過去記事「ミラーレス・マニアックス」シリーズ第17回で、
「特集 STF vs APD」を掲載した。
その記事ではMINOLTA STF135mm/f2.8[T4.5](1998年)と
FUJIFILM XF56mm/f1.2R APD(2014年)の
2本のレンズを紹介している。
この2本は、アポダイゼーション光学エレメントを搭載した
レンズである。その構成を持つレンズは、長らくSTF135/2.8
しか存在しなかった。
ミノルタにより開発/発売されたSTFは、αシステムをSONYが
継承した2006年以降も、SONY製SAL135F28として外観を変更し
発売が継続されていた。両STF135/2.8は、α(A)マウントの
MFレンズである。
2014年にFIJIFILMより、ミラーレスXマウント専用の
AFレンズ XF56/1.2APDが発売された。
AFのアポダイゼーションはこちらが史上初となる。
ミラーレス・マニアックス第17回記事掲載時点では、
ここ迄がアポダイゼーション・レンズの全てであったのだが、
その後、ちょっと状況が変化している。
それは、LAOWAの登場である。
2016年夏頃、今回紹介のLAOWA 105mm/f2 Bokeh Dreamer
が発売された。(写真左よりSTF,APD,LAOWA)
LAOWAは中国製MFレンズであるが、NIKON(F),CANON(EF),
SONY(E)等の複数のマウント版があり、
これまでアポダイゼーション搭載レンズに興味があっても
マウント違いで使用できなかったユーザー層にも、初めて、
この種のレンズが使えるようになった。
本記事では、NIKON D300,SONY NEX-7及びFUJI X-E1の
計3台のカメラで、LAOWA105/2による写真を紹介する。
本LAOWA105/2が史上三本目のアポダイゼーション・レンズ
である。
が、さらに2017年になって、SONYから四本目となる
FE100mm/f2.8 STFが発売されている。
そちらはEマウント版のAFレンズである(今の所、未所有だが、
コンプリートしたくなるので見ないようにしている)
ちなみに、海外のどこかのメーカーで「アポダイゼーション
ユニット交換式」のレンズを試作している、という話も
聞いていたが、今のところ発売されている様子が無い模様だ。
さて「アポダイゼーションとは何か?」と言えば、
グラデーション状に周囲が暗くなる減光フィルターをレンズ内
に装備する事で、ボケ質を柔らかくする光学エレメントである。
この原理については、FUJIFILMのWEBページに、わかりやすく
図示されているので、興味があれば参照されたし。
なお、当該WEBでは「ニコンDCレンズ」の構造原理と比較して、
「それは球面収差により軟焦点化するから、APDが優れている」
と読めるが、DCレンズは正しく用いればさほど軟焦点化しない。
(ミラーレス第35回、名玉編第2回記事参照)
私は銀塩時代の1999年頃にSTF135/2.8を購入し、その描写力に
度肝を抜かれた、その購入価格は、新品しか流通していなかった
為に11万8000円もしたが、その価格の価値は十分にあると思い、
以降、20年近く愛用している。
なお、2000年発売の銀塩AF一眼レフ Minolta α-7および
翌年のα-7 Limited(デジタル一眼レフ・クラッシックス
第3回記事)には、「STFモード」という機能が搭載されていて、
これは、装着したレンズの絞り値を連続的(自動的)に7段階
変化させながら連写合成を行い(銀塩なので多重露光である)
アポダイゼーション・エレメントと同等の効果を擬似的に
作り出していた。
この場合、STFレンズでなくても同等の柔らかいボケ質が
得られるが、7枚の連写の時間が数秒かかるので、静止した
被写体で無いと多重露光が出来ない(勿論、三脚必須だ)
また、絞り値が変化するという事は(銀塩なので)シャッター
速度が連続的に変化する事になり、フィルムのISO感度と
被写体の輝度、そしてレンズの開放f値によっては、露出が
適正では無い場合もあった。
まあ、α-7の「STFモード」は、STFレンズを買わせる為の
「お試しモード」だったのかも知れないが、このα-7は、
「銀塩最強のAF一眼レフ」と私は定義していて、銀塩時代末期
の製品にも係わらず2000年代後半まで愛用した。
周囲のカメラ仲間にも薦め、何人もがα-7を使用していたが
その中でSTF135/2.8のレンズそのものを購入した人は1人しか
居なかった。まあ「STFお試しモード」はあまり効果的では
なかったのかも知れないが、STFレンズそのものが高価で
あった(ミノルタ版の定価が15万円+税、SONYに継承
した後では、17万5000円+税であった)事も
購入をためらう原因であっただろう。ちなみにSTFを買った
知人(若い女性だ)は、2000年頃に珍しく市場に出た
ミノルタ版の中古を8万円台で購入したと記憶している。
が、2000年代中頃からのデジタル一眼時代になってからは、
STF135/2.8の出番は大幅に減ってしまった。
当時のα(A)マウントのデジタル一眼は高価なフルサイズ機
SONY α900(2008年)を除き、全てがAPS-C機であった。
私が使用していた一眼は、α-7Digital(2004年,デジタル
一眼第3回記事)やα700(2007年,デジタル一眼第7回記事)
であり、いずれもAPS-C機だ。この為STF135/2.8の換算画角は、
約200mm相当の望遠となってしまい、人物を主要被写体とする
STFでは、この画角では遠すぎて厳しかった。
その後α(A)マウントでのフルサイズ機はα99(2012年)、
α99Ⅱ(2016年)が発売されたが、いずれも未所有だ。
STFを本ブログの10年以上昔の記事で紹介した事があるが、
その時点では既にデジタルの時代であったので
「焦点距離が50~100mm程度のSTFが出ないものか?」と
記事に書いたと思う。
そして2014年、いきなりのFUJIFILM XF56/1.2APDの発売
であった(上写真)
私は「やっと欲しい焦点距離のSTF(APD)が出てきた!」と
思ったのだが、このレンズは定価20万6000円+税と非常に
高価であった。
すぐにでも欲しいのを我慢しつつ、1年待って、やっと中古が
市場に出てくるようになり、2015年に11万円で購入した。
Xマウント機は所有していなかったので、同レンズ用に
FUJI X-E1を中古購入したのだが、まあ「欲しいレンズがある
から、そのマウントのカメラを買う」というのは、私にとっては
正常な思考方法だ。
「カメラだけ先に買って装着するレンズの事を何も考えていない」
というのは、私の持論では有りえない話だ。
しかし、XF56/1.2APDはX-E1との組み合わせでは
AFはとても遅く、かつ精度不足でもあった。、
かと言って、X-E1はEVF搭載機ながらもMF性能もNGであり
APDのピントリングも無限回転式でMF操作に向かない、
実質的に快適に使用できるシステムとは言えなかった。
(上写真のみ、X-E1+XF56/1.2APDによる)
まあ、X-E1は減価償却(ミラーレス機では1枚2円の法則)が
完了次第、なんらかの後継機に代替する予定だ。
後継機では像面位相差AF機能が搭載されているので、少しは
マシになるであろう。
こうやって、レンズは1度購入すれば、そのマウントが
無くならない限り(注:過去何度もあった事だ)その先まで
ずっと使える。また仮にマウントが無くなっても、MFレンズや
一部のAFレンズであれば、近年のミラーレス機等でアダプター
で使用する事ができる、つまり、ほぼ永続的に使用できる。
「レンズを重視する事」は、基本中の基本の話だが、
大多数の初級者は、先にカメラの事にばかり目が行ってしまい
レンズの事を考えない。下手をするとマウントごと他に乗り換え
たりしてレンズを処分してしまう、これは非常に勿体無い話だ。
ただ、私のように、ほとんどの撮影機材を中古で購入する
ユーザーにとってみれば、そういう初級中級層がレンズを
売り払って、その中古が出てくるのを待っているので、皆が皆、
レンズを重要視して売らなくなったら困ってしまう(笑)
さて、そうした状況の中、アポダイゼーションを使いたいのだが、
STF135/2.8は焦点距離が長くて使い難い、かと言ってフルサイズ
のαは高価だ(=減価償却が出来ないまま仕様的老朽化する)
XF56/1.2APDはシステム(カメラ)が問題で使い難い、
(=後継機を買えば良いが、狙っている機種はまだ高価だ)
この状況をどう打開するか?と困っている時に、
2016年、新たなニュースが飛び込んできた。
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やっとここからが本題だが、本記事での紹介レンズ
LAOWA 105mm/f2 Bokeh Dreamerの発売である。
(カメラをD300からNEX-7に変更する)
発売のニュースが入ってきた後、ミラーレス・マニアックスの
記事には「欲しくなるので見ないようにする」と書いたものの、
やはり気にはなる(笑)
2016年の発売直後は10数万円していたが、およそ半年を
経過した2017年初頭には、新品市場価格は9万円程度まで
下がってきていた(その間、中古は1本も見かけていない)
「こりゃあ、もう、新品買いだな」という判断になった訳だ。
105mmという焦点距離はAPS-C機では依然少々狭めの画角と
なるが、まあいずれフルサイズ機が安価になったら、どれかを
購入する事で解決するとして、そういう意味でも本レンズの
マウントは、互換性の最も高いニコンF版を選択した。
ちなみに、ニコンFマウントのレンズは他の多くのカメラに
アダプターを介して装着できる。その際、通常AFは効かなく
なるが、本レンズは元々MFなので何の問題も無い。
また、絞り環を持つ仕様なので、G型対応で無いアダプター
でも問題ない。
本記事では、D300,NEX-7,X-E1の3台のカメラでLAOWA105/2を
使用しているが、ニコンマント版を選んだメリットである。
LAOWA 105mm/f2 Bokeh Dreamerの話に戻るが、
本レンズは2015年頃の試作品ではSmooth Transfer Focus
(つまりSTFだ)と、レンズに書かれていた模様だが、
製品版では(さすがに他社の名前と同じではまずいので)
Bokeh Dreamer(ボケ・ドリーマー)という名前に変更された。
ちなみに「ボケ」は、勿論日本語であるが、カメラ界では
世界標準の用語である。何故、海外では「ボケ」という表現が
それまで無かったのかが不思議である。
「Out Focus」という用語はあったが、これはどちらかと言えば
”ピンボケ”のような意味合いの言葉であろう。
日本のマニアの言うところの、ボケ味(またはボケ質)という
概念が「Bokeh」という単語の意味である。
「外国人は、ボケ味(ボケ質)が理解できなかったのか?」
と余計なかんぐりをしてしまうのだが、まあ、これは例えば
料理の世界でも「旨み(うまみ)」という概念が世界には無く、
日本語をそのまま使っている模様なので、そういった話と
同様なのかも知れない。
さて、LAOWA 105/2のT値は 3.2である。
ここでT値の話をまた書かなくてはならない、余分な話ばかり
になって進まないのだが、ちゃんとこれを説明しておかないと
この類のレンズを購入しているユーザーですら、さっぱり
その意味がわかっていない様子も見受けられるからである。
T値の前にまずf値だが、これは「レンズの有効瞳径÷焦点距離」
の逆数である。
(なお「F値」と大文字で書くのが通例だが、本ブログでは
昔から小文字の「f値」で通しているので、今後もそのように
書いていくつもりだ)
100mmの中望遠レンズで、口径が5cmであれば100mm÷50mmで、
このレンズの開放f値は2となる(mmをmmで割るので単位は無い)
ここで言う口径はフィルター径ではない。レンズを前から
見れば、フィルター径よりもレンズは小さい事は明白だろう、
レンズの有効直径を「瞳(ひとみ)径」(有効瞳径)と呼ぶ。
広角レンズやズームレンズであると、フィルター径はとても
大きいのに、レンズは真ん中に、ちょこんと小さくしか無い
場合も良くある。こういうレンズでは一般的に開放f値は
大きい(=暗い)
対して、85mm/f1.4等の「大口径」レンズでは、
レンズを前から見ると、フィルター径のぎりぎりまで
ガラスの前玉が「パツンパツン」に詰まっている。
有効瞳径を逆算すると、85mm÷f1.4=60.7mmとなり、
つまり、85mm/f1.4レンズの前玉は、最低でも約61mmφ
なくてはならない事になる。
往年のCONTAX RTSプラナー85mm/f1.4ではフィルター径が
67mmφであり、前玉レンズが60数mmあるので、前から見ると、
まさしくパンパンであった、
こういうレンズでは、全く隙間が無いので、レンズ前面には
何mmの何レンズ等と表記するスペース(余白)すらない。
本レンズLAOWA 105/2は有効瞳径は105mm÷f2で、
52.5mm以上必要だ、
で、フィルター径は67mmであり、まだ若干余裕があるので
レンズ前面の隙間にはレンズ名と仕様がシルク印刷されている。
f値の計算方法はここまでで説明は終わりだ。
違うレンズ間でも、同一条件ではf値を揃える事で取り込む
光量が同じとなるので写真撮影上、とても便利な単位である。
だが、アポダイゼーションはグラデーション状(段階的)に
暗くなるフィルターである、と書いた。
つまり、口径(瞳径、f値)よりも実際に取り込める光の量は
だいぶ減ってしまっている。
したがって、f値を計算で求めても意味が無い。
カメラの露出計が動作するのは、f値では無く、実際の、もっと
暗い光に反応しているからだ。
そこで、実効f値として「T値」というものを使う。
グラデーションなので、何割る何とか、単純に計算する事は
できない、グラデーションの掛かり具合(減衰率?)によっても
T値は変化するであろう。
よって、各アポダイゼーション・レンズ毎にT値は異なる。
f値よりT値が、どれくらい暗くなるのかもレンズ毎に違う。
一応まとめてみよう。
STF135mm f2.8→T4.5 (1.3段)
XF56mmAPD f1.2→T1.7 (0.8段)
LAOWA105mm f2.0→T3.2 (1.3段)
FE100mmSTF f2.8→T5.6 (2.0段)
()で示した値が露出が減る段数だ、段数というのは、1段
変わると光の量が半分になる(つまり、1段暗いと同じISO
感度であれば、シャッター速度を倍遅くしないとならない)
この減る量だが、数字が大きければアポダイゼーションの
減光量も大きいという事になるのだが、その方がボケが綺麗に
なるかどうかは良くわからない。光学の原理的には、キツい
グラデーションをかけた方が効果が良さそうなのではあるが、
まあ、そのレンズの設計思想によりけりであろう。
そして、あまりキツいグラデーションをかけると、T値が
暗くなりすぎてしまう。
これは銀塩時代には結構大きな問題であった、
フィルムの感度がISO100とか、下手をするとポジのISO50
を使っていたからだ。
私のような単焦点派では、開放f1.4やf2が当たり前であって、
開放f2.8となると「やや暗い」、f4ともなると「かなり暗い」
それ以上は「とても暗い」という感覚だ。
STFもT4.5だったので「とても暗い」という類のレンズとなり、
例えば舞台やライブなどの暗所の撮影には持ち出す気にも
なれなかった。室内の例えば結婚式等の撮影ですら、銀塩での
T4.5は不安であった。
銀塩でもズームの時代では、f2.8を「大口径」と呼んでいる。
私は、ずっと、ここ20年くらい「うっそ~!」と、その呼び方
には反対だったのだが、その間はf2.8がズームでの最大口径で
あったので、他のもっと暗いズームに比べて「大口径」で
あったのだろう、なので、あくまで相対的な話だ。
ただ、近年では開放f2やf1.8通しズームレンズとか、
広角端だけf1.8以下と明るいズームも色々と存在しているので、
f2.8を「大口径ズーム」と呼ぶ慣習(買わせる為の施策)も、
そろそろ終わるかも知れない。
余談はともかく、T値の暗いアポダイゼーションは
2010年代までは「不利なレンズ」(使い道が制限される)で
あったのが、2010年代以降の「超高感度化時代」となると、
T値の4や5位は、ISO感度を高めれば問題が無くなってきた。
なので、SONY FE100mm/f2.8STFは、T5.6という暗めの
T値で設計できたのかも知れない。なにせ、Eマウントの
カメラは最初期のNEXシリーズでもISO12800であったし、
名前がαとなってからはISO25600はある、中にはISO40万
という機種もあるので、Eマウントユーザーを前提にする
ならば、低ISOのカメラは1台も無いのだ。
なお、初代の135mmのSTFを除き、他のレンズでは、
T値は商品名には書かれていない。
「暗いレンズだ」という印象をユーザーに与えるのを嫌って
いるのであろう。
(カメラをNEX-7からX-E1に変更する)
さて、LAOWA105mm/f2には、これまでのアポダイゼンーション
レンズには無い大きな特徴がある。
それは「f値絞り」と「T値絞り」が個別に存在する事だ。
T値絞りの方は、レンズの前部、恐らくはアポダイゼーション
光学エレメントの近辺に配置されている。
(クリック・ストップが無い無段階式)
f値絞りの方は、レンズの後部、多分、一般的なレンズでの
絞り位置と同じあたりに配置されている(クリック有り)
レンズの前部絞りと後部絞りで光学的な特性が変わってしまう
事は、ミラーレス・マニアックスシリーズ記事で、アダプター
内部に機械絞りの存在する機種(キヤノンEFレンズ用や
CONTAX Nマウントレンズ用)を使った際に表面化した問題で
あった。後ろの絞りを絞っても、ボケ質の調整(破綻回避)が
困難であったし、ソフトレンズのソフト量調整(球面収差低減)
も上手くいかなかった。
LAOWA105/2においては、その取扱説明書を読む限りは、
「T値絞りは動画用、f値絞りは静止画用(被写界深度変更用)
両者の同時使用は不可」とあるが、これはちょっと説明不足な
雰囲気だ。
正しくは、
T値絞りは、アポダイゼーションの効果を減らす方向に働き、
f値絞りは、アポダイゼーションの効果を残しつつも、
光束を絞るので、被写界深度の調整と光量調整、
となると思われる。
すると、両者の同時使用は可能だが、目的の効果を得る為の
コントロールは少々難しい事が予想される。
まあ、一般的にはアポダイゼーション効果は最大で使いたい
事が殆どであろうから、T値絞りはT3.2固定で用いる。
これでf値絞りで被写界深度を調整するが、できれば、これも
あまり絞りたく無い(効果が減るから)よって本来ならば
ND2~ND4の減光フィルターを、その日の明るさ(天候)や
被写体の照明(光源)条件に応じて装着して、絞り開放による
シャッター速度オーバーを防ぎつつ使うべきであろう。
まあともかく、T値絞りでも、f値絞りでも、絞ってしまうと、
グラデーションフィルターの中央部だけを使う事になり、
つまりは、ボケ質を良くする効果がどんどん減ってくるので、
アポダイゼーション・レンズでは「できるだけ絞らない事」が
必須の条件となる。
ただ、アポダイゼーション・レンズはいずれも望遠系なので
背景の状況によっては、少し絞って被写界深度を稼ぎたい
事もあるだろう、だが、そういう場合は、絞りを絞らずとも
構図的な要素で被写界深度を調整(深く)する手段もある。
具体的には、撮影距離を変えてのトリミングやデジタルズーム
の併用である。
あるいは、MTF特性の向上を意図して絞り込む場合もある。
さて、逆に被写界深度をさらに浅くしたい場合に影響する
レンズの「最短撮影距離」の性能だが、
LAOWA105/2の場合90cmと、まあ105mmレンズの標準値の
1mよりは短いが、もう少し寄れて欲しかった。
というのも、STF135/2.8は最短87cmであるし、
SONY FE100/2.8も、マクロ切り替えで57cmまで寄れる。
これらはかなり優秀な近接性能である。
それくらい寄れると撮影倍率も何分の1倍とかのレベルに
なるので、マクロレンズ代わりに使える。
SONYのEマウント機ではプレシジョン・デジタルズームが使え、
Aマウントの2ケタ機種ではデジタルテレコン機能が使用できる
ので、ほぼマクロレンズ並みの倍率の撮影が可能だ。
(注:これらのデジタル拡大機能は、トリミングと等価だ)
ちなみに、FUJI XF56mm/f1.2APDでは、最短70cmと
お話にならない性能だ(標準レンズと考えれば、45~50cm
程度の最短撮影距離が欲しい)
これは推測だが、被写界深度が極めて浅いレンズであるので、
近接撮影を許してしまうとカメラAF側の精度(分解能)が
追いつかないので、仕様を制限したのであろう。
そして事実、X-E1等のAF精度が元々弱いカメラにおいては、
マクロモードに切り替えても、1m以下では殆どピントが
合わなくなる。
まあ、せっかく綺麗なボケを得られるレンズなので、
マクロレンズ的に近接撮影を行いたいニーズもあるだろうが、
その場合はLAOWAやAPDではなく、STF/FEのレンズを用いるのが
良いであろう。
LAOWA105/2のもう1つの弱点であるが、重量が746gと
少々重い事だ。
もっとも、他のアポダイゼーション・レンズのどれも重い
レンズなので、構造上やむを得ないのかも知れない。
そしてSTF135/2.8は、T4.5ながらもフィルター径72mmφ
と、およそf2級レンズの口径(135÷72=約1.8)となっていて、
贅沢な作りだった。
この為、ボケの形状が乱れる「口径食」はSTFでは発生せず、
かつ、フレアやゴーストも、ほぼ皆無であるという高性能で
あった。
FE100/2.8は所有していないので不明だが、そのレンズも
フィルター径72mmφで、同様な高性能である可能性が高い。
LAOWAとAPDは、そこまで口径に余裕は無い、よって通常の
レンズと同様に口径食や逆光耐性には注意する必要がある。
(X-E1との組み合わせでは、付属フードを使用している)
まあ、中国製や韓国製レンズでは、コーティング性能の
問題があり、逆光耐性には基本的に劣ると思って良い、
とは言え、日本製レンズであっても、ほんの20年程前までは
逆光性能に劣るレンズはいくらでもあった。
まあだから、そういう被写体条件に注意するのは基本である。
-さて、各アポダイゼーション・レンズと比較しながら、
本レンズを紹介してきたが、本レンズの描写力上の問題は
特には無い。解像感が高く、アポダイゼーションによる良好な
ボケ質を得る事ができる希少なレンズである。
購入価格は若干高かったが、アポダイゼーションレンズ中
では最安の新品価格で購入できる、これを下回るのは、
Minolta版STFの中古が出てきた場合くらいであろう。
で、滅多に出無いとは思うが、本レンズを中古で購入すれば、
さらにコスパは上がる。
それと、課題としては本レンズは中国製であり、国内メーカー
製品ほど手厚いアフター・サポートは無いと思われるので、
あくまでレンズの事を良くわかっている人向けの製品だ。
(本レンズも、ピントリングに僅かなひっかかりがあった。
製造不良かも知れないが、使用上問題になる程では無い)
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最後に、ミラーレスマニアックス「名玉編」で行った
レンズの総合評価と同じ事を行ってみる。
もし総合平均4点以上であれば「名玉」にノミネートされる
レベルという事だ。
LAOWA 105mm/f2 の総合評価
・描写表現力:★★★★★
・マニアック:★★★★★
・コスパ :★★(購入価格:90,000円)
・エンジョイ:★★★★☆
・必要度 :★★★
・評価平均値:3.9
(★=1点、☆=0.5点)
惜しくも平均3.9点で、名玉へのランクインに届かず。
なお、LAOWAからは、本レンズの他に超広角シフトマクロや、
撮影倍率2倍マクロレンズ等、ユニークなスペックのレンズが
数種類発売されている、新品で買うとどれも高価であるので
それらをコンプリートする意思は無いのだが、もっとLAOWAが
日本市場にも普及して、中古の流通も始まるようなる事を
期待する次第だ。