霜月「お~い、EMA、写真を撮りにいこうぜ」
(注:霜月了。29歳男性、オレ流ストレートフォト、技術優先志向)
EMA「なによ、もう夕方じゃない・・ 寒いわ」
(注:EMA。28歳女性、不思議流感覚優先志向)
霜月「何を言うか! 寒いから写真を撮らないだと?
だいたいオマエはそうやってもう2ヶ月も写真を撮りに行ってないじゃないか。
フン、所詮はお嬢さん写真家だよな。
夏は暑いから日に焼けるのがイヤで写真撮らない、冬は寒いから行かない・・」
EMA「オマエって言わないでよ!(怒) 霜月さんこそ、そんなにストイックに
写真、写真って言わないでもいいじゃない。
写真なんて撮りたい時に撮ればいいんでしょう?
だいたい男の人って・・ わざわざ寒い時に冬山に登って写真を撮るとか、
男のロマンだかなんだか知らないけど、風邪ひいたりケガをしたら何にも
ならないわよ。」
霜月「わかった、じゃあいいよ。 森田さんを誘っていくから。
だいたい、オレがオマエ・・じゃなくてEMAさんを誘ったのは、デートとか
と勘違いしてもらったら困るんだからな。 オレはただEMAが最近写真を
撮ってないのかと思って、ちょっと心配だったんだよ。
まあいい・・ お~い、森田さん~。」
森田「はいはい、呼ばれましたですか?」
(注:森田重雄。 63歳男性、ビギナーであるが最近成長著しい)
霜月「京都の嵐山に夜景ライトアップを撮りに行くのですが、ご一緒しませんか?」
EMA「ちょっと待って・・ ワタシも行くから。 今からしたくするね。」
霜月「ん? EMAも行くのか? だってさっき行かないって・・
まったくオンナは何を考えているかわからん・・ ブツブツ・・」
EMA「フフ・・ 夜景と聞いたらちょっと興味が出てきたのよ。
(・・それに、ワタシだけ置いてけぼりにされたら、イヤでしょう・・)」
霜月「わかった・・ じゃあ、そういうわけで・・・ で、今日の機材はこれだ」
森田「霜月さん、これは・・・?」
霜月「匠のオッサンいわく「夜間戦闘機」というセットらしい。
手ブレ補正内蔵の α-7D 、感度はISO3200までいける。 レンズはAF35/1.4の
大口径準広角だ、これだと、どんな暗い場所でも手持ちで撮れる。」
森田「へえ、三脚は必要ないのでしょうか?」
霜月「絞り込んで撮らない限りどこでもOKですよ。 それに多分ライトアップの
イベントは混雑するから、そんな場所で三脚なんか立てたら通行の迷惑です、
多分三脚は禁止でしょう、だから持って行っても、ただ重い荷物を運んでいる
だけになってしまいますよ。」
EMA「おまたせ・・ じゃあ行きましょうか?」
霜月「ん? EMA,オマエ、カメラは持っていかないのか?」
EMA「ワタシのカメラで夜撮れるものなんか無いわ。 それに、ワタシのカメラって・・
そういえば、ワタシ、カメラ持ってなかった(汗) いつも匠さんのを借りて
いたんだったわ・・(笑)」
霜月「(ズテッ・・) なんとまあ・・」
EMA「霜月さんだって、いつも匠さんの機材をこっそり持ち出しているだけじゃない」
霜月「ぐっ・・まあ、それはそうだが、オレにはいちおう Dimage A2 というオレ専用
とも言えるカメラがある。」
EMA「じゃあ、何故それを持っていかないの? 手ブレ補正入っているのでしょう?」
霜月「最高感度がISO800までで、開放F2.8~F3.5と暗いんだ。
たとえば、ある明るさで ISO800,F3.5で、シャッター速度1/2秒で、もう撮れない
という限界値の時に、夜間戦闘機ならば、ISO3200でそれより2段、F1.4の効果で
さらに2段半、合計4段半シャッター速度がかせげる、
え~と、つまり、同じ条件で、シャッター速度1/45秒で切れるということだ、
この差は大きいぞ」
EMA「ふ~ん、つまり、写真を撮りに行きたいのじゃなくて、カメラの性能を
試したいのね。 それってどうだかな~?」
霜月「ぐっ・・・(汗) オレはなあ、純粋に写真を撮りに行きたいんだよ!」
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森田「さあ、みなさん、着きましたよ。 嵐山です。」
EMA「わ~、キレイね。 でも、すごい人だわ。」
霜月「さて、じゃあ、カメラは1台しか無いので、皆で交互に撮りましょう。
最初は、では、森田さんどうぞ・・」
森田「え・・? 年齢順ということですかな?(苦笑)
で、え~、これはこのまま撮ったらよろしいのでしょうか?」
霜月「えっと、まだこのあたりは明るいですので、じゃあISOを400に設定しますね、
絞りはAモードで開放のF1.4のままでいいです、ここは触らないで下さいね。
で、手ブレ補正をONにして、露出補正が必要なら適宜かけて、うん、この場合は
少しマイナス気味にしましょう、で、シャッター速度に注意してくださいね・・
ん、1/125秒ですか? なら大丈夫です。
で、重要なのは、ピントはMFにしてくださいね、目で見て合わせます。
夜景でMFは苦しいけど、AFでは合わないケースが多いのでしかたないです。」
森田「では撮ります・・」 カシャ・・・ 「おお、ちゃんと写りますね」
霜月「アハハ・・これが夜間戦闘機の威力ですよ。 う~ん、でも、森田さん、
ブレてはいないけど、なんかシャープさに欠ける写真ですね」
森田「はあ、そうですね・・ これはなんででしょうか?」
霜月「同じ設定で、ちょっとオレも撮ってみますね」 カシャ。
森田「おお、同じ場所から同じように撮っているのに、霜月さんの方がくっきり
写ってますね・・ これは、腕の差でしょうか?」
霜月「いえ、多分ピント位置でしょう、森田さんの写真はピントが橋の中央の
あたりに合っています、オレの写真では、ピントを橋の手前、つまり右側の
方に合わせています。 F1.4のレンズは、この撮影距離でも深度が浅いから
橋全体にピントが合わず、少しボケるわけですね。
つまり、オレの写真は右側にピントを合わせているので、そこから視線が
順次橋の左側に流れていきつつ、少しボケていくので、不自然さが無いのです。
森田さんの写真は右側の大半が被写界深度外なので、全体にボケて見えるのです」
森田「う~ん、難しいですなあ・・ よくわかりませんわ・・(苦笑)」
EMA「なるほどね、ピント位置って大事なのは良くわかったわ。
じゃあ、次はワタシの番ね・・」 カシャ・・
霜月「ぐう・・ これ、どこにもピントが合ってないのでは?」
EMA「匠さんの言う「全ピンボケ夜景技法」だわ。 まあ、ワタシ流に言えば
「ボケラー」の変形なんだけどね、ウフ・・」
霜月「(何が、ウフ・・だよ・・ ちょっと最近技術を覚えてきたからと言って
調子に乗りやがって・・ )」
森田「じゃあ、わたくしも撮ってみますね。 え~と、ピント位置に注意ですね。
ではちょっとこのへんに合わせてみましょう」 カシャ。
EMA「わ~、森田さん、お上手ね。 手前にピントを合わせ、背景はボカしたのね」
森田「はあ、なるほど・・ こういう風に撮るのですか・・」
霜月「う~ん、まあ、よく撮れてますが、ちょっとシンプルすぎるかな?
あと、水平には気をつけてみてくださいね」
森田「あ、確かに曲がってますね・・(汗) 低い位置から撮ると、どうしても
水平が難しいです。 今度から気をつけますね。」
霜月「あまり神経質にならないでもいいですよ、水平垂直なんて、今時はレタッチ
ソフトでいくらでも直せるし、それがカッチリしているのがいい写真だなんて
そんなことも無いでしょうから・・」
森田「はあ・・」
霜月「まあ、それはいい、次はオレの番だ。 じゃあ、あそこでパフォーマンスを
やっているので、それを撮るぞ・・ え~と、ISO1600で絞りをF22まで絞り
マイナス補正をちょっとかけて、これでシャッター速度が1/10秒だ、
こんなもんか・・・」 カッシャ。
森田「う~ん、さすが霜月さん、炎がちゃんと尾をひくように撮れてますね」
霜月「ふふ・・・ これはちょっと難しい撮り方なんだけど、さすがに手ブレ補正が
よく効いてるので助かるな。」
EMA「まあ霜月さんは、今日は写真を撮りにきているのじゃなくて、カメラの
性能テストだからね・・ では、ワタシはワタシなりに・・」 カシャ。
霜月「オマエ、またピンボケ技法かあ? ちょっとワンパターンじゃないのか?」
EMA「何を言うのよ? それにオマエって言わないでよ(怒)
あのね、技法、技法って・・ 霜月さんは、いつもそればっかり。
技法で分類したら全部同じ写真になるの? そんなわけ無いでしょう?
さっきのピンボケと、このピンボケは、表現したいことが全然違うの、
その差が霜月さんにわかるかなあ? みんなピンボケでひとくくりにしたら
まあ、わからないでしょうけどね・・」
霜月「ぐっ・・ 何を言うか。 オマエ・・EMAこそ、表現、表現って・・
1枚目と2枚目とどこが違うんだよ? おんなじピンボケじゃあないか?
オマ・・ EMAが勝手に違う表現だと言っているだけだろう?
そんなの自分勝手にそう思い込んでいるだけだよ。 おんなじだよ、おんなじ・・」
森田「まあまあ、お二人とも・・ 今日はせっかく写真を撮りにきているので
楽しく撮りませんとなあ・・ ほら、綺麗に竹林がライトアップされてますよ。
嵯峨野のこのあたりは、昼間でも風情がありますが夜もまた格別ですなあ・・・」
霜月「ほほう・・ 森田さん、がんばりましたね。 ブレてませんよ。
どれどれ? ISO3200でマイナス0.7補正で 1/20秒ですか。
手ブレ補正が入っているとは言え、立派なものです。
で、ほら、そこに三脚立てている人がいますよ、まったく通行の邪魔ですね、
道の端っこで小さくなって撮っているとは言え、後ろから通る人は皆よけている、
おまけに、中には写真を撮っているからと言ってわざわざ立ち止まってくれている
人までもいます、でも、あのオヤジはシャッターなんかすぐに切りませんよ、
1枚撮るのに何分も悩んでいる。 人に迷惑をかけ、かつ自分本位・・
まったく困ったものです、森田さんを見習って欲しいですな」
森田「わたくしも、今日撮ってみて、三脚なんか無くても撮れるとうのが初めて
わかりましよ。 あの人も単に知らないだけなのではないでしょうか?」
霜月「知らないこと、無知なのはしかたないですよ。 いずれ試したり勉強すれば
それは解決する。 でも、周囲に迷惑をかけるという事を平然とやっているようでは、
それは言われても治らないことかもしれない、そこが問題なのです」
EMA「じゃ、三脚を使わなくても、もっと楽しんで色々と撮れるって教えてあげたら?」
霜月「そんなこと・・ 自分で写真を撮っているだけだったら気が付かないし、
雑誌や本にも書いてないし、下手すれば三脚使って撮りましょう、とか、まるで
正反対の事を推奨している。 あるいは写真教室だって下手すれば、撮影マナーも
教えずに、ブレた写真はダメだとかそんなことばかりで、肝心なことはちっとも・・
まあいいや、ここでグチってもしかたない。 ともかく撮るぞ」カシャ。
森田「ほほう・・ なかなか格好いいですなあ・・・」
EMA「あ、それいいわね、じゃあ、ワタシも・・」カシャ。
霜月「(ぐぅ・・ 同じような撮り方の技法なのに、オレの写真とは全然違う・・汗
なんでEMAはこんな風に撮れるんだ? やはり技法と表現は違うものなのか?)」
森田「ふむふむ・・ さすがにEMAさんの写真はいいですなあ・・」
EMA「どう、霜月さん・・ まいった?」
霜月「いや、まいらない・・(苦笑) だいたいこの写真はピントが甘いぞ、
もっとちゃんとピントを正確に、そして被写界深度も浅くなっているのを
よく理解して、注意して撮らないといけない」
EMA「フフ・・ そんなことはどうでもいいのよ。 要は撮りたいものが
見えているかどうかじゃないのかな? 霜月さんもがんばってね・・」
霜月「ぐう・・ なんだその言い草は・・(怒)」
森田「まあまあ・・ 今日はせっかく写真を撮りにきているのですから・・(苦笑)
ああ、じゃあ、わたくし、どこまで手持ちで撮れるのか、ちょっと確かめて
みたくなってきました。 じゃあ、あの真っ暗闇の中のトラクターを・・」
霜月「ヲイヲイ・・・ 森田さん、それはいくらなんでも無理では?(汗)
これ完全に真っ暗だから、いくら夜間戦闘機でも、1/2秒とか1/4秒とかに
なるのでは? それに、ここまで暗いとMFでピントを合わせようにも・・・」
森田「ピントはカンですな・・ どれどれ・・ 1/3秒ですか」 カッシャ~
霜月「ひょえ~! 撮れている! 凄い、森田さん、やりますなあ・・」
森田「アハハ・・ たまたま上手くいきましたな。 いやあこれは嬉しいです」
霜月「(ぐう・・これはヤバイよ・・ 森田さんはここのところ急速に上手くなって
来ているのは知ってたけど、技術面でも成長が著しい・・
こんな手持ち超スローシャッター撮影は、オレくらいしか出来ない技(ワザ)
だと思ってたけど、森田さんがこれをクリアしてしまうとは・・
そりゃあ、写真的には面白くないかもしれないけど・・・ ああ、それは
オレの写真も同じかあ・・苦笑 でも、この技術は凄い・・)」
EMA「森田さん凄いね。 じゃあ、霜月さんも、ちょっと凄いの撮ってみてよ」
霜月「(ぐう・・またEMAに焚きつけられている・・ でも、もうここでオレが
同じように手持ち限界に挑戦してみたところで、もし失敗したら格好悪い・・
う~ん、何を撮ったらいいんだ・・ わからないけど、まあ、これで)」
EMA「何よこれ? まあちゃんと撮れているけど、つまらない写真ねえ・・・
だいたい冒険心が無いのよね・・ もっと写真は楽しく撮らなくちゃ・・」
霜月「(グサッ・・) 何を言うか? オレは楽しく写真を撮っているよ。
じゃあ、EMAはどうするんだよ? 何かに挑戦するのか?」
EMA「フフ・・ じゃあ、森田さんが1/3秒のスローシャッターなら、
ワタシは2秒だわ。超々スローシャッター撮影よ。」
霜月「アハハ・・何をアホな事を。 いくら夜間戦闘機でも、2秒間の手持ち写真が
撮れるわけないだろう? ブレブレになるだけだよ。 まあいい、やってみなよ」
EMA「うるさいわねえ。 じゃあ、撮るわよ。」 カッシャ~~~~~ン。
霜月「ぐう・・ お、踊り撮りとは・・・・(汗)」
EMA「そうよ。 踊り撮り。
花火撮影で匠さんに教わったのよ。
ブレる事がわかっているのなら、最初からブラしてしまえばいいのよ。
発想の転換ね・・ それに撮ってて楽しいわ。
霜月さんは考えが凝り固まっているのではないのかなあ?」
霜月「むむ・・(確かにオレは発想が凝り固まっているのかも知れない・・
EMAのように自由に写真を撮りたいものだ・・ まだまだ修行が必要だなあ・・)」
EMA「もう寒くなってきたわ、そろそろ帰りましょう・・」
森田「そうですね、寒いですなあ・・ じゃあ、ボチボチ・・」
霜月「あ、オレ、携帯カイロ持っているけど・・・来る前にコンビニで買ってきたんだ」
EMA「むっ。。 こらあ、霜月了~! 最初から、それを出さんかいなあ・・(怒)
まったく気が効かない男だこと・・」
霜月「は、はあ・・・ すんません。(なんでオレが謝らなきゃならんのだ。。?)」
森田「まあまあ、お二人とも、今日は、楽く写真が撮れたから良いということで・・」