マリさん「匠さんは、スパイスマニアなんですか?」
匠「(ぐぅ・・ いきなり核心を突く発言だよなあ・・汗)
いやあ、マニアというか・・ まあいちおう好きで集めたり料理に使ったり
してますけどね・・ というか、料理とは言えないシロモノでして、
いやあ・・・ 専門家の方を前にして、お恥ずかしい話です・・シドロモドロ(汗)」
そう、今日は、薬膳料理研究家の「
暖彩、小野槇玲(おのまり)」さんとの
ランチデートである。 実は彼女に会うのは今日が初めて。
でも彼女は、匠ブログのグルメシリーズ等をすでに読んでいただいている。
お気に入りは「仮想キャラクター」シリーズということである。
料理の専門家の方とのランチということで、大阪市内でも有数の、隠れた
地中海料理の名店をセレクトした。 あらかじめ予約を入れておいたのだが
残念ながらランチタイムの予約は不可とのことで、やむなく、時間を混雑する
時間からややずらしての待ち合わせである。
まあ、実際、店には待つ事もなく、なんなく入れた。
デート前でのこういう段取りは非常に重要である、これは料理も同様だが、
いつも言っているように、物事の順番の組み立てを考えて行動しなければならない。
なにも、いきなりランチタイムの12時ジャストに待ち合わせし、ビジネスマンで
いちばん混雑するお店の前で並ぶ羽目になり、しかも慌しく食べなくてはならない
などという事態にでも陥ったら、最初の印象を台無しにしてしまいかねない。
マリさん「いい雰囲気のお店ですね・・」
匠「ええ・・ 専門家の方に気に入ってもらえる味だったら良いのですが・・」
マリさん「うん、スープはいい感じです。 手間を掛けて作っているみたいです」
匠「一口飲んだだけでそんな事までわかるのですか・・? ううむ・・」
----
さて、マリさんの第一印象は、というと、非常に落ち着いた感じのアダルトな雰囲気
漂う美女である。 美女と言っても冷たい感じはなく、むしろ優しげなイメージであり、
嫌いなタイプでは無い。
でもまあ、私には心配事があった。 それは、私のグルメシリーズの事である。
なにせ、私の料理は、素人料理もいいところであり、しかもインスタントやら
ジャンクフードなどが中心であり、そのあたりの稚拙さを専門家の方に指摘される事を
恐れていたのである。
マリさん「料理は結構やられるのですか?」
匠「(ホラ来た・・汗 さて、どう答えたものか・・)
いえ・・ 独身男性の少しでも自炊率を上げようという試みでして・・
でもまあ、いわゆる悪い意味での「男の料理」のように効率やコストを考えず
また後先も考えず散らかすだけ散らかしたような料理はしたく無いと・・
それに私のブログの読者は男性の読者が大半で、あとは料理系の主婦の方も
多いです、そんな読者層に応える意味でも、安い食材で簡単に出来て美味しい、
コストパフォーマンスの良い料理をセレクトして載せています。
ただし、複雑な料理を作れ・・と言われてもそこまで技術もありませんが・・苦笑」
マリさん「私は、料理の楽しさを匠さんが多くの人に伝えるという気持ちがあるなら
それはそれで良い事だと思っているのですよ。」
匠「そうですか? それはどうもありがとうございます。
(ほ・・ これで一安心だ。 もし、あの素材のあの切り方はなってない、とか
そんな風に言われたら、どうしようかと思っていた・・汗)」
マリさん「あとは匠さんのグルメシリーズは写真が沢山載っているからいいですよね」
匠「(よし・・ 風向きがこっちに廻ってきたぞ)
ええ・・ ほら、普通料理写真というと、出来上がったものを、パチリと
まるでメニュー写真のように撮るだけでしょう? でも、それでは臨場感も
なければ、料理で苦労した点もわからない。 そもそも、本当にその本人が
作っているかどうかも疑わしい・・ 女優さんの料理ブログなんかもあるじゃあ
ないですか・・ だから私は調理中の写真をともかく沢山撮るのですよ・・」
マリさん「それはそうでしょうねえ。 でも、調理中の写真って難しくありませんか?
いったいどんなカメラを? 一眼レフとかそんな良いカメラですか?」
匠「いえ・・ ほとんどが、このような小さなコンパクトカメラですよ、
一眼レフでは片手撮りが難しいから、料理をしながらの写真には向かないのです」
マリさん「はあ・・なるほど。 コンパクトのデジカメなら私も使ってますよ。
で、料理写真は私も職業柄、絶対必要なんだけど、上手く綺麗に撮れない
ですよ・・ 例えば、匠さんが使っているのは、いいカメラなんでしょう?」
匠「まあ、普通のコンパクトよりは若干高いですが、基本は同じようなものですよ。
・・・さて、メインの料理が来ましたよ、お味はいかがですか?」
マリさん「美味しいですね・・ ランチでこの値段で、この味だったら文句無しですよ」
匠「よかった・・ このお店を選んだ甲斐があります」
マリさんは現在は姫路在住で、そのあたりを中心に料理教室やセミナーなどの
活動を行っているが、近々拠点を神戸に移すという。 大阪と神戸なら目と鼻の先だ。
私は、ちょっとマリさんの料理教室に興味が出てきた。
もし、こんな先生に教えてもらえるのであれば、モチベーションもバッチリに
なって料理が上達するかもしれない。 自分一人でやっていたら、いつまでたっても
ある程度のレベルにしか達しない、その為に「外の世界」を見ることは重要なのである。
これは料理に限らず写真だって同じことだ・・
マリさん「料理の写真を綺麗に撮るにはどうしたら良いのでしょう?
やはり照明とか、そんなのが大事なんでしょうか?」
匠「まあ、お店のメニューとかの写真だったら、そういうのもありだと思います、
でもまあ、それはそれで、いくら綺麗に撮っても、「差別化」とか「個性」とか
言う意味ではは、どうなんだろう? と思いますよ」
マリさん「腕が必要ということでしょうか?」
匠「いや・・ というより・・ そうだなあ・・ まあ、こんな例があります。
以前はグルメ情報誌などでは、記事担当の女性のライターとカメラマンとが
必要だった・・ しかし今の世の中、効率やコストや、あるいはデジタルカメラの
進歩等の理由で、たとえば女性のライターがカメラマンを兼任することもあると
思うのです、そうした方が撮った写真は、実に女性的ですよ」
マリさん「女性的な写真?」
匠「ええ・・厳密には機材や照明の問題もあるのですが、男性が、まるでメニューの
写真ように、カッチリと撮る写真とは根本的に違うのですよ。
そうだなあ・・ たとえば、このデザートのキャラメルプリンケーキ、
すでに少し女性的な撮り方ですが、じゃあ、もっと女性的に撮ってみましょう」
マリさん「ああ・・ なるほど、確かに女性的なような気がします。
ケーキは背景にしてボカしているのですね・・」
匠「普通、男性の感覚だったら、このようにわざわざコーヒーカップの縁を
主役にしたような写真は撮らないんですよ。 何が主体なのかはっきりしない、
でも、まあ、モノを綺麗に撮るということではなく、イメージを伝えたいわけです」
マリさん「なるほどねえ・・・」
匠「ところで・・ ご専門の「薬膳」について、もう少し聞かせてくださいよ。
薬膳って、漢方とか、そういう事なんですか?」
マリさん「あ、勿論漢方ってのもあるんですけどね・・ 薬膳はちょっと違うんですよ、
たとえば、私の言う薬膳では、材料なんて別に何でもいいんです、冷蔵庫の
中のあり合わせのものでもいいし・・」
匠「ウチの冷蔵庫の中は、カラッポですが・・(苦笑)」
マリさん「・・・(汗) まあ、それで、たとえば、春だったら、肝臓が弱まる季節
ですよね、だったら、ターメリックをちょっと入れてみるとか・・」
匠「ターメリック!! う~ん・・ そうか、そういう事なんですか・・」
私は、この瞬間、大げさに言えば、何かを悟ったように思った。
というのも、ターメリックというのは、カレーなどに入れるスパイスであるのだが
その香りよりもむしろ(黄色の)色づけを主体にしたものである。
私はスパイスを使う時、その香りや味、あるいは、どんな料理にそれを使うのか、
とか、今まではそんな視点でスパイスを選んで料理に入れていたのである。
で、それはたとえば写真の世界で言えば、カメラやレンズのスペックを丸暗記して
さらに、撮るべき被写体、たとえば、広角=風景、マクロ=花、望遠=野鳥、
のように、ある意味、数学の公式や歴史の年表を覚えるような感覚で、
機械的に機材を選んでいるような事と大差ないのではないか、と思ったのである。
でも、マリさんの言うスパイスの使い方は違う、スパイスはその効能からする目的、
特に健康面を維持したり、薬学的な意味からの、ちゃんとした目的があって、
その為にスパイスを選ぶのである、それが薬膳というものなのであろう・・
匠「むむむ・・ 私は今までスパイスの使い方を完全に勘違いしていました。
そうか・・ 目的があって、そのためにスパイスを使うのですね。
それは写真と同じですよ。 写真だって目的がまずあって、そのために機材を
選んだり、技法を凝らしたりするわけなんです。」
これは考えてみれば当然の事だし、いつも写真で言っている事を応用したら簡単に
そういう答えが導かれるはずだったのだが、私にはそもそもその発想が無かった、
概念が存在しなければ技術をいくら磨いても意味が無いのである。
スパイスマニアとか言って、このスパイスは、こういう香りでどの料理の
どの調理のタイミングで入れればベストか・・ なんていう研究をしたところで、
それは、カメラの世界の、悪い意味での「レンズマニア」(レンズグルメ)と
一緒ではないか・・ そんな研究をして、いったい彼らはどんな被写体を誰の為に
どう撮りたいのだろうか? 写真をやっていて、撮りたいものが無いほど寂しいことはない、
いつも私はそう思って写真を撮っているじゃあないか・・
料理も同じなんだ・・ 目的やターゲットユーザー(つまり食べてくれる対象)を
持たなければ、料理もただ自分の為の食欲を満たすためだけの行為になってしまう。
ううむ・・ そういう事だったのか・・ よくわかった。
私の中では、マリさんは、すでに私の料理の師匠としてのポジションに昇格して
いたのである。
匠「あの~ マリさん、男性向けの料理教室とかないのですか?」
マリさん「何度か単発のイベントでやったことはあるんですけどね、
ただ、そういうのは、たいてい奥様とか子供さんが申し込まれ、
男性の方は、特に初回はイヤイヤ料理をやっているようなケースも
多いのですよ・・・」
匠「なるほど・・ それはわかります、モチベーションがないですからね・・
やはり、独身の方、単身赴任の方、奥様を亡くされた方、そんな風に
料理をしなければ食べていかれない、といった状況におかれ、自ら
申しこんでお金を払って来られる方とは全然違うのでしょう・・」
マリさん「ええ・・ そうですね。 後者のような方向けのも企画していきたいです、
あと、ちょっと今考えているのは、お見合い料理教室とかも・・」
匠「え? それは、いったい・・?」
マリさん「まあ、たとえば料理教室をやりつつ、お見合いの要素も含めていくんです、
ほら、結婚したら料理は絶対必要になるでしょう?」
匠「なるほど~! それは面白い企画です。」
マリさん「あと、男性の方が料理教室に来る場合、たとえば腕自慢の方もたまに
いらっしゃいますよ・・ 魚をさばくのはまかせておけ・・ とかね」
匠「アハハ・・ その気持ちわかりますよ。 多少腕が立つものだから、それを
世間の中で確認したいとか思うのだろうし、できればチョット自慢したいとか。
あと、道具ヲタクとかいません? 高い包丁を自慢するとか・・」
マリさん「フフ・・ いらっしゃいますよ。 特に最近は流行っているみたいですね」
匠「やはりねえ・・ まあ、腕前自慢や道具自慢はちょっと勘弁してよ、という
雰囲気ですが、でも、男性向けの料理教室には行きたいですよね、
女性が混じると、そこに出会いとかの要素もあるから面白いのでしょうが、
逆に、下手なのに女性の前で料理はしたくないなあ・・ むしろ最初は
自分と同じレベルの男性の中で、恥をかいても掻き捨てで練習して、
ある程度上手くなったら、そうしたお見合料理教室なんかに出てもいいのかも
知れませんよね・・
もっとも、そんなことはまあどうでも良く、私はマリさんに教わることができれば、
それはそれで十分なんですが・・」
マリさん「ありがとうございます。 じゃあ、早急にそういう事も考えてみますね」
(う~ん、さりげなくの口説き文句を入れているのだが、はたして伝わっているの
だろうか・・? マリさんは美人だけど独身みたいだから(指輪をはじめ、持ち物
や会話の節々でチェック済み)男性に言い寄られる事も多いだろうし・・
どういう事なんだろう? ・・は、もしかして、恋愛の達人??)
匠「ところで、マリさんって、料理の他は何か、ご趣味とか得意な事とかは?」
マリさん「少林寺をやってます、でも、まだ初段なんですけどね・・」
匠「(げっ・・ 少林寺? う~ん、もしかして優しそうな雰囲気だけど、
もしかして内面はとても気が強いのかなあ? 男に言い寄られたら、少林寺拳法で、
エイ、ヤアと捻られて、アイタタ~、とう言う事なんだろうか? 汗)」
マリさん「さて、お店の方も、そろそろランチタイム終わりみたいですね、
匠さんは、これからどちらへ?」
匠「ええ・・この後は京都までちょっと用事で、それから、ギター、さらには
劇団の飲み会に参加・・ 今日は遅くなりそうです・・」
マリさん「写真に音楽に演劇ですか? それに料理まで・・ 多趣味ですねえ、
ところで、これ、試作品のクッキーなんですけど、食べていただいて
感想をいただいいてもよろしいですか?」
匠「ええ・・ 是非是非・・ 試食させていただきます。
じゃあ、また、連絡くださいね、料理教室・・
あ、とりあえずは料理教室の模様の写真と撮るとか、そんなのでも呼んで
下さいね、どこにでも出かけますよ・・」
マリさん「それは助かります・・ 是非お願いします、また連絡しますね・・」
その日の深夜、家に帰り、クッキーを試食しながら、マリさんからの連絡を
待っていた。
「まあ、そんなに早く連絡が来るわけないよなあ・・(苦笑)」
今日は携帯は鳴らなかったが、また近いうちにきっと連絡は来るであろう、
「恋のグルメシリーズ」(?笑)、また新たな展開はあるのだろうか・・?
「もう、すっかり春だよなあ・・」
冬の間に着たコートをクリーニングに出さなくちゃ、と、なんとなく思った・・