毎度おなじみ、名機対決。 え~と、1回、2回、3・・・・ 今なんどきだい?(笑)
何回目の特集かも、もはやわからないが(汗)今回は90年代の銀塩コンパクトである。
対決は、OLYMPUS μ-Ⅱ(ミュー2) vs. RICOH ELLE(エル)
例によってネットで検索すれば5秒でわかる単純なスペック比較記事なんかは絶対に
書かない。自分で持って使っているユーザーでないとわからない希少な情報を目指す。
そう、90年代の銀塩コンパクトと言ったら、名機である高級コンパクトが目白押し。
CONTAX は T2からはじまり、TVS,TVSⅡ ,Tix ... T3 も TVSⅢも入れてしまおうか。
RICOH は、GR1.GR1s,GR10,GR21,GR1v....
NIKON は 35Ti,28Ti、MINOLTA がTC-1、FUJI がクラッセ....
そう、高級コンパクトの全盛期である。
そして、これら高級コンパクトは確かに良く写る。
10万円以上する価格の7割までがレンズのコストと言われて、強力無比なレンズ性能は、
たとえばGR1のレンズが某誌で古今東西のレンズのベスト1に読者投票で選出された事
などからも明らかである。
広角レンズにおいて、一眼レフのミラーの影響を受けない、いわゆる非レトロフォーカス
型の設計を可能としたコンパクト(レンズシャッター)機では、最新の一眼レフ用の
広角ズームはもとより、一眼レフの単焦点広角をも凌駕する抜群の描写性能を誇る。
よって、これらの高級コンパクトは、広角が弱いデジタル一眼の穴を埋める目的では
銀塩であるものの、最強のコンビネーションを誇り、私の銀塩主力機のポジションと
なっている。 具体的には、私はデジタル一眼で銀塩換算50mm以上の焦点距離の
レンズ1本または2本と、焦点距離35mm以下の銀塩広角コンパクト1台を併用して撮影
する場合が殆どである。
現在、これらの高級コンパクトはほぼすべての機種が生産中止に追い込まれており、
中古市場では、レア、またはプレミアムとなっている。
今からこれらの機種が欲しいと言っても、まず手遅れであり、数年待つか、あるいは
とんでもなく高い相場になったこれらを我慢して買うしかない。
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■高級コンパクトについて
しかし、よく考えてみよう・・・
高級コンパクトが写りがいいのはわかった、じゃあ、一般の単焦点広角コンパクトは
高級コンパクトとそんなに差があるものなのだろうか?
そりゃ、確かに高級コンパクトは絞りが調整できたり、露出補正ができたりもする、
けど、たとえばGR21においては、絞りはほとんど何の意味もなく、どんな状況でも
いつでもパンフォーカスの画像が得られるのであり、私はシャッタースピードオーバーの
リクス回避の目的もあって、だいたい常にP(プログラムモード)で撮影しており、
絞りは、フラッシュの明るさ調整と、スローシャッター効果の場合にしか使わない。
露出補正は、ポジでは有効であるが、ネガやモノクロではまったく意味が無い。
それなら、高級コンパクトと普及コンパクトの実用上の差異は、レンズ性能だけなので
あろうか・・・? いや、ここでも、実は常識の罠がある。
高級コンパクトを褒め称える記事は死ぬほど沢山あるが、普及コンパクトの真の性能に
言及した情報は大変少ない。
何故か? たとえば2万円で買える(買えた) μ-Ⅱが、12万円のCONTAX の名機 T2
よりも高性能である、と言ったら市場がパニックになったからである。
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■μ-Ⅱについて
でも、今だから言える。 実はμ-Ⅱの描写性能は、トップクラスであり、評価項目こそ
色々あるから、いちがいには言えないものの、トータルバランスでは、殆どの高級
コンパクトは、その写りで負けてしまう事は間違い無い。
μ-Ⅱの写りは、確かに「味」は無い、CONTAX の Tシリーズほど階調の豊富さ、
コントラストの高さは無いし、クラッセほどのボケ味も無いし、GRほどのシャープネスも
無い。 無い、と言うよりは、一般的には現れない。
しかし、十分な明るさのある状態でμ-Ⅱの絞りがプログラム露出において絞り込まれた
状態での解像度やシャープネスは、私はGR1との差異を見分けることはできなかったし、
夕暮や暗い状況でかつ近接撮影で絞りが開放になった時のボケ味は、かなりのレベルで
ある。 TC-1やGR21 のようなドラマチックな周辺描写こそ無いものの、一般的な初級者
が扱って、まったく失敗の無い写真が撮れるばかりか、クセが無く歩留まりが非常に良く
シャープネスが抜群で大伸ばしにも耐える描写力が、この僅か130g強の、35mm銀塩
では最軽量とも思えるボディから生まれてくるとは信じがたい。
μ-Ⅱは、1997年の発売以降、自分用に数台、贈答用に数台、知人からの頼まれで数台、
合計おそらく10数台を購入した、誰もが驚嘆するその写りは、高級コンパクトなんか
いらないんじゃないかと思うくらいである。
現在はもう生産中止であるが、注意して探せば、1万円代前半で中古を見る時もある。
μ-Ⅱは、さらに生活防水を備えており、雨や海辺で使っても心配が無い。
35cmまで寄れる近接撮影能力の他、驚異の「スポット測光」を備えており、
これを有効に使うと、ポジでも非常に困難な光線状況で適正露出を得たり、
露出補正に近い設定を行うことができる。
私の1台目のμ-Ⅱは、海外旅行等で活躍し、圧巻は北海道の零下20度の撮影において、
AFカメラでは電池が持たないだろうと判断して持っていった機械式一眼レフが
今にも壊れそうなギギギ・・という苦しそうなシャッター鳴きをしながらやっと撮影を
続行していたとき、念のためと持っていったμ-Ⅱが、シャキシャキとなにごとも
なかったように快適な撮影ができたときは、本当に驚いた。
発売の1997年といえば、アニメ「ポケモン」が流行った年である。
ポケモンの中に「ミューツー」というモンスターが出てきたこともあって、
一時期、洒落たネットの掲示板では、このカメラのことを「ポケットモンスター」と
称していた事もあった。
まさに、ポケットモンスター、いや、今にして匠流に言えば「スーパーコンパクト」
である、銀塩で2000万画素級の解像度、そして35mm/f2.8のバランスの良い大口径単焦点
さらには、私が今使っているのは、漆塗り風仕上げの限定生産の希少な μ-ⅡLimited
である、この所有感も含め、現代のデジタルコンパクトは手も足も出ないであろう。
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■ELLE(エル)について
さて、もう一台のスーパーコンパクトはリコーのELLEである。
すでに、GRシリーズの末弟として以前の記事で紹介したから詳細は省く。
GRの先祖R1 の性能は決して誉められたものではなかったが、その薄型フォルムは
その後のGRシリーズに繋がる画期的なデザインであり、今ものなお新鮮である。
R1はR1sに改良されて格段にレンズ性能があがった。 この時点でもGR1と比べるのは
かわいそうであるが、それでも私はR1s を2台所有し、さらにはR1およびR1相当の
「ローライ・プレゴミクロ」とともに一時期の主力コンパクトとして使っていた。
特にこのシリーズでは、パノラマ幕を特殊な改造で降りてこないようにすることで
30mm/f3.5 と 24mm/f8.0の2焦点カメラとして利用できたので、海外旅行や様々な
旅行で本当に役に立った。 R1sの写りは、それはGRシリーズ等の高級コンパクトや
μ-Ⅱには劣るものの、普及コンパクトの中ではトップクラスであり、KONICA Big Mini や
NIKON MINI 、FUJI TIARRA 等とならび、一眼レフ等の広角ズームは論外で相手にも
ならず、一眼の単焦点広角の描写力に迫るものを持っている。
RICOH R1s は一旦生産中止になり、さらに再生産されるなど、色々変遷があったが、
一時期派生型で MF-1 というカメラが出ていた、このカメラは、マニュアルフォーカス
であったり、絞り優先や、様々なカメラアクセサリーが使えるなどのユニークな
カメラであったが、私は何故か解放f値が暗いなどの理由でこのカメラを購入していない。
いつか、もし中古があれば購入しようと思っている、恐らく食わず嫌いであり、良い写り
をする事が予想される。
そして 今回対決するのは ELLE(エル)である、これはR1s とまったく同じ仕様の
レンズを搭載している、しかしR1s にあった、例の2焦点切り替えパノラマ機構の
補助レンズ(30/3.5を24/8.0にするためのレンズ)が取り払われているため、まったく
同じレンズとは言えず、もしかするとレンズ構成も変わっているかもしれない。
そして、ボディのフォルムは R1シリーズや GR1シリーズほど薄くは無い。
とは言え、かなり薄いことには間違いなく、デジタルコンパクトはさておき、
銀塩コンパクトではトップクラスの薄さであることは間違いない。
今、何故便利でマニアックなR1シリーズの24mm超広角切り替え機能を捨ててまで、
この ELLEを愛用しているかと言うと、このELLEには、単焦点広角コンパクトでは極めて
稀な「マクロ機能」が搭載されているからである。
花のマークに合わせる。 花のマークというと、AFやデジタル一眼レフでは実際のところ
何も変わらない、インチキ機能の典型であり、マクロレンズを使わない限り、一眼で普通の
レンズで接写ができるはずも無い。
しかし、このELLEや、最近のデジタルコンパクトでは、レンズが繰り出される事によって
接写リングを使ったと同様の近接撮影ができるようになる。
とは言え、大口径でレンズ性能が良い単焦点広角のコンパクト(あるいはデジタルコンパクト)
で無い限り、レンズを繰り出すと、露出倍数がかかり暗くなりシャッター速度が大幅に低下
したり、あるいはレンズ設計上の問題で画質が極端に低下したりする。
が、まあ、ELLEの場合、あまりその心配はなく、被写界深度のコントロールこそできないから
本格的なマクロ撮影は当然無理であるが、簡易的に接写を行うことができるので、
マクロレンズを持たない撮影中に「あ、小さい被写体発見!」なんていうときに非常に
役に立つのである。
そして、アクティブ型AFの特徴の「山」マーク。 これは、R1シリーズおよびGR1シリーズ
の伝統であり、無限遠にピントが合いにくい場合は、この山のマークを選択することになる。
だからなんだ? と聞かれると、実は、この「山」のマークを持っているコンパクトは
露出補正もどきができるのである。
これは完全な裏ワザであるのだが、普通のコンパクトのシャッターボタンは半押しで
AFロックおよびAEロックをかけることができる。
しかし、AEロックを単独で行うことができないので、たとえば暗い部分に向けてAE
ロックして構図を決めなおしてプラス補正に順ずる操作をやったり、その逆のマイナス補正、
あるいは、灰色(ニュートラルグレー)にロックして適正露出を得るなどの操作ができない。
何故ならば、AFロックもかかってしまい、AEロックした(所定の反射率を持つ)仮の
被写体の撮影距離と、実被写体の撮影距離が異なることでピンボケになってしまうからで
ある。しかし、山ボタンを押して、AFを無限遠で固定する事により、無限遠の被写体
あるいは、30/3.5のレンズ深度を計算して、昼間であれば高感度のフィルムではおそらく
3mないし5mより遠くにある被写体はすべてパンフォーカスで無限遠と考えられる条件に
おいては、AFロックを無効化してしまい、シャッターボタンの判押しをAEロック
のみの目的で使えるのである。 すなわち、どこか欲しい反射率の被写体に向けて半押し
してAEロックし、その露出で構図を任意に考えて押せば、最終構図の輝度と、AEロック
した輝度差を利用して(計算あるいは勘により)、露出補正を行うことが可能となる。
さらに、「山」モードはAFを無限に固定するから近接には絶対ピントが合わない、
そこをあえて近接撮影をする事で、アウトフォーカス(ピンボケ)撮影や、
ソフトフォーカスもどき撮影を行うことができる。
近距離光源のイメージ的撮影や、女性のポートレート撮影に有効である。
逆に「花」モードはAFを近距離に制限するから、遠距離には絶対にピントが合わない。
そこで、あえて近距離の撮影と遠距離の背景を対比させて「大ボケ効果」を狙ったり
あるいは夜景の遠距離点光源をボカした印象的な撮影方法もコンパクトで可能となる。
なお、これらの裏ワザは非常に高度なテクニックであるので、どんな本にも書いていない、
匠オリジナルの裏ワザである。露出やAFについて熟知している上級者あるいはそれ以上の
レベルにおいては、かなり強力な表現力増強になるので面白いと思われる。
しかし、実際には中級者までは、この特殊撮影技術を理解することすら出来ないであろうし、
上級者レベル以上になると普及コンパクトだからといって馬鹿にするか、あるいは、あえて
手間をかけないバカチョン撮影に徹する事が多いので、結局こうした銀遠コンパクトの性能
限界ギリギリまでしゃぶりつくすような撮影技法は発展してこなかったのだと思われる。
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■対決結果
さて、μ-Ⅱ(ミュー2) vs. ELLE(エル)の対決結果であるが、
性能と汎用性(実用性)においては、μ-Ⅱ(ミュー2)の圧勝。
高級コンパクトでチタンやらマグネシウムやらと言っていても、ちょっと落した程度で
キズが入ったり割れて壊れてしまう、意外にヤワな高級コンパクトとは、μ-Ⅱはわけが違う
筋金入りの強さを誇る。様々な過酷な環境ででキズだらけになっても水びたしになっても
砂やホコリにまみれても、酷寒の地で使っても、撮影そのものはいつでも快適に行える。
そして高級コンパクトにも負けない、あるいは勝利する描写力!
このμ-Ⅱの性能を知らずして銀塩コンパクトを語るなかれ、と言いたいくらいである。
そして、特殊撮影の面白さにおいては、 ELLE(エル)の勝利。
スポット測光ができるμ-Ⅱの方は、むしろ正統派な露出コントールができるから
ポジを入れても、スポット測光が理解できる上級者なら何ら心配する必要も無いが、
逆に言えば、遊び心が少なすぎる。 いや、とは言え、ELLEが設計思想上での遊び心が
あると言うわけではないのだが、ELLEは、山、そして花、およびスポットAFの機能を持ち
距離と露出につていの様々な遊び(特殊撮影)をコンパクトで実現している。
これは楽しい事であり、GRやμ-Ⅱに若干劣る描写性能とは言え、実用上は微々たる
差異であるから、ELLE単独で使っている限りは、描写に不満も無いであろう。
私はリコーではGR1sもGR21も持っているが、GR21(21mm/f3.5)は唯一無二の
超広角コンパクトであるから、他に代われるものも無いが、GR1s(28mm/f2.8)なんかは、
描写力が世界最高レベルであることがわかっていても、最近はついぞこのELLE
(30mm/f3.5)をGR1s の代わりに持ち出す事も多くなってきている。
GR1sはすっかりマニアはもとより、中上級者の定番カメラとなってしまっており、
それにGR1sを持っていっても、絞りの効果が出にくいから、やはりPモードでか撮らず、
(露出オーバー対策の為もある)撮影していて面白く無いのである。
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■カメラマニアについて
そして最も言いたい事・・・・私は沢山のマニアの知人がGR1シリーズを持っているのを
見ているが、特に最近は、彼らがGR1で写した写真を一枚も見せてもらった事が無い!
これは、どんな意味があるのであろう、私に対しては見せたくない? いいや違う。
そもそも、マニアは撮った写真を誰に対しても見せる事を好まない。
あるいは下手をすると写真を撮らない(汗) 私は、だからカメラマニアに対する根本的
な不信感をぬぐえないのであり、彼らはもしかすると、いつもフィルムを入れずに
シャッターを切っているのではないかと、よからぬ想像をしてしまうのである(笑)
マニアは薀蓄(うんちく)を述べるのが趣味であり、ほとんどのマニアは写真自体の
腕前を自慢する事は無い。 そりゃそうだ。 写真が上手ければマニアになんてなる
必要も無い・・・ストレートに写真の腕で勝負すれば良いわけだから。
ブログやHPで自分の撮った写真を公開しているマニアなんてほんの一握りである、
というか、そういうマニアは非常に健全なマニアであるとも言えるだろう、なにせ実際に
写真を撮って、さらにそれを公表しているわけだから写真の腕前もそこそこなのであろう。
殆どのマニアは自分のカメラ知識の深さと写真の実力との差異に悩まされているのが
現状なのであろう。だから他人の見解や写真をあれこれ言う評論家になってしまう・・・
そんなこんなで、私は最近マニア御用達のGR1等の機材を使う事がすごく嫌になって
きている。
GR1を使うのは、カメラの性能に頼る事である、カメラに本当に興味があるのであれば、
使いにくいGR21やELLEを使って、ちゃんと写真が撮れるように精進することが、むしろ
面白いと思えるのではないだろうか・・・?
ただし、GR1が最高性能のカメラである事はマニアの常識である、だからこそGR1で
撮った写真は、私とて人に見せたくないと思ってしまう要素はあるかもしれない。
他人の撮った写真とて同様である。「なんだGR1使ってるのに、これくらいの写真かよ!」
だからGR1に関しては、やはり最高の性能を使った上質な写真を撮れないとならないの
かもしれない・・・ふうむ、そう考えると写真の世界も深い。やはり、イヤだといわずに
GR1を使って、ちゃんとした写真を撮れるように精進するべきなのであろうか・・・?