いよいよこの日が来てしまった。
2004年から8年間の活動を続けてきた、アマチュアロックバンド
「Kumamaroom」の最後のライブだ。
2012年7月22日。場所は大阪、アメリカ村のサンホール。
サンボウルというボウリング場の地下2階にある中規模ホール、
まさしくアンダーグランドという雰囲気に包まれているこの
ライブハウスには、多くのアマチュアバンドが、夢を求め、
あるいは情熱をぶつけ、そして、自らの音楽表現への欲求を
完結させたいが為にと、集まってくる。
Kumamaroom のメンバーは、そうした若者達の中に混じっては
少々年齢層が上だ。 いわゆる”ベテラン”という事になるのだが
ある意味、いくつになっても音楽への夢や情熱を捨てていない事
はとても素晴らしい事だ。
そのKumamaroom結成時以来のオリジナルメンバーがこちら
通称 Tigaさんだ、色々とステージ名は変えている様子だが、
まあ、一番馴染みのあるこの名前が呼びやすい。
ハードロック一筋、メカ好きの”こだわる男”である。
まあ、レスポールにマーシャルとくれば、ハードロックや
ヘヴィメタル系であることは容易に予想がつくことであろう。
楽器に限らずバイクやカメラなど、メカ好きのTigaさんに敬意を
表し、まずは、彼の使っている楽器について・・
まず、レスポールとは米ギブソン社製のエレキギターの種類だ。
もう60年間も製造され続けている超ロングセラーモデルで、
当然バリエーション(種類)も多く、また、本家のギブソン社の
他にも、実に多くのメーカーから、レスポール風のデザインの
ギターが発売されているので、定番中の定番のエレキギターだ。
その長所は、大出力のハムバッキング・ピックアップを搭載し、
真空管アンプなどにつなぐと、大きく歪みながらも中低音に
特徴のある、やや甘い音色が得られ、いわゆるハードロック系
サウンドを得ることができる事だ。
いや、勿論、1960年代から70年代にかけ、このシステムによる
そういう音が流行して、ハードロックという音楽ジャンルが成長
した訳だから、これは一種の「様式」ということになるであろう。
ちなみに、レスポールの弱点は、オーバードライブをかけない
ノーマル音(クリア音)が、やや単調に感じることと、日本人の
体形にあまりマッチしないネックやフレットの高さであろうか、
人によっては(あるいは楽器の個体によっては)弾きにくく感じる
事もあるのだろう、このため、ギター専門店などでは、レスポールの
リフレット(フレット交換)等のサービス行っている場合もある。
そのレスポールと切っても切れないパートナーが「マーシャル」だ。
これも1960年代から、かれこれ50年も生産が続く超ロングセラーの
英国製ギターアンプで、真空管式で、温かみのある歪み音が特徴だ。
真空管は、その昔はTVやラジオを初め、様々な家電製品や
産業機器等に使われていたが、最近では高級オーディオと楽器用
くらいでしか見ず、今や入手の難しい高級品となっている。
真空管アンプとトランジスタアンプの出音の最も大きな差は、
メインアンプ部に過入力を与えた時の歪み特性の差だ、
トランジスタの場合は、たとえば倍音の殆ど無い正弦波の波形を
入れてあげると、波形の上下がクリップして矩形波に近い状態に
なる、矩形波は、基本波の奇数倍(3,5,7・・)の奇数次倍音しか
含まないので比較的単調な音だ。
対して、真空管アンプの場合は、言葉では表現できにくい複雑な
波形となって歪み、これはすなわち偶数次倍音も奇数次倍音も
その両者を多く含む、豊かな音となる。これがいわゆる真空管の
「オーバードライブ」サウンドだ。
実はオーバードライブさせるという事は歪んだ音を出すことが
主目的ではなく、本来は、過入力でクリップさせた音が、、
弦楽器であるギターの弱点である、速やかな音の減衰を
緩和させて、音を長く伸ばすことが出来る事にある。
これにより、音楽の中で(エレキ)ギターでも、白玉(全音符や
2分音符の持続音)コード伴奏や、メロディでのロングトーン
(長い音)を得る事ができる。
これを楽器の世界では、サスティン(持続)効果と呼んでいる。
つまり、オーバードライブの歪みは、実際にはサスティンの副産物で
あったのだが、歪んだギター音が音楽シーンで定番になってくると、
それ自体が、また一種の「様式」として定着することになった。
ハードロックという音楽ジャンルは、1960年代くらいに生まれ、
1970年代の、ディープ・パープルやレッド・ツェッペリンにより
最盛期を迎えるとともに「ハードロック」と言う呼び名もこの時期
に定着した、その後1980年代以降になると、このジャンルの
音楽の一部は「ヘヴィメタル」と呼ばれるようになってくる。
両者の厳密な区分や定義は殆ど無いので、音楽に関する会話等の
中では、1970年代以前のバンドに関してはハードロック、そして
80年代以降のバンド(例えば、ゲイーリー・ムーア、マイケル・
シェンカー・グループ、リッチー・ブラックモアズ・レインボウ等
・・以降現代まで続く)をヘヴィメタル(バンド)と呼んで
区別する事が多い。
個人の好みの音楽ジャンルというのは、たいてい多感な青春時代
(10代後半)に形成される事が殆どである。
そして、各年代にどのような音楽が流行していたかと言うと・・
例えば、1950年代(以前)は、洋楽はジャズとラテンミュージック、
邦楽でも、歌謡曲の流行の中に(当時、まだあまり一般的では
なかった海外旅行への憧れか)外国をテーマにしたエキゾチック
な曲が多く含まれている。
1960年代には、洋楽ならばビートルズやベンチャーズ、
邦楽ならば歌謡曲やグループサウンズが流行していた。
1970年代となると、洋楽ではハードロック、ちょっとマニアックな
むきにはプログレもある。
邦楽ではフォークソングとピンクレディーの全盛期だ。
1980年代は、洋楽はダンス(ディスコ)ミュージック、
邦楽はアイドル歌謡が大ブームであった。
1990年代となると、洋楽では、アコースティック(アンプラグド=
生楽器を主体とした音楽)や、ディーバ(歌唱力のある歌姫)
邦楽でも同様に、アコースティックや実力派の歌手の台頭がある。
ちなみに2000年代以降の流行は、純粋に音楽に対しての好き嫌い
よりも、たとえばドラマや映画、CM等とタイアップしたり、
商業的な仕掛けにより売り上げが左右されるようになってしまった・・
・・なので、まあ、誰かが好きな音楽ジャンルを語っている際に、
その音楽ジャンルが流行した年代から、15ないし20年を
引いてやると、怖いことに、だいたい、その方の生まれ年が
わかってしまうという寸法だ。
ただし、勿論で、あるがクラッシック音楽にはこの年齢推定法は
使えない(笑)年齢を知られたくない向きには「好きな音楽は?」
と聞かれたら、バッハとかモーツアルト、ショパンとか答えて
おくのが無難であろう。
で、先の、ハードロックかヘヴィメタルか?、というのも、
その音楽ジャンルがそのように呼ばれていた世代(時代)の
差が少しあるということだ。それはそのまま、そうした音楽を
聞いている(いた)人達の世代の差に繋がることが多い。
さて、雑談ばかりであるが、ここでもう一度 Kumamaroomの
メンバー紹介。
↑まずは前述の Guitar. Tiga氏。
ベテランだけあってギターの腕前はなかなかのもの、
安心して見ていられる、たいていラストの曲でギターを振り回す
などの派手なパフォーマンスをするのだが、愛用のギターを壊さ
ないか、見ていてちょっと心配(笑)
オリジナル曲を作曲する才能も持ち合わせている。
↑Drums は Grim氏だ。
ハードロックでのリズムの要は勿論ドラムとベース、
彼のドラムスは、変に走ったり、リズムを崩したりする事が
少ない安定感のあるプレイだ。
ドラムスはいつもステージの奥まったところに位置しているので、
照明は逆光で暗く、観客からも写真を撮る上でも見えにくく厳しい
場所にある、ドラムソロなどがあればスポットが当たることも
あるのだが、今回のステージではそれは無し。
それと、スモークを炊いたりするステージではさらに見えにくく
なるのだが、幸い今回はスモークはなかったため若干ましだった。
↑Bass / Vocal の YAO-P氏。
彼は、最も最近になって Kumamaroom に参加したらしいが、
最初の練習の時に、いきなり「次回のライブで活動凍結します」
と聞いて、寝耳に水で驚いたとか・・
プレイは非常に派手である、所せましと動き回り、5弦ベースを
振り回しながらの演奏は、カメラマン泣かせ、ただ、まあ、
こうしたプレイの方が写真では迫力あるシーンを得ることも
あるので、じっとしているよりは被写体としては魅力的だ。
↑紅一点、Keyboard の Cherry さん。
今回も軽量デジタルシンセ JUNO-Dを持ち込んでいる。
私は、このキーボードの祖先であるJUNO-6の量産試作機という
貴重な楽器を所有していたのだが、もうずいぶん前に故障して
しまい、今は手元にない。
JUNO-6は約30年前に発売された、手の届く価格で購入できる
ポリフォニック(6音まで同時演奏が可能、それ以前のシンセは
単音のものが殆どだった)シンセであり、初のDCO(デジタル・
コントロールド・オシレーター、それ以前のシンセはアナログ
発振回路を音源としていた)を搭載した機種であり、今で言う
ところのアナログとデジタルのハイブリッド楽器だ、DCOは
音程は正確だが(アナログ発振回路は温度により抵抗値が変化し
それがピッチ(音程)の変化やゆらぎに繋がる)、機械的で
音の厚みや温かみにかけ、搭載したコーラス・エフェクトにより
それを補填していた。
また、大きな弱点として、(ツマミ等を操作して)創り上げた
音色を記憶することができず、つまりステージ等では実質的には
1つの音色でしか演奏できなかった。
(このころのユーザー・メモリー・バンクの無いシンセは、
この問題があったため、当時のシンセサイザープレイヤーは、
何台ものシンセを、異なる音色に設定しておいて演奏していた)
で、電子楽器のデジタル化は、カメラのそれより約20年も早く、
1980年代には、多くの電子楽器がデジタル化されていった。
しかし、前述の真空管アンプの話ではないが、ただ単に
アナログ回路をデジタル回路で置き換えただけでは、楽器の使命
として重要な表現力や、リスナーが聞いていて心地よい音色、
というものが出てこない、そこで、楽器の世界では、それから
先は、デジタル化された技術で、いかにアナログらしさを出すか
とか、いかに多彩な表現力や、心地よい音作り、といったものを
目指して進化してきたわけである。
(この例として、アナログモデリングシンセがある)
カメラの世界ではデジタル化からまだ10年にも満たないので、
あいかわらずハードウェアの進化ばかりに視点が集中している。
楽器は音楽を演奏するものであると同様に、カメラは写真を撮る
道具ものなのだから、今後は電子楽器のように、表現力を増やし、
あるいは心地よい写真が撮れるようにと、進化して行けば良いと
思っている。
ところで、Cherry さんのJUNO-Dは、約8年前に発売された機種で、
もう最新とは言えないのであるが、それでも同時発音数は初代
JUNO-6の10倍以上の64音ポリフォニックだし、音色数は640もあって
瞬時に切り替え可能、しかもそれぞれの音色に対し微調整
(エディット)が可能て、それをユーザー音色として記憶することも
できる。さらにアルペジエーターやリズムボックス、デジタル・
マルチエフェクターまで内蔵していて、おまけに5kgと軽量なので、
ステージ用には最適なのであろう。
(ちなみに音楽記録機能など、より多くの機能のついたシンセは
「ワークステーション」と呼ばれていて、スタジオや自宅での
作曲・編曲・録音用などに用いられている)
このように、ある目的に特化したメカ(楽器やあるいはカメラ等)
の設計思想は、とても潔いと思うのであるが、いざ買う段になると、
あれも、これもと沢山の機能が入っているメカを選んでしまうのが、
どうにもハードに対する物欲が走りすぎているようで反省しかりだ。
メンバー紹介の途中でまた余談が長くなってしまった・・(汗)
Cherryさんのプレイであるが、一言で言えば地味な感じ。
ただ、ハードロックのジャンルの中ではキーボードの位置づけは
昔からそんなもんだ。 ハードロックでは、低音部をドラムスと
ベースがしっかり受け持ち、高音部をギターと、シンバル、そして
比較的高音域のボーカルでまかなう、まあ、音楽ジャンルの性格上、
ドンシャリ(高音と低音に分離した音)になる事が望ましいのだが、
中音域がすっぽり抜けてしまうのも音としては、寂しい感じだ、
そうした場合、キーボードがあって、中音域のパートを受け持つと
音楽全体のバランスが取れるようになってくる。
まあ、中には、ディストーションのかかったハモンド(オルガン)
などを使って攻撃的なアドリブを行うロック・キーボーディストも
いるのだが、Cherryさんの場合はそんな感じではない。
Juno-Dを用いて、あくまで裏方に徹しているような堅実なプレイだ。
↑最後に、Main Vocal は、Turkey氏だ。
まず、このコスチュームが目を引く、頭髪は勿論カツラであり、
実はこの下はスキンヘッドだ。
派手なパフォーマンス、そしてハイトーンで声量のあるボーカル、
さらにはMCも面白い、観客を楽しませてくれることこの上ない。
Kumamaroom は、その8年強の活動期間において、メンバー交代
は数多く行われている、一時期は8人まで増え、ハードロックならぬ
「パーティロック」バンドとなっていた。
ちなみに、パーティロックとは、これも明確な定義は無いのだが、
まあ、どんちゃん騒ぎで、演奏する側も見る側も楽しい音楽、
とでも言っておこうか・・
ここで「見る側も楽しい」というのは、アマチュア音楽で最も
おろそかにされやすいポイントだと思う。アマチュアの演奏だから
と言って楽器の演奏が下手か?というと、そうでもなくて、特に
こうしたライブハウスなどで演奏しようというバンドは、どこも
そこそこ楽器の演奏、という面に関しては水準をクリアしていて
聞いていて、聞き苦しいという訳でもない。
ただ、お客様を楽しませる、という点ではどうか?
多くのアマチュアバンドは、ステージ経験も少ないせいもあり、
そのあたりが上手くできないようだ。
そうなると、いくら演奏がそこそこでも、見ていても面白く無いし、
MC(曲中のトーク)などが不味いと、ハラハラしてしまう事もある。
しかし、Kumamaroomの場合、パーティロック時代の経験も
役立っているのか、今回のラストライブでも、見る側をそこそこ
楽しませてくれたように思える。
Kumamaroomは単なるコピーバンド(世の中のヒット曲を演奏する)
ではなく、オリジナル曲もあるし、選曲を含めたステージの構成や
パフォーマンスやMCも、まずまずであるし、他のアマチュアバンド
とは一線を画す、いわゆる”ベテランバンド”であると思う。
Kumamaroom がここで終わってしまうのは、ちょっと寂しいのであるが
幸いにして、すぐにメンバーを再編し、
「BERSERK」という名前の
バンドとして始動することが決まっているようである。
冒頭にも書いたが、もはや若いとは言い難いくらいに年をとって
きても、音楽への情熱を持ち続けるという事は素晴らしいと思う、
恐らく独学であろうが、オリジナル曲の作曲などを行うことも
たいしたものであり、たとえ楽器が弾けても、音楽理論が若干
わかっていても、作詞作曲をするという行為(創作活動)は、
とても沢山のパワー(心の内、内面にたぎる思い)を必要と
するので、なかなか、年がいってからは難しいものなのだろうと思う。
しかし、創作活動、すなわちアートというものは、全てそういう
ものではある、高年齢だからといってアートを始めるには遅いと
いうこともない。けど、アートは”習い事”ではない、
ギターを習いたいからと言って、コードフォーム(形)を覚えて
いる段階と、ギターによるアートの世界とは雲泥の差があるのだが
一足飛びにそこまで到達できるわけもなく、まずは誰でもコードや
スケールから始めなくてはならないわけだ。
だが、”習い事”感覚のままでいると、いつまでたっても、たとえ
5年や10年練習していても、その段階からは永遠に抜けられない、
どこかで「ギター(楽器)は誰かから習ったり、譜面をそっくり
なぞって上手に弾こうとするものではなく、自分が誰かに何かを
伝えるための道具なんだ」という気持ちの切り替えが出来ない限り
は何十年練習していても次の段階に進むことはできないであろう。
楽器は習得するのに火非常に長い年月をかけなくてはならないのだが
そのあたり、安易な”習い事感覚”で始めてしまうと、例えばギター
のFコードが押さえられずに、そのあたりで脱落してしまうような
入門者がとても多い、また逆に、ある程度弾けるようになってくると
表現あるいは観衆への感覚や意志の伝達という本来の音楽の目的を
外れてテクニカルな要素ばかりを見てもらいたいという気持ちが
先立ってしまうプレーヤーも多く見かける。
カメラもまたしかり、画素数だ、AF性能だ、連写速度だ、
レンズの開放F値だ、レンズのボケ味だ、とか、ハードウェア的な
要素ばかりに気をとられてしまうと、そうしたカメラを道具として
得られる”写真”というものの持つ本来の意味がおろそかになってくる。
まあ、なかなか趣味の道を高めていく事は容易では無いわけだ・・
Tigaさん、あるいは他のKumamaroom のメンバーは、そのあたりが
わかっていると思うので、今後、どのような形でユニット(バンド)
が再編成したとしても、きっと、新たな表現を、そして感動を、
観客に与えてくれるのに違いない。
新バンドに大いなる期待を持って、Kumamaroom Last Live記事とする。