静岡県御前崎市の夏のビッグイベントである、
「第五回静岡県ドラゴンボート大会御前崎市長杯」が
2012年6月24日に御前崎港で行われた。
今回の観戦記事は後編(記事第3回目/最終回)となる。
大会の進行の方だが、レースは準決勝にさしかかっている。
オープンの部の準決勝はなかなか見ごたえがある状況だ。
オープン準決勝は、5艘建てx3回(組)のレースが行われ、
各レースの1位(計3艇)と、各組の2位の中からタイムが
速かった上位2艇の、合計5艇が決勝に進出できる。
ここまで、すでに2組の準決勝レースが終了している、
オープン準決勝第一組は、静岡最強と呼び声が高い
「NPO法人・海猿火組」が50秒台という驚異のタイムで1位通過。
2位には、中編で紹介した航空自衛隊の「遠州舸(はやぶね)会」
が53秒台の好タイムでつけている。
注目の地元企業チーム「中電龍舟」は56秒というまずまずの
タイムだったが、残念ながら決勝進出は絶望的になってしまった。
オープン準決勝第二組は、消防士チーム「火の用心」が速い、
との前評判通りに、55秒のタイムで1位。
2位は、地元の「静岡旭組」が57秒という結果となった。
横浜地区選抜の「横浜ドラゴン」は、4位となって無念の敗退。
ちなみに、今回の大会は200mのコースを使用する。
200mの標準的なタイムであるが、コースの状況、つまり潮流や
風などに左右されるのは勿論であるが、だいたい平均的な
ところは以下のような感じだ。
50秒を切る→スーパー記録、強豪チームでも滅多に出せない。
50秒~52秒→オープン強豪チームのベストタイム、
ここまで出せば優勝の可能性が高い。
52秒~55秒→オープンの平均的な優勝タイム
56秒~59秒→オープンの決勝進出タイム
1分前後 →混合の部の平均的な優勝タイム
1分2~5秒 →混合の部の決勝進出タイム
さあ、次は注目のオープン準決勝第三組だ。
ここでは、地元静岡の巨大企業のチーム「鈴与龍舟」が出場する。
(ちなみに「鈴与」は「清水エスパルス」のスポンサー企業)
そして、名古屋地区から参加の強豪「闘龍者(とうりゅうもん)」
(本大会や、琵琶湖ペーロンでの入賞経験がある)
さらには、清水海上大学Aチーム、アルカポネ、県協会チームと
実力の拮抗した5チームが当たり、激戦が予想される。
ここまでで、「海猿火組」「遠州舸会」「火の用心」の3チームの
決勝進出は、ほぼ決定的なのだが、このレースで、残りの2つの
決勝枠を賭けての戦いとなる。
私の予想では、恐らくは「鈴与」と「闘龍者」の争いと見ていた。
1位ならば確実に決勝進出だが、2位の場合、57秒前後のタイムで
ないと決勝には進めないであろう。
私は「闘龍者」チームのテント(選手村)に移動し、「闘龍者」の
応援メンバーの様子を見ながら、この準決勝を見守る事にした。
闘龍者サポーター(メンバーの家族か友人の方達)と話をする。
匠「このレースは、多分1枠(鈴与)と4枠(闘龍者)の
戦いになりますよ。」
闘「1位になれば決勝ですよね? 2位だったら?」
匠「タイム次第ですね・・
速いペースで接戦でゴールならば可能性があります。」
闘「おっ、始まったようです!」
「闘龍者」チームのテントは、沢山ある各チームの中で、
最もスタート地点に近い場所にある。
スタートして数十m(約15秒)、早くも手前1レーン(枠)の
「鈴与」が僅かにリードしているが、4レーンの「闘龍者」も
負けていない、やはり予想通りに両者の争いになるのだろう・・
・・と思った、その瞬間(!)
1レーン「鈴与」(画面左下)と、2レーンのチームのボートが接触!
1から3レーンまでのチームはすでに漕ぐのを中断している。
4レーンの「闘龍者」(画面上)は接触トラブルに巻き込まれず、
そのまま単独でレースを続行し、数十秒後にゴールした。
闘龍者のサポーター達が私に聞く。
闘「え~? こんな時はどうなるのですか?」
匠「ブイがありますよね、あそこの前か先か・・?」
闘「ブイ・・??」
匠「半分の100m地点の事です、その前で接触したら再レース、
その地点より先だったら、レース成立です。」
闘「なるほど。 で、今回はどっちなんだろう?」
匠「微妙ですね・・本部審判の判定を待ちましょう。」
そのとき、本部よりアナウンスが(早っ!)
本「ただいまのレースでボート同士が接触しましたが、
100m地点より前でしたので、再レースとします!」
うおおぅっ・・ と、会場全体で、どよめきが起こる。
見ている側の立場としては、うやむやで決まるより、再レースで
きちんと白黒決着をつけた方が面白い、例えて言えば、大相撲の
取組で同体で勝負がつかず、取り直しとなった時のような気分だ。
匠「これは、次は、ちょっと大変だな・・」
闘「何がですか?」
匠「いえね・・ 闘龍者さんはせっかく勝っていた試合なのに、
やり直しになってしまった。モチベーション落ちますよね。
接触に関与した2レーンは、次は慎重になってタイムが若干
落ちると思います。3レーンもちょっとやりにくいかな・・
1レーンは気持ち次第ですかね、接触の恐怖は、外に逃げて
いけば安全だと考えるでしょうから関係無いと思いますが、、
やり直しのレースで、どこまで気力を失っているかですね。
結局、各チームの気持ち(士気)次第なんでしょう・・・」
闘「ううむ・・」
アクシデントで再レースという状況は、私も色々な大会で
何度か見てきているが、その時には、アクシデント前の状況の
再現というケースは、まず無い。再レースではチームの心理状態の
変化や士気の差が、怖いことに、如実に結果に現れてしまう・・
そこに「闘龍者」チームがスタート地点にまた戻ってきた、
「闘龍者」そして「鈴与」の2チームは見るからに元気が無い、
勝負に水を差された、という雰囲気がありありと出ている。
と、そこで、闘龍者のサポータ達がチームにゲキを飛ばす、
闘「何やっているんだがゃ~! ちゃんと漕がんかゃ~!」
口は悪いが、何が言いたいのかボート上のチームのメンバーには
ちゃんとわかったのであろう、メンバー達に笑みがこぼれる。
匠(これは・・ なかなかタイミングの良いエールだったな)
さて、準決勝第三試合、再レースがスタートした。
その結果であるが・・
1位:闘龍者 57秒97
2位:アルカポネ 58秒23
3位:鈴与龍舟 58秒64
闘龍者が、難しい再レースを制し、決勝進出を決めた。
強豪「鈴与龍舟」は、タイムも順位も足らず、惜しくも準決勝で
敗退となってしまった。
ただ、このレース、私の感想としては、闘龍者サポーターの
地味なファインプレーが光っているように思えてならない・・
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さて、次は混合の決勝だ。
ここにいたるまでに、混合期待の「清水海上大学Bチーム」は
準決勝で敗退してしまった、予選で最速タイムを叩き出したにも
かかわらず、ボートを曲げてしまって無念のコースアウト、
そして、敗者復活で1位で勝ち上がったのに、また準決勝でも
調子を崩してしまったのだった・・
結局、混合カテゴリーの決勝に残ったのは、
「新池田一之組」「御前崎市消防団女性隊」「プリキュア」
「御前崎市スポーツ推進委員」の地元御前崎のチームの4艇。
ドラゴン専業チームの姿は無く、どのチームも比較的経験が
浅い様子だ。
さて、混合決勝がスタート。
お互いの艇の様子をチラリと見ながらドラマー(鼓手)が
ペースを見ていく、接戦の模様だ。
後半、2レーンの「消防団」が僅かに先行した模様だが、
僅差でのゴールとなった、正確な順位はちょっとわからない。
・・しばらくして、本部よりアナウンス
本「1位、御前崎市消防団女性隊とその愉快な仲間達!」
ワ~ッと喜ぶチームと観客。
しかしその瞬間、歓声がキャーという悲鳴に変わる!
なんと、優勝チームの艇が転覆してしまった・・(汗)
ボートの世界では「チン」(沈没の意味)と呼ばれる。
ベテランのチームであれば、こういう事態の経験もしているので、
焦ることなく、ボートにつかまりながら、機会を見て、救助を待つ。
もし可能であればボートを元に起こそうとする余裕すらあるだろうが、
この状況では難しいかもしれない。
で、なにせ、転覆したのはビギナーチームのように思えるので、
落ち着いて対処できるかどうか、非常に心配だ。
(私も、以前、ディンギー(小型ヨット)でチンの経験があるが、
いきなり海に放り出されて、そのときは一瞬パニックになりそう
だった。しかし、ベテランの同乗者より、焦らず体制を整えてから、
後で元にもどせば良い、と指示が出て、落ち着きを取り戻し、
特に怖いことはなかった・・)
と、そのとき、次のオープン決勝に出場しようとしていた「海猿火組」の
艇が異変に気が付いた様子だ。
「海猿火組」は、その名の通り、現役の海上保安庁(海猿)の
メンバーやOBを数名含んでいる、他のメンバーは消防とナース、
つまり、全員が人助けの専門家集団のチームだ。
海猿艇が、いち早く転覆した艇の救援に向かう。
ジェットスキーや救命艇も現場に到着しているが、
海猿火組の、あっというまの救援活動により、すでに殆どの
転覆船のクルーは海猿艇に収容されている。
海猿艇に乗り切れなかった数名の選手達も、ジェットスキーで、
あるいは救命艇に分乗して無事救助された。
勿論現場では救助活動中に人数の確認を行っている、
それと、海保の潜水士が艇の裏にもぐって、艇の底に
ひっかかっている選手がいないかどうかも最初に確認済みだ。
なにせ、彼らはレスキューのプロだ、仕事に抜かりは無い。
海猿火組に続けと、他のチームの艇も救助に向かうが
すでに救助活動は、ほぼ終了している。
それにしても、海猿艇(画面左)、喫水線がかなり下がっている、
22人乗りの船に30人も乗っているので、そうなるのであろう。
そして、海に潜っている海猿メンバーI氏(画面中央)から本部に
向けて「OK」(救助完了)のサインが発せられる。
観戦している人達からも安堵のため息がこぼれる。
海猿艇から泳ぎの達者な何人が、転覆した艇を泳ぎ(バタ足)で
桟橋にまで回航する・・
短時間で全員無事救出、非常に見事な措置であった。
で、今回の「チン」の原因であるが、どうやら、優勝の喜びで、
ボート上で何人かが立ち上がってしまい、バランスを崩して
しまったらしい・・
そいうえば、この大会直前にTVで海上保安庁の特集番組を見た。
隊員達の厳しい訓練の様子や、高いレスキュー技術に感銘を受け
ていたところだ、事前に海猿火組のメンバーに聞いてみたところ
海「あ、その番組では無いかもしれませんが、ウチのチームの
メンバーでTVの特番に出た人はいますよ」との答えだった。
後で聞くところによると、救助のときに真っ先に飛び込んだのは
そのTVに出た現役潜水士(特救隊だったか?)だったそうだ。
今は現役から離れた元潜水士の海猿火組メンバーが言うには、
海「おっと・・ いつのまにかT氏(現役)が、オレ(元隊員)
よりも泳ぎが速くなっていて驚いたよ」とのこと。
余談であるが、転覆事故が起こるとは、ドラゴンボートは危険な
競技だ、と思う人もいるかもしれないが、それはちょっと違う。
所詮はボートという乗り物なのだから、無茶な事をすれば
ひっくり返るのは当たり前だ。それは例えば、陸上の乗り物の
自転車やバイクでも同様であろう・・
そして静岡県では、昨年(2011年)に天竜川下りの観光船の
転覆事故が起きている、これを受けて、静岡県ドラゴンボート
協会では、ドラゴンボート選手向けの「安全講習会」を何度も
行い、競技を安全に行えるよう努めているとのことだ。
(ちなみに、勿論ライフジャケットは大会では全員着用だ)
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さて、混合決勝でのアクシデントに驚き、さらに、海猿火組の
見事なまでのレスキュー活動に見ほれてしまっていたが、
まだオープンの部の決勝戦が残っていた。
しばらくして、会場のどよめきも去り、落ち着きを取り戻した頃、
オープンの決勝戦がスタートした。これが本日の最終レースだ。
3レーン、先ほど救助で大活躍の「NPO法人・海猿火組」が
ぐいぐいと艇を進めて先行する、早くも逃げ切り体制か・・?
消防士の「火の用心」、航空自衛隊の「遠州舸(はやぶね)会」
あたりが、どこまで海猿に迫れるか?、とレース展開を予想
していたが、海猿のスピードは予想以上に速い速い・・
100mを過ぎて、海猿が先頭、消防士と航空自衛隊がそこに続き、
「闘龍者(とうりゅうもん)」と、「静岡旭組」の2艇は、
トップグループからやや離されてきている様子だ。
150m地点、「海猿火組」の艇から「うぉ~りゃあ、とぅ~」と
掛け声があがる、普段のレースでは、ペースが乱れるとの理由で
あまり掛け声は上げないようだが、気合が入ったのだろうか?
後で聞くところによると、先ほどの救助活動で転覆した艇を
本部まで泳ぎながら人力で回航した際に、結構体力を消耗した
様子だ。
そして、「それ(救助活動)を言い訳にするな、勝ちに行け!」
と、リーダーからゲキが飛ばされたらしい。
「海猿火組」が最後の力を振り絞り、さらに加速・・
そして、そのままの順位でゴールイン。
「海猿火組」優勝! タイムは50秒35と、文句なし。
2着、「火の用心」 51秒95と大健闘、仮に「海猿」がいない
大会であったならば、これは、ほぼ間違いなく優勝タイムだ。
3着は「遠州舸会」 こちらも52秒18と立派なタイム。
そして、2着と3着は僅かに0.2秒しか差がない。
ちなみに、0.2秒差は、距離に直すと80cm弱位の差となる。
4着と5着もほぼ同時の56秒台、これとて悪いタイムでは
無いのだが、先行する3チームが速過ぎた、という感じだ・・
陸に戻ってきて、再度、優勝の喜びを噛み締める「海猿火組」
救難活動も無事こなしたし、優勝もしたし、きっと今夜の
彼らの打ち上げ会でのビールは、さぞ美味いことであろう。
さて、あとは表彰式・閉会式を残すのみ。
入賞の賞品はなかなか豪華だ。
表彰では1チームあたり4~5人が呼び出され、
表彰状・カップの他、各種の地元名産品などが振舞われる。
やはり、この御前崎市長杯、市長さんがドラゴンボート好きで、
なおかつ、なかなか気前が良い。
こちらが市長さん。
今日はいろいろありがとうございました!
ということで、第5回御前崎ドラゴンボート大会は無事終了。
参加チームが多いため、朝早くからのスタートに加え、10分間隔
での出走と、だいぶ過密スケジュールであったため、若干の遅れが
出ていた。昼食休憩の時間で遅れを調整したが、完全には取り戻す
ことはできなかった。そして、混合決勝のアクシデントでさらに
押してしまい、結局、予定時間を1時間以上オーバーしてしまう。
・・でもまあ、幸いまだ4時過ぎで、夏の太陽は、まだまだ高い。
選手達の殆どが帰路についた会場・・
静岡県ドラゴンボート協会のスタッフが会場の撤収作業を行って
いる、なかなか大変そうだ・・(昨年は午後8時頃までかかった
とのこと、今年はそんな遅くまではならなそうだが、お疲れ様でした)
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試合後、静岡県協会の役員さんと話をした。、
この大会、なかなか楽しかったが、さらに面白くするようにと、
私から、ちょっと提案事項があったからだ。
まず、女子カテゴリーを募集すること、やっぱ、他の大会でも
そうだけど、女子の部というのはなかなか華がある。
それと、マスターズの部(あるいはチャンピオンの部)という
カテゴリーを用意し、過去の大会で入賞(3位まで)経験の
あるチームは、そちらの、すなわち上級者クラスで戦うことと
するのはどうだろうか?・・などの提案である。
他の大会でも、そうだけど、ドラゴン専業の強豪チームには
ビギナーのチームは歯が立たなくなってきている、つまり
実力差が大きすぎるのだ。
まあ、ドラゴンは、スポーツであり、勝負の世界なので、
実力の差があってもしかたがない。
しかし、ちょっと面白そうだから・・と、ドラゴンの大会に
初めて参加するビギナーチームは、大会で、強豪チーム達の
あまりの速さ、そして、ストイックなまでに勝負にこだわる
姿勢を目の当たりにして、ちょっとビビってしまう、という
状況が多々ある事も事実だ、
すると、そうしたチームは翌年から「あれはちょっと無理だよ」
と参加を断念してしまう可能性もある。
勿論、スポーツは純粋なものだが、それを広めていくためには
「興行」としての要素もある。たとえ選手であっても、見ている
人達の視点に立ってみることは、極めて重要なポイントだと思う。
関東の大会では、マスターズの部(名称はちょっとわからないが)
を設けている大会もあると聞く、関西や静岡ではまだ、そうした
実力別のカテゴリー分けは無いが、いずれこうした事も必要に
なってくるかもしれない。
さて、今年の「熱い季節」はまだまだ続く・・