APS、皆さんはこの規格をご存知だろうか?
そう、今から10年くらい前か、35mmフィルムの弱点を解消しようとして
鳴り物入りで登場した規格である。
APSとは「アドバンスド(先進的)・フォト・システム」の略であり。
一般には「新(写真)システム」といわれていた。
今から考えると多分に飽和しかけた35mmフィルム市場を新たに開拓しようとした
気概が感じられる、そういえばこのころ「チェキ」をはじめとする新しいインスタント
フィルムのフォーマットも出始めたし・・カシオのQV-10などの初期のデジタル
カメラも出てきたから、フィルムメーカーも色々な危機感を感じてたのかもしれない。
APSフィルムは35mmフィルムの弱点をいくつか解消している、
その特徴をあげよう。
①小型軽量であること(カメラも小型軽量にできる)
②ベロがなく、パトローネのままフィルムに装填できる(装填ミスが無い)
③MRCという途中巻き戻し機能があり、フィルムを入れ替えたり
(例:モノクロとカラーを使い分ける、感度を変えるなど)
家族などの複数の人で1台のカメラを共有できる
④IXという磁気データを記録する部分があり、ここには、
A:絞りやシャッター速度などの露出値や露出補正値
B:撮影年月日、時間など
C:プリント枚数(例:3人での記念写真なら、3枚出力と指定できる)
D:メッセージ(例:Happy Birthday , I Love You など。5種類くらいの言語に対応)
などを記録でき、プリントの表面、あるいは裏面に印字できる
⑤インデックスプリントという、今で言えばサムネイル画像、昔で言えばベタ焼きの
ようなプリントがDPEのおまけについてくる。
⑥35mm版と同様の3:2アスペクトの(C)サイズの他、3:1のパノラマ(P)
16:9のハイビジョンサイズ(H)の切り替えが1枚づつできた。
などであった。
街の現像屋は、DPEの機械をAPS対応に変えるために、多額の投資をしなければ
ならかなった。 だから最初はASPの同時プリントは1000円くらいもしていたが
後に35mmと同等の600-800円程度に落ち着くことになった。
しかし、APS対応の結果、古いプリンターが全部一新され、同時プリントの品質が
格段に向上したのという効果もあった。
しかし、APS自体のこれらの特徴を示す戦略はあまり有効でなかった・・・
その理由を上げる。
反①小型なのはいいが、当時の銀遠常識で言えばフィルムのサイズは大きければ
大きい程高画質といわれていた、トリミングでさえもごちゃごちゃ言われていた時代
である(ちなみに、デジタル時代の現在は、そんな常識はもはや前世紀の遺物である)
35mmフィルムにくらべて半分くらいの面積しか無いAPSは画質が悪いと言われた。
おまけに、最初にHITしたキヤノンの初代IXYが、今だから言えるが、
その高品位なスタイルとは裏腹に、とんでもない安物ズームレンズを搭載していて、
画質が酷く悪かった、その事でAPSは画質が悪いという悪評がさらに蔓延した。
反②イージーローディング(簡単にフィルムを装填する)技術は、APSだけの
特権ではなかった、フジ・ティアラをはじめ一部の機種には、35mmフィルムでも
簡便にフィルムを装填するカメラが存在していた。(ドロップ・ローディング)
反③MRC(ミッド・ロール・チェンジ=途中巻き戻し)機能は、まずそれを搭載
しているAPSカメラ自体がかなり少なかった。
おまけに、時代はすでに1家に1台のカメラではなく、個人に1台のカメラなんて
常識であった、「一杯のかけそば」ではあるまいし、誰が家族で一台のカメラを共有
するだろうか? まったく世の中の現状を理解していない仕様であった。
・・・しかし、1本のフィルムを途中で別のフィルムに交換できるのは嬉しい、
何故マニアはそれをやらなかったか? ・・・実はやりたくてもできなかった。
APSのリバーサルなんて皆無に等しかった、ISOだって、当初100と400が出て
いたが、後に、ISO200の感度のフィルム以外ほどんど見なくなった。
モノクロ? 皆無である。 コニカだったか「セピアフィルム」が一時出ていたので
それは重宝して私も沢山使った、しかし、そのクラスのマニアは1本撮りきる前に
交換する程カメラには不自由していなかった、必要となれば複数のカメラを使えば良い。
反④IXデータ記録は、操作系がどうしようもなかった。
せっかく、I LOVE YOU などのメッセージが入るのに、カメラ自体もAPSで小型化
されていたら、液晶部分にその文字を表示することができない。 J-1(日本語の1番)
などという表示が出るだけでは、何のメッセージが出るのかすらわからない。
おまけに、ラボ(現像所や街のDPE店)のプリンターは、それに対応しているものと
していないものが混じっていた、対応しているものでも、プリントの表面に印字される
ものもあれば、裏面に小さく黒文字で印字されるものもある、なんか訳がわからなかった。
もちろん、カメラの操作系そのもので、他の種類のデータ入力をも簡便にできるものは
皆無であった、プリントの枚数なんて実際に設定できる機種があったかどうかも
疑わしい。 露出値が印字できるカメラも、数えるほどしかなかったと記憶している。
反⑤インデックスプリントは、皮肉な事に、ラボのプリンターが一新された後は
通常の35mmネガプリントでも、それが可能になった。 だからAPSだけの特権では
なくなり、優位性はなくなった。
反⑥35mmでも、プリントが高価なパノラマサイズは嫌われ、一時期ほぼ全機種に搭載
されていたパノラマ機能搭載を見送っているカメラも出てきたころである。
そりゃあ、高価な上に、フィルムの上下をただ単にカットしただけでは、ノートリ主義
でなくても「パノラマ? ふざけるな」ということになる。
APSのHやPモードへの切り替えは、すでに「お遊び」であると、一般の人ですら
気が付いていた。まったく、マーケティングすら無かったのかと悔やまれる仕様である。
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さて、では、ここで、APSの代表的コンパクトカメラをあげてみよう。
実はAPSの一眼レフ、あるいはレンズ交換不可な一眼レフタイプのカメラは
いくつかあったのだが、私は入手しなかった。 今でこそデジタル一眼でおなじみの
焦点距離(画角)が変化する(1.4倍になる)という部分が当時の私にはどうしても
なじめなかったし、レンズ交換ができない一眼はどんなに小型軽量でも魅力がなかった。
そこで、私は、高画質な、あるいは非常に特徴のあるAPSカメラのみを実用の目的
で買ったのである。
写真一番前:CONTAX Tix
APS唯一かつ最強の高級コンパクト。 28mm/f2.8 (35mm銀遠換算 35mm/f2.8)の
カールツアイスゾナー単焦点レンズを搭載し、超高画質と高速シャッター、チタンボディ
などの高品質と高性能を売り物にした。 価格はなんと12万円と高額。
しかし、このカメラは実際に良く写った。
高性能のレンズを搭載したAPSでは、ちょうど一新されたラボ機材のプリンターと
あいまって、下手な35mmネガに勝るとも劣らない解像度があり、ツアイス伝統の
コントラストとシャドウ部の階調表現は、このカメラの性能がただものでは無い事を
見てとれた。 そして、デザインも秀逸であった。 後のT3とほぼ同じ大きさの
ボディであるが、プラスチック混じりのT3とはちがい、こちらはフルのチタンである。
おまけに絞りリングの存在やバランスのとれたフォルムは、ある意味CONTAXのTシリーズ
の中ではもっとも美しいデザインをしていた。
しかし、残念ながら、カメラ雑誌などの解説では、このカメラの真髄にいたる事は
できず、それというのも、APSの小サイズに対する拒否反応が、古い常識に捕らわれた
ライターやプロの頭から離れずに、所詮はAPSということで真面目な評価すらしなかった
からだと思われる。 今だから言えるが・・・このカメラの高画質をAPSという理由で
まともに評価できなかった事は、レンズを見る目が誰もなかったのでは無いのかと
しか思えない、ウソだと思うなら、今や中古で3万円くらいで買えるこのカメラを
買って、いまだに細々と売っているAPSのフィルムを入れて写してみたらよい。
おそらく、ほとんどの上級者やマニアでも、T3との画質の良否の比較はできないの
ではないだろうか? あ、もちろん、銀遠一眼の標準ズームレンズよりも高画質なのは
言うまでも無い。
手前から2段目右: CANON IXY 310
APSナンバー2の高画質機種。
「あれ? IXYは酷いズームだと言ってなかったか?」
そう、言った。 しかしこの 310は、単焦点である。 準広角のf2.8レンズは
CONTAX Tix に次ぐ高画質で、長年にわたり私のポケットに常備されていた、
「銀遠最軽量の」コンパクトカメラである。 今は常備されているのは同じく CANONの
IXY Digital L 単焦点デジタルである。 CANON IXY というカメラは、単焦点はこんなに
高画質なのに何故ズームとなると手を抜くのであろうか? いや、きっと、小型軽量が
コンセプトなので、もともとズームの搭載は無理があるのかもしれない。
けれど、このクラスのスタイリッシュカメラを欲しがる連中は、同時にミーハーな
ズームが付いてなければイヤだと言って、だれも単焦点のIXYなんかは買わないので
あろう。 だからこの 310もまったく評価されなかった。
しかし、今だからこそ断言できる。このIXY 310はAPSカメラの中で2番目に高画質な
歴史的な名機であると・・・
手前から2段目左: FUJI Tiarra IX Titan
35mmの名機ティアラの名前を受け次ぐAPSの名機、そう、NO3の高画質機種。
このモデルには、チタン版と、非チタン外装の廉価版があった。 見た目ですぐわかる
違いは、シャッターボタンの中の色である、赤がチタン、青が非チタンである。
チタン版も非チタンも、通称「ひげそり」と言われる小型のユニークなデザインで
ケースを引き出すとレンズと小型のフラッシュが繰り出してくる。
デザインは、まあ、かなり格好いい方である。 これは私は「パーティカメラ」として
様々な場所でお洒落な女性達の注目を浴び、またお洒落な女性達を撮ってきたカメラ
であった。 未だにこれをたまに持ち出すと、デジタルカメラと間違えられる小型で
綺麗なデザインと、デジカメではありえない完全チタン外装の、ずっしりとした高品質
は、持つ人の品格をも高めてくれる貴重なお洒落アイテムである。
画質もそこそこいけるし、中古があれば、「世の中で最も安価なチタンカメラ」として
所有するのも良いであろう。 オススメである。
なお、これのズーム版もあるが、例によって、画質はがっかりしてしまう・・・
手前から3段目左:KONICA BIG MINI BMS100
いわずと知れた35mm名機 BIG MINI の名前を受け継ぐAPSの中堅名機。
実は、この機種は最近入手した。 もちろん、コニカがミノルタと合併して、
しかも、APSがこの現状であれば、こんなカメラがまともに新品で売れるわけが無い。
カメラ屋のワゴンセールで、いわゆる「スーパーの見切り品」状態である。
スーパーに買い物に行った事もない、おぼっちゃま、お嬢様は知らないかと思うが、
見切り品は賞味期限間近や、新商品との入れ替えの為、半額とかの値段で売られている
ものである。 ちなみに、私は「スーパーの男」あるいは「商店街の帝王」と言われる
ほどの、この手の安物買いが好きで、10円安いものを買うためには電車賃を150円掛ける
といった(汗)不合理なまでの安物買い満足男である、これはまさしく「主婦」の感覚に
近いものがあり、買い物という日常の行為だからこそ、そこになんらかの満足感を得る
ために、少しでも安いものを(実際には電車賃をかけて行くのは邪道・・ママチャリを
一生懸命漕いで隣町のスーパーに行くのである・笑)追い求める求道精神を貫くのである。
話が脱線したが、このAPSは見切り品状態で買った、新品価格は何と 1280円。
トイカメラよりも安い、しかも正真正銘のカメラであり、APSではあるが、
高級コンパクトにも見劣りしない、かなりの高画質なコンパクトカメラである。
この価値感覚を知ってしまうと、中古の高級コンパクトを7万円も出して探して買う人達、
あるいは新品のデジタル一眼を10万円も出して買うのがとても奇妙に思える。
だって、1280円で、まともなカメラが買えるんだよ? まあ、趣味だからしかたないが(笑)
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手前から3段目中:KONICA REVIO CL
これも、同様にワゴンセールで1980円で新品入手した、単焦点準広角APSカメラ。
「自分撮り」ができる、ポップアップ式の小型ミラーが上部についている。
私は自分撮り=セルフ・ポートレートはやらないが、女の子とツーショットを撮る時は
便利で嬉しい仕様である(笑) しかも、嬉しいことに、25mm準広角レンズは、
換算で1.4倍すると、30mm強であるので、広角と言ってもさほど広い画角では無い、
だから、ツーショット撮影では、かなりくっつかないと撮れないのである。
「ほら、もっとくっつかないと、入らないよ」・・・ う~ん、何でデジカメで
この小型ミラーのついている機種は無いのであろうか? マジで強く熱望する(笑)
(バリアングルモニターがあるね・・ それ、採用!・笑)
ちなみに、もう画質なんかどうでもいい(爆) けど、さすが単焦点、結構良く写る。
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手前から3段目右:OLYMPUS M-10 ULTRA MACRO
これは、GOKO社のOEMカメラである。 GOKO社は、ほとんど知られて
いないが、多くのメーカーのコンパクトカメラを生産している縁の下の力持ち的な
メーカーである。 GOKOが自らのブランドを使って生産したカメラは、
ウルトラマクロシリーズの数機種である。
このオリンパスのカメラは、「マクロ」を、そのメーカーの特色、ポリシーとして
非常に力を入れてきたオリンパスが、あえてGOKO社に発注して作ってもらった
カメラであると容易に推察できる。
最短撮影距離はなんと10cmである。レバーを切り替えてこの超近接モードにすると、
恐ろしいことに、自動的に絞り値がf=45前後まで絞り込まれる。
「そんなに暗くして写るのか? ブレないのか?」と思うかもしれないが、
実は、この場合は、必ずフラッシュが発光する。
「ちょっとまてよ、GN(ガイドナンバー)はいくつだ?光は届くのか?」
・・・心配するな、この内蔵フラッシュのGNだと、10cm~30cmあたりまで届く。
「何? たったそれだけか?」
・・・マクロ撮影だから問題ないよ、それより、このように割り切った仕様にした
事を誉めてやろうよ。 ちなみに、ピントなんか無いよ、合わせる必要ないだろう?
10cm~30cmに入っている被写体だけ、フラッシュの力でなんでも撮れるんだよ。
なに? 背景? 勿論全部真っ黒だよ。 何か問題あるか?
「いや・・・確かに思い切った仕様だな」
・・・素晴らしい仕様だよ、なにせ、マクロのノーファンダーが撮影可能な機種は、
このシリーズしか無いんだ、付属ストラップの 10cmと30cmのところに目印が
ついている。 まあ、慣れればそれもいらない。 花や小物に無造作に近づけて
パチリと撮れば全部確実に写っている。 おまけに、フラッシュの瞬間光は、
約1/10000秒の高速シャターに等しい、扇風機の羽根も、水滴を落したミルククラウン
(ミルクなどの液体を落した瞬間、王冠のように跳ね上がる)も撮れると聞くぞ。
「なるほど、それは凄い。 それで写りはどうだ?」
・・・まあ、遠距離はあまり期待するな(汗) 近距離は勿論フラッシュを焚くから
全部平坦に写る、深度もなにも無い、背景は常に真っ黒。 まあそんなもんだ。
特殊な用途に特殊に使えるカメラ。 まあ、このオリンパス製は今やレアであるが、
本家GOKOのウルトラマクロは同じ仕様で、しかもあれば数千円と非常に安価に
入手できる、1台持っていても損はないであろう。
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いちばん奥の黄色いカメラ:MINOLTA ヴェクティス GX-4
水中APSカメラである、防水仕様で水深5m程度まで使える。
ISO感度が100か400に限られているので、現在普及しているISO200が使えない
のは欠点であるが、貴重な水中カメラではある。
これは海やプールで良く使った、まあ、しかし「水中写真」なんていうモノは撮れた
試しが無い(汗) 一緒に行った女の子の水着水中ポートレートを撮るのである(笑)
しかし、最近はめっきり出番が無くなってしまい、肝心のレンズ(というより
プラスチックの保護板)も曇ってきてしまった。 もともと写りはどうでもいい
類のカメラである、楽しむためのアイテムなのかもしれない。
まあ、それよりも、水中で遊んで水着写真を撮らせてくれる彼女を探す事が先決
なのかもしれない、来年こそはがんばろう(笑)
ちなみに、今だったら、デジカメ用水中ハウジングが簡便かもしれない。
よし、それを買いに行こう、使う機会が無ければ自分の責任だ、よし、頑張るぞ~(爆)
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以上である、今回は今や絶滅寸前のAPSフィルムとAPSカメラにスポットを当てて
みた。 一時代を築いたカメラであることは、私が沢山のAPSカメラを楽しく使った
事でわかってもらえると思う。 絶滅寸前と言ってもまだ現役でフィルムもカメラも
売っているし、現像だって問題なく出来る。 是非、APSカメラを見かけたら歴史の
1ページを今からでも遅くないから、貴方の手で書き込んでいってもらいたい。