昨年(2012年)、SIGMA社より2本のミラーレス一眼レフ用
単焦点交換レンズが発売された。
19mm/F2.8 と、30mm/F2.8の2本であり、
各マイクロフォーサーズ用およびソニーEマウント用が
ラインナップされている。
これらのレンズは、昨年話題を呼んだ Merrill(メリル)
シリーズの DP1Merrill および DP2Merrillのレンズ固定
型高級コンパクトに搭載されているものとほぼ同等であり
発売当初から注目していた。
価格は、当初は2万円前後と、まあ安価ではあるものの、
マイクロフォーサーズとEマウントのカメラにはマウント
アダプターが豊富に流通しており、当面の交換レンズには
困らなかったので、いつか買おうを思って放置していた。
しかし、昨年末、これらのレンズが大きく値崩れし、
アウトレット新品が8000円を切る価格で多数販売されていた。
恐らくは新製品への置き換えと思われたが、
この機に、2本のレンズを購入する事にした。
(1月末から横浜で開催されているカメラショー「CP+」で、
思った通りこれらのレンズの新型が発表された。
しかし、幸いにして外観が金属外装に変わっただけで、
光学系に変更は無い模様なので、このタイミングでの購入は
正解だったと思う)
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さて、まずは、SIGMA 19mmF2.8 EX DNだ。
ちなみに、SIGMAのレンズ名称のラストにつく略号は、
DG→デジタル対応フルサイズ用レンズ
DC→APS-Cサイズ以下デジタル専用レンズ
DN→ミラーレス用レンズ
を表している。
写真はSONY NEX-3(Eマウント機)に装着した
SIGMA 19mmF2.8 EX DN(以下19/2.8)
専用フードは付属。
(↑ちなみに、この写真は、SIGMA 30mmF2.8 EX DNによる撮影)
19/2.8の最短撮影距離は20cm、
近距離で撮影すれば広角レンズと言えども背景をボカす
ことも可能だ。
レンズの最短撮影距離だが、一般にレンズの実焦点距離の
10倍以下の長さであれば合格と言える。
つまり19mmレンズの場合、19cm以下であれば良い。
合格というのは、使いやすい、という意味であり、
仮に広角レンズでこの指針よりも長い最短撮影距離だと
被写体に寄って写したい場合に、あと一歩近寄れずに
不満が出る可能性があるという事だ。
SIGMAには、銀塩時代には「広角3兄弟」とも呼ばれる
大口径単焦点レンズがラインナップされていた。
具体的には、20mmF1.8,24mmF1.8,28mmF1.8の3本だが、
これらはいずれも焦点距離の10倍以下の最短撮影距離だ。
特に24mmF1.8は、最短撮影距離が18cmと、10倍距離を
大きく下回り、マクロレンズ並みに寄れる。
これらの前例があるので、19mmレンズで20cmの最短、
というのは若干の不満がある、もう数cmだけ寄れれば文句
無いのだが・・
もっとも、通常の広角レンズでの撮影技法のように被写体を
広く撮ったりする場合とか・・
あるいは、絞り込んでのパンフォーカス撮影、および
絞込みによる副産物としてのスローシャッター効果を
用いる場合などでは、最短撮影距離の問題は気にする
必要はない。
ただ、こうした広角=スナップ、パンフォーカス、といった
図式はオールドスタイルとも言えるので、現代的な様々な
撮影技法を用いる上では、広角レンズは寄れれば寄れる程
良いのであろう。
19mmレンズはEマウントカメラに装着した場合、(35mm)銀塩
換算焦点距離は1.5倍の約28mm相当となる。
この焦点距離は広角撮影のスタンダードなので使いやすいと
言えば使いやすいのだが、逆に言えば、GR Digitalシリーズを
はじめ、28mm換算の焦点距離のカメラ・レンズは他にもいくら
でもあり、この焦点距離のレンズを新たに購入する必要かあるか?
という点では、なかなか難しい。
おまけにSONY NEXシリーズには、定番のレンズとして16mm/F2.8
の純正レンズが存在する、これはNEX本体に付属して販売されて
いる事が多いレンズなので、所有している人も多い事であろう。
16mmレンズはNEXだと換算24mm相当となる、銀塩35mm一眼レフに
おいて単焦点の24mmレンズと28mmレンズは広角レンズとしても
全くの別ものなのだが、デジタルで16mmと19mmというと、一見、
なんだか同じような焦点距離のレンズだと思ってしまう。
なので、正直言うとEマウントに19mmというのは、買いづらい
レンズなのだが、マイクロフォーサーズ版の19mmは、今度は
換算焦点距離が2倍で、38mm相当なので、ここまでいくと
広角レンズ、とは言いにくい画角となり、19mmをどちらの
マウントで使うか?といえば、やはりEマウントを選択する
事になるのであろう・・
さらに最新情報としては、前述のカメラショー「CP+」で、
SONYより純正Eマウント用20mm/F2.8が発表となった、
これは、モロにSIGMA 19mm/F2.8とぶつかる事となる。
なお、SONY20mmも、SIGMA19mmと同じ最短撮影距離20cmだ。
レンズの描写力は特に問題の無いレベルだ、
SIGMAの高性能デジタルコンパクト、DP1シリーズは、
初代、S,Xとマイナーチェンジを繰り返し、昨年の高画素の
Merrillにいたって、レンズもそれまでの16.6mm/F4.0から
19mm/F2.8と進化した。
このDP1 Merrill搭載レンズとまったく同じでは無いものの
ほぼ同等の仕様と性能を持つ交換レンズであることが、
19/2.8レンズの魅力だ。
DP1 Merrill の価格は、発売当初9万円台で、発売から1年を
経た現在においても平均8万円程度となっている。
ところが、中古のSONY NEXに、アウトレット新品の19/2.8の
組み合わせであれば、2万円前後で、(センサーの差異は
ともかくとして)DP1 Merrill と同様のコンパクトで高性能
なシステムを非常に安価に手に入れる事が可能となる。
Merrillでは無い、過去のDP1シリーズ本体の中古価格も
2万円以上する場合が多いので、NEX+19/2.8の組み合わせは
価格面、性能面、所有感など、いずれにおいても魅力的な
セットとなりうる。
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では、次にSIGMA 30mm F2.8 EX DN (以下30/2.8)だ
(写真は、19/2.8で撮影)
こちらの30/2.8は、マイクロフォーサーズ用を選択。
Eマウントにしてもよかったのだが、マイクロフォーサーズ用の
交換レンズに単焦点30mmという物がこれまで存在しなかったので、
(注:Eマウント用にはSONY純正30mmマクロが発売されている)
こういう組み合わせになった。
マイクロフォーサーズ装着時の(35mm銀塩)換算焦点距離は
2倍の60mm相当、まあ、銀塩で言う標準レンズとして使用できる。
ここではLUMIX G1に装着しているが、軽量のLUMIX GFシリーズ
に装着してもコンパクトで楽しい。
ちなみに、GFシリーズ、特に私の所有している初代GF1は、
背面液晶モニターの解像度が低く、アダプターなどでMFの
レンズを装着した場合ピント合わせがかなりしんどい。
(G1やG/GHシリーズの内蔵EVFは十分な解像度がある)
よって、AFレンズであるこのSIGMA30/2.8は、本来的には、
EVFを持たないLUMIX GF/GXシリーズやOLYMPUS PEN
シリーズに装着する方がコンパクトで使いやすいとは思われる。
この30/2.8は、DP2 Merrill に搭載されているレンズとほぼ
同等の仕様と性能である。 DP2も、Xまでのシリーズから
Merrillに変わった際、レンズも24.2mm/F2.8 から
30mm/F2.8と若干仕様が変わっている。
DP2 Merrillの30/2.8と単体の30/2.8(EX DN)では、フィルター
径が異なる。コンパクトではDP1/2 Merrillは49mm径であるが、
単体の19/2.8および30/2.8はフィルター径46mmとなっている。
フィルター径46mmというのは、通常の一眼レフ用レンズでは
殆ど存在しない、確かCONTAX のテッサー45/2.8の限定版が
46mm径だったと思うが、通常は最小49mmであり、46mm径は
(銀塩)レンジファインダーカメラ用など、小型のレンズの場合の
小さいフィルター径であった。
なので、このレンズを買った際に、自宅にあるジャンク箱
(カメラの中古付属品等、見つけた時に買って貯めてある)
から46mm径の保護フィルターを探したのであるが、
あまり使って無いので、1枚しか発見できなかった・・
19/2.8のレンズにはフードが付属していたが、こちらの
30/2.8にはフードが無い、レンズむき出しは怖いので、
まずは、保護フィルターが必須となるだろう。
ただし、このレンズの外観は、あまり高級感があるとは
言えない作りだ。
マイクロフォーサーズにおいては、標準レンズと言える
画角となるのだが、通常、標準レンズはそれイコール
大口径レンズだ。銀塩時代の50mmレンズはF1.4~F1.8の
ものが普通であり、しかもMF標準レンズのジャンクは
現在においては1000円~2000円で購入できる。
これらの大口径標準は前玉も大きく、金属を多用していて
見た目もなかなか良いのだが、プラスチック製で、おまけに
小口径であるこちらのSIGMA 30/2.8は、見た目の高級感に
劣るという事だ。
まあしかし、小さく軽い、という事は、高級感とは相反するメリット
であるので、描写力が良いのであれば、その他の問題には目を
つぶることもできる。
前述の、発表されたばかりの新型SIGMA 30mm/F2.8 DNは
金属外装に変わっている、やはり、このレンズの販売においては、
外観の問題が多々あったのかもしれない。
最短撮影距離は30cmで、これも焦点距離10倍の法則
からすると標準的であり、特に優れている訳では無い、
また、AF動作は、さほど俊敏であるという事もなく少々不満だ。
AFは19/2.8も(合焦が容易なはずの)広角としては同様に遅く、
特に、最短撮影距離付近と無限遠をいったりきたりする実際の
撮影においては、遅さが目立つ。
ただし、MF操作は、ピントリングには適当な重さがあって
回転角もそこそこ広く、まずまずな感触だ。
ただ、MFレンズのように有限の角度で廻すのではく、
無限に廻る(ロータリーエンコーダー)方式であるので、
置きピンのスナップや、あるいは無限遠、最短撮影距離付近へ
ヘリコイドの回転の感触だけで移動する、という上級技法には、
まったく対応できない。(これは近年の多くの交換レンズの
仕様上の深刻な問題点であると思う)
AF遅い、寄れない、チャチい、という欠点からすると、
良いところが無さそうなレンズなのだが、別の見方をすれば、
小さい、軽い、安い、というメリットと考えれば問題ない。
おまけに、この30/2,8 もやはりDP2 Merrill の搭載レンズだ、
たとえばNEX-3やGF1やGF2などの中古ならば1万円前後で
購入でき、30/2.8のアウトレットとあわせても2万円前後で
高価なDP2 Merrillと同等の仕様、性能、ポータビリティ等の
満足感を味わう事ができる、これも大きな魅力となる。
絞りにより特性が変化するという事も少なく、開放でも
絞っても、いずれの場合でも安心して使える高性能レンズだ。
ところで、シグマの30mmレンズといえば、この30/2.8(DN)や
前述の広角3兄弟とは別に、デジタル専用の AF30mm/F1.4
EX DCという大口径単焦点レンズが古くから存在している。
こちらのレンズは、APS-Cサイズのデジタル一眼用であり、
換算焦点距離は、45mm前後相当となり、つまり、それまでの
(35mm)銀塩一眼レフの標準レンズど同等の画角だ。
このレンズが発売された2005年当時は、銀塩からデジタル一眼
への移行が激しい時期であり、ユーザーの感覚は、まだ銀塩
時代のそのものであった、だから、APS-Cサイズのデジタル
一眼にそれまで使用していた50mmレンズを装着すると、
75~80mm前後の中望遠レンズのような換算焦点距離(画角)に
なってしまうことにユーザーが大きな違和感を持っていた
時代でもあった。(ちなみに、現在ではユーザーが慣れた為か?
この問題は当時ほど神経質には言われていないと思う)
そのため、APS-Cデジタルにおいても従来の50mmレンズの画角を
得るために、30~35mmの画角を持つレンズをユーザーがこぞって
求めていた時代でもあった。中古の35mm単焦点レンズはすべて
売り切れて、(元々生産数がとても少ない)新品35mmレンズ
すらも入手が難しい時代でもあった。
こんな時代に発売されたのが SIGMA 30mm/F1.4 EX DCだ。
F1.4という大口径、そして銀塩50mm(標準)レンズ相当の画角、
と一見申し分無いスペックなので、当時はかなり人気があった
レンズである。
今使ってみても、まあまあ、使えるレンズだと思う。
しかし、このレンズは、その後、あまり騒がれる事は少なく
なってしまった。
その理由はいくつかあると思う。
このレンズそのものの問題点としては、まず大きく重い事、
最短撮影距離が40cmと、微妙に長く、寄れないと感じてしまう事、
あるいは、ボケ質が「最高」とは言えなかった事。
大口径の準広角で、光学ファインダーによるMFピント合わせが
やりにくく、ヘリコイドの回転角も小さく、軽すぎたこと、
そしてAFでも、大口径ゆえに厳密なピント合わせが難しい事。
さらには、心理的な面からは、35mm銀塩時代の標準レンズの
画角にこだわるユーザーがどんどん減っていった事。
これはつまり、50mmをそのままデジタルで使って、75mmに
なっても、それはそれで、その画角で使えば良いではないか、
という意味であり50mmの画角でないと使いにくい、使えない、
というような事は無くなってきた、まあ、ユーザーが慣れて来た
という事なのであろう・・
私も、以前から持っていたが、久しぶりにこの30/1.4を使ってみた、
もしかすると、新しく30/2.8を購入する必要はなかったのでは
ないか? と思ったからだ。
このレンズはニコン用で、Aiマウントだが絞りリングはない、
いわゆるSタイプだ、しかし、現代はマウントアダプターも進化
していて、マイクロフォーサーズやEマウントのニコン用アダプター
の中には、メカ的に絞りを操作できるアダプターもあるので、
ニコンのボディではなくても使用には問題無いからだ。
でも、やはり30/1.4は大型で重いレンズだ、
描写力については、少々癖があるが、特に問題は無い。
大口径(明るい)という点について必要なケース(暗所での撮影)
においては、重宝するであろうが、ミラーレス一眼に装着して、
散歩撮影で、やりにくいMFを使ってまで撮るという、気には
なかなかなりにくい・・
この記事を書いている時、やはり「CP+」で、この30/1.4が
8年ぶりにリニューアルされるという情報が入ってきた。
やはり最短撮影距離40cmは課題であったのか、最短は
30cmに向上している、また、光学系も一新された様子で、
これも恐らくは課題となっていたボケ質などの改善が
図られているのであろう。
それから、30mmクラスのレンズとしてPENTAX には 銀塩時代より、
Kマウント用のFA31mm/F1.8 Limited というレンズが存在している。
こちらはSIGMA 30/2.8はもとより30/1.4とも比べ物にならない程
高価なレンズであり、また、逆に価格に似合わずFA-LImited シリーズ
の中では比較的地味な描写なので、今回はあえてと比較してみよう
とは思わなかった。
また、近い焦点距離のマイクロフォーサーズマウントのレンズでは、
コシナ・フォクトレンダーの25mm/F0.95を所有しているが、
この超大口径レンズは、その明るさとボケ質・量においては、
他に比類するべきものは存在しないのであるが、その価格
(新品で9万円近くした、また、中古は極めて少ない)の差を
考えると、これもSIGMA 30/2.8との直接比較の対象には
ならないであろう。
(ちなみに、CP+においてはでは、コシナ・フォクトレンダーから
42.5mm/F0.95のマイクロフォーサーズ用レンズ、およびKIPON
からは40mm/F9.85! の超大口径レンズが参考出品されている。
加えて、SIGMA DNシリーズでは、3本目となる、60mm F2.8 DN
も発表されているが、これは残念ながら新製品DP3 Merrill の
50mm/F2.8 準マクロレンズとは異なる仕様のようだ)
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というわけで、SIGMA 19/2.8,30/2.8(現行バージョン)の
個人的な評価だが・・、
描写力:Aランク
良好はであるが、感動するような描写力=Sランク
とまではいかない。
仕様面:Bランク
まあ標準的である。高級感が無い、AFが遅い、寄れない、
大口径では無い、という仔細な課題はあるが、小型軽量で
コンパクトなのが魅力。MF操作は良さも悪さもあり。
コスパ:Aランク
アウトレットで8000円以下と安価、しかし、たとえば
MFのミノルタMC50/1.7の中古ジャンクなど、恐ろしく
高性能なレンズが、僅か1000円前後で購入できる時代で
あるので、それれらの超コストパーフォマンス=Sランク
と比較すると最高Sラインクとまではいかない。
ちなみに、多少描写力がよくても価格が10万円も20万円も
するレンズもいまだ多く存在するが、10年前ならともかく、
現代の価値感覚からは、これらのレンズは高すぎるように
(コストパフォーマンスが極めて悪く=Cランク)思える。
総合点:Aランク
基本的に、アウトレット価格であれば買って損は無いレベル
だと思う。ただし所有感を満足させるようなものではないので、
交換レンズの1つとして楽しむというよりは、常時ミラーレス機
に装着して、実用的に使い倒すような使用方法が良いと思う。
まあ、そうした使い方であれば、室内などの暗所にも対応して、
もう1段程明るいF2.0クラスであれば、非常にバランスの良い
レンズとなるのだが・・
なお、発表されたばかりの金属外装で高級感のある新型はまだ
実売価格がはっきりしていないのでなんとも言えないが、
仮に2万円程度であれば、現行品のアウトレット在庫が残っていると、
どちらを買うか、迷いどころかもしれない。
なにせ、一眼レフであれば外観はあまり気にしないのだが
ミラーレス機の場合は外観のおしゃれ的要素も重要なので・・