最近ホームベーカリーに凝っている。
と言っても、残りご飯からパンを作るとか、なんだか贅沢
なのか貧乏くさいのか、わからない話とかが目的ではなくて、
あくまで、美味しいパンを食べたいが為である。
以前、奈良の自然食店で購入した食パンが大変美味しく、
気に入って何度か購入していたのだが、数年前に店舗が
移転してからは足が遠のいてしまった。
美味しいパンの味を思い出すと、なんとかしたいという気持ちも
出てくるのだが、家の近所のパン屋さんや、スーパーなどで
売っている高級食パンでは満足のいくものは無い。
近年の流行からか? リッチタイプ(乳製品や卵、油脂などを
多く含み、やわらかなタイプのパン)が市場の主流になりつつ
あるのだが、そういうパンには興味がなく、さらには、主婦
向けで最近流行りの、あれやこれや混ぜ物をしたり、ちょっと
オシャレっぽいような変わった作り方をしたようなパンでもなく、
どちらかと言えば、リーンな(引き締まった)タイプのパンが
目指すところであり、さらに言えば、リーンともちょっと違う、
素材のよさを活かしたシンプルで美味しい食パンが目標だ。
材料を準備する。パンやケーキ作りに関しては、材料の分量を
正確に計らないとならない、というのは一般的な常識では
あるのだが、それにこだわる必要は、私自身は感じていない。
というのも、パンに関しては、生地の発酵が重要な要素であり
これは単に材料を正確に計れば済むというものではなく、
発酵温度、発酵時間、その他もろもろの微妙な要素が複雑に
からんできて、単に材料の分量さえ合っていれば同じ仕上がりに
なるというものではない。主婦向けの本では、そのあたりの原理
や失敗時の原因などについて詳しく書かれている本は皆無で、
材料の分量だけ書いてあって、さあ、それで作りなさいという
ことだが、これでは裏づけが無くて、失敗するのは明白だ。
だから、パン作りに関しては、専門書を何冊か購入、読破し、
うわべだけのレシピ本などは、完全に無視することにした。
材料の分量は後に述べるが、とりあえず基本的なものを
少しづつアレンジしている。アレンジによって勿論出来上がりに
多少の変化が生じるので、その変化の方向性をつかみながら、
自分好みにのレシピに仕上げていこうという作戦だ。
ただし、ドライイーストの量は、正確に計る必要がある、
ドライイーストは、出来上がりの量によっても異なるが、
コンマ1gの単位の精度が必要なので、0.1g単位で計れる
クッキングスケール(はかり)を新たに購入した。
ちなみに、写真の手前左下は、非接触型温度計。
対象物の中赤外線(熱赤外線)の波長を計測し、温度がわかる。
接触型の通常の温度計だと、パン生地などに突っ込む必要が
あるため、それを良しとせず、この非接触型を購入したのだが、
残念ながら安価なものでは温度計測誤差が大きい(プラマイで
合計5℃くらい)様子なのと、非接触がゆえに、逆に生地などの
内部温度までは計測できないので、ちょっとイマイチであった。
ホームベーカリーは、まずは、MK社製の、HBK-100
これは8000円台と安価であるが、マニュアルモードがついていて
ねりの強さと時間、一次発酵および二次発酵の温度と時間、
焼きの温度と時間、をそれぞれ手動設定可能な優れものだ。
自分好みのパンを作り上げるのが目標なので、カメラで言う
ところのプログラムオートのモードでは満足できない訳だ。
マニュアルで設定を色々変えてみることが、ホームベーカリーに
おいても1つの楽しみになっている。
材料を仕込んで約4時間、さて、香ばしい香りとともに、パンが
焼きあがった様子だ。
うん、うまく焼きあがっている様子だ。
・・・とは言え、パンは生き物だ、様々な環境により仕上がりは
大きく変わる、機械を使ったからといって、いつでもそう簡単に
完璧なものが出来るはずもない。
出来上がったパンを切ってみる。
しかし、上手く切れない・・(汗)
ボロボロになってしまった(泣)
包丁とか道具の問題もあるが、まあ、素直に認めれば、
このパンは失敗作、まあ、最初のうちは、こういう事もある。
今回の問題点の1つは、試験的に多種多様な材料を使い
すぎたことにある。
本来の食パンにおける、オーソドックスな材料配分だが、
ベーカーズ・パーセントで言うと、以下のようになる。
強力粉=100%
水=70%
砂糖=8%
塩=2.5%
油脂=5%、
ドライイースト=1.4%
ちなみに、「ベーカーズパーセント」というのは、理科や物理・化学
で用いる濃度(重量)パーセントとは異なる定義によるものだ。
理科では、例えば3%の食塩水が100gというと、水が97gで
塩が3g という比率となる。
しかし、ベーカーズパーセントにおいては、小麦粉の重量を
100とした際に、それに対する各材料の重さを、それぞれ
パーセントであらわす。
理科のパーセントが合計100%になるのに対して、ベーカーズ
の方は合計が100%を超えることになる。
慣れると、この表記法は、パンの調理の上では、とても使いやすい。
ベーカーズパーセントで、基本材料となる小麦粉の量は、
1斤の場合、280gが基本だ。しかし、1斤というのは、なかなか
食べきれない量ではあるので、私の場合は、半斤分として、
小麦粉140gを基本としている。
140gを100%とした時の各材料の比率は、当初はエクセルで
表を作って計算していたのだが、10回も作っているうちに完全に
覚えてしまったのて、今はいちいち計算することも無い。
それから、基本の小麦粉の量を減らす場合、すべての材料の
比率を同じように減らすと上手くいかない場合がある。
私の場合、少なくともドライイーストの量は増量することに
している、他の材料は、毎回適宜増減させて、環境(気温や
温度など)を含めた傾向をチェックしている。
上の失敗作の場合、本来は、強力粉のみで140gとするところを、
強力粉120g、全粒粉15g、はったい粉(大麦)5g のミックス粉。
ちなみに、油脂は、無味無臭のショートニングを5%使用、加えて
スキムミルクを4% 、コンデンスミルクも3% 追加している。
砂糖のかわりに黒糖、塩はアルペンザルツとしていた。
さらに、レーズン、および、市販のフルーツグラノーラを加えた、
かなり実験的なレシピとしたところがまずかったのだろうか?
まあ、イーストの量とか、ねりこむ温度とか、そのあたりの影響も
多々あるので、材料の分量のみが悪いということでは無いと思うが。
失敗作をどうするか?自分で作った以上は、責任を持って食べなく
てはならないのだが、まず上手く切れないのでは、生食あるいは
トーストというのも具合が悪い。
ちょうどTVを見ていたら、フェルメールの「牛乳を注ぐ女」という
作品の解説をしていた。 そう、以下の絵だ。
ちなみに、フェルメールは死後数百年を経過しているので、
著作権は消滅している。(パブリックドメイン)
ところで、この絵の中では何をしているか?
という番組の中での質問に対して、フェルメールの地元の
オランダの人たちのインタビューでは、皆、口をそろえて、
”ああ、これは、パンプディングを作っているんだよ”
という答えが返ってきていた。
「なるほど、その手があったか!」
番組を見終わるなり、失敗作のパンを調理にかかる。
レシピはあえて調べない、だいたいのところは知っているし、
何度も書いているように、分量をちゃんと計りさえすれば
料理が上手くできるなんていうことは、まったくありえない
話なので、自分好みに作ってみよう。
料理の基本は、ある材料とある材料を、それぞれどれくらい
入れれば、それが合わさった時にどんな味になるかという、
事がわかるかどうか? という、経験則と想像力だと思う。
それができなければ、いつまでたっても、レシピに書いてある
材料を計る繰り返しだ・・
失敗作のパン、卵(全卵)、牛乳、コンデンスミルク、
香り付けのバニラオイル、まあ、こんなものか?
つまりは、フレンチトーストと同じだ、それと違う点は、
固めて焼くことくらいか・・?
小型のフライパンで、固めたパンが崩れないようにアルミホイルで
円形の枠を作り、そこにバターを入れて焼く、数分して焦げ目が
ついたら一応できあがりだ。
「う~ん、何か違う気もするが、まあ、こんなもんか?」
パンプディングにしては、多少見た目が悪い(汗)
で、フレンチトーストでは、出来上がったら、グラニュー糖などを
かけていただくのが一般的だが、内容からして、メープルシロップ
にしてみよう・・
味の方は特に問題なし、ただ、メープルシロップやらで仕上げて
いるので、まるで、ちょっと変則的なホットケーキという感じだ、
最初の目的としていた、シンプルで美味しい食パンという方向性
とはずいぶん違う世界にいってしまった(苦笑)
パンが無くなれば、また焼くので、2日に1回、または3日に2回
のペースで焼いている、毎回微妙にレシピをアレンジしているのは
あいかわらずだが、1度に変更する要素は1個のみという事に
している、同時にあれもこれも変化させると、どれが効果があった
のかわからなくなるからだ。
何度も焼く中には、かなりいい感じにしあがっているものもある、
結局、あれやこれやの材料を入れることは、だんだんしなくなって
きた。それどころか、レシピの微妙な変化という方向性は、どんどん
「引き算」の方向性になってきた。
多種多様の粉をつかっていたのが、最終的には強力粉のみに、
砂糖は上白糖で、かつ控えめ、しかし、コンデンスミルクを少々追加。
塩はシビアに味にや仕上がりに影響するので2.5% の3.5g を
正確に計量。スキムミルクはレシピから削除、油脂はショートニングの
ままだが、4%に減らし、さらに削減中。
そして、油脂は、グルテンの生成に悪影響を与えるので、ねり工程の
後半で投入するようにしている。
あと、ホームベーカリーも、新たにもう1台追加した。
象印製 BB-SS10
定価は5万円越えだが、新製品なのにすでに2万円強という
割引価格で売っている。
家電製品は、他社の製品でも新製品なのに、定価の半額以下
というものが多い、割引率が大きいとすぐ購入してしまう主婦の
特性を狙ったものか?
それにしても、定価の意味が全くないので、これだったらいっそ
オープンプライスとしてもらったほうが公正な気もするのだが、
いかがなものだろうか・・?
で、値段はともかくとして、こちらの製品での注目点は以下の2つ、
1)マニュアルモード(ホームメイドコース)およびその記憶機能
2)高火力ヒーター
ちなみに、色々なパンを焼くための、なんとかコースなどというのは、
一切使用しないので、そういうの多寡は選択肢として意識しない。
たとえば、デジカメでも一緒で、ポートレートモードとか、
スポーツモードとかあったとしても、結局のところ、絞り、シャター
速度、仕上がり設定などの組み合わせにすぎないので、
そういう意味を全部理解していれば、なんとかモードというのは
すべて不要な機能だ。
もし、そんなモードに頼って撮っているのだったら、デジカメを
買い換えたりしたら、そのモードが無ければ撮れないということに
なってしまう、おまけに、いつまでたってもカメラの原理も理解
できず、常にオートに頼る事になる、そんなのは機械に使われて
いるだけの世界なので、生に合わない。
そんな風に製品の価値判断をしてしまうと、どこのメーカーの
ホームベーカリーの方が、こちらのより出来上がりが美味しいとか、
馬鹿馬鹿しい評価になってしまう。
メーカーの差なんて(カメラとか、他の家電製品を含め)あまり
問題にはならない、それよりも製品コンセプトの差の方がはるかに
大きく、どんなターゲットの人に、どんな機能のついた製品を、
どれくらいの値段で販売するか、という方がずっと重要だ。
しかしながら、ホームベーカリーに、なんとかモードは不要で
あるが、基本性能の差はある。
つまり車で言えばエンジンの馬力とか、カメラで言うならば、
コンパクトと一眼レフの、センサーサイズの差とか、そんな要素だ。
MKのHBK-100 と、象印の BB-SS10 の差も、まさしくそんな
感じであり、火力の強い象印の方は、それを上手く利用すれば、
写真で言うところの表現力の幅が広がる。
つまり、コンパクトのデジカメでは背景はほとんどボケないが、
一眼レフに大口径レンズを使えば、背景を大きくボカすことが
可能となる。風景をパンフォーカスで撮っているだけでは、
どちらのカメラを使っても大差ないが、背景をボカしたい時に
それが出来るかどうか、というのが大きな差だ。
パン作りにおいても同様で、機械の基本的なパワーが違えば、
何かをする目的で、もうちょっと・・ という風なときにも、
限界点がアップするわけだ。基本的なパワーとマニュアルモード
さえあれば、特殊なパンを作りたいという目的でない限り、
ほぼ99%それでこと足りてしまう。
ただ、基本的なレシピ(材料の分量のみならず、温度、時間などの
パラメーターに影響する微調整)が、しっかり決まってない
(あるいは身についていない)段階で、あれやこれやと、
マシンを変えて試すのは、あまり効率的な方法ではない。
まるで撮影の技術が固まっていないビギナーのうちから、
あれやこれやと、新しいカメラを購入して、ちょこちょこと
撮っているのと、同じことになってしまう。
まあとりあえずはベーシックなMK の方で極めることができるまで
毎日でもパンを焼くことが先決ということか・・
MKに限界を感じるときだけ、パワーのある象印、あるいはまだ
購入してはいないのだが、IH搭載のタイガー社製のベーカリー
とかがその能力を十分に発揮できるようになってくるのであろう、
つまりは簡単に言えば、機械は、技術や知識を用いて、使い
こなさないと勿体無いという事だ・・・
それから、数多く焼くことも非常に重要。
ともかく、出来るだけ多く、様々なシチュエーションを経験し、
自分なりの感覚を作り上げていかなくてはならない。
たまに、1ヶ月に一回位、レシピ本を見て、「こんどはこれに
挑戦してみようかな?」なんて、上手くいく訳が無い話だ、
趣味をやるならば、徹底的にやらないと意味が無い。
で、シンプルで美味しい食パンという目標があるのは、それは
それで良いと思うのだが、今のところ90点くらいの出来だ、
ある程度のレベルには比較的短期間で到達するのだが、
そこから先の満点までの10点がとてつもなく遠い。
技術、ノウハウ、創造性と創意工夫、沢山の経験、味覚、
あらゆるものが要求される、たまには、美味しそうなパン屋
さんの食パンも買って食べて参考にする必要もあるだろう。
そして、問題となってくるのは、毎日のように焼いている
パンの処分だ。 処分といっても、勿論食べるのだが、
食事の後、夜中に出来上がってくることが多いし、真夜中に
トーストというのもちょっと変な話だ。
(まあ、”真夜中のパン屋さん”という小説&ドラマのファン
なので、真夜中だから悪いということもないのだが・笑)
で、食べきらないうちは、次のパンを焼くわけにはいかない、
そりゃあ、出来立てを、ちょっと冷ましたくらいの方が
美味しいので、古いパンには手が出なくなってしまう。
で、生食もトーストにも飽きたときは、伝家の宝刀(笑)の
フレンチトーストにしてみよう。
全卵1ないし2個(できれば全卵1+卵黄1が良いのだが、
余った卵白の使い道がなくなってしまう)そして牛乳適量、
コンデンスミルク、バニラエッセンスまたはバニラオイル、
これらを良く混ぜ、そこに耳のついたままのパンを四角や
三角に切ってしばらく浸しておく。
パンに十分にミルク等が染み込んだら、やや多めの有塩バター
をフライパンに入れ、溶けて泡だった瞬間に、パンを周辺から
敷いて焼く(中央の方が火力が強いから)
適宜、上下のひっくり返しと、位置の交換(同上、中央が速く
焼ける)をやりつづけること数分で、いい感じで焦げてくる。
焦げ目が両面および他のパンに対しても一様についたら
出来上がり。
皿に盛り付けたら、糖分で仕上げる、糖分の選択肢としては
グラニュー糖、フロストシュガー(ヨーグルトについているやつ)
メープルシロップ、蜂蜜、砂糖入り生クリーム、加糖練乳、
といった選択肢がある。
実は蜂蜜にも凝っているのだが、その話はいずれまた・・
今回は、仕上げの糖分としてメープルシロップをかけてみる。
(ちなみに、ホットケーキ用の安価なメープル風シロップではなく、
やはりカナダ製の本物のメープルシロップが美味しい、ただし、
高価なので、輸入食材店などで、できるだけ大きめのボトルで
購入すると、若干だが割安感が出てくる)
作るには慣れている「フレンチトースト」であるが、
自分で作ったパンを使うのはまた格別なものがある。
ただ、本当に美味しいパンが出来ていれば、こうした「変化球」
に頼る必要はなくなってくるであろう。
それから、最後にイーストについて・・
こちらは、蜜柑で自家製酵母を培養している様子。
いわゆる「天然酵母」という類のものだが、実は天然酵母
という用語は実にあいまいなもので、酵母は生物であるから
人工的に造りだすことは出来ず、一般的なドライイーストも
天然酵母も、同じ酵母(イースト)である。
自家製酵母を用いてパンを発酵させて焼いたとしても、
必ずしも美味しいパンになるという訳ではなく、むしろ
酸味が強くなったり、出来上がりの発酵具合が不安定に
なったりと、実際のところ自家製で行うメリットは少ない。
まあ、今のところは、話のタネに、という感じだ。
(この時の自家製酵母パンも見事に失敗している・・)
ともかく、あと何年かかるかわからないが、最終的には自分の
好みに完全にマッチしたパンを焼けるようになるのが目標だ。
ホームベーカリーはあと1機種、前述の、タイガー製IHを買うかも
知れないが、いずれは、より専門的な、業務用のニーダー(こね機)
発酵器、およびオーブンの3点セットが欲しい。しかし、それらは、
一般家庭に置くようなものでも無いので、そのあたりは要検討では
あるのだが・・ まあ、技術の進歩と、要求するレベルに合わせて
ハードウェアも合わせていくのは、趣味のセオリーであると思って
いるので、腕も無いのに、高いハードウェアを次から次に買うのも、
その逆に「まだ使いこなしていないから」という弁解じみた理由で
同じハードばかりを延々使い続けるのも、どちらも本筋では無い、
というのが、私のポリシーだ。 これはカメラとか、楽器とか、
あるいはスポーツの用具とかに置き換えてみれば、容易に
理解できるかと思う。
さて、「凝り性」という性質は、一生止む事は無いとは思うが、
いつでも何かの趣味に打ち込めるのは良いことであると思ってもいる。
何も趣味が無い人生を想像すると、無味乾燥で怖いくらいである・・