琵琶湖では、他に無いユニークなドラゴンボート大会が
毎年開催されている。 例えば・・・
①小学生の出場選手を中心とした「ドラゴンキッズ大会」
(毎年8月第一日曜日開催)
②10人漕ぎの小型艇による「スモールドラゴン大会」
(本年度9月初開催)
③国内最長距離で戦う「1000m大会」
(例年9月に開催)
これらに加えて、今回紹介するのは、
④50歳以上の選手を主体とした「グランドシニア大会」だ
今年で3回目の開催になるものの、昨年の大会は、
強風による高波で(注:琵琶湖でも風が強ければ波は発生する)
沈没のリスクがあり、中止になってしまった。
なので、今年の大会が事実上は2度目となる。
ルールであるが、まず漕ぎ手の数は10人。スモール艇を使えば
良いのであるが、他の大会と併設される(今回は1000m大会に
併設)事があるため、20人漕ぎのレギュラー艇を使用する。
通常の半分の数である漕ぎ手の配置は自由なので、
チームによって、1つ飛びタイプ、前後分散タイプ、
中央集中タイプ、雁行(ジグザグ)タイプ、と、おおむね4種類の
漕ぎ手の配置があって、まだセオリーは確立されていない。
ちなみに上写真では、「チーム風」による”雁行タイプ配置”だ。
レース距離は、200mの短距離だ。2~3艘建てで行われ、
現状の大会では1本勝負。今後、参加チーム数が増えた場合は
2回戦制またはトーナメント制となることが考えられる。
本大会の最大の特徴は、「年齢によるハンデキャップ戦」だ。
10人の漕ぎ手の平均年齢を50歳を基準とし、
平均年齢が10歳上回る場合は、5秒のマイナスハンデとなる。
すなわち、60歳平均の場合、1分ジャストのタイムであっても
55秒ということとなる。
(すなわち平均年齢1歳差につき0.5秒のハンデということだ)
逆に、平均年齢が例えば5歳下回る(若い)場合は、2.5秒の
プラスハンデとなる。 仮に200mを秒で58秒でゴールしたとしても
1分強の結果となってしまい、上記60歳チームには負けてしまう。
このルールだと、高齢者のチームであっても、若い体力のあるチーム
に十分に勝つチャンスが生まれるということになる。
参加チームと、そのハンデキャップをまとめてみよう。
「瀬田橋本体育振興会」 マイナス5.20秒
「Rスポーツマンクラブ」 マイナス4.40秒
「フォーティーズ」 マイナス0.15秒
「小寺製作所」 マイナス0.10秒
「TEAM 風」 プラス 1.00秒
「池の里LAKERS!」 プラス 1.90秒
「TEAM BANANA」 プラス 5.05秒
「もっこり龍人」 プラス 5.15秒
「bp」 プラス 10.10秒
なんだか各チームの選手の年齢がわかってしまいそうで
怖いデータだが、勿論、各チームとも、できるだけ高齢の
選手を選抜して出場させている。
プラス10秒という強烈な逆ハンデの「bp」だが、元々、本大会に
出場する様子はなかったようなのだが・・・”皆勤賞”の「bp」であるし、
ちょうど併設する「1000m大会」で優勝したところで「是非ご参加を」
という申し出に快諾、急遽出場が決まった次第である。
優勝候補は、大きなマイナスハンデを持つ「瀬田橋本」と、「R」である。
「瀬田橋本」は、ボート関連のOB選手のチームであるが、一昨年の
この大会では3位入賞に実績を持つ。
そして「R]は、現役の強豪チームであり、74歳という高齢の選手も
普段の大会で現役で参戦している。「R」には、2名の高齢選手が
所属していて普段は太鼓や舵取りを担当しているのだが、今日は
勿論選手として参戦、これで「R」は大きなハンデを物にして、
一挙優位になった。
実は、「R]は、第一回の本大会でも優勝候補となっていて、かつ、
非常に良いタイムを残したのだが、その時は、まだハンデキャップ
タイムの算出方法が試行錯誤の段階であり、今回よりも大きな値と
なっていた、その結果、「R」は、ハンデ戦に負け入賞を逃した。
今回の大会では、その時よりもハンデの幅をやや縮めている、
これでまあ、だいたいいい感じの接戦になると思われる。
各チームの実力値にハンデを加味した予想であるが、
「R」「小寺」「フォーティーズ」「池の里」「瀬田橋本」あたりが、
有利にレースを展開する可能性がある。
ダークホースは「bp」だ、10秒のハンデは痛いが、53~55秒程度
の日本選手権クラスのタイムを出せば、1分3~5秒で、ぎりぎり
入賞の可能性もある。
ただし、艇は、20人漕ぎのレギュラー艇、しかも、今回の艇は
通称「ペーロン艇」という安定性重視の重たい艇である。
この重い艇に普段の半分の10人の漕ぎであるから、55秒が出せるか
どうか・・? まあ、そんなこんなで、優勝タイムは、ハンデ込みで
1分ジャストくらいと予想できる。
さて、レースが始まった。
手前より「TEAM 風」「もっこり龍人」「小寺製作所」
中央レーン、和歌山と滋賀の強豪チームのコラボ「もっこり龍人」が
ややリード、そのままゴールイン、小寺2位、風3位という結果だが、
問題はハンデだ。
「もっこり龍人」は、「bp」についで若い選手のチームで、平均
年齢40歳弱、よって、5秒強の大きなプラスハンデを課せられている。
このため、ハンデ込み順位は入れ替わって、「小寺」「もっこり龍人」
「風」の順番となった。
匠「ふうむ・・・ これは面白いぞ」
実際のところ、今日の大会では、純粋のシニアチームというのは
「瀬田橋本」くらいであり、後は、おなじみ現役ドラゴン専業チーム
ばかりだ。
で、皆常連チームであるから、選手たちも、あるいは私も、それぞれの
チームの実力値は頭に入っている。
どこと、どこが当たればどんな順位になるかも・・
しかし、通常のレースでは、選手たちの年齢まで気にする事はなかった。
けど、このグランドシニア戦では、これまでの実力値にハンデを加味して、
順位予想や、実際の確定順位の計算をしなければならない。
この手の計算が得意なのは、「Rスポーツマンクラブ]だ。
老練な「R]は、普段の大会においても、常に自分達のタイムやライバル
チームのタイム、それらからなる総合順位を計算してレースに臨んでいる。
今回、彼らのベテランらしい綿密な作戦は、うまくいくのであろうか・・
ちなみに、グランドシニアの大会というと、沈没や接触などの軽い事故が
起きた場合の安全性が問われるかもしれないが、ドラゴンボート大会に
関してはそのあたりは結構しっかりと配慮されている。
ライフジャケットは勿論全員着用、これは勿論シニアであろうがなかろうが
全てのドラゴンボート大会で必須の条件だ。
「オレは泳ぎが得意だから、そんなのいらないよ」とは言えない、
ライフジャケットをつけなかったりすれば、ルール違反で失格になる。
飲酒をしての漕ぎも厳禁、地方ローカル大会などで、初参加地元チーム等が
たまにビールを飲んでいる事もあるが、発見しだい直ぐに注意される、
仮にそのまま飲み続けたら・・ やはり失格(出場停止)になってしまう。
そして、万が一の沈没や接触に備えて、救命艇(モーターボート)が
どの大会でも、すべてのレースにおいて併走することになっている。
多少過保護に思えるくらいだが、近年では、イベント中に何かあったとき、
仮に参加者に非があっても、すぐ運営側に責任を押し付けるような風潮も
あるので、そのあたりはどこでも過敏なくらいになっている。
日本もまた、訴訟社会の欧米の影響を変に受けているのであろうか?
しかし、自分の身は自分で守ることも、欧米文化の基本ではあると
思うのだが、どうも、そういう事は日本文化には入ってこないらしい・・
第2レース、手前「池の里」、奥が「瀬田橋本」
実は、もう1つ手前のレーンの優勝候補「R]が、やや先行していて、
「池の里」と競っている状態なのだが、写真のこのアングルからは、
「R」は写っておらず、そうは見えない。
このあたり、写真とは「真を写すもの・・ではない」という証拠を
示すようなものだ、撮り手がどういう風に撮りたいかで、アングルや
構図を工夫すれば、真実では無いものが写る。 逆に言えば、真実を
そのまま写した写真など、現実的には殆どなくて、写真の大半は
撮り手の意図を反映したものであるということだ。
たとえば、報道における災害の映像や、戦争の映像などもそうであろう。
災害現場や戦場のごく一部だけを切り取って見れば、酷い状況になって
いるように見えるのだが、くるりと反対を向けば、そこはごく普通の
日常の世界だったりするわけだ。
事実はこちらで、「R」は、やや先行したものの自力に勝る「池の里」
に巻き返された。
結果としての、ゴール着順は「池の里」「R」「瀬田橋本」である。
しかし、強力なハンデを持つのが「瀬田橋本」と「R]だ、
ハンデ込み結果はいかに・・?
集計後、順位は変動し「R]「池の里」「瀬田橋本」となった。
「瀬田橋本」は、大きなマイナスハンデはあったものの、OB選手が
中心であったため、ベースとなるタイムがあまり出ていなかった。
対して、「R]は、現役チームであるため、ベースタイムは1分4秒の
好タイム、これは滋賀を代表する強豪「池の里」と僅かに1秒差で
あった・・ しかし、「R]もマイナス4秒のビッグハンデを持って
いる、補正後のタイムは1分ジャスト。
これで、一躍、「R]がトップタイム、優勝が見えてきた。
「R」のベテランキャプテンの「匠さん、ほら、計算通りだろう」
という声が、はるかかなたのボートの上から聞こえてくるように
思えた。
さて、「池の里」は、プラスハンデに苦しめられ、盟友の滋賀の
「小寺製作所」にもハンデ込み1秒差で負けている。
現状のハンデ込みタイムと順位だが、
暫定1位:「R] 1分00
暫定2位:「小寺」1分03
暫定3位:「池の里」1分05
となっている、
写真は、「池の里」の監督T氏。
町内会の「池の里」地区は、ここ瀬田漕艇場から近いため、単車で
来たとのことだ。
匠「お、このバイクは、ホンダ ハンターカブ CT-110ですな!」
T「その通り、よくご存知で」
匠「バイクは少々詳しいですよ。最近までロングセラーで発売されて
いましたよね」
T{これは(年式が)少々古いですけどね・・」
匠「ふむふむ、マフラーに錆びはないし、エンジンのオイル漏れも
殆ど無いし、なかなか状態は良いじゃあないですか。
ところで、このマフラー、昔から気になってたのですが、
足が当たって熱くないですか?」
T「いや、意外にそうでもないですよ」
匠「へえ・・ まあ、基本的にタフなバイクだとは思いますが、
今となっては貴重なので、できるだけ長く乗ってやってくださいね」
T[そのつもりですよ(笑)」
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さて、残りレースはあと1つ、そして参加チームは「BANANA」
「フォーティーズ」「bp」だ。
「フォーティーズ」も僅かなマイナスハンデのアドバンテージがあるが、
現状の上位タイム陣に喰いこむのはやや難しそうだ。
「BANANA」は、最近注目の急成長チームだが、残念ながらこちらも
今日は若いメンバー中心で5秒のプラスハンデ、すなわち、55秒を
出さないと暫定トップの「R」には並ばない、これはかなり難しそうだ。
問題は「bp」、こちらはもしかすると50秒台前半を出せるかも
知れない、しかし、「bp」のハンデは地獄のプラス10秒だ(汗)
R「さすがの”bp”でも50秒は無理だろう!」
計算の得意なベテラン「R」は、そう言う。
私も同意見だ、さしもの「bp」でも10人漕ぎ+重量艇では、
がんばっても55秒が良いところ、すると「R」の1位は安泰だ・・
本「アテンション GO!」
さあ、最終レース、これで全てが決まる。
匠”「bp」、先行・・ 速い!
しかし、50秒はさすがに無理だろう・・??
けど、速い・・ !?”
結果、「bp」は、かなりの好タイムでゴールした、
見た感じでは、50秒台の前半だ。
”すると・・・ 10秒足したとしれば、1分数秒、
これは、もしかすると、入賞の可能性も・・??”
さて、最終結果はいかに?
今回のハンデ戦では、勿論、見た目の順位(実タイム)が
そのまま結果になるわけではない、ハンデを増減した結果は、
沢山のチームがあると、そう簡単に頭の中では暗算できない。
結果は、表彰式で聞くとするか・・
表彰式。
プレゼンテーターは、滋賀県協会の役員のKさん、
K「それでは、順位を発表します
1位:Rスポーツマンクラブ」
匠”Rさん、やったね! 悲願の優勝だね!”
K「2位:小寺製作所」
匠”ほほう、小寺さん、今年はよく入賞しますねえ・・”
どうやら「小寺製作所」も、今年を境に、ステップアップしたように
思える。実際、これまでの「小寺製作所」は、強いとは言え、あまり
入賞の経験を持たなかった、しかし、今年は複数の大会で、よく「小寺
製作所」が表彰されるシーンを見ている、来年あたりもこの調子で
あれば、そろそろ(いや、遅いくらいだが)滋賀県以外の大会にも
進出して、入賞を狙っていきたいところであろう・・・
K「3位:bp」
ドドっ~!、会場がどよめく。
ハンデ込みの計算がややこしいとは言え、選手たちが口々に話して
いる内容は、あっという間に情報(噂)として、各チームに伝わる、
レース中「bpは、50秒出さないと入賞しないよ」と、
各チームに、まことしやかに噂が流れていたのだ。
「すわ、bpが10人漕ぎで50秒出した!」と夢のような記録が
出たことを選手たちは想像したのかもしれないのだが、実際には
「bpは、50秒出さないと”優勝しない”」というのが真実であった。
3位であれば、そこまでの夢のタイムではない。
匠”bpさん3位かあ、ならば、池の里の1分5秒を上回った!?
・・すると10秒引いて54秒ということか・・ さすがだなあ”
K「bpのタイムは54秒14、ハンデ込みの補正タイムは1分4秒24」
匠”ふう・・・ なるほどね。 しかし、なかなか面白かった!”
そう、本来のグランドシニア大会の意義のハンデ戦とは、多少違う様相
にはなってきたのだが、常連ドラゴンボートチームによる、ハンデ戦は
別の意味での楽しみがある。
それはまあ、基本的には実力主義のドラゴンボートの世界であるから、
強い(速い)チームは勝つ、弱肉強食は当たり前だ。
けど、ドラゴンの世界に精通してしまえば、レース前に殆どの順位が
予想できてしまう、それは、ある意味、意外性という楽しみを無くして
しまうかもしれない。
それがハンデ制になると、どこのチームが勝つか、そう簡単には予想
できなくなる、さらには、入賞常連ではない、中堅チームにも十分に
優勝や入賞の可能性が出てくる。
まあ、しかし、練習を沢山しているチームからすれば、納得がいかない
のかも知れないのだが、でも、見ている側からすれば、「番狂わせ」は
意外性の楽しさがある。
もしかすると、通常の大会においても、”ハンデ戦”は、観戦側の
楽しさを高める効果があるのかもしれない。
そんな大会が何処かに1つくらいあっても、面白いかも・・・