本シリーズは、所有している銀塩コンパクトカメラを
順次紹介していく記事だ。
今回は2000年代初頭の、銀塩AF高級コンパクト機を
2台紹介する。
なお、今回の記事が本シリーズでの最終回となる。
では、まずは1機種目。
RICOH GR21 (2001年)
本機は、希少な超広角単焦点AF高級コンパクトである。
一眼レフやレンジファインダー機の交換レンズであれば、
20mm前後の超広角は珍しくは無いが、レンズ固定の
コンパクト機、しかも単焦点となると、恐らく数える程
しか存在せず、かつAF機ともなると、本当に希少だ。
恒例のシミュレーター機だが、フルサイズ・ミラーレス
機のSONY α7に、Voigtlander SC SKOPAR 21mm/f4
(注:変母音省略)を装着して使用する。

両者の画角は同じだが、最短撮影距離はGR21の30cmに
対して、SC SKOPAR 21/4は90cmと極めて長いが、まあ
例によって、シミュレーションは雰囲気だけ、という事だ。
GR21が希少なカメラであると同様にSC SKOPAR 21/4
も、現在では入手困難な幻のレンズだ。
以降、本システムで撮影した写真を交えながら、GR21に
ついて紹介して行こう。

まず、GR21が発売される1年前の1999年に、GR21の
レンズがライカL39マウントで先行単体発売された。
限定品の「RICOH GR (L)21mm/f3.5」であるが、
私は当時、そのレンズを購入していた。
が、超広角でありながら、レンジ機用のレンズなので、
距離計連動の制限から最短撮影距離は50cmと長めで、
かなり(非常に)使い難く感じたレンズであった。
(注:実際には、一般的なL39マウントのライカ系
レンジ機用レンズは、距離計連動を前提として
最短撮影距離は70cm程度だ。まあだからGR(L)
21mm/f3.5単品レンズは、その制限は、少し緩和
されているので、頑張っている方の仕様である。
まあ、それでも「焦点距離10倍則」を満たさない
広角レンズは、現代の視点からは使い物にならない)
その翌年、本機GR21が発売された。GR21が発売される
事を知っていたら、単体版レンズは買わなかっただろう。
で、GR21は最短撮影距離が30cmと、やっと普通に
撮れる超広角であったので、GR(L)21/3.5を処分し、
本機に買い換えた次第だ。
なお、価格は単体レンズもGR21も10万円を軽くオーバー
する高値であったのだが、前記事第6回のGR1sの所で
書いたように、その頃の私は、RICOHのR/GRシリーズを
集中的に愛用していて、GRと見れば、何でも買って
しまいそうな勢いだったのだ(汗)

まあ、約20年を経過した今となっては、GR熱もとっくに
冷め、手放したGR(L)21/3.5を惜しいとも思わないが・・
(注:勿論、このような希少レンズは「投機対象」である。
が、欲しければ何故、売っている時に買わないのだろうか?
その頃はカメラ等に興味が無かった、と言うならば、もう
自分の時代とは異なる製品は、すっぱり諦める手段もある。
今現在、販売されている商品に注目する方が得策だろう)
GR21購入後は、その当時(2000年代)に流行していた
フォクトレンダー・ベッサシリーズ等のレンジ機で、
その単体GRレンズを使えたのでは?とちょっと後悔も
していた。ただまあ10万円オーバーの高価なシステムで、
しかも同じ仕様の物を贅沢にいくつも同時に持てる筈も
なく、そのあたりはやむを得なかった節もあるが・・
さて、GRシリーズの年表については、本シリーズ第6回
記事に掲載済みだ。その中での本機GR21の位置付けは、
28mmの焦点距離では無い、唯一のGRである。
なお、APS(IX240)フィルムが流行していた時代なのに
APSのGRが発売されなかったのは、ちょっと不思議で
あった。同じく高級コンパクトを色々と発売していた
CONTAXですら、TixというAPS高級コンパクトが
存在していた。(本シリーズ第5回記事参照)
でも、RICOHは、当時APS陣営には参加しておらず、
GRに限らず普及コンパクトですらAPS機は無かったので、
当たり前と言えば当たり前ではあるが・・

さて、21mmという超広角の焦点距離は、コンパクト機と
しては極めて異例だ。
古くは1960年代末に、ZEISS IKON Hologon(ホロゴン)
ウルトラワイド、という 15mm/F8の固定レンズの
カメラが発売されている。
ちなみに、このカメラは希少な超広角である上に、
写りも良かった模様で、その後「神格化」される程になる。
1970年代、ホロゴンはライカMマウント用レンズとして
単体発売されるが、玉数が少なく、現代では高額相場の
コレクター向けの超レア品である。
1994年、京セラよりCONTAX Gシリーズ用Hologon T*
16mm/F8が発売される。
神格化されていた希少レンズだけに、市場のインパクト
は凄く、高価なレンズではあったが、これを使う為、
あるいは、これを使う事を夢見る為に、CONTAX G1や
G2がマニア層に売れていた節もあった。

その後、1999年にはコシナよりフォクトレンダーブランド
のSUPER WIDE-HELIAR 15mm/F4.5が発売された。
これの写りが極めて良かった事(ミラーレス・マニアックス
第16回、第66回記事等)および安価で、いつでも入手可能、
かつF4.5と明るかった事で、ツァイスに拘らないマニア層
でのホロゴン人気の一部は、SWHの人気にシフトした。
このコシナのレンズは、その後何度もバージョンアップ
され、現代でもSONY Eマウント用の超広角レンズとして
販売されていて、依然人気のあるレンズだ。
他の超広角機だが、1972年発売のKOWA UW190がある。
これは一見すると一眼レフの外観だが、レンズ交換できず、
19mm/F4の固定だ(未購入)
KOWA(興和)は、コルゲンコーワやキャベジンコーワ、
バンテリンコーワ等の製品で有名な医薬品メーカーとして
の顔の他、光学機器部門もあって、1970年代までは
一眼レフや交換レンズを多数発売していた。
その後、カメラではなくフィールドスコープ(野鳥観察
用等の地上用望遠鏡)等の市場でずっと活躍していたの
だが、2014年になって、久しぶりにカメラ市場に復帰し、
マイクロフォーサーズ用の「プロミナー」銘のMF広角
レンズを3本発売している。
(現在未購入だが、欲しいとは思っている)
内、最広角のレンズは8.5mm/F2.8で、これは換算
17mmとなり、UW190やコーワSW(28mm機)での、
銘広角レンズの印象を現代に蘇らせている。
他の広角機としては、FUJIFILM NATURA S(2001年)
が著名だ。
これは24mm/F1.9の大口径広角を搭載したAFコンパクト
機であり、ナチュラフィルム(ISO1600のカラーネガ)
を組み合わせ、暗所でもフラッシュを使わずに自然な
雰囲気で撮れる事を目的とした、変り種コンパクトだ。
NATURA Sは所有してはいなかったが、製品モニターを
行った事がある。
その評価だが、24mm大口径広角であるのに、最短
撮影距離が40cmと長く、近接撮影ではAFも合い難く、
せっかくのレンズ特性を活かせない短所があったので、
それらを厳しく(汗)レポートした。
なお、近年NATURA S(系)の中古相場がプレミアムと
なって、恐ろしく高価になっている(いた)模様だ。
(注:近年では「プレミアム」という言葉を「高級品」
として普及させたい、と各市場分野では考えている模様
なのだが、元々の意味は「不条理に高価」と、否定的な
要素が強い言葉である。本ブログで「プレミアム」と
書いた場合は、必ず否定的な意味で用いている)
そうなった理由は知らないのだが、そのカメラは確かに
希少なスペックではあるが、まあ現代での実用価値は、
さほど高く無いと思うので念の為。
(追記:さらに近年では、FUJIFILMの銀塩機全般が
プレミアム相場化している。恐らく流通市場が投機的な
理由により、特異な仕様(例:広角やパノラマ等)故に
販売数が少なく、結果的に、希少(レア)品となった
それらの機種群を高額相場に移行させたいのであろう。
ただまあ「カメラは全て実用品だ」と捉える実践派の
マニア的観点からは、カメラを骨董品のように投機的
な商品と捉える視点は、あまり賛同する事が出来ない)
プレミアム相場と言えば、本機GR21も相当なものだが、
まあ本機も、現代ではさほど実用価値のあるものでも
無いのは確かだと思う。
結局、超広角単焦点機と言うと、私が記憶している
範囲では、これ位しかなく、うちAF機は本機GR21と
FUJIFILM NATURA Sの2機種だけであろう。
デジタル時代に入っても、デジタルコンパクトでの
超広角機は少なく、換算20mm級の単焦点ではKODAKと
SIGMAに各1機種、ズーム機では、広角端20mm以下が
NIKONとCASIOに各1機種あった程度だった、と記憶
している。
他、アクションカメラや全天球カメラ等でも20mm以下
の超広角仕様のものが数機種ある模様だが、いずれに
してもデジタルであっても超広角機はさほど多くない。

さて、前置きが極めて長くなったが、ここから本機
GR21の機体性能の話に入ろう。
GR21は、恐らくは銀塩AFコンパクトとしては最広角の
21mmレンズを搭載している。
このレンズは、周辺光量落ちが結構出るのだが、それは
それで「超広角らしい描写」とも言え、長所とも短所
とも判断できるであろう。
発売時の価格が138,000円と高価であり、28mmの
GR1シリーズ以上にマニア向けだ。
私は、他者でこのカメラを使っている人を見た事が
無く、発売数も、かなり少なかったのではなかろうか?
画質は、超広角故にGR1シリーズのGRレンズのように
「画面の隅々までシャープ」といった印象は無い。
だが、これが良いものなのか、悪いものなのか?は、
あまり比較する対象が無いので、評価が結構難しい。
一眼レフ用の21mm級レンズは色々と所有しているが、
逆望遠(レトロフォーカス)型のレンズとの比較は
ちょっとフェアでは無い。すると、レンジ機用レンズと
なるのだが、著名な21mmは、スーパーアンギュロン系
21mmと、CONTAX(G)ビオゴン系の21mmなのだが、
あいにく、どちらも所有していない。

同時代での比較可能な製品として唯一持っているのが、
今回のシミュレーターとして使用している、コシナ製
SCスコパー21mm/F4なのだが・・
今回このレンズを使っていると、ともかく寄れない
(最短90cm)なので、極めて腹立たしい。
これを、30cmまで寄れるGR21と比較するのは全く
意味が無い事であろう、何故ならば両者は撮影技法が、
まるで異なってくるからだ。
最短が長いレンジ機用超広角は、中遠距離の被写体
(風景等)を平面的に撮る、古い技法しか使えない。
近接で被写体と背景の遠近感を強調する等の現代的な
技法はレンジ機用超広角では、まるっきり無理なのだ。
まあ、画質の評価など、今となってはどうでも良いで
あろう、GR21を所有している私ですら、今更本機に
フィルムを入れて撮影しよう、などと言う気には
一切なれないのだ。

それに、久しぶりに本機を取り出して見てみると、
購入後20年も経っていないし、かつ保存状態も悪く
無かった筈なのに、ボタン類の塗装の一部等が、
ところどころ劣化してハゲている。
高価なカメラであったのに・・ まあ、耐用年数
オーバーという事であろう。
カメラとしての仕様は、レンズのスペックを除いて、
前記事GR1sと大きく変わるものでは無い。
ほとんど同じと言っても差し支えないが、違う部分
だけ述べておく。
まず、P/絞り優先のダイヤルのF22の後ろに「ISO」
の表記があり、ここにセットして手動でISO感度を
変えられる。まあこれは、当時のフィルムは殆ど
DXコード対応(感度自動読み取り)で、本機GR21も
それを読めるのだが、手動ISO設定は増感・減感現像
用途等に使える。が、ISO25~ISO3200と意外に狭い
可変範囲だ(例えば、ISO1600のフィルムは1段まで
しか増感出来ない。ただ、ネガではあまり増感現像
の効果は無く、当時のポジでは、そこまで高感度の
フィルムは無かったと思うので、この仕様でも十分か)
次いで、スポットAFモードが追加されている。
まあこれは、スポットでもワイドでも、どうせ測距点は
画面の中央部にしかないので、あまり意味が無い。
MFモードは無いが、GR1シリーズ同様に、山(無限遠)
と、SNAP(人物2人マーク、2m固定)がある。

21mmレンズの被写界深度を計算すると、SNAPモード
(撮影距離2m)で、F8以上に絞れば完全パンフォーカス
となるので、実質的には、AFは殆ど不要だ。
だが、低感度フィルム、かつ暗所でF8は厳しいので、
もし、これを絞り開放F3.5とすると、2.5m程度の
被写界深度の奥行きしか得られず、この場合は、AFを
ちゃんと使った方が良いであろう。
なお、無限遠の風景等の場合は、山のマークに設定した
方がパッシブ式AFが迷う事なく、確実、かつ速い。

それと、ABC(Abc)モードが追加された。これはオート
ブラケット(自動露出ずらし)であり、3枚が連写される。
この機能は、シャッターボタンを途中で離しても、必ず
3枚が連写されるので要注意だ。
あと、フィルターがアダプターを使わずとも、そのまま
装着できるようになった。
φ30.5mmの市販フィルターが使えるが、CONTAX G
ホロゴン16mm/F8の付属品にあった、センターND型の
「グラデーション・フィルター」(つまり画面中央部を
減光させ、レンズの周辺光量落ちを中和させる)は、
純正では用意されていない。

まあ、GR1sとの差異はそんなものだろうか・・・
他に長所は特に無く、希少なAF超広角コンパクトである
という事だ。
短所だが、色々とある。
まずは、レンズが沈胴しない。
これは21mm超広角だから、大型化はしかたが無い
のかも知れないが、一々レンズキャップを嵌めるのは、
面倒を感じる。
大型レンズのせいで、ファインダーを覗くと画面下の
3分の1程度にレンズ鏡筒が見えてしまい、邪魔で
構図が決めれず、鬱陶しい。
さらには、内蔵フラッシュを使った場合、レンズの影が
出てしまう危険性や、周辺まで届かない可能性があるが、
ここは、ちゃんと実験した記憶が無い(汗)
それとGR1シリーズの例によって、最高シャッター速度は、
1/500秒でしか無い。これだとやはり日中はPモードで
使うのが、シャッター速度オーバーのリスクが少なく
良いであろう。
一々、シャッター速度オーバーにならないように絞りを
調整するのは、専用ダイヤルがあるとは言え面倒なのだ。
それと、露出がややプラス目に出るという噂もあったが
まあ、シャッター速度オーバー回避と、超広角機では、
空の明るさを意識しての、そういう味付けであろう。
リバーサルではなく、ネガフィルムを使う以上、なんら
問題は無いし、むしろプラス目の露出はネガフィルムの
ラティチュードを有効に使え、そして少しでも
シャッター速度オーバーを防ぐ為には役立つと思う。
(注:現代でも良くあるが、中級ユーザー層あたりの
「ここがダメだ」評価は、あまり真に受けない方が
良いであろう。上級クラスになれば、そうした弱点は
百も承知の上で、それを、生かすも殺すも、自在に
コントロールする事ができるだろうからだ)
他の弱点は、やはり高価すぎる事であろう。
定価138,000円は、今にして思えば、さすがに
「ふざけるな!」という感覚だが、まあそれも、
21mmという超広角の付加価値であろう・・
つまり、高くても売れるカメラであるからであり、
まんまとその戦略に乗ってしまった訳である(汗)
まあ現在の感覚であれば、私はこのカメラを買わない
と思う、実用カメラ目的では、さすがに「コスパ」が
酷すぎるからだ。

さて、ここで本機の総合評価を9項目で示す。
RICOH GR21 2001年
【基本・付加性能】★★★
【描写力・表現力】★★★
【操作性・操作系】★★★
【質感・高級感 】★★★☆
【マニアック度 】★★★★★
【エンジョイ度 】★★☆
【購入時コスパ 】☆ (新品購入価格108,000円)
【完成度(当時)】★★☆
【歴史的価値 】★★★★★
★は1点、☆は0.5点 5点満点
----
【総合点(平均)】3.1点
3.0点以下の低評価になると思っていたが、意外にも
まずまずだ。
予想通り、「コスパ」の評価は史上最低点であるが、
マニアック度と歴史的価値が満点なのが、コスパの
悪さを打ち消している。
他の評価項目は、いずれも平均点付近となった。
超広角である、という特徴の他は平凡な性能であり、
現代における実用性はあまり無い。
ましてやプレミアム相場になるような事は、ある筈が
無いカメラだ。
当時、このカメラを買った人等は殆ど居ない、
高すぎたからだ。
生産中止が知らされてから、「高くても売ってくれ」
と言って来た周囲のマニアも複数居たが、そのいずれに
対しても・・
「そんなに欲しかったのなら、何故売っている間に
買わなかったのだ?!」
と厳しく断った。
そのズレた感覚は、まるで、有名ミュージシャンが
亡くなってから、慌ててCDを買いに行く一般大衆と
同じだ。・・およそマニアらしく無い。
現代において、その希少性から投機(転売)目的を
画策して買ったとしても、きっと塗装がハゲてきて
転売価値は暴落する事であろう。
中古カメラ等の不条理な高騰は、モノの真の価値が
わからず、無意味に高いお金を出して買う側に、
殆どの責任がある問題だ。
---
では、次いで2機種目、これでラストとなる。
CONTAX T3 (Titan Black)

2001年に発売されたCONTAX最後の高級コンパクト。
勿論チタン外装で、定価は98,000円+税と、ようやく
ここでTシリーズとしては初めて値下げ傾向となった。
まあ、さすがに21世紀では、高級銀塩コンパクトも
時代遅れになりつつあった事であろう。
デジタルコンパクトも色々出ている中で、10万円を
超える高額な銀塩カメラ等は、誰も見向きもしない。
ただ、本機はCONTAX T3 チタンブラックという仕様で
あり、シルバーより3ヶ月程後に発売され、こちらは
108,000円+税の定価と、依然高価である。

シミュレーター機だが、フルサイズ・デジタル一眼の
CANON EOS 6Dに、T3搭載レンズと同じスペックの
CONTAX Distagon T* 35mm/f2.8を装着する。
ただし、レンズ構成は大きく異なるので、例によって
「雰囲気のみ」のシミュレーションだ。

T3のレンズは新設計のゾナータイプ、35mm/F2.8で
4群6枚構成だ。
が、今の時代ともなったら、もう「ゾナー銘だから
高画質だ」などの古い常識は通用しない。
(参考:80年程前に「ゾナーは高画質だ」と評価
された理由だが、当時の光学設計技術ではレンズ毎の
隙間を開けると、表面反射により光線透過率が下がり、
かつ内部乱反射により、コントラストが低下したので、
ゾナー構成では、できるだけ「レンズ貼り合わせ」の
面(群)を増やす事で、その課題に対処した。
3群5枚とか3群7枚等、群数が少ない仕様が特徴だ。
その後の時代では、レンズ毎に表面コーティングを施す
事で、この課題を解決し、ゾナー構成の必要性が減った。
また、一眼レフ用のゾナーは、構成上、中望遠レンズ
以上の長い焦点距離の物しか作れなかった事も、課題の
1つであった。→だから銀塩一眼レフ用MF標準レンズは、
ゾナー構成では無く、プラナー(変形ダブルガウス)型
を採用した。ただし、バックフォーカスの短いレンジ機
やコンパクト機では、標準や準広角のゾナーも作れる。
また「バリオゾナー」と呼ばれているズームレンズでは
一眼レフ用でも広角域からの焦点距離が可能ではあるが、
もうその時代では、元々の「ゾナー」の意味も曖昧であり
単なる「商標」「商品名」としての要素も大きくなった)
近代はコンピューター(PC可)を用いた、レンズ光学
シミュレーションによる「自動設計技術」が発達し、
ゾナーだとかプラナーだとか言った、オーソドックス
なレンズ構成とは似ても似つかぬ、非球面レンズとか
低分散ガラスなどを多用した、今まで見た事も聞いた事
も無い、特殊な設計の高性能レンズが沢山出てきている。
昔の光学設計とは、時代背景がまるで異なる訳だ。
また、1990年代から2000年代位までは、一眼レフ
用においても、単焦点レンズよりもズームレンズの
新規開発と改良設計を優先していた節もあった。
つまりズームの方が良く売れたからであろう。
逆に言えば、その時期の(一眼レフ用)単焦点レンズは
古い設計のままであり、下手をすれば1980年代以前の
設計を、AF化しただけで、そのままずっと売っている
ケースも各社で極めて多かった。
なのでまあ、そうであれば、昔のレンズを使っても、
たいして性能的な差異は無かったのだ。
ただ、2010年代になってから、各社とも高性能単焦点を
新規設計で発売している。これは前述のように、設計の
合理化が行われた事も理由ではあるが、それよりも、
国内一眼レフ市場が縮退した事で、高付加価値(つまり
高利益)の商品を出さざるを得なくなったからだ。
ズームはもう限界に近い(性能もいっぱいいっぱいだし、
既に普及もしきっている)のであれば、超絶的な高描写力
を持つ、新規の単焦点レンズを出すしか無いと言う訳だ。

例えば一眼レフ用の50mm標準レンズを考察すれば、
CONTAXのY/C(RTS)マウントの物(1975~2005年)
は、50/1.4においては、プラナー(変形ダブルガウス)
型の6群7枚構成であったが・・
現代の標準レンズ、例えばSIGMA ART 50mm/F1.4
DG HSM(2014年)は、8群13枚(内、非球面1枚、
低分散3枚)である。
私は両レンズを所有しているが、確かにP50/1.4は、
銀塩時代であれば、かなり優秀な標準レンズであったが、
現代においては、残念ながらSIGMA A50/1.4の描写
性能の足元にも及ば無い。

まあそういう風に、時代が変われば技術も変化する、
という事だ。だから「ゾナーはキレが凄い」とか
「プラナーはボケが綺麗」などの話は、現代においては、
もう何ら意味が無い、古い常識となってしまっている。

さて本機T3だが、前機種T2(1990年)からは、
実に11年振りのモデルチェンジとなった。
T2には色々弱点があり、まずレンズ描写力がイマイチ
である事、AFが合わない(背景に抜ける)、最短撮影
距離が70cmと異様に長い、最高シャッター速度が遅い、
そして、やや大きく重く、高価(12万円)である事だ。
T2のAFに関しては回避技法があり、丸形のAFフレーム
を信じず、「フレームの枠で引っ掛ける」ように使う。
これでは説明がわかりにくいが、つまりAFフレームが
ズレているので、AFロックしながら使うのだ。でも
これは元々はT2の重欠点であるので、問題は問題だ。

で、T3では、これらのT2の弱点をほぼ全て解決している。
レンズは新設計であり、さすがに11年の時代差があれば
格段に高画質となった。
まあその当時のレンズ設計の技術的な進歩は11年間でも、
あまり無かったのかも知れないが、それでも旧機種より
悪い性能の物を発売できる筈も無いので、レンズ描写力
については十分に吟味され、改善されたのであろう。
AFもちゃんと合い、レンズの最短撮影距離は70cm→
35cmまで短縮された。
なお、CONTAXにAF技術の蓄積が無かったのは、
1990年頃のT2の時代迄だ。1990年代後半のG2やTix、
そして2000年代のNシステムや本機T3では、AFは
問題無い。
最高シャッター速度は、1/500→1/1200秒に向上、
ただ、T3の1/1200秒はレンズシャッター機最速クラス
ではあるが、絞り開放では動作が追いつかず、最高
1/500秒に制限されてしまう、という実使用上の矛盾
(絞りを開けたくても開けられない)がある。
重量は、295g→230gと若干の軽減だが、サイズは
ずいぶんと小さくなった印象だ。
なお、T3では小型フードが装着できるようになったが、
純正品はシルバー仕上げしかなく、ブラックが無い、
一応持ってはいるが、色がちぐはくで格好悪いのだ(汗)
さて、本機T3の最大の特徴だが、銀塩AF高級コンパクトの
末期の製品だけに、完成度が高い事だ。
他の機種は高級コンパクトと言っても色々と弱点や不満点
があったのだが、本機T3では、それが殆ど無い。

T3の操作系もまた長所だ。
MODEボタンで変更したい機能を選び、無限回転式の
デジタルダイヤルで、そのパラメーターを選ぶ。
この操作系の概念は、従来のカメラとはずいぶん異なる
のだが、この当時(2001年頃)の一眼レフのMINOLTA
α-SweetⅡや、CANON EOS 7でも採用された「操作系」
であり、先進的で、評価できる。
なお、近年(2017年)のPENTAX KP等でも使われており、
特に、そのKPは、圧倒的な使い易さを誇っている。
本機T3では、そうした先進一眼レフ群までの使い易さは
無いが、小型機でボタン類の操作子を減らしたい状況の
中では、最善の操作系設計であろう。
ただ、当時の一般ユーザー層が、使い易いと思ったか
どうか?は不明だ。
それまでのカメラの古い概念(単なる「操作性」のみを
評価し、「操作系」の意味がわからない)に縛られて
いると、なかなか理解され難かったかも知れない。
(まあ、現代でも「操作系」の良否を評価できる人は
非常に少ないので、いまだに同様かも知れない)

余談だが、結局2005年にカメラ事業から撤退してしまった
「京セラ」であるが、このT3の直前の時代1990年代は、
一眼レフ事業が振るわなかった。
他社機が全てAF化する中、CONTAX一眼は、ずっとMF機
が主力だったのだ(AF化に出遅れていた、とも言える)
これは後に「Nシステム」の開発に繋がるが、その商業的な
失敗が、京セラにとって致命傷となったのは、他の様々な
記事でも書いた通りの「悲運の歴史」だ。
なのでまあ、その時代はTシリーズとGシリーズで、京セラの
カメラ事業を支えていた、と言っても過言では無いであろう。
Nシステムは個人的には嫌いでは無いし、一部所有しており、
悪い性能でも無いと思うが、「タイミングが悪かった」、
という印象だ。
ただ、その悪いタイミングの不運は、Nシステムの方だけに
集中してしまい、本機T3では、そのタイミングはCONTAX
の長い銀塩高級コンパクト開発のノウハウを、上手く集約
できた形として実ったと思う。

さらに言えば、銀塩Nシステムの旗艦CONTAX N1は、
本機T3の前年2000年に発売されているのだが、操作系
の優れたカメラであった。(銀塩一眼第24回記事)
つまり、写真を撮る、という目的には、非常に適した
カメラであり、この当時のCONTAX技術陣の優秀さが
わかる設計だ。
ただ、そうした事が、当時における、旧来からの
保守的なCONTAXのファン層に理解できたかどうか?
は、大いに疑問である。
ビギナーの富裕層・シニア層が大半であるCOTAX党に
おいては、「使い難い」「ややこしい」「わからない」
という評価が大半であろう。
まあ、そういう点もまた「タイミングが悪かった」と
言える事であろう。

さて、最後に本機の総合評価を9項目で示す。
CONTAX T3 2001年
【基本・付加性能】★★★★
【描写力・表現力】★★★★☆
【操作性・操作系】★★★☆
【質感・高級感 】★★★★
【マニアック度 】★★★☆
【エンジョイ度 】★★★★
【購入時コスパ 】★★ (中古購入価格 52,000円)
【完成度(当時)】★★★★☆
【歴史的価値 】★★★☆
★は1点、☆は0.5点 5点満点
----
【総合点(平均)】3.7点
好評価だ。
まあ、第3回記事のOLYMPUS μ-Ⅱの3.8点には僅かに
負けたが、本シリーズでは第2位の高得点となっている。
これはもう名機だ。
本機は、銀塩最後の高級コンパクトとして、デジタル
時代に入っても、フィルムが、まだなんとか使えた
2000年代後半位のギリギリまで愛用したカメラである。

現代における実用性は、まだあると思う。
しかし中古の玉数は少なく、あってもかなり高値になって
しまうかも知れない。(何度か20万円近くという高額相場
の個体を見かけたが、当然ながら、そこまでの価値は無い)
実用性が高いカメラなので、実際に本機にフィルムを
入れて使うのであれば良いのだが、ただ飾っておくだけ
であれば、持っていても、あまり意味の無いカメラだ。
また、中身の電子部品の経年劣化は「そろそろ危ない」
という事も、注意点として挙げておく。
さて、本シリーズはこれにて終了。
今後、銀塩コンパクトを新たに購入する事はまず無いと
思うので、続編や補足編は無しとするつもりだ。
なお、この時代(2000年代初頭)以降の、デジタルの
コンパクト機の歴史は、過去のシリーズ「コンパクト・
デジタル・クラッシックス」記事群に詳しいので、
適宜参照されたし。