本シリーズでは写真用交換レンズ(稀に例外あり)を
価格帯別に数本づつ紹介し、記事の最後にBest Buy
(=最も購入に値するレンズ)を決めている。
今回は、「2千円級」編とする。
さて、本シリーズで最も安価なカテゴリーである。
購入価格範囲は1000円~4000円程度であり、
中にはジャンクレンズも含むが、近年のジャンクは
「瑕疵があって使い物にならない」というよりは、
「古くて不人気なだけ」といった物も多い為、
ジャンク品の全てが実用範囲外という訳でも無い。
私は、これ以下の価格帯(300円~1000円)という
レンズも含め、非常に多数(恐らくは100本程度)の
低価格帯レンズを所有しているが、ここでの選出は、
その中からも選りすぐりのものであり、これらの
実用価値は3000~7000円相当に達する。
これは初級層が欲しがる数十万円の高額レンズ群の
100分の1程度の価格帯ではあるが、とは言え、
性能まで1/100という訳では無い。
そのあたりを「コスパ」の価値感覚を理解する事の
きっかけとする為にも、低価格帯レンズを、試しに
購入してみる事は悪く無いであろう。
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では、早速2千円級レンズの対戦を開始する。
対戦数は6本。まずは、最初のエントリー(参戦)。
レンズは、MINOLTA MC ROKKOR-PF 50mm/f1.7
(中古購入価格 2,000円)(実用価値 約7,000円)
カメラは、PANASONIC DMC-GX7(μ4/3機)
1970年頃?の小口径MF標準レンズ。
この時代の各社の50mm/F1.7~F2級の小口径標準
レンズは、5群6枚の変形ダブルガウス型構成により
1970年代後半には既に完成の域に達していた。
この構成は、デジタル時代に入ってからの2000年代
まで各社において大きな変更は無く、単にAF化された
位で、ずっと販売が継続されていた。これはつまり、
光学系の改善の必要性が殆ど無かったという事実だ。
メーカー間の性能差も殆どなく、ユーザー層は自身の
贔屓とするメーカーの小口径標準レンズを入手し、
「銀のタクマー(SMCT55/1.8)は、良く写る」とか
「RICOH XR50/2は、和製ズミクロンと言える名玉だ」
「EF50/1.8Ⅱは、安くて良い”神レンズ”だ」
等と、それぞれ褒め称えるのだが・・
実のところ、どこのメーカーの小口径標準を買った所で
描写性能上の大差はなく、どれもかなり良く写る。
ぶっちゃけ言えば、銀塩時代から近年までの、
どの小口径標準(50mm/F1.8前後)レンズも、
ほとんど同じ描写力であった訳だ。
勿論、「同じレンズ構成だから同じ写り」という
訳では無い、個々のレンズの設計上の差異により、
ガラス材質、レンズ配置、レンズ曲率、有効径
等に微妙な違いは存在すると思う。
だけど、各社小口径標準レンズに関しては、その
設計上での差異が性能差に影響しない位に、いずれも、
技術的には、ほぼ完成の域に達していたと思われる。
だが、全てのメーカーの小口径標準を所有してる人
等は居なかったので、皆は全メーカーの小口径標準が
どれも良く写るものだとは知らず、単に自身が好む
メーカーのものを「良い」と言っていたに過ぎない。
・・まあ、考えてみればわかるだろうが、銀塩時代の
一眼レフ用のキットレンズ(カメラ販売時に付属して
くるレンズ)は、MF時代では50mm標準レンズが
ほぼ全てであったので、それはメーカーの「顔」と
なる訳だから、そのキットレンズの性能が悪ければ
カメラあるいはメーカーにも悪評判が立ってしまう。
だからメーカーは「顔」(看板商品)となる、標準
レンズの性能を、例えば他社標準レンズの描写力を
リファレンス(参照)としながらも改良を繰り返し、
その結果、1970年代~1980年代には、いずれも
完成の域に達し、各メーカーの標準レンズの性能は、
高水準で横並びとなった。
また、キット標準レンズは大口径版(F1.4級)と、
小口径版(F1.7~F2)が併売されていて、
購入者は、いずれかを選択できた。概ね大口径版の
キットの方が1万円以上程度高価であった為、当時の
ユーザー層は「大口径レンズの方が高級品で良く写る」
と認識していたのだが、これはそうとも言い切れない。
実際のところ、多くのシチュエーションで小口径版の
方が良く写る。これはメーカー側でも、そう認識して
いた訳であり、もし、大口径版が全ての点で優れて
いて、かつ価格も1万円程度しか差が無いのならば、
小口径版を潔く廃止して、大口径キットに1本化した
方が効率的だ。そうできなかったのは、小口径版標準
に性能的なメリットが多々あったからであり、これは
まあ当時のメーカーの「良心」とも言えよう。
(あるいは、F1.4版が設計の僅かな未成熟で不評
であったとしても、F1.7版でカバーする事が出来る)
ただし、その事実がユーザー層に知られてしまうと
「実際には安価な商品の方が性能が良い」という事が
わかってしまい、市場倫理が崩壊する。
つまり、誰も高額商品を欲しいと思わなくなるからだ。
そうならないように、一部のメーカーでは小口径版
標準レンズに「仕様的差別化」による「性能制限」を
かけている。具体的には、最短撮影距離の差であり、
各社の大口径(F1.4級)標準の最短が45cmで横並び
であった(注:もし他社より最短が長いと販売競争
に負けてしまう)のに対し、小口径(F1.7級)標準
の最短撮影距離は50cm~60cmと長目に制限された。
こうしておくと、販売店等で購入検討者が迷った際
販売員や営業マンは、そのお客さんに対して、
販「ほら、こちらのF1.4版の方が(開放F値と最短の
差により)背景が良くボケるでしょう?
また、明るいので室内でも撮れるし、手ブレも
しにくいですよ」
と説明できる。
これにより、多くのユーザー層は、若干高価な
F1.4版標準キットの購入に誘導されてしまう訳だ。
そして、高価なF1.4版を購入したユーザーは、
それで満足するから、安価なF1.7版ユーザーを
下に見て馬鹿にしてしまう。
ユ「ボクのカメラは、F1.4だけど・・
おや、キミのカメラのレンズはF1.7だね。
なんでF1.4を買わなかったのかな~??」
つまらない優越感だが、その感覚や世情が、その後、
40年も続いてしまい、現代の初級ユーザーにおいても、
「F1.8(F1.7)版のレンズは安価で低性能だ」という
風に思い込まされてしまっている訳だ。
「小口径レンズの方が良く写る」という事実が、
どうしてわかったかのか? というと・・
私は、1960年代~1980年代の各メーカーの標準
レンズを、大口径版、小口径版、超大口径(F1.2)版
を含め、数十本も所有しており、それらを時代別と
開放F値別に、膨大な枚数を撮り比べたり、稀には実際に
解像力チャート等を実写し、性能評価をずっと繰り返して
きているからだ。これを20年以上も続けた研究の結果に
より、上記のような結論が得られている。
殆どの一般ユーザーは、そんな事はしないだろうが、
上級マニア層であれば、多かれ少なかれ同様の検証は
やっているから、その層には「常識」の事実であろう。
ただ、マニア層は、わざわざ公言や情報発信はしない、
本MINOLTA MC50/1.7のような「誰も知らない名玉」
を人知れず使う方が、マニア的には「掘り出し物感」
が強いからだ、もし人に教えてしまえば、皆それを
使いたがるので面白く無いし、下手をすれば、皆が
それを買おうとしたら、「投機対象」にもなって
まずい事になりかねない。
現に、銀塩末期には「XR RIKENON 50mm/F2」という
小口径標準が「和製ズミクロン」というニックネーム
を付けられ、上級マニア層発信で、一般マニア層全般
に有名になってしまい、レンズ価格が高騰したり、
果ては入手不能になってしまった訳だ。
「高くても欲しい」という初級マニアが多かった為
「投機層」が動き、このレンズを組織的に買占め、
それを高価に転売した。
繰り返すが、XR50/2も、単なる小口径標準であり、
レンズ構成も5群6枚と、他社小口径標準と全く同様だ。
まあ、多少描写力にクセはあるが、他と大差は無い。
(特殊レンズ第36回XRリケノン編記事参照)
この状況を見た上級マニア層は、思った事だろう、
上「お~、怖っ! ありふれたレンズが、評判1つで
皆が群がって、取り合いになってしまう。
よし、良いレンズを見つけたとしても、もう
誰にも言わず、自分だけで楽しむとしよう」
そう考えるのも、やむを得ない世情ではあるまいか?
一般層は自力ではレンズの評価など出来ない訳だから。
・・それから、CANON AF時代初期のEF50/1.8(Ⅰ)
(1987年)は、(New)FDマウントからEF(EOS)マウント
への強制転換に対するユーザー層の不満を解消する為と、
ズーム時代への戦略方針転換の為、当時の小口径標準
には珍しく、最短撮影距離制限はかけられておらず
最短45cmと大口径版と同様の仕様だ(他記事参照)
このレンズは、後にEF50/1.8Ⅱ(1990年)となり
そこでは、海外生産等のコストダウンの措置により、
1万円を切る価格で、史上初の「エントリーレンズ」
となった。(参考:「エントリーレンズ」とは
市場戦略上の「お試し版」的なレンズの事であるが、
そうしたビジネスモデルを(化粧品等で)良く理解
している女性ユーザー層等に対して、”後で高いもの
を買わされる”と警戒されないようにする為か?
近年、これらを「シンデレラレンズ」と、市場や
ユーザー層の一部で呼ぶケースがある)
これはつまり「お買い得、お試し版」のレンズを販売
する事で、普及が始まりかけた銀塩EOS機の市場シェア
を磐石にするが為の措置である。すなわち初級層が
初「安かったので試しに買ったが、とても良く写る
のでびっくり、こんなレンズを作れるなんて、
神様、仏様、CANON様だよ。
この分では、高級”Lレンズ”など、どんなに良く
写るのか? よし、お金を貯めてLレンズを買うぞ」
という風に、まんまと「CANON党」の信者になってしまう
訳だ。まあ、史上初の「エントリーレンズ」であるから、
この戦略は効果絶大であって、その後、約四半世紀を
過ぎた2010年代迄も、EF50/1.8Ⅱは初級中級層
の間で「神格化」されていた、という歴史がある。
さて、余談が長くなった、本MC50/1.7は、そうした
完成度の高い小口径標準の、ほぼ元祖であって、歴史的
な価値が高く、おまけに「大放出時代」(匠の写真用語
辞典第26回記事参照)での購入であったから、とても
安価で極めてコスパが良い。この為、別シリーズ記事
「ハイコスパ名玉編」では、全所有レンズ中、堂々の
第3位にランクインしている次第である。
別に本レンズである必要は無いが、1970年代後半~
2000年代位の各社小口径(5群6枚構成)標準レンズは
いずれかを購入し、実写してその性能を確かめてみる
事はマニア道としては必須である。あるいは現代的な
高価格帯レンズに憧れる初級中級者層であっても、
一度、安価な、これらを入手してみると良い。
「必ずしも高価格なレンズが性能の良いレンズで
あるとは限らない」という事実は、目から鱗であろう。
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では、次のシステム。
ピンホールは、KENKO ピンホール レンズ 02
(新品購入価格 3,000円)(実用価値 約2,500円)
カメラは、PENTAX K-01 (APS-C機)
発売時期不明、恐らくは1990年代末頃の発売であろう。
希少な市販ピンホールである。他の市販品も、さほど多く
なく、大半が生産終了となってしまった中、本ピンホール
は現行製品でもある。
ここで「ピンホール」(針穴写真)について述べると
極めて冗長になる、詳しくは「特殊レンズ超マニアックス
第23回ピンホール編」記事等を参照されたし。
ピンホールは、銀塩時代では自作するものであった、
市販品が存在していなかったからである。
ただ、写真の教科書には必ず登場する、カメラの元祖
「カメラ・オブスク(キュ)ラ」を、実験してみる
教材としての役目もあり、自作派も結構多かったと思う。
そうやって、自分で作ったピンホールを実写してみると、
今まで見たこともなかった、個性的な描写が得られる
では無いか。
「高画質(Hi-Fi)である事が良い写真だ」という
概念が極めて強い銀塩時代であったが、これはつまり
高画質な写真を撮れるような、機材環境(値段)や
撮影技能を、周囲に自慢する感覚でもある。
ただ、そうした「ブルジョア主義」の優越感に反発
する層は、いつの時代にも多い。
(注:「ブルジョワジー」とは、語源的に言えば
例えば18世紀にフランス革命を引き起こした「中産階級」
を指す事が本来だが、20世紀以降では「金持ち」に
対する蔑称のように用いられている)
自分で作ったピンホールによる、低画質だが個性的
(Lo-Fi)な写真は、アンチ・ブルジョア主義もあり
「どうだ、自作レンズだぞ。独特の郷愁溢れる写真が
撮れるし、しかも撮るのも相当に難しい。
お金を使って撮った写真だけが良い写真では無いの
だよ!」
という反発心と、「手前味噌」感あふれる心理から
銀塩自作ピンホール派は、いつの時代でも多かった。
しかし、自作ピンホールとその撮影技法は高難易度だ。
(特殊レンズ第23回PINHOLE編記事参照)
でも、2000年頃からひっそりと販売が継続されている
希少な市販ピンホールである本PINHOLE 02を
入手し、近年の高感度ミラーレス機に装着すれば、
現代の環境では、簡単にピンホール撮影が可能だ。
あまりに簡単すぎるので、むしろ銀塩時代のように
「苦労して自作し、しかも苦労して撮った写真」
のような達成感は無いかも知れない。
それに、デジタル時代から、ユーザーが写真に求める
方向性も変わってきていて、「綺麗なだけのHi-Fi写真」
を求めるユーザー志向性は減少した。
世の中には、(スマホ)加工写真やLo-Fi写真が溢れ
かえっている。それはまあ、デジタルの恩恵であり、
他者との差別化や個性の主張、あるいはアートとしての
表現、と様々な要素があるので当然の成り行きであろう。
しかし、そんな状況の中、今度はピンホールの写真は
あまりに地味である。もうこれでは銀塩時代のように
個性を主張する事は難しいかも知れない。
そういう状況からか? 現代においてピンホール写真
を志向する層は、だいぶ減っているのではなかろうか?
と推察している。
ただまあ、せっかく撮影の為の難易度の「敷居」が
下がった領域(撮影分野)である。
近年における、カメラの超高感度化は、基本的には
単なる「スペック競争」である。ISO何十万、何百万
という超絶性能があっても、日中に大口径レンズで
写真を撮る上では、何の役にも立たない。
しかしながら、ピンホール撮影(通常レンズの
数千分の1の光量)や、(近)赤外線撮影(通常
レンズの数千~数万分の1の光量)といった特殊な
撮影分野においては、旧来の銀塩時代のフィルム感度
の数千倍にも達する、現代の超高感度デジタル機の
性能とは、ちょうどバランスが取れている。
ピンホール撮影等は、原理理解や撮影機材の整備が
やや難しい撮影分野ではあるが、テクニカル的な面白さ
もあると思うので、中級層や初級マニア層には、推奨
できる分野である。超高感度機(ISO5万以上で十分)
を持っているならば、ピンホール撮影を試すのも
悪く無い。
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では、3本目のシステム。
レンズは、PENTAX Super-Multi-Coated TAKUMAR 200mm/f4
(中古購入価格 1,000円)(実用価値 約6,000円)
カメラは、SONY NEX-7 (APS-C機)
1970年代前半のMF単焦点望遠レンズ、M42マウント
である。
ありふれた5群5枚のテレフォト改型構成でありながら
かなり写りが良い。入手価格も、ジャンク品扱いで
とても安価であり、コスパが極めて良く、この結果、
「ハイコスパ名玉編」で、見事第4位にランクインした。
セミオールドレンズではあるが、通算350万台以上の
販売数があると言われている「ASAHI PENTAX SP」
シリーズでの一般的な望遠レンズだ。
この時代、PENTAXユーザーのビギナー層が望遠レンズを
欲しいと思った場合、まずはSMC系135mm(/F3.5)を、
買い、さらに、それ以上の望遠が欲しければ、SMC系
200mm/F4級、すなわち本レンズがターゲットとなる。
よって、販売数が多かったと思われ、発売後約50年
の現代に至るまで中古流通も多い。
相場も安価であり、上記1000円は、ジャンク価格
であったが、程度の良いAB級等の場合であっても、
3000~4000円の予算で入手が可能であろう。
ありふれたレンズ構成ながら、大変良く写るレンズ
であり、1970年代当時の200mm/F4級レンズ群の
中では、頭一つリードした性能であろう。
解像感とボケ質を両立させたバランスが良い描写
特性が、本レンズの持ち味である。
本レンズの弱点は、最短撮影距離が2.5mと、
「焦点距離10倍則」を満たしておらず、実際に被写体
に対峙すると「寄れない」「撮影倍率が足りない」
という不満が出る事である。
内、撮影倍率に関しては、本レンズをAPS-C機や
μ4/3機で使う事で、不満を若干解消でき、
さらには、周辺収差の発生をカットできる事で
本レンズの画面中央の「美味しい部位」だけを活用
する事が出来る。
しかし、それでも最短撮影距離の長さは、解消
できないので、「寄れない」「撮影アングルの
自由度が無い」という課題は残る。
本レンズの後継型として、1970年代中頃の
smd PENTAX 200/4(無印/P型/K型と呼ばれる、
Kマウント仕様品。注:この時代からSMC→
smc表記と小文字化されていると思う)があり、
そのレンズでは、最短撮影距離は2mと、焦点距離
10倍則どおりの性能となっている。
だが、Kマウント品は所有していない。中身の
光学系は同一であるし、M42マウントの本レンズ
の方が、あらゆるカメラへの装着汎用性が高い
からである。まあ、Kマウントレンズが容易に
利用できる環境を持つユーザーならば、P(K)型
の購入も悪くないであろう。ただし、発売期間が
短かったと思われ、流通数はあまり多く無い。
なお、さらなる後継版として、1970年代末頃の
smc PENTAX-M 200mm/F4が存在しているが、
こちらも未所有につき、詳細の言及は避ける。
公開されているスペックとしては、5群6枚と
レンズ構成が変化、最短2mと前モデルと同様
ながら、大幅に小型化されている模様だ。
(参考:1976年のPENTAX MXの発売に合わせ、
多くの交換レンズを小型化し、Mシリーズとした。
ただし、小型化により、性能を落としてしまった
レンズもあると思われるので、マニア層であれば、
小型化以前の物との両者を同時に所有し、比較
してみるのも研究対象としては興味深いと思う)
まあ、色々とバージョンがあるレンズではあるが、
無難な物は、本SMC-TAKUMAR200mm/F4であろう、
なにせ安価であるし、使用汎用性も高い。
初級中級層でも、見かけたら購入してみるのも良い。
また、ビギナー層が憧れる「小三元望遠ズーム」
(70-200mm/F4級)を200mm望遠側のみで使う
場合と、値段や描写力の差異を良く比較検討
してみるのも面白いであろう。
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では、4本目のシステム。
レンズは、CANON EF-S 18-55mm/f3.5-5.6 USM
(中古購入価格 2,000円)(実用価値 約5,000円)
カメラは、CANON EOS 8000D(APS-C機)
2003年に発売された、APS-C機専用AF標準ズーム。
初代EOS Kiss Digital(2003年)のキットレンズと
しての発売であり、レンズ単体での発売は2004年だ。
ほぼ初のEF-S(APS-C機専用)レンズであり、歴史的価値
が高い。
銀塩EOS普及期の1980年代末にEF50/1.8(Ⅱ)が
EOSの普及を目指した戦略的商品(この意味は、安価
で高性能なレンズを市場に投下するという意味だ)で
あった事に対し、本レンズも同様にデジタル(APS-C)機の
普及を(初代キスデジと共に)狙った戦略的レンズであり、
低価格な割りに、性能にあまり手を抜いていない。
後継レンズが色々とあるが、歴史的価値の高さから
最初期の本レンズの購入に至った。・・と言うか、私は
EF-Sレンズを、汎用性の低さ(EOSフルサイズ一眼レフに
装着不可である)事から嫌うポリシーを持っていたので、
これまでEF-Sレンズを1本も購入していなかったのだが、
歴史的研究の要素が、「気に入らないから買わない」
という持論を上回った次第である。
(注:「気に入らない商品は買わない」という事が
消費者が出来る、唯一の「市場」への対抗手段だ。
ちゃんとそこを主張していかないと、世の中に
面白く無い、又は不条理な商品が溢れかえってしまう。
現代における初級層等は、何もわからずに高額商品の
購入に誘導されてしまっている事実があるから、
世の中はコスパが悪い商品ばかりとなってしまう。
まあ、そういう市場状況を少しでも緩和していきたい、
という意味もあるのだが、ただし現代において縮退した
カメラ市場を支えているのは、そうして高額な新製品を
購入する初級ユーザー層であり、この論理の是非は微妙だ。
だが「わかっているならば、そうした製品を買えば良い」
という為の商品選択肢を増やしてもらいたいという希望
は強くある為、二極分化が、この状況対応の理想形か?
・・まあ、それ故に2010年代末頃からのレンズ市場
には様々な海外(中国)製格安レンズが多数流通して
いるのであろう。国内(国産)レンズ市場に、安価な
レンズが1機種も無くなってしまったから、ここに
「(市場に)付け入る隙」が出来てしまった訳であり、
結果、レンズ商品は安いものと高いものに二極化する。
つまり、商品市場は、それ自体が、適正なバランスを
求めて推移していく訳だ・・)
さて、本レンズであるが、様々な後継機種が発売
されている。そして、どの時代のものであっても
中古相場は、約7000円程度まで、と安価である。
私は、歴史的価値と研究の視点で最初期型を
購入したが、CANONの通例としては、こうした
戦略型商品に関しては、小改良を繰り返す場合が
殆どであるから、単に性能だけを考慮するならば
より新しい型の方が望ましい事は確かだと思う。
後継型は所有していないので、詳細の言及は避ける
が、どれか1本を所有しても悪くは無いだろう。
まあだけど、マニア的観点からすれば、こういう
普及版標準ズームは、マニアック度がゼロに近い
商品なので、あまり積極的に欲しいとは思えない。
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では、5本目のシステム。
レンズは、PENTAX 07 MOUNT SHIELD LENS 11.5mm/f9
(中古購入価格 4,000円)(実用価値 約3,000円)
カメラは、PENTAX Q7(1/1.7型センサー機)
特殊な仕様のレンズだ。私は「収差レンズ」と
これを呼んでいる。
特徴は、まるで虫眼鏡(単玉)を覗いたような
描写をする事で、画面周辺が大きく流れて写る。
この特徴を、どういった作画意図、作画表現に用いる
のか? という点が最大のポイントである。
ただ単に「被写体を綺麗に写せば良い」と思っている
ビギナー層には、困難な発想であるとは思うが、
逆に、「どのように写したら、自分が思うように
なるのか?」と、そういう視点で写真というものに
向き合う事は、中級クラスにステップアップする
上では必須の考え方だ。
世間一般で、ビギナーレベルで留まっている人達が
大半である理由の中の重要な1つが、この点であり、
つまり「自分が、どのように撮りたいのか?」という
発想を持つ事ができない。逆に言えば、「その発想が
持てないからビギナーだ」と定義せざるを得ない。
まあ、もしかすると、本PENTAX 07「収差レンズ」
を使ってみる事で「自身が、これをどう使うか?」
という発想を得る事が出来るようになるかも知れない。
世間一般では、本PENTAX 07に関しての評価や
レビューは皆無に近く、あったとしても本レンズの
本質である「撮影者に表現を求める」という点に迄
言及しているレポートは皆無だ。
「安かったから買ってみたが、写りが悪いトイレンズだ」
といった初級評価が大半であろう。
つまり、残念ながらPENTAX Qシリーズを志向して
購入するユーザーは、ビギナー層が大半である為、
「写真表現とは?」という中級レベルには至らない
のであろう。つまり「機材のターゲットユーザーと
その機材の企画コンセプトが、ちぐはくである」
というアンバランス(や不運)が、ここにある。
でもまあ、逆に言えば、写真表現を追及するような
中上級層、アート層、実践派マニア層などでは、
こうした特殊な仕様の機材の「存在意義」が、明白に
理解できるとは思う。
しかし、このQシステムを「玩具だ、トイカメラだ」
という先入観を持っているならば、残念ながらこの
システムを志向(購入)するには至らない。ここが
「ちぐはぐ」となっている最大のポイントであろう。
現代、残念ながらQシステムは既に終焉してはいるが、
中古流通が皆無という訳では無い。それでも、年々
流通数は減少しているので、入手しておくならば
ギリギリ今のうちであろう。
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では、今回ラストのシステム。
レンズは、CANON (New) FD 70-210mm/f4.0
(中古購入価格 2,000円)(実用価値 約7,000円)
カメラは、PANASONIC LUMIX DMC-G6(μ4/3機)
1979年頃発売の、MF望遠ズームレンズ。
どこにでもある、銀塩時代での一般的なスペックの
オールドMF望遠ズームだ。マニア層ですら興味を
持たないだろうし、一般ユーザーならば、なおさら
であろう。
現代における中古流通数は少ないがゼロでは無い。
あるとすれば、ジャンクコーナー等にひっそりと
置かれているのを数度見かけた事がある。
同時代の同等スペックの望遠ズームレンズは確かに
種類が多い、本ブログでも、恐らくは数十本の
そうしたレンズを紹介していると思う。
近年において、私が、それらを購入する理由だが、
「練習用教材」の意味が大きい。
つまり、MF望遠ズームは、当時の技術的な限界に
より、必ずと言って良い程、弱点を持っている。
まず、その弱点を見抜き、それを回避する為の
方法論を見つけて、それを練習したり、あるいは
弱点を強調して、新しい表現として利用する。
私は、そうした一連の「練習」を行う為に、こうした
オールド(ジャンク)レンズを購入している訳であり
この措置を「ワンコイン・レッスン」と呼んでいる。
(=喫茶店のコーヒー代くらいの金額で、高度な
カメラ撮影技法のレッスンを実施する事ができる)
そして、練習用途のみならず、こうした事を続けて
いると、自然に「研究」も進んでくる。
つまりズームレンズ等が、どの時代に、どのような
技術革新があって、どのように進化し、その結果
描写力等の性能向上に、どんな貢献があったのか?
あたりが、段々とわかってくる訳だ。
ジャンク(ズーム)レンズを数十本購入したところで
近代の中堅性能レンズの中古を1本購入する金額にも
満たない。そして、その措置から得られる、技能や
知識は、たった1本のレンズを買うだけでは決して
得られない事だ。これは大変有益な手法だと思う。
さて、そうした中、本NFD70-210/4は、
当時の同等仕様のMF望遠ズームの中では、飛びぬけて
高性能品であると思う。他にも優秀なレンズは何本か
は存在しているのだが、逆に、殆どのMF望遠ズームは
現代の視点では実用的性能に満たないものばかりだ。
本NFD70-210/4の長所をあげておこう。
高描写力、ボケ質破綻の少なさ、特定の焦点距離や
撮影距離による性能低下が起こり難い、最短撮影
距離の短さ(1.2m+マクロ域)そしてこれらの
描写性能に加えて、「ワンハンドズーム」仕様で
ある事だ。
(「ワンハンドズーム」の、意味とか特徴は、
匠の写真用語辞典第28回記事を参照)
さらに今回は、望遠母艦「DMC-G6」を使用して
いる。これにより、3倍光学ズームと、最大8倍
のデジタルテレコン/デジタルズームを自在に
組み合わせる事が可能であり、その焦点距離範囲
は、140mm/F4~3360mm/F4と、手持ち撮影限界
(注:利用者のスキルに依存)を軽く上回る程の
全ての実用望遠画角範囲をカバーできる事。
おまけに最短撮影距離は全域1.2mと優秀であり、
さらに広角端では最短約90cmのマクロ域が使える。
もう「何倍マクロ」とかの定義も良くわからない
程に、被写体を、いくらでも大きく写す事ができる。
デジタル拡大での、無理をした利用法はともかくと
して、実用(画質無劣化)の範囲での画角範囲も
140mm/F4~840mm/F4と、十分すぎる程だ。
ただまあ、こういう「数字の遊び」はどうでも良い、
光学とデジタルズームとの任意の組み合わによる
圧倒的な画角の自由度は、単に画角変化のみならず、
「被写界深度の自由度」「ボケ質破綻回避の容易性」
等に、非常に有益な使用利便性を感じる。
(注:この利用法は上級者または実践派上級マニア
層以上向けだ。ビギナー層では意味不明であろう)
その際、他の同等仕様のMF望遠ズームよりも、
本レンズは、基本的な描写力に優れる点で、これら
の画角自由度が、マイナスの方向(例えば、ボケ質
破綻回避)ではなく、プラスの向き(どんな画角や
被写界深度も自由自在)に働く訳だ。
さらに言えば、本レンズで僅かに発生しているだろう
周辺収差の課題は、μ4/3機を母艦とする事で、ほぼ
完全に抑えられ、描写力的な不満は殆ど無い。
また、ワンハンドズーム機構により、MF操作性は
抜群に良い。
一度、本システム(DMC-G6+NFD70-210/4)を
使ってみたならば、その後のあらゆる時代の近代的
望遠システムよりも、遥かに、こちらの方が
写真を撮る上での操作性の容易さ、便利さ等を中級層
以上であれば実感できる事であろう。
「目から鱗が落ちる」という状態になるのは間違いない。
現代ではちょっと入手しにくいレンズではあるが、
たまたま見つけたら、購入を躊躇う必要は無いで
あろう。
なお、その場合の母艦は、DMC-G6を推奨する、
他機との組み合わせでは、このシステムまでの
圧倒的利便性は得られない事は確かだからだ。
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では、最後に各選出レンズの評価点を記載する。
(注:レンズ名は省略表記)
1)MC50/1.7 =4.1点
2)PINHOLE02=3.5点
3)SMCT200/4=3.9点
4)EF-S18-55=2.8点
5)PENTAX 07=3.1点
6)NFD70-200=3.8点
今回の2000円級対戦においては、「Best Buy」は
「MINOLTA MC50mm/F1.7」で決まりであろうが、
このMC50/1.7と、SMC-T200/4、NFD70-200/4
の3本は、オールドレンズながら、ハイコスパ名玉編で
現代レンズに混じって、それぞれ、3位、4位、7位に
ランクインしている強者(ツワモノ)である。
さすがに、どれも評価3.8点以上とハイレベルだ。
これら3本は現代の中古市場でも稀に見かけ、かつ
相場も3000円前後と安価だ、ジャンク品扱いならば
さらに安価に、1000円程度で購入できると思う。
マニアであれば、この3本はコンプリート必須だ。
また、「コスパとは何か」を理解したい初級中級
層に向けても推奨できるレンズ群である。
対して、他の3本のレンズ(PINHOLE 02、PENTAX 07、
EF-S18-55)は、ちょっと個々に利用目的が異なる
ものであるから、強く推奨するものでは無い。
まあ、興味があれば買っても損は無い、という感じだ。
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さて、今回の「2000円級レンズ編」記事は、このあたり
迄で、次回記事に続く。