「匠さん、私決めました!」 美女O嬢が言う。
(ドキッ! いったい何を決めたんだ? ・・・こういう場合は普通はろくな話では無い。
外国へ行くとか、結婚するとか、仕事を辞めて田舎へ帰るとか。。。
まあ、そんなネガティブな話では無いのかもしれない。 うん、悲観的に考えるな。
けど、じゃあ、ポジティブな話って何だ・・・?? まさかコクられるとか??
オロオロ・・・ いやいや、まずは、ここは冷静に・・汗)
・・・「おっと、いったい何を決めたのかな?」
「えっと、買うカメラですけど・・・」
(ホッ、その話か・・・
まあ、そりゃそうだ・・ 自分が「匠」だったことを、すっかり忘れていた・笑
私に聞くならば、カメラの話に決まっているだろう? 何をあせっているのだ。
でも、やはり美女に言われると、恋愛関連の話かと思ってドキドキするのである)
「New F-1 にします!」
・・・ゲッ! やはり NF-1かよ~! オロオロ・・・(結局アセッた!・笑)
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実は以前からO嬢には、カメラ購入について相談されていた。
O嬢の家には、父君が使っていた、CANON AE-1とFDレンズ3本がある。
ところで、こないだEOSのデジタルを扱う中級者に「 FDレンズって何ですか?」って
聞かれて思わず、ズテッてコケたのであるが、まあ、知らないものはしかたがない。
FDレンズは、現在のEOSのEFの前のマウントの名前である。 EOSとは互換性が無い
ので、同じキヤノンでも取り付けることはできない。 ちなみに何度も言うが
「キャノン」ではなくて「キヤノン」である、99%の人は間違って覚えているので、
ここでちゃんと覚えておいて欲しい。
FDマウントには優秀な単焦点レンズが多く、私は、かなり好きである。
特に広角の F2.0級の単焦点は、非常に高性能であり、下手をすると、現代の
殆どの一眼レフ用の広角単焦点と比べても、FDの方が高性能のように思える。
しかし、デジタルでは非常に使いにくい(マウントアダプターもほとんど無い)
ので、銀塩専用になってしまう。
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O嬢は当面銀塩で行くつもりなので、デジタルの事はあまり考えなくてもいい。
おまけに、α-7をはじめとする銀塩の優秀なカメラの事もさんざん伝えた上で
どうしてもマニュアル機が欲しいとのことである。
オリンパスOMにも相当興味がある雰囲気であったが、やはり決め手は、家に
あるFDレンズの活用である。 けど、そのFDも長期間使っていないらしいから
カビなどが気になる。 FDを使うならば、候補となる名機は数えるほどしかない。
FTb,F-1N,A-1,T90,NF-1 くらいなものか。 しかし、FTb、F-1Nはもう時代的に古い、
・・・というか、AE-1を父君が使っているのに、それよりもむしろ時代が古いカメラを
買わせてしまったら、それを見た父君としても複雑な心境であろう。
そんなつまらない事で、もし、万が一将来、門前払いでもなったら困るのである(笑)
父君「なに~?おまえがウチの娘に、ワシのよりも古いカメラをそそのかしたヤツか!」
・・・などと、激怒されたら大変なのである(爆)
まあ、あくまでも万が一であるが・・・念には念という言葉もある(笑)
すると、A-1、かT90、しかし、これらは壊れたらもう修理が効かない、
自分で使っているやつならまだしも、新たに中古で買うには勇気がいる。
しかし、たしか、ウチにあったはず・・・ゴソゴソと探す。
「・・・おっと、そうだった、A-1は、例の
浴衣美女のKさんに譲ったんだった(汗)」
「T90は?・・・あった! しかし、これは、これで程度の良い個体を入手するのは
現在で難しくなっている。 だから程度の良いこの個体を譲るわけにはいかない、
T90という線も残念ながら無いな・・・」
・・・「O嬢、まあ、買うなら、New F-1だけど、ちょっと重いのが難点だよ、
とりあえず私のブログに非常に詳しい
記事が書いているので、見ておいてな、
それと、次に会う時に、New F-1持ってくるから、ちょっと持ってみな」
そして、O嬢に一度 New F-1を持ってもらって、感触を確かめてもらったのである、
やはり少し重いのと、私のはアイレベルであったので、AEが無く、完全なマニュアル
露出になるのが、ちょっと難しいかも・・ とのことであった。
だったら、AEファインダー付きのもあるが、今度はデザイン的に格好悪くなる。
わざわざ昔のマニュアル機、メカニカル機を購入したいという、こだわりを持っている
人は、デザインにもこだわりを持っている。 カメラの事はさほど詳しく無いO嬢で
あっても、露出計やメカを無理に組み込んだ、F2のフォトミックや NF-1 AE を見て
それよりも、NF-1 アイレベルやら、アクセサリーシューを外した OM-1,OM-2のデザイン
の方が格好良いと思うセンスを持っている。 これは、カメラマニアの美学と同じ
なので、その点では、私が思うO嬢のニーズは間違いないであろう、T90なんか
見せたら、「なにこのぐにょぐにょのEOSもどき・・」って言われてしまう
かもしれない(汗)
まあ。 これまでは、そんな話をしていたのである。 結論は出ていなかった。
そして、O嬢が New F-1を購入する事を決めたのだったら、まあ、それで良い。
というか、最良の選択であろう。
あとは程度の良い New F-1を探すことが私の役目である。
すぐさま中古カメラ屋に電話連絡する。
・・・「匠です、NF-1、アイレベル程度のいいやつ、すぐ流通から拾ってください!」
「了解、アイレベルね、AEじゃないですね?」
・・・「うん、いちおうアイレベルで、まあ、AEもあれば候補として・・」
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数日してカメラ屋によると、
店長「匠さん、明後日入ってきますよ、とりあえず5台」
・・・げっ! 5台も入ってくるの? そんなにいりません、1台でいいですよ(汗)
「あはは、ちょうど沢山あったんでね、好きなの選んでよ」
・・・種類は何が?
「旧F-1N、NF-1アイレベル、AE,それと、NF-1のオリンピックが2台。」
・・・むう、NF-1 ロサンジェルスオリンピック仕様ですか!
ちなみに、通称「ロス五輪」は、数年前までは、15万円から20万円程度で取引された
コレクターズアイテムである、もちろん今やそこまで高くはないであろうが、資産
価値はかなり高い、けど、まったく実用にはならず、もったいなくて使っている人
なんか、ほとんど誰もいない。 しかしながら、それは、殆どの個体がまったくの
未使用であるという事になる、程度はバツグンに良いのは確かである。
・・・程度はどんなもん?
「ほとんど全部未使用みたい、ただ、モルトとかは劣化しているかもしれないから
それは交換しなければならないかも、来たらすぐに修理点検に出す予定ですよ」
・・・じゃあ、NF-1のアイレベルを △万円で・・・ キツいかな?
「む~、かなり厳しいと思いますよ、なにせ未使用極上美品だし」
・・・え~と、すごい美人の女の子が使うんですよ、買う時はお店にも連れてきますよ。
「むむ、しゃあないでんなあ、じゃ、お値段は、勉強させてもらいまひょか・・・」
・・・まあ、赤字が出ない程度でよろしくお願いします!
数日後、またカメラ屋を訪れるが NF-1は一度入ってきてすぐモルト交換に出して
しまったのだと言う。 ド新品に近い状態で、さらに点検調整費用がつくのであれば
考えていた予算では厳しいのは明確である、無理を言ってお店にトントンで売って
もらったら、その時は得するのであるが、長い目で見たら信頼関係をなくすので
損をする。 しかし、O嬢の手前、あまり高いものを無理に買わせたとなっても
いけない。 ここは悩むところである、お店を取るか、O嬢を取るか・・・
私の中でも結論が出ないまま数日が過ぎる(笑)、O嬢にメールをするが、私もO嬢も
忙しくて、なかなか現物を見に来れる予定が決まらない、それでも候補日が2日ほど
決まった、後の日なら、NF-1の修理があがってくるのは確実であるが、できれば
早い方の候補日でなんとか購入を済ませたい。 お店をせかして、なんとか
その日までに、点検先から戻ってくるようにお願いしてもらう事にした。
O嬢にさらにメールする。
・・・『なんとか、五分五分で間に合いそうだよ、無茶苦茶程度の良いやつ
らしいから、予算は、ちょっと多目の◇万円でたのむよ、そこから値切ってみるわ。
この予算が厳しかったら、梅田の中古屋に行ってもう少し程度が悪くても安いやつ
を探してみようか? でも、まあ、程度の良いものが安く買えた方がいいだろう?
それから、まさかオリンピック限定品はいらないよね? *万円だけど。』
返事がくる『間に合わせてもらうようによろしくお願いします、オリンピックは
ちょっと予算オーバーなので無理です』
・・・『まあそうだろうな~、じゃあ、○○日××時に、こちらまで来てね。
それと、NF-1は一生モノのカメラだよ、デジタルだったらすぐ古くなるけど、
このカメラはもう古くなる事は無い、いつまでも永遠に最高級品だよ・・・』
この言葉はかなり効いたみたいであった。 でも、これは事実である。
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当日、待ち合わせの時間前に先にカメラ屋に行って、NF-1が点検から戻ってきて
いる事を確認するや、すばやく本体のチェックをする。
・・・「お~、まだ裏蓋あけたら紙が入っている、ド新品では無いですか!」
新品電池 4LR44を入れてもらって、すべての操作をやってみる、全部快調に動作!
高速シャッターの精度もチェックする、1/500,1/1000,1/2000、全部問題なし。
このへんの速度は、裏蓋をあけたままシャッターを切って幕速を直接目視で
測るのである。昔のカメラは、1/2000秒と言っても、1/1500秒程度しか出ていない
ものもある、でもそれだと、1/2000秒を使ったら1/2段露出オーバーになるのである。
「目視? いったい、そんなことができるのか?」
・・・だから、何度も言ってるだろう? 中古購入何百台の経験のスーパーマニアを
舐めたらあかんでよ。 シャッター速度の狂いなんか、一発で分かる。
(中古チェックの詳細は前出の
記事1 記事2を参照のこと)
ただし、それ以上の速度は無理だ、1/4000秒を超えるシャッターは、もう後幕先幕の
差の構造になるからな。。そして、500マイクロ秒よりも短い時間を人間の感覚で
捉えるのは困難で、もう差がわからない。 だから1/2000秒までしか無理だと思う。
次は、低速シャッターだ。 普通は機械式カメラは全速体感チェックを行う、
けど、New F-1 はハイブリッドだ。X接点よりも低速側では、電子シャッターとなる。
だから、まあ、ひとつづつシャッターを動かしてきちんと動くことと、1秒だけ
出ていることを確認しておけば大丈夫だろう。
カシャ!「ひゃくいち」 カシャ! これは、呪文ではなく、1秒間を測るには、
百一と言えばだいたいその時間が1秒となる。 よし、シャッターもOKである。
↑ New F-1 アイレベル。 ただし、これはO嬢の購入品ではなく、私の所有品。
スーパーレンズ New FD 24mm/f2.0を装着している。
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ブルブル・・マナーモードの携帯が鳴った。 O嬢である『着いたよ~』
O嬢を駅まで迎えに行き、さらに2人でカメラ屋に引き返す。
O嬢「わ~、これですか?」 早速 New F-1を手にとる。
・・・うん、まったく使って無いよ、ほら、裏蓋を開けてフィルムのキズを見るんだ、
まったくフィルムを通していない新品だよ。
O嬢「でも、なんでずっと新品が?」
・・・さあ、この個体がどういう経緯で来たのかはわからないけど、10年くらい前に
キヤノンがFDマウントの生産を完全に止めた時、New F-1を買い占めた店やマニアが
いると聞いている、そんなあたりから流れてきたのかもしれない。
その後は、約1時間半にわたって New F-1の使い方の講義である。
マニュアル露出機だから、操作そのものは、知っている人ならば1分で理解できる。
けど、O嬢はマニュアル露出そのもの概念を、少し勉強した程度であったし、
そのへんの基礎から講義からはじまった。
各部機能、操作とその意味、露出の概念、露出補正の概念、絞りとシャッターの意味、
ピント合わせ、New F-1のオプション、他のマニュアル機との比較(OM-4使用)
レンズ交換の実習を New FDとFDの各レンズを使って各々10回繰り返す。
正しいフィルムの入れ方も、巻き戻し方も、フィルムピッカーを使って5回ほど行った。
最後には、玄人級の「ベロ残し巻き戻し」の秘技も伝授する。
これは、巻き戻していく最後の瞬間で力をふっと抜いてフィルムパトローネに完全
にベロの先が入る直前で寸止めする、意識してやるのは結構難しい。
しかし、これをマスターすると、家でも1本のフィルムで何度でも遊べる(笑)
O嬢はこの技を3回連続成功させた。 むう、お主、なかなかやるなあ・・
匠の入念な講義に、お店の店長はおろか、お客さんまで2人ほど一緒になってフムフム
と聞いている・・・ まいったなあ・・・ギャラもらいたいくらいだよ(笑)
O嬢「は~い、全部よくわかりました、じゃ、購入しますね」
うん、まあ、ここで購入しなければ全員がコケてしまう。
店長は結構まけてくれて、私の無理な指値の2千円増しでハンマープライス。
O嬢「きゃ~、はじめてのマイカメラ、うれしい~」
客A「おじょうちゃん、よかったなあ、いいカメラだよ、大事にしなよ」
客B「いいなあ、オレもF-1欲しいなあ・・・」
店を出てもまだ、O嬢はルンルンである。
O嬢「きゃ~、きゃ~、今日はもうこの子、抱いて寝ようかしら~」
・・・うっ、いいなあ・・・F-1 ボソッ
【追記】
この記事を読んだビバーチェ・メディアのヤマナカさんから連絡が入った。
「匠さん、綺麗なお姉さんと遊んでばかりいるみたいですけど、
ちゃんと
べからず集書いてますか? それと、
タイムドメインのメルマガも・・・」
・・・「はい、すいません、書きます、書きます、ペコペコ 、アセアセ・・・」