入門編:
初級者のうちは、レンズの絞り値によりボケ量(被写界深度)が変化する事もなかなか
理解できないでいるが、これは、1つには知らない・勉強する機会が無い、事もあるが、
もうひとつは、初心者の用いる標準ズーム、例えば 28-80mm/f3.5-5.6のような
スペックのズームではどの焦点域でどの絞りを用いても、絞りによる描写の変化が
顕著にあわられにくいことも原因の1つであると考えられる。
そこで例えば50mm/f1.4のような大口径標準を使ってみれば、絞りによる被写界深度
の変化は著しく、それを理解しやすい。
なお、カメラは技術や知識が非常に重要な類の趣味の分野であるので、カメラの原理を
理解しないまま、いくら枚数を重ねて撮っても決して上手になる事は無い。
もちろん最近のカメラは自動化が進み誰でもが綺麗な写真を撮れる、しかし、どのように
してその写真を撮ったか、という部分を理解し、それを再現できる技術を持たない限り、
自分の力でコントロールできる「写真」あるいは「作品」は永久に出来てこないだろう。
また初級者が良く誤解している「感性」というキーワードについては、追って特集記事を組む、
感性は簡単に語れるものではなく、事実私もこれまでの記事中1度もそれを書いていない。
【玄人専科】
ここからは、玄人向けである。
一般にレンズは開放絞りでは性能が悪い。
f5.6~8程度が最も良くなる事が多く、開放f値がf1.2~f2.0級の大口径レンズだと、
開放からひと絞り絞ったあたりでも、かなり性能が上がる。
また、f11以上に絞ると、一般的に回折現象が発生し画質やシャープネスが低下する。
開放絞りで性能が落ちるのは、まずフレアの発生やそれによるコントラストの低下、
あるいは画面周辺で発生する様々な収差が上げられる。
また、特に背景に光源を入れた場合、画面の周辺では光源が丸くならない事が
確認できる、これは、前出の「コンタックス・スーパーマニアックス」の記事の写真で述べた
口径食の影響と、点光源であればコマ収差の影響が多い。
夜景、人物ポートレート、花のマクロ撮影などの場合、開放での性能低下は特に顕著に
現れる。さらに画面周辺は解像度、光量も中心部に比べ不足する。
これらの問題は開放から少し絞り込むと改善する場合が多い。
しかし、開放から少し絞ると、背景のボケに絞り羽根の形が出る、これを避けるには
ミノルタのGレンズ、またはソフトレンズや一部のロシアレンズなどにあるほぼ完全な
円形形状の絞りの製品を使うと良い。
(円形絞りと言ってもあまり絞ると形が崩れる、しかしボケ無いのでそれでも良い)
大口径レンズを使うと、どうしても絞り開放で撮りたくなるものだが、例えばあえてf1.4を
f2.0で使うのもレンズの性能を発揮するという面については賢い利用方法である、
f1.4はピントあわせの快適さで使えば良いし、f2.0でわずかに絞る事で、大口径レンズで
発生しやすいピンボケの可能性を減らすマージンにもなる。
また、オールド、おおむね1970年代以前の大口径レンズは、開放での性能が極端に
悪いものが多い。スペック競争だけのf1.4やf1.2であり、これらのレンズを使う場合は
特殊な「甘い」描写を楽しむ場合以外は絞って使わざるを得ない、そうした時には
「これが同じレンズか?」と驚くようなシャープな描写に豹変するケースも良くある。
また口径食や絞りの問題や開放時の性能低下をすべて回避しているレンズとして、ミノルタ
STF135/2.8[T4.5]レンズがある。このレンズは実質f4.5の暗さにもかかわらず、
口径のサイズはf2.0級であり、開放で撮影する事のみを考えた非常に贅沢なレンズ。
あるいは、タムロンSPシリーズ、キヤノンLレンズ、ミノルタGレンズ、ニコンED、
フォクトレンダー単焦点SL等のレンズの一部には、開放からも十分な性能を持つレンズ
が存在する。
また、収差の件であるが、これはかなり難解であるが機会を見てレポートする予定。
ちなみに、作例の「船」は、魚眼レンズで撮影したもの。 魚眼レンズの歪みは、収差を
わざと極端に誇張したものである。 ちなみに超広角レンズによるパースペクティブ歪みは
収差とは言わない。一般に中級程度までのレベルでは収差については経験的にも理論的
にも理解するのは困難であると思われる。
このような事から、一口に、「このレンズの性能は良いか悪いか?」と聞かれても、
収差やMTFや解像度のような物理的な数値だけで判断して答えられるわけではない。
あるいは絞り値の選択はもとより、質感描写や色味、コントラストやボケ味まで考えると、
撮影者による被写体の選択、撮影スタイルの差異などによって、それぞれに対して異なる
解答やアドバイスになるのが当然だと思う。
「私は◎◎を、△△の機材で、このように撮りたいんですが、このレンズは適してますか?」
という質問であれば、ある程度のアドバイスが可能になる。