
ドイツの名門光学機器メーカー「カール・ツァイス」により
戦後創設されたブランドが「コンタックス」であった。
今でも「コンタックス」と聞くと、とても写りの良いレンズを
連想するのであるが、そのブランドの変遷には紆余曲折があった。
戦後初期のコンタックスは西独製レンジファインダーカメラでの
ブランドであり、Ⅰ~Ⅲ型(バリエーションあり)が、おおむね
1960年位まで製造されていた、およそ50年程前のカメラであるが
いまだにボディ、レンズともに中古を見かけるし、ボディはともかく
レンズは現代でも使用できるレベルの性能を持つため、中古市場に
おいても結構な高値で取引されている。
西独ツァイスがコンタックスのカメラ・レンズの製造を休止した後、
コンタックスブランドは一時休眠していたのであるが、今から38年前
の1975年に、日本の京セラおよび京セラに吸収されていたヤシカ
によって、京セラ・コンタックスの銀塩カメラとレンズが復活した。
1975年に衝撃的なデビューを飾ったとされる伝説の銘機RTSに始まり
それから約20年以上、コンタックスは日本国内における高級一眼レフ
カメラおよび高級レンズブランドとして君臨していた。
1990年代に入ると、チタン素材を多用した高級感のある高級コンパクト
Tシリーズ(T2やT3,TVsが著名)や、レンズ交換式レンジファインダー
Gシリーズ(G1およびG2)が人気を博し、コンタックスブランドは
一部のカメラマニア以外にも一般に広く知られるようになってきた。
しかし2000年代、それまでMFのみであったヤシコン・マウント(=
ヤシカコンタックスマウント、Y/Cマウント、まれにRTSマウントとも言う)
の一眼レフはシステムAF全盛期の銀塩一眼レフ市場の現状から
乖離しはじめる。そこまでもAXという従来のMFレンズでAFを可能とする
実験機的な性格を持つカメラも発売されていたが、ボディの巨大さ等の
弱点を持ち、コンタックスユーザーの心をつかむことは難しかった。
京セラコンタックスは従来のヤシコンマウントでは限界があると感じ、
35mm銀塩、645銀塩およびデジタルとの共用を視野に入れた、
新しいマウントである「Nマウント」を基調にした「Nシステム」を開発し、
2000年代前半にカメラやレンズを順次発売する。
私もそれまでRTS,159MM,AXなどのコンタックス一眼や、
T2,T3,TVs等のコンタックス高級コンパクトを使ってきたユーザーで
あったので、このNシステムには大きな期待を持ち、とりあえず、
銀塩最高級機のN1と、Nマウントの大口径単焦点85mm/F1.4
および50mm/F1.4のレンズを購入した。
本当はフルサイズ一眼の「Nデジタル」が欲しかったのであるが
発売当時約80万円と非常に高価であった上に、製品リコールが
発生した為、買いそびれてしまっていた。
Nシステムにはあまり交換レンズが多くなく、銀塩35mmサイズ用の
レンズはわずかに9本、うち、プラナーと名前がつく大口径単焦点は
前述の85mmと50mmの2本のみであった。
(これらを便宜上「Nプラナー」と呼ぶ)
私もしばらくはN1とNプラナーで撮っていたのであるが、時代は
ちょうどデジタル一眼の黎明期であり、銀塩のカメラはだんだんと
出番が少なくなっていく。
そして2005年、ついに京セラはカメラ事業から撤退してしまった。
思うに最後にNプラナーを使ったのは2004年頃であっただろうか・・
それから約8年、2本のNプラナーは、使わなくなったN1とともに
防湿庫のこやしとなっていた。
”なんとかデジタルでNプラナーを使えないものか?”
2本しか所有していないレンズとは言え、これらのレンズは高価で
特にN85/1.4は中古でも軽く10万円をオーバーする価格であったので
宝の持ち腐れ状態を解消したいと思うのは当然であろう。
だが、Nマウントは電子接点方式。仮に通常機構のマウントアダプター
が存在していたとしても、絞りが動作しない。
・・そんな訳で、Nマウントレンズをデジタルで使用する事は、
レアで高価なNデジタルを購入する以外は不可能な時代が続いた。
2000年代後半に海外でNマウントレンズをEOSマウントに改造する
サービスが始まったと情報が入ってきた。しかし手続きが難しそうで
かつ時間もかかり、おまけにマウント改造料金は約6~10万円と
高価であったので、これを注文するのも二の足を踏んでいた。
2008年ごろからマイクロフォーサーズをはじめとするミラーレス一眼
のカメラが発売されはじめ、翌年くらいからミラーレス一眼のフランジ
バックの短さを利用した各種マウントアダプターが発売されてきた。
しかし、Nマウント用のアダプターは前述の電子接点の為か、
どのメーカーからも発売されずにいた。
私が贔屓にしているマウントアダプター通販会社で「コンタックスN
マウント用のアダプターを作ってくれないか?」と聞いてみたところ、
やはり「Nマウントは電子接点なので難しい」との回答が返ってきた。
「絞りを組み込むことはできないだろうか?それが難しいのであれば、
開放のみでしか使えなくてもかまわない」とも言ったのであるが、
マイナーなNマウントアダプターは販売数量も期待できず、なかなか
製品化は難しそうであった。
2011年くらいから、Nマウント同様に電子接点で絞りを制御する
EOSマウント用の絞り羽根内蔵アダプターが一部のアダプター
メーカーから発売されはじめた。
そうこうしているうちに、2012年、ついに絞り羽根組み込み型の
コンタックスNマウント用アダプターがKIPON社より発売された。

写真のように、アダプター部に絞り羽根がついていて、アダプター外周
のリングを廻すことで、レンズ内の絞りとは別個に絞り操作を可能と
する仕組みだ。
いざ思っていたような製品ができてきたとなると、今度は別の心配が
出てくる。ケラレないか?(画面周辺の光量が落ちないのか?)とか
光学的性能が落ちないのか?(収差やボケ質)である。
しかし、アダプターの価格は僅かに11800円、まあ、それは普通の
何も入っていないアダプターが、安ければ3000円台で買えることから
すれば多少は高いのであるが、この値段であれば多少問題があっても、
2本で20万円近くも出資したNプラナーをデジタルで利用できる
メリットの方が大きいことであろう。
Nマウントアダプターは、マイクロフォーサーズ用とソニーEマウント
用の2種が発売されている、私はどちらのカメラも所有しているのだが、
EVF(電子ファインダー)搭載のパナソニックG1で使用したかった
ため、マイクロフォーサーズ用を購入することとした。
早速、G1にNプラナー85mm/F1.4を装着して撮ってみよう。

μ4/3の場合は、レンズは銀塩換算2倍の焦点距離(画角)となる、
するとNプラナー85mmは、170mm相当の望遠レンズとなり、
さすがに街中撮影には長すぎて不向きとなってくる。、

画像は縮小したままで掲載しているが、心配していたケラレ
(周辺光量落ち)は、出ない様子だ、
同様の機構を持つEOSマウント用のアダプターのレポートを読むと、
フルサイズ(デジタル)一眼で、一部の大口径ズームレンズで
絞り込まれるとケラレらしい。
普通に考えると絞りが開放近くの場合でケラレると思うのであるが、
なるほど絞りが光路の後ろ側にあるので、そうなるのだろうなと
なかなか興味深い。
今回の使用システムはマイクロフォーサーズであるので、
撮像素子も小さく、仮にケラレていても症状が出にくいだろうし、
また、せっかくのNプラナーなので、どうせ開放近くでしか
使わないので、まったくケラレについては気にする必要が無い。

およそ8年ぶりにNプラナーが使えることで嬉しくなってきた。

ただ、マウントアダプターは注意しないと思わぬ落とし穴もある。

このNプラナー85/1.4は大きく重いレンズで、その重量は確か
810g位だったと思う。
私は20種類以上のマウントアダプターを使っているが、その種類に
よっては(特に安価なものや、プリセットで絞りを操作する機能が
ついているもの等は)重量級レンズ、おおむね700gを超えるような
レンズを使うと、使用中にアダプター部のビスが重さに耐え切れず
緩んできてしまうような事がある。何度かこの症状を体験して
いるので、アダプターのビスに、緩み止めのネジロック剤を塗布
したり、精密ドライバーを常に持ち歩き、ビスが緩んできたら
すぐ締めるように、と注意している。
絞り羽根内蔵という複雑な機構を持つアダプターと重量級レンズ、
これは下手するとヤバい、まあ、いちおう精密ドラバーは持って
きているが、カメラもできるだけ撮影時以外はカメラバッグに
収納するようにしておくとしよう。 首からさげてブラブラと
やっていると振動でビスが緩み、最悪の場合はレンズ脱落、など
なったら、せっかく復活させたレンズなのに、目もあてられない。

しかし、幸いにして1日の使用ではまったくビスが緩むことは
なく、この点についても心配は無用であった、ただ、完全に安心
したかと言うとそうではなく、いつ何時、なにかのはずみで
ビスが緩む可能性もあるので、あくまで慎重に使用する事としよう。
描写性能だが、高輝度の白い被写体の周囲にいわゆるパーフル
フリンジのような色収差が発生することがあった、これはレンズ
の問題なのか、それとも光路に設けられた絞りによるものなのか
今のところは判断しにくい、まあ、だが、あまり気になるレベル
では無いので、今のところ問題なし、ということとしておこう。
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そして別の日、今度はNプラナー50/1.4を持ち出してみる。

このレンズはNプラナー85/1.4よりだいぶ小さく軽いので
ビス緩みの心配も少ないと思われる。
35mm一眼用のヤシカ・コンタックスマウント用の交換レンズにも
プラナー85mm/F1.4とプラナー50mm/F1.4が存在する。
聞くところによると、これらのレンズに対し、Nマウント版は
85mmの方は若干設計に手が加えられているが、50mmは
ほぼ同一の光学設計であると言う。
しかし、MF版のプラナー50mm/F1.4は、かなりコンパクトな
レンズであると言うのに、AFのNマウント版は、なんと大きなことか・・
あたかもMF版のレンズにAF機構を持つ外装をそっくりかぶせた
ようなイメージである。
余談だが、これはまるで、アニメの機動戦士ガンダムシリーズの
ガンダム00(ダブルオー)で出てくる、ガンダム「ナドレ」と
ガンダム「ヴァーチェ」の関係のようだ・・・
ちなみに、このアニメでは、防御力に重点を置いたヴァーチェ
という大型の人型MS(モビルスーツ)の外装が外れると、中から
機動性の高そうな小型の人型MSのナドレが出てくる、これは電子戦
に優れていて、劇中では、まあ秘密兵器の一種なのだが、視聴者にも
事前に予告が無いため、これが出てきた時は、おお、と驚いてしまった。
まあ、もちろん、Nプラナーを分解しても中から、MFのプラナーが
出てくる訳ではないので、念のため・・(笑)

50mmのNプラナーは、マイクロフォーサーズでは換算焦点距離(画角)
が2倍で100mm相当と、まあ、街中では85mmより使いやすい。

しかしながら、50mmのMFレンズは、現在、様々な中古カメラ店で
ジャンク(C級品)が豊富に流通していて、多少キズが入っていたり
多少雲っている程度で実用上十分なものが1000円~2000円と
非常に低価格で入手できる状況だ。
ミノルタMDマウントやキヤノンFDマウントの50mmMFレンズは
性能はなかなか優秀であるものの、従来のデジタル一眼レフでは
マウント口径とフランジバックの距離の関係で殆ど利用することが
できなかった(補正レンズを組み込んだアダプターは存在していたが
画質が劣化する等の問題点があった)
その理由もあり、現在非常に安価に入手できるのだが、ミラーレス
一眼の登場により、これらのちょっとワケありのマウントのレンズも
今やマウントアダプターが色々出ているので簡単に利用することが
可能となってきている。それらの安価なマウントの50mmレンズ、
あるいはヤシカコンタックスの50mmプラナー(F1.4とF1.7の
2タイプある)があれば、あえてNプラナー50mm/F1.4を使う
必要は無いのであるが、まあ、せっかく復活させたということで・・

あと問題は、これらのF1.4級の大口径レンズを日中使用した
際のカメラ側のシャッター速度の上限である。
(35mm)銀塩一眼レフでは、高級機種は、最高シャッター速度が
1/8000秒を備えているカメラが多かった(中には、α-9等では
1/12000秒の最高シャッター速度を持つ高級機もあった)
これらのカメラにISO100のフィルムを装填すると、まあ、日中に
おいても、F1.4のレンズで絞り開放まで、ぎりぎり使用することができた。
ところが、多くのデジタル一眼レフ、特にミラーレス一眼レフでは
最高シャッター速度は1/4000秒止まりである。
また、ISO感度は変更できるものの、最低ISOは100または機種に
よっては200で、それ以下の感度は使用できないカメラが多い。
するとどうなるか・・ 日中ではF1.4レンズを絞り開放にすると
すぐにシャッター速度が1/4000秒に達し、シャッター速度オーバー
になってしまうのである。

世界で最も明るいレンズと言われているコシナ・フォクトレンダーの
ノクトン25mm/F0.95(マイクロフォーサーズマウント専用レンズ)を
購入した時も、この問題が気になった。
せっかくのF0.95なのに、すぐにカメラ側の限界に当たってしまう。
なので、このレンズを日中使用する際には、ND(減光)フィルター
(2段)を常時使用することにしている。これで問題はほぼ解決した。
F0.95はF1.4の約2倍の明るさなので、F1.4レンズにおいても、同様に
ND4程度の2段減光フィルターを常用すれば良いのであるが、
レンズ前玉の口径の小さいノクトンはいざ知らず、Nプラナーは
85mm/F1.4の口径が82mm、50mm/F1.4でも67mmと、
フィルターサイズも巨大になり、新品では勿論高価になってくる。
そんなサイズのNDフィルターは、なかなか中古でも流通していないので、
入手できるまでは今のところアダプターの絞り機構を調整して減光する
しかなさそうだ。
ちなみに、アダプターの絞り目盛りは1~6まで記載されているが、
1目盛りが絞り1段という訳ではなさそうで、少し絞ろうとするだけでも
目盛りをかなり(3目盛り以上)廻さなくてはならない。
被写界深度を深くする為にさらに絞りこもうとすると、アダプターの
最大目盛りの6を超えて、もっとリングを廻さなくてはならない。
まあ、光束をさえぎる機構なので、このあたり、レンズ内部に存在する
本来の絞りとはかなり勝手が違う様子だ。

さて、これでNマウント(Nプラナー)は無事復活を果たし、
家にあるマイナーマウントのレンズも、コニカARマウントをはじめ、
S/C(ニコンS,およびコンタックスC)マウント、Cマウント
(シネレンズや監視カメラ用レンズ)のアダプターも入手済みなので、
ほとんど全ての旧レンズが復活して使えるようになったことになる。
市販されているマウントアダプターも近年さらに進化してきていて、
今回紹介した絞り羽根つきの他、ヘリコイド内蔵型やシフト機能
付きのものも出ている。
ヘリコイド内蔵型は、たとえばライカ用レンズなど最短撮影距離が
が長い(70cm~1m)のものを使っても、ヘリコイド(回転機構)を
繰り出すことで接写を可能とするものである。
(ちなみに、銀塩時代、MFレンズ用の「マクロテレプラス」と
いうアダプターがあったが、これも似たような機構を持っていた、
このアダプターを使うと、最短撮影距離を短くできるので、
たいていのレンズがマクロレンズとして使用できた。)
また、シフト(ティルト)機構付きのものは、レンズの光軸を
ずらすしたり傾けたりする事で、ビルや建物などの遠近感
(パースペクティブ)を補正したり、カメラから見た傾斜面に
ピントをあわせたりできるものである。
これらの特殊機能つきアダプターはまだ入手していないが、大変
興味深いので、いずれ入手して遊んでみようと思っている。