さあ、夏休みも真っ盛りだ!
琵琶湖畔、京阪京津線浜大津駅より徒歩数分の「なぎさ公園」に
沢山の子供達が集まってくる。
そう、今日8月5日は毎年恒例の「ドラゴンキッズ」大会の開催日。
ドラゴンキッズは、子供達を中心としたドラゴンボートの大会だ、
ご存知、ドラゴンボートは20人の漕ぎ手が乗る大型の艇に、
さらに1人の鼓手(ドラマー)、1人の舵取り、の合計22人乗りで、
定められた距離のコースでのタイム等を争う水上競技だ。
今回の大会は、例年同様、親子の部(小学生10名)と、小学生の部
(小学生16名)の2カテゴリーにて、200mコースで行われる予定。
午前9時、開会式が始まった。
選手宣誓は地元大津市、平野スポーツ少年団に属するお嬢ちゃん達。
滋賀県は広大な琵琶湖を擁し、大人から子どもまでマリンスポーツが
非常に盛んな地域だが、水上スポーツのみならず通常のスポーツも
盛んである。例えば今回の出場チームの、平野スポーツ少年団は
バレー、野球、ソフトボール、サッカー、バスケからバドミントン
にいたるまで各種の競技を行うスポーツクラブで、今回のドラゴン
キッズ大会に実に10チーム以上を参加させている。
また、この大会での「平野」のライバル、大津スキースポーツ少年団
も、スキーの出来ない夏場はドラゴンボートなどの水上スポーツに
注力し、複数のチームをエントリーしている。この大会の小学生部門
では、ほぼ常勝の強豪チームである。
他にも、この大会の常連チームとして、TEAM PSK、Big Corner East、
立命館付属小学校、日吉台スポーツ少年団など、今年も県内外より
多数のチームが参加している。
それから、毎年フレンドシップ(親善レース)に参加していただいている
在日ブラジル人日本語学校「サンタナ学園」の皆様も、今年もまた、
いつものように明るく元気な姿を見せている。
しかし、今年のドラゴンキッズは、いつもの楽しい夏休みのイベント
という雰囲気とは、ちょっと様子が違うようだ・・
吹き流しが真横を向いている、これは風速10m以上を表している、
日本列島の南側に接近している台風の余波であろうか・・?
非常に風が強い。
桟橋に係留しているドラゴンボートも、ひっきりなしに揺れて
湖水をかぶっている。
風が強いと、どうなるのか?
波が高くなりボートに浸水しやすくなる。過去、ほぼ同様の
状況としては、数年前の関空大会の決勝戦がある。
その時は浸水によりボートが水没し、3艇が、いわゆる「沈」
(チン=沈没の意味)の状態となった。
勿論、クルー達は、全員ライフジャケットを着用しているため、
自力で、または救命艇などに救助されて、けが人などは
発生していない。
しかしながら、その時は、大人のチームばかりであり、
そうした非常時での対処も特に問題はなかったであろう、
だが、今回は子供達の大会である。
大会本部では、強風に配慮し、予め大会の短縮や、
艇に乗る大人の比率を増やす等の対応を検討していた。
ドラゴンの大会は水上スポーツであるがゆえに、多少の
雨などでも実施される。
そのため、過去、琵琶湖の各大会で中止なった例は記憶に無い。
また、滋賀県ドラゴンボート協会の保有する艇は、大型で
重量もあり、喫水も深いため、多少の波などでは水没しにくいという
利点と安全性がある為、大会がなかなか中止になりにくい。
しかしながら、風速が常時10mを超えるとなると、さすがに中止した
方が良いのかもしれない。
ただ、夏休みのこのイベントを楽しみに、500人以上のチビッ子達が
集まってきている、中には6年生で、もう今年限りしか出場できない
子供達もいるであろう、簡単に中止してしまうのはちょっと悩ましい・・
大会本部も、こうした状況で中止の決断は簡単にはできない
状態であり、様子を見ながら、まずは大会を進めてみることに
なったようだ・・
レース直後の艇には、やはりかなりの量の湖水が浸水している。
スタッフは柄杓などで水を掻き出すのに必死だ。
強風のおかげで、幸い例年ほど今日は暑くは無い、
ただ、それでもやはり真夏なので、各チームは思い思いに涼を
取りながら、このイベントを楽しんでいる様子だ。
なかなか、この雰囲気だと中止にはしづらいよなあ・・
私もそう考えてしまうのであるが、まあ、風が収まれば問題無い
わけであり、天候の様子を見ながら大会をゆっくり進めていく
しかないのであろう。
で、幸いにして次のレースはベテランの強豪チーム同士の戦いだ。
ボート経験の多いチームであれば安心して見ていられる。
まず、こちらは「平野スポーツ少年団バドミントン部Aチーム」
滋賀県の強豪ドラゴンボートチーム「小寺製作所」の社長の
小寺氏が率いる子供達のチームだ。
小寺氏は、ドラゴンボートをはじめとするスポーツ振興に
とても熱心な地元の名士であり、この大会をはじめとする
滋賀県で行われるいくつかのドラゴンボート大会の運営にも
多大な助力や援助をしてくださっている方である。
一見怖そうな風貌なのだが(笑)、実際にはそんなことはなく、
そのスポーツ少年団でも「団長」と呼ばれて子供達や親御さんに
親しまれている様子だ。
このチームは、先週および前日にもハードなトレーニングを
していたそうで、小学生達のパドルさばきが見事なまで揃っている。
おまけに昨日もまた、この日同様の風の強い日であったようで、
こうした悪条件の中でのボートの取り扱いも問題ない様子だ、
これは安心して見ていられると同時に、少し忘れかけていた、
本大会における”勝敗の帰趨”も気になってくる。
対するは「池の里JUNIOR LAKERS!」
大人チームは、ご存知「池の里 LAKERS!」であり、
町内会から発足したチームとしてドラゴンボート界では著名。
抜群のチームワークとメンバー達の人一倍の努力により、今や
押しも押されぬドラゴンボートの強豪チームに名を連ねている。
昨年のびわこペーロンでは涙の初優勝、そして国内最高峰の
「日本選手権大会」では、初出場の昨年、および今年と連続して
決勝に進出、惜しくも表彰台は逃したが、これはなかなか立派な
成績であると言えよう。
その池の里のDNAを受け継ぐ子供達の「JUNIOR LAKERS!」は、
この大会の親子の部で2連覇中の強豪チームである。
勿論今年も優勝候補なのであるが、一部のメンバー達は残念ながら
小学校を卒業となっていて、少々戦力ダウンが痛いところ。
大人のドラゴン大会の記事でも何度か述べたが、池の里の最大の
弱点は、町内会であるがゆえにメンバー補充が効かないことだ、
大人でも子供でも他のチームはどんどんと新人メンバーを入れる
ことができるが、池の里の場合それは難しい、まさかドラゴンの為
だけに「池の里」(=地名)に引っ越してきて町内会に入るという
訳にもいくまい・・
新たな覇権を得ようとする「小寺チーム」(平野スポ少)と、
現在の黄金期を少しでも長く維持しようとする「池の里」、
まさに琵琶湖の両雄がこのレースで対峙するという見所満載の
レースだ。このレースが事実上の決勝戦とも言えるであろう。
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さあ、レースがスタートした。
序盤は「平野スポ少バドミントンA」チームが、ぐいぐいと加速する。
さすがに小寺団長によく鍛えられている子供達だ、子供達のパドルの
動きが一糸乱れぬ状況で、まったく危なげが無い。
小寺チームが先行しどんどん差を広げる。その差は一艇身を越えた。
王者「池の里ジュニア」も、もはやこれまでか・・・?
しかし中盤・・
「池の里ジュニア」チームが猛烈な追い上げを見せる。
どうやら池の里の大人たちの闘争心に火がついたようだ。
艇の前部に位置する池の里の大人メンバーたちが本気の
漕ぎを見せる。
こうして、レースは”池の里・大人”VS”小寺・子供”の様相を
色濃く見せる戦いに突入した。
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思えば、もう6~7年前のことだったか・・?
小寺製作所チームが初めて”琵琶湖スプリント大会”に出場した。
初のドラゴンボート、勿論、真っ直ぐ進むことすらままならない。
その琵琶湖スプリント大会の、ある予選レースでの小寺チーム、
”あ、危ない・・”
小寺製作所チームの低が急に横に曲がり、コントロール不能、
隣を走っている艇に接触する。
その隣のレーンにいたのは、こちらもまだ駆け出しのころの
「池の里」であった。
なので、この予選では最下位とブービーのチームが接触、
予選突破とかの、勝敗には全く関係ない状況だった。
まあ、こんな事もあるよね・・ と私もその模様を見ていたのであるが、
その後、小寺製作所チームが全員を引き連れて池の里チームの元へ・・
先にも書いたが、小寺氏をはじめとする”小寺軍団”は、
皆、見た目が怖い風貌をしている(笑)
”すわ、殴り込みか?”池の里チームにも緊張感が走る。
私も、いったいどうなることか?となりゆきを見ていると・・
小「すんませんでした!」
小寺チームは全員で池の里に謝りに行ったのであった。
非常にすがすがしい光景であり、それ以降、小寺チームと池の里は、
とても仲良くなり、両者で滋賀県のドラゴンボート競技の振興に
尽力することとなった。
またお互いをライバルとして認め切磋琢磨し、両チームの実力は
めきめきと上がり、非常に良好な関係を築いていくこととなった。
今でも、私もたまにその時の話を小寺氏とすることがある。
匠「今があるのも・・ ボートをぶつけた、あの時からでしたねえ・・」
小「池の里は紳士的だからよかったよ。
もし、あの時に立場が逆だったら、きっと相手をボコボコに
してたかもよ、ガハハ(笑)」
匠「アハハ・・(汗) まあ、それはよかったですねぇ・・」
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さて、回想にふけっている暇は無い、レースの途中だった(汗)
小寺チーム、あいかわらずのリード、しかし、池の里が長年の
恨み(笑) いや、”友情”をもってして、必死の追撃。
これはなかなか凄いレースだ!
”まだまだ小寺さんのところには負けませんよ”
チラリと横を見るメンバーから、なんだか、そんな声が聞こえて
きそうだ。
小寺チームがゴール直前、果たしてリードを保てるか・・?
しかし、池の里がラストスパートで猛追!
両者はほぼ同時にゴールした。
ベテランの彼ら2チームに強風の影響はまったく無いようだった、
けど、このレースの勝敗の結果に関しては、強風の影響とは
決して無関係ではない。
もし、強風により、大会を1レースだけに短縮するような事態に
なれば、この勝敗が実質的な優勝を分けることになるからだ。
両者、ほぼ同着な為、”審議”となった。
しばらくして、本部よりアナウンスが。
1着、「池の里 JUNIOR LAKERS!」 1分5秒66
2着、「平野スポーツ少年団バドミントン部Aチーム」 1分5秒84
僅か0.2秒以下の差で、池の里がかろうじて予選首位をキープする。
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帰ってきた小寺氏が言う
小「2レース目があったら池の里に負けはせん!」
まあ、そう言うだろう、私が見ている限りでも、今年の小寺チームは強い。
”池の里”は、まあ、その底力をいかんなく発揮したのだが、
どうにも、なかなか危なっかしい展開であったように思う。
レースを終えた池の里チームと話をする。
池「いやあ、僅差でしたよ、危ない、危ない・・」
匠「もし今日、1レースだけで終わったら勝ち逃げですかね?」
池「あはは・・まあ、そうなりますね(笑)」
匠「できればもう1レース見たいですね、きっと名勝負になるでしょう」
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さて、両ベテランチームによる名勝負も終わって、大会はとりあえず
続行である、ただ、風は依然として強い。
これ以上風が強くなれば、大会は、短縮にとどまらず、中止という
選択も、考えざるを得なくなってくる事であろう。
次のレースに臨むチームがスタートする。
しかし、良く見ると大人達が艇の前方に固まり、後ろがだいぶ軽く
なっている様子だ。
これは簡単に言えば、前方の選手達のパワーで引っ張るタイプの
配置であり、恐らくはボート経験者の多いお父さん達を主力とする
為の措置であろう。
平時であればこの配置は有効だ、しかし、現在は強風の中である、
この配置が果たして浸水などの影響に耐えられるのであろうか?
まあ、池の里も言ってみればこの配置に近かった、けど、
重量配分や漕ぐパワーなどの条件が微妙に異なる様子で、
池の里の場合では特に問題はなかったようだ。
スタッフやベテランの選手達が、岸からその状況を見て言う
選「ちょっと危ないなあ・・ 後ろが浮いてしまいそうだ」
しかし、いまさら湖上で選手の配置を変えることはできない、
ボートの上で立ち上がるのは危険だ。
さあ、レースが始まった。
うっ、これはまずい・・・
案の定、ボート前方部が重すぎて波をかぶりやすくなっており、
そこからだいぶ浸水している様子だ。
そのせいもあり、艇は大幅なスローダウン、ますます浸水が
酷くなるという悪循環だ。
それでもまあ、とりあえずゴールはした。
そして桟橋につけようと、艇を回頭しようとした時・・・
浸水が限界に達し、ボートはゆっくり沈んでいく。
大人達や同乗するスタッフにより指示が出る、とりあえず救助を
待って、動かずに冷静に対処するように、と。
そういえば、7月の静岡の御前崎大会でも、優勝したビギナーの
チームが喜びのあまりボートの上で立ち上がってしまい、
艇を転覆させてしまう事態が発生、投げ出されたメンバーは、
参加していた海上保安庁チーム「海猿火組」に救助される、
というハプニングがあったのだが、その時と同様に、もし、ここで
慌てて立ち上がってしまうと、間違いなくコケて琵琶湖に転落だ・・
その点に関しては、今回は、子供達は慌てず、おとなしく救助を
待っている。
レスキュー艇に救助される子供達もいるが、幸いにしてここは
もう桟橋のすぐ横である、自力で、あるいは桟橋からと次々に
救助されるメンバー達。
陸ではすぐに人数確認が行われる、さすがに怖かったようで、
父母の元に慌てて駆け寄るこ子供達も何人かいたようだが、
人数チェックは重要なのですぐに呼び戻される。
全員の安全はすぐに確認された。
浸水した艇はスタッフ達により、必死に水の排出作業が行われている。
沈んだ艇に乗っていた、関空飛龍のメンバーでもあるスタッフの
方が私に言う
飛「あ~あ・ はじめて沈(チン)しましたよ・・」
匠「大変でしたね。 あ、でも、確か3年ほど前の関空大会で、
関空飛龍の艇も沈んだことがありましたよね、あの時は?」
飛「そうそう、あの時は、2つ出ていたチームの1つが沈(チン)して、
私は、それにはちょうど乗ってなかったんですよ。」
匠「そうでしたか、で、今回沈(チン)した時はどうでしたか?」
飛「幸いにして子供達が冷静でしたので助かりました」
匠「ですね、まあ、いずれにしても大事にならずよかったです」
アクシデント発生により、この時点において、大会の続行は
難しくなってしまった、まずはすぐさま各チームの監督が
スタッフの元に集められ、今回の原因と、そしてこれからの
対応について連絡を受ける。
まあ、原因については明快だ、大人達が前方に集中するという
フロントヘビーの状態で艇を進めた為に、艇の前方部に浸水、
それが限界を超えて沈没したということだ。
ただ、琵琶湖の艇は前述のように大型で重量級の為、過去、
このように沈没したケースは皆無であった。
あえて言えば、フロントヘビーな状態は出艇後に何人かの
人達が気が付いている状態であったので、その状態で何等かの
対処ができたかも知れない、けど、先にも述べたが、水上で
漕ぎ手の配置変えをするのは、余計に危ない、それこそ御前崎の
場合と同様に、立ち上がったりしたら瞬時に転覆してしまう危険性も
大いにあり得る。
一度出発点に戻して配置変えをするという方法はあったとは思うが、
まあ、やむを得ない状況がいくつか重なっての不運なアクシデント
だと思うが、不幸中の幸いとして怪我人などは発生しなかった。
結局。レースはしばし中断となった、
本部の判断によれば、今後風がおさまってくればレースを再開する、
ただし、レースは1回戦のみに短縮、小学生の部に関しては、
小学生を4人減らし、大人を4人増やすことで万が一の時のために
対応する。
そして、レースが再開した場合においても、また浸水・沈没等が
発生したらその時点で大会は即中止となること・・
などの連絡が大会本部より各チーム伝えられた。
さて、波乱のドラゴンキッズ大会、この後どうなってしまうのであろうか?
中止にするのもやむを得ないという気もするが、このイベントを
楽しみにしていた何百人もの小学生の気持ちを考えると、それも
少々かわいそうだ・・・
この続きは後編にて。