今年のドラゴンボート日本選手権大会の時、滋賀県の強豪チーム
「池の里Lakers!」のT監督と話をしていた。
T「匠さん、”高島ペーロン”というのがあるのですよ」
匠「はあ・・名前は聞た事がありますが、どんな大会なのですか?」
(心の声:琵琶湖の小規模な地方大会と聞いてるけどなあ・・)
T「それがですね・・ とても不安定なFRP製のペーロン艇で
転覆、沈没、衝突は当たり前・・」
匠「ほう、ターンはありますか?」
(心の声:げっ、そんなにアブナイ大会だったのか?)
T「あります、そのターンの時に、舵が折れたり、漕ぎ手が
転落したり・・」
匠「おっと! それは面白そうですね! 観戦しに行きます!」
(心の声:なんだか凄そうだ、怖いもの見たさに行ってみよう)
ということで、2014年7月27日、滋賀県高島市のペーロン大会の
観戦に電車で向かう。
大会会場は、JR湖西線の近江今津駅から徒歩10分程度だと
聞く、近江今津駅までは、京都駅で湖西線に乗り換えて新快速で
50分程だ(敦賀行きの湖西線新快速ならば、神戸、大阪方面
からも乗り換えなしの直通で行きやすい)ただ、開会時刻が比較的
早く、1レース目に「池の里」出場の為、早朝の出発となった。
近江今津駅は、以前「熊川宿」という所に観光に行った際、
降りた事があるが、まあ、通過しただけなので、あまり駅周辺の
様子は記憶にない。湖側に向かって2分程歩くと、観光船乗り場が
見えてきた。
この観光船は、竹生島(ちくぶじま)の方に運航しているようだ、
小説・映画の「偉大なる、しゅららぼん」の舞台ともなった島で
西国三十三箇所巡礼地である他、近年「 かわらけ投げ」などで
観光地あるいはパワースポットとしても人気が出てきている。
観光船にかぎらず、後編でも少し紹介するが、このあたりは、関西の
「夏休みレジャースポット」として人気の地域となっている。
天候はあいにくの雨模様、ただ、この雨は長くは降らないとの予報だ、
念のため、雨具の他、カメラは壊れても良い古いもの(10年前の
α-7 Digital:最新のα7とは全く異なる)を持ってきている。
滋賀県高島市は、観光誘致、つまり町おこしに積極的な政策を
行っていると聞いている、ペーロン大会もそうした観光誘致の
目的があるのだろうが、大会の開催回数23回というのは、
思いの他歴史のある大会だ。
観光船乗り場を右に折れ、数分歩くと、ペーロン大会の会場が
見えてきた、レース距離は600m、ターン有りなので、
300mの往復と、「相生ペーロン競漕」と同じ全長だ。
ペーロン艇は、相生の艇よりもだいぶ小さい。全長10m強と、
22人乗りのレギュラードラゴン艇と比べても、やや小ぶりの
サイズだ。
相生のペーロン艇は、長崎(ペーロン)の職人さんが手作り
で作ったものということだが、こちらはFRP(繊維強化型
プラスチック)製で、鋳型による大量生産タイプであろう。
会場の海(湖)はとても綺麗だ、「池の里」のT監督も、
T「色々な大会に行ったけど、高島が一番水が綺麗だ」
と言っていたのを思い出す。
まだ朝なので、湖に入っている子供は居ないが、昼過ぎて雨もやみ
暑くなる頃になると、このあたりは海水浴場(琵琶湖だから
湖水浴場と言うのだろうか?)のような様相になっていた。
まあ、いつも思うのだが、滋賀県は、こうした子供達の行動に
非常におおらかだ、水に親しむことが当たり前で、大人たちも
あまり心配はしない、これが大阪とかだったら、ボートの大会を
やっているから危ないとか、目を離すと深みにハマるかも
しれないとか、なにかと過保護になりがちな状況なのだが・・
水辺には、トンボが止まり、涼しげだ、どうも、大阪や京都に
比べてだいぶ気温も低い模様。そう、湖西線に乗ってこのあたり
に来るのは、関西人にとっては「夏休み」という連想がある。
なにせ、湖西線の一部の新快速電車は「湖西レジャー号」と
呼ばれているので、ますます、そんなイメージがつきやすい。
さて、開会式の選手宣誓が始まった、緊張して話す内容を
忘れてしまったらしく、カンペを読んでの宣誓が微笑ましい。
参加チーム数は、34と、まずまずの中規模大会だ、
ドラゴン専業チームから、あまり情報が入ってこなかったので、
もっと小さい大会だと勝手に思い込んでいたのだが、
地元チームの参加が殆どであるものの、結構盛況である。
こちらの方は、ペーロン大会実行委員会のFさん、さすがに
歴史が長い大会を運営しているだけあって、ペーロンにも詳しく、
大会運営も色々と細かい点まで工夫されているようだ。
その工夫の1つが、カテゴリー分けだ。
高島ペーロンは2つのカテゴリーがあり、それぞれ
「チャンピオンシップ」「フレンドシップ」と呼ばれている。
これは呼び名からして勿論、チームの実力差によるカテゴリー
分けである。ドラゴンにおいても、数年前までは、実力別の
カテゴリー分けは殆ど行われていなかったのだが、近年、
ビギナーチームと強豪(ドラゴン専業)チームとの実力差が
非常に大きくなってきたため、各地の大会でこうした実力別
カテゴリー分け方式を採用しはじめている。
ここ高島では、さらにそれに加えて、参加料や賞品体系も
カテゴリー毎に異なる。具体的に言えば・・
チャンピオン=参加費2万円、で入賞は賞金(現金)あり、
フレドンシップ=参加費1万5千円、優勝のみ賞品あり、
となっている。
また、フレンドシップには、ベストドレッサー賞や、
ベストパフォーマンス賞などの副賞がいくつかあり、実力に
関係無く、ビギナーチームでも十分楽しめる仕組みとなっている。
チャンピオンの方は、参加費が他の大会に比べても安価であり
おまけに優勝は賞金5万円、2位3万円、3位2万円であるから
チームが入賞さえすれば元がとれてしまう。強豪チームならば、
ローリスク・ハイリターンという、太っ腹な大会だ。
現在のところ、チャンピオンの部に参加しているドラゴン専業
チームは、「池の里Lakers!」と「小寺製作所」のみ、
他、地元参加で、昨年の「スモールドラゴン大会」にも出場した
「松陽台」が強豪であるが、他地区のドラゴン専業チームが
参加すれば、入賞のチャンスがおおいにある。
高島市の運営側は「他地区のドラゴン専業チームの参加は大歓迎」
とのことである、まあ、町おこしだから、それはそうだろう。
もし、全国から強豪チームが集まり、地元のチームが勝てなくなると
若干問題かも知れないが、仮にそういう状況になったとしても、
たとえば「相生ペーロン」のように「1部、2部」制度にしても良いし、
「宇治ドラゴン」や「堺泉北ドラゴン」のように「市内の部、市外の部」
に分けても良いと思うので、そうした大会運営の柔軟性があれば、
特に問題にはならないと思われる。
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さて、注目のレースの模様だが・・
匠「あちゃ~ 早速やらかしましたか、モロに衝突しているよ(汗)」
まあ、”フレンドシップ”のカテゴリーなので、再レースとか、
ペナルティとか、あまり厳密な事は言われず、そのままレーズ続行、
かなり、おおらかなものだ。
この大会は、あまりに衝突、転覆、スピン、転落などが多い為、
最初はちょっとびっくりしたのだが、1日も大会を見ていると、
もう慣れっこになって、まったく驚かなくなる。
衝突というのはドラゴン大会ではあまり見ない。艇が真横になるほどの
状況にはあまりならないので、せいぜいが舷側が接触する程度なのだ。
だが、このペーロン艇は、舵やバランスが極めて難しい様子で、
ビギナーチームはもとより、ドラゴン専業チームであっても、
蛇行や迷走、スピンは当たり前、すぐに艇が真横や真後ろに向いて
しまい、また、そんな時に限ってフラフラと、吸い込まれるように
隣の艇に突っ込んで行く(汗)
しかし、たとえ衝突しても、すぐさま向きを変えてレースに復帰、
ただし、ターンがあるので、下手をすればまたそこでスピンだ(汗)
どうやら舵が効き始めるタイミングが予測よりも遅いらしく、
なかなか艇の向きが曲がらないと言って、力任せに舵を切ると、
その後とたんに舵が効きすぎて、スピンや蛇行になってしまうらしい、
おまけに、舵を切るのに、水の抵抗が非常に大きいらしく、
最悪は舵が折れてしまったり、そうなる前に、たいていは舵の人が
艇から放り出されて、湖に転落する模様だ(汗)
で、選手が転落しても、すぐさま艇に戻ってレースを続行できる。
ただし、もし、そのままメンバーが足りないままでレースを続けると
失格になってしまうルールの模様だが。
こちらは市内のチームだが、写真の方は、レースで転落した漕手だ、
ちょっと話を聞いてみよう。
匠「さきほど落ちた様子ですが、大丈夫でしたか?」
選「ああ、全然・・ すぐ艇に戻りましたし」
匠「どうやって戻ったのですか?」
選「両手で、艇のへりを持って、ぐって、懸垂して・・」
匠「なるほど、しかし、それで艇が傾いて転覆とかもあるのですか?」
選「あるでしょうね、まあ、この大会では、何が起こっても
おかしくないし(笑)」
ほんと、面白い大会である。
選手達はこうした軽いアクシデントが起こっても、まったく気にする
こともなく非常におおらかな所も良い。厳粛なドラゴン大会で、もし
こんな状況だったら問題になるように思えるし・・(汗)
匠「ああ、また出たよ、今度は転覆、これは自力で復帰は無理そう
だな、さて、どうするのだろう?」
匠「ああ、なるほど、救助艇が寄ってたかって助けるのね」
転覆した艇は、後でモーターボードで引いて回収する模様、
ところで「ドラ」はどうなるのだろう?
そう、言うのを忘れていたが、この「高島ペーロン」のメンバー
構成だが、監督、舵取り、ドラ、指揮者、漕ぎ手x15名の
計19名だ。(ドラゴンや他地区ペーロンのような太鼓はない)
また、漕ぎ手は15名未満でも良い(勿論不利になるが・・)
舵取りは、この状況なので、かなりのスキルが必要とされる。
ドラゴン大会のように”派遣舵”という制度(ベテランの舵取り
選手が、舵のいないビギナーチームに派遣される)は無いので、
ますます迷走などが増えるわけだ。
あと、注意する事は「監督はボートに乗れない」という点だ。
これは何故か?というと、これだけ転覆などが多い大会なので、
アクシデントのあったチームが岸に戻ってきたとき、
「選手が全員揃っているか否か?」を確認するのが監督の役目なのだ!
これは冗談でもなんでもなく、あくまで真面目な話だ。
たとえば、岸の近くでボートが転覆した際など、いちいち
救助艇に乗って戻るのも面倒なので、以下のような状態になる。
これはやはり、岸で監督が人数確認しないといけないよね(笑)
こちらは、高島市役所チームの、女性監督。
市役所の職員さんだと言う。
普通、ボートの方は漕ぎ手の男手を割きたく無い状況なので、
監督は女性の方が非常に多い、まあ、メンバーの顔を全員
知っていないとならないので、まったく無関係な人を監督に
するわけにはいかないのだが・・
また衝突発生、しかし慣れというのは恐ろしいもので、
もはや全く驚かない。こんなにモロにぶつかっているのに
チームもすぐにレースに復帰、というのも「タイムアウト失格」
のルールがあるからだ。
その失格リミットタイムは「6分間」
これは、実は意外に短い、ビギナーチームが、ぶつかったり
スピンしたり、落ちた選手を回収したり、そんな事をしている
うちに、すぐ6分たってしまう、6分たっても戻ってこれなかったら
哀れ救助ボートに引かれて戻ってくるか、まあ、失格してもなお
恥ずかしながら自力で漕いで戻って来るか、の選択だ。
できれば失格は避けたいところ、だが、無常にも「フレンドシップ」
では失格チーム続出の状況だ。
こちらは「チャンピオンシップ」の部の出走準備に向かう、
滋賀県を代表する強豪ドラゴンチーム「池の里Lakers!」だ、
前週の日本選手権大会では、連続の決勝出場が途切れてしまったので
今日は「憂さ晴らし」がしたいところであろう。
メンバーが若干足りないようだが、まあ、「池の里」の実力で
あれば、優勝争いに絡んでくることは間違いない。
発艇前に、「池の里」の選手と予想タイムの話をしていた。
匠「ここ高島は、相生と同じ600mの距離ですよね?
すると、3分30秒くらいが優勝ラインですか?」
池「そうですね、まあ、それくらい出せれば良いのですが、
もう少し遅いかも知れませんね」
匠「ちなみに、相生ペーロンでは”磯風”が、2分50秒台、
女子の”ドルフィン”でも、3分20秒前後でしたよ」
池「う~ん・・(絶句)」
さすがの強豪「池の里」でも、国内最強チームの超絶的なタイム
には脱帽というところか・・
なお、過去の本大会の記録は、コース条件によるが、3分30秒を
ちょっと切ったくらいがベストタイムだったそうだ。
(相生地区のペーロン強豪「南風」(なんぷう)も、かなり以前の
本大会にエントリーされたと聞いているが、「南風」がそのコース
レコードを出したかどうか?は、知らされていない)
その「池の里」の予選タイムは、3分44秒、これで予選トップだ、
続くは、地元強豪「松陽台」が3分48秒、そしてドラゴン専業の
「小寺製作所」が3分52秒、ただし、今日は順位戦なので、
タイムよりも、むしろ、どんな相手と当たるのか?が問題だ。
仮にこの強豪3チームが準決勝で当たってしまうと(準決勝は
2位迄抜けなので)どこかが敗退する事になるのだが、まあ幸い
そういう風になる組み合わせではなく、「池の里」「松陽台」が
早々に準決勝進出決定、「小寺」は、敗者復活に廻ることになったが、
「小寺」の実力であれば、こちらも準決勝に勝ちあがってくることは
堅いであろう。
各強豪チームは別々の準決勝レースなので、決勝でこれら3チームが
顔をあわせる状況が十分予想される。で、ともかく決勝まで上がれば
あとは、出たとこ勝負となる。
「小寺」は、予選では蛇行を繰り返し、数秒のタイムロスがあった、
敗者復活では、手堅くマイペースで舵に負担がかからないようにし
3分54秒と、ややタイムを落としたが、それでも1位抜けで無事
準決勝進出。「小寺」は今回なかなかクレバーな戦略を取っている
様子で、後は準決勝も適宜流して、ついでに舵の練習もしつつ、
決勝でイチかバチかの勝負に出る模様。
ただ、常時「荒れ模様」のこの大会であるから、このような「綺麗な」
予想は、あまりあてにならない。 たとえば、トップでターンを
折り返したところに、そこに蛇行した他のチームが居たら・・(汗)
そんな風に、何が起こるか、まったく予想できない大会なのだ。
「ワイルド」な大会にハマってしまい、この後の展開が非常に楽しみだ。
(後編に続く)