2014年10月5日、滋賀県大津市の琵琶湖漕艇場にて行われた
「第9回びわ湖ドラゴンボート1000m選手権大会」の模様より。
まず、会場だが、びわ湖の南端の瀬田にある著名なボート競技場
であり、国内最大規模のボート大会「朝日レガッタ」を始め、
年間20数試合が行われる、ボート競技の”メッカ”である。
そう、高校野球で言えば「甲子園」、ラグビーで言えば「花園」と
いった、歴史と権威のある会場だ。
また、ボート練習場としても最適であり、近隣には、立命館や
同志社など、滋賀や京都に校舎を持つ大学のボート部の艇庫兼
部室が多数ある。
今日もまた、多数のボート選手達が練習走行を行っている。
漕艇場には宿泊設備もあり、どこかの中学校チームも合宿に
来ている様子だ。
この恵まれた環境を利用した、ドラゴンボート大会が、
正式名称「びわ湖ドラゴンボート1000m選手権大会」である。
選手間での通称は「びわこ1000m」または、単に「1000m大会」だ。
単に1000mで通じるという事だが、国内の他のドラゴンボート大会
では、ここまでの長距離のレースはなく、たいていが200mまたは
250mの短距離(スプリント)、あるいは、500mの中距離である。
ただし、ドラゴンボート類似競技のペーロンにおいては、全体的に
長めとなっていて「びわこペーロン」が400m直線、「相生ペーロン競漕」
では予選がターン1回ありの600m、決勝が2回ターンの900mだ。
「びわこ高島ペーロン」も1回ターンの600m、また「長崎ペーロン」は、
聞くところによると、ターンありで1150mの長距離となるそうだ。
ただ、距離だけ言えば、同じこの瀬田で行われる、異種ボート混成
大会の「Head of The Seta」は、最長7kmのレースだ。
さらに、レースではなく、イベントとなると、大阪市内をドラゴン艇で
一周する「ツール・ド・水の回廊」は、11kmを漕ぐ事になる。
---
さて、琵琶湖漕艇場へのアクセスだが、公共交通機関の場合は
やや悪い。一番楽をするならば、JR瀬田駅からバスだが、
本数が少なく、到着時間の自由度が無い。
一般的な方法は、JR石山駅から徒歩だ、約2km弱で、
所要時間は、20~25分くらいと思っておけば良いであろう。
普段は私も石山駅から歩くのだが、今日はたまたま、ドラゴン選手の
車が同じタイミングで駅前を通ったので便乗させていただいた。
会場に少し早く着いたので、すでに来場している選手達の様子を
見てみるとしよう。
若い女性選手(応援団?)が4名、見慣れない顔だ、どこの
チームだろうか?
匠「こちらは、どちらのチームでしょうか?」
女子選手達が、「なんだっけ?」とか、困った様子、まあ、
チーム名というのは、往々にしてそんなものだ。
横に居た男子選手達が助け舟を出す。
S「こちらのチームは、”SH”です」
匠「ああ・・ ”IHI相生”さんでしょう?」
S[よくわかりますね!」
匠「だって、去年もこの大会に来られていたし(笑)
相生ペーロンや日本選手権でもよく見かけるし。
今日は相生からですか? 朝こちらへ?」
S[そうです、皆で車で来ました」
匠「せっかく遠くから来られたので、今日は賞品の近江米を
貰って帰ってくださいね、去年と同じなら、優勝だったら
確か60kgも貰える筈ですよ」
S「そうそう、去年は、コンマ何秒かの差で入賞を逃したんですよ、
今年こそがんばります!」
まあしかし、今日の大会のコンディションはあまり良くない。
大型の台風18号が本州を直撃するコースに乗っている。
実は、この日、近畿圏では4つのドラゴンボート大会の開催が
予定されていた、ここ滋賀県の本大会と、大阪の関空(KIX)大会、
そして愛知の中川運河、香川の坂出大会である。
このうち、海に面した関空は、昨日4日に早々に大会中止と連絡が
入った。まあ、以前も、関空大会で波が高く、沈没艇が続出した事が
あったので、中止はやむを得ないであろう、しかし、これで関空大会は
2年連続の荒天中止となってしまった。
ドラゴンボート大会は多少の雨でも実施される。大雨などの場合、
大会中断はたまにあるが、完全に中止になったケースはかなり少ない、
私がドラゴンボート大会を観戦している10数年間にしても、
目前で中止となったメジャー大会は、2年前の「ドラゴンキッズ大会」
(強風の為沈没艇が出た)昨年の関空大会、があったくらいだが・・
特に、ここ数年間、異常気象とも言えるほどの、ゲリラ豪雨、巨大台風
洪水や土砂災害、雷、竜巻などが続いており、天候の変化には十分な
注意が必要な状況だ。
「せっかく準備を進めてきたのだから」と大会を無理やり決行して
事故を起こしたら大変だ。大会を中止する決断は重たいものがあるが、
慎重な判断が必要な時勢になっていると思う。
まあ、そんな時代だから、今年はいくつかのドラゴンボート大会が
荒天で中止になっている、選手達からの情報によると本日実施予定
であった愛知の中川運河大会も中止になった模様だ。
ここ琵琶湖で怖いのは、ゲリラ豪雨と雷、強風、あるいは水流だ。
強風については、湖の琵琶湖であっても強い風が吹くと高波が出て
ドラゴン艇に浸水してしまう、琵琶湖の旧型艇は重量級で安定性が
高く、多少の横波などは、ものともしないのだが、さすがに艇の中に
数十cmも溜まるほど浸水してしまったら沈没は免れない。
水流だが、琵琶湖に入る河川の出口は、瀬田川1本に集中するため、
琵琶湖の増水→南郷洗堰の全開→天ヶ瀬ダムの全開、という図式に
なると、瀬田漕艇場付近でも、水流が推定秒速1m程度になる事が
あった(どうやって速度を推定するかは後ほど)これだけの水流が
あると、ドラゴンボートのブレーキが効かない、またゴール後に
ターンして乗艇場に戻れなくなってしまう、下手をすると冒頭の
写真にある「瀬田川大橋」の方まで流されてしまいそうになった
事もあるので、結構危険な状況だ。
----
さて、台風が近づいてはいるが、天気は、雨が断続的に降って
いる状況、撮影に際しては合羽を着て、たまに雨が強くなるとき
には傘もさす状態。
開会式では、さきほど紹介した相生から参戦の「チームSH」が
選手宣誓。
ちなみに、SHとは「スーパーヒーター」という意味だそうだ。
IHI社は、大きいものでは、鉄橋とか海洋構造物、あるいは
ロケットから、コンシュマー用の住宅設備まで幅広い製品を
手がける会社だ、また船舶(造船)の関連で、長崎のIHIが
中国からのペーロン競技を国内に定着させ、それが相生のIHIに
伝播して相生でもペーロン大会が行われるようになり、さらに
東京のIHI(瑞穂工場)にも伝わって行った模様であり、
国内にペーロンやドラゴンボートを定着した立役者の企業だ。
ドラゴンボート大会においても、毎年日本選手権(天神)大会に
IHI相生(兵庫)、IHI瑞龍丸(東京)の2チームを
エントリーしている。(また、今年は、静岡のツナカップ大会に
IHI瑞龍丸と、もう1チームをエントリーすると聞いていた
のだが、残念ながら2週つづけての台風直撃で、ツナカップ大会も
中止になってしまった)
「チームSH」の選手は、いきなり言われたからか?、宣誓で
何を言ったら良いのかを、忘れてしまった模様(汗)
開会式が終わると、大会スタッフの方達が自転車に、なにやら
部材をいくつか乗せて運んでいく模様、参加チームの選手達が
選「あれ? 自転車で何処へ行くのだろう?」
と訝(いぶ)しがっていたので、
匠「あれは、スタート地点に行くんですよ、なにせ1000mですからね、
遠いですよ~ 私もスタート地点で撮影する事がありますが、
行って写真撮って帰ってくるのに、30分以上かかります(汗)」
さて「チームSH」は1レース目のスタートだ、
相生の、大型で舷側が高く、重いペーロン艇を漕ぐのに適している
からか、パドルを立てて、水面に突っ込むような独特の漕ぎ方だ。
1回戦で「SH」と対戦した「Rスポーツマンクラブ」の鼓手の
女性が、レースから帰ってくるなり、
R「匠さん、SHって、何処のチームなんですか?」
匠「ああ、IHI相生ですよ」
R「どうりで・・ 漕ぎがペーロンでした!」
まあ、選手達の目から見ると、さらに違いがはっきりと見えるので
あろう。
とは言え、「SH」は、いきなりかなりの好タイムをたたき出した
模様だ。
ストップウォッチを持ちながら観戦している訳ではないので、
タイムは、まずは、あくまでも観戦したときの感覚による。
たとえば、1000mであれば、最後までバテずにパドルが揃って
いれば、まずまずの好タイムであろうとか、対戦相手のチームとの
差とか・ 本部からの正式なタイム発表がある前には、そんな風に
考えているのだ。
現在「チームSH」には若手メンバーが乗船しているようで、
応援している男子選手(恐らくは、午後から行われる予定の
グランドシニア大会に参戦するIHIのベテラン選手であろう)と
話をしながら観戦していたのだが・・
I「うんうん、なかなか良かったのではないでしょうか?」
匠「みたいですね、たぶん4分50秒は切っているでしょう、
あるいは4分40秒くらいかなあ・・」
I「5分切ってますか? それくらい出ていたら良いですね、
お、チームが帰ってきた様子です」
まあ、ドラゴンボートの200m大会での優勝タイムは50秒台の前半
250mでは1分程度となる、けれども、1000mは長距離なので、
200mを1分として、1000mならば5分、というのが標準的なタイムと
なる。これを切るのが強豪チームであり、超強豪の場合は、通常の
コンディション6でも4分30秒を切ることもある。
大会本部からタイムの発表がある
本「ただいまのレース結果、1レーン、チームSH,4分30秒、
2レーン、Rスポーツマンクラブ、4分50秒」
匠「ほう・・ 4分30秒だそうです、これは、ちょっと良すぎる
のではないでしょうか? 雰囲気的には、4分50秒位の漕ぎ
なので、20秒くらい短いですね、すると、水流や風の影響が
かなりありそうですねえ」
I「そうですね、風がだいぶ強いのかなあ・・」
確かに、対岸の工場の煙突を見ると、煙がほぼ真横に流れている、
吹流しだったら真横は風速10m弱だが、煙突の煙の場合は、
真横では風速5m弱程度だ。
ちなみに、風速10mとなると波頭が立つので、ドラゴンボート
では浸水の可能性があり、危険な領域となる。
よって、吹流しあるいは風力計で測って風速10mになったり、
白波が立ったりした場合は、ドラゴン大会は中断あるいは中止に
するという内規がある。
さて、「チームSH」いきなりの好タイムだが、いつもこの大会に
出ている常連強豪チームの漕ぎを見てみないと、本日のレース
コンディションはわからない。
そして、次は、滋賀県を代表する強豪「池の里Lakers!」だ。
勿論、優勝候補なのだが、よくよく考えてみると、「池の里」の
優勝は、3年前の「びわこペーロン」の他は、キッズ大会の連覇
のみだ、大人の大会の「びわこペーロン」は、その後ずっと準優勝。
またこんな事を書くと「池の里」に怒られそうだが(汗)、実際の
ところ「万年準優勝」という状況になってきている。
まあ、それでも、7~8年前には「万年4位」という状況が続いて
いたので、その頃から比べれば、ずいぶんと強豪チームに成長した
のであるが・・
「池の里」が戻ってきたら、そのタイムを今日のコンディションの
基準としてみようか・・
その間は、また他のチームの状況を調べておこう。
こちらは、地元滋賀県の「龍人(どらんちゅ)」チーム。
琵琶湖以外の大会に参加する事は稀であるが、びわこペーロン優勝の他、
入賞は数え切れず、まあ「池の里」「琵琶ドラ」「小寺製作所」に
並ぶ滋賀県の強豪チームである。
ただ「龍人」は、メンバーが不定の要素があって、ベストメンバーが
集まればかなり速いのだが、状況によってはタイムが伸びない事もある。
今日の様子はどうなのだろうか?
メンバーの方に話を聞くと、
龍「今日は、ちょっと無理やり(メンバー)を揃えたので
厳しいかも・・」
とのことであった、それに加え、写真左の主力選手の1人は、
龍「実は体調悪くてね・・ 昨日、38度4分の熱が出て、
仕事を午前中で切り上げ、後、ずっと寝てたんですよ」
匠「それはキツイですね、おまけに今日は1000mと長丁場、
漕ぎたいでしょうが、あまり無理せず、交代するなどして
休んでくださいね」
「龍人」が待機中、他のチームのレースを見ている
龍「おお、なかなか速いなあ・・」という感じであろう。
---
そうこうしているうちに、「池の里」がレースを終えた様子だ、
「池の里」のタイムは、4分32秒。
匠「ふうむ、なるほど、やはり20秒ほど速い様子だなあ・・
風が約5mのフォローで、水流が40cm/秒くらいかな?」
たとえば、以下のような計算が成り立つ。
①1000mのタイムが標準的な5分の場合、ドラゴンの秒速は?
1000m÷300秒(5分)=3.3m/s
②今日のような普段より20~30秒早い、4分30秒の場合の秒速は?
1000m÷270秒= 3.7m/s
③過去最も速かった、3分50秒のタイムでのドラゴンの秒速は?
(台風の翌日で、ダム全開の水流の時)
1000m÷230秒=4.3m/s
これを見ると、標準的なタイムの出るコンディション①と、
最速の水流の時③を比べると、ドラゴンボートの速さは、秒速で
約1m異なっている、なので、前述のように「水流が1mあった」と
推定ができたわけだ。
ちなみに、風の影響は、ヨットではなくドラゴンなので、微少と
言えば微少だ、その代わり、水流に対しては、追い潮であれば
モロにタイムに影響する、今日のタイムであれば、やはり計算上
秒速30~40cmの水流があるのであろう。
さて、本日参加の、もう1つの強豪チーム「小寺製作所」であるが、
今年の小寺は、各大会で「優勝」「準優勝」が多数あり、
今年最も”ブレイク”しているチームであると言える。
しかし、今、波に乗っている「小寺」にも弱点がある、
それは”長距離に弱い”事だ、具体的には、本1000m大会だ、
他の短距離大会では、昔から比較的良い成績を残しているのに
小「この1000mだけは手も足も出ないんだよねえ」
とのことだ。
1000m大会も、今年で9回目、実際には10年前に
「プレ大会」と言うのがあったと記憶しているので、もう10回目だ、
「小寺製作所」は、おそらく数回目から後はずっと参戦している
と思うが、殆ど入賞経験が無いという事なのであろう。
案の定、「小寺製作所」の1回戦タイムは伸び悩み4分53秒だ、
ちなみに、もう1つの強豪「龍人」も、4分56秒。
やはり「無理に集めた」+「病み上がり」の悪条件では、
なかなか良いタイムがでにくいのであろう。
さて、そうなると4分30秒の「チームSH」、そして4分32秒の
「池の里Lakers!」、このあたりが優勝候補となってきている。
1000mは長距離戦なので、トーナメント形式のように、
あまり何度も漕ぐと体力的な負担が大きいので、2回戦制度に
なっている、つまり、1本目、2本目のタイムを合計して、
それで順位を決めるのだ。
例年の優勝タイムは、フラットなコンディションかつ超強豪チーム
(「bp」や「関ドラ」など)で9分くらいであり、つまり
4分30秒x2という感じだ。
今日のコンディションでは、恐らくそうした超強豪チームの出した
ベストタイムと同等の優勝タイムであろう、いや、多分9分を
切っての優勝、まあ、そんな予想が立つ。
雨はあいかわらず降ったり止んだり、気温は最高22℃くらいと
やや肌寒いが、「SH」(IHI相生)が勝っても「池の里」が
勝っても、本大会初優勝だ、熱い戦いを制するのはどちらか?
激戦の2回戦も模様は、後編に続く・・