★55/1.4は、昔の変形ダブルガウス
型標準(5群6枚や6群7枚)では無く、8群9枚で
異常低分散ガラスを使用している(注:恐らくは
FA★85/1.4でも、EDレンズを使用している)
ただし、単純縮小コピー設計では無く、僅かに
FA★85/1.4とはレンズ構成が異なる模様だが、
仮に設計者が同じ場合、その設計のテイスト(クセ、
好み、コンセプト)も同等になる場合も多いと思う。
実際の本DA★55/1.4は、私の感覚では、殆ど
FA★85/1.4と同じ描写傾向であり、「親子」の
血縁関係を、とても強く感じるレンズとなっている。
FA★85/1.4と同様に、悪く無いレンズであり、
目に見える描写力上の弱点は、ほとんど存在しない。
本ブログにおける過去記事の「名玉編」等では、
*ミラーレス・マニアックス名玉編=第3位
*ハイコスパレンズBEST40=第9位
*最強50mm選手権=決勝戦進出、準優勝(第2位)
と、各ランキング記事において、高い順位をマーク
しているという、正真正銘の名玉である。

では何故、本DA★55/1.4が市場で、あまり注目
されていないのか? その理由の1つは、前述の
「過去の標準レンズと、あまりスペックが変わらない」
であり、もう1つは、本レンズの発売タイミングが悪く
PENTAXがHOYAに吸収されてしまった直後の時代で
あった点だ。この後、HOYAは徹底的なエントリー層
(入門層)向けの市場戦略を行った。そこでは
高級機や高級レンズの開発を放置し(優先度を下げ)、
個性的な初級機や入門用ミラーレス機の開発に注力し、
販売戦略も、ファッショナブルなオーダーカラー制や、
アニメ、ゆるキャラ、レコード店等の異分野との
コラボ販売を積極的に推進し、このHOYA時代の
PENTAXカメラ事業を黒字化する事に成功した。
しかし、どれかをとれば、どれかが成り立たない訳
であり、この時代に、PENTAX SPの時代(1960年代)
から半世紀も続いてきた「PENTAX党」のマニア層を
大幅に失ってしまったように感じる。
HOYAは、PENTAXを見限るように、2011年にはカメラ
事業等を、そっくりRICOHに譲渡した。そこから
RICOHは、PENTAX商品を再びマニア層が注目するよう
な製品戦略を取るが、失われてしまったマニア層は
もう帰ってこなかった。例えば恐ろしくマニアックな
操作系を極めた超高性能機PENTAX KP(2017年)を
リリースしても、多くのビギナー消費者層の評価は、
「何それ? 高感度が付いただけなのに、これまでの
PENTAX機よりも、2倍も高くなっているじゃん」で
終わりであった。(その後、PENTAXの一眼レフ
新製品は、殆ど発売されていない。次の機種は、
実に4年後の2021年、K-3 MarkⅢとなる)
もはや、本DA★55/1.4の本質が理解できて、それに
注目するPENTAXユーザー層は誰もおらず、中古市場
では、年々本レンズの中古相場は下がり続けている。
「親」も不幸ならば「子」も不幸であったという事か?
せっかくの才能を持ちながら、様々な世の中の世情で
その才能が認められる事は無かった訳なのだから・・
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さて次は、上記2本の親子関係とは異なる、別の
「親」レンズである。ただし、DNA鑑定が確実では
無く(笑) あくまで「親」の候補の1人だ。

レンズは、NIKON Ai NIKKOR 85mm/f1.4 S
(中古購入価格 60,000円)
カメラは、NIKON Df (フルサイズ機)
1981年頃に発売されたMF大口径中望遠レンズ。

本レンズの時代以前のNIKKORレンズは、報道や学術等の
分野で好んで用いられた為、解像力の向上や歪曲収差の
補正を主眼として設計されたものが多かった。
まあ、それらの撮影分野では、被写体が「くっきり、
はっきり、正しく」写っている必要が高かったからだ。
しかし、こうした特性では、いわゆる「カリカリ描写」
となってしまい、人物、草花、アート、ファッション等
の一般被写体には向かないケースもあったと思われる。
だが、本レンズの時代、これまでのNIKKORの特性とは
ずいぶんと異なり、一般的被写体に向く設計思想で
作られたレンズ群、特に中望遠系の大口径レンズが
何本か発売されている。
具体的には、本シリーズ第69回「Ai NIKKOR大口径
望遠編」において、その対象となるレンズ群4本の
紹介と詳細な分析を行っているので、興味があれば
参照されたし。
で、本レンズAi85/1.4も、その類の特徴を持つレンズ
であり、あまり強い「カリカリ感」があるレンズとは
言えない。
その設計思想の背景には、もしかすると1975年に
発売された、YASHICA(京セラ) CONTAX Planar T*
85mm/F1.4(後述)に対抗する意識もあったのかも
知れない。そのレンズは1975年代後半においては、
マニア層等から「神格化」される程の好評価があった
訳だし、本レンズは、そのPlanar 85/1.4の弱点を
良く分析した上で、改良した特性になっているとも
思われるからだ。
だが、とは言え、本Ai85/1.4の特性も、そう簡単に
手放しで褒めれるようなものでも無い。
それは(RTS)Planar85/1.4にある特徴的な要素の、
「条件が上手く決まった際での、爆発的な高描写力」
が、本レンズでは得られないのだ。
「爆発的な高描写力」とは何か? と言えば、
例えば、中距離で平面に近い被写体を撮影すると、
ピント面がシャープで、背景ボケがとろけるように
美しくなり、その対比が素晴らしい事等だ。
これが人物撮影で得られると「人物の輪郭をまるで
何処からハサミで切って来て、貼り付けたような」
様相となる。これが良いか否か?は、ユーザー層の
好みや写真表現にもよりけりだが、多くのユーザー
層において、求められる描写傾向でろう。
だが、この描写を得る為には、数多くの要素が条件
として揃わなければならない。具体的には、絞り値、
撮影距離、背景距離、背景の絵柄、人物等の被写体の
立体的距離分布、そして光線状態、使用フィルム。
他にもあるかも知れないが、概ねそのあたりか・・?
・・で、これらが上手く揃わないと、RTS P85/1.4は
「爆発的な高描写力」を発揮してくれない。
銀塩時代でのコンテスト等出品時の撮影データの
ように「絞り値いくつ、シャッター速度いくつで、
このフィルムで撮りました」などというレベルでは
全然足りない訳だ。(注:それが真実の実態だから、
絞りとシャッター速度だけを記載して済ましてしまう
事には、私はずっと反対派であり、本ブログでは
一度も、その類の「撮影データ」を書いた事が無い。
ただまあ、銀塩時代のコンテストでは、「絞りとか
シャッターとかの意味が良くわからない」といった
低レベルな応募者層を予め排除する為に、あえて、
撮影データを書かせていた様相もあった)

さて、で、本Ai85/1.4では、RTS P85/1.4のような
様々な撮影条件を、ぴったり整えないでも、そこそこ
多くの条件で、比較的良い描写力が得られるという
マイルドな(ピーキーでは無い)特性だ。まあこれも
良く比喩さている「優等生的だ」と言い換えても
良いかも知れない。
だが、解像感がイマイチであるから、RTS P85/1.4
のような「爆発的・・」は、絶対と言っていい程に
得られる事は無い訳だ。
でも、そのあたりは設計コンセプト上での選択で
あり、この時代のレンズ(光学)設計製造技術では、
非球面レンズも新硝材も何も使えないのだから、
全ての収差補正を行う、あるいはベタに言えば、
「解像感も歪曲収差もボケ質も、全てを良好にする」
事は、まず無理、という感じであった。
(まあ、今時の新鋭高性能85mm/F1.4レンズ、
例えばSIGMA Art 85/1.4等では、こうした多面的
な性能を全て良好にする設計も可能だ。しかし
そうしたレンズは、非球面や新ガラス等を多用した
複雑な設計で、つまり、大きく、重く、高価な
「三重苦レンズ」となってしまう訳だ)
だから、この時代では設計上の「トレードオフ」が
起こる。つまり、どの性能(収差補正等)を優先し、
どの性能を犠牲にするか?、あるいはもっと上の
次元での話では、「どういう被写体条件に対して、
どれくらいの汎用性(撮影安定性)を持たせるか?」
という設計思想(設計コンセプト)の決定が必要だ。
なお、これらもまた「設計基準」の一環である。
で、技術開発分野にあまり詳しく無い人達の間では、
「設計基準とは、そのレンズを無限遠撮影の際に
最良の画質となるように設計するか?、あるいは
マクロレンズ等では、近接撮影時に、良好な画質
となるようにするのか? そのいずれか」という
解釈を(世間では)される事が多い用語であるが、
それは大きな誤解(間違い)である。
実際の設計開発においては、軽く100を超えるような
様々な項目がある性能要素を、いかに、バランス良く
纏めていくか? それが設計仕様決定作業の根幹で
あり、それが「設計基準」でもある訳だ。
だから、「無限遠優先か、近接優先か?」といった
トレードオフ(二者択一)は、あらゆる性能要素
で起こる話であり、それ(距離)を決める事だけが
「設計基準」では無い。
さて、NIKONでの、本レンズの設計基準(設計思想)
は、Planarへの対抗意識とか、この時代1980年前後、
つまり、AF化直前の時代でもあり、あるいは従前の
1970年代に物価が上がりすぎて(=狂乱物価)、
高価な銀塩一眼レフが売れなくなってしまった時代、
・・という様々な世情を鑑みての最終決断であろう。
こういう事(設計思想)は、そのレンズだけの仕様や
性能を見ているだけでは決してわからない。
その時代の、その環境の中で、技術者達がどういう
決断をしたか? そこまで分析していかないと、
何故、そういう特徴を持つレンズが生まれてきたか?
は、絶対に理解できない訳だ。
これは、上級マニア層でもまず理解できない話だとは
思う。 そして、わからない人達は、「本当にそうで
あった保証はあるのか?」などと言ってくるかも
知れないが、そう思うのであれば、自分自身でも
徹底的に研究・分析して、自分なりの解釈をすれば
良い訳だ。
こういう分析は、歴史等における「研究」と同様だ。
膨大な関連資料のみならず、様々な推論・推測により
ある「仮説」を立てていかなくてはならない。
その「仮説」の妥当性が認められていけば、それは
いずれ「定説」になっていく訳だ。

だが、カメラやレンズに係わる資料というものは、
こうした「正当な研究」を行っている例は皆無であり
信憑性の無い資料を引用しただけで終わっていたり、
あるいは、目に見える数値スペック等であっても、
その元資料が正しい保証はまるで無いし、
たとえメーカー発表の公式情報ですらも、過去の時代
のデータが間違っている例はいくらでも見た事がある。
余談が長くなったが、これは重要な事だ。
いくら、ネット上とかにある「公式的」に近い資料で
あっても、それが必ずしも正しいとは限らない。
(というか、間違いだらけで唖然とする場合が良くある)
だから、何かわからない/未知な事があった場合は、必ず、
自分自身で納得が行くまで調べていかなければならない。
レンズの特性が知りたければ、そのレンズで何千枚も、
わかるまで撮り続けてみれば良い。(私はそうしている)
それが、本来の「研究」的な要素であるし、それもまた
一種の「マニア道」だと思う。
それをしないで、確証も無い過去情報を「コピペ」して
纏めているだけでは、単なる事務作業でしかないだろう。
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では次は、もう1人の「親」の候補レンズだ。

レンズは、Carl Zeiss Planar T* 85mm/f1.4 ZF
(新品購入価格 101,000円)(以下、ZF85/1.4)
カメラは、CANON EOS 6D (フルサイズ機)
本レンズそのものは、2006年にコシナより発売された
リバイバル版であり、元来のヤシカ(京セラ)RTS版の
Planar 85/1.4は、1975年に発売されたものである。
両者は外観が大きく異なるが、レンズ構成や描写力は
同一だ。

本レンズは、NIKON F(Ai)マウント版(ZF型番)で
あるが、今回はCANON EOS機でアダプターを介して
使用している。この場合、絞り込み(実絞り)測光で
使えるので、RTS時代においてCONTAX機で使った時
との差異として、旧来の銀塩システムで課題であった
「焦点移動」(=開放測光でピントを合わせると、
撮影直前に絞り込まれた時に、ピント位置が変わる)
が発生しないので好ましい訳だ。(注:現代NIKON機
で開放測光で使う場合は、この弱点は解消しない)
なお、この場合、CANON EOS一眼レフにおける
MF性能が課題となる。具体的にはEOS機では、電子
接点の無いレンズ、又はマウントアダプターを介して
他マウントレンズを使用する際では、MF時における
「フォーカスエイド」機能が無効になってしまう。
(注:これは技術的には実装は容易な筈だし、銀塩
末期の一部のEOS機では搭載されていた事もある。
しかしデジタル以降のEOS機では、この機能は無い。
これの理由は、他社製レンズを、意図的に使わせない
ようにする「排他的仕様」だと思われる。
なお、電子接点付きの機械式マウントアダプターを
用いるとフォーカスエイドが有効になる模様だが、
自分で検証した訳では無いので、詳細は割愛する)
また、EOS(一眼レフ)機の一部は、光学ファインダー
およびフォーカシング・スクリーンのMF性能に劣り、
MFでの大口径レンズ(等の、精密ピント合わせレンズ)
の利用が大変困難になる。
今回使用のシステムでは母艦EOS 6D側のスクリーンを
MF用のEg-Sに換装してあり、この問題に対処している。
(参考:この機体以降のEOS機では、スクリーン交換が
出来る機種は希少となってしまった。例えば6D MarkⅡ
はスクリーン交換不可である→注:修理時の同一品は可)
EOSの設計思想には色々と言いたい事(問題点の追求)
が、あるのだが、今回の記事の主旨とは異なるので、
このあたりまでにしておこう。
・・で、少し前述したが、本レンズのオリジナル品の
Planar 85/1.4は1970年代後半より、市場において
「神格化」される程の尊厳と人気があったレンズだ。
私は、そのレンズを1990年代後半頃の「第一次中古
(銀塩)カメラブーム」の際に、一旦入手したのだが
銀塩時代の一眼レフシステムでは利用が困難であり・・
(=歩留まり(成功率)が極めて低い。上手く撮れる
確率は、撮影条件によりけりだろうが、私の場合で概ね
3%以下、つまり36枚撮りフィルム中1枚程度だった。
---
だが、これは世間一般には知られていないデータであり、
世に出てくるP85/1.4での凄い写真は、膨大な無駄撃ち
の中から厳選された写真であった可能性が高く、
「上手く撮れないのは撮影者が下手だから」とか
「西独製のPlanar85/1.4は良く写る、アンタのは
安い日本製のPlanar85/1.4だから写りが悪いのだ」
といった、訳のわからないデマが沢山流れていた!)
・・で、成功率が低く利用が困難な為、私はP85/1.4
を手放し、歩留まりが良いCONTAX Planar 100/2に
買い換えていた。
数年後、2005年に京セラCONTAXがカメラ事業から
撤退した後、Zeiss(ツァイス)から商標使用権を
得たCOSINAは、すぐさまRTS P85/1.4の構成を
そのままに外観を変更し、2006年に本レンズを
発売した。だがこの時、本レンズがRTS P85/1.4
のリバイバル(リニューアル)製品である事は
公式には知らされておらず、私は「新製品ならば
昔のP85/1.4の弱点は回避されている筈だ」と
勝手に思い込み、調子に乗って発売されたばかり
の本レンズを新品で購入してしまったのだ(汗)
(まあ、2002年に京セラより発売されたCONAX N
Planar 85/1.4が、27年前のRTS P85/1.4の
弱点を良く改善していた為、本レンズも「その類
だろう」と思い込んでしまった、という事情もある)
で、本レンズがRTS P85/1.4と同じ、という事は
当初は、たいそうがっかりしたのだが(これを
買う位ならば、RTS P85/1.4であれば、CONTAXが
事業撤退した事で、中古で3万円程度で再購入できた)
まあ、丁度デジタル時代に入っていたので、マウント
汎用性の高いNIKON FマウントでP85/1.4が使える
のは良い事であったし、さらに後年においては、
他社一眼レフやミラーレス機で使えるようになった
事で有益であり、もうその件は「不問」としている。

総括で言えば、銀塩時代ではRTS P85/1.4の
描写力を完全に引き出して使う事は、相当に困難
であり、これは撮影者のスキルには依存せず、
非常に低い成功確率を回避できる環境(例えば
趣味撮影で、枚数をいくらでもP85/1.4で撮れて、
写真の納品義務がどこにも無い。つまり、たまたま
偶然良く撮れた写真だけを公開したり、コンテストに
出せば良い、といった環境)でないと使えない。
現代においては、ミラーレス機等を使用する事で
RTS P85/1.4や、本ZF85/1.4の弱点の多くを回避
して用いる事ができる。だが、その為には上級者
(または上級実践派マニア層)以上のスキルが
必要とされる為、一般初級中級層では、まず、
これらの難関レンズを使いこなす事はできない。
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では、今回ラストのレンズ、こちらが「子」である。

レンズは、7artisans(七工匠) 55mm/f1.4
(新品購入価格 16,000円)(以下、七工匠55/1.4)
カメラは、SONY α6000(APS-C機)
2018年頃発売の、中国製ミラーレス機(APS-C機以下)
専用、MF大口径標準(中望遠画角)レンズ。

本レンズは「とても優秀である」という個人的な
評価により、異マウント(μ4/3、FUJI X)で
2本所有している。今回については、μ4/3用マウント
品を、単純なアダプターで、SONY Eマウント機で
使用する。なお、レンズの設計手法において、μ4/3
機用レンズが、SONY EのAPS-Cイメージサークルを
カバーする事は、事前に推測した上での購入である。
「親」の候補である、プラナー系85mm/F1.4レンズ、
すなわち Ai85/1.4やRTS(ZF)85/1.4、あるいは
冒頭のFA★85/1.4ですらも、いずれも「プラナー系」
という光学設計である。
個々のレンズ毎で、微妙にレンズ構成は異なるが、
得られる基本描写力は類似であり、違う点は
「どんな撮影条件において、どんな描写傾向が
得られるか?」という、そうした「設計思想」
(設計コンセプト、設計基準)の差異だけだ。
まあつまり、どれも「素性の良いレンズ」なのだが、
ユーザーが、それらを使う条件で僅かな差異が出て
くる為、良く個々のレンズの特性(長所短所)を
理解した上で、その特性を活かせる撮影条件を
作っていかなければならない。
そういう作業は「テクニカル(技術)的に面白い」
とは言えるのだが、誰にでも出来る事では無いし、
加えて、そういうテクニカルマニアであったとしても
気分的に、気軽に撮りたいシチュエーションもある
事だろう。いつでも常に、キリキリと緊張感を持って、
ピントや絞りを微調整している、などは、趣味撮影で
あったとしても、あまり気楽な撮影では無いからだ。
そんな時、「プラナー系85mm/F1.4」の弱点の多く
を設計上で改善している、あるいはレンズの使用環境
(母艦とするカメラの特性)において、その弱点が
回避できる(=「弱点相殺型システム」が成り立つ)
のであれば、それはそれで、用途によっては、極めて
有益なレンズとなる訳だ。

では、プラナー系85mm/F1.4の弱点をあげておこう
1)開放測光で、被写界深度が浅く、いくぶん、球面
収差等も残っている為、ピント合わせが大変困難
2)焦点移動が出る場合があり、ピンボケを誘発する
3)ボケ質破綻が良く発生(頻発)する
まあ、これらが代表的であり、あえて加えれば
4)最短撮影距離が、ほぼ焦点距離10倍則通り
であり、あまり寄れない(撮影倍率を稼げない)
5)高価である、銀塩時代ですら、概ね10万円
以上もする新品価格であった。
・・も、弱点だと言えるかも知れない。
さて、本七工匠55/1.4は、プラナー系85mm/F1.4
の2/3ジェネリック(縮小コピー品)である。
これをAPS-C型センサーのミラーレス機で使う
場合、だいたい85mm/F1.4レンズの代替として
使える他、上記の様々な欠点は以下のようになる。
1)ピント問題は・・
絞り込み測光、被写界深度がフルサイズ機よりも
深い、ミラーレス機のMFアシスト(ピーキング、
画面拡大、デジタルスプリットイメージ等)が
使える、等により、あまり課題では無くなる。
2)焦点移動は・・
ミラーレス機で本レンズを使うと、必ず
絞り込み測光となる為、焦点移動は発生しない。
3)ボケ質破綻は・・
ミラーレス機で高精細EVF搭載機である場合、
絞り込み測光で、撮影前に、ある程度はボケ質
が確認でき、必要に応じて回避できる。
あるいは、デジタル機では撮影コストがかからない
為、ボケ質破綻回避の目的で、絞り値等の撮影条件
を微妙に変えた多数の撮影を行っても良い。
4)撮影倍率は・・
本レンズの最短撮影距離は35cmであり、
これは焦点距離10倍則(55mmならば55cm)を
大きく下回り、優秀である。
さらに撮影倍率を稼ぎたい場合には、多くの
ミラーレス機に備わるデジタル拡大(デジタル
ズームあるいはデジタルテレコン)機能を
使ったり、単純にトリミング編集すればよい。
(注:銀塩時代では、トリミングをすると
同じプリントサイズに印刷すると画質劣化が
起こったが、デジタルでは、トリミング後の
解像度(画素数)が、鑑賞または閲覧における
解像度(DPI値)を満たしていれば、トリミング
自体での画質劣化は問題にならない場合が多い)
5)価格は・・
本レンズは2本所有しているが、新品が16,000円
中古品が11,000円であった。すなわち本家の
銀塩時代のプラナー系レンズの数分の1程度の
安価なレンズであり、コスパが極めて良い。
・・となり、プラナー系85mm(F1.4)レンズの
弱点が、見事なまでに、ことごとく解消されている。
これこそ、「トンビが鷹を産む」・・いや、
それでは、プラナー系が悪い、という意味だ(汗)
「蛙の子は蛙」・・ううむ、それも”両者平凡だ”
という意味になってしまい、ちょっとたとえが悪い。
まあ、「血筋は争えない」 とか、「この親にして
この子あり」 という感じだろうか?

ともかく、「これ(七工匠55mm/F1.4)を買わず
して、何を買うの?」という様相のレンズであり
個人レンズ評価データベース上でも、ずいぶんと
久々の、総合評価4点(注;総合評価4.0点以上
は「名玉」扱いとしている)となっている。
本七工匠55mm/F1.4こそ「スーパージェネリック」
レンズであろう。
(追記:本レンズは、発売約3年後の2021年に、
早くも七工匠55mm/F1.4Ⅱにリニューアルされている。
後継型は描写力が改善されている、とのメーカー談
ではあるが、最短撮影距離が伸びてしまったので、
現状では未購入だ。現時点では両者の描写力の差異
は、全くわからないので言及を避ける。
まあ、安価なので、いずれⅡ型も購入する予定だ)
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さて、今回の「スーパージェネリック」編は
このあたり迄で、次回記事に続く。