2011年8月20日、琵琶湖で行われた、長い歴史を持つ
「びわこペーロン」大会の模様より。
今回はこの大会シリーズ最終回の前編、大津市のドラゴンボート
チーム「池の里 Lakers!」の熱い戦いの足跡を追ってみよう。
もうすぐ100記事にもなる当ブログの「ドラゴンボート」カテゴリー
の記事中でも、実は、特定のチームにスポットを当てた記事は
極めて少なく、過去、HANDARS編、磯風漕友会編、の僅か
2つしかない。
これは、ドラゴンの写真を撮る上で、できるだけ特定のチームに
肩入れしないようにする、という私自身のポリシーなのだが、
しかし、今回のびわこペーロン大会での、「池の里Lakers!」に
ついては、まさしくそこにドラマがあったように思われ、あえて
池の里チームにフォーカスした記事を書いてみたいと思った。
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大会では雨が振り出してきた、
予選敗退の一部のチームは、早々に撤収する様子も見られる中、
池の里の熱い戦いはこれからが本番だ。
そして、「町内会チーム・池の里」の応援団も、まさに
これからが力の入れ所だ。
今回の大会では、「池の里 Lakers!」は、2つのカテゴリーに
2チームをエントリーさせている。
「10人漕ぎ混合」の 「池の里 FAMILY LAKERS!」と
「20人漕ぎ一般」の 「池の里 LAKERS!」だ。
うち、10人漕ぎ混合では、予選を2位で勝ち抜け、準決勝進出
なるも、静岡県最強の「海猿火組」と、大学生を中心とした
昨年のこのカテゴリー優勝チーム「SHIKABURI」の2強に阻まれ
残念ながら3位となって、準決勝敗退となってしまった。
ただ、恐らく「池の里」の感覚においては、正規のドラゴンボート
大会と同じ規定の20人漕ぎ部門の方に神経を集中させて
きていることであろう・・
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「池の里Lakers!」
結成8年目。ドラゴンやペーロンの事なんて何も知らなかった
池の里(地名)の町内会の集まりが、誰かのちょっとした提案で
この「びわこペーロン」大会に出場することになった。
初のてのペーロン、最初はまっすぐ進むことすらできなかった。
当然の最下位、予選敗退、いつまでもゴールすらできない・・・
池の里の名前は誰の印象にも残らなかった。
屈辱の初レースにめげることもなく、それから数年が過ぎても、
彼らはチームでボートを漕ぎ続けていた、
私が初めて彼らに注目したのはちょうどこのころ、5年ほど前
であったか・・?
「ここのところいつも4位、惜しいですねえ・・」
私は、そう「池の里」に初めて声をかけた。
「えっ?」と驚く池の里メンバー達、自分達のチームの事など
誰も知らない(見てくれていない)と思っていたのかも知れない。
さらに数年がすぎた。
猛練習を続けた池の里は、各地の大会で決勝常連の実力をつける
までに成長してきていた。
多くの大会で顔を合わせ、色々な話が出来るようになっていた私は、
その段階で池の里にこう言った。
「いつも2位か3位、何かの大会で優勝が欲しいですねえ・・」と。
苦笑する池の里、勿論彼ら自身がそう強く願っていたに違いないから。
さらに1~2年が過ぎた。
子供達や奥様達を巻き込んで、ドラゴンボートに燃える「町内会」は、
ドラゴンボート大会の子供版「ドラゴンキッズ」の大会において、
連覇を果たし、優勝常連チームにまで実力をつけていた。
キッズの大会でも池の里はずっと出場しつづけていたのだが、
それでも優勝できるまでは3~4年ほどかかって、初優勝の時は
それは大変な騒ぎだった・・
しかし、いったん勝ち始めると、勝ち続けることは大変だし、
そもそも上を狙うという目標意識も希薄になってくる。
私は昨年くらいに、また池の里に言った。
「キッズはもういいんじゃあないですか? そろそろ大人のメジャー
大会での優勝を是非狙いたいですね・・」
他人に言われるまでもなく、まさに池の里が今のタイミングで感じて
いることはそこであった、結局昨年は大人の大会は2位3位の戦績
ばかりに終始し、「次こそなんとしてもメジャー大会を獲る!」
それが、ここのところの池の里チームが熱望していることであった。
彼らは自らのこれまでを振り返るDVDをチーム内で制作、
私のところにもそのDVDは送付されてきた。
DVDを見ると、まさにそのメジャー大会に賭ける意気込みが
随所で現れていたように感じた。
今年、2011年。
池の里は国内最高峰の「日本選手権(=天神大会)」に初参戦、
並み居る超強豪を相手に一歩も引かず、決勝進出を果たし、5位の
成績を収めた、これはすなわち「日本で5位」ということと等価だ。
そして今年のキッズ大会では予想通り他を寄せ付けない圧勝であった。
ただ、もうキッズで勝っても彼らの感動は少なく、逆に常勝を期待
されるプレッシャーを大人達も子供達も感じているようにも見えた。
さて、今回の「びわこペーロン」
池の里がこだわる、その「20人漕ぎ」の今日の戦績は、というと。
予選では、地元強豪の「闘龍者(とうりゅうもん)」や
スポンサーチームである「オプテックス」などを押さえ1位勝ち抜け。
敗者復活戦をパスして、時間を置いた準決勝で闘うのは、
地元老舗強豪の「琵琶湖ドラゴンボートクラブ」(琵琶ドラ)や
地元の盟友、ここのところ急成長の「小寺製作所」チームだ。
準決勝ではとりあえずは2位に入らないと決勝には進めない、
まあ、3位であっても準決勝最速の3位チームはタイム次第で
決勝に上がれるルールとはなっているのだが、それは確実ではないし、
そもそも超強豪揃いとなることが予想される決勝においては、3位で
ギリギリ勝ち抜けの成績では、なかなか優勝を狙うことはおぼつかない。
できれば、強豪の琵琶ドラと小寺製作所を軽く破って、1位勝ち抜けで
気持ちよく決勝戦に進みたいところだ。
さあ、ポイントとなる準決勝。
「アテンション GO!」
スタートの合図とともに、ドンドンドン・・・ と太鼓の音が響く。
池の里の出場する準決勝第2組のレースが始まった、
前のレース、1組では、本大会2連覇中のドリームチーム
「ワンピース」がすでに1位抜けでフィニッシュしている。
池の里が予選でかわした「闘龍者」も、実力通り2位ですでに
決勝進出を決めている。
本レースでの池の里は、スタートダッシュで、ほんのコンマ何秒か
出遅れたように見えた、ただ、そこからの伸びがあり、速い、
400mのレース、その序盤、100mから150mあたりでは
池の里のハイペースなピッチが功を奏し、遅れを取り戻して
1位にまではいあがる。
このまま独走か? と思いきや200m付近で池の里は急に失速。
恐らくは普段のドラゴンのレースでは200~250mの短距離が
基本となっているので、そのあたりまでのレース展開のペースで
普段練習をしているからだろうか? 400mという長いペーロン
レースでは、ペースが維持できないのかもしれない(?)
・・しかし、1000mという国内最長の長距離のレースにおいても
池の里は上位入賞の経験を多数持つ、200mくらい迄でバテて
しまうとは思いにくい。 複雑な水流の影響か? いや海や川なら
ともかく、琵琶湖でそれは考えにくいであろう。
池の里がもたつく中、地元の古豪「琵琶ドラ」が急速に追い上げる。
ドラゴンの試合を長く見ているとわかるようになってくる事がある。
それは、ある瞬間・瞬間の順位だけではなく、そこまでの地点への
各チームのペースの変化、すなわち加速(度)の変化だ。
このチームはペースをあげてきているな、こちらは同じペースだな、
と見れば、その先50mあるいは100m地点での順位の変化も
予想できるようになる。
今ちょうど中間の200mの地点、池の里(奥のオレンジ色)は
前半のハイペースが原因なのか、速度の伸びが無くなっている。
対して琵琶ドラ(手前のブルーのユニフォーム)は、速度を上げて
きている。 このままでいけば約300m地点で琵琶ドラは池の里
を抜いて逆転するだろう・・と。数十秒先のその模様が目に浮かぶ。
そう予想すると、この時点で気になるのは3位のチームの動向だ、
池の里のペースダウンがもっと深刻な状況になれば、3位のチームの
状態次第では、池の里はそのチームにも抜かれて3位転落、つまり
決勝進出が限りなく危うい状態になってしまう危険性がある。
現在3位のチームは、池の里のライバルでもあり盟友でもある
「小寺製作所」だ。 ここのところ注目株の地元急成長チーム。
これは池の里にとってまずいぞ、そして小寺製作所にはチャンスだ。
ただ、不思議なことに、このレースにはチームリーダーにして
最重要人物=VIPである代表(社長)の小寺氏が乗っていない。
ビーチでレースの模様を見守っている小寺氏を見かけ、
「え? 小寺さん、何で乗ってないのですか?」と聞いてみると、
「実は、10人漕ぎに集中する作戦なんだよ」という答え。
つまり小寺製作所も池の里同様に今回の大会には2チームを
エントリーしているのだが、合計30人の選手を集めるのは、
池の里にしても小寺製作所にしても、なかなか苦しいものがあり、
どちらかを主力にせざるを得ない、という状況なのだ。
この点が地元チーム、すなわち町内会チームや企業チームに
課された制約の1つなのだろうと思う、近隣や全国から好きに
優れた選手を集めて来られるわけではないのだ・・
20人漕ぎ準決勝、200m地点、3位には小寺製作所、
しかし、こちらも残念ながら中盤以降のペースアップが図れない・・
これで池の里と琵琶ドラの決勝進出は決まったようなものだが、
決勝戦での心理戦を考慮するなら、やはり準決勝は1位勝ち抜けが
望ましい、さて、池の里は追い上げる琵琶ドラをどうかわすのか?
250m地点、今度はなんとした事か、琵琶ドラがペースダウン。
琵琶ドラも古豪チームなだけに、高齢化への対処が課題となっている
解決策は唯一、若い新人メンバーを育成する、しかないのであるが、
もしかするとこのレースでは、新人の比率が高かったのかも知れない。
琵琶ドラに限らず、この問題はどこのチームにもあって、強豪チーム
が、ちょっと様子がおかしい時は、新メンバーに経験を積ませる
ステージ(段階・状況)であった事が良くある。
池の里は現時点では磐石な主力メンバーのみで構成されているので
あるが、町内会=ニュータウンというチームの性質上、前述のように
新メンバーが集まりにくいという弱点を抱えている。
将来的にこれは大きな問題になると思われるが、池の里の場合、
幸いジュニアが強力なので、10年後あたりには大きなメンバーの
入れ替わりがあるのであろう、池の里メンバーもそれは良く自覚して
いて、あと10年、ジュニアが育つまではなんとか今のメンバーで
成績を維持していくという覚悟を決めているようだ。
琵琶ドラがペースダウンした結果、池の里は準決勝を1位で勝ち抜けた。
さあ、あとは決勝を残すのみだ。
優勝トロフィー。
それ自体は別に金銭的に大きな価値があるわけではなく、ましてや翌年には
返却しなければならないものなのだが、そこに結ばれたリボンには過去
20年のこの大会の長い歴史の歴代の優勝チームの名前が書かれている。
ここに新しく池の里の名前を残し、自分達が確かにここに存在した記憶を
自らにも、そしてドラゴンの歴史にも残していきたい・・・
さて、準決勝からあまり時間を置くことなく、決勝戦がすぐに始まる。
決勝はレーン抽選がある、代表の高屋氏が本部に呼び出されクジを引く、
高屋氏の引いたレーンは第5レーン、すなわち湖岸から最も遠い沖合いだ。
今日の会場のコンディションでは水流の影響を受けにくい5レーンが
ベストだといくつかのチームのメンバーが言っていたので、池の里も
喜んだのであるが、(私が)後から成績を見返してみると、5レーンで
1位となったレースは殆ど無いことに気が付いた。
そもそも、水流なんてここでは殆ど影響する程にはないのだから、
ガセネタかも知れないが、ただ、そう信じてポジティブな気持ちに
なることは精神力が重要となる決勝戦では決してマイナスにはならない。
決勝が始まる前、池の里チームは全員が集まって最後の気合を入れる。
ここまで来たら、もう何も言うことは無いのであろう、
自分達の実力を最大限に発揮できる精神状態をキープできたら、
あとは運だ・・ 勝利の女神が微笑みさえすれば優勝できる。
実は、準決勝から決勝が始まる前のわずかな時間、池の里チームの
テントでは、最強のドリームチーム「ワンピース」にいかにして
勝利するかの戦略シミュレーションがいくつか行われていた、
ちょうど近くにいた私にも準決勝の感想を求められる機会があった。
決勝をひかえたこうしたケースの場合、選手達の心理状況に影響
するので第三者からは、滅多な事は言えないのであるが、私はあえて
思ったままの事を言う事にした。
その理由は前述のように、数年前から私は池の里の本音の部分を
突くような発言を繰り返してきていたからである。
「がんばってくださいね」などと、ありきたりの発言は逆効果だ、
これまでの例からも、池の里とは本音で話をした方が彼らにとって
良い結果がきっと出るだろうと思った。
匠「まず、スタートが遅いです」
池「え? あれでも遅いんですか?」
何度も何度も練習を繰り返してきて、自信もあったのであろう・・
ちょっと、ムっとした感じの池の里メンバー。
ただ、事実は事実だ、そこを自ら認めてもらわないと「上」は狙えない。
匠「池の里は、天神(大会)の決勝で、磯風(磯風漕友会;現在国内
最強のチーム)と戦いましたよね? それを思い出してみてください。
スタートから僅か10m、磯風は、すでに他のチームに半艇身程
先行してましたよ、で、そのまま逃げ切り優勝です、スタートの
差は明らかではなかったでしたか?」
池「ううむ・・・確かに」
彼らの脳裏にも、天神大会のその決勝の模様が鮮やかに浮かんできた
のであろう。
池「やっぱ引きが足りないのかなあ・・こう、グイっと・・」
池「最初の1引きが重いんだよね、でも、そこをなんとかしないと・・」
池の里メンバーから前向きな発言が聞こえるようになってきた。
匠「で、序盤の池の里のピッチは速いんですよ、それは問題無いです。
でも、準決勝ではどうでしたか? 200mからピッチが保てなく
なってきませんでしたか? ワンピースの今日のレース展開を見て
いると、予選ではちょっと力をセーブしている様子もありましたが、
あちらは本来、後半の伸びが凄いチームですよ、これでは・・」
池「これでは、ワンピースには勝てないですよね(苦笑)」
匠「そうですね・・ だから1つの方策としては、前半で体力を
温存し、200m近辺まではひたすら我慢してワンピースに
ついて行く、で、そこをスタートと考えてラスト200mの
スパートの競争になれば、池の里にも勝機はあるかもしれません。」
池「う~ん・・・ それはいいんだけど、1つ問題が・・」
匠「ん? 問題・・?」
池「われわれは決勝で5レーン、そしてワンピースは1レーンです、
一番離れているので、横を見ても、ワンピースが見えずペースが
つかみにくいのです。」
匠「(グウ・・・)・・・」
正直、レーンの割り振りまでは意識していなかった(汗)
確かに漕ぎながらでは遠い真横のチームの様子はわからないであろう、
私の提案した戦略はあえなく却下となった。
その後、誰からも妙案が出ないまま、決勝の出艇の時間となった。
私が意見したのは逆効果だったかな? とちょっと思いつつも、
逆に言えばその程度の事で負けるようであれば、王者への道は遠い。
現在最強の磯風(漕友会)に接していればわかるように、磯風は
どんな状況でも優勝を期待される強烈なプレッシャーをいつも
跳ね除けて、確実に結果を出してきているではないか・・・
常に優勝を狙えるチームになるためには、単に身体能力だけでは
なく、強い精神力も兼ね備えていかなければならない、その結果
どんな逆境の状況においても、修羅場においても、あるいは(以前の
関空大会でボートが水没しかけても優勝した磯風のように)予測不能
の事態が起こっても勝てるチームに成長していくわけだ。
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決勝のコースには、ペーロンでは毎年決勝進出などの好成績を
あげている「龍人(どらんちゅ)」が漕ぎ出していく、
決勝で池の里と戦うライバルチームの1つだ。
こちらも気合が入っている様子がよくわかる。
「龍人(どらんちゅ)」も、以前の池の里同様に、4位続きという成績が
続いている、ここは何としても順位をあげて入賞を狙いたいところ。
それぞれのチームには、それぞれのチームの事情がある・・
池の里も「ワンピース」だけに神経を使っているわけにもいかない、
そして、いよいよ数分後には本日最大の見せ場が始まる・・
さて、緊迫感高まる状況であるが、白熱の決勝戦の模様は、後編の
熱湯「池の里」編(Ⅱ)にて・・