コストパフォーマンスに優れたマニアックなレンズを
カテゴリー別に紹介するシリーズ記事。
今回第16回目は、やや高価な高コスパレンズを4本紹介する。
さて、「やや高価」とは、あいまいな表現だ・・
「金銭感覚は人それぞれだから」という意見もあるだろう、
ただ、個人的には、金銭感覚に限らず感覚値の話をする際に
「人それぞれ」と、結論を出さない態度は好きではない、
そこで話が終わってしまい、曖昧な結果のままだからだ。
なので、その価値感覚における「基準」を設けるのも意味の
ある事だと思っている。
ここで言う「やや高価」とは「中古または新品購入価格が
5万円以上、10万円未満」と定義しておこう。
ちなみに、個人的には、レンズの購入価格の上限は、
12~13万円までとし、それ以上高価なものは、基本的には
購入しない(あるいは、その価格帯にまで中古相場が下がる
まで待つ)事としている。
(注:本ブログでの「購入価格」とは、どの記事でも、
その時代での消費税(3%~8%)込みの金額である)
まずは、最初のシステム、
カメラは、SONY α700
レンズは、SONY Sonnar T*135mm/f1.8 ZA (SAL135F18Z)
(中古購入価格 89,000円)
ミラーレス・マニアックス記事では未紹介の、
2006年発売のAF単焦点大口径望遠レンズ(以下、ZA135/1.8)
本レンズは、ライブ撮影用を主眼に購入したものである、
ライブや舞台の撮影では、フルサイズ換算200mm位の画角の
明るいレンズが欲しい。それはAPS-C機として考えると、
135mmのf2級レンズ、という事になる。
同クラスのMFレンズではCANON NewFD135/2(ミラーレス第15回)
NIKON Ai135/2(ミラーレス第18回)を所有しているが、
これらでもライブ撮影で使えない事は無いが、重量が重い故に
長時間、常にピントリングを廻し続けるMF操作が極めて大変だ。
AFレンズで同等のスペックの物が必要だ、と昔から思い続けて
いたのだが、その条件に該当するレンズは、NIKON DC135/2
とCANON EF135/2Lの2本が銀塩時代から存在していた。
どちらも定評があるレンズで、魅力的であったが、やや高価で
あるのと、重量級かつ手ブレ補正機能が内蔵されていない為、
照明が変化しやすいステージ等では、若干使い難い事が予想
されたので購入を控えていた。
さて2006年にSONYが「α」をKONICA MINOLTAから継承
したが、この時、当然SONYにはα用レンズは無い。
そこで殆どの交換レンズ群をミノルタ製の物をSONY銘として
外観変更をして発売された(ただし定価は、15~25%も
値上げした!)
そして、全てミノルタ製のままであると格好悪い。
せっかく新たにカメラ事業を初めようとしているのに、
「なんだ、SONYではレンズが作れないのか?」と思われて
しまい、ブランドイメージを低下させてしまうリスクもある。
そこで、2006年、SONY最初のAマウントデジタル一眼「α100」
の発売に合わせ、カールツァイスブランドの高級レンズ3本を
同時に発表したのであった。
その3本とは、
Vario-Sonnar T* DT16-80mm/f3.5-4.5 ZA(SAL1680Z)
Planar T* 85mm/f1.4ZA(SAL85F14Z)
Sonnar T* 135mm/f1.8ZA(SAL135F18Z)
である。
その中の1本が、今回紹介のレンズ ZA135/1.8である。
3本中最も高価であり、定価は20万円+税である。
しかし、高価だから高性能なレンズであるという保証は無い、
ミノルタのレンズをSONYブランド化しただけで値上げし、
しかも、カールツァイスのブランドまで取得して(一眼レフ用
交換レンズ分野では、コシナ社がすでに使用しているので、
割り込み的な雰囲気があった)さらに値段を吊り上げている、
という印象があったので、発売当時は興味を持つ事ができず、
むしろ反発心すらあった。
が、前述の理由でAFの135mm/f2級レンズを探していて、
よくよく検討すれば、内蔵手ブレ補正が使えるαマウントの
本ZA135/1.8が最もその目的には適していると思えるように
なってきた。
あとは問題は価格だ、20万円の定価は高価なのであるが、、
まあ中古が半額の10万円以下になってくれば買い頃であろう。
しかし、ブランド力があるレンズだから、中古相場も強気で
あり、いつまでも、いっこうに値段が下がらない。
「そのうち下がったら買う」と思い続け10年経った・・(汗)
発売10年後の2016年になり、やっと10万円を切る中古が
出始めた、その中で「外観キズ1箇所有り」の9万円を切る
特に安価な中古が出た為、ついに購入に踏み切った次第である。
さて、本レンズの最大の特徴は、最短撮影距離が72cmと極めて
短い点だ。一般的な135mmレンズの場合、最短135cmが基準で
あり、まあ普通は1.2~1.5m程度である場合が殆どだ。
他に最短が短い135mmレンズとしては、ミノルタ時代から
SONYまで引き継がれているSTF135mm/f2.8 [T4.5]がある。
(ミラーレス第17回記事参照)
ただ、優秀なそのSTFでも最短は87cmであり、本レンズが
ずば抜けている事がわかる。
で、STF135/2.8を銀塩時代から愛用していた為、同じα用の
135mmの本ZA135/1.8を買い難かった事も確かにあるのだが、
STFとZAは焦点距離こそ同じものの、用途がまるで異なる。
STFは昼間、屋外でのポートレート又はネイチャー用、
ZAは暗所のステージ撮影用なのだ。
さて、SONY αは手ブレ補正内蔵とは言え、ライブ撮影等では
被写体が動く事から、シャッター速度は1/250秒以上が必要
となる。本レンズをAPS-C機に装着した場合、フルサイズ換算
画角は約200mm相当となる。この状況で初級者クラスでの
手ブレ限界シャッター速度は1/200秒となり、中級者以上
では、もう少し低い。
すなわち、手ブレ限界シャッター速度は、ライブ撮影に必要な
シャッター速度を下回っている為、手ブレ補正機能はあっても
無くても良い事になる。長時間の撮影ではバッテリー消費を
抑える為、内蔵手ブレ補正をOFFにする選択も十分有りだ。
最短撮影距離の短さは、APS-C機で使用時、約1/3倍マクロと
なる為、自然観察用(花や昆虫)の撮影用途にも向く。
ただし、高価なレンズで重量級(約1kg)である事、そして
開放f値が明るすぎる為、屋外では保護を兼ねたNDフィルター
装着が必須であり、しかも口径φ77mmのフィルターは高価だ。
よって、フィールド(屋外)撮影では、安価で軽量で簡便な、
90~105mm級マクロの方が、はるかに使い勝手は良いであろう。
なお、IF(インターナルフォーカス)方式の為、ピント操作で
レンズ全長は変化せず、やや重たいが、AFでもMFでも重心の
バランスは取りやすい。
重量級レンズでは重量級ボディとの組み合わせが良い、という
のは銀塩時代の昔からの定説であるが、実は、AFレンズで
かつIF方式の場合は、重量バランスを意識すれば、重量級の
ボディである必然性は少ない。むしろ重量バランスとピント
操作が問題になるのはMFレンズの方なのだ、よって昔のMF
時代に、重量級レンズには重量級ボディ、と言われるように
なったのであろう。(前述のMF重量級レンズがライブ撮影に
向かない、というのも同様の理由である)
さて、本ZA135/1.8の描写力はまずまずだ、解像感があり、
ボケ質も良く、また逆光耐性も問題無い。
ただし、10万円以下クラスの中望遠レンズでも同等かそれ以上
の描写力を持つレンズも多く、20万円というのは高価すぎる。
弱点はあまり無いが、まずピントリングは無限回転式で
MF操作がやりにくい事がある。この為、最短撮影距離が指の
感触でわからず、その高性能が上手く活かしきれない。
それから、AFが遅い事だ。
レンズ内モーターが無いのもその一因だが、その代わり
α700では、DMF機能が効く。
まあでも、ライブ等の暗所のステージでは、200mm級の画角
で、AFで開放f1.8の明るさと、(内蔵)手ブレ補正を実現
できるシステムは他に無く、本レンズとα一眼の併用が唯一だ。
(注:2017年になって、SIGMA A135/1.8が発売された。
ただしレンズ側手ブレ補正無しである、後日紹介予定)
なので、「やや高価ではあるが、高コスパ」という、今回の
記事のテーマに合うレンズであると言える。
が、極めて限定された用途であり、中級者レベル等での一般
使用には向かないレンズである。
特に、SONYだからとか、カールツァイスだから、といった、
ブランド銘の持つイメージだけで、良いレンズだと思い込んで
購入する事は。あまり推奨できない。
価格を始め、重量感や、性能を引き出す使いこなしも、さほど
容易なレンズでは無いので、あくまで上級者向けとしておこう。
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さて、次のシステム。
カメラは、PENTAX K-5
レンズは、smc PENTAX-FA77mm/f1.8 Limited
(新品購入価格 74,000円)
ミラーレス・マニアックス第40回、名玉編第4回で紹介の、
2000年発売のAF単焦点中望遠レンズ。
いまさら本レンズについての詳しい説明は不要であろう、
なにせ、ミラーレス名玉編では、栄光の第一位となった、
銘玉中の銘玉であるレンズだ。
本レンズに弱点は殆ど無い。
僅かなボケ質の破綻も、気になるレベルでは無いであろう。
そして、逆に言えば、ほとんどが長所だ。
小型、軽量、高級感、MF感触、描写力、ボケ質、逆光耐性・・
レンズの長所として言える「要素」の多くが本レンズには
存在する。
「ナナナナを買わずして、どのレンズを買うのだ?」とは
本ブログでは昔から何度も書いてきた事である。
弱点では無いが、まあ、あえて言えば「あまり知られていない」
という事くらいが本レンズの課題か?
何故知られていないか?といえば、ユーザーが少ないからだ。
何故ユーザーが少ないか、と言えば、本レンズを欲しいとは
思わないからだ。
発売時こそ10万円を切る定価であったのが、ここ10数年で
PENTAXのオーナー企業が、HOYA,RICOHと変わるたびに
定価はわずかづつ値上げ、現在はオープン価格であるが、
まあ、定価10数万円というのは、中途半端な焦点距離や
開放f値のスペックに比較して高価すぎるように感じてしまう。
そのスペックであるが、銀塩時代こそ77mmという画角は
ポートレート用レンズとして適切であったのが、デジタル時代
PENTAXは近年にK-1を発売するまで、ずっとAPS-C機のみであった
ので、ポートレート用にはやや長めの画角となってしまう。
また、一般撮影においても、77mmという焦点距離は、
初級中級層から見れば「標準ズーム(または望遠ズーム)に
含まれる画角だから、いらない」という考え方となる。
ちなみに、何故初級中級層と書いたか?と言えば、それらの
ユーザー層は「焦点距離が、ずらりと揃っていれば安心する」
という誤解を持っているからだ。写真撮影を平面的な画角の
変化だけの視点で捕らえていると、そういう考え方になって
しまう。
そして、逆に言えば、自分が既にズームレンズとして所有して
いる範囲に含まれる焦点距離の単焦点交換レンズを買おうとは
思わないだろう、あえてそれがあるのは、マクロレンズの
場合くらいだ。
また、中級上級層であれば、ズームレンズで焦点距離を揃える
だけでは、特定の被写体状況をカバーできない場合がある、
という事実は知っているであろう。だが、その場合、ズームに
追加して単焦点を買おうとしても、例えば「大口径レンズ」に
魅力を感じてしまう傾向がある。
したがって、その場合に77mm/f1.8は仕様的には物足りなく、
「どうせ買うならば、85mm/f1.4だよね」となり、そちらに
目が行く。でも、そうだとしても、PENTAXでは無理だ
何故ならば、PENTAXのFA★85/1.4は、本レンズFA77/1.8と
置き換わるように、2000年頃に生産中止になってしまって
いるし、現在はレア品で若干プレミアム相場気味だ。
(参考:SIGMAの旧型(Artでは無い)の85mm/f1.4 EX DGは
PENTAXマウント版がある。また、韓国SAMYANG 85/1.4も
PENTAX版があるが、これはMFレンズだ)
それに、近年のK-1を使わない限り、フルサイズ機ではない、
だったら、ニコンやキヤノンやらで、フルサイズ機を買い、
それに、純正またはサードパーティ製の85/1.4クラスの
レンズを買う方がシステム的な魅力度は大きい訳だ。
わざわざPENTAXのAPS-C機でFA77/1.8を買う理由が無い。
それと、FA型番はフルサイズ対応である。2000年代以降
デジタル時代のPENTAXは、ほとんどがDAレンズ(APS-C用)
の発売でありDFA(フルサイズ兼用)は、数えるほどしか
なかった。2016年のフルサイズ機K-1発売以降、若干のDFA
レンズ(フルサイズ)が新規発売され始めたが、数は多くない。
ちなみに、K-1発売以降、銀塩時代のFAレンズが再注目され
本レンズも中古相場が上がってしまう危険性があった為、
知人に、2015年中にFA77/1.8を購入する事を薦めた、
まあ安価に購入できた模様であったが・・
K-1発売後もFA77/1.8の相場に影響は無く、横ばいであった。
この理由は恐らく、FA77/1.8は、いまだ現行レンズであり
中古を必死に探さなくても、高価なK-1を買ってしまうような
ユーザー層は、必要ならば新品で買ってしまうからであろう。
(事実、一部の専門店では、本レンズのアウトレット新品を
良く扱っている。長期間発売されているレンズ故に、量販店
で定価で買う等以外にも、色々と流通のルートはあるのだ)
まあ、ここまでFA77/1.8に、一般ユーザー層が注目しない
理由を述べてきたが、実は私としては、注目されない方が
嬉しいのだ。その方が「マニアック」さが助長されるし、
万が一故障した際にも、注目されていなければ中古購入も
玉数的にも相場的にも再購入は比較的容易と思われるからだ。
「ナナナナを買わずして、どのレンズを買うのだ?」とは
何度も言ってきた事だが、そうは言うものの、できれば
わかっている人だけが買えば良いマニアックなレンズで
あり続けて欲しいようにも思える。
まあ、「コスパ」をうんぬん言う以前に、必携のレンズでは
あるが、あくまで上級マニア向けのレンズであると思う。
ちなみに、近年の新鋭レンズと比べると、若干「解像感」に
不満を持つ点も少し出てきている。近年のレンズは高画素時代
に対応する為、シャープネス(解像力)も相当に高いのだ。
が、それら新鋭レンズは用途が違う、とも言えるし、設計の
コンセプト上、ボケ質も最良であるという訳では無いであろう。
まあでも、本レンズと同クラスのあまり一般に注目されない
スペックでの最新レンズは存在する。そちらは若干高価だが、
FA77の「古さ」への不満点も改善されていて、なかなか良い。
(後日紹介予定)
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さて、次のシステム。
カメラは、PANASONIC LUMIX DMC-G5
レンズは、Voightrander NOKTON 42.5mm/f0.95
(新品購入価格 90,000円)
ミラーレス・マニアックス第0回、第14回、第41回、名玉編
第4回で紹介の、2010年代のMF単焦点超大口径中望遠レンズ。
本レンズも何度も本ブログに登場しているので、詳しい説明は
大幅に割愛する。ちなみに、ミラーレス名玉編では、総合で
第二位となった、かなりのランキング・レンズだ。
ただし、銘玉といっても、マニアック度やエンジョイ度の
高いレンズであって、描写力そのものはたいした事は無い。
超大口径故に、ハロの発生や解像感の甘さなど、弱点が多く
クセのある描写性能だ。
が、この超大口径f0.95の表現力はなんとも魅力だ。
ごく普通の中距離被写体をも、背景から浮き上がらせるだけの
ボケ量を得る事ができる。
最短撮影距離は、異常にまで寄れる23cmである。
近接撮影での被写界深度は紙のように薄く、MFで慎重に
ピントを合わせようにも、物理的限界に近い雰囲気だ。
DMC-G5には、ピーキング機能は搭載されていないので、
MFでのピント合わせはやりにくい印象があるが、
実際には、旧来タイプの144万ドット・カラー液晶EVFは、
そこそこピントの山はつかみやすく、DMC-G5の優秀な拡大
操作系と組み合わせて、MFは、まずまず使いやすい。
この理由から、本レンズ購入時に、専用母艦としてDMC-G5を
アサイン(新規購入)している訳である。
本レンズはAFレンズではないが、まあ、この浅い被写界深度では、
初期ミラーレス機の貧弱なコントラストAFでは、まず絶対と
言っていいほどピントが合う事は無いだろうから、その点では
MFレンズであって正解だ。
本レンズの弱点は紹介記事で毎回のように述べている通り、
描写力である。
それに加えて、絵づくりの難しさだ。
被写界深度が極めて浅い為に、複数の近接した距離のある
被写体(例:群生の花など)では、ピントがごく一部にしか
合わずに、なんだかゴチャゴチャとして、ほとんどお手上げだ。
・・かと言って、絞り込んで使ったら、本レンズのf0.95という
最大の特徴を活かせない。
すなわち、この特性に合う被写体を探す事が難しい訳だ。
ピントが合い難い事とあいまって、ミラーレス・マニアックス
シリーズで紹介した所有している数百本のレンズの中では、
最も使いこなしの困難なレンズのベスト5には間違いなく
入るであろう。
この困難さが、逆に言えば、マニアック度とエンジョイ度の
評価点につながる訳だ、つまり、そう簡単には使いこなせる
レンズではないから、面白い、という訳である。
それと、中古市場には本レンズは、あまり出回っていない。
ユーザー数も少ないだろうし、買った人は、よほどのマニアで
あろうから、そう簡単に手放すような状況では無いのだ。
まあ、実質的には新品で買うしか無いであろうが、その時に
本レンズの価格の高さが問題になる。
本レンズの発売日は2013年夏であったが、発売当時の新品
定価は、税別11万8000円もしていた。
現在、量販店ではだいぶ価格が下がってきたが、それでも
9万円前後はするであろう。
なかなかそう簡単に買える価格帯では無いと思う。
まあでも、新品8万円台とか、中古で7万円以下とか、
そのあたりで買うのであれば、このマニアックなレンズの
コスパは、さほど酷いとは言えない。
f0.95の世界を体験してみたいのであれば、また、この価格が
容認できるのであれば「買い」のレンズではあるが、
その際、使いこなしが極めて難しい事だけは、何度でも述べて
おく、あくまで上級者用のレンズである事は間違いない。
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次は今回ラストのシステム。
カメラは、NIKON D300
レンズは、NIKON AiAF DC Nikkor 105mm/f2D
(中古購入価格 70,000円)
ミラーレス・マニアックス第35回、名玉編第2回で紹介の、
1990年代のAF単焦点大口径中望遠レンズ。
ミラーレス「名玉編」で紹介したレンズは、本ハイコスパの
シリーズでは重複紹介する事は、できるだけ避ける方針で
やってきたのだが、今回の記事は「やや高価な」カテゴリーだ。
基本性能に優れるレンズが多いため、どうしても「名玉編」と
被り易くなってしまう。
本レンズの最大の特徴は、DC(デフォーカス・コントロール)
機構であるのだが、ミラーレス第35回記事や、かなり昔の
記事でも紹介しているので、今回その詳細は割愛する。
ただ、本レンズのDC機構は、原理を理解する事も、また、
その効果を確認する事も難しい機構だ。
だから、様々な誤解による通説が広まっている、
最も多い間違いは、「これは、ソフト(軟焦点)レンズだ」
という誤解である。
本レンズのDC機構は、前ボケまたは後ろボケのどちらか一方に
特化して、そのボケ質を良好に調整する為のものであり、
ソフトレンズでは無い事は言うまでも無い。
これはつまり、初級中級者では、DC機構の効果も原理も難解で
ある為、DC環を廻しすぎ、過剰補正となって、球面収差による
軟焦点化を起こしてしまう、という事である。
本レンズは、発売期間こそ長かったものの、マニアックかつ
難解なスペックであり、所有者の極めて少ないレンズだ、
だから使っていない人達の間で、誤った情報が飛び交うのは
やむを得ない節もあるが、問題なのは、所有している人さえ
本レンズの原理と効果を理解していない場合もあるという事だ。
で、本レンズの効果をよりわかりやすくする為には、実は
本来、一眼レフは使ってはならないのだ。ミラーレス機で
高精細EVFを用いてファインダー光量の低下しない絞込み
(実絞り)測光の際に、ボケ質が若干だがわかる。
今回は、一眼レフであえて使用しているのは、ここのところ
本レンズをミラーレス機でMFで使ってばかりだったので、
AF性能(速度、精度)をちょっと試してみたくなったからだ。
AFだが、さすがに遅い。大口径で重量級レンズの場合、超音波
なり、なんなりのモーター内蔵のレンズでないと厳しい訳だ。
そして、本レンズの長所は、勿論ボケ質である。
特に、ニコン純正レンズの場合、なかなかボケ質に配慮した
レンズは長らく存在していなかった。まあ、現代でこそ、
そうした設計コンセプトを狙ったニコン純正レンスは数本存在
している模様だが、それ以前では本レンズおよび、姉妹レンズ
のDC135/2あたりが、その数少ないコンセプトのニコン製
レンズであろう。
このあたりの事情だが、ニコンの銀塩MF一眼レフは、当初、
報道や学術の業務分野において評価され、その用途においては、
ともかく被写体がはっきり写っている必要があった訳だ。
だから、1960年代から1980年代の銀塩MF一眼時代においては、
ニコンの純正レンズは、被写体に対する解像力を優先に設計した
レンズ群ばかりであり、ボケ質に配慮したものはほとんど存在
していなかった訳だ。
ボケ質を要求される、アートやファッション分野等においては、
ニコンのレンズは適していなかった為、1990年代以降、ライバル
他社は、ニコンのその弱点を見抜き、そうしたボケ質の良い
特性を持つレンズのラインナップを充実していく。
こうした中、ニコンも、それ(ボケ質が固い)への対応を
迫られたのであろう、AF時代の1990年代になってすぐに、
DCシリーズが発売された訳であろう。
このあたりの話は、あくまで想像の域を超えないのではあるが、
当時の製品群の状況を見ていれば、おのずとどんな背景が
あったのかは予想がつく。
一般的なユーザーは、レンズやカメラといった製品・機材を、
1つの「点」として捉えているが、いくつもの製品群を
「線」で見なすことにより、あるいは、他社の製品群をも
含めて「面」として考えると、様々な状況が見えてくる訳だ。
本レンズDC105/2であるが、価格が高いのが弱点である、
単純な価格帯性能比、つまり、コスパはあまり高くないのだが
その他の評価項目、つまり、描写表現力、マニアック度、
エンジョイ度、必要度、などが全体的に極めて高く評価され、
ミラーレス・マニアックス名玉編では、第15位にランクイン
したレンズとなった。
用途であるが、フルサイズ機では、人物写真(ポートレート)
またはアート系撮影の用途が向くであろう。
APS-C機では約160mm相当の画角と、人物撮影には間合いが
やや遠く、使いにくくなるかもしれないが、舞台やライブ撮影、
イベント撮影等での人物撮影の場合は、このあたり画角は
かなり使いやすいものになる。口径も大きいので暗所でも
問題が無い事は言うまでもない、AFの遅さについても、舞台系
程度の動きであれば、大半のケースではカバー可能であろう。
なお、ボケ質を最大限に良くしたい場合、背景ボケ(後ろボケ)
を狙う際は、絞り環により設定した絞りと、同じ値まで、
DC環をR側(リア側)に廻す、例えば絞りf2.8で撮るならば、
DC環もR2.8だ。
このDC環を、絞り値以上に廻してはならない、廻しすぎると
球面収差が出て描写が軟焦点化する。
そして、この時、前ボケは汚くなるので、前ボケを入れては
いけない、前ボケだけあって後ろボケの配慮が不要であれば、
DC環をF側(フロント)に、絞り値と同じ数値に設定する。
これらの操作性はかなり面倒ではあるが、良いボケ質を得る
為には、まあ、やむを得ない。
「絞り開放で、後ろボケしか使わない」などと撮影条件を
固定してしまえば、DC環はR2のままで十分だ。
最後に本レンズの入手性についてだが、現代では中古の玉数は
比較的豊富だとは思われるが、相場はあいかわらず高目だ。
一般的ユーザーが注目するレンズでは無いとは思うが、
マニアであって、この価格が許容できさえすれば、必ず抑えて
おきたいレンズだと思う。
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さて、今回の記事は、このあたりまでとする。
次回は、特殊レンズを紹介する。