ニコンは保守的なメーカーというイメージがあるが、稀に冒険的な製品を出して来る
事がある。おもしろレンズ工房、というレンズ3本セットの製品もの1つである。
この製品は2期にわたって販売され、後期型は主にネットで販売された。
私の所有するセットは前期型であり、これにはニコンのロゴすら入っておらず、
付属のシールで「NIKON」というロゴやレンズのスペックをレンズに貼り付けるように
なっている。 ニコンのロゴを外したのは、ブランドイメージとのかねあいがあったの
だろうと推測されるが、まあ、確かにとんでもないチープな作りは、カメラ用レンズ
というよりは、特殊レンズの教材のようである。
つまり、魚眼、ソフト&マクロ、超望遠といった特殊なレンズを使う前にお試しで
購入するレンズの入門編であり、新品3本セットで2~3万円という破格の値段である。
今回は、雨の京都の撮影に、このおもしろレンズ工房の、ソフト&マクロレンズを
持ち出した。ガチャガチャと分解してレンズの構成を簡単に組みなおす事で様々な
スペックのレンズに変化する変り種である。 まず、その描写を作例で見てみよう。
この雨の撮影に使うボディは、ニコンD2Hが選択された、理由は2つある。
①雨天での撮影は当然カメラに雨がかかる。
こうした場合に、普及機や中級機では防滴(防水)構造の点で不安があり、
上級機の耐久性に頼った方がむしろ安全である。
雨が降っているからと言って、もったいながって安価なカメラを持ち出すと、
余計に故障のリスクが高くなる。
②D2Hは、非CPUレンズ、すなわち、レンズが自分の持つ焦点距離や開放f値を
ボディに教える事ができない古いレンズも使用する事が可能である。
最近の高度に電子化されたカメラは、レンズの持つ特性をカメラに教えてあげる
仕組みが入っており、この特性情報により、カメラは露出値やフラッシュを調光する。
だから、レンズの情報をボディが知る事ができないと、露出計が動かなかったり、
特定の露出モードしか使えなくなってしまう事がこれまでであった。
D2Hでは、このレンズ情報を、手動で「え~と、このレンズは焦点距離が△△mmで、
開放f値が◎◎だぞ」とカメラに入力してやる事で、古いレンズでもまあ問題無く使用
する事ができるようになる。
D2Hよりさらに新しい 銀塩のF6やデジタルのD2Xでは、このレンズ情報を10本まで
登録してレンズ交換時に呼び出して使う事ができる、古いレンズを何本持っていっても
事実上撮影に困る事は無い。
・・というわけで、このおもしろレンズ工房、レンズ情報用CPUどころか、絞り機構すら
入っていないし、レンズだって下手すると1~2枚しか入っていないシンプルなもの。
ところがこの単玉レンズ、思いの他楽しい写りをする。
単玉と言えばクローズアップレンズ(フィルター)が身近である。単玉は収差(レンズ
の性能上の欠点)の塊であるが、近接で花やしずくや小物を写す場合、フレアの発生で
非常に柔らかい独特の描写をし、かなり効果的である。
効果を得るための注意点としては、逆光に近いハイライトの部分が存在するとよく滲みが
発生し、画面の周囲に至るほど収差による画質の低下が甚だしいから、それらを逆に有効
活用できる被写体を選べば良い。
これはクローズアップレンズを用いた場合の注意点と同じである。
ただし、ソフトレンズ、あるいはソフトフィルターを用いた場合の撮影技法と
単玉レンズのフレアによるソフト効果の活用は各々の特性に差異があるので、
被写体の扱い方についても異なるテクニックが必要となる。
(その詳細については、また機会があれば記事に書く)
形状を重視したアブストラクト(抽象的)な被写体ばかりではなく、日常のものも
作例としてあげてみよう。
現代のズームレンズは、10数枚ものレンズを複雑に組み合わせてコンピューター設計を
されて作られているのであるが、たかだか1~2枚のレンズ構成でも、使いようによっては
効果的で面白い描写を得る事ができるのである。