以前の記事で、超解像(画素数を増やす)ソフトを紹介したのだが。
そのメーカーより、今度はHDR(ハイダイナミックレンジ)合成
に特化したソフトが出たと聞き、早速使ってみることにした。
PIXEL MASTER HDRは、近年流行のHDR合成処理をPCで行う事が
できるソフトウェアである。
フィルム時代、ネガやモノクロフィルムでは、明暗の表現可能な
範囲(≒ラティチュード、デジタルではダイナミックレンジと呼ぶ)は
10EV前後(1EVは2倍の明るさ、10EVでは2の10乗で約千倍程度)
あったのだが、デジタルに変わって、CCDやCMOSでの
D(ダイナミック)レンジは、リバーサルフィルム並みの
5~6EV程度(明暗の比が32~64倍程度)に制限されてしまった。
これはすなわち、被写体の明るい部分はすぐ白トビするし、
暗い部分は、逆に黒ツブレしやすい、という弱点がデジタル写真に
存在する事を意味する。
この課題を解消するため、デジカメの黎明期、どこかのメーカーの
(PENTAX だったかな?)コンパクト・デジカメに、露出の異なる
2枚の写真、すなわち明るい写真と暗い写真を、2枚連続で撮影し、
明るい写真の暗部と暗い写真の明部を合成して、明暗差の大きい
被写体に対応しようという試みがあったように記憶しているが、
残念ながら当時はこれは時期尚早だったようで、あまり話題にも
上らなかったと思う。(連写速度の制限で、動く被写体に対応
できなかったのも問題だったのかもしれない)
その後、数年前から「監視カメラ」の世界でWDまたはWDRと
呼ばれる技術が普及しはじめた。
これらは「ワイドダイナミックレンジ」と読み、すなわち逆光等で
不審者や侵入者の顔などが暗くなって見えなくなる問題を
解決するための技術だ。
これは監視カメラの動画、例えば毎秒30コマを、例えばその倍の
60コマで撮影し、2コマづつをペアで1コマに合成して用いる。
その1コマの撮影では、例えば標準的な露出の1/2のシャッター速度、
もう1コマの撮影では、標準的な露出の2倍のシャッター速度とし、
その2コマをDSPなどの高速演算素子で輝度合成処理をリアルタイムで
行うことで、被写体の明部と暗部を同時に表現できるという仕組みで
あった。
なお、監視カメラのSD解像度では30万画素程度なので、リアルタイム
での合成処理が、なんとか可能であるが、1000万画素を超えるスティル
カメラ(注:静止画とは、Still であり、スチルまたはスティルと言う。
スチール(Steel=鋼鉄)では無い)では、こうしたリアルタイムの合成
処理は単位時間での演算量的に難しい。(演算速度が足りない)
(ただ、リアルタイムで処理ができなければ、そもそも監視、すなわち
動画の世界では、まるで意味がなかったわけだ・・
ちなみに監視カメラも最近ではHD(メガピクセル)化している)
そのWD技術が2年程前より、デジタル・スティル・カメラにも転用
されはじめ、HDRという呼び名で、主にコンパクトのデジタルカメラの、
ダイナミックレンジ拡張効果と、それに加えて、写真のアート的(絵画的)
な表現加工の手段として搭載、活用されてきている。
しかし、あいにく私はHDR合成が出来るコンパクトを持っていない。
なにせ、すでに使っているデジカメの半数近くが減価償却できて
いない状況だ(汗) 新しいカメラを次々に買うわけにはいかない。
ちなみに減価償却とは、私自身が決めたルールで
「カメラの購入価格を撮影枚数で割って、それが3円を下回ったら、
十分使った(元が取れた)と判断する」
という考え方で、これを「1枚3円の法則」と呼んでいる。
この法則では、例えば9万円で購入したカメラは3万枚撮影しないと
元が取れていない、という事となり、これは実際なかなか大変だ。
最近は中古のデジタル一眼レフは十分に安価になってきているので、
減価償却はずいぶん楽になったが、昔はデジカメも高価だったので、
それらのカメラは、いつまで使ってもなかなか元が取れない状況だ。
元が取れていないのに、次々に新しいカメラを買うというのは、贅沢、
というより「無茶」あるいは「買い物下手」と感じてしまうわけだ。
まあ、このあたり、買い物におけるコスト意識が強いのは、関西人の
特性と言えるのかもしれないが・・(苦笑)
さて、前置きが長くなったが、PCでHDR合成処理ができるソフト
を使えば、HDR合成機能が搭載されていなくても問題ないという事で
早速 PIXEL MASTER HDRを試してみよう。

これがソフトウェアの起動画面だ。
ここに、どうという特徴も無い、電車の写真を読み込んである。
こちらを「1枚HDR」処理してみよう。
1枚HDRとは、ここまでの「HDRの原理」の話と矛盾するのだが、
PCの内部的に明るい写真と暗い写真をテンポラリー(一時的)に
作り出し、それを合成するということだと思う、ただ、この方法だと
元々写っていない明部や暗部を合成してもあまり効果的ではない。
なので、ここではHDR合成処理がコントラストを平均化することを
「人間の目で見た感じを絵画に描くような」雰囲気を得ることとみなした
パラメーター設定「HDRアート」の処理をかけてみよう。

結果としては、まあまあ、面白い。
HDR合成というのは、真面目に使うと、”ハイダイナミック”と言いつつも
実際にはダイナミックレンジを「圧縮」してJPEGの8bit 256段階の
階調に無理やり収めることであるから、写真経験の長い人の目から
見れば不自然な点も多々ある。
すなわち、本来はハイダイナミックという処理では、画像の輝度の
BIT深度(解像度、段階)を増やすべきなのだが、それをやると今まで
せっかく世の中に普及していたJPEGなどのフォーマットと互換性が
なくなってしまう。
これは大変な事だ・・ 以前の記事でも紹介したJPEG2000等は
非常に優秀なフォーマットであるのだが、いくら優秀であっても
デファクトとなっていたJPEGを置き換えるだけのパワーはなかった。
広いBIT深度の画像が普及している世界は、例えば医療用画像の
世界であり、ここでは、DICOMというフォーマットがあり、
通常のJPEGの8bitをはるかに上回る14~16bit程度のBIT深度を
持つ画像を、特殊な医療用機器で見れるようになっている。
こうまでしないと、癌とかの疾病の兆候を画像から診断できないからだ。
で、HDRでは、どうしてもJPEGあるいはBITMAPの8bitの
輝度表現の中に収めなければならない為、”ハイダイナミック”なのに
結果的にコントラストが低下しているという事になってしまう。
これはむしろ肉眼あるいは絵画での見た目に近く、それらでは
明るい所と暗い所を同時に見て、それらの輝度差を少なく判断
(あるいは描画)することに似ている。
なので、いっそのこと、HDR処理でも、あまりリアリティを追求せず、
(結局リアリティというのは何を基準にするのかで変わってしまうから)
あくまで、加工処理の1手段としてみなすほうが楽しいのかも知れない。
細かい事は気にせず、じゃあ、今度は複数HDR合成処理を
試してみよう。
「複数HDR」を実現するためには、あらかじめ露出の異なる写真を
複数枚撮影しておかなければならない。
その為には、デジタル一眼レフには標準的に搭載されている
「オートブラケット」機能を使うのが簡便だ。
オートブラケットとは、仮にA(絞り優先)モードで用いるならば、
ISOを絞りを固定して、シャッター速度の異なる(つまり露出の異なる)
複数の写真を連続で撮影する機能だ。
枚数や差の段数など色々設定可能だが、原理的に2枚では少なく、
5枚や7枚では、やや多すぎるように思ったので、ここでは各2EVの
差を持たせて3枚撮影してみよう。

これは複数のJPEG写真をアニメGIFに変換したものなので、
色数が256色に減色されているが、まあ、こんな感じだ。
この3枚の、±0EV、-2EV,+2EVの写真を、複数HDR合成する。

その後、このソフトでアート処理フィルターを選択すると、こうなる。

別のパラメータ(リアル風)で処理を行うと、こんな感じだ。

ちなみに、撮影条件は、20mmレンズ(銀塩換算約30mm)で絞りf11、
つまりパンフォーカス撮影だ。
巷にあるHDRの作例は、ほぼ全てがパンフォーカスの写真だ、
大口径レンズでボケを活かした写真をHDR合成したものは殆ど見た
事が無い・・・ 試しにそれをやってみよう。
元写真の標準露出(±0EV)はこれだ。

同様に明るい写真、暗い写真も加えて3枚合成する。
パラメーターはリアル風を選択する。

写真の暗部の紅葉が見えるようになった。
ただ、これだけだと、面白みはあまり大きくない。
これはボケを使った写真だから、とか、パンフォーカスだから、
というものではなく「被写体の状況を選ぶ」という事なのであろう。
HDR合成が効果的かどうか、というのは、写真を撮る時点では
なかなかわからない、なので結構これは難しいという事になる。
何故難しいか、というと、写真を長くやっている人は、自分の経験や
技術で「撮る写真を自分のコントール下に置いておきたい」と思うから
である、自分が思うように撮れないというのは「難しい」という事だ。
さて、撮影した複数の写真をHDRソフトに読み込むと以下のような
ダイアログ(ウィンドウ)が出る。

ここに表示されているEVは、EXIFから計算された絶対EV値だと
思う、ただ、写真の世界では相対EV値に慣れているのが普通だから、
ちょっとこれは感覚的に慣れが必要だ。
相対EV値で表示された方がわかりやすいことは確かだが、それだと
輝度の合成計算が出来ない事情があるのかもしれない。
それから、複数枚撮影における、1つの問題点は三脚の使用だ。
ご存知のように、私は三脚嫌いだ。
いや、正確に言えば三脚嫌いなのではなく、観光地や混雑地などで
周囲の状況を無視して三脚を立てるという、一部のカメラマンの
マナーの悪さに閉口しているということだ。
さすがにデジタル時代になってきて、ISO感度が自由にコントロール
できるようになり、それと、絞り込んだ撮影をしない風潮が世の中に
広まってきてからは、三脚を使う人はめっきり減ったので、最近では
あまり三脚マナーの問題も表面化しなくなってきた。
そもそも三脚を使うと、持ち運びに片手がふさがってしまったり、
横位置構図ばかりの写真になってしまったり、アングルの自由度が
極端に制限されたり、動体の撮影に向かなかったりと・・
技術的・表現的な成約が多すぎるので、私自身は三脚反対派と
しても、普段は三脚は全く使用しない。
でも、このHDR合成では、まったく構図のズレの無い複数の写真を
撮らなければならないので、三脚がどうしても必須となる。
いちおう以下のようなUI(ユーザーインターフェース)がついている。

赤丸で囲った部分は、(構図の)上下左右のズレの補正だ。
この機能を頼りに、手持ち手動ブラケット(複数)撮影にもチャレンジ
してみた。
ただし、結果としては失敗。
その理由は、どんなに慎重にカメラを構えても、ピクセル単位で
ズレの無い写真は撮れなかった事は勿論であるが、実際に
ズレている方向を確認して、興味深い結果が出てきた。
それは、回転ズレと、前後ズレであった。
回転ズレは、このUIのように上下左右方向ではなく、回転方向に
傾いているということで、この修正は難しい。
前後ズレは、単焦点レンズを使っていたとしても、被写体までの
距離が撮影毎に微妙に異なることで、まるでズームレンズで
画角を微調整したような差が出てしまう。 これも修正が難しい。
なので、結局複数HDR合成の撮影には三脚必須となるという事だ・・・
(ちなみに、HDR撮影上の、もう1つの問題は後述する)
UIの話のついでであるが、PIXEL MASTER HDRのフィルターには、
前述のように「リアル」と「アート」の2種類があって、それぞれ細かい
パラメーターで微調整できる。 UIは以下のような感じだ。

合成時のパラメーターであるから、レタッチソフトで後処理できるもの
ではないので、このUIは重要なのだが、ただ、今のバージョンでは、
処理に時間がかかるので、あまり細かく調整を繰り返すのが、
なかなか容易では無いのが惜しいところ。
パラメーターを少しだけいじくりながら、1枚HDR合成を試してみよう。
まずは元写真。

こちらは一眼レフでなくGR Digital(初期型) だ、さしもの名機も、
明暗差の大きい被写体は苦しく、紅葉が暗い。
日中シンクロでフラッシュを焚くべき状況だが、あえてそのまま撮影。
これを1枚HDR合成で明暗差を軽減してみる。

これは「HDRアート」処理のパラメーターを使っている。
もはや「写真」とは言えないものだが、前述のように加工処理の
1形態として見れば面白いものがある。
同じ場所で、今度は一眼レフを使って撮る、同様に1枚HDRの
アート加工で、異なるパラメーターで処理してみよう。

パラメータの選択、あるいは写真の明るさや彩度、詳細をどこまで
出すかなどで、結構雰囲気の異なる結果となるようだ。
いずれにしても、加工には無限の可能性があるようで、奥深い。
撮る時に結果を予測するのは難しい、と前述したが、
撮影後の後加工により、さまざまな結果を得る、という事については、
これはある意味、自分自身のコントロール下にある作業、であるから、
ストレスは感じない。
ストレスになるのは、自分の思い通りにならない、という事だ。
そういえば、現在は下火になったが、フィルム時代の末期に
流行した「トイカメラ」を使ったときも同様な感覚だった。
どんな写真になるか出来てくるまでわからない、というのは
ビギナーにとっては楽しい事なのかもしれないが、ある程度
写真を撮っている人では、思い通りの写真にならない事はむしろ
ストレスになる訳だ。
ただ、現代のデジタルカメラについていたり、レタッチソフトにある
トイカメラモードは別だ、これは自分でコントロールできる処理で
あるから、普通の写真を、それ(トイカメラ)っぽい写真のように
加工する事自体は、ストレスを感じることはない。
さて、この「HDRアート」処理では、ダイナミックレンジの合成
のみならず、彩度が高くなり、実際の写真とはかけ離れたイメージ
となる、写真というよりはむしろ絵画という雰囲気だ。

絵画っぽく見えるということは、ある意味、玩具っぽく見える
ということであるから、HDRに効果的な被写体の選択には、
人工物、特に機械の類を含むのが良いのかもしれない。
それから、↑のHDR写真は3枚合成であるが、人物の後姿が
含まれている。
この時は、この人物は殆ど動いていなかったのだと思う。
もし動いていたら・・
オートブラケットにおける連写速度が十分に速く、かつシャッター速度が
十分に速く、あるいは被写体が遠方にあり角速度が小さければ、
2次元平面の複数のデジタル画像上での被写体の動き(位置の差)は
小さく、複数写真を(HDR)合成してもあまり問題にはならない。
しかし、もし被写体が速く動いていたら(=画像上でのずれが大き
かったら)HDR合成はそもそも成り立たなくなくなってしまう。
動きのある被写体でHDR合成をした例をあげてみる。

このケースは7枚合成、しかも連写速度は秒3コマ程度の
低速なカメラだ。
最初のコマから最後のコマの撮影まで2秒ほどかかっている。
観光船の速度は時速10km程度、これは秒速3m弱であるから、
ブラケット撮影中に船は5~6mも進んでしまうことになる。
しかし、これはこれでなかなか面白い表現だ。
けど、動体の複数HDR合成は、失敗するケースが殆どだと思う。
基本は、自分も動かず(三脚)、相手(被写体)も動かず、でないと
複数HDR合成はできない。
現実の写真撮影とは、たいがいこのどちらかが動いているケースが
殆どであるから、この点においても、複数HDR合成は制限が多い。
まあ、結局、効果の善し悪しは別として、複数HDR合成よりも
1枚HDR合成の方が撮影の面では、動体撮影の点でも、あるいは、
あえてブラケット撮影をしないでも済むなどで、比較にならない楽、
という事になる。
それと、もう1つ、この船の写真のケースで気が付くのは、
空に雲が見えている状況であるということ。
雲が見えていると、HDR合成は(1枚でも複数でも)、かなり
ドラマチックな印象となるので、適切な被写体になると思う。
結局、雲+人工物(機械)、というのがHDR合成に適した
被写体になるのであろう。
最後に、人工物ということで、また電車の写真を1枚HDR加工して
みる。
元写真はこちら。

これを1枚HDR,アート処理で加工する。

さて、このPIXEL MASTE HDR であるが、他にFacebookとの連携機能も
あるということだ。
写真の楽しみ方も、日々変わってきている。
銀塩時代、ただただ被写体を綺麗に撮る事が写真の技術であり奥義で
あったものが、現代では、写真は日常の記録であったり、個人の個性の
表現であったり、コミュニケーションのツールであったりする。
写真は「こうでなければならない」とか「こうあるべきだ」といった
考え方は、もう古いということなのであろう。
もっと自由に、様々な角度から、写真の楽しみを創り上げていく
必要があるということなのであろう。
このソフト、PIXEL MASTER HDRが、あたかもそんな風に思わせて
くれているようであった・・・