撮影仲間の女性のNさんからメールが入った。
Nさん『匠さん、ご無沙汰、今度の日曜はどちらで撮影?』
匠『ん? 神戸方面だけど・・? 午前中は動物園、そこから三宮の方かな?」
Nさん『じゃあ、ご一緒しません? 最近ほとんど写真撮って無いし・・』
・・・そう言えば、前回Nさんと写真を撮りに行ったのはもう半年以上も前の話になる、
そこからNさんは、なにやら資格試験があるとか、海外旅行とか忙しかったらしく、
たまにメールのやりとりはするものの、一緒に写真を撮りに行く機会が無かったのである。
Nさんは、女性にしてはカメラのハードウェアにかなり詳しい。父君がカメラマニア
だから・・ という環境もあるが、それにしても御本人の知識もなかなかである。
「久しぶりに、マニアックな話でもするとしようか・・」
・・むう、しかし、若い美人との撮影デートというのにそれも色気が無い話か(笑)
と、そこにNさん登場である。

匠「おっ! ご無沙汰、元気だった?」
(・・むう。 今日は、FM3aに50/1.4の装備だな・・ それにバッグが2つか・・
1つは身の回りのものだな、もう1つには何のカメラが? CONTAX T3か?
デジタルか? あるいはライカM6か・・?
はっ・・ そんな事より、プラダのバッグとか、そういう方に目をやってあげる方が
女性に対してはいいのでは? ・・どうもマニアックな視点になってしまう・・汗)
Nさん「ご無沙汰です。 で、匠さん、お腹すきません?」
匠「あ、ああ・・ じゃあ、何か食べに行こうか・・・」
入ったのは、神戸のあたりの雑誌とかに載っている、ちょっと名物の洋食屋さん、
私は、スペシャルランチ+カレーコロッケ追加のボリューム満点メニューである。

これで1300円也・・
Nさんは、ビーフシチューランチを注文、そして、まずは2人して食べ物撮影タイムである。

外から見ると、カップルで来て何台ものカメラを次々に取り出しランチを撮って
いる姿はちょっと異様かもしれない(汗) グルメ雑誌のライターか、下手をすると、
どこかのお店から来たスパイとか思われてしまうかもしれない・・(苦笑)
でも、まあ、こういう光景は、私の撮影仲間の間ではごく普通の事である、
人数が多い時などは大変だ。 人間の数よりも5割増しくらいの台数のカメラが
テーブルの上に所狭しと並べられていて、お店の人がランチのお皿を持って来て
置くのに困った様子の事も多々ある・・(汗)
それもカメラマニアっぽいオッチャン達ならまだしも、多くは20代を中心とした
若い女性なのだから、無骨な金属の塊のマニュアルの一眼がゴロゴロしていたら、
余計に異様な光景に思えるのかもしれない。
Nさん「でね、お父さん、こんなの買ったみたい・・」
Nさんがデジカメのメモリーをチョンチョンと探しつつ、私にモニターを見せる。
匠「こ・・これは・・(汗) ライカM8ではないか? 父君、思い切ったなあ・・」
Nさん「清水の舞台から飛び降りるとか言ってね・・ 何台かカメラを処分したみたい」
匠「何で私に言ってくれなかった? Nさん商店(笑)には、いつもお世話になって
いるのに・・」
Nさん「ふふ・・ 今度またよろしくお願いします」
・・そう、私はNさん一家のところで余ったカメラとかは良く格安で買わせて
いただいているのである、お店への下取り価格と同等かそれ以上で買うならば、
どちらも得な取引なのである。
しかし、それからもシグマの新製品やら何やらマニアックな話を続けていたのだが、
なんだかNさん、ちょっと今日は元気が無いみたいだ・・ いったいどうしたのか?
食事が終ってから、Nさんは「北野のあたりをブラブラ歩いてみたいな・・」
と言い出し、私もそれにお付き合いさせていただく事となった。
Nさんはどうやら今日も3~4台のカメラを持ってきている様子だが、
何故か殆ど写真を撮らない・・ 「あ、ここ、いい感じ・・」とたまに写真を撮って
いるのを見ても、なにやらいつものNさんらしかならぬ、寂しげな風景・・

久々に写真を撮るというのに、おかしいなあ・・
それに、Nさんの作風って、本来、もっと、被写体をカチッと撮るような
どちらかといえば男性目線に近い作風だったはずだ、こんな風な、乙女チックというか
メランコリックと言うか・・ そんな被写体に反応するのは珍しい。
何かあったな・・ と、ばかり、私は、色々な話をしながら、Nさんの様子を探る、
Nさんは、ポツリ、ポツリと近況を話し始めたのであるが、まあその内容は
ブログで書くべきものでも無いから、大幅に割愛させていただこう。
匠「ふ~ん、それは大変だなあ・・ でも、Nさん、多分、そういった気持ちが
写真にも現れているよ。 ちょっといつものNさんらしくない撮り方だよね」
Nさん「うん、そうかもしれないね。 だから、ちょっと写欲も無くて・・」
私は、Nさんの話を聞き、悩み相談のような形で、神戸の町、それも観光名所とは
少し離れたあたりを、ずっと歩き続ける。
3月とは言え、寒い日である・・ 大都市神戸でも、このあたりを歩く人影は少ない、
誰がどう見てもデートの雰囲気であるが、これはプチ撮影会、いや、そうでもなく
とぢからと言えば、友人同士でのマジな人生相談なのである。
匠「まあ、でもね・・ そういうのは気の持ちようかもしれないよ・・」
自分の経験談とか、考え方とか、価値観とか、Nさんに話しながら歩くのだが、
Nさんの立場になって、話をすればするほど、何故か私も、いつものようなペース
では写真が撮れず・・ 気が付けば、1時間に、ほんの2~3枚、それも、私も何故か
今のNさんのような目線で、ちょっと寂しげな被写体にばかり目が行くように
なってしまっている。

人生生きていれば、色々な事がある。
そこには、楽しい事もあれば、辛い事や悲しい事もある。
そして写真において、自分の感情というのは、非常に大きくそのスタイルあるいは撮る
被写体に影響してくるのである。
そもそも楽しくなければ、楽しい被写体なんて探しようもない、
何故ならば、楽しい被写体、あるいは楽しい作画意図(表現)をしたいとは
思わないからである。
多感な若い女性は、そうした自身の感情面、感覚面がすごく作風に影響してくる、
でも、ある見方をすれば、そうした感情面の変化で、ある時、たとえばすごく
感覚表現に優れた写真が撮れる時期があったとしても、それはまた感情の変化で
そうした写真が全く撮れなくなってしまう時期もあるという事だ・・
具体的な例としては、ある女性が、失恋をした時、見ている人まで心が締め付けられる
ような辛く悲しげな、それでも心を打つ作品を撮れた(創れた)としよう・・
しかしその女性が今度新しい恋をして、その楽しさのや幸福感の中で撮る写真は、
失恋で心が辛かった時期の写真の作風とはまったく違うものになってしまう、
場合により、写真を見る立場の人は、「以前の作風の方がよかった」という風に
思ってしまうかもしれない。
これは色々考えさせられる問題である、そりゃあ本人の為を思えば、幸せに
暮らしている方が良いに決まっている。でも、あの強烈な悲しみを内面から搾り出すような
作風は、もう2度と見れないかもしれないのも、それはファンとしては寂しいものなのである。
そして、さらに言えば、そんな風に不安定な感情で、作風がコロコロと変わって
しまうようだったら、その人は「表現者」として、それを受ける(見る人、ファン)の
ニーズを満足できないということにも繋がってしまう・・
どちらが、どれが正しいとか悪いとか言う問題では無いのだが、なかなか複雑だ・・
匠「もうずいぶん歩いたなあ・・ 少し疲れただろう? ちょっと新神戸の
オリエンタルのあたりでお茶でもしていこうか?」
Nさん「ふふ・・・ すっかりデートみたいだね」
匠「当たり前だろうが・・(笑)」
Nさん「私の周りには、あまり気配りしてくれたり、リードしてくれる男性は
少ないみたいで・・」
匠「う~ん、それはまあ・・ (男性側の)慣れの問題でしょう(笑)
といか、Nさん、そういう風に色々気をつかってもらうのが好きなんでしょう?」
Nさん「アハ・・ さすが、私の事よく御存知だこと・・」
匠「もう長い付き合いだからねえ・・ それくらいわかるよ(笑)
お、美味しそうなケーキがあるぞ、ここどう? 別腹なのでいけるでしょう?」
Nさん「なかなかよさげね・・ じゃあ、ここにしましょう」
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匠「さて、何にしようか・・ お、キャラメル味のケーキがあるな、これにしようか?
いや、まてよ、キャラメルフレーバーの紅茶と、ノーマルなクリームのケーキとの
組み合わせも捨てがたい、しかしそれだとちょっと甘ったるくなるか?
う~ん、どうしようか、迷うなあ・・」
Nさん「ふふ・・ 男の人でも、そんな事で迷うのね(笑)
それに、実は私もキャラメルフレーバーは大好きなの、奇遇ね・・」
匠「あれ? そうだったの? それは初耳。 いやあ、知らなかったなあ・・
そうそう、たとえば恋人とか、そんな風な間柄になったとしても、新しい発見とか
色々あるでしょう? 常にそう言う風に新鮮な刺激があると長続きするよ。
つまり、最初の印象だけですべてが決まるわけでも無いということだよね。」
Nさん「しかし、最初の印象が悪いと、そもそも付き合わないというものあるよね」
匠「う~ん、だから、初期の段階でも(見えない)相手の情報をできるだけ引き出したり
読み取るようにしないといけない、っていう事だよね。
で、その為には、まずは自分から少し情報を出してあげなければならない、
たとえば今回Nさんが、キャラメル味が好きだということ、これは自分から言わない
限りはなかなか相手側にも伝わらないし、結果、相手の情報も引き出せない。
まあ、いくら、リードされるのが好きでも、そのあたりは上手いことバランスして
リードされやすいように相手をコントロールしていくのがいいよね・・」
・・・さて、恋バナ(=恋の話、恋愛論)がついに始まってしまった、
話題がこういうジャンルになると、なかなか止まらない・・(汗)
匠「おっと、キャラメルケーキとカプチーノが来たよ・・」

例によって食べる前に、カシャリ・・
Nさんもなんだか少し元気が出てきたようだ。
やはり女性にとって、恋愛と甘味は、元気の素、生きる活力なのに違い無い・・(笑)
写欲が無いときに無理に撮ってもしかたがない、写真表現なんて元々、
人間の精神的活動の中では、かなり高次の欲求のレベルに属する、
だから、心配事、悩み事とかがあれば、写真など手がつかなくて当然である。
まずは精神面の充足、そして楽しんで写真を撮れる状況になって、初めて自分の
感覚面の表現を充実させれるようになるのであろう。
1時間近くも、喫茶店(ケーキ屋)で、恋愛談義を続けた、
私もフラれた回数も多いが、恋をしている回数も、そう簡単に人には負けない(汗)
そんな事は自慢にはならないのであるが、ともかく恋愛談義は好きである・・(笑)
Nさんにとっても参考になる事が多かったのであろう、かなり真剣に、食い入る
ように聞いていた、もし手帳を持っていたらメモでもしかねない勢い・・
いや、もしかしたら後でこっそりノートにポイントを書き込んでいるかも・・(笑)
さて、喫茶店を出て撮影再開である・・
私は、まだ、今日のNさんの心理状況を意識しているのか、それとも感化されて
いるのか、いつものような被写体を撮ることができない。

どうしても、こんな被写体に反応してしまう。
そりゃあ、撮影仲間と一緒に撮っていたとしても、それぞれ自由に撮れば良いだけの
話であるのだが、やはり、撮影会とは言え、デートとかそれに準ずるような状況においては、
パートナーの心理状況というのに、自分の心もかなり影響されるのである。
・・・さて、Nさんは何を撮っているのかな?
ふと様子を見ると・・ ビルを撮っている・・(汗)

匠「あれ? 今度はビルかよ~? もしかしていつものカッチリ系写真??」
・・さっきまでの、乙女チック写真はどうしたのであろうか?
とばかり、Nさんの撮っている横に廻ってみると・・
Nさん「匠さ~ん、Optio の特別な撮り方を発見したのね、
カラーフィルター、それもグリーン系とかを使うの、そうすると普通の
ホワイトバランス調整ではできないようなカラーバランスの崩し方が
できるから、それとマニュアルフォーカスを併用すると、トイカメラ風の
写真が撮れるのね。 それに、Optio の一部の機種では、十字キーで
ダイレクトな露出補正ができるわ。 匠さんは以前、それが出来るのは
GRD だけと言っていたけど、このカメラの事、知らなかったでしょう?」

匠「ぐう・・(汗) 嬉しそうに撮っているなあ・・
うん、それでいいんだよ、写真好き、カメラ好き、の顔に戻ったね。
それに、Optio のその機能・・ へえ・・ 知らなかった(汗)
なかなか楽しそうだよね、それ余ってない? なんなら買うよ・・」
Nさん「ダメ~! これは私が気に入って使っているんだから。」
匠「ふふ・・ しかし楽しそうだよね、そう、それでこそNさんだよ・・」
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Nさんも私も用事があるという事で、夕方神戸を後にし、大阪の梅田で解散した、
NさんはすっかりいつものNさんに戻っていた、帰りの電車でもマニアックな
カメラ談義と恋バナ(笑)で、大阪までの時間はあっと言う間に過ぎた。
翌日、Nさんからメールが来た
『匠さん、昨日は私のウダウダ話に付き合ってくれてありがとう、
ずいぶんすっきりしたわ、また撮りに行きましょうね』
・・・あはは、勿論だよね。
でも、Nさんの写欲が戻って良かった、少しでも役に立てたのなら光栄だ、
そして、写欲というのは、やはり精神的な充足の上に成り立つという事も
再認識した次第だ。 思えば、私は、いつもこれと言った悩みがなくて、
休日ともなれば、好き放題写真を撮っているので、ある意味恵まれたものなの
であろう・・ ちょっとは悩みでもあって、写真が撮れない、とかなるくらいの
方がむしろ人生の勉強や経験の上ではいいのかも知れないけどなあ・・
そんな事を思いつつ、Nさんと一緒にいてほんの10数枚しか撮らなかった写真を
見ながら、でも、その1枚1枚の写真に、なんだか、人生とかそんなの重みを
感じて、今日のこの日を、また明日も、大切にしつつ、写真も楽しんで撮って
いきたいな、と、そんな風に思うのであった・・