ユニークなドラゴンボートの大会が2011年9月10日、滋賀県
大津市で行われた。
ご存知、滋賀県はドラゴンボートをはじめとする水上スポーツが
非常に盛んな地区であり、ドラゴンボートあるいはペーロン関連
だけでも夏場に10回近くの大小さまざまな大会がある。
内、ドラゴンボート関連では、琵琶湖では他地区に先駆けて
ユニークなレギュレーションの大会がスタートする場合がある。
通常の国内ドラゴンボート大会では、200~250mの直線による
レースで、オープン、混合、女子などのカテゴリーで実施される
ことが多いのだが、ここ琵琶湖では、通常と同様の250mの
「スプリント大会」、それから、小学生や親子を中心とした
「ドラゴンキッズ大会」、そして国内最長の「1000m大会」
さらには中学生大会まで行われているのであるが、
今回また新たに、「グランドシニア大会」が行われる運びとなった。
本大会は「大津市パワーアップ市民活動応援事業」の一環として
行われることとなった。聞くところによると、プレゼンによるコンペ
があって、その上位のイベントが実施される事となったらしい。
すなわちシニアの活動を行政が支援して、地域振興を図るという
助成事業である。
そして、今回のルールはドラゴンボート大会としては少々変則的だ、
とは言え、滋賀県ドラゴンボート協会が実施する為、手馴れた通常の
ドラゴン大会と大きな差異は無い。
通常と同じ20人乗りのドラゴンボートを用い、250mの直線コースに
より行われる。練習走行が1回、そしてその後2回の本番走行があり、
1本目の順位を元に2本目の順位で勝敗が決する。
このあたりまでは特に通常の大会と大差は無いのであるが、
しかし、異なる点としては、まず参加資格がある、
10人クルーの合計年齢が500歳以上、というのがそれである。
20人乗りボートには、いちおう6名のスタッフクルーと、
1名の舵取り、1名の鼓手(ドラマー)が協会より派遣されるのだが、
スタッフクルーが真剣に漕ぐことはなく、純粋に平均年齢50歳以上の
クルー達の漕ぎによる勝負となる。
他のドラゴンの大会では、シニアカテゴリーというのは平均40歳以上
であり、シニアおよび一般のカテゴリーに出場する現役チームでは
50歳くらいの平均年齢がほぼ最年長である、平均50歳以上とも
なると通常の強豪チームはまず年齢制限で出場するのは難しい。
次に本大会の特徴としては、ハンデキャップ制であることだ。
平均年齢1歳あたり1秒のハンデがある。
たとえば、平均年齢64歳のチームがあったとすると、14秒の
ハンデを持つことになる。
通常の250mのレースでのタイムは、国内最強のチームで約1分、
強豪チームで約1分10秒、平均的な実力のチームで1分20秒、
ビギナーチームで1分30秒以上、という感じであるが、はたして
グランドシニアでのタイムはいかほどになるのであろうか?
そして、そのタイムにおける、10秒前後のハンデキャップはいかに
レースの勝敗に影響してくるのであろうか?
ある意味、普段のドラゴンのレースとは異なる興味深さがある大会である。
さて、本日の大会は、琵琶湖漕艇場で行われる、
琵琶湖の南部、瀬田川の河口付近、最長1000mのコースを持ち、
ドラゴンボートの他、カヌーやアウトリガー、カヤックなどの各種ボート
レース、レガッタが行われる名門かつ有名なコースだ。
ただ・・・ 本日の大会コンディションは、普段通りではなかった・・
こちらは、瀬田川にある南郷洗堰(なんごうあらいぜき)である。
(瀬田川洗堰とも呼ばれる)
この琵琶湖漕艇場から瀬田川沿いに南約5kmの地点にある。
実は琵琶湖というのは国内最大の湖ではあるのだが、若干特殊な
環境を持ち・・ 琵琶湖に流れ込む河川の数は、大小合わせて
約500本とも言われているが(河川の定義によりこの数は増減する)
琵琶湖から流れ出る川は、人工の疎水を除くと、瀬田川のたった1本
しかない。
瀬田川は、滋賀から京都を経由し宇治川となり、さらに大阪に入ると
淀川になり、大阪湾に流れ出る大河である。
その昔、琵琶湖のこうした特殊な河川環境によって、梅雨や台風などの
降雨により、琵琶湖周辺の低地はすぐに氾濫、水没という状況に見舞われて
いたのだが、それを解消するために瀬田川を改良して琵琶湖の水はけを
よくすると、今度は遠く数十km離れた京都と大阪の中間あたりで淀川が
氾濫して水浸しになってしまうという、地域での利害が反する問題があった。
これを解決するために作られた1つの施設が、上記の南郷洗堰である。
その昔は人力でこの堰を開け閉めして瀬田川の水量を調節していたようだが
人力開閉の作業は十数時間を要した模様で、大変な重労働であったそうだ。
勿論現在の洗堰は電動式であり、30分程度で完全に開閉が可能である。
2011年9月上旬、関西地区は台風12号の直撃を受け、各地で被害が
出たのであるが、ここ滋賀県周辺では大量の降雨が発生、その時に
500本にもおよぶ川から琵琶湖に一斉に雨水が流れ込み、その状態は
台風が去って1週間たってもまだ続いていた。
このため、瀬田川の南郷洗堰は全開状態になっていた。
さらに洗堰から瀬田川を下って15kmほど行ったところには、
宇治・天ヶ瀬ダムがある。
こちらは、今回の大雨とは別の時に、天ヶ瀬ダムの全開放流を撮った
写真であるが、これで流水量は、ほぼ最大の毎秒840立方mである。
9月上旬、この大会の時点でも、南郷洗堰、天ヶ瀬ダムともに毎秒
約700立方m以上の流量で、琵琶湖の水を放流していた。
すると何が起こるか・・と言えば、普段は琵琶湖の水面は穏やかなもので
あるのだが、肉眼で見ても明らかにわかるほどに、恐らくは秒速1mとか、
その前後の速度で、琵琶湖の湖水が瀬田川に向かって流れていくのだ。
ざっと概算してみる・・ 250mのレースを普段は1分15秒でドラゴンボート
が漕ぎきるとすれば、それに秒速1mの流速が加わると、15秒程度短縮され
1分程度でゴールインできることになる、ただ、水流は勿論場所によっても
コース(レーン)によっても複雑に変化するだろうから、必ずしも全チームが
同様に水流の恩恵を受けるわけではないであろう。
そして、恐らくは最大15秒程度のハンディキャップを持つシニアチームが
出てくるであろうから、勝敗はまったく予測できないことになる。
早速優勝候補のチームがあらわれた。
大阪の「こいさんず」である。 久しぶりの大会出場・・
ドラゴンボートの大先輩チームであり、私も思わずご挨拶に向かう。
「ご無沙汰しております。皆様お元気そうでなにより」と・・
「こいさんず」は数年前まで国内最高峰の天神大会の常連であった、
女子カテゴリーで、若手超強豪女子チームの「スーパードルフィン」や
「河童」に続いての3位の成績を収めること多数、国内最高齢女子
ドラゴンチームとしてTVの出演も数回を数える有名なチームである。
ただ、最近活躍している新しいドラゴンチームは「こいさんず」の
存在を知らないところもあった。
ド「匠さん、あちらの方々はどんな人?」
匠「え・・こいさんずをご存知ない? こいさんずは、うんぬんかんぬん
(上の説明と同じ)・・ まあ、国内No3の女子チームですよ。」
ド「ひょえ~ じゃあ、もしかして同じくらいのタイムで入ったら・・」
匠「そう、こいさんずは10秒以上のハンディを確実に持っていますからね、
こいさんずに勝つにはこの悪コンディションのレースで、15秒以上は
離さないとハンディで軽く負けてしまいますよ。」
ド「そんな・・(汗) それは厳しいなあ・・」
さて、今回は、グランドシニア大会だけあって、若手ドラゴン強豪チームは
年齢的に出場することができない。そのため、普段は参加されないような
珍しいチームを多数見ることができる。
大津市周辺の町内会や体育振興会、企業、スポーツ同好会などである。
注目は、関東から参戦の「IHI瑞竜丸」
元々は、ペーロンのメッカで磯風漕友会などの超強豪を輩出した相生地区
から所属企業の転勤で東京および埼玉県に分派したチームであり、先般の
天神大会にも出場して好成績をあげている、ただし今回はさすがに
グランドシニア大会なので、メンバーは「温泉に入りに来ました」とのこと。
さらに、日吉台シニアドラゴンチーム。
日吉台は、大津市のニュータウンであり、その町内会チームであるのだが、
琵琶湖ドラゴンキッズ大会においても、日吉台ジュニアチームは常連であり
毎年上位の成績をおさめている強豪チームだ。
その話を聞くと、同じく滋賀県の超強豪チームである「池の里Lakers!」を
思い出す、池の里も町内会出身で、ドラゴンキッズは常勝、大人の大会
でも決勝常連、先日のびわこペーロンで悲願の初優勝をとげたところだ。
日吉台も、池の里同様のポテンシャルを感じる、今回の大会ではどこまで
活躍するのであろうか・・?
その池の里であるが、残念ながら今回は年齢的に出場不可能、なので
チームメンバーは大会サポートスタッフとして、ボートに分乗している、
「練習になりますからね」と言っていたが、スタッフとしてほとんど
全レースに同乗していく必要があるので(レース中は出場者にまかせ
漕がないとしても)かなり疲れそうな役割だ。
通常のドラゴンボート大会常連の強豪チームの参加は今回は2つだ。
1つは、池の里の盟友チーム、地元企業の「小寺製作所」
だたしこちらは、最年長のリーダー小寺さんが50歳そこそこなので、
年齢資格的にやはり厳しく、ビギナーのシニアの方を集めたとのことで、
ハンディが無いことも考えると勝つことはやや難しいかも知れない。
小寺製作所は「点滴を引っこ抜いてメンバーを連れてきた」とジョークを
言っていたが、まあ、今日はともかく楽しく漕いでもらって、翌日に
控えている琵琶湖大会に備えるのが良いのではなかろうか・・
そして、優勝への意欲に燃えるチームがこちら。
各ドラゴン大会でおなじみ、「Rスポーツマンクラブ」
現役強豪チームとしては、最高齢の平均年齢であり、50歳ちょっとくらい、
そのままのチーム編成で本グランドシニア大会への参加資格を持つ。
2週間前の関空大会の時から「Rスポーツマンクラブ」では本大会の
事が話題となっていた。なんでも当初、この大会への出場を遠慮して
いたのだが、滋賀県協会から「どうぞ出場してください」との連絡を受け、
出場する事になったという。
現役高齢チームであるがメジャー大会での決勝進出や上位入賞の経験も
あるチームだ、地方大会での優勝経験もある。そしてこの実力をもって
すれば、グランドシニア大会での優勝はほぼ確実と言えるのではなかろうか。
「R」が優勝への期待を込めるのは当然だと思う。
しかし、レースは意外な展開を見せる。
練習走行を終え、本番1本目、Rスポーツマンクラブの艇は予想通り
他を寄せ付けない圧勝、数10m程度の差があったのではなかろうか?
各レースは3艘建て、1本目で1位になったチームが集まり、
2本目を決勝として勝負することとなる。
大会本部から結果発表があった
「3位、Rスポーツマンクラブ」
え~? 何故だ? そんな声があちこちから上がる。
いや、勿論それはハンディキャップの効果だ。
「R」は50歳ぎりぎりのノーハンディ。
数秒程度のリードでは、十数秒という大きなハンディを持つ、他の
シニアチームを上回ることはできない。
勝ったチームは「いやあ、嬉しいけど、あちらの黄色いチームには
悪いことをしたなあ・・」とのコメント。
けど、まあ、そうして勝ちを拾ったチームだって、まったくのビギナー
というわけでもない、若いころはボートやカヌーで名を上げた選手も
多数混じっている。 パナソニックチームの選手に話を聞いてみると、
「若いころは近江大橋の欄干の間をまっすぐ進む練習をしたものだ」
とのことだ、今ではそういうことができるのかどうかは知らないけど、
なかなか豪快なエピソードであり、単なる普通のシルバー世代
というわけでは無い。
さらに2回戦レースでも、「R」はトップでゴールインするも、
またしてもハンディで最下位。
優勝を狙うどころか、総合最下位争いに加わることになってしまった。
呆然とする「Rスポーツマンクラブ」のメンバー達。
ただ、さすがに「R」は常連チーム、
先日の関空大会での「近畿車輛電龍」と同様に、好タイムを出しながらも
組み合わせの不運で決勝進出を逃したとしても、それを悔やむことは無い、
「まあ、こういうこともあるよね」と言って爽やかに会場を後にした。
それに、本大会の翌日は、琵琶湖選手権大会がある、こちらは、
短距離(250m)と長距離(1000m)および中学生の部の複合の
選手権大会だ、「R」は、この琵琶湖大会と相性が良く、過去、
3位入賞の実績も数回持つ、今日のグランドシニアは練習として、
増水による複雑な水流なども体験して見極め、明日の大会でさらに
上位を狙えば良い。そう思って、今日は打ち上げも控えて、滋賀から
一度大阪や兵庫に帰り、明日また早朝からこちらに向かうことに
したということだ。
大会終了。
結果としては、
1位:日吉台シニアドラゴンチーム
2位:膳所体振の仲間たち
3位:瀬田橋本体育振興会
となった、いずれも平均年齢60歳前後のシニアチームであるが、
ほとんどがスポーツマンであり、良く見ると、琵琶湖選手権などの
ドラゴン大会での運営スタッフをやってくださっている方も居る。
前述のパナソニックチームの欄干渡りではないが、若いころは
ボート関連競技で活躍していた人達なのであろう。
さしもの現役ドラゴン強豪チームも、ちょっとだけ年齢が上の
先輩諸氏には、そう簡単に勝たせてもらえなかったということか。
今回のハンディキャップ制は、なかなか新鮮な気がした。
強きものが勝つのが当たり前の勝負の世界とは言え、最近の
ドラゴンボート大会では、本当に強いチームでないと勝てなくなり、
また本当に強いチームは、ほぼ常勝という状態になってきていて、
意外な結果というのが殆ど無い。
もう少し言えば、新たにドラゴンを始めたビギナーチームは絶対に
何をしようと、勝つことが出来ないので、面白みに欠けるわけだ。
しかし今回のようにハンディを設けると、結果は予測不能となる、
どのチームが勝っても不思議ではないし、逆に言えばドラゴンに
慣れないチームが勝てるチャンスも十分にある。
全ての大会がこうであったら、今度は沢山の練習をして努力して
きたチームが勝てないという不条理が出てしまうのであるが、
たまにはこうしたハンディ戦という大会があっても面白いかも
しれない。
沈みかけた夕陽の中、大会の後片付けをするスタッフ達、
よく見ると、池の里、琵琶ドラ、豪腕龍、師走の会、瀬田漕艇クラブ
といった、滋賀県のドラゴン強豪チームの方々ばかりではないか。
今回はシニア大会の年齢制限で出られなかったが、明日の琵琶湖大会を
控え、練習がてらのお手伝いということだ。
明日もまたこの場所で激戦が繰り広げられるであろう、
今年の「熱い季節」は、まだまだ続く・・・