夜景、特にライトアップされた建物を撮る際、わざとピンボケにして撮る技法がある。
一眼レフの場合は、AFではなくMFにして手動でピントをわざと合わせなければ良いし。
コンパクトカメラ(銀塩・デジタル)等でMFが無い場合には、
A:マクロモードにして近距離にピントを合わせて遠距離で撮影する
B:近距離にAFロックをかけて半押ししたまま遠距離で撮影する
(注:AEロックが同時にかかる場合があるので、AFロックした場所の明るさと
被写体の明るさをある程度合わせてあげる必要がある)
等の方法でピンボケ写真を撮る事ができる。
また、ピンボケ撮影の時は絞りを開放にすると綺麗な円形のボケが生じる。
(コンパクトカメラの(Pモード)では暗い所で測光すれば自動的に絞りは開放になる)

↑①EOS-D30 SIGMA 24/1.8 f1.8 ISO400 1/15秒
定評のある SIGMA大口径広角マクロである。 EOS系デジタルでは銀塩換算
約40mm弱の「準広角マクロ」として利用することができるので便利である。
大口径であるから夜景も問題ないし、広角レンズであるから、手ぶれも起こしにくい。
この状況では、手ぶれ補正機能無しで、手持ちで1/15秒で撮影ができた。
しかし、実はレンズによっては、ピンボケ撮影では非常に気になる現象が起きる。
レンズをSIGMA 24/1.8 から、別のものに換えて写してみよう。(ボディも変わる)

↑②α-7D AF 200/2.8G f2.8 ISO200 1/8秒 手ぶれ補正
今度は大口径の望遠レンズである。
(ちなみに、低速手ぶれ限界テストを兼ねていたため、ISO感度はあえて落してある)
このレンズは性能は折り紙つきである、しかし良く見るとボケの形が丸くなっていない
部分がある。 もう少し部分的に拡大してみよう。

↑③部分拡大
このように、ボケがレモン状、あるいは満月を過ぎた月のような形になってしまう。
この現象を「口径食(ビネッティング)」と言う。
「口径」というのは、レンズの前側の径のことであり、要は光が入る入り口の大きさである。
「食」というのは、たべものの事では無く、日食や月食と同じ、すなわち、何かによって
別のものが隠される事を示す言葉である。(特に丸いものの時に使われる言葉みたいだ)
だから、口径食とは、「レンズ入り口の大きさの制限によって、斜めから入る光が
さえぎられ、丸いものが丸く写らない事」である。
しかし、通常はピントの合った部分では、このように丸いものが丸く写らないなんてことは
あり得ない。
あるとすれば、ごく僅かに彗星の尾をひくように像が流れる「コマ収差」が出るくらいで
あって、ここで用いた AF200/2.8G のような定価15万円の超高性能スーパーレンズでは、
そんな「収差」(レンズ性能が悪くて画像が乱れる)が出るような事は殆ど起こりえない。
しかし、さすがのスーパーレンズでも、ボケの部分に関しては、どうしても口径食が
現れてしまう。 このように夜景を完全にピンボケにして撮影したケースはもとより
木漏れ日を背景としたポートレート等の場合でも、背景の光のボケが画面の隅になると
口径食の影響が出てしまうような場合が多々ある。
では、画面の中央と周囲でどれくらい口径食は異なるのであろうか?
さらにレンズを変えて、その様子を見てみよう。

↑④α-7D AF50/1.4(初期型) f1.4 ISO800 1/50秒
今度は標準レンズである。 これも高性能レンズとして定評がある。
口径食を見ると、画面の下、上、左右では大きく発生しているが、中央部では比較的
丸くなっていて問題ない。 画面の外にいくほど光が斜めに入りやすいので口径食が
大きくなるのは当然であるが、だいたいの傾向はそうであるものの、規則的にだんだん
外にいくほど大きくなるという風に顕著に現れてはいないようである。
さて、口径食は、レンズによっても大きく変わる。
何故か・・ まず、レンズの開放f値と、それに必要な口径を考えてみよう。
前出と同じ、レンズのf値の計算式を変形すると、
有効口径=レンズの焦点距離÷開放f値 となる。
たとえば、今回使った3本のレンズのそれぞれを計算してみよう。
ついでに、各レンズのフィルター径もあげる。
① 24÷1.8= 13.3mm (フィルター径 77mm)
②200÷2.8= 71.4mm (フィルター径 72mm)
④ 50÷1.4= 35.7mm (フィルター径 49mm)
本来はフィルター径を比較しても意味がなく、レンズ前玉の直径をあげなければならない
のであるが、これは実寸を計測しなければならないので、まあ、便宜上フィルター径を
1つの目安とする。
①の広角レンズは、計算上必要な13.3mmよりも見た目もだいぶ大きなレンズ前玉径
であり、しかも、フィルター径にいたっては、77mmと相当大きい。
このレンズは有効口径に対し、前玉のサイズにだいぶ余裕がある。 斜めから入って
くる光をもものともしないために、レンズ自体口径食が出にくい。
②の望遠レンズは、口径が71.4mm必要なレンズなのに、フィルター径が72mmである、
これはギリギリというか、レンズを前から見ると、やはりパンパンに詰まっている。
しかし、おそらく厳密に言えばf2.8は達成できていないようにも思える。
5%までの誤差は性能表記上は問題ないので、実際のf値は、2.9くらいなのかもしれない。
(その時の有効口径は 約68.9mmとなる)
まあ、それはともかく、このレンズは口径食が比較的多く出てしまう。
④の標準レンズも、あまり余裕のある設計ではなさそうである。
だいたい各社の 50/1.4レンズのフィルター径は、52mm~58mmが普通である。
しかし、このレンズのフィルター径は49mmとかなり細くなっていて、レンズも
なにか前すぼまりになっているように見える。
このレンズも口径食が比較的よく出てしまう。
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ちなみに、まったく口径食が無いというレンズがある。
ミノルタ STF135 /2.8[T4.5]がそれであり、
超スーパーレンズとして写りは特Aクラスと
して著名であるが、ここで同じように計算してみると
*135÷2.8=48.2mm (f値による計算)
*135÷4.5=30.0mm (T値=実効f値による計算)
そして、このレンズのフィルター径は72mmであり、レンズも口径いっぱいにぎっしり
詰まっている。(これはf2.0級の口径に匹敵する)
つまり、f2.0クラスの大きなレンズを積みながら、f2.8であって、しかも例の
アポタイゼーション・エレメントの都合で、実際の実効f値はf4.5しか無いレンズ
なので、余裕がありすぎるのである。 どんなに斜めに入ってきた光であっても、
大きな前玉でしっかり受け止め、口径食がまったく起こらない。
なお、このSTFは、噂によると、フードをつけずに逆光で使っても、フレアや
ゴーストが一切発生しないそうである、私自身真偽をきちんと確かめたわけではないが、
確かに厳しい光線状況でも使っても、問題が起きたことを見たことがなく、あながち
ガセとも言い切れない信憑性のある情報である。
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さて、では、口径食はそうしたレンズの性能(設計)で、決まってしまって回避できない
問題なのであろうか?
いや、これは実は簡単な回避の方法がある。
それは、単純に「絞りを1~2段絞れば良い」のである。
たとえば、前述の AF200/2.8 のレンズを1段絞ってf4.0で使う場合、
あるいは、2段絞ってf5.6で使う場合の、必要な有効口径を計算してみると。
*200÷4.0=50.0mm
*200÷5.6=35.7mm
となり、これらはフィルター径(≒前玉径)の72mmに対し、十分に小さいから、
斜めの光を問題なく取り入れることができ、口径食が回避できるのである。
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ところで、よく言われるのが、300mm/f2.8のレンズをf4.0まで絞って使った場合と、
300mm/f4.0のレンズを絞り開放で使うのと、どちらが画質が良いのか? という話である。
・・・くだらない比較である。 何故かというと、ニコンやキヤノンで、そのどちらの
仕様のレンズを買うか?、という話と直接的に結びつく下世話な話になるからである。
なぜ下世話かというと、300/2.8と300/4では用途が全然違う、同じものでは無いのである。
例えて言えば、まるでラーメンとパスタのようなものであり、それぞれ食べたい時や
冷蔵庫の残り物の内容に応じて、それぞれ必要な時に食べれば(レンズを使えば)良い。
しかし、棚(防湿庫)をあけると、それぞれがストックされていて、必要に応じて両者を
選択することができるようにしておけば良い話である。
だから、そんな比較は、「汁の無いラーメン」と、「スープに入れたパスタ」と、
どっちが美味しいか? なんて比較と同次元のものであり、実践的な意味は無い。
しかし、その下世話な話にあえてもう少し突っ込んで言うならば、
「口径食に限って言えばf2.8をf4.0に絞って使う方が有利」であるのだが、
「f2.8をf4.0に絞ると、ボケに絞り羽根の形が現れ、真円ではなくなる」
という問題が発生して、あえて7角形や8角形のボケを甘んじるのか、
あるいは、レンズの仕様によっては、贅沢な「円形絞り」を採用している方が有利、
という結論になる。
(なお、f8とかf11まで絞ると、円形絞りである効果はほとんど無い、また、円形絞りで
なくても優秀な設計のレンズでは条件によってはボケに絞り形状が出ることは少ない)
なお、f2.8のレンズの方がf4.0よりMFでのピントの山がつかみやすいし、
少し絞った方がレンズの各収差が低減できることも間違いない。
ただし、f4.0がf2.8に僅か1絞り明るくなっただけで、その価格も重量も3倍近くに
跳ね上がるのは、どう考えても同じ種類(用途)のレンズだと思うのは変な話であり、
通常の撮影で大きく重く高価な300/2.8は不要であり、300/4で十分であるとの結論になる。
300/2.8はあくまで特殊用途であり常用するべきものでは無いと思う。
また、300/4は300/2.8の性能の悪い廉価版では決してなくて、また大は小を兼ねるという
わけでも無いのである。そしてボケ量はf2.8の方が計算上は多いが、ボケ質はレンズや
被写体によりけりであるから、どちらが良いかは、一概には言えない。
プロや超マニアなら両者を持っているのが当然であり、使い分けるのも当然である。
・・どちらが良いか悪いか、なんて、まるでデジタルか銀塩か?って言っているようにも
聞こえる。自分の目的にあわせて好きな方を買ったらいいだけで、必要ならば両方買うし
いらなければ、どちらもいらないのである、ただそれだけの事なのであって、
「ユーザーの使用目的」を考慮しない単純な比較論なんぞ、まったく意味の無い議論である。
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さて、寄り道が長くなったが、今日の内容をまとめると以下となる、
★夜景でのピンボケ撮影は有効である
★MFモードが無いコンパクトでも特殊技法でピンボケ撮影を実現できる
★ピンボケ撮影あるいは背景をボカすと光に対して口径食が発生する
★口径食はレンズの仕様(注:性能ではない)に依存する
★口径食を減らすには、開放から少し絞り込む事が有効である
★少し絞り込む際には、レンズの仕様ができれば円形絞りであるとベターである