本シリーズでは写真用交換レンズ(稀に例外あり)を
価格帯別に数本づつ紹介し、記事の最後にBest Buy
(=最も購入に値するレンズ)を決めている。
今回は、3万円級編とする。
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では、早速3万円級レンズ6本の対戦を開始する。
まず、最初のエントリー(対戦)。
レンズは、TAMRON SP 45mm/f1.8 Di VC USD
(Model F013)
(中古購入価格 36,000円) (実用価値 約35,000円)
カメラは、NIKON Df (フルサイズ機)
2015年に発売された、高描写力単焦点AF標準レンズ。
勿論フルサイズ対応で、手ブレ補正と超音波モーター
で武装した(恐らくは)初の標準レンズである。
別シリーズ記事「最強50mm選手権」では、
ノミネートされた80本以上もの50mm(級)レンズ
中で決勝進出、堂々の「優勝」の栄冠を手にした
超名玉である。
ただ、残念ながら、世間一般での好評価は皆無に近く、
それどころか、余り売れてもいなかったとも思われ、
発売後2~3年程で、新品在庫品が「新古品相当」
として、大量かつ安価に中古市場に放出された、
という残念な歴史を持つ。
理由は明白であり、まず中上級層やマニア層では
50mm級標準レンズは何本か所有していても不思議
では無いし、そこに加えて、定価9万円+税という
高額な標準レンズには食指は動かない。
で、初級(ビギナー)層では、まず単焦点レンズ
等は欲しがらないし、仮に購入検討対象となったと
しても、F1.4級の大口径標準を優先的に欲しがり、
F1.8級は「性能の低い安物レンズだ」と誤解して
思い込んでしまうから、「それにしては9万円は
高価すぎる」となって、ますます買おうとはしない。
TAMRONの企画意図は、恐らくは「開放F値をF1.8に
抑える設計で収差補正が行き届き、最高の描写力を
得られる。おまけに、さほど大型化されていない、
さらには、最短撮影距離29cmは、当時世界一だ。
加えて標準レンズ初の内蔵手ブレ補正、超音波
モーターである、さあ、高性能てんこ盛りだぞ!」
という製品コンプトであろう。
だが、TAMRONの企画意図は、完全に空振りだった。
2010年代半ばの市場では、もう初級層しかカメラに
興味が無い。何故ならば、市場縮退により高価格化
されたカメラやレンズは、中上級層は「高価すぎる」
と思って、買い控えをしているからだ。
で、ビギナー層は、上記にあげたような本レンズの
性能・仕様上の強力な利点を理解する事ができない。
「F1.8版は低性能レンズだ」と、それで終わりだ。
つまり、TAMRONが意図した高性能は、全てビギナー
層側には伝わらない。まあでも、いくらなんでも、
60年も70年も交換レンズを作ってきたTAMRON側と
しても、ここまで急激にユーザー層の写真知識が
低レベル化した事は予想できなかったのであろう。
「良いレンズ、高性能なレンズを企画設計開発し、
それを売れば、市場は必ず高く評価してくれる」
と思って当然だ。しかし、そう思ってくれるだろう
上級ユーザー層は、無闇に高価格化した新製品には
まるで興味が無い、だから結局誰からも良い評価を
得る事ができなかった、というお粗末な話だ。
でも高付加価値化してしまったのは市場やメーカー
側の責任も強い、もっと安価でコスパが良いカメラ
やレンズは作れなかったのだろうか?
まあだから、この状況を見て「日本のカメラ市場は
ボロボロで、隙だらけだ」と判断した、中国等の
海外レンズメーカーが、この後、2017年~2019年
頃にかけ、畳み掛けるように、多数の低価格帯
レンズ商品を日本市場に投入したわけだ。
ただ、その戦略も上手くいったとは思えない。
ここでも、レンズ評価ができる中上級層は、そうした
格安レンズ群を完全に無視した。
低価格帯レンズを買うのは、やはりビギナー層
ばかりであり、彼らによる評価・レビューでは
「しょせん中華レンズだ、良く写る訳が無い!」
で終わりである。まあ評価スキルが何も無いのに
単に思い込みで物事を語っているだけの状態だ。
こういう状態が、「ユーザー層のレベルが低下した」
という事実を如実に示している。
だから、TAMRON SP F1.8シリーズが、いくら実用的
超高性能レンズであっても、誰もそれを良いとは
思え無いのだ。
・・・まあ、残念な話だ。
本レンズや、他のSP 1.8シリーズを推奨したと
しても、無意味とも言える状況かも知れない。
ユーザーレビューも皆無な模様であり、まあそれも
その筈、誰も購入していないのだろうからだ。
「わかる人だけが買えば良い」、最近ではそう
思うようにもなって来てしまった。
なお、近年の本ブログでは、レンズの評価記事等は、
わざと検索しにくいように、キーワードをタグ化や
タイトル化をしていない。
何故ヒット率を下げるのか?と言えば、評価内容
が市場に与える影響が大きいからだ。
特に、他に誰も持っていないレアなレンズ等を
下手に褒めてしまうと、それが投機対象になって
しまう危険性も多々ある。それは私が望む事では
無いし、そうして欲しくも無い訳だ。
今時の、ビギナー層中心の市場状況では、誰も、
自分自身でレンズ等の評価はできないから、他人の
意見を参考にして購買行動を起こすしか無い状況だ。
ただ、いつも書いているように・・ ユーザー層は
個々に、撮影機材に関しての、目的、用途、撮影
技法、撮影技能、求める付加価値要素、等のニーズ
全般が各々異なるのだから、他人の評価等は基本的
には参考になる筈も無いのだ。
また、AFが速いとか、玉ボケが出るとか、歪曲収差
が出るとか、そうした、低レベルの表面的な評価を
聞いて(信じて)レンズを買う方もどうかしている。
そんな事は、どれも簡単に回避やコントロールが
出来るものばかりだ。まあしかし、本質がわかって
いないビギナー層に何を説明しても無駄ではあろう。
結局、あくまで「わかっている人だけが知れば良い」
要素はいくらでもある、という事であろう。
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では、次のシステム。
レンズは、Voigtlander APO-LANTHAR 90mm/f3.5 SL
Close Focus
(新品購入価格 47,000円) (実用価値 約38,000円)
カメラは、FUJIFILM X-T10(APS-C機)
2000年代初頭に発売のMF小口径標準レンズ。
なお、例によってフォクトレンダー原語の
変母音表記は省略している。
本ブログの過去のランキング系記事では、
ミラーレス・マニアックス名玉編、第5位
ハイコスパレンズ名玉編、第14位、
最強85mm選手権、B決勝優勝(第6位相当)と、
いずれも高順位をマークしている名玉である。
ただ、残念ながら現代では入手困難である。
変に褒めてしまうと、前述のように「投機対象」
となってしまう恐れもある。
特徴等の説明については、もう省略しておこう。
(追記:すでに若干の価格高騰が始まっている)
本ブログでは、開設当初(2005年)から、
過去記事で何度も何度も紹介しているし、その頃
であったら、普通に新品(初期型や、後年にはⅡ型)
が売っていた訳だ。
知人の写真ブロガーやマニア達も、何人かが本レンズを
購入していて、いずれも好評価を下していたと記憶して
いる。まあでも、当時の多くの初級マニア層では
「開放F3.5は暗くて不満」という理由から、
本レンズに興味を示す事は、残念ながら無かった。
まあ、本レンズも「わかる人だけが買えば良い」
という典型的なレンズだ。
後年に、生産中止になってから必死に探すような
ものでは無いし、買える時に買わない方が悪い。
「最近カメラを始めたので・・」という理由が
あるならば、では、現代においても、買える時に
買っておくべきレンズはいくらでもある筈だ。
例えば、冒頭紹介の、TAMRON SP45/1.8 等は
不人気であるが、絶対に購入するべきレンズだ。
もし、そのレンズが10年、いや20年位後になって、
販売数の少なさから、仮に入手不能になったら、
「買っておくべきだった」と後悔しても始まらない。
結局、いつの時代であっても、良いレンズを見抜く
「目利き」が出来るか出来ないか?が重要であり、
入手不能となってから大騒ぎするのでは、まるで
有名アーティストが亡くなったり、引退してから、
慌ててCD等を買いに走るような「にわかファン」と
同じ事となってしまう。
ファンであれば、アーティスト等が現役の間に、その
楽曲や作品の良さをちゃんと認識しなければならない。
そんな事は、当たり前の話ではなかろうか・・?
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では、3本目のシステム。
レンズは、SIGMA MACRO 70mm/f2.8 EX DG
(中古購入価格 28,000円)(実用価値 約22,000円)
カメラは、CANON EOS 7D MarkⅡ (APS-C機)
2006年発売のフルサイズ対応中望遠AF等倍マクロ。
本レンズは初出の際のレビュー記事で「カミソリマクロ」
と称された。
ただ、「カミソリマクロ」の異名は、そのレビュー
記事1つだけで終わってしまい、それがマニア層の
間に広まっていた訳では無い。そもそも、本レンズは、
あまり販売数が多く無く、中古市場でも殆ど流通して
いなかったのだ。
その後12年が経ち、本レンズの後継機として、
「SIGMA 70mm/f2.8 DG MACRO | Art」が、
Art Line初のマクロとして発売されると、その際、
SIGMAは新型マクロのキャッチコピーとして、
「待望の”カミソリマクロ”が、ついに・・」
という文言を用いた。それを受けた他の販売店
レビュー(市場レビュー記事。もっぱら新製品を
売る目的で美辞麗句を並べたようなレビュー)に
おいても、SIGMAのキャッチコピーをそのまま受け
「あの伝説のカミソリマクロが復活」のような
記載を各市場レビュー記事が一斉に行った。
私は、ちょっと驚いてしまった。
”伝説のカミソリマクロ”なんて、マニア層の
誰1人も言っていなかった訳だし、調べてみれば
1人のライターがそう称しただけで、その後は
何処にも広まっていない称号であったからだ。
むしろ、昔(1980年代頃)の、隠れ名マクロ
「TOKINA AT-X M90 (MACRO) 90mm/f2.5」
(レンズマニアックス第37回記事等で紹介)
等も、当時のマニア層が「カミソリマクロ」と
呼んでいた模様だし、まあ、割と普遍的な称号だ。
ただまあ、とは言え、「カミソリマクロ」という
呼び名が悪い、と言っているのではなく、むしろ
レンズの解像感の高さなどの特徴を端的に表現して
いるので、「言いえて妙」であったと思う。
でも、1つだけ言わせて貰えば、SIGMA製のMACRO
レンズは、どの時代であっても、TAMRON製マクロの
陰に隠れてしまって目だたないのだが、1990年代
あるいは2000年代以降の製品に関して言えば、
どのマクロも「カミソリマクロ」と言えるような
シャープ描写力を持っている事が全般的な特徴だ。
それについては、別シリーズ記事、
「特殊レンズ第41回、伝説のSIGMA MACRO編」に
おいて、1990年代~2010年代のSIGMA製マクロレンズ
の変遷を紹介している。
なお、その記事で紹介している各時代のSIGMA製
マクロは、どれも大変良く写る。レンズによっては
異マウントで2本重複所有している程であり、
まあつまり、「買うに値するマクロレンズ」ばかり
と言えよう。
基本的に、近代のマクロレンズは、近接撮影であれば
どのメーカーのものも良く写る。
あまり特定のメーカーとか、特定のレンズだけが
優れているという話でも無い。
あくまで、自身の用途に合った、あるいは単に、
気にいったものを買えば良いと言う事であろう。
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では、4本目のシステム。
レンズは、smc PENTAX-DA★55mm/f1.4 SDM
(中古購入価格 42,000円)(実用価値 約35,000円)
カメラは、PENTAX KP(APS-C機)
2009年発売の、APS-C機専用AF単焦点標準
(中望遠画角)レンズ。
本ブログの過去のランキング系記事では、
ミラーレス・マニアックス名玉編、第3位
ハイコスパレンズ名玉編、第9位、
最強50mm選手権、第2位(注:実焦点距離)
という名玉である。
出自を簡単に言えば、2000年頃に生産完了となった
smc PENTAX-FA★85/1.4のジェネリックレンズだ。
FA★85/1.4は、各社プラナー系85/1.4と類似の
光学系ながら、他社製品よりもプラナー系特有の
弱点が出にくい特徴を持つ。つまり描写安定性が
高く、歩留まり(成功率)が優れている。
ただ、FA★85/1.4の発売タイミングはバブル崩壊
直後であり、おまけに前モデルのMF版(未所有)も
丁度、一眼レフのAF化の時代であったので、どちらの
レンズも市場に注目されていたとは言い難い。
PENTAXは、2000年頃に超名玉FA77/1.8 Limited
をリリースすると、置き換わるようにFA★85/1.4は
ひっそりと姿を消してしまった。
そしてFA★85/1.4は、案の定、後年に投機対象と
なってプレミアム価格化したのだが、元々世の中に
多数のレビュー記事があるようなレンズでは無いし、
「誰かが良いと言ったから買う」という現代の
ユーザー層の風潮では、「どうしても欲しい」
と言い出す人は少なく、数年してプレミアム相場も
収まっていく。(高価すぎる価格により、誰も
買わなければ、必ず相場は下落する訳だ)
だが、APS-C機が全てであった2000年代のPENTAX
のデジタル一眼レフにおいて、やはりFA★85/1.4
と同等となる画角ニーズは存在する。具体的には、
「ポートレートは85mm/F1.4じゃなくてはダメだ」
と、昔の時代の商法であった「焦点距離別用途説」を
ずっと信じている初級中級者層などが欲しがる訳だ。
「もうデジタル時代なんだから、いい加減”85mmは
人物撮影専用”という概念は忘れた方が良い」
と、常々思ってはいるが、ビギナー層等では、事の
本質は理解できない。どの時代でも高価な85/1.4を
「いつの日か、美女を撮影するぞ」という「夢」自体
を買う為に高額な投資をしてしまう訳だ。
まあ、85mm/F1.4全般に纏わる誤解や風潮はさておき、
大口径中望遠というレンズのニーズや用途は確かに
存在している。
しかも、PENTAXでは、2003年~2016年までの間、
フルサイズ・デジタル一眼レフの販売は無く、
全てAPS-C機であった。仮に、ここに新85mmレンズ
を投入しても、128mm程度の望遠画角になってしまう。
そこでPENTAXは1992年発売の(優秀な)FA★85/1.4
の設計に注目、これを現代的なコンピューター光学
設計ソフトで、2/3程度にスケールダウン設計すれば
55mm/F1.4の新レンズ(APS-C機で約85mm相当)
が出来上がる。
プラナー系レンズ構成を1枚増やし(8枚→9枚)
現代的な異常低分散ガラスレンズを入れ、若干の
光学系変更を行う、当然、収差特性も改善される。
SDM(超音波モーター)を新搭載、QSFS(シームレス
MF機能)も合わせて実現。
smc銘ではあるが、新方式の「Aero Bright Coating」
を採用。円形絞り、防塵防滴と、高付加価値型だ。
こうして出来上がった新レンズが、本DA★55/1.4
である、2009年の事であった。
APS-C機専用の為、PENTAXのWebでは(現在でも)
本レンズは”標準”でなく「望遠レンズ」と記載
されている。
私は、このレンズの発売時実勢価格が8万円以上も
していた事から「ブルジョアレンズだ」と判断し
当初は全く興味を持てなかった。旧型のFA50/1.4
(1991年)も愛用していたし、完成度も高かった。
そのレンズであれば1万円台の中古相場に過ぎない。
だが、10数年前の実体験もある。それはFA43/1.9
(1997年)の発売時、やはり65,000円と高額な
レンズだったので、「他の数倍も高価な標準レンズ、
ブルジョアレンズ(無駄に高価な過剰品質)だ!」
と判断し、当初、それを無視した。
しかし、発売後に知人の美女の所有するFA43/1.9を、
短時間だけ借りて写す機会があり、その描写力には
関心してしまった。
その美女への体面もあったかも知れない(汗)が、
私は「FA43/1.9が、どうしても欲しい」となり、
高価なそれを、若干無理をして入手した次第だ。
そこから20数年が経過した現在でも、FA43/1.9は、
お気に入りレンズとなっている。(でも、さすがに、
近年の本ブログのランキング系記事にはノミネート
されていない、あくまで古い時代のレンズだ)
「まあFA43/1.9の事例もあるし、そのうちDA55/1.4
も買っておく事にしようか・・」と思い、私の
「購入予定リスト」に、FA43/1.9の入手価格と同様の
「4万円」と記入、その後しばらくはDA55/1.4の
事は忘れていたが、数年して、中古相場が想定する
4万円台に落ちてきた際、予定通りDA55/1.4を購入
した次第である。
写りの傾向は、FA★85/1.4にそっくりだ。
ここは小さな驚きであった、まあつまりFA85/1.4
の「ジェネリック」である事は、購入時点まで
私は知らなかったのだ。その後の長期間の検証で、
本レンズが「FA85/1.4のダウンサイジング版」で
ある事に気づいた次第だ。
で、噂によると、FA★85/1.4とDA★55/1.4の
設計者は同じ人らしい。
まあそうだろう、恐らく20年間以上も業務に従事する
ベテランの設計者であれば、たとえ手動設計であろうが、
コンピューター設計であろうが、レンズに求める
「テイスト」(味付け)に係わる「コンセプト」を
強く持っている。
これがビギナーのエンジニア等だと、そこまでは
「どんなレンズにしたいのか?」という設計思想を
強くは持っていない。
コンピューターに設計をさせるからと言って、欲張って
全ての収差を低減させるように、と、高い要求仕様を
PCに伝えてしまうと、非球面や異常低分散ガラスを
多用した、10数群10数枚という「重厚長大」な、
つまり「大きく重く高価な、三重苦レンズ」を
コンピューターは計算結果として提示してしまう。
そうならないように、どの収差補正を優先し、他の
どこに妥協するか? その「トレードオフ」の感覚は、
ベテランかつ、実際に写真も沢山撮っている設計者で
無いと、絶対に持つ事が無理な話だ。
私は、近年の最新鋭「三重苦標準レンズ」も、何本か
は購入してみたが、確かに描写力は高い、しかし
なんと言うか、「設計者の魂や個性が感じられない」
のだ。
別の言い方では、「設計コンセプトに共感できない」
という意味だ。そもそも、そんな大型で重量級(800g~
1kg)の標準レンズは、日常の散歩撮影に持ち出す気も
起こらない。あくまで業務用途専用レンズと言える。
本DA55/1.4であれば、375gと軽量であり、
発売当時のPENTAX K-5や近年のPENTAXの高性能の
中高級機との組み合わせで外観や重量的バランスは
良い。しかし、さほど「超高解像力」という設計思想
では無いので、近代の、ピクセルピッチが(4μm
程度と)狭い機体や、ローパスレス仕様の機体との
バランスは、あまりよろしく無いと推察できる。
やや古い時代(2010年前後)の機体とが、ベスト
マッチングであろう。
描写力的な不満点は少ない筈だ、さもなければ
本レンズは過去の本ブログのランキング系記事の
多くにランクインする事は無い。
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では、次のシステム。
レンズは、SAMYANG(サムヤン)85mm/f1.4 AS IF UMC
(新品購入価格 30,000円)(実用価値 約25,000円)
カメラは、CANON EOS 6D (フルサイズ機)
2010年発売の韓国製MF大口径中望遠レンズ。
フルサイズ対応である。
新品価格が安価であったので、コスパが良いと
見なしており、ハイコスパレンズ名玉編で、
第32位を獲得しているが・・
レンズマニアックス第11回「使いこなしが難しい
レンズ編」では、ワースト8位を記録している。
SAMYANG製品は、発売当初では直販だったと記憶
しているが、現代では「KenkoTokina」社が輸入販売
代理店を務め、その結果、中古市場での流通も
普通に行われている。元々コスパが良いレンズが
多い上に、新品在庫品や中古品の流通も多いので
購入時での価格的メリットはあるだろう。
ただ、雑食性の私でもSAMYANG製レンズを、たった
1本しか所有していないのは、それはそれなりの理由
がある。つまり、たとえ「コスパ」が良いレンズで
あっても、その「パ」つまり「パフォーマンス」を
引き出す事が大変難しいレンズなのだ。
特に逆光耐性の低さは「天国と地獄」(=撮影条件
により描写力が極端に変化する事)状態であり、
その度合いが半端無い為、本レンズは「使いこなし
が難しいレンズ」と分類されてしまっている。
他のSAMYANGレンズも同じかどうかはわからない
のだが、第一印象が悪かったので、続くレンズを
買い控えしているだけだ、「食わず嫌い」かも知れない
ので、これ以上の詳細の言及は避けておこう。
いずれ気が向いて、多数のSAMYANG製レンズを入手
する事があれば、またレポートする。
なお、「何本のレンズを入手すれば良いか?」に
ついては、私の持論は「最低4本」である。
そのメーカー、あるいは、シリーズ、カテゴリー等
で4本のレンズが揃った際、それらを徹底的に検証し
そのグループにおける特徴や短所等を分析する。
だからまあ、本ブログでの例えば「特殊レンズ超
マニアックス」を始めとする多くの記事群では、
レンズは、同一カテゴリーで4本づつの紹介となって
いる訳だ。(それらが希少なレンズである場合は
「グランドスラム」と呼ぶ事もある)
最低限、そこまで他に比較すべき対象が無いと、
たった1本や2本のレンズを見ただけでは、そう簡単
には、わかる筈も無い事が色々存在する。
他分野での例を挙げれば、ワイン、日本酒、ビール
ウイスキー等で、たった1杯(1種類)を口に含んだ
だけで、その特徴とか長所短所をスラスラと評価
する事は難しい。それは写真用レンズにおいても
同様で、たとえ上級層や評論家層でも簡単では無い。
総括だが、本SAMYANG85/1.4は、一般層には
非推奨であり、レンズの弱点を理解し、それを
回避するスキルを持つ、あるいは、レンズの弱点を
回避しようとする意識を持つ、中上級マニア層向け
(御用達)レンズであろう。
(追記:2020年に本レンズは後継型にリニューアル
されているが、価格がだいぶ高価になってしまった)
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では、今回ラストのシステム。
レンズは、TAMRON SP AF 180mm/f3.5 Di LD [IF]
MACRO 1:1 (Model B01)
(中古購入価格 30,000円)(実用価値 約30,000円)
カメラは、SONY α77Ⅱ (APS-C機)
2003年に発売された、単焦点AF望遠等倍マクロ。
本レンズは、生産終了(2016年)後に新品在庫品
等の相場が安価になったので、それを購入した
次第だが、購入がやや遅れたので、過去記事での
名玉編シリーズには参戦できなかった。
しかし「最強200mm選手権」記事では、シードと
して決勝進出し、見事「優勝」の栄冠に輝いた、
という名レンズである。
ともかく、驚く程描写力が高いレンズであり、
個人評価DBでは「描写表現力」の得点は5点満点だ。
弱点は、使いこなしが相当に難しいという事である。
まず、焦点域の稼動範囲の大きい望遠マクロでは、
AFでは、かったるくて(遅くて)撮れない。加えて
超音波モーターも内蔵されていない古い時代の
レンズなので、なおさらである。
MFに切り替えて使おうにも、近距離撮影の全般で
被写界深度が極めて浅くなり、かつ画角もかなり
狭い事から、ファインダーの中の、どこに被写体が
居るのか全くわからない(!)
これは、決してオーバー(過剰)な表現では無い。
目の前数十cm前に居る小さい昆虫に本レンズを向け
MFでピントを合わせようとしても、そもそも
ファインダー内の何処に、その昆虫が居るのか
画面全体が大ボケしていて、良くわからないのだ。
画角が狭い為、違う場所を見ている可能性も大いに
ある。また、50cmの距離なのか60cmか、70cmか?
そのように、僅か10cm程度撮影距離が違うだけで、
昆虫等が原型を留めないほどにピンボケして、その
形状すらも認識できない為、どこに求める被写体が
存在して居るのか?さっぱりわからない状態となる。
撮影中、ほぼ常時その状態なので、極めて疲労して
しまう、これは、慣れればどうのこうのとなる問題
では無く、むしろ技能・技術の類での解決手段が
必須となるだろう。
つまり、目の前数十cm程度に居る小さい昆虫に向け、
まず、3cm以内(フルサイズ等倍画角~APS-C画角)
の範囲で、カメラとレンズをピッタりと向ける。
ここはGOLGO13ばりの、精密な機材コントロールが
必須となるだろう。
同時に、被写体距離を目測し、そこでプラスマイナス
5cmあたりの正確さで、あらかじめピントリングを
MFで操作しておく。
ここでレンズの距離指標を見ながらだと、カメラを
構える姿勢と矛盾する為、できれば手指の感触
だけで、±5cmのピント予備操作を行う必要がある。
このあたりの撮影技法は、勿論全て手持ちである、
三脚使用は論外だ、もし三脚を立ててしまったら、
3cm程度の撮影範囲を探す操作は、手持ち撮影より
遥かに困難だ、数分~十数分もかかって、ようやく
被写体を視野内に入れる事となり、極めて非効率的
である。
(注:静止している草花ならともかく、モタモタと
している間に、昆虫等はどこかに飛んで逃げている。
まあ、だから、こうした望遠マクロの作例は、その
殆ど全てが静止被写体なのである。
望遠マクロで動体被写体を捉えるのは神技に近い)
で、ここまでやって、ようやくファインダー内に
ちょっとピンボケした小さい昆虫等の姿を捉える
事ができる、後は、MFで(稀にAFでも)ピントを
微調整するだけだ。 ただし、被写界深度は、
最短撮影距離47cmで絞り開放の際には、僅かに
約1.4mmとなる、つまり、AFはもとよりMFでも
ピント合わせは非常に困難であるし、ましてや
全長が数cm程度の昆虫等ですら、その形状の全てを
被写界深度内に捉える事はできない、だから
目とか触覚とか、そんな風に特徴的なピンポイント
の部分でしかピントを合わせようが無いのだ。
「絞りを絞ったら良いだろう?」というのは、
頭の中で考えているだけの発言だ。そもそも等倍
撮影では、露光倍数の公式により(1+1x1+1)=4
つまり、開放F3.5でも、既に、これは開放でも
F7(実効絞り値なのでT7)にまで明るさが低下
している、ここで絞り値をF8程度まで絞ると
実効F値はT16となる、今度は手ブレ発生あるいは
高感度ノイズ発生、又は自動ISO追従範囲外となる。
それに、そこまで絞っても、被写界深度は3.3mm
程度にしかならない。
レンズ単体で重量約1kgのシステムを、手持ちで
こうした微細なコントロールをする事は、まさしく
「ウルトラC級」の、D難度、E難度の超絶技巧が
要求される。
正直言えば、この撮影分野の専門家以外では、
例え職業写真家層であっても、この高難易度撮影に
対応できる保証は無い、こういう特殊分野での
撮影経験はさほど無いだろうからだ。
そして専門家層であっても、三脚撮影で、恐ろしく
時間をかけ、1年中と言っていいほどに常時この手
の撮影を行い、撮影機会を多大に増やさない限り、
1日程度このシステムを持ち出して撮っても、まず
自身の、お眼鏡にかなう写真を撮る事は期待できない
と思われる。
つまり、恐ろしく困難な撮影ジャンルなのだ。
本レンズの発売時のTAMRON社でのキャッチコピーは
「望遠マクロで無いと撮れない被写体がある」
であったと記憶している。
確かにそれはその通りだ、でも「そもそも論」として
「望遠マクロを使いこなせる人が存在するのか?」
という疑問点が大きい。
なお、過去記事「使いこなしが困難なレンズ編」
でワースト1位になったのは、マクロアポランター
125mm/F2.5SLというレンズだが、それも望遠マクロ
の類である。本レンズは当該記事執筆時には未所有
であったので、ワーストランクインは免れたが
もし本レンズもノミネートされていたら、ワースト
5位以内には、確実にランクインされる最難関レンズ
となっていた事は間違いない。
とても難しいレンズではあるが、幸いにして描写力は
恐ろしく高い、その矛盾点が本レンズの最大の魅力だ。
実戦派上級マニア層、つまり「テクニカルマニア層」に
向けては、かろうじて推奨できるレンズである。
古い例えでは「大リーグボール養成ギプス」で
あろうか? 本レンズでの困難かつ著しく制約が強い
状態で修練を重ねれば、通常の中望遠マクロなどは、
簡単にすいすいと使いこなせ、一般レンズなどでは
「あまりに簡単すぎて、ちっとも面白く無いよ」
という感覚すらも持つ事が出来るようになるかも
知れない。まあそれが良いのか悪いのかは微妙だが・・
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では、最後に各選出レンズの評価点を記載する。
(注:レンズ名は大幅な省略表記)
1)SP45/1.8=3.8点
2)AP90/3.5=4.5点→非推奨
3)EX70/2.8=3.4点
4)DA55/1.4=4.5点
5)SY85/1.4=3.6点
6)SP180 =4.2点
今回の3万円級対戦においては同率1位が2本あるが、
1本はレア品で非推奨の為、「Best Buy」は
smc PENTAX-DA★55mm/F1.4とする。
ただし、APS-C機専用レンズであるし、その設計
コンセプトも若干マニアック過ぎるかも知れない。
また、第3位の、TAMRON SP180/3.5も悪く無い
得点であるが、「望遠マクロ」というタイプの
レンズの用途は、さほど多くないかも知れないし
使いこなしが恐ろしく困難な点は前述の通りだ。
第4位、TAMRON SP45/1.8も、十分に推奨できる
レンズである。マニアック度や要求される撮影
スキルがあまり高く無い為に、むしろこのレンズが
一般層に向けての「Best Buy」かも知れない。
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さて、今回の「3万円級レンズ編」記事は、
このあたり迄で、次回記事に続く。