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写真(カメラ)においては、デジタル化は楽器の世界よりおよそ15年程度
遅れているわけだが、これまでの流れは、楽器の世界で起こった事と
音声と映像の違いはあれ、同じようなユーザーの反応や開発のスタンスの
変化として現れている。
アナログシンセの音の三要素を、マニュアルカメラの三要素と見なせば、
シンセの複雑化・自動化・高機能化の流れはAF時代のカメラで起こった
事であり、サンプリング音色による、音作りのお手軽化というのは、
現代のコンパクト・デジカメにおける様々な「なんとかモード」という
簡易設定の台等と同じ意味になるのかもしれない。
しかし、なんとかモードにしたところで、よほど特殊な画像処理を加えない
限りは、単に「絞り、シャッター、ピント」の三要素が、ある法則で変化
しているに過ぎないことは、シンセの音作りも基本要素により行われて
いる事と変わりが無い。 つまり「なんとかモード」をわざわざ使わなくても
マニュアル銀塩カメラでも何ひとつ不自由なく写真が撮れる事と変わりない。
シンセの原理が難しいからユーザーの為を思って、できあいの音色を作った・・
これはつまりカメラの原理が理解できず設定のノウハウが難しいから、
できあいのモードを作ったという事になるわけだが、そのあたり、実際の
ところどうなのであろうか?(意味があるのだろうか?)
まあ、一時期のデジタルシンセが3000種類以上の音色を搭載したと同様に
今後、コンパクトデジカメのなんとかモードだけでも数百種類になって
いくかもしれない、事実今でもペットモードやら赤ちゃんモードやら・・
防水カメラでは、魚を撮影するモードだけでも4種類ついているそうだから
それを選ぶためのユーザーインターフェースの操作性の向上だけでも大変な
課題となってくる。
その3000種類の音色を持つタイプのシンセは私も所有しているのだが、シンセの
中央部に大型のタッチパネル式液晶ディスプレイを持ち、音色選択のメニューを
何階層も選び、スクロールやページ送りをしてやっと目的の音色にたどり着く。
これはこれで不便なところが多々あり、その操作系の煩雑さ以外にも、
3000種類の音色にはすべて音色名(楽器名)がつけられているのだが、
知らない楽器名の音色は選びようが無いわけで、音色を選んで鍵盤を押して
みるまで、どんな音がするのか想像もできない。
ある曲を演奏するのに、あ、この音が似合っているな、と探すだけでも下手を
すれば数十分、そしてその(聞いたこともない)音色名を覚えられる筈もなく
楽譜に、Aの114番のバリエーション9 などと音色名をメモしておく必要がある。
そして、これがカメラだったら、もっと大変だろう。
ある時、たまたま気に入った写真が撮れたとしよう、じゃあそれは、どんな
カメラ設定(絞り、シャッター速度、ISOや、あるいはWB等)
で撮ったのか、という事をあとで(EXIF等で)見返してみるのではなく、
「これは、お魚モードの4番で撮りました、なるほど、ネコを撮ってもお魚モード
はなかなか有効なんだな」などと、カメラの原理とはかけ離れたトンチンカンな
勉強になってしまうわけだ。
じゃあ、他のカメラを使って撮る場合、あるいは買い換えた場合、
「え~、このカメラは、お魚モードの4番が無いのかよ?これじゃあ撮れないよ」
なんて事になってしまう(汗)
これって、本当にユーザーの為になっているのであろうか?
シンセの発展が、1つの方向性として、その本来の原理をアナログライクな
操作系に収め、音程、音色、音量という三要素を自分の好みに応じて自在に
素早く論理的に設定できるデジタルシンセとして進化しているのと同様に、
写真に必要な基本機能を素早く設定できる方向へも現代のカメラは進化して
いく必要があると思う。全部のカメラが全部その方向へ行く必要は無いが、
たとえば単純には、ISOがダイレクトにコントロールできるダイヤルを
持つなどは必須の操作系であると思うし(それができるデジタル一眼は無い)、
コンパクトデジカメでも露出補正がダイレクトなツマミやレバーで制御できる
機能も必須だと思う。(現状ではGRDシリーズとごく一部の機種くらいしか
それができるコンパクトは無い)
私も、3000音色シンセを買った直後、デジタル制御アナログシンセ
(アナログ・モデリング・シンセ)を追加で購入した。
両者は全く性格の異なるものではあるのだが、どちらか一方があればそれで
足りるというものでもなく、目的に応じて使い分ける必要があるという
事なのであろう・・・
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