今年の琵琶湖ペーロン大会の撮影中に、滋賀県ドラゴンボート
協会の方より、ある密命(笑)を受けた。
滋「匠さん、ペーロン大会では、ビギナーチームの方も多く
出場するのですが、レースに出るのに、どこで何をするかが
わからない様子なんですよ、レースの流れを順番に撮れますか?」
匠「ああ、なるほど。ドラゴン専業チームならば慣れているから
簡単だけど、初めて参加だと、さすがにわかりませんよね。」
ということで、今回はレースの流れの解説記事である。
0:まず、選手達は、各チームのテントなどで待機している。
1:そこにアナウンス本部より、チームの召集アナウンスがある。
2:アナウンスはPA(スピーカーなど)を用いるので会場の
どこでも聞けることができる。
なお、通常はレース発送の2レース前、あるいは30分くらい
前にチームの召集がかかる。
3:召集されたチームは、ライフジャケットを着用し、召集テント
で待機する。
4:召集テントに集まった選手達、チーム毎に縦に並んでおく。
1チームは22人ほどいるので、数十~百数十名ほどが
ここに集まる、なので個別行動はせず、スタッフの指示に
従うようにする。
5:召集スタッフによる点呼。
各チームの代表(監督やキャプテン)は、各々のチーム
のメンバー数を確認し、揃っていたら、スタッフに伝える。
6:メンバーが揃っていないチームがある場合、ハンドマイクで
再度の召集をうながしたり、あるいは無線機を使い、アナウンス
本部より会場全体にPAアナウンスしてもらうように連絡する。
7:スタッフの指示に従い、メンバーが揃っているチームから
乗艇場に向かう。ただし、この時、厳密には、揃った順からでは
なく、前々レースで使用したボートが乗艇場に帰ってきて、下船が
終了し、次のチームが乗り込める状態となっている順番なので
スタッフの指示が出るまでは、勝手に乗艇場に向かわないこと。
8:桟橋をわたって乗艇場に向かう。
この部分は、大会会場によっては、桟橋であったり、他の構造
であったりもする、また、チーム毎・ボートの番号毎に桟橋が
個別であったり、共通であったりするので、間違った番号の
ボートに乗り込まないように注意すること、チームでまとまって
行動すること、また、降りてくる前のチームとぶつかったり混雑
しないように、タイミングを見計らって乗り込むことが必要。
9:ボートに乗艇する前にパドル(櫂)を各自手にする。
このとき、マイパドル(自分専用の私物)の場合は当然それを
使う、マイパドルは大会によっては、(特殊なものを使わないよう)
事前に検定を受ける必要がある場合もある。
また、パドル置き場は、大会によっては、乗艇場よりかなり前に
おいてある場合もある、びわこペーロンでは、乗艇場がボートの
番号毎に個別に複数あるので、パドル置き場も乗艇場ごとにある。
パドルの長さは、長い大人用と短い子供用(あるいは女性用)の
2種類の長さが用意されている場合もあるので、他のパドルと
長さを比べてみる等でチェックする。
この後、慎重にボートに乗り込む。
慎重というのは、勢い良く飛び乗ったりすると、バランスを崩して
本人が水面に落ちたり、ひどい場合はボートが転覆してしまったり
するからである。また乗る順番も、どちらか一方に偏って乗ったり
すれば、これも極端な場合には転覆のリスクがある。
さらには、桟橋とボートの間に手や指を挟まれる危険性もある。
また、あわてて、モヤイ綱(ボートを桟橋に固定するロープ)を
つけたまま発進しようとする、なども要注意である。
発進する前に、太鼓手や舵取りは、全員がちゃんと揃っているか
どうか、全員がライフジャケットを着用しているかどうか、
漕ぎ手全員がパドルを持っているかどうか、などを確認する。
全員がちゃんと乗り込んだら、スタップが固定ロープを外してくれ
ボートを沖に少し押してくれるので、その時点からゆっくり漕ぎ出す。
そのままあわてて漕いだりすると、乗艇場をこすりながら発進したり
前後の乗艇場の他のボートに衝突したりするリスクもあるので、
ともかく落ち着いて、進行方向に障害が無い状態で発進する。
10:慎重に発進後、スタート地点に向かう。
スタート地点は、大会会場により様々だが、まあ、そこまでの
レースを見ていればわかると思う。
この時、当たり前であるが、レースに用いるコースを横切ったり
してはならない(レース中のボートに衝突したり妨害になる)
大会によっては、スタート地点に向かうルートが指示されていて
レース後帰ってくるボートとレースに向かうボートが影響しない
ような一方通行コースが指定されている場合もある。
また、スタート地点に向かう間は、太鼓を叩かないことが
ルールとなっている、これは、レースをしているチームの太鼓
と音が混じってペースがわからなくなるのを防ぐためである。
そのため、漕ぎは、太鼓手が声で「1、2」と指示するか、
太鼓のバチを使って、小さい音で、「カツ、カツ」と
テンポを指示してスタート地点に向かう。
(注:レースが始まれば、勿論太鼓を叩くことができる)
11:チームのメンバーが揃わないと、いつまでもボートが発進
できない。なので、どこかへ行っていて召集アナウンスを
聞き逃すのは禁物である。スタッフが走り回って状況を
チェックしたり、不在メンバーを探したりするのだが、
仮に見つからないと、メンバーが欠けたまま不利な状態で
スタートしたり、最悪では”棄権”とかにもなりかねないので
要注意だ。
12:各チームのボートがスタート地点に揃うと、合図があるまで
そこで待機だ。
レース会場によっては、スタート地点に、ボートを仮固定
するためのロープがあるので、舵取りの人などが、スタート
するまでの間ロープを持ち、ボートが流されないようにする。
また、会場によっては、水流が速いところ(川や海など)も
あるので、ボートが常に流されていく。なので、太鼓手や
キャプテンの指示に従い、ボートがスタート地点にとどまれる
ように、数人程度の選手が常に流れに逆らってパドルを軽く
こぎ続ける(バックロー)必要がある。
ある程度チームが揃うと、フライングを避けるため、前後の
スタート位置を微調整する、スタートラインにはブイがあるので
それより前に出ないように注意する。
また、本部スタート審判席より「1号艇、1m後ろへ」などの
アナウンスが行われるので指示に従う。
フライングは駄目だが、後ろに下がってスタートしても、まあ、
自分達が不利になるだけだ、基本は「前に出過ぎなければ良い」
のであるが、あまりひどい場合は本部からも「3号艇、2m前進」
などの指示が出る。
順位戦とタイム線で、スタート揃えの厳密さは分けるべきである、
順位戦であれば、前に出てさえなければ、あまり厳密に艇を
そろえる必要は無い。タイム戦で、1秒の差で勝敗が決まるような
ケースであれば(順位戦のさなかにも、そういうケースもある)
公平を期すため、ある程度のスタート位置揃えは必要であろう。
ドラゴンボートは図体が大きく、位置の微調整が難しいため、
あまり厳密に揃えようとしすぎると、時間がかかって、レースの
進行がどんどん遅れていくので、スタッフ側にもある程度の
割り切りが必要だ。びわこペーロン大会は出場チームが多いので、
そのあたりは最小限になっているが、スムーズでいい感じだった。
艇が揃うと、スタート審判席より「スタート1分前」の
アナウンスが流れ、ドラ(楽器)がジャーン、ジャンと叩かれる。
なお「1分前」、というのは慣習上の用語で正確に1分待つという
意味ではない、ドラの後すぐに、すなわち10秒程度でスタートに
なる場合もあるし、ドラの後で艇がフライング位置に流され再調整
で1分より遅れる場合もある。
艇がそろったらいよいよスタートだ
ここからはすべての大会で英語での指示となっている
「Are You Ready?」(位置について)
「Attention」(よ~い)
「Go!」(ドン)
という流れだ、スタートは火薬ピストル、電子ピストル、電子ブザー
などではなくて、あくまで人声を合図とする。
なお[Are You Ready」の合図がかかるまではパドルは水面に
つけない、その後はパドルを水につけて良いが、「Attention GO!」
の間はパドルを動かしてはならない。
また、スタート審判席からスタート位置までは、大会会場によっては
広い水上ゆえ、100mないし150m程度離れている場合もある、
音の速さは毎秒330m程度なので、スタートの声が届くまで3分の
1秒あるいは2分の1秒程度遅れる、また、音源から近い艇と、
離れた艇の音の聞こえ方の差も3分の1秒程度あるかもしれない。
本来は、速度の速い「光」(ライト、サイン、旗、タイマーなど)による
スタートが公平なのだが、まあ、そのあたりは、現状はアバウトだ。
将来ドラゴンボートがオリンピックなどの公式種目となった際など
には、スタート方法は改善されることであろう。
またスタート後に、仮固定用のロープを持ったままにしては危ない
ので、そのあたりも注意する必要がある。
舵取りは、高度な技術が必要なので、メンバーから経験者を選出する
事ができない場合は、大会運営協会に申し出て「派遣舵」のスタッフを
借りることができる。
「まっすぐ進めばよいので簡単だ」などと思ってビギナーが舵を
とると、まず間違いなく蛇行して、他チームの艇などにぶつけたり、
前後がひっくり返ったり、その場でぐるぐる回るなどの状態に陥るので
舵取りの技術をなめずに、十分に舵の練習と経験を積むまでは、
「派遣舵」に頼るのが良いであろう。
13:スタートし、レースを行う各ボート。
フライングがあったかどうかは、審判艇がチェックし、問題なければ
白旗が上がる、フライングがあった場合は即座にレースを中断し、
スタートからやりなおしだ。しかし、そのあたりは大会のルールに
よって多少異なるが、たとえば
「1度でもフライングしたらそのチームは即失格」
(このルールでは、レースを中断せず続行の場合もある)
「2度目にフライングしたチームを失格とする」(このパターンが多い)
「同じチームが2回フライングしたら失格」などがある。
フライングでの失格とは、そのレースの最下位になると言う事だ。
蛇行・コースアウトしたりして遅れた場合は、そのままとする
事が多い、どうせタイムや着順が遅れるので、ペナルティの
必要はない。
ただし、蛇行して他のチームのボートに接触または進路を妨害
した場合は、ルールによりいつくかのペナルティのパターンがある、
「レース全距離の半分、あるいはスタート後100m未満での
接触や進路妨害は、再レースとする」
「上記の場合、それより先の地点での接触や進路妨害は、
レース成立とする、そのとき、接触チームは失格となる」
「接触をしたチームは基本は失格とする、あるいは再レースの
場合では、やむをえない状況と見なされれば、そのチームも
再レースに参加できる場合もある」
など、色々ある。
基本的に故意の事故でなければ、失格はそのレースでの最下位
悪意などがあった場合の失格は出場停止みたいな措置であろう。
このあたり、大会の前に詳細のルールを確認しておくのが良いであろう。
たとえばゴール直前でお互い艇をまげて接触したとか、あるいは
一方的に後ろからぶつけられて被害者になったなどの、ややこしい
ケースの場合、あくまで公平な判定となるように、大会本部・審判長
などにより審議をして判断し、結論を出す事もある。
レース中に、パドルが破損あるいは落下した場合などは、そのまま
レース続行だ、パドルがない選手は当然漕げない、1名がその状態
になると、戦力は5%ダウン、2名が漕がないと10%のダウン、
そして、漕がない選手はデッドウエイト(単なる重し)となるので、
極めて不利だ、2~3秒はタイムが落ちてしまうことになるであろう。
破損はある意味しょうがないが、破損といっても、他の選手のパドルや
ボートにぶつけたりて割れる事もあり、落下も含めてパドルの扱いには
要注意だ。なお、パドルは水に浮くので、後で審判艇等で回収可能だ。
(ちなみに、カーボンパドルは軽く強靭であるが、それでも割れるという
話をよく聞くので、購入の際はそのリスクも考慮する必要がある。)
スタート地点での審判、中間地点での審判、ゴール地点での審判が
いずれも白旗をあげれば、レースは成立だ。
14:ゴール審判席では、ストップウオッチ、あるいはビデオなどに
より、ゴールした艇の着順とタイムを判定・記録する。
この結果はすぐにアナウンスするわけではなく、本部に無線で
伝えるか、あるいは紙に書かれた結果を大会本部に持ち込む。
15:大会本部のPCに、ゴール審判より伝えられた順位とタイムを
レース毎に入力する、特に不自然な点が無いと判断すれば公式
記録となる。レース結果は、さらに①のアナウンス本部に伝えられ
会場にアナウンスされる。 これらのプロセスがあるので、
レース終了後、結果発表までは速くても3~5分程度を要する。
なお、ストップウオッチと目視による順位判定が難しい場合は、
ビデオ判定による審議となる、この場合はさらに時間を要する。
また、各レースの結果は、都度PCよりプリントアウトされるか
手書きの紙により、本部近くの掲示板などに張り出される。
この情報は、勿論途中段階では順位などは確定していないため
各レースの結果が出ているだけだ。順位により上位のレース
(準決勝や決勝)に出場できる場合は、本部からも連絡があるとは
思うが、基本的に自分たちのチームでそのあたりは確認する。
紙には、チーム毎に次のレースの出場番号が指示されているはずである
残念ながら敗退であればNR(ノーリターン)と書かれている事もある。
なお、順位点が同じでタイム順で上位レースへ進める場合などは、
張り出した紙にあると思うが、必要ならば本部で最終順位を確認する。
また、決勝戦などでは、レーン抽選が行われる場合もあるので
(会場によっては、水流により、レーン位置で若干の有利不利がある)
その場合は、上位戦進出チームの監督やキャプテンが本部に出向く。
いずれにしても本部とのやりとりをするのは監督やキャプテンのみ
にしておくこと、チーム全員の22名がゾロゾロと本部に詰め寄ったら
大混雑だ(笑)
16:レースを終えたボートは、所定のルートを通って乗艇場に速やかに
戻ること。次の次のレースで出場するチームが待機しているからだ。
この時、所定の乗艇場に戻るのが基本だが、乗艇場の混雑具合とか
ボートの使いまわしの順番、次回乗り込むチームが揃っているか否か
などで、まれに出走と異なる場所にボートを着岸する場合もある。
このような場合は、陸上スタッフや、審判艇スタッフなどから指示が
出るので、それに従い所定の乗艇場に着岸する。
17:乗艇場に着岸する際、選手は岸壁に手やパドルを挟まれないように
慎重に接近する、また、パドルによるブレーキ操作を行わないと、
岸壁に強く衝突したり、他のボートにぶつけてしまうなどの危険性
があるので、十分に注意する。
着岸したボートは、スタッフによりロープで固定される、それまでは
あわてて降りないこと。ボートから降りる際も急に全員が立ち上がる
などしたらバランスが崩れ転覆してしまうので、順番に慎重に降りる。
なお、また降りるチームが全員桟橋から戻ってくるまでは、
当然だが次のチームは乗り込まずに待機しておくこと。
さらには、スタッフと選手以外は、応援の人達などが乗艇場に
行かないこと、混雑するので邪魔だし、乗艇場からの転落などの
危険性もある。特に気になるのは、選手の応援の家族や同僚の方、
あるいは大会とは無関係の趣味のアマチュアカメラマンなどだ。
これらの人たちを見かけたらスタッフ以外でも誰であっても彼らに
注意して、速やかに乗艇場から出てもらうのが適切な処置だ。
18:下船してからは桟橋を戻って、チームテントなどに戻る。
この際、マイパドルではなく、パドルを借りている人は、
当然それを返却すること。また、次のチームがすぐ乗船するため、
あまり時間をかけないで速やかに撤収すること。
そして、ライフジャケットは、それを借りた置き場に戻すことも
忘れないようにする、強豪チームは、マイパドル、マイジャケット
という風になっているので、そのままチームテントまで戻る事が
多いが、それを見ているとついついパドルやジャケットの返却を
忘れてしまうことがあるので要注意である。
シャワーが使える会場の場合は、それを用いて湖水や海水を
洗い流しても良い。
また、大会によっては、水分(水やスポーツドリンクなど)が
給水場で選手達に向け無料で配られているので、熱中症予防の
ためにも、水分の補給はこまめに行うのが良い。
(水分のみならず、塩分の補給にも留意する。なお、大会本部や
救護本部には塩飴などの塩分も用意している場合が多い)
チームテントに戻ったら、軽くアップ運動をした後は、
水分をとりながら、日陰で次のレースの準備まで十分に休養
するのが良い、最近の関西は38℃級の猛暑になることが多い
ので、熱中症には十分すぎるほど注意する必要がある。
体調が悪い場合は、大会本部には救護室、救護班などが待機
しているので、選手観客を問わず、速やかに本部に申し出る。
基本的にドラゴン専業チームのメンバーや大会スタッフは
恐ろしく頑健で、猛暑にも慣れているのでまず問題ないのだが、
ビギナー選手や、観戦者等は、長時間の炎天下ではまず耐えられ
ないので、むしろ十分な注意が必要だ。
ドラゴン選手が平気な顔をしてレースしているからといって安心
していると、新人選手や見ている方の体力が持たない。
特に気温あるいは照り返しが体温を超えるようになると、
発汗しても効果がないため、そうした状況に、かなり慣れていて
うまくコントロールや自己管理をしていかないと体力を維持できない。
仮に体力が持ったとしてもひどい日焼けになったりする。
女性観戦者の日傘や日焼け止めも必須だが、それだけでは万全では
ないので、注意が必要だ。
アマチュアカメラマンも要注意だ、高齢者が多いという事もあるが、
若い人でも炎天下の撮影経験が乏しければ、撮影は長くても1時間
以内にとどめることを強くお勧めする。
また撮影機材は、炎天下や、湖水や海水の水分、豪雨などでは
どんな高級カメラでも持たないので、大事なカメラを故障させない
意味でも、長時間の撮影は絶対にやめておいた方が良い。
(私も、数年前より高価なカメラはドラゴン撮影では使わないように
している。また故障直前の兆候をいち早く感じ取り、場合により
しばらく機材を休ませるなどの処置をしている)
選手関係者のカメラマンでも同様だ、最近はレースのビデオ撮影や
写真撮影などをチームの補欠選手などが行う場合があるが、たとえ選手で
あっても、同様に長時間の撮影は本人や機材への負担が非常に大きい。
ドラゴンの撮影は体力や機材に無理をさせないようにする経験や技術が
ないと難しいので、私も近年は知人友人などには勧めないようにしている。
ということで、今回は「びわこペーロン」大会を例にあげての
レースの流れ、および選手達や観客が注意する手順やポイントを
まとめてみた、
通常のドラゴン大会においても、これらの流れはほぼ同じなので、
新たにチームでエントリーする前や、専業チームの新人選手達も、
あるいは観戦する人なども、この記事で、レースの流れや注意点を
頭に入れておくことをおすすめする。