前出の記事で何度か述べたが、露出モード(例:P,A,S,M)はどれを使っても結果は
同じである。 じゃ、実際にはどのモードを使ったら良いのであろうか?
写真はオリンパスE-300の露出モードダイヤル。今はA(絞り優先)モードにセットしてある。
余談であるが、先日のOM-4Ti,LXの対決記事中で、私はオリンパス・デジタル一眼を所有
しておらず、投資の優先度も下げていると書いた。しかしながら、やはり持っていない機材の
事を悪くは書きたくなかった。結局翌日カメラ屋に走り、E-300とレンズキットを値切って
買ってきた次第である、これで今月もハンバーガーの夕食が多くなるがまあしかたない(笑)
E-300については、丸一日京都で撮ってきただけなので、まだ長所短所をずばり「切る」段階
では無い、できればおまけズームだけではなく、マクロや、フォーサーズマウントの特徴で
あるマウントアダプターを活用してからでないと真の価値がわからないと思う。
よって、E-300に関する記事はしばらく保留、十分に使いこなしてから追ってレポート予定。
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さて、露出モードの話である。
「結局、どのモードで撮れば良いんだ?」
今時のどの一眼レフにもついているのが、P、A(Av)、S(Tv)、Mの4モードである。
絵文字モードは本来不要のものであるが、このE-300や、D70等では絵文字モードに
おいては撮影シーンに応じた、シャープネス、コントラスト、彩度などの味付けを行って
いるから、完全否定はできなくなってきている、しかし、それとて、その味付けの内容、
あるいは絵文字モードでしかできないようなカメラ設定、その事をよく理解して使わないと
ならない。だから「初心者向けモード」であるというのは依然誤りである。
このようなモードを使っていたら、いつまでたっても、絞りやシャッター速度の意味すら
理解できなくなってしまう、何度も言うようにカメラの三要素は絞り、シャッター速度、
ピント、でありそれ以外の機能は写真を写す上では基本的には必要の無いものである。
そこで、P、A、S、Mの4モードについて考えてみる。
これまでの常識は
「Pは初級者向け」
「Aは中級~上級まで使える一般的なモード」
「Sは動く被写体を写す時に使うモード」
「Mは花火を撮る場合、あるいは露出計を使う場合、または高度な作品作りをする場合」
・・・実際のところ、そうだろうか? ここにも誤った常識が無いだろうか?
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ずっとPでしか撮っていない人は、いつまでたっても、シャッター速度や絞り値が表示
されていても何の意味か分からず、上達の妨げにならないだろうか?
実際液晶パネルに表示されている絞りの数値をフィルムの残り(撮影)枚数と勘違いして、
フィルム枚数が減りません・・と質問されるケースも多々見受けられる。
Aは汎用、これはいいだろう。その通りだと思う。
しかし、Aでも絞りの意味がわかっていないと、とんでも無い事にもなる。
以前、普段はAで撮るように言われていて、MFに切りかえようとして、たまたま
露出モードをSに向けて回してしまった初級者がいた。幸い、「あ、このMはちがうのだ」
と気が付いて、SからすぐにAに戻す。 しかし、その時にあるシャッター速度に対応
する絞り値は、ほぼ限界いっぱいのf=22まで絞り込まれてしまっていた。
その後は、絞りダイヤルを回さない限りは、f22のままである。
「どうもシャッター速度が遅いなあ・・」とその人は疑問を感じながら、その後の撮影の
フィルムはすべて手ぶれ写真で全滅してしまった・・(汗)
Sは動くものを撮る・・・単純にそうでは無い。すなわち、Sモードにしてシャッター速度
をいくつにしたら、どれくらいの速さで動くものを、どのように(止まって?ブラして?)
写せるのだろうか? それを知らずして、Sモードに合わせたところで、何の意味も無い。
簡単な計算をしてみよう、時速36kmで走る人間、あるいは自動車、自転車など・・・
これらは、毎秒10m移動することになる。 この被写体を1/100秒のシャッター速度で
撮影すると、露光間に被写体は10cm移動する、動きをビシっと止めて撮影したければ
より速いシャッター速度でなくてはならず、ブラしたかったら、もう少し遅くするか、
あるいは、流し撮りの技法を用いる必要がある。
Mは高度な作品作り? 別に他のモードで露出補正しても同じである、何でわざわざMに
切り替えて速写性を落とし、シャッターチャンスを逃すような事をするのであろうか?
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ここで、まず、AモードとSモードの設定可能数値の自由度を考えてみよう。
面倒だからISO感度は考えない、どうせその場の明るさが絡むので考えても一緒である。
シャッター速度の設定可能数値を、1段(1EV)単位で記載する。
30(秒),15,8,4,2,1,1/2,1/4,1/8,1/15,1/30,1/60,1/125,1/250,1/500,1/1000,1/2000,
この後は、中級機、上級機であれば、1/4000,1/8000と続く。
まあ、1/4000までが一般的だとして、30秒から合計18種類の数値が設定できる事になる。
絞りの設定可能数値を、1段(1EV)単位で記載する。
f2.8,4,5.6,8,11,16,22,32..
一般的にはこんなものである、単焦点の大口径レンズを使った場合でも、f1.4,f2.0が
加わるのみであり、そういうレンズは構造上たいがいf32までは絞れない。
だから、絞り値は、平均9種類しか設定(選ぶ)ことができない。
もっと簡単に言えば、シャッター速度の設定可能な値の種類は、絞りのそれの約2倍の
自由度がある。
つまり、絞り優先モード(A,Av)にしてあげれば、9種類の絞り値のそれぞれに対応する
シャッター速度を得れる可能性が高いが、シャッター優先ではシャッター速度を設定
しても、それに対応する絞り値が得られない可能性が高い。
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「ホンマか? ウソつけ、そんなのその場の明るさやカメラやレンズの性能(仕様)に
よっても違うのではないか?」
・・・そう、条件が色々あるため、この問題はこれまできちんと討議・検討されてきた
事がなかったのだと思う。
しかし、よく考えみると良い。
普通に日中の明るさで撮っていて、シャッター優先でシャッター速度をおもむろに、
1/8000秒とか1/4000秒とかやったって、普通のレンズでそこまで絞りを開けれるような
超大口径レンズは無いだろう。(一眼レフ用に市販されていた最も明るいレンズは
f1.0である、また光学的な原理から言うと、f0.5より明るいレンズは作れない)
また逆に、シャッター優先で30秒とか・・まあ、そこまで極端でなくても良い、1秒とかに
設定したとして、日中の明るさでそこまで絞れるレンズは、まず存在せず、
ピンホールレンズくらいしか無いだろう(もちろんピンホールとて自動的に絞りを調整
できるはずも無い)
開放f値が3.5や4.0程度から始まる普及ズームではますます、高速シャッターに設定して
も絞りを開けきれないし、逆に、開放f値が1.4や2.0の大口径単焦点においては、
低速シャッターにした時に絞りが絞りきれない事になる。(構造上小絞りが作りにくい)
つまり、シャッター優先は、1/30秒、1/60秒~1/500秒程度のごく一般的なシャッター
速度にしか設定する事が難しく、注意して絞り値を確認しないと、すぐに露出オーバー、
露出アンダーになる危険性を大きく秘めているモードである。
そして、超高速被写体を完全に止める1/500秒より速いシャッター速度、
あるいは水の流れなどをゆるやかに表現する1/8秒以下のシャター速度においては、
手ぶれとかうんぬんよりも先に、そもそも絞りの値が追従しない可能性が高い。
結論から言うと、シャッター優先モードは汎用的ではなく、ある特殊な被写体撮影条件と、
それに見合う機材(カメラ、レンズ)が揃っていないと、実用性が無い。
特殊な撮影条件、たとえば高速で(しかも予想できる速度で)疾走するF1レースカーを
大口径の望遠レンズで捉える撮影とか・・、明るさの変化しない条件で渓流や滝の前に三脚
を立てて非常に絞り込めるレンズと計算されたISO感度において、厳密に水の流れの質感を
設定して撮影する風景写真とか、、すなわち殆どアマチュアの領域では無い世界において
意味を持つモードである。下手に使うとすぐ絞りが追従しなくて、イライラするだけである。
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「じゃ、A(絞り優先)モードならば、そんな問題は無くなるのか?」
・・・シャッター速度が追従しないという問題はまず無くなる、けど、違う問題が出てくる。
第一に手ブレである。
Aモードで絞り込めばどんどんシャッター速度が遅くなる、おおむね焦点距離分の1秒を
下回ると手ブレしやすくなってしまう。
(これは当然であり、シャッター優先モードでシャッター速度を下げても同じである。)
第二にシャッター速度オーバーである。
日中f1.4などの大口径レンズを、背景をボカしたいから、と絞り開放にして、かつ高感度で
用いたら、シャッター速度は1/4000秒程度に達することがある。
1/2000秒までの普及AF一眼レフならその時点でアウト、少し絞るしか無い。
まあしかし、最近の中級以上のAFあるいはデジタル一眼レフであれば、1/8000秒を搭載
しているカメラもめずらしく無いので、ISO400程度までならば、まず1/8000秒に達する事
は無い。だから、そういったカメラを使えば、シャッター速度オーバーはあまり気にする
事は無いだろう。
結局、絞り優先モードを使ったとしても、その時のシャッター速度には十分注意を払う
必要があるので絞りとシャッターの両方の数値は常に監視しておく。けど、シャッター
優先よりも組み合わせの自由度が高いので、おおむね手ブレ程度にだけ注意しておけば
良い。 ちなみに、絞り優先だってシャッター速度が表示されるわけであるから、
希望するシャッター速度になるように絞り値を設定すれば、シャッター優先モードと
同じ事ができる。
(光の変化に追従できない・・とは言わない事。厳密にこのシャッター速度でなければ
ならない、というのはむしろ特殊な状況であり、じゃ、シャッター優先ならば、光の
変化による絞り値の変動からなる被写界深度の変化や、絞り設定範囲オーバーのリスク
を無視できるのであろうか? そうとは思わないので、絞り優先だけあれば十分である)
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【玄人専科】
1970年代、キヤノンAE-1を筆頭とするシャッター速度優先主義と、ニコン、ミノルタ、
などの絞り優先主義はメーカーの思想やユーザーの思想の上でも激しく対立したと聞く。
しかし、1970年代後半、キヤノンA-1,ミノルタXD等のカメラに搭載された「両優先」
すなわち、絞り優先もシャッター優先も両方搭載する、とい技術革新により、この
論争は決着がついた(無意味なものになった)と聞く。
今の時代から考えれば、実際には、絞り優先モードで普段撮影している中級者以上の
カメラマンはおそらく99%であろう、だったらシャッター速度優先という主義そのもの
は最初から不利だったのでは無いのか?
当時の論争の雑誌記事など現在は調べようも無いので、今まではそう考えていた。
しかし、この記事を書くために、もう一度当時の状況を振り返ってみると、意外な事実に
気が付いた。以下は推測であるが・・・
当時、キヤノンAE-1の性能は、高速シャッターは高々 1/1000秒までであった。
そして、一般的にAE-1に装着するレンズは、FD50mm/f1.4、今で言う大口径標準レンズ。
今でこそ暗いズームレンズが主流であるが、当時はf1.4の標準レンズはあたりまえであった。
では、このレンズで初級者が手ぶれしない最低のシャッター速度は 1/60秒となる。
だから、実用的なシャッター速度の選択肢は、1/60,1/125,1/250,1/500,1/1000の
僅かに5種類しか無い。
対して絞り値は、f1.4,f2,f2.8,f4,f5.6,f8,f11,f16 である。メーカーによってはf22まで
絞れるレンズもあったかもしれない、いずれにしても、絞りの選択肢は8ないし9通りである。
前述の「選択肢の狭い方を優先する方が自由度が高い」という事から考えてみると。
当時のカメラでは、絞り優先モードにして絞りを開けるとすぐシャッター速度がオーバー
して、逆に絞りを絞るとすぐ手ぶれする危険性があったと思われる。
(実際に当時のカメラとレンズの組み合わせも使っているが、その通りである)
それ以前のカメラはすべてM(マニュアル)露出モードであったから、絞りもシャッター
もカメラマンが責任を持って設定・管理する事で写真を撮っていたのが、自動化されて
カエラまかせににすると、絞り優先の方が、シャッターが追いつかない可能性が高いと
いうリスクを抱えていた。そして当時はAE(自動露出)は初級者用をターゲットと
したコンセプトの技術であり、初級者用ということは、フールプルーフ、すなわち誤操作
による失敗の発生のリスクを最小限に抑えなければならなかったと思われる。
よって、当時のキヤノンのシャッター優先主義は、作画意図からよりも、むしろそんな
安全性を目指していたのではないだろうか?
(AE-1を使うと、真っ白な写真になった、ブレた写真になったと言われない為に・・・)
今の時代、カメラのシャッター速度はより高速化し、逆にズームレンズの普及により
レンズの開放f値は小口径化された、この結果、絞り優先の方がシャッター優先よりも
安全性・汎用性の高いモードに落ち着いたのであって、カメラの性能や仕様の変化を
考えないと、撮影技法におけるコンセプトについは安易には語れないと思ったのである。
【玄人専科・終わり】
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露出モードのまとめである、
「匠はいつもどんな露出モードで写しているんだ?」
・・ううむ、Aが99%、Pが0.3%、Mが0.5%、絵文字が0.2%くらいか?
「Aが常用というのは納得した、その他はどんな時に使うんだ?」
・・わかった、私の場合をあげる、これは、非常に個人的なノウハウによる使い方で
あるから、参考にならない可能性がある事も言っておく。
P:記念撮影専用モード
観光地などで、誰か一眼レフを使っていそうな人を見つけ、
「すみませ~ん、写真撮ってください~」と頼む場合の専用モード(笑)
Pは、完全自動であるが、手ブレしそうなシャッター速度や、露出オーバーになるような
絞り値には絶対にしないので、人に頼む場合には安心である。
特に自分が構えて撮る場合(方向)と、向こうから自分を撮ってもらう時は光線状況が
異なる場合が多いので、ますます自動露出にまかせた方が安心である。
できれば、ミノルタのグリーンPモード等のように、カメラのツマミをどう回しても
絶対にPモードから抜けないような設定があれば尚良い、誰に渡してもシャッターを
押すだけで確実に写してもらえる。(AFでもピンボケにする人もいるが・・汗)
後は、GRシリーズコンパクトもPモードで撮影している(シャッター速度オーバー対策)
M:花火および、厳しい状況の夜景専用モード
花火ではMというよりB(バルブ)である。これは、その時は誰でもそう使うだろう。
夜景でのMモードの活用であるが。
たとえば 35mm/f1.4などの大口径レンズを使い、夜景を撮影する。
この時にそのレンズの焦点距離と、自分の持つ技術による手ブレ限界を設定(想定)する、
たとえば、私の場合、35mmであれば1/15秒が安全圏である、デジタルなら1/10秒でも1/8秒
でも成功カットを選び出す事で撮れない事は無いが、失敗が確認できないフィルムカメラの
場合などはちょっと怖い。
Aモードにすると、明るい場所では1/15秒以上、たとえば1/30秒や1/60秒が切れていたのが、
暗い場所にカメラを向けると1/15秒を勝手に下回ってしまう厳しい状況だったとする。
そこで、ネガフィルムの場合などでは、Mモードにしておき、f1.4、1/15秒を固定する。
それでどこでも撮りまくる、当然明るい被写体では露出オーバーになるし、暗い場合は
露出アンダーになる、しかし、手ぶれは防止する事ができる。
そして露出オーバー、アンダーになった分に関してはネガのラティチュードに期待し、
プリント時に補正する事で救済する。
この技はポジでは厳しいが、デジタルではPCでのアフターレタッチにより、ネガほどでは
無いものの、若干は救済できる。
その他のケースとしては、ごくまれに「入射光式露出計」を使う場合にはMモードが
必須になるのだが、それとて普段は、Aモード+露出補正で十分であると思う。
ピンホールの場合は、1000÷(f5.6の露出値)で暗算してMモードで秒数を設定するか、
あるいは、PENTAX LX を持ち出す、このカメラは、約2分までAモードで自動露出が
効く高精度を誇る(ちなみに、OM-2,OM-4もほぼ同等の高精度を誇る。現代のカメラは
最大30秒までであり、暗い時にISO100のピンホールでは自動露出は30秒を超えて使えない)
勿論昔のカメラではMモードしか無いものがあり、それはそれで普通に使えば良い。
なお、Mモードだからと言って、「高度な作画意図」が自由に設定できるはずもない、
単にそれは作画に必要な絞りとシャッターを両方とも自分で設定する面倒なモードに
すぎない。必要な露出値は決まっているのであって、自分でそれらを勝手に決めれば
露出は絶対にあわなくなる。(注:ニコンD70などのMモード自動ISO設定は例外)
さらに余談であるが、Mモードで撮るからと言って、AF/MFの切り替えまで
MFモードにする必要は無い、露出(絞り、シャッター)と、ピント(AF/MF)は
まったく別ものである。
絵文字モード:
普及機などで、夜景ポートレートモードが絵文字モードでしか選択できない場合。
同様に、普及機などで連写モードあるいはコンティニュアスAFが絵文字のスポーツ
モードでしか選択できない場合。
または、アクティブAF型コンパクト機などで無限遠にAFが合いにくい場合に山
(風景)モードを選択する場合。
・・・くらいしか使わない。
D70やE-300のシーンに応じたデジタルパラメータの設定は、コンセプト的には興味が
あるが、レタッチは後でPCでするので、実用的には使う必要が無いのが現状である。
彩度やシャープネス、あるいは色温度が自動設定されているのは面白いが、それを
使うために、絞りやシャッター速度やストロボの設定に制限が出たらつまらないと思う。