コシナ社から凄いレンズが登場した。

コシナ社は現在、コシナ、フォクトレンダー、カールツアイス
の3つのブランドを持つが、旧来よりOEM(他社への製品供給)
を続けてきた老舗のメーカーである。
旧来は自社ブランドである「コシナ」はネームバリューが無く、
一部のマニアがその設計力(性能)については評価していたが
一般に知られることはなかった。
そしてコシナが頭角を現し始めるのは、ドイツの約200年前から
続いていた光学機器の超老舗ブランド「フォクトレンダー」
(Voigtlander)のブランド名を1999年に譲り受け、そこから
銀塩レンジファインダー機である「ベッサ」シリーズや、
カラーヘリヤー、カラースコパー、アポランターといった
レンズをフォクトレンダーブランドで売り始めてからである。
コシナのフォクトレンダーはそのブランド名に恥じない
高性能と作りの良さで、またたくまにマニアの心を掴んだ。
コシナはその後、京セラがカメラ事業から撤退した後、
宙に浮いていた「カールツアイス」のブランドも取得、
さらなる高性能(だが高価・・汗)のレンズ群も現在に
至るまで開発および発売を続けている。
旧来ブランド力の無かったコシナが、有名ブランドを手に
入れることで、思い切った高付加価値のレンズを、贅沢と
言えるほどの作りと性能、そして、それに見合う値段で
販売できるようになったということだ。
そして2010年、フォクトレンダーブランドから世界で
最も明るいF0.95という開放F値を持つ写真機用レンズ
(注:写真機用レンズとしたのは、映画用や監視カメラ用等
では、同等かもっと明るいレンズが存在したため)
が発売された。

「ノクトン」の「ノクト」とは、音楽で言うところの
ノクターン=夜想曲、とかと同じ意味で、つまりは「夜」と
いうことだ、F0.95と極めて明るいレンズであるから、
夜でも写すことができるということが語源のレンズである。
同様に、ライカからは「ノクチルックス」そして、
かつてはニコンに「ノクトニコール」という開放F値の
明るいレンズが存在した。
ちなみに、F値は、焦点距離÷有効口径(瞳径)で表される
数字あるが、本来は口径がデカい方が明るい筈だから、
すなわちこの数値は逆数(1を割った数)となっている。
よって、数が小さいほど明るく、通常のズームレンズでは
大口径(=明るい)と言っても特殊なものを除きF2.8どまり、
単焦点となって、F2.0とかF1.4のものが一般的な大口径レンズ
となり、ごくまれにF1.2やF1.0の超大口径レンズが存在する。
F1.0を切るレンズは、古(いにしえ)のキヤノンのレンジ
ファインダー7用のF0.95、そして近年のライカノクチルックス
F0.95、それくらいしか記憶に無い。
そこに今回のフォクトレンダー F0.95が突如登場したわけだ。

明るいレンズ、すなわち開放F値が小さいレンズを小さい絞り値で
用ると、知っての通り背景をボカすことができる。
しかし、不用意に絞りを開けて撮ると、上のような写真の場合、
普通に背景を入れているつもりが(本来ならパンフォーカスに
するつもりなのが)背景までピントがいかず(被写界深度外と
なって)ボケてしまう。
ただ、勿論そのあたりは、絞りの使い方次第、パンフォーカスに
したかったら、F11なりF16なりに絞り込めば良いだけのことだ、
しかし、そういう使い方ならば、通常のレンズと同じことであり
ノクトンの場合は、ひとたび最少絞り値のF0.95にセットすれば・・

極めて浅い被写界深度となり、背景を大きく・・やりすぎな程
ボケかすことが可能となる。

ちなみに背景をボカす(=被写界深度を浅くする)には
以下の5つの条件のうち、多くを満たすことが必要となる。
1:絞り値をできるだけ小さくする
2:焦点距離をできるだけ望遠側にする
3:被写体にできるだけ近寄る
4:被写体と背景(または前景)の距離差を大きくする
5:撮像素子(またはフィルム)をできるだけ大きくする

ちなみにノクトン25mm/F0.95は、マイクロフォーサーズ規格の
カメラ(パナソニック・Gシリーズや、オリンパス・ペンシリーズ)
専用のレンズである。
他のマウントのバージョンは恐らく発売されないであろう。
理由は、イメージサークルの小ささとバックフォーカスの短さ
であり、ミラー付き一眼のAPS-Cやフルサイズに対応しようと
すると、レンズの後玉を大きく、かつ後ろ側の焦点を長く
とらなくてはならないので、設計が根本から変わってしまう
と想われるからだ、ある意味特殊な環境であるミラーレスの
マイクロフォーサーズでのみ実現できたレンズかもしれない。

ノクトン25mm/F0.95を、この使用環境において、被写界深度を
浅くする条件を満たすかどうかをもう一度検証してみると・・
1:絞り値=◎
F0.95という数値は最強であり、申し分無し。
2:焦点距離=X
25mmという数値は望遠とは言えず、被写界深度は深くなる。
3:撮影距離=○
最短撮影距離は17cmであり、これはマクロレンズ並みに
寄れるということになる、ただし勿論寄らなければならない。
4:被写体と背景の距離差=?
これは撮影状況によりけり。
5:撮像素子サイズ=△
マイクロフォーサ-ズの撮像素子の対角線長は35mm銀塩
フィルムの約1/2であり、現行一眼レフの中ではもっとも
小さい部類であり、基本的にはあまりボケ無い。
これはつまり、背景を大きくボカそうとした場合は、
絞りを開けて、できるだけ被写体によって、かつ背景との
距離差を大きくとらなくては、さしものF0.95レンズでも、
浅い被写界深度(=大きな背景ボケ)の写真は撮れないと
いうことになる。

ちなみにこの写真は、絞りを開けて被写体にもある程度
寄っているが、背景との距離差が小さく、あまりボケた
感じはしない。
被写界深度を計算する場合は、許容錯乱円という数値が
パラメータとなるのだが、この許容錯乱円、すなわち
ピントがどれくらまでずれたらボケと見なすかどうかの
数値は、フィルムの場合はほぼ決まっているが、デジタルの
世界では、鑑賞条件などでも変化するため、ちゃんとした
定義がなく若干あいまいである。
それでも、35mmフィルムの許容錯乱円 0.033mmに対し、
マイクロフォーサーズの場合は、0.017mmと、約半分と
見なすのがだいたい正解であろう。
これはつまり、35mmフィルムの倍、というマイクロフォーサーズ
の画角換算の計算と同様であり、このフォクトレンダーノクトン
25mm/F0.95 は、銀塩換算画角は50mm相当(すなわち
標準レンズ相当)、そして、許容錯乱円から逆算すると、
ボケ量は、35mm銀塩フィルムでの F1.9と同等くらいとなる。
なんだ・・ F1.9程度か・・ と嘆くなかれ。
35mm銀塩コンパクトカメラの名機 FUJI FILM「ナチュラS」は、
24mm/F1.9の大口径レンズを搭載していた。だが、それは主に
ISO1600のナチュラフィルムと組み合わせてノーフラッシュ
での夜間または室内撮影を実現する目的のカメラであり、
大きなボケは得られなかった、その最大の理由は最短撮影距離
が40cmもあって、近寄って写して被写界深度を浅くすることが
できなかったからである。
そして、このノクトンに最も近いスペックの一眼用レンズ
としてはシグマ AF24mm/F1.8がある。
このレンズは最短撮影距離が18cmと非常に短く、デジタル
と銀塩兼用、銀塩一眼レフカメラで使用すると最短撮影距離
付近ではF1.8で大きな背景ボケを得ることができた。
広角レンズでの大口径は珍しかったので、このレンズは私も
銀塩時代からデジタルに変わっても愛用しつづけている。
で、勿論、このシグマ24/1.8でさえも銀塩ではノクトンと
同等のボケ量であっても。仮にマイクロフォーサーズで
使ったとしたら、ノクトンとのボケ量にはやっぱりかなわない、
F1.8はF1.8だし、最短撮影距離は変化しないからだ。
なので、まあ、マイクロフォーサーズで使うかぎりは、
ボケ量はやはりノクトン25mm/F0.95にかなうものは、
少なくともマイクロフォーサーズ用レンズでは存在せず、
あとは 85mm/F1.2 とか、200mm/F2 とかの大口径望遠が
撮影距離によっては同等の被写界深度くらいか?(要計算)
撮影距離といえば、100mm/F2.8マクロなども最短撮影距離で
撮ったら大きなボケが得られるので、ノクトンと同等か?
ただ、この手の大口径望遠や中望遠マクロを使った事がある
人ならばご承知のように、もうこの手のレンズは背景が
ボケすぎて困ってしまうくらいなのである、つまり背景が
なんであっても完全に大ボケして同じような画(え)に
なってしまうので、どれくらい背景を残すか(どれくらい
絞るか)を考えて撮るレンズということだ。
ノクトン25mm/F0.95も、その手のレンズということだ。
数mという中間距離の撮影では、被写界深度については
あまり浅すぎて悩むという必要は無い(換算50mmとは言え元は
広角レンズであり、かつ小さい撮像素子だから撮影距離が遠く
なるとあまりボケない)ただし、数十cm以下の撮影距離に
なると背景が非常にボケてくるので、どれくらい絞って
どれくらい背景をボカすか?ということがポイントとなり、
開放F値が暗く、かつ寄れない、安価なズームレンズのように
ボケ無いで困る、ということは絶対に無い。

では、ボケ以外でのノクトンの強みというのは何か?
それはずばりシャッター速度が速くなることである。
大口径レンズの事を、英語では「ハイスピードレンズ」と言う、
大口径だから、「ラージ・アパーチャー」というのも恐らく
通じないことは無いと思うが、ハイスピードという方が
その特性を良く表していると思う。
例えば、撮影していて夕方から夜になって・・

当然のことながらカメラのISO設定を少しづつを高くして
いくのだが・・
ISOの上限は最近の裏面照射型CMOSの超高感度撮像素子の
ようなものを除いて、一般的にはISO1600~ISO6400程度
なのだが、勿論一番上の感度はノイズが多く含まれる。
(これはカメラのスペックを決める際に、我慢できる
ぎりぎりを上限とするからであり、よってどのカメラでも
スペック上の一番上の感度から1つ下あたりまでが実用上限
となる)
なのでまあ、ISO1600くらいに留めたとして、ある被写体の
明るさにおいて、ズームレンズの開放F値、仮にF4.0で
1/60秒のシャッター速度が得られたとする。
ズームの焦点距離にもよるが、まあ、このあたりが一般的な
ビギナーの手ブレ限界のシャッター速度であり、これより
シャッター速度が遅くなると、手ブレを起こす。
今時は手ブレ補正が入っているカメラやレンズが常識であるが
動く被写体に対しては意味が無い、だから、まあ被写体が
動くことも意識しつつ、シャッター速度が1/30秒になったら
もう苦しいと思っても良いであろう。

では、このとき、ズームレンズではなく、大口径レンズで
あったらどうか?
F値は面積であるから、数値が√2倍(分の1)づつ変化
するごとにシャター速度は2倍となる。 すなわち・・
F4.0で 1/60秒 ならば
F2.8で 1/125秒
F2.0で 1/250秒
F1.4で 1/500秒
F1.0で 1/1000秒 となる。
(F0.95でもF1.0とほぼ同等であろう)
これが、ハイスピードレンズの真骨頂であり、
逆にF0.95(で1/60ならば、F4.0では、4段(=2倍が4回)
暗くなるので、1/30、1/15、1/8、1/4
1/4秒のシャッター速度というのは、もう手持ち撮影では
手ブレ補正機能を用いても困難な撮影となる。
実際にはISO感度はカメラによりもっと上げられる場合もあり、
その場の明るさも被写体によりけりであり、マイナス補正に
よるデジタル増感もありうるので条件はこれほど単純では
無いが、F0.95であれば、ほとんどの夜景でも手持ち撮影を
可能とするということになる。
これが「ノクトン」(=夜のレンズ)の真の意味であろう。

さて、今度はこのフォクトレンダーノクトン25mm/F0.95
自身の特徴であるが、実のところ、かなり扱い難いレンズ
である。
まず、コシナ・フォクトレンダー製のレンズはその絞り値に
より解像度や収差といった性能面が大きく変化するレンズ
設計のものが多いのであるが、このノクトンもその類に属する。
開放では比較的大きな口径食も出るし、少々甘い感じもする。
ただ、だからと言って悪いレンズという意味ではなく、
それはそれで、特性を知って使えば「絞りによる描写の変化
が楽しめる」という事になり、マニア好みのレンズとなる。
扱い難い最大の問題はそこではなく、実はピント合わせだ。
このレンズはマイクロフォーサーズ用というものの、
コシナ製のレンズに共通してMF(マニュアルフォーカス)だ、
MFでも、まあ50mm以上の、標準、望遠レンズになれば、通常の
(デジタル)一眼用光学ファインダーでのMFピント合わせは
苦にならないであろう。ファインダーの見やすい銀塩一眼レフ
なら、なおさら問題は無く広角であっても、多少開放F値が
暗いレンズでも、MFピント合わせは難しくは無い。
ただし、このレンズのマウントであるマイクロフォーサーズは
ミラーレスであり、しかも多くのマイクロフォーサーズ機は
EVFではなくて、カメラ背面の液晶モニターを見ながらMF操作を
行わなければならない。
背面の液晶モニターの解像度スペックは、一般に45万ドット前後
である。私の経験上では、90万ドット以上無いとMFピント合わせ
は苦しく、これを上回るものは、EVF(電子ビューファインダー)
(またはLVF)を搭載した機種に限る。
具体的にはエプソン製の144万ドットEVF用液晶を搭載した機種に
限るということになるが、現在では、パナソニックG1/GH1,
G2/GH2の内蔵ファインダーとオリンパスE-P2の外付け
ファインダーくらいしかそのスペックのカメラが無いのだ。
これらのカメラのEVF(LVFとも言う)を使わないと、いや
使ったとしても、フォクトレンダー25mm/F0.95のピント合わせ
は難しい。

冒頭の写真のように、私はパナソニック LUMIX G1(青)で
ノクトン25mm/F0.95を使用している。
実はこのG1は2台目であって、昨年赤のG1を
購入したのであるが、豊富でマウントアダプターにより、
ほぼすべてのマウントのオールドレンズを使える
「アダプター母艦」としての便利さと、露出補正や
被写界深度、ホワイトバランスなどが、そのままEVF(LVF)
で確認できる便利さが気に入っている。
ファインダーに関しては、G1でなくても、G2でもGH1でも
同じなのであるが、それらのカメラは、私には不要な
ビデオ撮影機能がついているので、一番シンプルな
(ビデオの無い)でかつ、中古価格が1万円台と非常に
こなれていて入手しやすいG1が一番気に入っているわけだ。
ただし、たとえ優秀なEVFを持つG1であっても、上の写真の
ようなバリアングル(可変)液晶ファインダーを使っての
撮影では、とたんにピント合わせが苦しくなる。
まあ、ピントが合ったとしても、被写界深度の確認が殆ど
できない、絞りを少しだけ絞って、被写体の適切な範囲
(厚みや距離)にピントを合わせる、とか、背景をどれくらい
ボカしたいから、どれくらい絞りを絞るか、とか、そのあたり
が難しいわけだ。

ノクトンの弱点は上記のようにピント合わせであるのだが、
性能的には、F0.95という数字だけを見ても、世界最高水準の
レンズを持つことは悪くないであろうと思う。
描写力も、フォクトレンダーブランドのレンズにハズレは無く
このノクトンに限らず、どのレンズを買っても後悔はしない。
ズーム+AFという最近のカメラに慣れた人達には単焦点+
MFというレンズは違和感があるかもしれないが、中上級
以上のマニアにとっては、そのあたりは問題は無いであろう。
ただ、使い勝手の悪さや、高価な価格(定価99750円)とを
総合すると、やはり極めてマニアックなレンズであると思う。
ちなみに被写体も選ぶこととなり、例えばポートレート撮影には
撮影距離とボケ量のバランスの面で向かない、マクロ撮影にも
やはり撮影距離と画角の面であまり適切では無いであろう、
夜景はまあ使えるが、開放では深度が浅く、若干甘く感じられ、
ボケの口径食も大きいのでアフターレタッチやトリミングを
併用する必要があるかも知れない。
結局、一般的なユーザーが求める被写体ではなく、「ボケ目線」
(肉眼で見ているものは全てピントが合って見えるが、レンズ
には被写界深度があるということを体感的に理解して、ボケを
活かした場合に被写体がどう見えるか?という目線)が必要で、
その目線を持った上で被写体を選ぶということになる。
使いこなせないで早々に手離すマニアも出てくるかも知れない、
世界最高というものがすぐに欲しければ「買い」
年末年始のライトアップイベントに使いたければ(笑)
やはり「買い」
そうでなければ中古待ち、もしくは我慢、そんな感じのレンズ
であるかも知れない。
P.S.
1万数千円のボディ(デジタル一眼)に、8万数千円のレンズ
(ノクトン)をつけているのを見た、カメラに詳しく無い友人達は
口をそろえて「変な(アンバランスな)組み合わせだなあ・・」
と言う。
ここぞとばかり説明するのは・・・
「写真はカメラじゃあなくてレンズで決まるんだよ。
それに、カメラはどんどん買い換えるけど、レンズはずっと
使い続けるんだよ。 私のたいていのレンズはフィルム時代から
使っているし、デジタルになってからは一眼でも、ケータイと
一緒で5年も持たないよ、古くなって見劣りするからね・・
だからレンズが重要なんだよ、8対2でレンズを重視すると良いよ」
そう、仮に10万の予算で一眼のセットを揃えようとしたとき
ビギナーは、カメラ本体(ボディ)ばかり気にする。
「N社のなんとかと、C社のなんとか、どっちがいいかなあ?」と
だけどそれは誤り。 8万の中上級ボディを買っても、レンズが
おまけズームの2万円では、カメラボディの性能を生かせない
ばかりか、暗くて寄れないでは、背景ボケのコントロールも
できず、絞りの効果さえ分からず、お話にもならないであろう。
「10万の予算があればボディ2万でレンズが8万だよ。」
ボディは中古でも2万円以下でいくらでもある、
EOS20Dやα-7D、D70、K10D、E-510、G1、数年前の
名機がよりどりみどりだ。
レンズは8万のが1本でも、4万のが2本でも良い、
また、カメラを4万クラスにするならばレンズ予算16万、
(16万あれば、広角から望遠、マクロまで一通り揃うであろう)
この場合は、合計20万と高くなるが、つまりは予算次第で、
2対8の比率をキープする、まあこれがカメラシステムの
適正なバランスという事になる。