前出の記事
「幻のSTF~」でも少し触れたが、今回もニコンDC105/2.0を持ち出して、
菖蒲園にてボケ味のチェックを行った。
初級者は勿論のこと上級者に至るまで、ボケの「量」と「質」の差異が区別できない人が多い。
「これはいいボケ出しているね~」 とか言われて見ると、確かに大きくボケているのだが、
質として非常に汚いボケでがっかりする事もある。
何故区別ができないか・・・ いくつか理由は考えられる。
Ⅰ:非常に優秀なレンズ(このブログではスーパーレンズとも言う)を用いないと、
ボケの質の良いものを体感する事ができない。
ちなみに、値段が高ければ良いというわけではない、スーパーレンズは中古で10万円
以内で購入できるものがほとんどである。
Ⅱ:ボケの質を表す用語が無い、いくらかある用語でたとえば「二線ボケ」とか言われても、
実際にはどういう事なのか理解できない。
Ⅲ:ボケの質の差異は非常に微妙なもので、かつ感覚的な要素もあり、厳密に定量化
したり客観的な評価がしにくい。
今回紹介するDCレンズ(AFニッコール DC105/2.0D)は、ボケの質に優れたレンズ
である。 また、このシリーズだけが持つ特殊な機能とともに、ここで紹介する。
まず、同一構図での作例2点。
①↑ D70 DC105/2 ISO200 1/1000秒 F2.8 DC目盛=0
②↑ D70 DC105/2 ISO200 1/750秒 F2.8 DC目盛=R2.8
2つの作例は、構図、焦点距離、絞り値は同じである(シャッター速度が異なっているのは
設定を操作し構図を調整している僅かな数十秒の間に光線の加減が変わった為である)
違う点は、DC目盛を、0にしているか、R2.8にしているかの差である。
DC、すなわち、デフォーカス・イメージ・コントロール。
簡単に言えば「ボケ味コントロール」レンズである。
その具体的効果をあげる。
A:設定した絞り値に対し、DC目盛を0にすると通常の大口径レンズである。
B:設定した絞り値に対し、DC目盛をF側の絞りと同じ数値まで回すと、
被写体に対し前側(F=フロント側)のボケ味が良好になる。
C:設定した絞り値に対し、DC目盛をR側の絞りと同じ数値まで回すと、
被写体に対し後側(R= リア 側)のボケ味が良好になる。
D:設定した絞り値に対し、DC目盛を絞り値より大きな数値まで回すと、
ソフトフォーカスの効果が得られる。
前回のSTFの記事でも説明したが、STFもDCも「ソフトレンズ」では無い、
そして、STF同様、DCレンズについてもこの効果に対し過去には真面目に検証
した記事や情報は殆ど存在していない。 何故か? それはこの効果が極めて微妙な
ものだから作例を作ること自体が大変難しいからである。
中には「差が無い」と言い切った雑誌記事やプロの評価も多数あった。
今回は、あえてその難しい効果を検証することを課題とした。
なお、この機能を持つレンズは、ニコンDC105/2,DC135/2 の2本しかない。
作例①は、ノーマル撮影、作例②は、DCをR2.8として、後ろボケを最良にした結果
である、この状態で、かつこのブログの小さな写真のサイズでボケ味の差異がわかる方
はよっぽどのボケ通(?笑)であるのだが、まあ、良く見れば違いが分からないでも無い。
しかし、依然微妙な差である。
一部分を拡大して、ボケ味の差異を見てみよう。
③↑部分拡大 DC=0
④↑部分拡大 DC=R2.8
まず構図が異なるように見えるのは2つの原因からなり、1つは撮影した角度がほんの僅か
違う事。もうひとつは風により葉っぱの重なり方が変わった事による。
それはともかく、背景の白い菖蒲のグラデーションの雰囲気が僅かに異なることに気が付く、
よく見れば、最初の作例の2枚の様々な場所、たとえば逆光の点光源のボケ方や、背景の
森らしきところのボケ方が、DC目盛をR方向(後ろボケ最良)にした方がなめらかなの
に気が付くと思う。
このように、DCレンズでは元々良いボケ質を持つとともに、レンズに装着したボケ味
コントロール機構により、前ボケか後ボケのどちらかを選び(逆に言えば反対側を
犠牲にして)ボケ味をさらに良くしようとする機能を持つ。
今回の記事で伝えたい事は、基本的にはここまでである。
・・・・もうこれで十分であるが、【玄人専科】なので、もっとガンガン行く(汗)
以下は、さらに突っ込んだ検証である、差異の区別も記事の内容も非常に難しくなってくる。
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次に、同一構図で、DC目盛を、無し(0)と、F側とR側に回した場合の差異である。
⑤↑D70 DC105/2 ISO200 1/3000秒 F2.8 DC目盛=0
⑥↑ D70 DC105/2 ISO200 1/3000秒 F2.8 DC目盛=F2.8
⑦↑ D70 DC105/2 ISO200 1/3000秒 F2.8 DC目盛=R2.8
今度はシャッター速度も揃った(汗)、しかし作例として前後ボケを同時に入れなければ
ならないので、作品としての構図感覚はゼロである(笑)
まあそれはともかく、この3枚も差異は極めて微妙である、差なんてあるのだろうか?
では、またしてもごく一部だけを切り出してみよう。
⑧↑前ボケ比較、(左)DC目盛をF側、(右)DC目盛をR側
前ボケを優先した左側の写真の方が滑らかに見えるが、
このサイズでは差異はほとんど無い。
⑨↑後ボケ比較、(左)DC目盛をF側、(右)DC目盛をR側
後ボケを優先した右側の写真の方が滑らかに見えるが、
実質的には差異はほとんど無い。
という事で、部分だけの切り出しでも非常に差異がわかりにくいが、全体として見ると
なんとなくF側とR側の差異は確かに存在している。
そもそも汚いボケとは何か? いちばん簡単に見分けがつくのは、2線ボケである、
ボケが滑らかに見えず、輪郭が線になったように見えてしまう。
また、ピントの合った面からボケにいたるまでのなだらかな変化が得られないレンズも
同様にボケが汚いレンズの範疇である。
冒頭にも述べたようにボケの量と質(綺麗、汚い)は異なる。
良いボケしているなあ・・・ って言われるような写真の場合は、ボケの量、質ともに
適切である事が条件であり、たとえ50mm/f1.4や85mm/f1.4のような大きくボカす事が
できるレンズを使った場合でも、ボケの量はともかく質もともなわないと、良いレンズ
とは言えない。
マクロ撮影ではボケの量は非常に大きくなる。 今ブロガーの中で人気のマクロレンズは
ボケの質も良いものが多いが、中にはボケの汚いマクロレンズも存在しているので
注意が必要である。
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「しかし、何でそんなボケが汚いレンズを作るんだ?」
・・・いい質問である、実はレンズの性能を完璧に近くしつつ(諸収差を抑えつつ)ピントの
合っていない部分を完全に綺麗にボカす技術は非常に難しく、通常のレンズ設計では
困難である、たとえば、
A:解像度の高いレンズは一般にボケが汚い
B:ズームレンズは単焦点に比べ、はるかにボケが汚い
C:同一の仕様(たとえば 50mm/f1.4)のレンズでも設計や材料によってボケ質が異なる
D:前ボケと後ボケの両者を同時に綺麗にする事は原理的に大変困難である
E:絞り値の設定や撮影距離の差異によって、ボケ量が変化するとともに、
ボケの質も変化してしまう。
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ニコンのレンズは伝統的にボケ味よりも解像度を重視したレンズを設計すると言われている
すなわち、すべての性能を満足させる事が原理的に難しい以上は、どこかに重点を置いた
設計にならざるを得ない。そして、どこに重点を置くかはメーカーのポリシーでもあり、
たとえばニコンの場合は、長年報道分野で愛用されてきて、その目的の為に発展した要素
が無いとも言い切れず、被写体をより鮮明に捉える設計の優先度がボケ味よりも高かった
事は想像に難く無い。
しかし、それもある意味伝説にすぎない、何故ならば、ニコンとてレンズによっては
非常にボケが綺麗な、ボケ味に優れたレンズも沢山存在している。
そして、今回テストしている DC105/2.0 レンズも、原則的にはボケが綺麗なレンズで
ある、・・・と言うか、ニコンの中にとどまらず、全てのレンズの中で比較しても、
かなり高い順位にランキングされるであろう「スーパーレンズ」の1本である。
ボケの綺麗なレンズは、スナップ撮影や風景撮影よりも、女性ポートレートや花の撮影に
向く。
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花の撮影と言うと、タムロンSP90/2.8Macro が定番的に用いられるが、このレンズは、
驚異的なシャープネスとコントラスト、発色、および超近接撮影でのボケ味には非常に
優れるマクロNO1のスーパーレンズであるが、この菖蒲の撮影のように中距離での
撮影時の背景のボケ味は、最高とは言いがたい。 だから、例えば同じマクロレンズ
でも、ミノルタAF100/2.8Macro のように、どちらかと言えばボケ味を重視したレンズ
との選択が非常に悩ましくなる。 ちなみに、ミノルタαマウントでは私はこの2本は
どちらが良いとも選びきれず、結局両方所有する羽目となってしまった・・(汗)
なお、同じタムロンの90マクロでも、旧型のf2.5(MF)のタイプは、レンズ設計が異なり
シャープネスよりもボケ味を優先した設計である、これは当初このレンズが「マクロ&
ポートレート用」を謳ったからであり、最大撮影倍率こそf2.8新型に及ばず1/2倍まで
であるが、ボケが綺麗なので、あえて旧型を選ぶ、あるいは新旧を併用しているマニア
も大変多い。
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今回の菖蒲園の撮影においては、菖蒲(地表に生える)、アヤメ(半湿地に生える)、
カキツバタ(湿地に生える)の混合である事があらかじめ予想されたため、近接に
優れるタムロンのマクロレンズの出番は無いと判断していた、そして、湿地の外から
被写体を大きく撮影するレンズは150~180mm級の望遠か望遠マクロがベストである。
だから持っていくレンズの選択肢を、以下の6通りの中から考えた。
A:コンタックス ゾナー180/2.8+銀塩(コンタックスAX=マクロ機能)
B:シグマ 180/2.8Macro +銀塩EOS
C:フォクトレンダー アポランター 180/4.0SL+銀塩オリンパス
D:タムロン 28-200XR+銀塩またはデジタルEOS
E:ニコン ED180/2.8 +銀塩ニコン
F:ニコン DC105/2.0+ニコンデジタル一眼
なんやかんや考え、DC105/2.0 とデジタル、都合157mm相当が最も扱いやすいと思った。
他の機材は殆ど重量級になり、持ち運びや撮影の体力の消耗が激しい、手ぶれも起こりうる
当然菖蒲園等では三脚なんか立てたたら周りの人の迷惑になる。(というか禁止!)
(ちなみに、先の同一構図撮影はすべて手持ちで行っている、実際にやってみるとわかるが
同一構図でカメラやレンズの設定を変えながら撮影するのは大変難しい技術であり、
非常に集中力を必要とする。 目標物が多数無いとできないので、写真的な構図の美学
をちゃんと考えていると、「作例」写真はまず撮る事ができない)
あるいはデジタルにつけたら焦点距離オーバーとなり200mmを超えるレンズは不要である。
オリンパス用フォクトレンダー180/4SLはかなり魅力であったが銀塩なので今回はやめた。
タムロン200XR(あるいは300XR)はある意味このシチュエーションでは最強に近いレンズ
である。特に望遠域で49cmまで寄れる近接性能は、望遠マクロとして十二分に役に立つ。
しかし、ボケ味が固いのと、開放f値が暗いのでやむを得ず今回は見送り。
タムロンXRには、それに向いた被写体がもっと他にある。(木、金属、岩石・・・)
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私は撮影ポイントでカメラ好きの人と話すこともあるのだが、今回はちょっとがっかり、
例えばシグマの800mmを一脚に立てて見せびらかしながら撮影しているオッサンがいたが、
状況に対してのあまりの不釣合いな機材に、まったくのトーシローと見て完全に無視した。
(800mmで何を撮るのであろうか?高いレンズを見せびらかすのなら別の所に行ってくれ)
それから、大判(シノゴ)で三脚を立てジャバラを動かしている初老の方もいたが、
ちょっと操作に興味あって見ていたら、1枚写真を撮るのに20分もかかっているので、
あまりのスローペースに呆れて無視した、ちなみにシフトやティルトは一切行ってなかった。
(・・本来使うべきアオリ機能を使わないなら、そんなカメラは持って来る必要は無い)
あとはキヤノン70-200/2.8IS の白玉を持ってきているオッサンも多かった、レンズ自体
は適切な選択である。しかしその多くが三脚を立てている、菖蒲園では禁止されている
のにもかかわらず・・・たくさんのお客さんの迷惑になるし、おまけに私の撮影している
後ろで黙って三脚立ててズームをヘロヘロ回しているので驚いた。
最初はこっちが邪魔しているのかと思って「あ、すみません」とか言ったが、相手は
黙ったまま・・良く考えれば違法に三脚を立てているそっちが、どれだけ邪魔で非常識な
事をやっているのかわかっているのだろうか? しかも人の後ろで・・・
・・・だいたいISO200 で1/3000秒で撮れる光線の条件下ですぞ!! おまけに
IS(手ぶれ補正つき)・・・もうムカムカしてきたので、私は連れの女性と大声で
「三脚なんかなんで使うんだろ、わっかんね~な~」と話しながらそんな輩の前から
早々に立ち去った。
(何度も書いていることだが、三脚は一般撮影には不要である。特に人が集まる場所では
周りに迷惑になるから絶対に使用してはならない。日中でも三脚を使わないと綺麗な写真が
撮れないというのは過去の誤った常識であり、手ぶれする人はまず技術を精進するべし!)
三脚、手ぶれ、構え方に関する参考関連記事:
三脚について
カメラの構え方について
カメラを縦位置に構えること
デジタル三種の神器(夜景を手持ちで撮る)
手ぶれ限界について
α-7D手ぶれ補正の結論
また、MF一眼レフに50/1.4標準レンズを持ってきていた若い写真好き男女のカップルも
2~3組いたが、残念ながらこれも機材の選択ミス。
50mm1本だけで菖蒲園ではうまくは写せない(絵にならない)
MF一眼を使う若い人が増えたのはある意味良い傾向だが、その95%以上が、
標準レンズ1本しか持っていないというのは、いったいどういう事であろうか?
せめて広角、望遠、マクロ1本づつくらいは中古でもいいから追加購入して欲しい。
ズームを持たず、大口径50mm1本だけ使うのは否定しない、いやむしろ大変良いと思う。
けど、それでマニュアルカメラを極めたようには決して思って欲しくない、何のための
単焦点レンズなの? 撮影条件に合わせ最適の機材を選ぶという事はしないの?
50mmがある程度使えるようになったら、僅か1万円くらいから各々ある中古レンズを
色々購入し、状況にあわせた機材の選択というのを真剣に考えても良いのでは無いのか?
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寄り道が長くなった、別にお金持ちの機材自慢の人達の事を馬鹿にしているのではない。
何が気に入らないかと言うと、撮影に最適な条件に合わない機材をいくら持ってきても
全く意味がないという事である。
何故そんな事になってしまうのか?、誤った写真常識がはびこっているのか?
あるいは本人の不勉強によるものなのでは無いのか?、という事である。
私はD70とDC105/2.0のセレクション、いちおう銀塩のGR21(21mm/f3.5)が押さえである、
(GR21には、コニカミノルタ、シンビ200のおとなしいリバーサルを入れてある。
主にローアングルおよびハイアングルからの状況説明的パンフォーカス撮影用途である)
その他のカメラも交換レンズもいらない。 無駄な機材を持ってきても写真は撮れない。
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さて、DC105/2.0の続きである(汗)
DC目盛を、設定した絞り値よりも大きくすると、ソフト効果が現れると言う、
そのような設定にしてみた。
⑩↑D70 DC105/2 ISO200 1/2000秒 F2.0 DC目盛=R5.6
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そして、最後に、DC目盛のR側を最適に調整した場合に、背景のボケ味をかなり綺麗に
できるような設定にしてみた。・・他のニコンレンズとは一線を画するボケが美しい。
⑪↑ D70 DC105/2 ISO200 1/180秒 F3.3 DC目盛=R2.8
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まとめ:DCレンズは優秀なボケ味を誇り、かつそれがコントローラブルな特徴を持つ。
このレンズを用いる事が特定の被写体においては、非常に強力な武器となりうる。
けど、DCレンズとて万能ではなく、不向きな被写体や撮影条件の中ではまったくの
無用の長物にもなりかねない。
しかしながら「機能を正しく理解し」使いこなし「特徴を活かせる被写体」に出会うならば
このレンズは最強クラスのスーパーレンズとなりうる。
「DC105/2.0はそんなに良いんですか?」と聞かれたら、
・・・「被写体の選択と特定の撮影環境において、機能を使いこなす限り最強です、しかし
どれかの条件を満たさなければ、ごくフツーのレンズと変わりませんよ」と答えておく。