滋賀県・琵琶湖の夏の風物詩「ペーロン大会」の日がやってきた。
すでに22回という長期にわたって開催され続けてきた歴史ある大会。
ちなみに、”ペーロン”はドラゴンボートの元祖とも言える競技で
あるが、ここ琵琶湖の他、兵庫県の相生や、長崎でも行われている。
ペーロンのルールは地域によって微妙に異なり、ボートの大きさや
乗る人数、ペースメーカーとしての太鼓以外の鳴り物の有無、
あるいはターンの有無など、まちまちだ。
”ドラゴンボート競技”は、これらの”ペーロン”の差異を吸収し、
定員を22名(漕ぎ手20名+太鼓+舵)とし、ターン無しの
直線コースと規定したものだ。
そして、このびわこペーロン大会は、滋賀県ドラゴンボート協会が
主管となっている為、ルールはドラゴンボート競技とほぼ同じと
なっている。他の大会と異なるのは、400m直線という、やや半端な
距離くらいである。
一般に国内でのドラゴンボート競技は、200mないし250mの短距離で
行われることが多く、1分前後という短時間で勝負が決まる。
また、滋賀県のドラゴンボート大会では、1000mという国内最長の
大会も行われているが(今年は9月9日に琵琶湖漕艇場で行われる)
400mという中距離は他の大会には例がなく、短距離とも長距離とも
異なる2分前後の独特のペース配分が必要となる。
会場の様子だが、天候がよければ「青い空、青い湖」という
典型的な琵琶湖の風光明媚な景観が見てとれる。
しかしながら、(観戦している)岸からコースまでの距離は
他の大会に比べても最も長い方であり、肉眼で見た感じは、
上の写真のようなイメージでボートは、とても小さくにしか見えない。
そこで望遠レンズの出番になるのだが、実は今日持ってきている
カメラがトラブルに見舞われるのだ・・
いや、カメラばかりか大会そのものが・・そのあたりはまた後述しよう。
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で、まずは、例によってドラゴン(ペーロン)大会撮影のセオリーと
して、出場各チームの様子を見て廻る庫ととしよう。
最初に目についたのは、「龍人」(どらんちゅ)チームだ。
ひときわ目をひく赤のユニフォーム、そして、何故かこのチームは
びわこペーロン以外の大会には、あまり出場することが無い。
そのあたりの理由を聞いてみることにしよう。
匠「最近は龍人(どらんちゅ)さんは、ペーロンは調子良いですね」
龍「ええ、もともとウチはペーロンをやりたくて9年前に結成した
チームなんですよ。」
匠「なるほど、しかし数年前までは”万年4位”とか言ってたのに
ここ2~3年は、ペーロンや、これ以外の琵琶湖の大会でも
3位入賞の実績があるし、なかなか強くなってきましたね。」
龍「最初出たときは、真っ直ぐ進めず、後ろ向きになってしまいました。」
匠「そんなの良くある話ですよ、まあ、それがここまで強くなってきた
わけだし、いいじゃあないですか。えっと、今日は20人漕ぎの
混合と一般(オープン)にダブルエントリーしていますね・・
混合では他に強豪チームはいないので優勝候補ですね、
一般は強豪揃いですが、今の龍人さんの実力からすれば
3位以内入賞もいけるんじゃあないでしょうか・・」
龍「あはは、まあ、そんな感じで狙っています。」
どうやら、今年のペーロンの最注目チームは「龍人」(どらんちゅ)で
決まりだな・・(何故そうなのかって・・?)
まず、このペーロン大会は、10人漕ぎの混合と一般と女子の部、
そして、20人漕ぎの混合と一般の合計5カテゴリーで戦われる、
参加チーム数は56と、国内の大会では最大規模に近い。
ただ、例年は70チーム位出場することもあるのだが、今年は、
例年の土曜日ではなく日曜日、さらには盆休みの最終日に当たって
いる場合もある為か、若干出場チーム数がいつもより少ない。
大会パンフレットを見ると、だいたい大会の見所が予想できる。
10人漕ぎの混合はドラゴン専業チームが集まっている激戦区で
これは最も面白いレースになるであろう、ただ、どのチームが勝って
も、通常のドラゴン大会と同じ雰囲気なので、ドラマチックな要素は
少ないかもしれない。
花形の20人漕ぎの部は、混合カテゴリーは参加チームが少なく
「龍人」の勝利はほぼ見えている。
一般カテゴリーは強豪チームが4つ、特に昨年優勝の
「池の里Lakers!」の連覇が注目されていると思われるのだが、
それは言うほど簡単な事ではないだろうから、このカテゴリーは
激戦になると予想される。
激戦になると「龍人」の存在が気になってくるわけであり
もし「龍人」が、2カテゴリーで優勝と準優勝、なんていう結果と
なったら、今まで脇役であったチームが一気に脚光を浴びる
事となる。これはまさしくドラマであろう・・・
なので、今日の観戦の私なりの注目点の組み立てを以下とした。
1)「龍人」の2カテゴリーでの成績
2)10人漕ぎ混合のドラゴン専業チームの激戦
3)20人漕ぎ一般の優勝争い
それから、さらなる注目点は他にもある。
こちらのペーロン大会では、普段のドラゴンの大会では殆ど見る
ことのない滋賀県の企業チームや地元チームが多数参加している。
パナソニック、オプテックス、京セラ、日立などの大企業はもとより、
病院、信用金庫、建築士、農協、商店(イオンモール等)多彩だ。
これらの地元チームの(特に女子の)明るい雰囲気が大会に華を添える。
それから、ドラゴンボート競技は、20人という人数を揃えなければ
出場できないのであるが、これは実のところ中小の規模チームに
おいてはなかなか難しい。その点、このペーロン大会は10人漕ぎの部
(通称:ミニドラゴン)があるので、選手を集めやすく、参加への
しきいが低い。
こちらの、京都出身の「師走の会」もそんなチームの1つ。
匠「お、師走さん、お久しぶりです」
師「なかなか人が集まらなくてね、今日は10人漕ぎに出ますよ」
匠「混合は激戦区ですね、関西龍舟、東海龍舟、吹田龍舟、GPO
もっこり、チーム未来・・・と、ドラゴン専業の強豪だらけ。
その中で戦うのは厳しいでしょう?」
師「そうなんですよ、最近は強いチームが多くて・・」
(そう言いながらも、師走の会は結果的には、まずまずの好成績を
収めることとなるのだが・・・)
で、こちらは、その強いチームの1つ、愛知県の「東海龍舟」だ。
この大会では、確か3年ほど前に優勝している。
ドラゴン専業チームであり、全国の各大会に出場、優勝回数こそ
少ないものの、出る大会は確実に2位3位には食い込むという
安定した実力の強豪だ。
こちらは和歌山県の「もっこりドラゴンボート部」の部長さん。
人を喰ったチーム名とは裏腹に、和歌山屈指の強豪チームであり
琵琶湖の各大会でも入賞実績が多数ある。
今日もまた「もっこりパワー」炸裂なるか(笑)
ただ、10人漕ぎ混合の様子を見ていると、これはもはやペーロン大会
というよりも、通常のドラゴンボート大会に近いものがある。
ペーロン大会は、お祭り的要素も含んでいるため、地元チームが
多数参加してくださっているのだが、ドラゴン専業チームとの実力差は
いかんともしがたい。
たとえばの提案であるが、近年、他地区の大会で導入済または
実施検討が行われている方式で、
「チャンピオンリーグ」または「マスターズリーグ」等と呼ばれる
”過去の入賞チームが参加するカテゴリー”を別途設けた方が
良いかもしれない。
ドラゴン専業の強豪チームはこちらのカテゴリーに参加していただき、
地元チームなどにも優勝のチャンスを与えようという方式だ。
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さて、大会の方だが、”今年の琵琶湖は荒れる”と選手や関係者の
間では、まことしやか(メモ:用語「まことしとやか」は誤り)に
囁かれている。
荒れる、というのは1つは天候だ、まずは先日のびわこドラゴンキッズと
グランドシニア大会が天候悪化(強風)による沈没艇が発生した為に
中止となってしまった、
琵琶湖の大会では沈没や中止は殆ど前例が無いことだと思う。
それと、ここ数日、京都や滋賀では局所的な集中豪雨にみまわれる
地域が発生している、天気予報では「大気が非常に不安定」と連日
放送され、当日になるまで降水確率の発表もころころと変化する。
今日の滋賀県の天気は午後から、場所により非常に激しい(雷)雨
となる可能性があると言う、この大津市の琵琶湖畔がその地域と
なるかどうかは、今の時点ではわからない。
また9月に予定されている琵琶湖スプリント大会は久しぶりの
琵琶湖競艇場で開催されるが、この大会は高い確率で雨にみまわれる。
思えば昨年も台風12号の余波で、琵琶湖スプリントおよび1000m大会
は、琵琶湖の水流が、超”追い波”状態で、従来の記録タイムを4分の3位に
短縮する勢いであったのだが、その複雑な水流に翻弄され、思うように艇を
コントロールできず涙を呑んだチームもあった。
今年も(そして今日も)琵琶湖では何か天候が荒れる予感がする。
もう1つの荒れる、と言う要素は、勝敗に関してだ。
例えば本大会に関して言えば、20人漕ぎ一般での一昨年の覇者
「ワンピース」が出場していない、昨年ワンピースとの激戦を制し、
連覇を狙う「池の里」にとっては有利な条件だが、チーム間の
パワーバランスが微妙に変わっているので、何かが起こるかもしれない。
本大会の10人漕ぎ混合部門も前述のように激戦区だ、こうした様々な
要素がなんとなく例年の雰囲気とは異なるように皆が感じていることから、
「荒れる」という噂が流れているのかもしれない。
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さて、午前中の予選・敗者復活戦ももうそろそろ終わりの様子だ、
注目の20人漕ぎ一般部門の敗者復活が始まる。
このカテゴリーには強豪チームが4つ参加している。
まず昨年の覇者「池の里Lakers!」
地元大津市の町内会チームであることは著名であるが
ペーロン大会を征したのみならず、国内最高峰の日本選手権大会でも
2年連続5位と、今や自他共に認める強豪チームだ。
そして同じく地元からの「琵琶湖ドラゴンボートクラブ」
琵琶湖の雄とも言われ、滋賀県の大会のみならず全国区で活躍し、
もちろん優勝経験などは多数あるベテラン強豪チームだ。
2~3年前は不調な時期があったが今はそれを乗り越え、昨年あたり
からまた往年の強さを取り戻している、今大会では20人漕ぎの他
10人漕ぎ一般、女子の部と、総勢30人以上の大所帯で複数の
カテゴリー制覇を狙っている。
さらに地元の「小寺製作所」チームがある、池の里の盟友、と言われる
こともあるが、元をただせば、ずっと前に池の里チームの艇と衝突した
事が始まりだ、近年は社長(団長)の小寺氏を中心に、滋賀県の
スポーツ振興に非常に力を入れていて、それと同時にドラゴンボートの
実力も上がってきていて、決勝に食い込んでくるのは間違い無いであろう。
それから冒頭に紹介した「龍人」(どらんちゅ)チームだ。
こちらも大津市を中心に集まっているチームだが、元々ペーロンを
やるために結成されたチームであり、企業でもスポーツクラブでも町内会
でも無い、ペーロンに特化した珍しいチーム。
今年は20人混合の部の優勝はほぼ確実、20人一般の部においても
決勝進出から入賞を狙い、戦績を磐石なものとしたいところだ。
ちなみに、この大会はBBCびわこ放送が主催していて、9月には
大会の滋賀県ローカルTV番組の放映も予定されている、そのため、
地元滋賀県のチームに勝ってもらえれば、TV的には面白いと思われる
のだが、今年に関しては20人漕ぎ一般は、何処が優勝しても地元の
チームなので製作側も視聴者もきっと安心して見ていられる事であろう。
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さて、次の敗者復活戦で小寺製作所チームが漕ぐ。
強豪なのに敗者復活戦とは何故?と、思うかもしれないが、たとえば
予選で1位抜け(あるいは1位2位抜け)の状況で、自分達より明らかに
実力の上回る複数のチームと当たる場合、作戦としては、予選での
無用な体力消耗を回避し、敗者復活から勝ち上がる、ということも
ドラゴン大会では非常に良くあるパターンである。
小寺製作所は、20人漕ぎ一般予選で、運悪く優勝候補の強豪2チームに
あたってしまった為、あえて予選を捨て敗者復活に廻ったわけだ。
最近のドラゴンボート競技は、ただがむしゃらに体力で漕ぐだけではなく、
頭脳戦、心理戦、あるいはビデオやパソコンなどのハイテク機器を用いた
情報戦の様相も呈している。
「アテンション・・ GO!」
敗者復活戦がはじまった、予想通り「小寺製作所」チームがみるみると
他の艇を引き離し、圧勝の様子だ。
しかし、200m地点、小寺チームの艇がいきなり曲がってしまった、
小寺チーム、他の艇との衝突を回避するため、漕ぐのを停止。
パドルをブレーキとする。
「あちゃ~、またやってしまったか!」小寺応援団の人達が言う。
また、というのは良く話題となる「小寺・池の里衝突事件」である、
その時も小寺チームが艇を曲げてしまったのだ、しかしそれはもう6~7年も
前の出来事、今の小寺チームの実力とはまったく異なる初心者時代の話だ、
ただ、話によると、今回もその時と同様に舵取りの方が来れずに代理の方が
舵をとっているとのこと、さらに聞くところによると小寺チームはパワーが
あるのだが、左右のバランスが微妙に悪いらしい、なので、常に艇が
どちらかへと曲がろうとする。それを舵で調整しながら進む方向を決める
のでコントロールが非常に難しいらしい、アンバランスがある程度のレベル
を超えると舵ではもう調整できなくなり、艇はくるりと反転しようとする、
琵琶湖の艇は大型で重量もあり安定性があるが、限界点を超える時の
挙動が予想不能ならしい。
その時にパニックになって逆舵を切ったりすると、もう終わりだ・・
(実際に今日の大会でも反転したビギナーチームはいくつかあるし、
小寺製作所に限らず、強豪の「龍人」や「池の里」、「関西龍舟」ですら、
本大会などで、くるりとやってしまった事があるらしい)
舵は難しい、といわれる、特に悪条件においては舵の実力が勝敗を
左右するといっても過言ではないかもしれない。
しかし、今回は小寺チームは他の艇と衝突することはなかった、
さすがに以前とは違い、艇のコントロールが身についている。
大会本部は一時的に「審議」の状態になった様子だが、これはもし、
小寺艇が他の艇と接触する等して進路妨害と判断されて、かつそれが
コース全長半分の200m以前であれば(または、ルールによっては
スタートから100m地点以前であれば)再試合とする可能性もあった
からだと思うが、今回の場合は明らかに小寺艇の単独ミスなので、
着順等の変更はなかった。
小寺チームの応援団はがっかり、
ただ、20人漕ぎ一般の決勝に残れずとも、10人漕ぎ一般にも小寺チーム
はエントリーしている、ここでの強豪チームは小寺チームを含め3つ程だ。
小寺製作所としては、20人漕ぎよりも10人漕ぎに期待をしていると
小寺団長が試合前に言っていたので、そちらに期待する事にしよう。
さらに小寺氏は、ミスした代理の舵取りの選手を責めず「10人漕ぎの
選手として頑張って入賞してもらい、汚名挽回して欲しい」とも語っていた。
さすがに滋賀県の各スポーツ畑において「団長」と慕われる小寺氏だ、
なかなかの人情味のある采配が光る。
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さて、さっそくの荒れ模様だ、やはり今年の琵琶湖は何かあるのか・・?
午後からの準決勝、決勝に備え、各チームは昼食をとったりしているが、
そのとき、琵琶湖のかなたの空に真っ黒な暗雲が見えてきた・・
「う・・これはまずいな」
京都を中心とした各地でここ数日被害をもたらしている集中豪雨になりそう
な雰囲気だ。
ポツポツと雨が降ってきた。
「これはヤバいな、退避・・・」
びわこペーロン大会は、お祭り的な要素もある大会で、バーベキューなどが
許可されている、各チームはちょうどお昼時、テント外には沢山のそうした
用具や荷物が散乱しているところに、急激な大雨が襲う・・
「避難だ、避難!!」
建物に近いところにいるチームは建物に入り、そうでないチームは
自分達のチームのテントの中に入る、とりあえずテントの中で雨は
しのげると思うのだが、集中豪雨はそんなに甘くない。
なにせ、カメラにもここまではっきり写るくらいの、バケツをぶちまけた
ような激しい雨量だ、1時間あたり100ミリとか200ミリとか、洪水だ浸水だ
決壊だ、土砂崩れだ、と、そんな状況になったという話は、ここ数日の
TVのニュースでいくらでも聞いている。
豪雨とともに襲った強風でテントが吹き飛んでしまった池の里チーム。
池の里は、ちょうど準決勝に出場していたところで、チームテントには
子供達くらいしか残っていなかった、吹き飛ぶテントをささえきれず、
レースから戻ってきた大人達があわててテントを元に戻そうとするが、
すでに荷物(特に携帯やパソコン)などは水浸しの状態だ(汗)
こちらの強豪の「吹田龍舟」チームも、選手全員でテントを押さえる、
こうしないと強風で本当に飛んでいってしまうのだ。
さて、あれやこれや「荒れ模様」のびわこペーロン大会。
とりあえず大会は中断なのだが、この雨が今後の大会にどのような
影響を与えるのであろうか? 場合により短縮や中止という可能性も
あるかもしれない・・・
この続きは「中編」にて。